学力評価への適応と“インフォームドアセスメント”の重要性

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Transcript 学力評価への適応と“インフォームドアセスメント”の重要性

学びを促進する“インフォームドアセスメン
ト”
-学力評価の方向づけ機能に着目して-
東京大学大学院教育学研究科
日本学術振興会
村山航
“学力評価”の機能
従来の視点
学力“測定”機能

日本人の学力は低下したのか?
学力“診断”機能

この学習者の苦手なのはどこなのか?
第三の視点
学習の“方向づけ”機能
本発表の目的と構成
学力評価の方向づけ機能に着目しながら,新し
い評価のあり方について提言する
筆者の研究紹介Ⅰ

学力評価は本当に方向づけ機能があるのか
筆者の研究紹介Ⅱ

“評価の知識(テスト形式スキーマ)”の重要性
“インフォームドアセスメント”の提唱
本発表の目的と構成
学力評価の方向づけ機能に着目しながら,新し
い評価のあり方について提言する
筆者の研究紹介Ⅰ

学力評価は本当に方向づけ機能があるのか
筆者の研究紹介Ⅱ

“評価の知識(テスト形式スキーマ)”の重要性
“インフォームドアセスメント”の提唱
学力評価による学習の方向づけ
古くより議論は存在
福島私立教育会雑誌十七号(明治20年)
“生徒平常の受業皆試験の為に備るが如く一々記憶に収め
置きて所謂復生想像力のみを養ひて構成想像力を使用せず
受動的の能力に富みて発動的の能力に乏しきに至る且之を
施すか為往々疾病を醸ことあり”
学力評価による学習の方向づけ
古くより議論は存在
現代でもあらゆる国で議論が進行

アメリカ(Frederiksen, 1984), 日本(藤澤, 2002), イギリス
(Vernon, 1956), アフリカ(Forbes, 1973), 香港(Cheng,
1999), ニュージーランド(Hayes & Read, 2004), オースト
ラリア(Burrows, 2004)
しかし,系統的な実証研究は見当たらず
(Alderson & Wall, 1993)

テスト期待効果研究:一貫した結果が得られず
本当に方向づけはあるの?
村山 (2003a)
質問紙調査による検討

“理想的だ”と認知されている方略と,“テスト
で点を取るのに役に立つ”と認知されている方
略の,どちらが使われているか
方略のテストへの
有効性の認知
0.52**
実際の
方略使用
0.56**
方略の長期的な
有効性の認知
0.09**
共変量:コスト感
※ 村山(未発表)でも追認
村山 (2003b)
実験授業による検討
学習方略使用の程度
(最大7点)

空所補充型テストを実施したクラスと,記述式テ
ストを実施したクラスで,学習方略が変わるか
*
6
**
5
4
3
2
1
意味理解方略
空所補充クラス
記述-添削クラス
暗記方略
図1 方略使用のクラス間による違い
※ 村山(2004)でも追認
まとめと考察
学力評価による学習の方向づけは確かに
存在する

学力評価を考えるとき,“学習者をよい形に方
向づける”側面を考える必要性
本発表の目的と構成
学力評価の方向づけ機能に着目しながら,新し
い評価のあり方について提言する
筆者の研究紹介Ⅰ

学力評価は本当に方向づけ機能があるのか
筆者の研究紹介Ⅱ

“評価の知識(テスト形式スキーマ)”の重要性
“インフォームドアセスメント”の提唱
素朴な疑問
村山(2003, 2004)の結果


記述式テストは意味理解方略を促進
空所補充型テストは暗記方略を促進
“よいテスト”(高次の認知を測定する評価)
を作れば,学習者の高次の学習方略を必ず
促進するのか?
村山(2005a)
文章読解課題を用いた実験的検討

“暗記より意味理解をした方が点を取りやすい空所
補充型テスト”を実施したときの学習方略を検討
1
0.8
統制群
暗記空所予期
0.6
意味空所予期
暗記が促進!
0.4
0.2
0
-0.2
-0.4
意味理解方略
暗記方略
※ 村山(2005b)でも追認
1つの仮説
“空所補充型テストは暗記が有効である”と
いったテストに関する知識(テスト形式ス
キーマ)が働いたのでは?

学力評価による学習の方向づけにはテストに関
する知識が大きな役割を持っている
同じテストでも,テスト形式スキーマが違うと
学習の方向づけも違ってくる可能性
村山(2005b)
文章読解課題を用いた実験的検討
単純暗記方略の変化得点

テスト形式スキーマの個人差によって,学習
の方向づけの大きさが変わるのかを検討
3
無予期群
意味空所群
2
Interaction, F(1, 27) = 5.07, p <.05
1
0
-1
2
3
4
5
6
7
-2
テスト形式スキーマ得点
※ もう1つの実験でも追認
村山(印刷中)
実験授業による検討

“空所補充型テストは暗記が有効である”という
知識に介入することで,暗記の増大を防げるか
暗記方略
(事後-事
前)
意味理解方略 ノート書き込み
(事後-事前)
(修正平均)
介入群
-0.06
0.20
2.95
統制群
0.19
0.02
1.80
まとめと考察
学力評価による学習の方向づけには“評価に
関する知識”(テスト形式スキーマ)が関与

学力評価だけを考えるのは不十分.学習者のそ
の評価に関する知識にもアプローチする必要性
本発表の目的と構成
学力評価の方向づけ機能に着目しながら,新し
い評価のあり方について提言する
筆者の研究紹介Ⅰ

学力評価は本当に方向づけ機能があるのか
筆者の研究紹介Ⅱ

“評価の知識(テスト形式スキーマ)”の重要性
“インフォームドアセスメント”の提唱
インフォームドアセスメントとは
前節で明らかになったこと

学力評価による学習の方向づけを適切に機
能させるためには,“学習者の評価に対する
知識”にもアプローチする必要性
インフォームドアセスメント(村山, 投稿中)とは
学力評価を実施するときに,その評価の意図や目
的(評価に関する知識)を実施者と受験者の間で
しっかりと共有する評価のあり方
インフォームドアセスメントの意義
近年,“学力評価の方向づけ機能”の再認識
新しい評価(alternative assessment)が学習者を望まし
い形に方向づけるという認識(e.g., Moss, 1992)
しかし!



波及効果(washback effect)研究:新しい学力評価の導
入は意図した効果がみられず(Cheng & Watanabe, 2004)
Fuchs et al.(2000):PAをそのまま導入しても効果なし
Firestone et al.(1998):PAの効果は限定的
ここで重要なのが“評価に関する知識”では?


Fuchs et al.(2000):評価基準を共有するとPAも効果的
Firestone et al.(1998):阻害要因は,教師や生徒が
“PAが何を測っているのか”を理解できなかったこと
Take Home Points
1. 学力評価の新たな可能性:“学習の方向づけ機
能”を視野に入れた学力評価法を開発する必要性
2.“学習を適切に方向づける学力評価”を実現するた
めには,“インフォームドアセスメント”の視点が不可欠
ご清聴ありがとうございました
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