「教室を借りる」から「教室を創る」へ -「夏休み学習ゼミナール」の試み-

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「教室を借りる」から「教室を創る」へ
-「夏休み学習ゼミナール」の試み-
東京大学大学院教育学研究科
日本学術振興会
村山 航
「教育心理学研究」における介入研究
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
その他
調査研究
実験研究
授業介入研究
1
9
9
8
1
9
9
9
2
0
0
0
2
0
0
1
2
0
0
2
2
0
0
3
なぜこんなに少ないのか

そもそも介入することに意義を見出していない
–
介入よりも「メカニズム」「プロセス」自体に興味がある.

「基礎研究の積み重ね=介入への示唆」という信念

やりたいけどやるのが難しい(特に大学院生)
–
質問紙,実験,授業観察から脱却できない

やりたいけどやるのが難しい(特に大学院生)
–
質問紙,実験,授業観察から脱却できない
なぜやるのが難しいか

外部の人に授業をさせてくれる学校は非常に稀
–

教員免許を持たない大学院生だとなおさら
学校との信頼関係が前提
–
大学院生の期間で,そこまでの関係を結ぶのは難しい

こちらの立場としても,気が引ける

たとえ,教室を「借りる」ことができても制約が多い
–
–


たとえ,教室を「借りる」ことができても制約が多い
教室を「借りた」介入研究の限界点

学校のカリキュラム上の制約
–

クラス間で異なった処遇を行うことへの抵抗
–

介入の効果を検出することが難しい
授業自体は教師が行うことになる(ことが多い)
–

進度を無視した単元や「学習方略」などの授業は難しい
少なくとも,教師の監督下で授業を行うことになる
よりベターだと思われる実験的統制も難しい
–
要因の交絡・検出力の低下などで,重要なメカニズム,
因果関係を過大評価/見落とす可能性
発想の転換
学校
大学
発想の転換
2+3=5
5-7=-2
学校
大学
大学=地域のリソースの1つ
(市川, 1998)
「夏休み学習ゼミナール」

地域の中学生(希望者)を夏休みに大学に呼んで,
授業を行う
–
–

参加は無料
地域のリソースとしてのプログラム:「学びのポイントラ
リー」
授業者は主として大学院生
–
–
各院生が,自分の専門を生かした教育プログラム
教育プログラムの効果を検討
教室を「借りた」介入研究の限界点

学校のカリキュラム上の制約
–

クラス間で異なった処遇を行うことへの抵抗
–

介入の効果を検出することが難しい
授業自体は教師が行うことになる(ことが多い)
–

進度を無視した単元や「学習方略」などの授業は難しい
少なくとも,教師の監督下で授業を行うことになる
よりベターだと思われる実験的統制も難しい
–
要因の交絡・検出力の低下などで,重要なメカニズム,
因果関係を過大評価/見落とす可能性
教室を「創る」介入研究のメリット

学校のカリキュラム上の制約
–

クラス間で異なった処遇を行うことへの抵抗
–

介入の効果を検出することが難しい
授業自体は教師が行うことになる(ことが多い)
–

進度を無視した単元や「学習方略」などの授業は難しい
少なくとも,教師の監督下で授業を行うことになる
よりベターだと思われる実験的統制も難しい
–
要因の交絡・検出力の低下などで,重要なメカニズム,
因果関係を過大評価/見落とす可能性
教室を「創る」介入研究のメリット

学校の制約を離れた柔軟な授業作りが可能
–

クラス間で異なった処遇を行うことへの抵抗
–

介入の効果を検出することが難しい
授業自体は教師が行うことになる(ことが多い)
–

教材・教える内容ともに従来の枠に捉われない
少なくとも,教師の監督下で授業を行うことになる
よりベターだと思われる実験的統制も難しい
–
要因の交絡・検出力の低下などで,重要なメカニズム,
因果関係を過大評価/見落とす可能性
教室を「創る」介入研究のメリット

学校の制約を離れた柔軟な授業作りが可能
–

クラス間で異なった処遇を行うこともある程度可能
–

もちろんどのクラスにも質の高い授業をすることが前提
授業自体は教師が行うことになる(ことが多い)
–

教材・教える内容ともに従来の枠に捉われない
少なくとも,教師の監督下で授業を行うことになる
よりベターだと思われる実験的統制も難しい
–
要因の交絡・検出力の低下などで,重要なメカニズム,
因果関係を過大評価/見落とす可能性
教室を「創る」介入研究のメリット

学校の制約を離れた柔軟な授業作りが可能
–

クラス間で異なった処遇を行うこともある程度可能
–

もちろんどのクラスにも質の高い授業をすることが前提
研究者(大学院生)自身が,授業を行うことが可能
–

教材・教える内容ともに従来の枠に捉われない
研究者としての貴重な“教師体験”
よりベターだと思われる実験的統制も難しい
–
要因の交絡・検出力の低下などで,重要なメカニズム,
因果関係を過大評価/見落とす可能性
教室を「創る」介入研究のメリット

学校の制約を離れた柔軟な授業作りが可能
–

クラス間で異なった処遇を行うこともある程度可能
–

もちろんどのクラスにも質の高い授業をすることが前提
研究者(大学院生)自身が,授業を行うことが可能
–

教材・教える内容ともに従来の枠に捉われない
研究者としての貴重な“教師体験”
ある程度の実験的な統制が可能
–
ランダムアサインメントなど,通常の学校では不可能
「夏休み学習ゼミナール」の概要
※ 対象:中学2年,期間:5-7日間,場所:東京大学教育学部
実施時期
2001年夏
2002年夏
2004年春
2004年夏
参加人数
約80人
約140人
約20人
約150人
教科
英語・数学 数学・理科 数学・理科 英語・数学
国語・社会 国語・社会 国語
国語・理科
社会・情報
授業風景
市川(2003):「人に教えること」を通して
理解を深める

授業内容:数学の“順列と組み合わせ”
「人に教える」という活動を通して理解を深める

一斉授業・問題演習のあと,,,

–
–

小グループに分かれて,教え合い活動
各グループには,学校の先生・院生などのアシスタント
単元を通して「勉強のしかた・方法」に焦点
村山(2003):テスト形式が学習方略に
与える影響


授業内容:社会科の“近現代史”
中学2年生80人を3群に無作為配置
–
–
–



空所補充クラス
記述-非添削クラス
記述-添削クラス
毎回の授業後に確認テストを実施
従属変数:方略使用(質問紙)・ノートの分析
テストの点数など,交絡要因をある程度統制
結果
学習方略使用の程度
(最大7点)
6
5
4
3
2
1
空所補充クラス
意味理解方略
暗記方略
記述-非添削クラス 記述-添削クラス
方略使用のクラス間による違い
結果
7
ATI効果
6
暗5
記
4
方
略3
空所補充クラス
記述‐非添削クラス
記述‐添削クラス
2
1
13
18
23
習得目標
習得目標
28
書き込み量(個数)
結果
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
空所補充クラス
記述-非添削クラス 記述-添削クラス
ノートへの書き込み個数のクラス間による違い
授業内容自体の評価
質問項目
平均点(7点満点)とSD
授業自体を楽しむことがで
きた
6.04 (1.01)
学校で同じテーマをやれ
ば,よく理解できると思う
5.71(1.13)
実験授業だからといって質が低いというわけではない
強み

要因の交絡可能性が低い

「毎回のテスト」という場面を設定し,いくつかの変
数を統制することによって,通常の介入研究では
検出しにくかった現象を炙り出した
よくある誤解

「実験授業」:研究だけが目的のようで冷たくみえる
–

先述したように,どのクラスも授業自体の質は高い.また
事前に,授業内容の検討を行うようにしている.
学校現場での介入研究に比べ,生態学的妥当性が
低いのではないか
–
–
“生態学的妥当性”(Neisser, 1978)の意味のはきちがえ(森, 2002)
あくまで「学校での介入に役立つ心理メカニズムの同定・
介入プログラムの提案」を目指すために,いったん枠を離
れているだけ
難しいところ・悩み

参加希望者の偏り
–

実施のためのコスト
–

やはり親が熱心な人が多い
院生への負担が大きい
“授業のダイナミクス”と“統制された実験”のジレンマ
–
–
–
授業に慣れれば慣れるほど見えてくる問題
授業のその場で作られる“学びの機会”をどうするか
授業の流れ・クラスの雰囲気など,こちらが予期せぬ形で,
事態が次々と変化
参考文献
≪夏休み学習ゼミナールについての解説≫
市川伸一 (2004) 学ぶ意欲と学習スキルを育てる 小学館
植木理恵・市川伸一 (印刷中) 大学を地域の学習リソースに -研究者が企画・
実施する実践型アプローチ- 鹿毛雅治(編) 教育心理学の新しいかたち 誠
信書房
≪今日解説した授業について≫
市川伸一 (2003) 大学で開く中学生向けゼミナールの試み 学校臨床研究,
2(1), 87-91.
村山航 (2003) テスト形式が学習方略に与える影響 教育心理学研究, 51, 112.
ご清聴ありがとうございました
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