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2.厚生経済学の基本定理 2
(完全)競争市場で達成される資源配分が
パレート効率的であることを示す。
1
2.1
予算集合と最適消費点
2.2
競争均衡とワルラス法則
2.3 競争均衡とエッジワースの箱
2.4 厚生経済学の基本定理
2.5 補論 1*:限界代替率を用いた厚生経済学の基本定理の説明
2.6
補論 2:微分と接線の傾き
2.7 補論 3*:厚生経済学の基本定理についての計算問題
2
2.1
予算集合と最適消費点
(完全)競争市場で達成される資源配分がパレート効率的であることを示すための準備とし
て、個人の最適化行動を検討する。
p =(財 x の財 y に対する相対)価格(1単位の財 x と p 単位の財 y が交換できる)
wi  ( xi , yi ) :個人 i の初期保有(点)
p と wi が与えられたもとでの、
pxi  yi =個人iの消費支出(額) ( i  A, B )
pxi  yi =所得(額)
Ci  {ci  ( xi , yi ) | xi  0, yi  0} :消費集合
3
個人iの所得を全て使って消費できる消費点の集合 (領域)は直線になるので「予算線
(budget line)」と呼び、 BiL ( p, wi ) と表す。すなわち、
BiL ( p, wi )  {ci  ( xi , yi )  Ci | pxi  yi  pxi  yi }
である( i 
(2-1)
A, B )。
また、個人iの所得の範囲内で消費できる消費点の集合を「予算集合(budget set)」と呼び、
BiS ( p, wi ) と表すことにする。すなわち、
BiS ( p, wi )  {ci  ( xi , yi )  Ci | pxi  yi  pxi  yi }
となる( i 
(2-2)
A, B )。
4
(問題 2-1)価格
p1 のもとでの予算線 BiL ( p1 , wi ) 、予算集合 BiS ( p1 , wi ) 、価格 p1 を xi yi 平
面に図示しなさい。また、(2-6)が成立することを説明しなさい。
yi
L
予算線 Bi
( p1,Wi )
p1xi  yi  p1xi  yi
または p1( xi  xi )  ( yi  yi )  0
yi
p1
xi
xi
予算集合 BiS ( p1,Wi )
5
価格
p1 のもとで、最も好ましい(効用を最大化する)消費点 ci1  ( xi1 , yi1 ) を「最適消費点」
と呼ぶことにする。
xi1 と yi1 をそれぞれ財 x と財 y に対する「需要量」と呼ぶ。
最適消費点(あるいは需要量)は次の条件から求められる。まず、最適消費点 ci1 は予算制約
を満たすので、
ci1  BiS ( p1 , wi )
(2-3)
である。
また、予算の制約を満たす消費点で ci1 より好ましい消費点は存在しないので、
Pi (ci1 )  BiS ( p1 , wi )  
(2-4)
である。ここに、 Pi (ci1 ) は個人 i の選好集合である
6
一般的に、 X と Y が集合のとき X \ Y  {x | x  Xかつx Y} と定義する。
予算集合から予算線を取り除いた集合(領域)を BiS \ L ( p1 , wi ) と表す。つまり、
BiS \ L ( p1 , wi )  BiS ( p1 , wi ) \ BiL ( p1 , wi )
(2-5)
である。
そのとき、(2-4)と「単調性」の仮定(1-6)から、弱選好集合 Pi (ci1 ) に関して、
Pi (ci1 )  BiS \ L ( p1 , wi )  
(2-6)
が成立する( i  A, B )
。
7
(問題 2-1)価格
p1 のもとでの予算線 BiL ( p1 , wi ) 、予算集合 BiS ( p1 , wi ) 、価格 p1 を xi yi 平
面に図示しなさい。また、(2-6)が成立することを説明しなさい。
L
1
予算線 Bi ( p ,Wi )
yi
Pi (ci1)  BiS \ L ( p1, wi )  
Pi (ci1 )
 ci1
yi
 ci2
p1
xi
予算集合 BiS \ L ( p1,Wi )
xi
8
また、(2-3)と(2-6)より、 ci1  Pi (ci1 ) なので、次の関係が成立することになる。
ci1  BiL ( p1 , wi )
(2-7)
L
予算線 Bi
( p1,Wi )
yi
Pi (ci1 )
yi
 ci1
p1
xi
xi
予算集合 BiS ( p1,Wi )
9
2.2
競争均衡とワルラス法則
p* と消費点 ci*  ( xi* , yi* ) が、
ci*  BiS ( p* , wi )
( i  A, B )
(2-8)
Pi (ci* )  BiS ( p* , wi )  
( i  A, B )
(2-9)
(2-10)
x*A  xB*  xA  xB
(2-11)
y*A  yB*  yA  yB
の 6 つの条件を満たすとき、 ( p* , c*A , cB* ) あるいは ( p* , x*A , y*A , xB* , yB* ) は「競争均衡」であ
価格
る。
(2-8)=予算制約の条件((2-3)を参照)
(2-9)=個人の最適化の条件((2-4)を参照)
。
(2-10)=財 x 市場の均衡条件
(2-11)=財 y 市場の均衡条件
10
(2-8)、(2-9)、(2-10)、(2-11)の 6 つの条件式で決定される競争均衡の変数は 5 つであり、条
件式の数が変数の数より 1 つ多い。しかし、(2-7) 、(2-8)、(2-9)より ci*  BiL ( p* , wi ) だか
ら、
p* xi*  yi*  p* xi  yi
である( i  A, B )。
(2-12)
したがって、
(2-13)
p*{(x*A  xB* )  (xA  xB )}  {(y*A  yB* )  (xA  yB )}  0
が成立するので、 ( p* , x*A , y*A , xB* , yB* ) が(2-8)、(2-9)、(2-10)の 5 つの条件を満たしていれ
ば、 ( p* , x*A , y*A , xB* , yB* ) は(2-11)も満たすことになる。
11
(問題 2-2) ( p* , x*A , y*A , xB* , yB* ) が(2-8)、(2-9)、(2-11)の 5 つの条件を満たしていれば、
( p* , x*A , y*A , xB* , yB* ) は(2-10)も満たすことを示しなさい。
以上より、(2-10)あるいは(2-11)は独立ではない。言い換えれば、財市場の均衡条件のうち
1 つを無視して、均衡価格
p * と均衡における資源配分 a*  (x*A , y*A ), (xB* , yB* ) を求めるこ
とができることになる。そして、この性質は「ワルラス法則」と呼ばれる。
12
価格 p のもとでの個人 i の財 x の需要量が一意的に定まるとき、その需要量 xi は価格 p の関
 xid ( p) と表し「財 x の需要関数」と呼ぶことにする。また
同様にして、財 y の需要量が一意的に定まるとき、個人 i の「財 y の需要関数」を yi  yid ( p)
数になるので、その関数を xi
と表す。
そして、
「競争均衡」における価格
p* は「ワルラス法則」より、
xAd ( p* )  xBd ( p* )  xA  xB
yAd ( p* )  yBd ( p* )  yA  yB
(2-14)
(2-15)
のどちらか片方の財市場の均衡条件から求めることができる。
そして、競争均衡における(で達成される)「資源配分 a*
xi*  xid ( p* ) かつ yi*  yid ( p* ) より求められる( i  A, B )。
 (x*A , y*A ), (xB* , yB* ) 」は、
13
2.3 競争均衡とエッジワースの箱
競争均衡をエッジワースの箱型図の中で表現しよう。
個人 i の予算線 BiL ( p, wi ) と予算集合 BiS ( p, wi ) を、資源の初期保有配分 w  (wA , wB ) が与
えられたもとで、エッジワースの箱 E w に制限して、個人 A の消費平面で捉えたものをそ
れぞれ BiL ( p, w) 、 BiS ( p, w) と置けば、
BiL ( p, w)  {c A  E w | ci  BiL ( p, wi ), c A  cB  wA  wB }
BiS ( p, w)  {c A  E w | ci  BiS ( p, wi ), c A  cB  wA  wB }
である( i  A, B )。
(2-16)
(2-17)
14
(問題 2-3)両個人の予算集合 BAS ( p* , w) と BBS ( p* , w) をエッジワースの箱型図の中に図示
することで、(2-18)、(2-19)が成立することを確認しなさい。また、競争均衡にお
ける「資源配分 a*
 (x*A , y*A ), (xB* , yB* ) 」と弱選好集合 PAw (c*A ) と PBw (cB* ) をエッ
ジワースの箱 E w の中に図示することで、(2-22) が成立することを確認しなさい。
yA
BAL ( p*, w)
BBS ( p*, w)
xB
xB
p*
yB
yA
p*
xA
xA
BAS ( p* , w)
yB
BBL ( p*, w)
15
エッジワースの箱型図の中で、両個人の予算線と予算集合の共通部分が一致する。つまり、
BAL ( p, w) = BBL ( p, w) = BAS ( p, w)  BBS ( p, w)
(2-18)
である。
また、両個人の予算集合を合わせるとエッジワースの箱になる。つまり、
BAS ( p, w)  BBS ( p, w)  E w
(2-19)
である。
そして、エッジワースの箱に制限した予算集合と選好集合を用いて、(2-8)と(2-9)の条件は
それぞれ次のように書き換えることができる。
c*A  BAS ( p* , w)  BBS ( p* , w)
Pi w (ci* )  BiS ( p* , w)  
( i  A, B )
(2-20)
(2-21)
個人 i の選好集合 Pi w (ci* ) は、(2-21)より、
Pi w (ci* )  E w \ BiS ( p* , w)
(2-22)
である( i  A, B )
。つまり、 Pi w (ci* ) は E w から BiS ( p* , w) を取り除いた集合に含まれる。
16
(問題 2-3)両個人の予算集合 BAS ( p* , w) と BBS ( p* , w) をエッジワースの箱型図の中に図示
することで、(2-18)、(2-19)が成立することを確認しなさい。また、競争均衡にお
ける「資源配分 a*
 (x*A , y*A ), (xB* , yB* ) 」と弱選好集合 PAw (c*A ) と PBw (cB* ) をエッ
ジワースの箱 E w の中に図示することで、(2-22) が成立することを確認しなさい。
yA
BAL ( p*, w)  BBL ( p* , w)
 BAS ( p*, w)  BBS ( p*, w) (2 18)
xB
xB
BBS ( p*, w)
p*
yB
yA
p*
xA
xA
BAS ( p* , w)
yB
BBL ( p*, w)
BAS ( p*, w)  BBS ( p*, w)  Ew (2 19)
17
(問題 2-3)競争均衡における「資源配分 a*
 (x*A , y*A ), (xB* , yB* ) 」と選好集合 PAw (c*A ) と
PBw (cB* ) をエッジワースの箱 E w の中に図示することで、(2-22) が成立することを
確認しなさい。
PAw (c*A )  Ew \ BAS ( p*, w) (2  22)
yA
PAw (c*A )  BAS ( p*, w)   (2  21)
xB
BBS ( p*, w)
xB
p
PAw (c*A )
PBw (c*B )
yA
 c*A (c*B )
yB
p*
xA
BAS ( p* , w)
PBw (c*B )  BBS ( p* , w)  
PBw (cB* )  Ew \ BBS ( p* , w) (2  22)
xA
yB
18
2.4 厚生経済学の基本定理
競争均衡 ( p* , a* ) における「資源配分 a*
 (c*A , cB* ) 」がパレート効率的であるかどうかをエ
ッジワースの箱型図を用いて検討しよう。
なお、ここでは選好の凸性と限界代替率の存在を仮定しないケースについて説明し、それら
を仮定するケースについては補論 1 で説明する。
まず、(2-5)と同様に、エッジワースの箱に制限された予算集合から予算線を取り除いた集合
を BiS \ L ( p* , w) と表す。つまり、
BiS \ L ( p* , w)  BiS ( p* , w) \ BiL ( p* , w)
(2-23)
である。そのとき、(2-6)より、弱選好集合は予算集合から予算線を取り除いた部分とは共通
部分を持たないので、エッジワースの箱の中に制限してもその関係は成立する。つまり、
Pi w (ci* )  BiS \ L ( p* , w)  
の関係が成立する( i  A, B )。
(2-24)
Pi (ci1 )  BiS \ L ( p1 , wi )  
(2-6)
19
そして、(2-18)と(2-19)よりエッジワースの箱 E w から「個人 A の予算集合から予算線を取
BAS \ L ( p* , w) 」 を 取 り 除 く と 個 人 B の 予 算 集 合 と 一 致 す る 。 す な わ ち 、
E w \ BAS \ L ( p* , w)  BBS ( p* , w) である。
り除いた
したがって、(2-24)を用いれば、 E w 上に制限された個人 A の弱選好集合 PAw (c*A ) は個人 B
の予算集合 BBS ( p* , w) に含まれることになる。すなわち、
PAw (c*A )  BBS ( p* , w)
(2-25)
である。
したがって、(2-22)と(2-25)より、 E w 上に制限された個人 A の弱選好集合 PAw (c*A ) と個人 B
の選好集合 PBw (cB* ) との共通部分は存在しないことになる。すなわち、
PAw (c*A )  PBw (cB* )  
(2-26)
が成立する。
(問題 2-4) PAw (c*A ) と PBw (cB* ) を問題 2-3 で描いた図の中に描き加えることで、(2-26)が
成立することを確認しなさい。
20
(問題 2-4) PAw (c*A ) と PBw (cB* ) を問題 2-3 で描いた図の中に描き加えることで、(2-26)が
成立することを確認しなさい。
PAw (c*A )  PBw (c*B )  BBS ( p*, w)  BAS \ L ( p*, w)  
yA
PAw (c*A )  PBw (c*B )  
(2-26)
PAw (c*A )  BBS ( p*, w)
PAw (c*A )  BAS ( p* , w)  
xB
BBS ( p*, w)
xB
p
PAw (c*A )
PAw (c*A )
PBw (c*B )
 c*A (c*B )
yA
yB
p*
xA
BAS ( p* , w)
PBw (c*B )  BBS ( p* , w)  
PBw (c*B ) 
xA
yB
21
BAS / L ( p*, w)
同様にして(個人 A と個人 B を入れ替えれば)
、
PAw (c*A )  PBw (cB* )  
(2-27)
を導出することができる。
(問題 2-5)(2-27)を導出しなさい。

 

Pw (a1 )  PAw (c1A )  PBw (c1B )  PAw (c1A )  PBw (c1B )
(1-13)
PAw (c*A )  PBw (cB* )  
(2-26)
したがって、(1-13)、(2-26)、(2-27)より、市場均衡における資源配分 a* をパレート改善す
る資源配分は存在しない。つまり、

 

Pw (a* )  PAw (c*A )  PBw (cB* )  PAw (c*A )  PBw (cB* )  
(2-28)
が成立する。したがって、(1-14)と(2-28)より、次の定理が導かれることになる。
「厚生経済学の(第1)基本定理」
:競争均衡における(で達成される)資源配分 a * はパレート効率的である。
22
(問題 2-6)競争均衡を定義するときに(暗黙に)想定されている重要な前提を指摘しなさい。
また、それらの前提の中で、現実の経済において成立が疑われる前提について指摘
するとともに、その理由について例を挙げながら説明しなさい。
23
2.5 補論 1*:限界代替率を用いた厚生経済学の基本定理の説明
選好が凸性を満たしていることを仮定すれば、厚生経済学の基本定理を、限界代替率を用い
て次のような 2 段階で導出することができる。
なお、簡単化するために、競争均衡における資源配分 a*
内点である( c*A  (E w ) o の)ケースに議論を限定する。
まず第 1 段階で、 a*
らば、
 (c*A , cB* ) がエッジワースの箱の
 (c*A , cB* ) を通る無差別曲線 I i (ci* ) の点 ci* における接線が存在するな
MRSA (c*A )  p*  MRSB (cB* )
(2-29)
が成立することを導出する。
そして第 2 段階で、選好が凸性を満たすときは、
「ある資源配分における両個人の限界代替
率が一致しているならば、その資源配分はパレート効率的であるという性質((1-20))」を
「資源配分 a* が満たす性質(2-29)」に適用するのである。
24
(問題 2-7)問題 2-4 で描いた図のケースにおいて、MRSA (c*A ) と MRSB (cB* ) の両方が存在
しているならば別のエッジワースの箱型図にそれらの少なくとも一方が存在しな
いケースを図示し、 MRSA (c*A ) と MRSB (cB* ) のどちらか一方が存在していないな
らば別のエッジワースの箱型図にそれら両方が存在しているケースを図示しなさ
い。また、 MRSA (c*A ) と MRSB (cB* ) の両方が存在しているケースでは(2-29)が成
り立つことを確認しなさい。
25
I i (ci* ) の点 ci* における接線が存在するならば、(2-29)の関係が「必ず」成立することを示す
ためには、たとえば(1-21)を用いて次のような議論を展開する必要がある。その基本的な発
想は、ある個人にとっての予算集合が、他の個人の無差別曲線が特殊な直線であるケースに
おける弱選好集合と一致することを用いて、1.5 節の議論を適用するものである。
たとえば、競争均衡における資源配分 a*
 (c*A , cB* ) において MRSA (c*A )  p* を導出するた
めに、実際には存在しない「仮想的(virtual)」な個人 Bv の効用関数が
uBv  p* xB  yB
(2-30)
であったとしてみよう。
w
(cB* ) は個人 A の予算集合 BAS ( p* , w) と一致することになる。
まず、個人 Bv の弱選好集合 PBv
すなわち、
PBvw (cB* )  BAS ( p* , w)
(2-31)
w
(cB* ) は選好の「単調性」から要請される性質を満たしている。
である。そして、 PBv
26
また、個人 Bv の選好集合は個人 A の予算集合から予算線を取り除いたものに一致する。す
なわち、
PBvw (cB* )  BAS \ L ( p* , w)
(2-32)
である。
したがって、個人 A と個人 Bv に関して、(2-21)と(2-24)を考慮すれば、(1-13)より(1-14)が
成立することになる。すなわち、個人 A と個人 Bv にとって、競争均衡における資源配分
a*  (c*A , cB* ) はパレート効率的な資源配分である。また、この「仮想的」な個人 Bv の効率
的な資源配分における限界代替率は、(2-30)と c*A  (E w ) o より、
MRSBv (cB* )  p*
(2-33)
である。
したがって、「(1-21)の対偶」と(2-33)より MRSA (c*A ) 
論と同様に MRSB (cB* ) 
p* が導かれる。そして、上述の議
p* が導出できるので、(2-29)が導かれたことになる。
( 問 題 2-8 )「 仮 想 的 」 な 個 人 Av の 効 用 関 数 を u Av
MRSB (cB* )  p* が成立することを示しなさい。
 p* x A  y A と 置 く こ と で 、
27
2.6
補論 2:微分と接線の傾き
この補論では、微分の基本的な性質について、今後の議論で用いる性質に絞って確認する。
関数 y 
f (x) (あるいは f (x) )を x y 平面に図示した曲線において
f ( x  h)  f ( x)
(2-34)
h
は点 ( x, f ( x )) と点 ( x  h, f ( x  h)) を結ぶ直線の傾きであり、この値は「( x が x から x  h
まで変化したときの f (x) の)平均変化率」と呼ばれる。
28
(問題 2-9) x y 平面に曲線 y  f (x) を描き、その中に「
( x が x から x  h まで変化したとき
の f (x) の)平均変化率」を図示しなさい。
y
f ( x  h)
f ( x  h)  f ( x)
h
f (x )
y  f (x)
x
x h
x
29
平均変化率(2-34)の、 h を正に保ちつつゼロに近づけて行った場合の極限値と、 h を負に保
ちつつゼロに近づけて行った場合の極限値が一致するとき、
「(関数 y 
いて)微分可能」であると呼び、その極限値を
f (x) は x  x にお
f (x ) と表す。すなわち、
f ( x  h)  f ( x)
(2-35)
h0
h
である。そして、 f (x ) を「
(関数 f (x) の x  x における)微分係数」と呼ぶ。
f ( x)  lim
以下では、曲線 y 
f (x) の点 ( x, f ( x)) における接線が存在する(すなわち、関数 f (x) が
x  x において微分可能である)場合に限定して議論する。
30
(問題 2-10)問題 2-9 で描いた曲線 y  f (x) 上の点
x, f (x) における接線の傾きが f (x) で
あることを、図を用いて説明しなさい。
y
h 0
f ( x  h)
f ( x  h)  f ( x)
h
f (x )
f (x )
x
y  f (x)
x h
x
31
(問題 2-11)関数 h(x) を h( x) 
f ( x)  g ( x) と定義するとき、 h( x)  f ( x)  g ( x) が成立
することを説明しなさい。
h( x  h)  h( x)
h0
h
h( x)  lim
 lim
 f (x  h)  g(x  h)   f (x)  g(x)
h0
 lim
h
 f (x  h)  f (x)  g(x  h)  g(x)
h0
 lim
h0
h
f ( x  h)  f ( x)
g( x  h)  g( x)
 lim
h0
h
h
 f ( x)  g( x)
32
(問題 2-12)
f (x)  ax2  bx  c のとき、 f ( x)  2ax  b であることを説明しなさい。
f ( x)  lim
h0
f ( x  h)  f ( x)
h
a(x  h)
 lim
 
 b( x  h)  c  ax2  bx  c
h0
h
ah2  2axh  bh
 lim
h0
h
2

 limah  2ax  b
h0
 2ax b
問題 2-10 の結果はこれからの議論で頻繁に用いられる関係である。また、問題 2-11 の結果
は 3.3 節の議論で用いられる関係である。さらに、問題 2-12 の結果はこれから出てくる計
算問題で頻繁に用いられる関係である。
33
2.7 補論 3*:厚生経済学の基本定理についての計算問題
この補論の全ての問題で、個人 A の初期保有が (xA , y A )  (5, 2) 、個人 B の初期保有が
(xB , yB )  (1,12) であるとする。また、効用関数に関しては、問題 2-13 から問題 2-16 まで
は、個人 i の効用関数が
ui  yi  maxki  xi , 02
であるとする( i  A, B )。すなわち、
(2-36)
 yi  ki  xi 2 if xi  ki
ui  
 yi
if ki  xi
(2-37)
である。ここに、ki は定数であり、個人 A と個人 B のその値はそれぞれ k A
 8 かつ kB  6
であるとする。なお、問題 2-15 で確認するように、(2-36)の効用関数のもとで導出される
財 x の需要曲線は直線になる。また、以上の想定のもとでは k A
立しているので、効用関数が ui
 kB  xA  xB の関係が成
 yi  ki  xi 2 であるとして問題を解いても答えは同じに
なる。
34
1
(問題 2-13)個人 A の消費点 c A
なさい。
 ( x A , y A )  (4,10) における限界代替率 MRSA (c A ) を求め
1
1
1
(ヒント)問題 2-12 の結果を用いる。
(問題 2-14)パレート効率的な資源配分の軌跡(契約曲線)を求めなさい。
p の下での個人iの需要量 xid ( p) 、yid ( p) を求めなさい( i  A, B )。また、
個人 i の財 x の需要関数 x  xid ( p) 、両個人の需要量の合計を対応させる関数
x  xAd ( p)  xBd ( p) を x p 平面に図示しなさい。
(問題 2-15)価格
(問題 2-16)競争均衡における価格
p* と資源配分 (x*A , y*A ), (xB* , yB* ) を求め、その資源配分が
パレート効率的であることを確認しなさい。
35
1
(問題 2-13)個人 A の消費点 c A
なさい。
 ( x A , y A )  (4,10) における限界代替率 MRSA (c A ) を求め
1
1
1
yA  xA  82  uA  (xA )2 16xA  64  uA
dyA
 2xA 16
dxA
MRSA (c1A )   (2xA 16)
MRSA (c1A )   (2  4 16)  8
36
(問題 2-14)パレート効率的な資源配分の軌跡(契約曲線)を求めなさい。
yB  xB  62  uB  2(xB )2 12xB  36  uB
dyB
 2xB 12
dxB
MRSB (cB )   2xB 12
問題 2-13
MRSA (cA )   (2xA 16)
『 MRS (c )  MRS (c )
A A
B B
xA  xB  6
2xB 12  2xA 16 』
xA  4, xB  2
yA  yB  14
37
yA
xB
2
契約曲線
=効率的な資源配分の集まり
14
xA
4
yB
6
38
(問題 2-15)価格 p の下での個人iの需要量 xid ( p) 、yid ( p) を求めなさい( i  A, B )
。また、
個人 i の財 x の需要関数 x  xid ( p) 、両個人の需要量の合計を対応させる関数
x  xAd ( p)  xBd ( p) を x p 平面に図示しなさい。
MRSA (cA )  p
MRSB (cB )  p
1
xAd ( p)   p  8
2
1
yAd ( p)   pxAd ( p)  pxA  yA  p2  3 p  2
2
 (2xA 16)  p
 (2xB 12)  p
1
xBd ( p)   p  6
2
yBd ( p)   pxBd ( p)  pxB  yB 
1 2
p  5 p 12
2
39
(問題 2-16)競争均衡における価格
p* と資源配分 (x*A , y*A ), (xB* , yB* ) を求め、その資源配分
がパレート効率的であることを確認しなさい。
 1 *   1 * 
  p  8    p  6   6
 2
  2

p*  8
1
d
x*A  xAd ( p* )  xA (8)    8  8  4
2
1
y*A  yAd ( p* )  yAd (8)   82  3 8  2  10
2
1
xB*  xBd ( p* )  xBd (8)    8  6  2
2
1
yB*  yBd ( p* )  yBd (8)   82  5 8 12  4
2
40
契約曲線
yA
xB
2
10
 c*A (cB* )
市場均衡の資源配分
1
市場メカニズム
4
14
 wA (wB )12
2
xA
5
4
初期保有点
yB
6
41
問題 2-16 では、個人 A と個人 B の効用関数が、それぞれ
u A  min(2xA , y A )
uB  2xB  yB
(2-38)
(2-39)
であるとする。
(問題 2-17)競争均衡における価格
p* と資源配分 (x*A , y*A ), (xB* , yB* ) を求め、その資源配分が
パレート効率的であることを確認しなさい。また、パレート効率的な資源配分の
軌跡(契約曲線)を求めなさい。
(ヒント)問題 1-5 と問題 1-7 の結果を参照。
42
yA
xB
6  uA
13 2uA
min(xA , yA )  uA
6
契約曲線
xB  yB  13 2uA
=効率的な資源配分の集まり
7
uA
7  uA

xA
uA
6
13 2uA
yB
43
yA
xB
7
5
2
7
2
1
7
2
 c*A
市場メカニズム
 wA 5
2
7
2
xA
5
yB
6
44
2.1
予算集合と最適消費点
2.2
競争均衡とワルラス法則
2.3 競争均衡とエッジワースの箱
2.4 厚生経済学の基本定理
2.5 補論 1*:限界代替率を用いた厚生経済学の基本定理の説明
2.6
補論 2:微分と接線の傾き
2.7 補論 3*:厚生経済学の基本定理についての計算問題
45
2.0
市(いち)
、市場(しじょう、いちば)とは?
市場(market)
=①財、サービス、権利などを交換する社会的システム
(すなわち価格、取引量などの決定ルールの集まり)
②財、サービス、権利などを交換する交換する場所(marketplace)
46
<東京中央卸売市場>
47
<東京中央卸売市場>
<市場統計情報:月報(2008年2月)、単位=100万円>
食肉
花き
青果
水産
0
0
7,107
35,945
築地
0
3,907
19,879
1,465
大田
0
0
0
1,929
足立
0
769
3,808
0
北足立
0
508
2,280
0
葛西
0
0
1,889
0
豊島
0
0
5,274
0
淀橋
0
714
2,745
0
板橋
0
1,056
665
0
世田谷
0
0
353
0
多摩NT
8,712
0
0
0
食肉
48
<築地市場>
49
<築地市場>
50
<築地市場>
51
<築地市場>
52
<株式会社東京証券取引所>
53
<株式会社東京証券取引所>
54
<株式会社東京証券取引所>
新規上場セレモニーや
大納会・大発会が開催
される多目的スペース
(出所)東京証券取引所HPより
マーケット監理業務
55
<売買契約締結の方法>
東京証券取引所における売買
=「価格優先の原則」と「時間優先の原則」にしたがう
「個別競争売買」
(参考)集団競争売買(特定銘柄の撃析(げきたく)売買 )
56
【価格優先および時間優先の原則】
• 「価格優先の原則 」
= 「①売呼値については、値段の低い呼値が値段の高い呼値に優先
し、② 買呼値については、逆に、値段の高い呼値が値段の低い
呼値に優先する」という原則
(注)「呼値」=注文価格
• 「時間優先の原則 」
= 同じ値段の呼値については、先に行われた呼値が後に行われた呼
値に優先するという原則
(例外)「同時呼値」
= 寄付や引けの値段を決めるときは、すべての注文が同時に発注さ
れたものとみなす。
(注)前場=午前立会、後場=午後立会
寄付=前場または後場の最初の取引
引け=前場または後場の最後の取引
57
【個別競争売買の方法】
① 「個別競争売買」
= 最も優先する売呼値と最も優先する買呼値とが値段的に合致するときに、
その値段を約定値段として売買契約を締結させる方法
(注)「約定値段」=売買契約締結に際して用いられる価格(契約価格)
② 「個別競争売買」の種類
• 「板寄せ方式」=寄付や引けのときの売買契約締結の方法
=約定値段決定前の呼値をすべて注文控え(板)に記載し
たうえで価格優先原則の下で数量的に合致する値段を
求め、その値段を単一の約定値段として売買契約を締
結させる方法
• 「ザラバ方式」=寄付と引けの間(ザラバ)のときの売買契約締結の方法
=売り手と買い手の間で値段の折り合いがついた順に、
取引を成立させていく売買方式
58
<不公正取引の類型>
【証券取引法で禁止している主な不公正な取引】
「インサイダー取引」
= 上場会社の関係者等が、その職務や地位により知り得た、投資者の
投資判断に重大な影響を与える未公表の会社情報を利用して、自社
の株券等を売買する行為
「相場操縦取引」
= 相場を意識的、人為的に変動させ、その相場を、あたかも自然の需給
によって形成されたものであるかのように、他人に誤認させることに
よって、その相場の変動を利用して、自己の利益を図ろうとすること
59
<日本史と「市(いち)、市場」>
<奈良時代(710年~794年)>
• 平城京の東と西に「市」が設けられた。
平城京 朱雀門 (復元)
<平安時代(794年~1185年)>
• 平安京に東市と西市が設けられた。
• 行商人が振り売り。
平等院鳳凰堂
<鎌倉時代(1185年~1333年)>
振り売り
(絵の時代?)
• 三斎市などの定期市では、周辺の生産物
や都市から行商人によって運ばれた鉄製
農具などが交易された。
鎌倉・高徳院の大仏
60
<室町時代(1336年~1573年)>
• 「座」=販売の独占権や関税の免除などの特権をもつ同業者の組合
• 「楽」=自由または排除
• 「楽座」=座の特権を排除すること
• 「楽市」=商工業者がだれでも自由・平等に商売できるようにすること
• 「楽市楽座」=「楽市+楽座」で商工業の発展を促進する政策
主な「楽市令」:
• 1549年:六角氏(近江)
• 1566年:今川氏(駿河)
• 1567年:織田信長(美濃)
• 1569年:徳川家康(三河)
• 1572年:織田信長(近江・金森)
61
<安土桃山時代(1573年-1603年 )>
主な「楽市令」:
• 1577年:織田信長(近江・安土山下町)
• 1578年:北条氏政(武蔵・世田谷新宿)
• 1582年:蒲生氏郷(近江・日野)
織田信長
豊臣秀吉
62
<江戸時代(1603年~1867年)>
【卸売り市場(18世紀~)】
• 大阪堂島=米市場
• 江戸日本橋・大阪雑喉場(ざこば)=魚市場
• 江戸神田・大阪天満=青物市場
【株仲間の公認(18世紀はじめ)】
同業者の組合(株仲間)に独占営業権を認めて、
運上金・冥加金をとって財政をうるおした。
徳川 家康
【地域的市場の形成(19世紀)】
農村工業が発達した生産地帯の交通の便利な
在方町には、生産物を交換する農民的な地域的
市場が生まれた。
【天保の改革(1830年~1843年)】
株仲間は価格を不当に吊り上げる元凶であると
して株仲間は解散された(株仲間解散令)。
水野忠邦
63
以下で検討する「市場」は、「東京中央卸売市場」や「東京証券取引所」などの目
に見える「市場」から抽象化された概念である。たとえば、「テレビの市場」といっ
た概念を考えるときは、「あたかも目に見える市場が存在する場合と同様に価格
や取引量が決定される」と想定することになる。
(問題2-0) 「(自由放任の)競争市場」は、「何のルールも禁止行為も定められ
ていない市場」のことではなく、「多くのルールや禁止行為が定めら
れた市場」である。では、「自由放任」と「競争」はどのような事柄に
関するものであろうか。例を挙げなさい。
「自由放任」⇒上納金が存在していない(政府による干渉がない)
「競争」⇒特権的な同業者組合が存在しない
【コラム】
Free Market =自由市場
Flea Market = 蚤の市
蚤の市は、ヨーロッパの教会や市庁
舎前の広場などで開かれる古物市。
マルシェ・オ・ピュス
Flea Marketはフランス語marché
aux pucesの訳。ただし、fleaは
身体の血を吸うノミではなく、ここで
は汚らしい、みすぼらしいといった
意味で使われている。
64