持続可能な科学技術・イノベーション創造立国の要~教育と

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Transcript 持続可能な科学技術・イノベーション創造立国の要~教育と

第31回創薬シンポジウム、2015年7月23日於大津プリンスホテル
持続可能な科学技術・イノベーション創造立国
を目指して
教育と科学技術とイノベーションの三位一体推進のすすめ
柘植綾夫
公益社団法人科学技術国際交流センター会長、前日本工学会会長
元総合科学技術会議議員、元芝浦工業大学学長
元三菱重工業(株)代表取締役・常務取締役技術本部長
1
話の構成
1.失われた20年からの日本再興に向け、この10年の科
学技術・イノベーション政策から学ぶ教訓
2.科学技術駆動型イノベーションの成功事例に学ぶ
① 医学と工学の融合によるイノベーションに学ぶ
② 産学官の有機的なイノベーションの連携に学ぶ
③ 基礎研究とイノベーションとの橋渡し機能の重要性に
学ぶ
3.持続可能な科学技術・イノベーション創造立国に向け、
産学官が強化するべき作戦の提言
4.科学技術創造立国を担う多様な人材育成方策の提言
参考文献(7)日本工学会委員会報告、科学技術駆動型イノベーションと、それを支
える工学研究の成功事例に関する調査研究、2014年12月25日
2
失われた20年で世界に取り残された日本
出典:国際貿易投資研究所データを基に作成
米国
日本
世界シェア95年
25%
2倍
1倍
中国
8倍
5倍
ロシア
韓国
世界全体
2倍
2010年
24%
18%
9%
3%
10%
1%
3%
2%
2%
2倍
10倍
5倍
1995年から2010年へのGDPの伸び
3
◆世界市場で従来強みを誇った製品分野で
シェア縮小が加速度的に進行!
(特に電子・電機分野)
出典:産業構造審議会資料
4
沈みゆく日本の再興戦略の実行エンジン構造
幸せな生活
強い社会保障
年1.3兆円自然増抑制
教育投資
健全な雇用
強い家庭の財政
強い経済・企業財政
40兆まで落ちた歳入回復
H26は53兆
強い公財政
に回復
1000兆円赤字の解消
科学技術振興投資
構ンイ
築・
エノ
がコベ
緊シー
要スシ
テョ
ム
イノベーション振興投資
持続可能なイノベーション・エコシステム=次代を担う人材
教育と科学技術とイノベーションの三位一体振興が不可欠
5
参考文献(6)、A.Tsuge, 2010.
1. 失われた20年からの日本再興に向けたこの10
年の科学技術・イノベーション政策から学ぶべき
教訓
6
第3期科学技術基本計画(H18-H22 )の政策目標の体系
理
念
大政策目標
中政策目標
個別政策目標
<緑字は、資料1-1 ~ 資料1-8の「戦略重点科学技術の成果目標例」において個別政策目標を引用して
①-1
①-2
①-3
①-4
①-5
いる分野>
知と革新の源泉となる知的蓄積を形成し、世界的な“飛躍知”創出における我が国の存在感を高める。
<フロンティア>
世界トップクラスの拠点を形成し、世界の科学技術をリードする。
世界的に認められる研究人材を数多く輩出する。
生命の仕組みを世界に先駆けて理解し、新たな知識体系を確立する。 <ライフサイエンス>
ナノ領域特有の現象や特性を活かし、新たな動作原理による革新的機能を創出する。 <ナノ・材料>
②-6
③-1
③-2
③-3
③-4
③-5
③-6
宇宙の限界領域を探求する。
地球の生い立ち、生命、物質の起源について飛躍的な知識を得る。 <フロンティア>
世界最高性能のスーパーコンピュータを実現する。 <情報通信>
2010年度までに超微細に超高速で原子・分子レベルの物理状態を計測できる世界最高性能のレーザー光線による計測システムを開発する。
未来のエネルギー源と期待される核融合エネルギーの科学的・技術的な実現可能性を実証する。 <エネルギー>
世界最高水準のライフサイエンス基盤を構築する。 <ライフサイエンス>
世界で地球観測に取組み、正確な気候変動予測及び影響評価を実現する。 <環境>
世界を先導する省エネルギー国であり続ける。 <エネルギー>
世界で利用される新たな環境調和型のエネルギー供給を実現する。 <ナノ・材料>
燃料電池を世界に先駆け家庭や街に普及する。 <エネルギー>
世代を超えて安全に原子力エネルギーを利用する。 <エネルギー>
国民が必要とする燃料や電気を安定的かつ効率的に供給する。 <エネルギー>
③-7
③-8
③-9
③-10
③-11
③-12
我が国発のバイオマス利活用技術により生物資源の有効利用を実現する。 <環境>
3R(発生抑制・再利用・リサイクル)や希少資源代替技術により資源の有効利用や廃棄物の削減を実現する。 <環境、ナノ・材料>
環境と経済の好循環に貢献する化学物質のリスク・安全管理を実現する。 <環境>
持続可能な生態系の保全と利用を実現する。 <ライフサイエンス、環境>
健全な水循環と持続可能な水利用を実現する。 <環境>
温室効果ガス排出・大気汚染・海洋汚染の削減を実現する。
④-1
④-2
④-3
④-4
④-5
④-6
④-7
④-8
④-9
④-10
④-11
④-12
④-13
④-14
④-15
④-16
④-17
④-18
④-19
④-20
④-21
④-22
⑤-1
⑤-2
⑤-3
世界一便利で快適な情報通信ネットワークを実現する。 <情報通信>
どんなモノでも情報でつなぎ便利に利用できるユビキタス端末(スマートな電子タグ等)技術とネットワーク基盤を実用化する。 <情報通信>
誰でもストレスなく簡単にコミュニケーションできる次世代の情報通信システムを家庭や社会に普及する。
日本発の革新的な情報家電を実現し世界に普及する。 <情報通信>
現在の半導体の動作限界を打ち破る革新的デバイスを実現する。 <情報通信、ナノ・材料>
生活に役立つロボットを家庭や街に普及する。 <情報通信>
日本発のデジタル・コンテンツを世界に広める。 <情報通信>
国際競争力のあるソフトウェアにより価値を創造する。 <情報通信>
世界に通用する高度IT人材を育成する。 <情報通信>
ナノテクノロジー・革新部材を駆使して今世紀のマテリアル革命を先導する。 <ナノ・材料、ものづくり>
最小の資源・環境・労働負荷で最大の付加価値を生み出す先端ものづくり技術を進化させる。 <ものづくり>
現場を支えるものづくり人材を育成・強化する。
人間と協働して様々な役割を果たせるロボットをものづくり現場に普及する。 <ものづくり>
循環型社会の構築に向け、バイオテクノロジーを活用し、環境に調和した先端ものづくりを実現する。
バイオテクノロジーを駆使する医薬と医療機器・サービスを実現し、産業競争力を強化する。 <ライフサイエンス>
極限環境生物機能を利用した新規医薬品・科学触媒・環境浄化物を実現する。
国際競争力の高い、安全で高品質な食料を提供し、食料の自給率向上と安定供給を図る。 <ライフサイエンス>
世界最高水準でロケットを打ち上げ宇宙を利用する技術を確立する。 <フロンティア>
国際競争力ある海洋利用技術を確立する。 <フロンティア>
国際競争力ある航空技術を確立する。
技術経営人材含めイノベーションを支える幅広い人材を育成・強化する。
ナノテクノロジーの社会受容の促進と普及を図る。 <ナノ・材料>
ゲノム情報を活用した生体機能の解明によりがんなどの生活習慣病や難病などを克服し、健康寿命を延伸する。 <ライフサイエンス>
免疫メカニズムの解明により、花粉症などの免疫・アレルギー疾患を克服する 。
バイオテクノロジーとITやナノテクノロジー等を融合した新たな医療を実現する。 <ナノ・材料>
生涯はつらつ生活
~子供から高齢者まで健康な
<理念3
(10)誰もが元気に暮らせる社会の実現
日本を実現
>
⑤-4
⑤-5
⑤-6
⑤-7
⑤-8
予防医学と食の機能性を駆使して生涯健康な生活を実現する。 <ナノ・材料>
脳科学の進歩により心と体の健康を保ち、自立しはつらつとした生活を実現する。
失われた人体機能を補助・代替・再生する医療を実現し、障害者の自立を支援する。
ライフサイエンスの社会的影響を把握し、社会福祉に活用する。
年齢や障害に関係なく享受できるユニバーサル生活空間・社会環境を実現する。
健康と安
全
⑥-1
⑥-2
⑥-3
⑥-4
⑥-5
⑥-6
⑥-7
⑥-8
⑥-9
⑥-10
災害に強い新たな減災・防災技術を実用化する。 <ナノ・材料、社会基盤、フロンティア>
既存のインフラを活かした安全で調和の取れた国土・都市を実現する。 <社会基盤>
安全で快適な新しい交通・輸送システムを構築する。 <社会基盤>
国民の安全と国家の自律性を確保するため、宇宙にアクセスする技術を確立する。 <フロンティア>
海洋フロンティアを開拓し資源を確保する。 <フロンティア>
深刻化するテロ・犯罪を予防・抑止するための新たな対応技術を実用化する。 <社会基盤>
鳥インフルエンザなど人類の脅威となっている感染症を克服する。 <ライフサイエンス>
食の安全を実現し、消費者の信頼を確保する。
医薬品・医療機器、医療、生活・労働環境等の安全確保や健康危機管理対策を充実する。
情報セキュリティを堅固なものとし、インターネット社会の安全を守る。 <情報通信>
<目標1>
(1)新しい原理・現象の発見・解明
飛躍知の発見・発明
<理念1> ~未来を切り拓く多様な知識 (2)非連続な技術革新の源泉となる知識の創造
の蓄積・創造
人類の英知
②-1
②-2
<目標2>
②-3
を生む
(3)世界最高水準のプロジェクトによる科学技術の牽引
科学技術の限界突破
②-4
~人類の夢への挑戦と実現
②-5
(4)地球温暖化・エネルギー問題の克服
<目標3>
環境と経済の両立
~環境と経済を両立し持続可
能な発展を実現
(5)環境と調和する循環型社会の実現
基礎研究の各推進分野と、その
基礎研究成果が実現を目指すイ
ノベーション像を具体的に描き、
その実現に向けた分野別戦略を
立て、「イノベーション創出総合戦
略」のもとで実行された。
<理念2
>
(6)世界を魅了するユビキタスネット社会の実現
国力の源
泉
を創る
<目標4>
イノベーター日本
~革新を続ける強靱な経済・ (7)ものづくりナンバーワン国家の実現
産業を実現
(8)科学技術により世界を勝ち抜く産業競争力の強化
<目標5>
を守る
<目標6>
安全が誇りとなる国
~世界一安全な国・日本を実
現
(9)国民を悩ます病の克服
(11)国土と社会の安全確保
(12)暮らしの安全確保
(注) 個別政策目標については、重要研究開発課題ごとに設定した研究開発目標及び成果目標を踏まえ、最も関係の深い中政策目標に位置づけて整理したものである。
7
第3期基本計画とイノベーション戦略の教訓
理念
大政策目標
中政策目標
個別の政策目標
不価挙個
在値が別
の創っの
ま造て学
まへも術
での、
研
社
実エ会究
施ン
ジ経成
ン済果
が は
価値創造の結合・橋渡しを担う人材と機能の強化を!
88
第4期科学技術基本計画と 科学技術・イノベーション総合戦略が
目指す橋渡し機能強化:イノベーション・パイプライン・ネットワーク
製品A+
製品B
製品C
サービスa サービスc
産業
製品A’
普市製
標準化
場品
イノベーショ
規制
及投開
政府調達
社
入発
ン創出・人材
派生技術による
会
育成
新サービス創出
製品・サービス
ステージ ニーズ
ゲートⅢ
シーズ
開研
発究
経済的/社会的
価値
ステージ
ゲートⅡ
究
シーズ
目
的
基
研礎
バリュー
ステージ
ゲートⅠ
シーズ
知
の
創
造
経
済
的
創
造
の
ス
テ
ッ
プ
非採用技術
新たなプロジェクト
他技術の
取り込み
派生技術
の活用
派生技術
シ
ー
ズ
の
見
直
し
新たなプロジェクトの創
成
プロジェクトB
プロジェクトA
絞り込
み
融合
科学技術領域の広がり
研究領域A
出典:柘植綾夫、イノベーター日本、オーム社刊
研究領域B
知
の
創
造
へ
の
立
ち
返
り
公的研究
機関
研究開発・
人材育成
大学
教育・
基礎研究
9
持続可能なイノベーション・エコシステム構築を!
製品A+
サービスa
製品A’
普市製
場品
投開
及入発
製品・サービス
ステージ ニーズ
ゲートⅢ
シーズ
研実応
究用用
開化/
発
ステージ
ゲートⅡ
究
経済的/社会的
価値
シーズ
目
的
基
研礎
サービスc
製品C
製品B
標準化
規制
社
派生技術による
会
知
産業:イノベーション
新サービス創出
経
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非採用技術
ズ
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的 日本の弱点“教育と科学技術と
他技術の
直
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へ
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価 派生技術
の
イノベーションの三位一体的橋
値 の活用
立
ち
創 渡し機能”の強化が必要!
新たなプロジェクトの創
返
成
造
プロジェクトA
り
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ス
み
融合
大学
研究開発法人
テ
ッ
プ
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政府調達
新たなプロジェクト
ステージ
ゲートⅠ
シーズ
知
の
創
造
興
イ
ノ
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|
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ン
政
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派生技術
プロジェクトB
バリュー
教
育
振
科
学
技
術
・
学
術
振
興
研究領域A
出典:柘植綾夫、イノベーター日本、オーム社刊
研究領域B
体イ教
的ノ育
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と
ー
興シ科
政ョ学
策ン技
を の10術
一 と10
持続可能なイノベーションエコシステム構築に向けた改革を
製品A+
社
イ
製品B
製品C
サービスa
サービスc
会 製品A’
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ノ
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普市製
標準化
合
経
ベ
規制
場品
省
政府調達
投開
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|
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済
間
・
派生技術による
シ
的
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産業:イノベーション
新サービス創出
シ
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研実応
ン
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フロー&インターフェイスの
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基
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融合
製品・サービス
ステージ ニーズ
ゲートⅢ
シーズ
新たなプロジェクト
ステージ
ゲートⅡ
経済的/社会的
価値
シーズ
派生技術
プロジェクトB
バリュー
ステージ
ゲートⅠ
シーズ
知
の
創
造
大学
研究開発法人
科学技術領域の広がり
研究領域A
出典:柘植綾夫、イノベーター日本、オーム社刊
研究領域B
策イ育
のノ・
一ベ科
体ー学
技11
化シ
ョ 術11
をン
“我が国のイノベーション・ナショナルシステムの
改革戦略”(注)の実践に向けて内包する課題
(平成26年4月16日経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議にて経済再生担当大臣が提出
1. 経済財政政策側の科学技術・学術振興に対するパラ
ダイムシフト
“コスト”から“投資”への変化
2. 学術界も教育界もイノベーション・ナショナルシステム
の改革に対して受け身ではなく、社会的課題解決への
“自らの橋渡し機能”の強化を、“社会のための科学技術
と教育”の両面において能動的に貢献すべき重要な時期。
3. イノベーション・ナショナルシステムを持続可能な“イ
ノベーション・エコシステム”とする為に必須の“教育と科
学技術とイノベーションの三位一体推進”戦略が不明確
であり、この戦略を教育再生実行会議と協働で至急策定
する必要がある。
引用文献:柘植、持続可能な科学技術・イノベーション創造立国に向けて、
文科省学術の基本問題特別委員会講演、2014.9.30
12
3.科学技術駆動型イノベーションの成功事例に学ぶ
参考文献(7)日本工学会委員会報告、科学技術駆動型イノベーションと、それを支える
工学研究の成功事例に関する調査研究、2014年12月25日
13
人工心臓イノベーション事例に学ぶ
我が国における人工心臓の医工学的基礎研究のルーツは、198
0年代の京大機械の赤松映明教授(当時)による遠心型の人工心
臓の基盤研究に辿ることが出来る。特に流体力学な研究、赤血球
の破壊(溶血)などのバイオレオロジー的な基礎的研究、血液適合
性の研究等の医工学面の基盤が積み重ねられた。
その後、赤松教授の基礎的な研究の成果を事業化させるために、
東京女子医大で心臓外科医をされていた野尻教授が、テルモ・
ハートの社長として移動し、事業化のための薬事法承認獲得に向
けて約10年にわたる想像を絶する研究開発と人工心臓イノベー
ション実現に取り組まれた。
先ずドイツで知見を積み重ね、その結果を持って米国で臨床治験
を積み、ついに2010年12月に日本の医療品・医療機器総合機
構(PMDA)の薬事承認(製造販売承認)を受けて事業化を行い、以
来多くの心臓病の患者を救っている。
参考文献(7)3.2節参照
14
人工心臓イノベーションの成功事例のもう一つとして、東京女子
医科大学の山崎教授を中心にした研究開発と国内における知見
と臨床治験の積み重ねによる成功事例。
この二つの「人工心臓イノベーション事例」の興味深い特長として
記すべきは、この人工心臓イノベーションを創出した二つのイノ
ベーターグループは1970 年代から続けられて来た東大等の日本
の人工心臓研究分野のリーダー的なグループでは無かったという
点。 傍流?が何故トップバッターになったか?
成功要因の第一:基礎研究を担った研究者が研究にだけにとどま
らず、「社会的課題解決に向けた情熱と確信」を持って、その応用
研究開発と事業化のイノベーション創出現場に自ら参加した。
まさに基礎研究と応用研究開発と社会経済的価値創造を結ぶイノ
ベーションパイプライン・ネットワークの構築そのものに基礎研究
者自らが橋渡し機能の牽引リーダーを務めた点である。
15
成功要因の第二:資金を投入した投資責任者も人工心臓イノベー
ションに向けた世界レベルの専門能力と情熱を兼ね備えていた。
成功要因の第三:イノベーション・パイプライン・ネットワークにおい
て、イノベーションの源泉である目的基礎研究成果を活かしてス
テージ・ゲートⅡを通過させて研究開発段階へ進展させ、更にそ
の価値をステージ・ゲートⅢも通過させて製品開発と市場投入・普
及にまで導いた「社会と連携した産学官連携」のイノベーション牽
引エンジン」の存在(図1-4)
具体的には、人工心臓イノベーションを切望する患者の方々と関
連学協会の積極参加である。従来希薄であった医学系と工学系
の学会が垣根を越えて相互連携し、評価基準などのガイドライン
を共同で作成して、臨床応用を円滑に進むようにした点。
日本においては前例が無い「人工心臓の薬事法承認」を受ける事
が出来た背景には、医学・工学系の複数の学会が連携して、協働
して白紙からガイドラインを作成した点が重視される。
16
世界トップの最高性能のガスタービンシステム・イノベー
ションから学ぶ教訓
教訓1.真のセンター・オブ・イノベーション(COI)の存在
・「製品開発/市場投入/普及」⇔「開発研究」⇔「目的基
礎研究」⇔「基礎研究(学術知の創造)」を双方向に結合
する「イノベーション・パイプライン・ネットワーク(図1-4参
照)」の構築の要である、実力のある「真のセンター・オ
ブ・イノベーション(COI)」の存在。
・「研究」だけでなく「イノベーション」と「研究とイノベーショ
ンとの間の橋渡し機能」も同時に担う「真の成果責任を担
いうるCOI」を明確にして、そこに強力なマネージメント体
制を組むことが成功の要。
17
高効率ガスタービンの絶え間なきイノベーションを駆動
するCOI機能の特徴
① イノベーション創出の4大重要機能である、「研究・設
計・製造・実証機能」が一か所に集約されると共に、世界
のCOIとの日常の交流機能も併せ持つ。
② ビジネスと科学技術革新の両方の統合的なイノベー
ションのトップマネージメントの存在。
正に日本が深化させるべき科学技術駆動型イノベーショ
ン創出機能強化に向けた「オープン&クローズド・イノ
ベーションエコシステム」の好事例。
参考文献(7)3.3節参照
18
教訓2.産業・公的研究機関・大学それぞれの主体的協働
を実現する中期と長期の二つのターゲットの設定
第一に、中期的と長期的の両方の時間軸上で“常なる競
争優位性を確保”すべく、長期的なロードマップを作り、
産業側の責任者は中期達成目標の必達を図る。その達
成のためには、オープン&クローズド・イノベーション戦
略を柔軟にとることが求められる。
第二に、大学、公的研究機関における研究者は、上記
の長期的達成目標すなわち“従来の延長技術では達成
が困難なハードルが高い革新的技術目標”の設定と共
有化を図る。これにより、学術としての知的価値創造が
確保され、学術における競争原理も保たれる。
19
特記教訓: この次世代ガスタービンのイノベーションで
注目すべきは、
①関連する科学技術・学術分野の出来るだけ正確な現
状と将来予測に基づき、10―20年スパンでの長期的
挑戦目標の設定
②その技術革新の途中の5-10年スパンで実現する中
期的達成目標を同じ開発目標ロードマップ上に見える
化。
③この長期的挑戦目標を大学の科学技術・学術と教育
の自主性自律性に委ね、後者を大学・公的研究機関の
参加も得て企業側が主導してイノベーション実現を重視
して進める。
正に、教育・科学技術とイノベーションの三位一体
振興へのエコシステムのロールモデル!
20
・・・真の産学官連携の姿
20
3.持続可能な科学技術・イノベーション創造立国に向けて
参考文献(7)4章参照
産学官が強化するべき作戦の提言
3.1 行政が連携して実践をすべき事
提言1:大学への教育研究基盤経費の確保と長期的継続および機動
的運用への制度改革
提言2: 科学技術・イノベーション戦略の主要テーマの実行に向け、
基礎研究と社会経済的価値とを橋渡しする“イノベーション・パイプラ
イン・ネットワークの可視化”と、そのPDCAマネージメントへの有効
活用
提言3: 「科学技術・学術振興と教育振興を日本新生に必須のイノ
ベーション牽引エンジン全体構造の中で位置づけ」、それを具体的に
教育・研究の現場に浸透させる政策を強化すること
“教育政策と科学技術政策とイノベーション振興政策の
21
三位一体振興のすすめ”
21
3.2大学・公的研究機関が担い、実践すべき事
提言1:基礎研究を担った研究者が研究にだけにとどま
らず、「社会的課題解決に向けた情熱と確信」を持って、
その応用研究開発とイノベーション創出現場に自ら参加
することを促す、人事・労務等の制度システム改革に学
長がリーダーシップを取ること。
提言2:日本が世界に遅れている“学生への活きた経済
支援も含む世界レベルの実践型イノベーションリーダー
育成”を狙って、提言1と連動させた学部及び大学院教
育研究の改革を早急に行うこと。
22
3.3 産業界が担い、実践すべき事
提言1:産業側経営トップは地元大学に対する「イノベー
ション創造の源泉となる科学技術革新の活用に向けた自
らの熱意」と、大学の「教育と研究とイノベーション参加へ
の三位一体的取組み」に対する支援・貢献を強化すること。
提言2:産業界が率先して「長期的視野に立ったイノベー
ション実現目標と、中期的に実現を目指す現実的な目標
の両立」に貢献し、大学が本分とする教育研究の長期的
達成目標の主体性確保と産業の競争優位性確保の両立
をリードすること。
提言3:上記の提言1及び提言2の実践に向け、真に実力
が持つCOI(センター・オブ・イノベーション)を産業が率先
して設けること。
23
3.4 公的ファンディング機関が実践すべき事
提言1:“学術的基礎研究とイノベーションとの橋渡し機
能”を強化すること。
解説:「真の目利き人材」を雇用し育成するとともに、絶えずその活躍の評価を成
功報酬も含めて国際レベルにまで進化させること。
その実践の手段として、大学における博士課程教育との協働を提言する。すなわ
ち、大学院博士課程教育研究と本提言の実行とを組み合わせて、“現在の橋渡し
機能の強化と次代を担う人材育成”を狙う一石二鳥の研究教育プログラムの創設
を提言する。
提言2:上記提言1の実践にあたり、“学術的基礎研究とイ
ノベーションとの橋渡し機能”の強化の可視化と参加者間
の共有化を推進すること。
解説:各重要な戦略プログラムごとに“価値創造を結合するイノベーション・パイプ
ライン・ネットワーク”を各ファンヂング機関の創意工夫の下、当該プログラムが挑
戦する非線形で確率論的なイノベーション・システムの可視化を行い、それを参加
者間で共有化し、仮説検証も含めてPDCAマネージメントに活用することを提唱す
る。
24
3.5 全ての参加者(産業と大学・公的研究機関と行
政・ファンディング機関)が協働して実践すべき事
提言1:基礎研究を担った研究者が研究にだけにとどまら
ず、「社会的課題解決に向けた情熱と確信を持つ人材」な
らば、イノベーション創出現場に自ら参加することを促す政
策プログラムを産学官共同で創意工夫すること。
また、その機動的実践を妨げる人事・勤労等の制度上の
障害を可視化して、その打破策を実行に移すこと。
提言2:「研究能力」と「技術能力」だけでなく、「それらを結
合し、イノベーションとの間の橋渡し機能と実証」も併せて、
「最終成果責任を担いうる真のセンター・オブ・イノベーショ
ン(COI)」を産学官連携で作ること。
25
4.持続可能な科学技術創造立国を
担う多様な人材像と育成方策の提言
参考文献(4)、(5)、(6)、(8)参照
26
21世紀のイノベーション創出の難しさ
21世紀:フロントランナー型
20世紀:キャッチアップ型 化
技
術
レ
ベ
ル
自主
技術
ライセンス
技術の幅
自主
技術化
巨
大
複
雑
高性能化
高信頼性化
心の満足
社会の求める科学技術の
スペクットル幅の広がりと
統合能力
フロントランナー型イノベーション創出=「個別先端科学
技術創造(知の創造)」と、その「統合化能力(社会経済
価値創造)」の両方の能力と人材が不可欠
27
フロントランナー型イノベーション創出に必須な人材
要求される技術の高さ
出典:柘植綾夫、イノベーター日本、オーム社
科学技術駆動型イノベーション構造
育成すべきイノベーション人材像
Differentiator
Technology
Enabler
Technologies
基盤技術と
ものづくり力
Type-D : Differentiator科学技術
創造人材
Type-E : Enabler技術創造人材
Type-B : 幅広い基礎技術と
基盤技術・技能を有する人材
Type-S : イノベーション構造の縦・横統合に
要求される科学技術のスペクトル よる社会経済的価値創造人材・・・高付加価
の幅の広がり(人文、社会まで) 値創造型イノベーション構造に必須!
科学技術駆動型イノベーション創出能力の強化には、Σ型統
28
合能力人材を含めた多様な人材を育成せねばならない! 28
知の創造と社会経済価値の創造とを結ぶ
製品A+
イノベーション・パイプライン・ネットワークの重要性
製品B
製品C
サービスa
サービスc
製品A’
産業:イノベーションと人材
に基
普市製
標準化
場品
規制
結礎
及投開
政府調達
社
入発
び研
派生技術による
会
新サービス創出
つ究
経
シ
けと
ー
非採用技術
ズ
済
知
開研
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の
発究
見
の
的
他技術の
エノ
直
取り込み 国研:研究開
創
し
創 派生技術
ンベ
造
発人材・教育
ジー
造
の活用
研目
へ
究的
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の
基
新たなプロジェクトの創
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立
礎
ス
成
プロジェクトA
エン
ち
テ
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返
絞り込
ッ
シ
み
融合
り
プ
知
双
ス
の
方
創
大学:教育
テ
造
ム向
科学技術領域の広がり 基礎研究
製品・サービス
ステージ ニーズ
ゲートⅢ
シーズ
新たなプロジェクト
ステージ
ゲートⅡ
経済的/社会的
価値
シーズ
派生技術
プロジェクトB
バリュー
ステージ
ゲートⅠ
シーズ
研究領域A
出典:柘植綾夫、イノベーター日本、オーム社刊
研究領域B
29
イノベーション創出人材の育成と役割の概念図
製品A+
サービスa
製品A’
普市製
場品
投開
及入発
製品・サービス
ステージ ニーズ
ゲートⅢ
シーズ
研実応
究用用
開化/
発
ステージ
ゲートⅡ
究
経済的/社会的
価値
シーズ
目
的
基
研礎
バリュー
ステージ
ゲートⅠ
シーズ
知
の
創
造
標準化
社
会
経
済
的
価
値
創
造
の
ス
テ
ッ
プ
サービスc
製品B
製品C
B-型人材
政府調達
(基盤)
Σ
型
非採用技術
統 Σ型統合能力人材
合
E-型人材
能
派生技
(可能化)
術
力
の活用
人 Σ型統合能力人材
材
絞り込
D-型人材
み
融合
(差異化)
規制
派生技術
による新
サービス
創出
新たなプロジェクト
他技術の
取り込み
シ
ー
ズ
の
見
直
し
派生技術
プロジェクトA
新たなプロジェクトの創成
プロジェクトB
科学技術領域の広がり
研究領域A
出典:柘植綾夫、イノベーター日本、オーム社刊
研究領域B
知
の
創
造
へ
の
立
ち
返
り
三育科
位政学
一策技
体と術
推は・
イ
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進 ノ
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政
策
と
教
30
イノベーション人材育成の現状分析と課題
現状、科学技術政策の重点化によって、Type-D
Type-E型人材育成に重点を置く傾向
問題1.Type-B:技術者・技能者教育が崩壊している!
問題2.Type-Σ能力を初中・高等教育で出来ていない!
Type-B、Type-Σ型人材の育成に向けた、
教育改革の早急な強化策を!
~教育と研究とイノベーションの三位一体的
推進システムの強化が要~
この実効ある推進が、持続可能なイノベーショ
ン力を支える産学公(独法)連携の進化の道
31
持続可能なイノベーション・エコシステム構築の要
製品A+
サービスa
製品A’
普市製
場品
投開
及入発
製品・サービス
ステージ ニーズ
ゲートⅢ
シーズ
研実応
究用用
開化/
発
ステージ
ゲートⅡ
究
経済的/社会的
価値
シーズ
目
的
基
研礎
バリュー
ステージ
ゲートⅠ
シーズ
知
の
創
造
サービスc
製品C
製品B
標準化
社
会
経
済
的
価
値
創
造
の
ス
テ
ッ
プ
規制
政府調達
派生技術による
産業:イノベーション
新サービス創出
シ
ー
ズ
の
見
直
し
知
新たなプロジェクト
の
他技術の
創
取り込み
一石三鳥の施策の
造
派生技術
の活用
へ
すすめ
の
派生技術
新たなプロジェクトの創
立
成
プロジェクトB
プロジェクトA
ち
返
絞り込
み
り
融合
大学
国・研究開発法人
非採用技術
科学技術領域の広がり
研究領域A
出典:柘植綾夫、イノベーター日本、オーム社刊
研究領域B
三教
位育
一と
体研
的究
推と
進イ
のノ
世ベ
界ー
レシ
ベョ
ルン
化の
32
結び
1.日本は科学技術振興政策とイノベーション振興政策
の軸合わせに10年かかった遅れを自覚し、「日本再興
戦略」と連動した「科学技術・イノベーション総合戦略」の
実効ある実践を図らねばならない。
2.持続可能な科学技術・イノベーションエコシステムの
構築において、日本は「次代を担う人材育成に向けた教
育との連動」が世界レベルから遅れている。この回復が
急務。
33
3.大学改革、初等中等教育再生実行においても、
屋上屋を重ねるのではなく、日本再興戦略の下で
の一石二鳥、三鳥的な発想に立った施策の連動と
シナジー効果を実現する制度設計が肝要である。
4.そのために、科学技術・学術及び教育行政、更
には経済・産業行政は、相互の協働の一層の深化・
充実に向けて本提言を活用すると共に、進行中の
「教育再生実行」、「大学改革」、「科学技術総合戦
略2015」に、更には「第5期科学技術基本計画」の
質の向上と実効性に、本提言を活かすことを願う。
34
国を挙げた活動の国民的スローガン
科学技術・イノベーション創造立国つくりへの鍵
“教育・科学技術・イノベーションの
三位一体振興のすすめ”
日本再興・成長戦略
教育振興
「教育再生
実行」「大学
改革」
一石三鳥的
施策
イノベーション振興
「科学技術・イノベー
ション総合戦略」
科学技術・学術振興
A.TSUGE2015.6
「第5期科学技術基本計画」
35
参考文献
(1)第3期科学技術基本計画、平成18年3月閣議決定
(2)科学技術イノベーション総合戦略2014、平成26年6月24日閣議決定
(3)柘植綾夫、持続可能な科学技術・イノベーション創造立国に向けて~産学官が担
う使命の強化するべき作戦の提言~、文部科学省科学技術・学術審議会、学術の基
本問題特別委員会講演、2014年9月30日
(4)柘植綾夫、イノベーター日本、オーム社
(5)技術同友会提言、巨大複雑化する社会経済システム創成リーダー“Σ型統合能力
人材”の育成強化を、2013.6
(6)柘植綾夫、命題:沈み行く日本の新生に向けた科学技術・イノベーション面からの
センターピンは何か、経団連産業技術委員会産学官連携推進部会講演 2011年7
月26日
(7)日本工学会委員会報告、科学技術駆動型イノベーションと、それを支える工学研
究の成功事例に関する調査研究、2014年12月25日
(8)日本学術会議提言、科学・技術を担う将来世代の育成方策~教育と科学・技術イ
ノベーションの一体的振興のすすめ~、2013年2月25日
36