公共経済学

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公共経済学
三井 清
「公共経済学(第1学期)
;三井」の運営方法
【講義のねらい(第 1 学期)
】
1.
政府の支出政策の役割について
2.
市場メカニズムの機能や政治メカニズムの機能について
【講義内容】
(1)
厚生経済学の基本定理 1(第 3 章)4/14
(2)
厚生経済学の基本定理 2(第 3 章)4/21
(3)
公共財 1(第 6 章)4/28
(4)
公共財 2(第 6 章)5/12
(5)
リンダール・メカニズムと公共財の自発的供給(第 7 章)5/19
(6)
投票のパラドックスと一般(不)可能性定理(第 7 章)5/26
(7)
多数決投票と公共財供給(第 7 章)6/2
(8)
消費者余剰と等価変分・補償変分 6/9
(9)
補償原理とマスグレイブ主義政策論 6/16
(10) 費用・便益分析 1(第 11 章)6/23
(11) 費用・便益分析 2(第 11 章)6/30
(12) 費用・便益分析 3 とまとめ(第 11 章)7/7
(13) まとめ 7/14
【参考書】
スティグリッツ
『公共経済学(上):公共部門・公共支出』
第 2 版、東洋経済新報社
【成績評価の方法】基本的に定期試験と宿題で成績を評価されるが、それ以外に「講義
への貢献」も考慮される。また、3 年生以上の学生に限り、レポートが提出されてい
れば、定期試験・宿題・講義への貢献の合計点が 40 点以上 50 点未満のときに限り
10 点満点でレポートが評価される。
○ 成績評価のための「総合得点」は、①定期試験、②宿題、③講義への貢献、
の3つの得点の合計である。なお、配点は以下の通りである。
① 定期試験
:80 点(=40 点×2)
② 宿題
:20 点(=10 点×2)
③ 講義への貢献
:1 点×貢献回数(上限 10 回)
○「講義への貢献」とは以下の 3 つである。また、その講義中の貢献は講義終了後にサ
インをした場合のみポイントが与えられる。
① 講義中に板書や言葉による説明の間違いを指摘する。
② 講義中に(講義の内容に関する適確な)質問をしたり意見を述べたりする。
③ ホームページ上にアップされたプリントなどの間違いを指摘する。
【ホームページとメールのアドレス】
http://www-cc.gakushuin.ac.jp/~20040012/index.htm
[email protected]
【各章間の関連性】
第 1 章から第 24 章までの議論は次の流れ図のように関連している。なお、第 1 学期は
第 1 章から第 12 章まで、第 2 学期は第 13 章から第 24 章までを講義する。
社会保障
公共財の供給
外部性
6
5
17
16
13
7
4
3
15
14
補償原理
1
2
地方財政
租税
9
24
18
10
8
20
23
11
22
21
19
市場メカニズ
ム
12
費用便益分析
1.厚生経済学の基本定理 1
1.1 アダム・スミスの『国富論』
1.2 エッジワース(・ボウリー)の箱(ボックス・ダイアグラム)
1.3 実現可能な資源配分(resource allocation)
1.4 パレート改善とパレート効率性
1.5 効率的な資源配分と限界代替率
1.1 アダム・スミスの『国富論』
アダム・スミス(Adam Smith)
『国富論(または諸国民の富)』(1776)
An Inquiry into the Nature and Causes
of the
Wealth of Nations
第4篇 第 2 章
国内でも生産できる財貨を外国から輸入することにた
いする制限について
BOOK IV Chapter Ⅱ
OF RESTRAINTS UPON THE IMPORTATION
FROM FOREIGN COUNGRIES OF SUCH GOODS
AS CAN BE PRODUCED AT HOME
1723-1790
He generally, indeed, neither intends to promote the public interest,
nor knows how much he is promoting it. By preferring the support
of domestic to that of foreign industry, he intends only his own
security; and by directing that industry in such a manner as its
produce may be of the greatest value, he intends only his own gain,
and he is in this, as in many other cases, led by an invisible hand to
promote an end which was no part of his intention. Nor is it always
the worse for the society that it was no part of it. By pursuing his
own interest he frequently promotes that of the society more
effectually than when he really intends to promote it. I have never
known much good done by those who affected to trade for the public
good. It is an affectation, indeed, not very common among
merchants, and very few words need be employed in dissuading
them from it.
もちろん、かれは、普通、社会公共の利益を増進しようなどと意図しているわけでもない
し、また、自分が社会の利益をどれだけ増進しているのかも知っているわけではない。外
国の産業よりも国内の産業を維持するのは、ただ自分自身の安全を思ってのことである。
そして、生産物が最大の価値をもつように産業を運営するのは、自分自身の利益のためな
のである。だが、こうすることによって、かれは、他の多くの場合と同じく、この場合に
も、見えざる手に導かれて、自分では意図してもいなかった一目的を促進することになる。
かれがこの目的をまったく意図していなかったということは、その社会にとって、かれが
これを意図していた場合に比べて、かならずしも悪いことではない。社会の利益を増進し
ようと思い込んでいる場合よりも、自分自身の利益を追求するほうが、はるかに有効に社
会の利益を増進することがしばしばある。社会のためにやるのだと称して商売している徒
輩が、社会の福祉を真に増進したというような話は、いまだかつて聞いたことがない。も
っとも、こうしたもったいぶった態度は、商人のあいだでは通例あまり見られないから、
かれらを説得して、それをやめさせるのは、べつに骨の折れることではない。
(大河内一男監訳『国富論Ⅱ』中公文庫)
(問題 1-1)市場メカニズム(
「見えざる手」
)を「正常」に機能
させるためには、どのような取引ルールや規制体系を
整備するべきであろうか。また、そのルールや規制は
政府が整備すべきであろうか、民間が自主的に整備す
べきであろうか。
トレーサビリティー(追跡可能性)
企業の情報開示(disclosure)
インサイダー取引
取引慣行
産地偽装
有価証券報告書
「重要事実」を知った者が、その公表
前に株式等の取り引きを行うこと
賃貸住宅における礼金と敷金(保証金)
(問題 1-2)
「小さな政府」と「大きな政府」との関連性について
(1)所得再分配の大きさ、
(2)価格と供給量決定に対する政府の関与の大きさ、
(3)取引ルールや規制体系などの整備への政府の関与の大きさ、
という 3 つの観点から比較検討しなさい。
<経済システムの分類>
価格・供給量
取引ルール
決定への
作成への
政府の関与
政府の関与
小
小
所得再分配
小
大
米国(ブッシュ)
米国(ブッシュ前)
英国
中
中
カナダ
ドイツ
フィンランド
フランス
スウェーデン
日本
中
デンマーク
ロシア
中国(鄧 小平 後)
大
大
ソ連
中国(鄧 小平 前)
ソ連 ロシア
中国(鄧
小平
デンマーク
前)フィンランド
中国(鄧
スウェーデン
小平
後) フランス
ドイツ カナダ
米国(ブッシュ前)
米国(ブッシュ)
日本
(資料)平成17年度 『年次経済財政報告』第2章 「官から民へ-政府部門の再構築とその課題」
(資料)平成17年度 『年次経済財政報告』第2章 「官から民へ-政府部門の再構築とその課題」
(資料)平成17年度 『年次経済財政報告』第2章 「官から民へ-政府部門の再構築とその課題」
(1) 所得再分配の大きさ
⇒社会保障・公的年金(15章~17章) 、税(18章~23章)
(2) 純粋公共財以外への財供給への政府の関与の大きさ
⇒外部性(13章、14章)
(3) 私的財の市場の取引ルール作成に関連する政府の関与の大きさ
⇒社会保障(15章)
交換モデル(2 財、2 人)を用いて交換の効率性について検討しよう。
1.2 エッジワースの箱(ボックス・ダイアグラム)
xi =個人iの財xの消費量( i  A, B )
yi =個人iの財yの消費量( i  A, B )
「個人iの消費平面」=横軸を xi 、縦軸を yi とした平面
Oi =個人iの消費平面の原点
ci  ( xi , yi ) :個人iの消費点(=消費の組み合わせ)
Edgeworth
1845-1926
xi =個人iの財xの初期保有量
x  x A  xB :財xの消費可能量
yi =個人iの財yの初期保有量
y  y A  yB :財yの消費可能量
Wi  ( xi , yi ) :個人iの初期保有量(=個人iの初期保有点)
W  (WA ,WB ) :(両個人の)初期保有量の組合せ(=初期保有点)
「エッジワースの箱」
=個人 A の消費平面の上に個人 B の消費平面を次の条件を満たしつつ重ねたもの
i)軸 x A と軸 xB が反対向きで平行になっている。
ii)個人 A の初期保有点 WA と個人 B の初期保有点 WB が重なっている。
(問題 1-3)エッジワースの箱を図示しなさい。
yA
xB
OB
W
xA
OA
yB
(問題 1-3)エッジワースのボックス・ダイアグラムを図示しなさい。
yA
WA
OA
xA
(問題 1-3)エッジワースのボックス・ダイアグラムを図示しなさい。
yB
WB
OB
xB
(問題 1-3)エッジワースのボックス・ダイアグラムを図示しなさい。
xB
OB
WB
yB
(問題 1-3)エッジワースのボックス・ダイアグラムを図示しなさい。
yA
xB
?
xB
y?A
W
OA
x?A
OB
?
yB
xA
yB
xA?
 xB  x
y?
A  yB  y
1.3 実現可能な資源配分(resource allocation)
(cA , cB ) あるいは資源配分 ((xA , y A ), ( xB , yB )) が「実現可能」であると
次の条件を満たすことである。
xA  xB  xA  xB [ x]
y A  yB  y A  yB [ y]
(問題 1-4)エッジワースのボックス・ダイアグラムの内の点 a1 で実現可能な資源配分
(c1A , c1B ) あるいは ((x1A , y1A ),( x1B , y1B )) を表すことができることを、図を用いて説明しなさい。
yA
x1B
?
xB
OB
(c1A , c1B )
y1A
?
OA
y1A  y1B  y
y1B
?
a
1
x1A
?
問題1-3
xA
yB
x1A  x1B  x
以下では、実現可能な資源配分に議論を限定するとともに、資源配分 (c1A , c1B ) のことを資源
配分 a1 と表現することもある。
1.4 パレート改善とパレート効率性
(Vilfredo Federico Damaso Pareto、1848-1923 )
 (c1A , c1B ) 」の方が「 a 2  (c A2 , cB2 ) 」よりも効用が高い(好ましい)。
=個人iは消費の組み合わせ ci1 のほうが ci2 よりも効用が高い(好ましい)
。
1
個人iは「資源配分 a
1
資源配分 a は資源配分 a を「パレート改善(Pareto improvement)
」する。
2
1
2
=資源配分 a の方が資源配分 a よりも、全ての個人にとって効用が低くはなく、少な
くとも1人の個人にとっては効用が高い。
資源配分 a は「パレート効率的(Pareto efficient)」である。
=資源配分 a をパレート改善する資源配分は存在しない。
=ある個人の効用水準を低下させることなしに、別の個人の効用水準を高くすること
ができない。
Pi (a) =(個人 i にとっての)資源配分 a の選好集合(preference set)
=個人 i が資源配分 a よりも好む、または a と無差別な資源配分の存在する領域(集合)
I i (a) =個人 i が資源配分 a と無差別な資源配分の存在する領域(集合)
「 x が集合 X に含まれる」ことを x  X と表し、 x は X の要素と呼ばれる。
「集合 X と Y の共通部分」を X Y 、
「集合 X と Y の和集合」を X Y と表すことにする。
「空集合(要素を全く持たない集合)」を  と表すとき、「
X Y が存在しない」ことを
X Y   と表すことができる。
「 x  X ならば x  Y である」とき「集合 X が集合 Y に含まれる」と呼び、X
 Y と表す。
<クイズ1>
X  {2, 3, 5} 、 Y  {3, 4, 5, 6} のとき、
①
X Y と② X Y を次の選択肢から選びなさい。
a. {3, 5} 、b. {3, 4, 5} 、c. {2, 3, 4, 5} 、d. {2, 3, 4, 5, 6}
「点 a が集合 X の内点である」とは、「 a を中心とする円で X に含まれるものが存在する」
ことである。
「 X の内点を集めた集合」を「 X の内部(interior)」と呼び、 X o と表すことにする。
点 a が集合 X の内点である。
a
 a
点 a が集合 X の内点ではない。
Xo
「境界点」=「実線または破線」上の点
境界点の厳密な定義は補論参照
「 X の境界点を集めた集合」を「 X の境界(boundary)」と呼ぶ。
Xの境界
X ooの境界
<クイズ 2>
x y 平面上の集合 X 、 Y がそれぞれ X  {(x, y) | x2  y 2  1} 、 Y  {(x, y) | x2  y 2  1} のと
き、
「 X の境界」と「 Y の境界」を求めなさい。
「 Xの境界」 「 Yの境界」  {(x, y) | x  y  1}
2
2
以下では議論を簡単化するために、任意の資源配分 a に関して、
『 I i (a) が「 Pi (a) の境界」と一致する』
ことを仮定する
そのとき、任意の資源配分 a に関して、
「 Pi (a) o
 I i (a)  Pi (a) かつ Pi (a) o  I i (a)   」
(1-1)
である(問題 1-12)。
Pi (a) o =「個人 i が資源配分 a よりも好む資源配分の存在する領域(集合)」
I i (a) =「個人 i が資源配分 a を通る無差別曲線(indifference curve)」
選好の「非飽和性」
、すなわち「任意の a に関して Pi (a) o
  」であると仮定する。
yi
Pi (a)o
Pi (a) o  I i (a)  
 a
I A (a)
Oi
xi
「資源配分 a1 は a 2 をパレート改善する」ことを、選好集合を用いて表現すれば、
1
「a
 PA (a 2 ) o  PB (a 2 ) または a1  PA (a 2 )  PB (a 2 ) o 」
(1-2)
である。
「資源配分 a がパレート効率的である」ことを、選好集合を用いて表現すれば、
「 PA (a)
である。
o
 PB (a)   かつ PA (a)  PB (a) o   」
(1-3)
(問題 1-5)性質(1-1)を満たしていない選好の例を、 Pi (a)o と I i (a) を図示することで示し
なさい。
yi
Pi (a)o
Pi (a) o  Ii (a)  
 a
I A (a)
Oi
xi
任意の集合 X と Y に関して、
X Y o  X o Y o
(1-4)
という性質が成り立つ(問題 1-13)。
<クイズ 3>
x y 平面上の集合 X 、 Y がそれぞれ X  {(x, y) | x  0} 、 Y  {(x, y) | y  0}のとき、
o
① X o 、② Y 、③ X o Y o 、④ X Y 、⑤ ( X Y )o を次の選択肢から選びなさい。
a. {(x, y) | x  0} 、b. {(x, y) | y  0} 、c. {(x, y) | x  0 and y  0} 、d. {(x, y) | x  0 and y  0}
したがって、
「 PA (a)  PB (a)
o
  であるとき、資源配分 a がパレート効率的でない」 (1-5)
ことを示すことができる。
(問題 1-6) (1-3)と性質(1-4)を用いて、(1-5)が成立することを説明しなさい。また、次の
図において資源配分 a1 、 a 2 、 a 3 の中で資源配分 a をパレート改善する資源配分
はどれかを答えなさい。
yA
PA (a)
xB
 a3
 a
 a2
PB (a)
 a1
I A (a)
xA
I B (a)
yB
(問題 1-6) (1-3)と性質(1-4)を用いて、(1-5)が成立することを説明しなさい。
PA (a)  PB (a)o  
⇒
PA (a)o  PB (a)o  
⇒
PA (a)  PB (a)o  
(←(1-4))
⇒「資源配分 a がパレート効率的でない。
」 (←(1-3))
(問題 1-6)次の図の資源配分 a1 、 a 2 、 a 3 の中で、資源配分 a をパレート改善する資源配
分はどれかを答えなさい。
yA
xB
PA (a)
 a3
 a
 a2
 a1
I A (a)
xA
PB (a)
I B (a)
yB
以下では、任意の集合 X に関して、
「 Xo
 Pi (a)   ⇒ X o  Pi (a)o   」
(1-6)
であることを仮定する。
yi
Pii ((a
a)o
 a
Xo
Oi
xi
性質(1-5)は任意の資源配分 a のすぐ傍に a よりも好ましい資源配分が存在することを意味
しており、「選好の局所非飽和性」から導くことができる(問題 1-15)。
(問題 1-7)性質(1-1)は満たしているが、性質(1-5)は満たしていない選好の例を、 Pi (a) o と
I i (a) を図示することで示しなさい。
X o  Pi (a)   & X o  Pi (a)o  
yi
Pi (a)o
 a
Xo
I A (a)
Oi
xi
以上より、
「 PA (a)  PB (a)
o
  であるとき、資源配分 a がパレート効率的である」 (1-7)
ことを示すことができる。
(問題 1-8) (1-3)、(1-4)、
「(1-6)の対偶」を用いて、(1-7)を説明しなさい。
PA (a)  PB (a)o  
⇒ PA (a)o  PB (a)o  
(←(1-4))
⇒「 PA (a)o  PB (a)   かつ PA (a)  PB (a)o   」 (←(1-6)の対偶)
⇒「資源配分 a がパレート効率的である。
」
「 Xo
「X
o
 Pi (a)   ⇒ X o  Pi (a)o   」(1-6)
 Pi (a)o  
X  PA (a)
iB
(←(1-3))
⇒X
o
 Pi (a)   」
「(1-6)の対偶」
(問題 1-8) PA (a)  PB (a)
o
  であるケースを図示しなさい。
yA
PA (a)
xB
PA (a)  PB (a)o   の場合は、
PA (a)  PB (a) = I A (a)  I B (a)
 a
である(青い直線部分)
。
I A (a)
PB (a)
I B (a)
xA
yB
1.5 効率的な資源配分と限界代替率
消費点 ci を通る個人iの無差別曲線 I i (ci ) の点 ci における接線が存在しているならば、限
界代替率は次のように定義される。
個人 i の消費点 ci における限界代替率 MRSi (ci ) (marginal rate of substitution)
=消費点 ci を通る個人iの無差別曲線 I i (ci ) の点 ci における接線の傾き
≒個人 i が財xの消費量を1単位減少させたときに、
効用水準を維持するために必要な財yの消費量の増分
(問題 1-7)
「個人iのある消費点 ci0
なさい。
 ( xi0 , yi0 ) 」における限界代替率 MRSi (ci0 ) を図示し
yi
ci0  ( xi0 , yi0 )
yi0
MRSi (ci0 )
xi0
・・
xi
Ii (ci0 )
「資源配分 a  (cA , cB ) 」における個人iの限界代替率 MRSi (a)
=個人iの消費点 ci における限界代替率 MRSi (ci ) ( i  A, B )
選好集合 Pi (a) が凸性を満たすと仮定する。すなわち、
1
2
「 Pi (a) に含まれる任意の 2 点 a と a を結ぶ線分は Pi (a) に含まれる。」
という性質の成立することを仮定する。
Pi (a)
 a1
 a2
(1-8)
(問題 1-10)選好集合 Pi (a) が凸性を満たす場合は、 PA (a)  PB (a)   であるとき、
資源配分 a における個人 A の限界代替率 MRSA (a) と個人 B の限界代替率
o
MRSB (a) が(存在していれば)異なることを、図を用いて説明しなさい。
無差別曲線 I i (a) の点 a における接線は
Pi (a)o と共有部分を持つことはない。
yA
xB
a PA (a)  PB (a)o
o
「 aを中心とする円(青色 の円)」  PA (a)  PB (a)
MRSB (a)
①
I A (a) の 点 a に お け る 接 線 は
「青色の円」の下方を通過する。
②
I B (a) の 点 a に お け る 接 線 は
 a
 a
「青色の円」の上方を通過する。
I A (a)
MRSA (a)
xA
MRSA (a)  MRSB (a)
I B (a)
yB
以上より、選好集合 Pi (a) が凸性を満たす場合は、
「 MRSA (a) = MRSB (a) であれば、資源配分 a がパレート効率的である」
(1-9)
ことを示すことができる。
(問題 1-11)(1-7)と問題 1-10 の結果から、(1-9)が成り立つことを説明しなさい。
(ヒント)問題 1-10 の結果の対偶を考えればよい。
『 PA (a)  PB (a)
o
  ⇒ MRSA (a)  MRSB (a) 』 「(問題 1-10)の結果」
MRSA (a) = MRSB (a)
「
(問題 1-10)の結果」の対偶
「 PA (a)  PB (a)
o

(1-7)
「資源配分 a がパレート効率的である。
」
選好集合 Pi (a) が凸性を満たすならば、
o
PA (a)  PB (a)o   であるとき、資源配分 a を通
o
る直線で PA (a) とも PB (a) とも共有部分が存在しない直線が存在する。
そして、 MRSi (a) が存在する場合は、 Pi (a) o と共有部分が存在しない a を通る直線は、無
差別曲線 I i (a) の a における接線だけである。
したがって、 MRSA (a) と MRSB (a) が存在する場合は、
「
PA (a)  PB (a)o   のとき MRSA (a)  MRSB (a) である」
(1-10)
ことが成り立つ。
「(1-10)の対偶」と(1-5)を用いれば、選好集合 Pi (a) が凸性を満たすならば、
「 MRSA (a) 
ことが導かれる。
MRSB (a) であれば、資源配分 a がパレート効率的でない」
(1-11)
1.厚生経済学の基本定理 1
1.1 アダム・スミスの『国富論』
1.2 エッジワース(・ボウリー)の箱(ボックス・ダイアグラム)
1.3 実現可能な資源配分(resource allocation)
1.4 パレート改善とパレート効率性
1.5 効率的な資源配分と限界代替率
1.5 補論**:「集合の内部」と「選好の局所非飽和性」
この補論では、
「集合の内部」と「選好の局所非飽和性」について説明する。
性質(1-1)と「選好の局所非飽和性」が成立するならば、(1-5)が成立することを説明する。
「 x  X ならば x  Y である」とき「集合 X が集合 Y に含まれる」と呼び、X
 Y と表す。
点 a を中心とする半径εの円の内部を B (a) と表すことにする。
「点 a が集合 X の内点である」とは「ある  に関して B (a)  X となる」ことである。
o
「集合 X の内点を集めた集合」を「 X の内部(interior)」と呼び、 X と表す。
「点 a が集合 X の触点である」とは「任意の  に関して B (a)  X   となる」ことである。
また、「集合 X の触点ではあるが内点ではない点」を「集合 X の境界点」と呼び、「集合 X の
境界点を集めた集合」を「 X の境界(boundary)」と呼び、 X と表す。
点 a は集合 X の触点かつ内点である。
a
 a
点 a は集合 X の触点であるが内点ではない。
Xo
X
本論で『無差別曲線 I i (a) が「 Pi (a) の境界」と一致する』を仮定したが、この仮定は
(1-12)
I i (a) = Pi (a)
と表すことができる。
(問題 1-12)(1-12)のもとでは、性質(1-1)が成立することを示しなさい。
Pi (a)o  Pi (a)  
Pi (a)o  Ii (a)  
( Ii (a)  Pi (a)o )
Pi (a)  Pi (a)o  Pi (a)  Pi (a)o  Ii (a)  Pi (a)  Ii (a)  Pi (a)
Pi (a)  Pi (a)o  Ii (a)
( Ii (a)  Pi (a))
(問題 1-13)性質(1-4)が成立することを示しなさい。
X Y o  X o Y o
x X Y o
「 B ( x)  X Y」となるεが存在する。
「 B ( x)  X & B ( x)  Y」となるεが存在する。
 x  X o & x Y o
 x  X o Y o
(1-4)
性質(1-1)のもとでは、
「選好の局所非飽和性」は次のように定義することができる。
【選好の局所非飽和性】任意の a とεに関して B (a)  Pi (a)o
  である。
「選好の局所非飽和性」とは任意の資源配分 a のすぐ傍に a よりも好ましい資源配分が存在
することを意味している。
a  I i (a) ならば「 I i (a)  I i (a) かつ Pi (a)  Pi (a) 」であるから、性質(1-1)のもとでは、
(1-13)
Pi (a)o  Pi (a)o
が成立する。
(問題 1-14)(1-13)の性質を用いて、選好が局所非飽和であるとすれば、
『 X o  Ii (a)   な
らば X o
 Pi (a) o   』であることを説明しなさい。
X o  Ii (a)  
a  X o  Ii (a)となる aが存在する。
a  X o
(1)
a  Ii (a)
(2)
(1)  B (a)  X oとなるεが存在する。
(3)
「 B (a)  Pi (a)o   が
任意のεに関して成立する (局所非飽和の仮定)。」
(4)
(3) & (4) X o  Pi (a)o  
(5)
(2) & (1 7)  Pi (a)o  Pi (a)o
(6)
(5) & (6) X o  Pi (a)o  
B (a)  Pi (a)o   が
任意のεに関して成立する 。
X o  Pi (a)o  
X o  Ii (a)  
B (a)  X oとなるεが存在する。
yi
Pi (a)o
 a
 a B (a)
Xo
Oi
Ii (a)
xi
(問題 1-15)問題 1-14 の結果を用いて、選好が局所非飽和であるとすれば、(1-5)が成立す
ることを説明しなさい。
「 Xo
 Pi (a)   ⇒ X o  Pi (a)o   」(1-5)
 X o  Pi (a)o  

X o  Pi (a)    または、
 X o  I (a)    X o  P (a)o  (  問題1 - 14の結果)
i
i

(問題 1-16)局所非飽和性を満たしているが、性質(1-1)を満たしていない選好の例を、
Pi (a)o と I i (a) を図示することで示しなさい。
yi
B (a)
Pi (a)o
 a
I A (a)
Oi
xi
1.厚生経済学の基本定理 1
1.1 アダム・スミスの『国富論』
1.2 エッジワース(・ボウリー)の箱(ボックス・ダイアグラム)
1.3 実現可能な資源配分(resource allocation)
1.4 パレート改善とパレート効率性
1.5 効率的な資源配分と限界代替率