パワーポイントファイル - 情報コミュニケーション学会

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知の創発を目指した
学会活動の確立に向けて
情報コミュニケーション学会
第1回全国大会基調講演
2004年2月28日
園田学園女子大学30周年記念館
明治大学法学部 阪井 和男
[email protected]
Contents
1.
進化はヒトに何をもたらしたか?

2.
個人が社会を変えられるか?

3.

組織のスキーマ → 新文化の創発
ブレークスルーはマネジメントできるか?

6.
問題解決って? → スキーマの役割
組織文化はいかに創発されるか?

5.
Yes! → どんなときに?
ブレークスルーはいかにもたらされるか?

4.
ヒトの進化 → 社会の構成
従来方法 → 新提案
創発的な学会活動のために
参考文献
明治大学 阪井和男
2
1. 進化はヒトに何をもたらしたか?
1.1 人間の進化?



生命の進化,脳の発生,爬虫類の進化
体温ホメオスタシス,哺乳類の進化
前脳の拡大と記憶,霊長類の進化,ヒトの進化
1.2 社会の進化

採集・狩猟生活,農耕生活,都市生活
1.3 社会の発達は何をもたらしたか?

身体機能の拡大,脳機能の拡大
1.4 情動の進化的意味


家族の絆としての「愛情」「温かさ」
情動の生物学的機能
1.5 脳の進化的意味

飼い馴らしによる脳の縮小,脳への進化的圧力
明治大学 阪井和男
3
1.1 人間の進化

宇宙の誕生
 150億年前:ビッグバンによる宇宙生成

生命の進化
 46億年前:地球が生成
 40億年前:原始生命が誕生
→ 情報の意味=生きること
 35億年前:バクテリア誕生
 栄養素・エネルギー源・毒素に対する高度に発達した感覚系
 12億年前:動物と植物の共通の先祖が誕生
「地球の誕生と人間の歴史」(宇宙情報センター)
http://spaceboy.nasda.go.jp/note/shikumi/j/shi04_j.html

脳の発生?
明治大学 阪井和男
4
脳の発生


6億年前:哺乳類と昆虫の先祖が分岐
5億3000万年前:カンブリア紀の生物爆発



属の数が600を超える
5億年前:脳の起源
4億7000万年前:最も原始的な脊椎動物=円口類(無顎類)



中脳:視覚系
神経冠:顎,歯,頭蓋骨,末梢神経系へと進化
終脳:嗅覚系




小脳:後脳の最上部から発生。眼の筋肉を綿密に調整
ヘモグロビン:4重の重複で酸素の効率的な供給
ミエリン:神経軸索を包む絶縁物質



匂いを使ったコミュニケーション e.g.フェロモン
跳躍伝導の効果によってエネルギー効率アップ
混戦が起きない→神経網の高密度化
爬虫類の進化?
明治大学 阪井和男
5
爬虫類の進化
 3億7000万年前:最初の両生類が水から陸へ
 光を通さない水からきらめく光の世界へ
 めまぐるしい温度変化の世界へ
 3億年前:哺乳類と鳥類の先祖が分岐
 最初の爬虫類が出現
体長約20cmの捕食動物,昆虫を獲物
 陸へ産める卵→水辺から内陸への移動
 革新的な脊椎動物で,適応拡散により分岐
1. 単弓類:盤竜→獣弓類※
※→大型草食動物→絶滅
※→槽歯類→鳥類・恐竜
※→キノドン類(犬歯類)→哺乳類
2. 無弓類→カメ
3. 双弓類→爬虫類
(オールマン,2001年,pp. 20-21, pp. 57-59)


体温ホメオスタシス?
明治大学 阪井和男
6
体温ホメオスタシス

変温動物から恒温動物への進化

体温ホメオスタシス=体温恒常性


生物を外気温から守る緩衝材
非常にコストがかかる




体を丸めて寝る:体温を保持しやすい姿勢
子育てをする



5~10倍のエネルギー:エネルギーの大半を体温維持に
筋肉の活動:体を暖めたり冷やしたり
体外から食べ物(母乳)と温かさを与える
乳幼児の体温ホメオスタシスを確保する
呼吸系の進化

鼻甲介:口腔と鼻腔を隔てる薄い骨


窒息せず,食べ物を飲み込むことと呼吸を同時に
横隔膜:胸腔と腹腔を隔てる筋肉

活発な呼吸
(オールマン,2001年,pp. 59-52)

哺乳類の進化?
明治大学 阪井和男
7
哺乳類の進化
 2億4800年前:シベリアの火山噴火による大絶滅
 全動物種のうち,95%が絶滅


150km^3の玄武岩が流出
大噴火の噴煙で気球規模の寒冷化
 2億2000年前:最初の真の哺乳類
 キノドン類(体重1kg)を祖先とし,夜行性できわめて活動的


体重30g弱,脳と聴覚系,歯は発達したが,視覚系は衰退
聴覚の発達


外有毛細胞の発生で10万ヘルツを超える周波数まで
 マウスの赤ん坊は2万5000ヘルツで泣く
 爬虫類や鳥類は1万ヘルツまでしか聞こえない
捕食者には聞き取れないコミュニケーション法を獲得
(オールマン,2001年,pp. 63-66)

前脳の拡大と記憶?
明治大学 阪井和男
8
前脳の拡大と記憶

脳の新皮質の発生

前脳の拡大による学習と記憶

子育ての学習



親の子育てを子が見て学ぶ
遺伝子に頼らずに情報伝達するシステムが確立
遊び



前脳の発達に不可欠な行為
鳥類と哺乳類の子どもはしばしば遊びにふける
遊びを通して世界を体験し,前脳ネットワークを訓練
(オールマン,2001年,pp. 73-74)

温血のパラドックス

短命:祖先のキノドン類より短い


常に飢餓の危険にさらされていた
成功までの長い待機
恐竜が絶滅するまでの数百万年間(6500万年前の大量絶滅まで)
(オールマン,2001年,p. 75)


霊長類の進化?
明治大学 阪井和男
9
霊長類の進化
 7000万年前:ヒトを含む霊長類とその他の哺乳類が分岐
(オールマン,2001年,pp. 20-21)
 6500万年前:大量絶滅
 大隕石(直径10km)の落下による地球規模の大寒波
 5500万年前:初期霊長類が熱帯雨林で繁殖
 体重数十グラムで,熱帯雨林の木々の枝先にしがみついて生活
 視覚より嗅覚への依存度が高い
(オールマン,2001年,p. 77)
 4000万年前:三原色を感知可能に
 網膜の錐体色素の遺伝子に重複発生
 顔の表情を使った感情伝達システムが発達
 嗅覚によるコミュニケーションは衰退
(オールマン,2001年,pp. 77-78)

ヒトの進化?
明治大学 阪井和男
10
ヒトの進化
 1500万年前:アフリカに、様々な種類の類人猿
 600万年前:新しい方向へ進化、ヒトの祖先
 200万年前(第1期脳拡大)ヒトの脳が飛躍的に増大
 100~50万年前:調理や暖をとるため火を利用(24%拡大)
 70万年前(第2期脳拡大)寒冷地にもヒトが移住
 30万年前:ヒトの発話が発達←舌下神経管の拡大
 14万年前:新人(現人類)の起源
 14万年前のアフリカの一女性(DNA鑑定)


細胞中のミトコンドリアのDNAを分析すると特定の人物の母系をさ
かのぼることができる
新人の誕生
http://www.kahaku.go.jp/special/past/japanese/ipix/1/1-07.html

1.2 社会の進化?
明治大学 阪井和男
11
1.2 社会の進化

進化論的な意味

1.
採集・狩猟生活?

2.
→拡大家族
農耕生活

3.
生存の優位性を確保するため
→農業社会
都市生活

→工業社会
明治大学 阪井和男
12
採集・狩猟生活(1)

採集生活
 数千万年前:食糧確保は身近にある木の実を採集

狩猟生活
 オスがチームを組んで狩猟
 13万5千年前:オオカミとの出会い
(オールマン,2001年,pp. 124-127)
 イヌとの拡大家族を構成:アフリカからアジアへ渡り出会う
 他集団と争う上で極めて有利に




ヒトの食料獲得を助ける
 イヌの鋭い嗅覚と聴覚が,ヒトの感覚力を補完
ヒトは子犬に食べ物を運んでくれる群れの仲間
イヌの出産回数:1回/年→2回/年へ
採集・狩猟生活(2)?
明治大学 阪井和男
13
採集・狩猟生活(2)

狩猟生活
 オオカミとヒトとの共通点
 頻繁な移住
 協力して狩りをする捕食者
 声を利用したコミュニケーション
 拡大家族


オスメスともに子どもの世話をする
哺乳類ではきわめて珍しい社会構造
 5万年前:新人が世界中に拡散
 世界中へひろがっていった新人
http://www.kahaku.go.jp/special/past/japanese/ipix/1/1-12.html

新人の世界進出
http://www.kahaku.go.jp/special/past/japanese/ipix/1/1-14.html

農耕生活?
明治大学 阪井和男
14
農耕生活

農耕生活→農業社会
 1万年前

農耕生活により定住
 約8000年前



ヒツジに突然変異→羊毛をまとう
ヒトが環境変化から身を守る新たな手法を入手
牧畜


イヌが群れの移動を支配
ヒツジが肉の供給源に
(オールマン,2001年,p. 127)

都市国家?
明治大学 阪井和男
15
都市国家
紀元前3500年:シュメール人による都市国家
 紀元前3世紀:ローマ時代

 インフラ:道路
10メートルの幅と1メートル以上の深さ
 幹線8万キロ,支線までで15万キロ
 500年間かけて敷設
(塩野七生,2001年,p. 23)
古代ローマ(augustus)http://www.augustus.to/


中世国家?
明治大学 阪井和男
16
中世国家

15世紀末~16世紀初:大航海時代
「大航海時代」(金岡新)
http://www.geocities.jp/timeway/kougi-54.html
ポルトガル,スペイン,オランダ,イギリス
 1492年

コロンブスによるアメリカ大陸再発見(スペイン)
 1498年
 ヴァスコ=ダ=ガマによるインド航路の発見(ポルトガル)
 インフラ:船舶建造と航海技術

近代国家?
明治大学 阪井和男
17
近代国家

18世紀後半:産業革命(イギリス)
 インフラ:科学と技術の融合

19世紀:近代主権国家の成立
 インフラ:鉄道と電気通信
 19世紀後半:東アジア唯一の主権国家「日本」

現代の都市生活
 高度に発達した交通網・情報通信網
 多種多様な商品と販売網
 テレビを初めとするマスメディアの発展

1.3 社会の発達は何をもたらしたのか?
明治大学 阪井和男
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1.3 社会の発達は何をもたらしたか?

人類の歴史

技術や文化の向上を通じて,
生死に直接関わる危機を排除しようとする歴史
(遠藤利彦,1996年,p. 117)

豊かな物質生活!


ものがあふれている
豊かな感情生活?

人口が集中した都会の生活環境


なぜ?


閉塞感・孤立感・無力感などなど
社会から提供される身体機能と脳機能とのアンバランス!?
身体機能の拡大?
明治大学 阪井和男
19
身体機能の拡大

身体機能の拡大
 足:歩行
→ 電車・バス・エスカレータ・エレベータ
 手:運搬
→ 宅配便・郵便
 耳:娯楽
→ CD・MD
 口:食料
→ 店舗・コンビニ
 目耳:娯楽 → テレビ・映画
 口耳:会話 → 電話・携帯電話・補聴器・マイク

脳機能の拡大?
明治大学 阪井和男
20
脳機能の拡大

脳機能の拡大
 記憶 → 本・CD・DVD・録音機・写真・ビデオカメラ
 文字情報からマルチメディア情報まで膨大なツールがある
 思考 → コンピュータ
 定型処理的な作業なら,OKだが,準備が大変
 非定型処理的な作業は,使いこなす人なら何とか
 まだまだ,思考のツールというほど使いやすくはない
 情動 → 娯楽・ヒーリング・熱帯魚
 都市生活は自然環境から遠ざかっている
 日常の中で,安らぎと満足,温かさを得ることに努力が必要
 「情動」と「思考」が置いてけぼりに!

1.4 情動の進化的意味?
明治大学 阪井和男
21
1.4 情動の進化的意味

情動(emotion)


「環境への適応をかけた生き残りを高度に保障する合理的な機能シ
ステム」(遠藤利彦,1996年,p. v)
起源の異なる三種の脳
1.
2.
反射脳:爬虫類から受け継いだR複合体
情動脳:加藤哺乳類から受け継いだ大脳辺縁系


3.
「摂食,逃走,闘争,性交などを,反射よりもはるかに柔軟で確実に遂行
させるシステム」(遠藤利彦,1996年,p. 20)
固定的で反射的な行動パターンと完全無欠の合理性との間を埋める生
き残りシステム(ジョンソン=レアードとオートレイ,1992年)
理性脳;高等哺乳類,霊長類以降に飛躍的に進化した大脳新皮質
(遠藤利彦,1996年,pp. 20-21)

家族の絆としての「愛情」「温かさ」?
明治大学 阪井和男
22
家族の絆としての「愛情」「温かさ」

ヒトの種で独自の進化
 オスとメスとの排他的関係を長期間安定化
(マクドナルド,1992年,(遠藤利彦,1996年,pp. 25-28))
 脳ホルモン:
オキシトシンとアルギニン・バソプレッシン
乳房からのミルクの分泌促進
 出産時の子宮収縮
 母親と乳飲み子の絆を確立
 性交時のオルガズム
 夫婦間の強い愛着
(オールマン,2001年,p. 123)


情動の生物学的機能?
明治大学 阪井和男
23
情動の生物学的機能
「切羽詰ったときの応急措置システム」(遠藤利彦,1996年,pp. 24, 31-35)
1.
内的情感の側面
いてもたってもいられない状態におき,何らかの行為に強く駆り立てる。

「果実」→「スズメバチ」→「恐れ」→「とっさに逃げる」

2.
何を優先すべきかを自動的に判断させ,注意をとっさに移し変える。
神経生理学的な側面
ある行為を起こすために必要になる最適な身体状態を瞬時に整える。

3.
「全身がかっと熱くなる」「心拍が速くなる」「青ざめる」「鳥肌が立つ」
表出的な側面
個体間の重要な情報伝達,コミュニケーションを進行させる。

怒りや威嚇の姿勢


悲しみ


警告を発し,無用な闘争を回避
重要なものを失ったことを知らせ,保護や慰撫を引き出す
1.5 脳の進化的意味?
明治大学 阪井和男
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1.5 脳の進化的意味

環境の変化に対処


消化管に入るものを管理する → 口の近くに脳がある
脳は消化器官を犠牲にして大きくなる


動物の消費エネルギーは体重で決まる
脳のエネルギーが増加すると消化器官をリストラ


どこにでもあるが消化しにくいものより,希少だが栄養に富む食料を得る能
力を発達
社会の複雑化と脳



脳重と集団規模:相関なし
新皮質の割合と集団規模:相関あり
神経生理学的な変化による性格形成の可能性
ヒト上科特有のプロモーター配列の発見
 セロトニン輸送体の発現を調整
(オールマン,2001年,pp. 106-107)


飼い馴らしによる脳の縮小?
明治大学 阪井和男
25
飼い馴らしによる脳の縮小

イヌの脳


オオカミ > イヌ → 2/3
家畜の脳


近縁の野生種 > 家畜
ヨーロッパヤマネコ > イエネコ



網膜神経線維が40%少ない
飼い馴らし→アポトーシス(プログラム細胞死)
ヒトの脳


初期ホモサピエンス > 現代のヒト
過去3万5千年で,1450g → 1300g(1割減)
文化のあらゆる面で急速に発達
 物質界に対する支配力は増した
 環境の変化に対する大きな緩衝材の役割
→ 自分たち自身を飼い慣らした!(オールマン,2001年,p. 127)


表:脳の拡大?
明治大学 阪井和男
26
表:脳の拡大
ヒトの成熟段階
サンプル
時代の幅(~年前)
現代の世界全体
体重(kg)
脳重(g)
1
58.2
1302
上部旧石器時代後期
1万~2万1000
62.9
1412
上部旧石器時代初期
2万1000~3万5000
66.6
1460
原始ホモ・サピエンス後期
3万6000~7万5000
76
1442
9万
66.6
1444
後期更新世初期
10万~15万
67.7
1307
中期更新世後期
20万~30万
65.6
1148
中期更新世中期
40万~55万
67.9
1057
60万~115万
58
835
120万~180万
61.8
890
スフール洞窟・カフゼー洞窟の人骨
中期更新世初期から初期更新世後期
初期更新世
オールマン,J. M.:『進化する脳』,養老孟司訳,別冊日経サイエンス133,日経サイエンス,
p.120 (2001)(ラフ(Christopher Ruff)らによるデータに基づく)
明治大学 阪井和男
27
図:脳重の推移
脳重(g)
1500
90
85
80
75
70
65
60
55
1300
1100
900
700
10,000,000
100,000
1,000
体重(kg)
明治大学 阪井和男
体重(kg)
体重と脳重の推移
10
年前
脳重(g)
28
図:脳重と体重の相関
体重に対する脳重の相関
1500
農耕・定住
1400
現代人
1300
脳重(g)
世界中に移住
オオカミと出会う
新人の起源(イブ)
1200
発話が発達
1100
気候の大変動期*
1000
*10年ほどの間に,
過去6500万年のうち
最も寒くなった。
原始的な石器を作る
900
火の使用
800
50
60
70
80
体重(kg)
オールマン ,J. M.:『進化する 脳』,養老孟司訳,別冊日経サイ エン ス133,日経サイ エン ス,
p.120 (2001)(ラ フ(Christopher Ruff)らによ る データに基づく)
明治大学 阪井和男
•脳への進化的圧力?
29
脳への進化的圧力

200万年前:第1期脳拡大


原始的な石器を作る
50万年前:第2期脳拡大(40%増)

気候の大変動期


3万5千年前:脳縮小(10%減)


旧石器時代→農耕による定住→現代
100年前:体重増加に転じる

産業革命→工業社会:社会の複雑化



過去3万5千年間、脳重は体重と正の相関あり
ふたたび脳拡大の可能性あり

脳を使い倒している?
脳の進化を伴うか?



10年ほどの間に、過去6500万年のうち最も寒くなった。
新皮質の割合増加?
新セロトニン機能の発現で性格形成に変化?
2. 個人が社会を変えられるか?
明治大学 阪井和男
30
2. 個人が社会を変えられるか?

個人の働きかけ<<社会の活動

個人は「ゆらぎ」でしかないのか?


個人は組織にとって機械の歯車か?
社会の成熟とともに組織と社会制度が確立されてきた。


機械モデルとしての組織デザイン



最適設計の神話:組織は目的のために最適に設計すべしという神話
資源の有効利用:組織の資源をもっとも有効に用いることができる
創造的な破壊:組織の創造的な壊し方がわからない



最適設計した組織の作り直しには,組織の存亡がかかっている
事故・失敗の多発→情報化のために隠蔽できない時代へ
機械モデルから生物モデルへ

生物進化から学べること


個人の無力感が増大
多様性を取り込むメカニズム
 機能の重複→独自の機能へ:脊椎,遺伝子
2.1 個人の働きかけは社会に影響するか?
明治大学 阪井和男
31
2.1 個人の働きかけは社会に影響するか?

個人=ゆらぎ


個人の社会への働きかけは,社会の中に起こったゆらぎみたいなもの。
ゆらぎ→社会?

ゆらぎが社会全体のシステムに影響を与えるほど成長することはあるか?
あなたは次のどれが当てはまると思うか?
 No


それなり


ゆらぎはゆらぎのままであり,システム全体から見ると埃みたいなもの。
→社会は無安定である。
Yes


ゆらぎはシステム全体に拡大しない。
→社会は安定である。
ゆらぎはシステム全体に拡大する。
→社会は不安定である。
安定性のシミュレーション?
明治大学 阪井和男
32
車の運転によるアナロジー

安定な車:

ハンドルがブレても,車の進路がブレない。



ゆらぎが減衰
無安定な車:

ハンドルがブレると,車の進路がちょっとだけずれる。



ブレないときの進路と,そう違わない。
ゆらぎはゆらぎのまま
不安定な車:

ハンドルがブレると,その向きに車の進路が大きくブレる。



ブレないときの進路に,引き込まれる。
ブレないときの進路とは,大きく変わってしまう。
ゆらぎは全体に及ぶ
一目でわかる安定性?
明治大学 阪井和男
33
一目でわかる安定性
ハンドルのブレで進路がブレるか?
 車の運転モデル
進路←車(ハンドル)
 人(進路)→ハンドル
ひとつながりにして
 進路←車(人(進路))
まとめて
 進路←自動車(進路)

ブレの有無で進路がどうなるか?
 進路?←自動車(進路+ブレ)


安定な自動車の進路?
明治大学 阪井和男
34
安定な自動車の進路
進路←安定な自動車(進路)

ブレ無
ブレ有


1
3%のブレ
進路はブレない
ゆらぎは減衰
進路
0.8
0.6
0.4
0.2

0
0
5
10
無安定な自動車の
進路?
サイクル
明治大学 阪井和男
35
無安定な自動車の進路
進路←無安定な自動車(進路)

ブレ無
ブレ有


1
3%のブレ
進路は少しブレる
ゆらぎはそのまま
進路
0.8
0.6
0.4
0.2

0
0
5
10
不安定な自動車の
進路?
サイクル
明治大学 阪井和男
36
不安定な自動車の進路
進路←不安定な自動車(進路)

運転が非常に困難
3%のブレ
進路は大きくブレる
ゆらぎが全体に及ぶ

無安定ってなに?

ブレ無
ブレ有


1
進路
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
5
10
サイクル
明治大学 阪井和男
37
無安定ってなに?

ブレはやっぱりブレってこと
 進路?←自動車(進路+ブレ)
 荒っぽいけど、簡単にしたい!
 進路?=自動車(進路)+自動車(ブレ)
 つまり
 自動車(進路+ブレ)
=自動車(進路)+自動車(ブレ)
 どの自動車にも成り立つか?
 安定な自動車
×
 無安定な自動車
○
 不安定な自動車
×

要素に還元できるということ?
明治大学 阪井和男
38
要素に還元できるということ

デカルトの要素還元論
全体は部分の和からなるとすると,
全体の効果は,部分の効果を別々に調べ,
あとで和をとったものに等しい。
 全体とは,
 全体=部分ア+部分イ
 全体の効果は,
 効果(全体)=効果(部分ア+部分イ)
 それぞれの効果の和だから,
 効果(部分ア+部分イ)=効果(部分ア)+効果(部分イ)
 結局,
 効果(全体)=効果(部分ア)+効果(部分イ)

要素還元論の神話?
明治大学 阪井和男
39
要素還元論の神話
複雑なものは,部分に分け別々に調べてから,まとめればよい。

生物に使えるか?



生物の特徴



生物=骨格+筋肉+内臓+神経+血管+・・・
ばらばらにしたら,死んでしまう → 使えない!
要素がそれぞれ密接に関係している!
生物の活動は,相手があれば,引き込みや反発がある。
要素還元論は無生物の世界の話!



引き込みも反発もない世界
相手がいても関係ない
高校までに習った数学が使える世界



無安定の便利な道具がいっぱいある!
線形代数
ゆらぎが生かせる世界とは?
明治大学 阪井和男
40
ゆらぎが生かせる世界とは

安定性のまとめ

安定


無安定


厳密に計算できるため予測可能
不安定


生物によく見られる引き込み現象
発散か崩壊,カオスかのいずれか
社会のゆらぎ
もし「社会に不安定性がある」ならば,
それを生かすとゆらぎでも全体に影響
 個人でも社会を変えることができる!


個人の努力が報われる可能性
→ 「勤勉」に努力しましょ!
ブレークスルーのレベル?
明治大学 阪井和男
41
ブレークスルーのレベル

人間(ミクロ)のブレークスルー

発見,創造

認識と行動の変化


組織(メゾ)のブレークスルー

戦略の創造,組織文化の変容

組織の行動様式の変化


組織は「人間の活動」の集合
社会(マクロ)のブレークスルー

パラダイム転換

社会における認識の変化


人間の思考(問題解決,意思決定)がベース
 スキーマ=人間の思考の枠組
パラダイム=科学史上一時代の支配的なものの見方の枠組
 トーマス・クーン:「科学革命の構造」(みすず書房)
3. ブレークスルーはいかにもたらされるか?
明治大学 阪井和男
42
3. ブレークスルーはいかにもたらされるか?
3.1 問題解決のプロセス
1.
「問題発生」

2.


見過ごし・やり過ごし
[A] やってはみた
問題を捉え認識する

未解決・不十分な解決
[B] 勤勉に工夫
問題解決手法を発掘・発
見・開発して適用する

戦略の決定


問題が発生する
「問題解決」

三つのパス
[F] 放置する
「問題定義」

3.


見事な解決→飛躍的発展
ブレークスルー
「問題発生」→「問題定義」
戦術の決定

「問題定義」→「問題解決」

図:問題解決のプロセス?
明治大学 阪井和男
43
図:問題解決のプロセス
問題
問題定義
戦略の決定
問題解決
戦術の決定
見過ごし
やり過ごし
F
A
問題が消え
てしまった!

三つのパスを,
よく用いられる順
に並べよ。

問題解決の三つ
のパス?
未解決
不十分な解決
a
a
B
b
解
決
b b b
ブ
問題解決手法
a:
a
b:
b
明治大学 阪井和男
レ
ー
ク
ス
ル
ー
飛
躍
的
発
展
44
問題解決の三つのパス

パスF:日常的に発生
「問題」→「放置する」→「見過ごし・やり過ごし」→問題が消えてしまった
 やり過ごし比率=53.4%


日本企業延べ51社7903人のホワイトカラー(1991~1999年)
「指示が出されても,やり過ごしているうちに,立ち消えになることがある」
人材の育成と選別の機能


上司の指示を黙々とこなすだけではよい上司になれない
優先順位をつけると不可避的に発生
組織の機能的破綻を回避する機能
(高橋伸夫,2000年,p. 22)


パスA:よくあるケース
「問題」→「やってはみた」→「未解決・不十分な解決」→不満が残る

パスB:ブレークスルーにいたる珍しいケース
「問題」→「勤勉に工夫」→「見事な解決」→飛躍的な発展

ブレークスルー・パスの探索?
明治大学 阪井和男
45
ブレークスルー・パスの探索

必須条件


「戦略」と「戦術」の両方の意思決定に成功
もし「パスA」で行き詰まったら?

後方探索:逆に戻る
1.
2.
3.

前方探索:ひたすら前へ
1.
2.
3.

アンラーニングして戻り,
新しく問題を捉えなおし,
新戦略を決定しなおす。
思考の発散・収束モデルを応用し,
複数の多様な戦略を熟慮し煮詰めて,
新戦略を発見する。
後方探索の問題点?
明治大学 阪井和男
46
後方探索の問題点

アンラーニングができるか?
スキーマを消し去るのは不可能!
 「問題定義」は問題の捉え方=認識の仕方
 認知枠組みとしての「スキーマ」による無意識的なもの
 脳の生理的変化による記憶の機能と対応

どの戦略を選べばよいかわからない!
あなたが決めよ。でも,迷ってしまう!
 合理的意思決定者が仮定されている
 戦略は非合理的に決定されたり
 選択の余地なく偶然決まることが多い。


英国病時代のコンサルティング・ミス
前方探索の問題点?
明治大学 阪井和男
47
前方探索の問題点
 衆知を集めて考え抜けるか?
考え抜くのはつらくて疲れる!
 工夫し考え抜く作業は,前頭前野を使い倒すため,猛烈にくたび
れる。
 飛び移るべき新パスは本当にあるのか?
複数の多様な戦略がなければ大変!
 工夫し考え抜いても,必ずしも新しいパスに飛び移れるとは限ら
ない。
 他のスキーマに飛び移れる条件がわからない。

前方探索の利点
 おのずと決まる。迷うな!

前方探索のイメージ?
明治大学 阪井和男
48
前方探索のイメージ

思考の発散・収束
モデルとの類似性
(印南一路,2002
年,第11章,p.
302)
Aスキーマ
収束
発散
Bスキーマ

3.2 自動装置として
のスキーマ?
時間
明治大学 阪井和男
49
3.2 自動装置としてのスキーマ

認識・理解・思考するためには
 枠組(スキーマ)が必要!
人間はスキーマで自動的に考えている
ということは・・・

 スキーマがなければ,理解できない?
実験してみよう!
 次の文を読んでください.
→スキーマとテキスト理解
明治大学 阪井和男
50
クイズ:スキーマとテキスト理解








その手順は全く簡単である。
まず、ものをいくつかのグループに分ける。もちろん、ひとまとめでもよい
が。それはやらなければならないものの量による。
もし設備がないためどこかよそに行かなければならない場合には、それ
が次の段階となる。そうでない場合は、準備はかなりよく整ったことにな
る。
重要なことはやりすぎないことである。すなわち、一度に多くやりすぎるよ
りも少なすぎる方がよい。この重要性はすぐにはわからないかもしれない
が。めんどうなことはすぐに起こりやすいのだ。その上失敗は高価なもの
につく。
最初は、その全体の手順は複雑に思えるかもしれない。しかし、すぐにそ
れは生活のほんの一部になるであろう。
近い将来この仕事の必要性がなくなるとは予想しにくいが、誰も何とも言
えない。
その手順がすべて終わったあとで、ものを再びいくつかのグループに分
けて整理する。次にそれらは適当な場所にしまわれる。
結局、それらは再び使用され、その全体のサイクルは繰り返されることに
なる。とにかくも、それは生活の一部である。
(Bransford & Johnson, 1973) (印南一路,2002年,第3章,pp. 97-98)から引用
明治大学 阪井和男
51
文章のテーマ

洗濯
明治大学 阪井和男
52
スキーマによる理解

なぜ理解できたか?
 「洗濯」というテーマで,文脈スキーマが活性化
 抽象的な文章に意味が付与

つまり
 文脈スキーマが活性化されないと,理解できない

スキーマの特徴
 無意識に活発に使われる
 スキーマを使っていることを意識できない

スキーマの機能
 情報に意味を与える
 まさに生命の機能
→クイズ:スキーマと文脈
明治大学 阪井和男
53
クイズ:スキーマと文脈




急な勾配の坂道で、重い荷車を引っぱり上げようと
している人がいる。もう一人が後からその荷車を押
し上げるのを手伝っている。
前で車を引いている人に、「うしろで車を押している
のはあなたの息子さんですか」ときくと、「そうです」
と答える。
うしろに回り、車を押している人に、「前で車を引い
ているのはあなたのお父さんですか」ときくと、「違い
ます」と答えた。
二人の返事には嘘はない。二人の関係は?
(印南一路,2002年,第3章,p. 100)から引用
明治大学 阪井和男
54
クイズの答スキーマと文脈

答
 お母さん

なぜ理解しづらいか?
文脈スキーマが活性化
 状況

急な勾配の坂道で、
重い荷物を引っぱり上げようとしている
 先入観

引っぱっているのは男性である
→スキーマの働き
明治大学 阪井和男
55
クイズ:スクリプト
部屋に入ると,低めのテーブルの上にメニューが
あった。本が二冊おいてあった。壁には電話がか
かっていた。きょうの人数は六人である。全員が席
についた。一人の男性が本を配った。受け取った二
人の男性は,中を見ずにとなりの人に渡した。もう
一人の女性は,さっそく熱心に読み始めた。メ
ニューを手にとった男性は一目見て,となりの女性
に渡した。・・・
(市川伸一,1997年,pp. 138-139)
明治大学 阪井和男
56
クイズの答:スクリプト
明治大学 阪井和男
57
カラオケ・スクリプト
スクリプト名:カラオケ
大道具:テーブル,長イス,カラオケ機器
小道具:マイク,選曲リモコン,曲目リス
ト,メニュー,電話
登場人物:客,ウェイター(またはウェイ
トレス),受付係(兼レジ係)
呼び出し条件:客は複数で仲がよい。歌
が好き。酒がはいっている。
結果:客のお金は減る。客は満足する。
場面1:入店
客が店に入る
あいているかを受付係に聞く
ウェイターが客を部屋に案内する
場面2:入室
客が部屋に入る
席につく
メニューを見る
選曲リストを見る
電話で飲み物などを注文する
場面3:カラオケの遂行
選曲リストを客の間でまわす
リモコンで選曲する
マイクで歌う
拍手をする
ウェイターが飲み物などをもってくる
注意事項:他者と同じ歌を選ばない
全員が歌う
場面4:退室
電話がなる(終了時刻の確認)
注意事項:延長のときは,場面3に戻る
あわてて,曲を追加する
席を立つ
部屋を出る
場面5:退店
レジ係にお金を払う
店を出る
注意事項:全員,ハレバレとした表情で
(市川伸一,1997年,pp. 138-139)
明治大学 阪井和男
58
図:ネッカーの立方体
Necker(1832)
明治大学 阪井和男
59
図:二つの解釈
明治大学 阪井和男
60
スキーマの働き

この図は何か?
顔


目がひとつしかない
鼻がひょろ長い
 標準的な顔スキーマがある

見ても見えない
 はじめて目が見えた人
 先天性盲患者の開眼手術後
 月や鏡に映った像が「見えない」
 視覚的世界のスキーマがない
 触覚的世界のスキーマしかない
(印南一路,2002年,第3章,pp. 96-97)から引用

スキーマの機能と逆機能?
明治大学 阪井和男
61
スキーマの機能と逆機能

スキーマの機能

意味付与効果


学習効果


使えば使うほど強化される ← 硬直化現象
スキーマの逆機能

見落とし効果


情報に意味を与える ← 引き込み現象
硬直化によって,それ以外の意味を見落とす
スキーマの進化
いつも新しいスキーマを作り続ける努力が必要
 多様性を取り込むメカニズムが必要


スキーマの重複? ← 生物進化
スキーマとブレークスルー?
明治大学 阪井和男
62
スキーマとブレークスルー

スキーマの発散収束モデル

ブレークスルー


思考の発散収束モデル
発見・創造
自己変革・革新



スキーマの再構成
Aスキーマ
プロセス案
1.
2.
3.
4.
収束
安定な旧スキーマ
旧スキーマの発散
新スキーマの発見
新スキーマへの安定化
発散
Bスキーマ
時間

(印南一路,2002年,第11章,p. 302)
人間の問題解決と意思決定?
明治大学 阪井和男
63
人間の問題解決と意思決定

問題解決技法の分類*
問題解決
技法
発散技法
収束技法
発散思考を用いて
収束思考を用いて出した
事実やアイデアを出すための思考法
自由連想法
事実やアイデアをまとめあげる技法
類比連想法
AHP
Analytic Hierarchy Process
階層分析法
ブレーンストーミング
ブレーンライティング
時系列法
PERT法
強制連想法
*高橋誠による分類に小棹理子が加筆

因果法
因果分析法
特性要因図
帰納法
KJ法
思考の発散収束モデル?
明治大学 阪井和男
64
思考の発散収束モデル
思考の発散
Aスキーマ
批判的・合理的思考による説得
権限による選択
合意形成・交渉
オープンコミュニケーション
評価の一時停止
思考の収束
思考スタイルの多様性
Bスキーマ
※印南一路(2002年,第11章,p. 302)をもとに修正。

思考の発散と収束のプロセスを直接観察できるか?

Yes! → 企業組織における戦略行動の推移

思考という活動を表すモデルはあるか?

Yes! → スキーマモデル
4. 組織文化はいかに創発されるか?

明治大学 阪井和男
65
4. 組織文化はいかに創発されるか?

企業活動のブレークスルー
 企業活動


環境変化への適応 → 戦略行動
戦略行動の質的変化
Aパターン → 転換点 →Bパターン
(劇的な環境変化はない)
 企業組織の進化
 自発的な組織文化の変容
 問題意識


転換点の前後でゆらぎはあるか?
転換はどんなメカニズムでなされるか?
→先行研究との対比
明治大学 阪井和男
66
先行研究との対比

企業の事例研究
 桑田耕太郎(1988)

組織文化の転換点でゆらぎはない・・・?
 阪井和男(2002)


組織文化の転換点でゆらぎがある!
企業組織の進化
 野中郁次郎(1985)

進化は,創造的なもので,単に適応的なものではない・・・?
 阪井和男(2002)

進化は,適応行動の積み重ねで,自己超越的に創造される!
→何をしたいか?
明治大学 阪井和男
67
何を示したいか?
企業の戦略行動を支配する数理モデルを構築
 戦略行動
 組織文化が転換点で変容
「組織文化は,学習につぐ学習によって結果的に変容を遂げる」
(「戦略行動と組織のダイナミクス」,桑田,1988)
面白くて優れた分析!

数理モデル
 PDPスキーマモデルにならう
 ボトムアップ的に方略スキーマモデルを構築
 内在するカオス機構で行動特性が遷移
挙動が定性的に一致!
→企業A社のプロファイル
明治大学 阪井和男
68
企業A社のプロファイル
A社(桑田,1988)
戦前,戦後を通じて
我が国を代表する企業の1つ
2. 事業内容は,
硝子・化学・セラミックス・エレクトロニクス等
3. 長い歴史を誇りながら
なお革新的企業として一般に高い評価
次の6つの属性で分析…
1.
→戦略行動の属性
明治大学 阪井和男
69
戦略行動の属性
1.
「事業領域」:

2.
「既存事業との関連性」:

3.
受身-外部企業からの依頼・副産物の有効利用
積極-自ら事業機会を開拓
「技術」:

6.
川上,川下
「事業機会」:


5.
垂直-既存事業の素材・工程の内部化,派生-既存技術の高度化,新規
「製品市場」

4.
G-硝子,CR-セラミックス,CH-化学,EL-エレクトロニクス,O-その他,
L-ライセンス,BE-バックワード・エンジニアリング,C-共同開発,O-自社開発
「国産化」:

Y-Yes,N-No (桑田,1988)
戦略行動はこれらの属性でどう特徴付けられるか?
→表:A社の戦略行動の展開(抜粋)
明治大学 阪井和男
70
表:A社の戦略行動の展開(抜粋)
戦略
行動
1
G
C
R
C
H
E
L
O
垂
直
派
生
◎
2
◎
◎
◎
◎
5
◎
◎
◎
6
◎
◎
7
◎
◎
8
◎
9
10
新
規
◎
◎
3
4
既存事業
との関連
事業領域
◎
◎
◎
◎
明治大学 阪井和男
◎
71
表:A社の戦略行動の展開
戦略行動
1
事業領域
G
CH
EL
O
垂直
派生
◎
2
◎
3
4
CR
既存事業との関連
◎
新規
川上
◎
◎
川下
事業機会
受身
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
8
◎
◎
◎
◎
15
17
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
20
21
◎
◎
○
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
?
◎
◎
?
◎
◎
○
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
○
◎
◎
18
19
◎
◎
16
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
7
N
◎
◎
◎
14
Y
◎
◎
13
O
◎
◎
◎
◎
C
◎
◎
12
◎
BE
◎
6
11
L
◎
◎
10
積極
国産化
◎
◎
9
技術
◎
◎
5
製品市場
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
(桑田,1988,p. 49,表1から修正して引用)
明治大学 阪井和男
◎
◎
◎
◎
72
転換点の検証
 戦略行動13は転換点か?
「事業領域」と「既存事業との関連」
↓
遷移図作成
 グラフが分割できるか?
→図:A社の戦略行動の遷移図
明治大学 阪井和男
73
図:A社の戦略行動の遷移図
4
既存事業との関連
戦略行動1
戦略行動13
3
2
1
0
0
1
2
3
4
5
6
事業領域
既存事業との関連:1-垂直,2-派生,3-新規
事業領域:1-硝子,2-セラミックス,3-化学,4エレクトロニクス,5-その他
明治大学 阪井和男
74
転換点の観察

戦略行動13にいたる意思決定過程
 秩序だった判断の連続
「驚くべきことに
そこには『ゆらぎ』も『突出』もない
非常に当たり前の,
A社として『自然』な過程を経て
液晶への進出が決定された」(桑田,1988)
 既存の組織文化にのっとっている
→方略スキーマを構築
明治大学 阪井和男
75
方略スキーマ

二つのパターンで構成

1.
消極型と積極型
二つのパターンに分類

Aパターン


Bパターン

2.
消極型:従来戦略 → Aスキーマ
積極型:新戦略 → Bスキーマ
ポイント化 → 活性度


◎:1ポイント
○,?:0.5ポイント
→表:方略スキーマのカテゴリー
明治大学 阪井和男
76
表:方略スキーマのカテゴリー
事業領域
Aスキーマ
Bスキーマ
G
EL
CR
O
CH
既存事業
との関連
垂直
製品市場
川上
川下
事業機会
受身
積極
L
C
BE
O
Y
N
技術
国産化
新規
派生
明治大学 阪井和男
77
表:A社の戦略行動の方略スキーマ(抜粋)
戦略
行動
G
スキーマ
1
C
R
C
H
E
L
A
O
垂
直
B
派
生
A
1
1
3
1
1
1
1
5
1
1
1
6
1
1
7
1
1
8
1
9
10
新
規
B
1
2
4
既存事業
との関連
事業領域
1
1
1
1
明治大学 阪井和男
1
78
表:A社の戦略行動の方略スキーマ
既存事業
との関連
事業領域
戦略行動
G
スキーマ
1
CH
EL
A
O
垂直
B
派生
A
1
2
1
3
4
CR
1
事業
機会
新規
川上
川下
受身
積極
B
A
B
A
B
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
8
1
1
1
1
17
19
1
1
1
1
1
1
1
1
0.5
1
1
1
1
1
1
1
0.5
1
1
0.5
1
1
0.5
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
0.5
1
1
20
21
1
1
18
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
16
1
1
1
1
B
1
7
15
A
1
1
14
1
N
1
1
13
B
Y
1
1
1
A
O
1
1
12
C
1
6
11
BE
1
1
10
L
国産化
1
1
9
技術
1
1
5
製品
市場
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
明治大学 阪井和男
1
1
1
1
79
2スキーマへの集約

各属性ごとにABの二つあれば十分
→ スキーマごとにまとめる

例
 事業領域
G + CR + CH → A
 EL + O
→ B

→表:A社の戦略行動の方略スキーマ(抜粋)
明治大学 阪井和男
80
表:A社の戦略行動の方略スキーマ(抜粋)
戦略
行動
既存事業
との関連
事業領域
スキーマ
A
1
1
2
1
1
3
1
1
4
1
1
5
1
1
6
1
1
7
1
1
8
1
9
1
10
B
A
B
1
1
1
1
明治大学 阪井和男
1
81
表:A社の戦略行動の方略スキーマ
戦略行動
事業領域
スキーマ
A
1
1
2
1
1
1
3
1
1
1
4
1
1
5
1
1
1
1
1
1
6
1
1
1
1
1
1
7
1
1
1
1
1
1
8
1
1
1
1
9
1
0.5
1
1
10
B
既存事業との関連
A
製品市場
事業機会
B
A
A
1
1
B
1
1
1
1
1
1
1
11
1
1
12
1
1
0.5
1
1
1
国産化
B
A
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
B
1
A
B
1
0.5
1
1
0.5
技術
1
1
0.5
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
13
1
1
14
1
1
15
1
1
16
1
1
17
1
1
1
1
1
1
18
1
1
1
1
1
1
19
1
1
1
1
1
1
20
1
1
1
1
1
21
1
1
1
1
1
1
1
1
1
明治大学 阪井和男
1
1
1
1
82
方略スキーマモデル

原型

戦略行動パターンのダイナミクスを表す


各セル=エージェントの活性度
自由度=12


6つの属性×2つのスキーマ
簡略化

相対スキーマ活性度
1.
平均活性度

2.
スキーマごとの属性平均
相対活性度

平均活性度の相対差
→表:A社の戦略行動の方略スキーマの平均活性度
明治大学 阪井和男
83
表:A社の戦略行動の方略スキーマの平均活性度
戦略行動
平均活性度
平均活性度差
<A>
<B>
<A>-<B>
1
0.666666667
0.333333333
0.333333333
2
1
0
1
3
1
0
1
4
0.666666667
0.333333333
0.333333333
5
1
0
1
6
1
0
1
7
1
0
1
8
0.666666667
0.333333333
0.333333333
9
0.916666667
0
0.916666667
10
0.083333333
0.583333333
-0.5
11
1
0.083333333
0.916666667
12
0.5
0.583333333
-0.083333333
13
0
1
-1
14
0.166666667
0.833333333
-0.666666667
15
0.166666667
0.833333333
-0.666666667
16
0.666666667
0.333333333
0.333333333
17
0
1
-1
18
0
1
-1
19
0
1
-1
20
0.166666667
0.833333333
-0.666666667
21
0
1
-1
明治大学 阪井和男
84
図:戦略行動の相対スキーマ活性度
不安定化
<A>-<B>
1
0
0
10
20
-1
戦略行動(時系列)
明治大学 阪井和男
安定化
85
相対方略スキーマから分かること
1.
2.
戦略行動には,自発的なゆらぎがある
転換点の直前に,ゆらぎが大きくなる

3.
前駆的な不安定化
転換点の直後で,急速にゆらぎが小さくなる

遷移後の安定化
数理モデルで再現したい!
→表:A社の戦略行動の方略スキーマ
明治大学 阪井和男
86
表:A社の戦略行動の方略スキーマモデル
戦略行動
事業領域
スキーマ
A
1
1
2
1
1
1
3
1
1
1
4
1
1
5
1
1
1
1
1
1
6
1
1
1
1
1
1
7
1
1
1
1
1
1
8
1
1
1
1
9
1
0.5
1
1
10
B
既存事業との関連
A
製品市場
事業機会
B
A
A
1
1
1
1
1
1
1
1
1
11
1
1
12
1
1
B
0.5
1
1
1
国産化
B
A
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
B
1
A
B
1
0.5
1
1
0.5
技術
1
1
0.5
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
13
1
1
14
1
1
15
1
1
16
1
1
17
1
1
1
1
1
1
18
1
1
1
1
1
1
19
1
1
1
1
1
1
20
1
1
1
1
1
21
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
明治大学 阪井和男
1
1
87
ダイナミクスの特徴

転換点以前
 Aが目立つ
 Aユニットが揃いたがる
 A同士は興奮→Bは抑制

転換点以降
 Bが目立つ
 Bユニットも揃いたがる
 Bが興奮→Aは抑制
→方略スキーマモデル構築のレシピ
明治大学 阪井和男
88
方略スキーマモデル構築のレシピ(1)
1.
スキーマの定義

方略スキーマは, 2スキーマ(A,B)から構成

2.
二つの組織文化に対応
エージェントの定義

各スキーマは,6個のエージェントからなる


エージェント総数12個
(Aスキーマ6個,Bスキーマ6個)
各エージェントは,活性度という力学的自由度をも
つ

エージェント活性度 ai(t) i=1~12
→表:スキーマとエージェントの定義
明治大学 阪井和男
89
表:スキーマとユニットの定義
Aスキーマ
属性
活性度
Bスキーマ
属性
活性度
事業領域A
a1 (t )
事業領域B
a7 (t )
既存事業A
a2 (t )
既存事業B
a8 (t )
製品市場A
a3 (t )
製品市場B
a9 (t )
事業機会A
a4 (t )
事業機会B
a10 (t )
技術A
a5 (t )
技術B
a11 (t )
国産化A
a6 (t )
国産化B
a12 (t )
明治大学 阪井和男
90
方略スキーマモデル構築のレシピ(2)
1.
競合関係の設定

同じ属性に属するエージェントは,抑制しあう

2.
同一属性では,ひとつのエージェントだけが興奮できる
協調関係の設定

同じスキーマに属するエージェントは,興奮しあう

同一スキーマのエージェント同士が興奮しやすい
→図:エージェント間の協調・競合関係
明治大学 阪井和男
91
図:エージェント間の協調・競合関係
事業領域A
競合
w17
a1(t)
w12
協調
事業領域B
w18
a7(t)
w27
w78
協調
既存事業A
w28
既存事業B
a2(t)
競合
a8(t)
・
・
・
・
・
・
・
・
・
明治大学 阪井和男
92
エージェント間の重み

双方向性,無自己結合

総和則
wij  wji , wii  0
w w
j { A}
ij
k {B}
ik
0
周りがすべて興奮すると正負打ち消し合う

対称則
w
j { A}
ij

w
m{B}
km
i {A}, k {B}
Aですべて興奮=Bですべて興奮
明治大学 阪井和男
93
エージェントの活性化ルール

コネクショニスト・モデル
Rummelhart (1986)
neti (t )  0
ai (t 1)  ai (t )  neti (t ) 1  ai (t ) 
neti (t )  0
ai (t 1)  ai (t )  neti (t )  ai (t )

正味の入力
neti (t )   wij a j (t )  biasi
j 周りの影響
方略スキーマモデルの完成!
明治大学 阪井和男
興奮しやすさ
94
図:エージェントの活性化ルール
Activation Rule
a(t+1)=θ(net)+a(t)*(1-|net|)
1
a(t)
net>0
net<0
0.5
0
0
5
10
15
20
t
明治大学 阪井和男
95
組織文化の強化学習

反対称性の仮定
biasA (t )  biasB  b(t )
逆方向にバイアス

強化学習ルール
b(t 1)  1     b(t )    neti (t )
ε>0:強化学習
正味入力に比例し,εの分だけゆっくり学習
周りが興奮させるようなら、もっと興奮させよう
明治大学 阪井和男
96
図:バイアスの強化学習ルール
バイアスの強化学習ルール
b(t+1)=(1-ε)*b(t)+εnet
b(t)
1
0.5
0
0
5
10
t
明治大学 阪井和男
15
20
97
スキーマ内平均場近似
2
a(t ) A   a j (t )
N j { A}
2
a(t ) B   a j (t )
N j {B}

重みの仮定
wAA  wBB  w
N 2
wAB  wBA  
w
N
明治大学 阪井和男
98
新変数の導入
換算相対活性度差
A 1
X (t ) 
a(t) A a(t ) B 
A
 換算バイアス


分岐パラメータ
b(t )
Z (t ) 
A
N 2
A  1
w
2
明治大学 阪井和男
99
平均方略スキーマモデル

二次元写像関数
X (t 1)  F  X (t ), Z (t ) 
F ( X , Z )  AX  1  X  Z    A 1 Z
Z (t 1)  Z (t )    X (t )

1スキーマ近似
F( X , Z ) 
 X (t 1)  AX (t) 1 X (t) 
Z 0, X 0
1次元ロジスティック写像
Aが大きくなれば、カオスになるのは当たり前!
明治大学 阪井和男
100
図:拡張ロジスティック写像のバイアス効果
明治大学 阪井和男
101
図:乗り換え危機の写像力学
明治大学 阪井和男
102
図:自発的なカオス遷移
X(t)
1
0
0
5
10
15
20
-1
t
N=12, w=0.2, b(1)= 0.1, ε=0.04, X(1) = 0.4
明治大学 阪井和男
103
図:理論と実際の時系列
X(t)
1
0
0
5
10
15
20
-1
t
実際
明治大学 阪井和男
理論
104
図:初期値敏感性
X(t)
1
0
0
5
10
15
20
-1
t
X(1)=0.4
明治大学 阪井和男
X(1)=0.41
105
図:長期変動
X(t)
1
0
0
20
40
60
80
100
-1
t
X(t)
明治大学 阪井和男
Z(t)
106
まとめ(1)
企業の戦略行動を方略スキーマモデルで説明
 方略スキーマモデル

3パラメータ,2初期値
1.
エージェント数:N
•
2.
3.
4.
5.
固定値(戦略行動の分析から自動的に決まる)
エージェント間重み:w
学習効率:ε
初期エージェント活性度:X(1)
初期バイアス:b(1)
明治大学 阪井和男
107
まとめ(2)
平均方略スキーマモデル→定性的に一致
 自発的な揺らぎ
 方略スキーマモデルに内在するカオス機構

前駆的な不安定化
 既存文化の強化学習によるカオス化

遷移
 カオス的遷移(乗り換え危機)による新アトラクタ発見
Yamaguchi & Sakai (1983) `Transfer Crisis’

遷移後の安定化
 未強化の安定な新アトラクタ

不安定性はどのようにもたらされるか?
明治大学 阪井和男
108
不安定性はどのようにもたらされるか

学習効率εによる強化学習

前提



環境変化に対する勤勉な努力を一貫して続ける
同じ戦略を強化することによって変化に適応
シナリオ
1.
2.
適応すればするほどスキーマが不安定化
スキーマ内の戦略行動がカオス化


3.
カオス的探索によって他のアトラクタを発見


カオスアトラクタが成長
他のアトラクタのベイスンと重なる
他のアトラクタへ不可逆的にジャンプ
転換点で何がおきたか?
明治大学 阪井和男
109
転換点で何が起きたか?

不可逆的な進化
 トランペット型オープニン
グの連鎖としての進化
(野中郁次郎:「企業進化論」,第4章,p.161)

戦略の創発
 戦略=パラダイム
(Peter Earl, 1984)
 パラダイム変革
 自発的・自己超越的に進化
 メカニズム
 ゆらぎを伴うカオス的遷移
明治大学 阪井和男
110
桑田説の解釈

戦略行動はどう決定されるか


方略スキーマモデルのどのユニットが興奮するか
組織文化は何に対応するか
×If 組織文化=組織の記憶
then ユニット間の重み「ビジネスレベルの知識」
×If 組織文化=戦略の選択嗜好
then ユニットへのバイアスバイアスの時間変化??
○If 組織文化=釈迦の手のひら
then ユニットの運動領域=(カオス)アトラクタ

「蒸留過程」は何に対応するか
「ビジネスレベルの知識が組織文化に変換される過程」(桑田,1988)


周りのユニットからの漸次的なバイアス強化学習
「前と同じ戦略を選びやすくなる」という効果
明治大学 阪井和男
111
スキーマ理論の適用範囲
実は、同じ数理モデル・・・
 方略スキーマモデル
組織の認知モデル(阪井,2002)
 対象:企業の戦略行動

拡張PDPスキーマモデル
人間の認知モデル(Sakai et al., 1995)
 対象:ネッカー立方体の視覚認知の反転現象
明治大学 阪井和男
112
スキーマ理論の対応関係
時間スケールが3億倍違うのに・・・
 方略スキーマモデル
 対象:企業の戦略行動
 単位時間:1年のorder

拡張PDPスキーマモデル
 対象:ネッカー立方体の視覚認知反転
 単位時間:0.1秒のorder
3.15×108倍(約3億倍)の時間スケールの違い
明治大学 阪井和男
113
今後の発展

カオスだと分かって何がうれしい?
理論ができたので・・・
1. 組織文化の変容を促進する方法が判明!


2.
組織文化がいつ変容するか予測可能?


学習効率εを高める
スキーマ構成力wを強くする
変容前の戦略行動から、学習効率εを推定
人間の認知モデルとの関係は?
方略スキーマモデルはメゾスコピックな現象論
 ミクロな人間のスキーマモデルからどう構築?
5. ブレークスルーはマネジメントできるか?


明治大学 阪井和男
114
5. ブレークスルーはマネジメントできるか?

スキーマモデルから得られる知見
(1) アンラーニングという不可能な労苦をせず,既存のスキーマを放棄
しないこと
(2) 強化学習がゆっくりと着実に進んでいるかどうかをチェックすること
(3) メンタルモデルで考え抜いて競合するスキーマが何かを明らかにす
ること

ブレークスルーのマネジメントに対する新提案
[M1] 不惑邁進

既存スキーマ路線の踏襲とアンラーニングの否定
[M2] 勤勉学習

強化学習の着実な進展
[M3] 多様性


統合スキーマの解釈とその明確化
多様性を保持するために?
明治大学 阪井和男
115
多様性を保持するために

スキーマ+メンタルモデル=認知地図
(ハフ,1990年)

スキーマ
 脳の記憶機能
 脳の前頭前野以外に対応
 スキーマだけで,創発が説明された?

メンタルモデル
 脳の理性機能
 前頭前野に対応
 前頭前野は15分程度で疲れる。
 スキーマを修正,構築するときに活動

メンタルモデルはどんな役に立つか?
明治大学 阪井和男
116
メンタルモデルはどんな役に立つか

戦略を創造するプロセスで活躍
 メンタルモデルが企業の盛衰を支配した例
 二つの鉄道会社,ロック・アイランド社とC&NW社の盛衰
25年間(1949年から1973年)
 二社は,はじめは似ていたが対照的な結末
 一方が破産しもう一方は生き残った
 成績不振の原因


当初二社とも:悪天候や政府のプログラム,規制のため
一方の会社の因果地図が変えられた


コストや生産性,経営スタイルの関係に原因がある
必要な変革が行われた
マネジャーの因果地図としてのメンタルモデルの違いが重要
(ミンツバーグ, p.173, (バー・スティムパート・ハフ,1992年) )


6. 創造的な学会活動のために?
明治大学 阪井和男
117
6. 創発的な学会活動のために

まとめにかえて
[M1] 不惑邁進

担当理事制


少人数のチームによる機動性あふれる活動
スキーマがないので,メンタルモデルから出発するしかない。
 コンセンサス形成→オルフェウス・プロセス
[M2] 勤勉学習

ラインの強化

担当理事-運営委員会
[M3] 多様性

スタッフの強化とメンバーの多様性



評議員,フェロー
小中高の教員,大学の教員,学生,院生,企業人・他
オルフェウス・プロセス?
明治大学 阪井和男
118
オルフェウス・プロセス
コンセンサス形成によって意思決定をしながらも,
安易な妥協やつじつま合わせを回避し,
独創的でありながら独善に陥らない決定を下し,
しかも組織の統一感と活力を維持する意思決定方法

オルフェウス室内管弦楽団にちなむ

指揮者のいないオーケストラとして有名(構成員30名弱)
(丸瀬遼,2004年,pp. 113-114)

オルフェウス・プロセスの条件と問題点?
明治大学 阪井和男
119
オルフェウス・プロセスの条件と問題点

条件
1.
2.
3.
4.
5.

人格攻撃をせず,立場を考慮せず,遠慮をせず,そして決して根に
持たない徹底した議論
参加者は,全員が高度な専門知識と,全体への貢献意識を持ってい
る
議論は実践をともないながら進められ,柔軟に変更が加えられていく
結論は誰もが納得できるものか,どうしても意見の割れるときには多
数決などのルール化された方式にしたがって決められ,決して曖昧
のうちには導き出されない
参加者が,このプロセスに対して信頼感を持ち,異論をぶつけ合うこ
とでより良いものが生まれるという信念を共有する
問題点


時間とコストがかかり非効率
大人数組織には向かない
(丸瀬遼,2004年,pp. 113-114)
明治大学 阪井和男
120
参考文献
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
遠藤利彦:『喜怒哀楽の起源(情動の進化論・文化論)』,岩波科学ライブラリー
41,岩波書店 (1996)
オールマン,J. M.:『進化する脳』,養老孟司訳,別冊日経サイエンス133,日経
サイエンス (2001)
国立科学博物館:「はるかなる旅路展」
http://www.kahaku.go.jp/special/past/japanese/ipix/
「第1章 私たちはアフリカで生まれた」を参照。
塩野七生:『すべての道はローマに通ず』,ローマ人の物語 X,新潮社 (2001)
市川伸一:『考えることの科学』,中公新書,中央公論社 (1997)
高橋伸夫:『超企業・組織論(企業を超える組織のダイナミズム)』,有斐閣
(2000)
野中郁次郎:『企業進化論(情報創造のマネジメント)』,日経ビジネス人文庫,日
本経済新聞社,2002年2月(1985年5月に日本経済新聞社から刊行された単行
本の文庫化),(1985)
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