Cosmology_Imai_2009_2

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観測的宇宙論
第6回: 宇宙の階層構造
今井 裕
(鹿児島大学大学院理工学研究科物理・宇宙専攻)
今日の内容
• 宇宙の階層構造
– 「階層構造」とは
– 力学的時間尺度、 スケール長を決める因子
• 遠方銀河赤方偏移の計測
– 赤方偏移計測の方法と実情(測光・分光)
– Slone Digital Sky Survey (SDSS) その他計測法
• 階層構造パターンの定量的認識法
– 銀河個数の面密度、 質量ゆらぎ、 2点相関関数
– そこから解ること
参考文献: シリーズ現代の天文学
2巻: 宇宙論I ―宇宙のはじまり― 3巻:宇宙論II ―宇宙の進化―
4巻: 銀河と宇宙の階層構造
6巻:星間物質と星形成
階層構造 (hierarchy)
• 似たような大きさを持ったものが1つの集団を作り、
異なる大きさのものから成り立つそのような複数の
集団が上下関係を持った層を成している構造
– 人間社会の場合:
家族(社会の最小単位)ー集落ー市町村ー都道府県ー
国家集団(国際連合、等)
– 宇宙の場合:
恒星or恒星系ー星団ー銀河ー銀河群ー銀河団ー超銀河団
(+ボイ
ド)
• 所属要素数と空間スケールが異なる階層間では
桁に大きな開きがある
宇宙の階層構造
シリーズ「現代の天文学」第3巻、p.18、表1.4、改変
半径[cm]
全質量[Msun]
(暗黒物質含む)
平均密度
[g cm-3]
力学時間
[年]
構成要素数
恒星 or 恒星系
(主系列星)
1010―1013
(~0.01 AU)
0.1―100
星団
1018―1020
(~10 pc)
102―104
~10-23
104―106
恒星
10―105個
1021―1023
(~10 kpc)
107―1012
~10-25
~108
恒星
107―1011個
銀河群
~1024
(~1 Mpc)
1012―1014
~10-27
~109
銀河
10―102個
銀河団
~1025
(~10 Mpc)
1014―1015
~10-27
~109
銀河
103―104個
超銀河団
>1025
(~100 Mpc)
>1015
~10-29
~1010
銀河
>104個
※孤立した星もある
銀河
10-4―102 10-5―10-2
宇宙の大規模構造
1
力学時間(力学的時間尺度, dynamical time scale)
=天体が形状を変化させる時間尺度
1
• 天体が自己重力でつぶれる時間 tdyn  G
自由落下時間 (free-fall time)
• 天体が成長する時間尺度
〜天体サイズ÷膨張速度

• 天体が力学的緩和に達する時間尺度
– 銀河回転の周期、など
※以降、力学時間のほかに様々な時間尺度が出て来る
問題 自由落下時間の式を大雑把に導く
• その1: 非常に大雑把
–
–
–
–
半径R、平均密度ρの一様な球を考える
その球の表面から中心まで落下するまでの時間を求める
近似: 加速度はいつも一定(〜初期加速度)
とりあえず係数は気にしない 例: M ~ ρ0R3
• その2: いろいろな教科書に載っているやり方
– 運動方程式
d 2r
GM
4 3
  2 , M  R 0
2
dt
r
3
– 両辺に dr/dtを掛けて積分する
 3 1/ 2
– r/R=cosβ と置き、再度積分
tff  

32G0 
– β=0 となる
 t=tff を求める
何故、宇宙の階層構造ができる?
• 空間・時間スケールで異なる
支配的な物理素過程・物理的要因
– 宇宙: 放射優勢 ⇒ 物質優勢 ⇒ 暗黒エネルギー優勢
(熱力学・量子力学) (重力)
(宇宙項)
– 銀河・銀河団: 宇宙の再加熱、 暗黒物質の自己重力
– 恒星: 星間ガス自己重力、原子核物理学、星間化学、 … など
• 力学的不安定性/不確定性による空間構造の分裂
– 自己重力/熱力学的不安定性、磁気不安定性 ⇒恒星
– 量子ゆらぎ: 不確定性原理 ⇒超銀河団
スケール長を決める各種不安定性
• 重力不安定性(ジーンズ不安定性)
– 宇宙初期: 宇宙膨張も考慮に入れること
(現代の天文学3巻、 p.115―120)
※ジーンズ不安定性の安直な説明
重力エネルギー > 熱エネルギーならば収縮
GM
4 3
kT
kT 
, M  R   r 
R
3
G
半径が1/2 ⇒ 引力4倍 v.s. 圧力2倍(表面積/体積)
⇒2つに分裂しても収縮続く ⇒どこまでも分裂していく?
実際:
 温度上昇/放射冷却/光学的厚みなどの要素が絡んで、
あるサイズの範囲に落ち着く
「冷たい」 v.s. 「熱い」暗黒物質
詳細は1/14講義参照
• バリオン: 暗黒物質〜1:10
– 自己重力の起源はほぼ暗黒物質(DM)による
• Cold DM (CDM): 速度はほぼゼロ
– 小さな構造から先に成長
– 集合・合体によってより大きな構造の形成
• Hot DM (HDM): ほぼ光速でDMが飛び交う
– 大きな構造から分裂してより小さな構造を形成
• 宇宙の比較的初期に銀河(小さい構造)が
形成された ⇒ CDMで占めていたらしい
地球サイズの
暗黒物質塊
Diemand, Moore & Stadel (2005)
遠方銀河赤方偏移の計測
ー方法と実情ー
• 赤方偏移量と距離
aÝ
H ,
a
D  H0V
– 距離そのものは遠方ほど不確定性大きい(第11回)
• 赤方偏移量
Z

※宇宙論的赤方偏移
とは異なる
obs  s 

s
1 V ccos
1 V c
2

obs  s
s
 s
V
c
(V << c, cos  1)
• 2段方式による赤方偏移計測

– 測光赤方偏移: 広視野画像中での簡易測定
– 分光赤方偏移: 分光による精密測定(少数対象)
測光赤方偏移 (photometric red shift)
• 銀河のSED (spectral energy distribution)を予測
– 銀河は基本的には星の集団
– 大きな赤方偏移
– 初期宇宙の銀河の
SEDは異なる(後述)
• 複数波長フィルター測光
SDSS, COSMOS プロジェクト
• 狭帯域フィルター測光
電離水素からのライマンα線
http://cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/Cosmos/PressRelease/
分光赤方偏移 (spectroscopic red shift)
• 分光赤方偏移を経て的を絞った銀河などを対象
選択条件に合致した天体から、
一定の割合だけ
無作為に抽出
• 複数輝線を同定
精密に計測
– 「すばる」などの
大口径望遠鏡
– SDSSなどの分光
専用中口径望遠鏡
して
Slone Digital Sky Survey (SDSS)
http://www.sdss.org
• 2億個の銀河の同定
• 100万個の銀河の
赤方偏移計測
2dF-SDSS luminous red galaxies
and quasars (Cannon et al. 2006)
宇宙論的距離にある天体の赤方偏移計測
• 超新星(第7・9・11回講義参照)
– 大質量星の重力崩壊 (II型): 光度はまちまち
– 白色矮星の核反応の暴発 (Ia型): 光度ほぼ一定
極大期(銀河1個分の光度)から数日以内が勝負
• γ線バースト(第10回講義参照)
– 超巨大質量星の重力崩壊
– 銀河の最遠赤方偏移よりも遠くのものが発見される
• 銀河団: X線(電離)鉄輝線
宇宙赤外線背景放射=宇宙最初の「天体」
• 暗黒物質「雲」の分裂・集積
• バリオン雲の集積
• 最初の「星」(大質量)と「銀河」の形成
(詳細は第7回・8回講義にて)
• 大質量星(T>50,000 K)
⇒宇宙の再電離・紫外線放射(<1000Å)
• 赤方偏移(z>10) ⇒赤外線放射へ(<10,000Å)
次世代大型赤外線望遠鏡で検出?
• それ以降: 大質量星によって加熱された星間ガス/塵
⇒赤方偏移(z<7 ): ミリ波・サブミリ波銀河
12/1-4 河野氏 集中講義
重力レンズ効果を用いた暗黒物質探査
暗黒物質の大規模構造
バリオン(銀河)の大規模
構造とやや異なる!
http://cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/̃tani/Cosmos /PressRelease/
階層構造パターンの定量的認識法
• ランダム分布との違いを判定
• パターンの特徴を数値化:
数値を通して色々な比較が可能になる
• 似たような赤方偏移量を持つサンプルを集める
– 天体(銀河、QSO)個数の面密度:
(任意の)単位投影円面積あたりの天体個数
 (M)  M M M 2
– 質量(個数)ゆらぎ:
投影円(共動座標上半径R)以内にある
where M  M(r  R)
天体総質量(天体総数)の標準偏差
2
 () 
1
Pij

2d i, ji
– 2点相関関数
天体間離角が任意の角度範囲
1 if      <   d
j
i
where
P


ij
にある頻度の確率密度
other
0
階層構造パターン認識から解ること
• 階層構造形成の歴史
– 赤方偏移量 z=2―6の範囲で既に大規模構造が
形成されていた (Ouchi et al. 2005)
大規模構造が予想以上に早く形成された
暗黒物質の分布とはかけ離れたもの?
• 階層構造形成の要因
– 「冷たい暗黒物質」の分布ゆらぎ
小さな構造から先に形成されてきた
小さな構造における収縮・冷却機構の解明が課題