職能資格制度 - 平野光俊研究室

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人材マネジメント応用研究(第7講)
日本型人事管理の制度的叡智
2009年1月17日
平野光俊
2008MBA
1
自動車生産ラインとキャリアシステム
エンジン
ボデー
シャーシ
2008MBA
2
日本的キャリアシステムの特長(1)
よこのキャリア:知的熟練

幅広いOJT(キャリア)による知的熟練の形成






不確実性(普段と違った作業)対処能力→効率性
ハイエク the man on the spot
知的熟練を基にした分業のあり方
→統合方式/擦り合せ型
知的熟練を多くの社員が保有する中厚型の技能分布
ホワイトカラーも同様
日本のホワイトカラーのキャリアの特徴

「幅広い1職能型」あるいは「主+副職能型」
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3
日本的人事管理の特長(2)
たてのキャリア:職能資格制度
知的熟練は昇進・昇格のたてのキャリアによって促進される。
つまり、たてのキャリアが間接的インセンティブ効果(キャリ
ア・コンサーン)となって促進。 日本の多くは職能資格制度。


職能資格制度(qualification system)
会社が認めた職務遂行能力のレベルに応じて資格等級を
設定し,資格に社員を格付けして昇進や給与を決定して
いくシステム」
アメリカは職務等級制度(job grading system)。
職務を必要なスキル,責任,難度などを基に評価して,職
務価値を決め,いくつかの等級を設定し,昇進や給与設
定などの基準にするシステム
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事例:職能資格制度
職能資格
ラインの職位
参与
事業部長
副参与
部長・大型店店長
参事
参事補
中型店店長
副参事
主事
販売課長
主任
副主事
職務遂行能力や知識・技能、経験
などを基にしていくつかの資格等級
を設定し、資格に社員を格付けして、
昇進や賃金決定などを基準とする
制度
・11ランクに層別された正社員とパートタイマー
・1つの資格に対して複数の役職レベルを対応
社員4級
社員3級
「職能資格制度」
担当者
社員2級
非組合員
社員1級
組合員
パートタイマー
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事例:職務等級制度
職務等級表(イメージ):担当している「仕事」の大きさで賃金を決定する
営 業
E S
支社長・本部長
商 品
スタッフ
本部長
本部長
S-5
事業部長
商品部長
スタッフ部長
商品部担当
スタッフ担当
S-4
S-3
店
長
S-2
S-1
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日本的人事管理の特長(3)強い人事部
日本の人事部は、
・一括新卒採用した社員のトレーニング・業績評価・
ジョブローテーションに関わる人事情報を一元的に
集中する。
・よこのキャリア(配転異動)、たてのキャリア(昇進・
昇格)の企画と決定における権限をもつ。
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Simple Firm Model :制度的補完性
労働市場特性
内部組織
法
制
人事管理
・キャリア開発
情報システム
・コーディネーション
・意思決定
・インセンティブ制度
社
会
的
規
範
補完性
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情報システム(コーディネーション)
systemic environment
systemic environment
T1
T2
T1
情報共有
命令
γ1
T2
γ1
γ2
γ2
水平的調整
垂直的調整
集中的情報システム
分権的情報システム
γ 個別環境
環境モニタリング
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双対原理の2つの組織モード
分権化 [情報システム]
水平的調整
I
J firms
DI-CP mode
P
分権化 [人事管理]
幅狭いキャリア形成
職務等級制度
強いライン管理職
集中化 [人事管理]
幅広いキャリア形成
職能資格制度
強い人事部
P
CI-DP mode
A Firms
I:information structure
P:personnel management
I
集権化 [情報システム]
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垂直的調整
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キャリアの幅(異動の範囲)はどの程度が適切か
(2つの効率性)
1.熟練ルーチンの仕事をより早く正確に行うことができる
2.同一の組織内で能力を複合すること(知的熟練)によって仕事の不確実
性に対処することができる。


将来生起する事象についての不確実性が存在しなければ,各個人が完
全にひとつの職能の中の一分野(area)に特化し,特化した個人が,起こ
りうる事態に専門的に対処するという組織化が最善の解となる。しかし不
確実性が存在している(例えば,突然の欠員の発生など)とすれば,職能
間あるいは職能内の隣接した分野について一定程度の知識を修得して
いれば組織内の人員の代替生は高まる。ただし不慣れな職務に配置す
ることは技能修得のための追加的コストが発生する。
経験する職能ないしエリアをどう設計すればよいのかという解は,この不
確実性への対処という効率性の便益から,技能の修得という費用を控除
したときのレントのピークポイントで決定されるべきとなる。
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効率性 (不確実性と異常への対応)
レント
Max
学習と機会コスト
経験する仕事の数
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問題意識と分析視点

問題意識


異動の範囲は知的熟練が生み出す効率性という観点か
ら決定されるのではなく、個人と役割の新しい知識結合を
通じた価値創造の意図のもとに決定されるのではないか
分析視点

職務に要求される役割と個人の持つスキルの関係
スキル
知的熟練
効率性
役割
知識結合
価値創造
人材配置の仕組み
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調査対象企業

対象企業:





大阪と東京の二本社制を敷く食品関係の企業
1947年に創業(一部上場企業)
主な業務内容:食品の生産と販売
従業員数約2400名、売上高約2324億円(2007年)
インタビュー調査対象者


人事部3名
28名の部長・次長クラス
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H社のキャリアパスの特徴(図表参照)


28名のシニアマネジャーのうち、27名は新卒採用
28名中13名の最初の配属が営業部門




係長昇格時:4名が異なる職能へ
課長昇格時:1名が異なる職能へ
部長昇格時:2名が営業部門へ
特定の職能の部署(マーケティング、調達、製品開
発)には新人は配属されていない


営業部門の経験を持つ2名が調達部門
広告と営業部門での経験を持つ人材が製品開発へ配属
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役割とスキルの関係分析



不足(shortage):要求される役割を果たすのに十
分なスキルをまだ持っていない場合
余剰(surplus):要求される役割に対してそれ以上
に個人がスキルを持っている場合
役割とスキルの関係は1対1関係ではない
役割は複数のスキルの束によって達成される
要求される役割
(スキルA:50)
(スキルB:80)
スキルA:余剰
スキルB:不足
個人のスキル
(スキルA:100)
(スキルB:30)
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ギャップ(不足と余剰)がもたらす価値創造

組合せ活用(付加)





キャリアの不連続性から
スキルの不足を補う形で余剰のスキルを活用
余剰のスキル(本来は不要のスキル)を用いて役割を遂行することに
よって知識結合がおき、価値創造が起こる
従来の役割や仕事にはなかった価値を付加するタイプ
B氏の事例




包材の調達部門だったB氏が、これまで円筒型しか
なかった2ℓのペットボトルを角型に業界に先駆けて変更
冷蔵庫の扉の収納スペースにぴったり納まる
B氏は調達部門配属前に、6年間量販店担当の営業
その後、原料調達部門へ異動→包材調達部門へ
自社製品の消費シーンを連想する力(営業)、長期に
取引先と協働するスキル(調達)を組み合わせて価値を生んだ
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ギャップ(不足と余剰)がもたらす価値創造

組み合わせ活用(見直し)





キャリアの不連続性から
スキルの不足を補う形で余剰のスキルを活用
余剰のスキル(本来は不要のスキル)を用いて役割を遂行することによって
知識結合がおき、価値創造が起こる
スキルや知識を役割に付加するのではなく、要求された役割をまったく異な
るやり方で実現する中で生まれる価値
C氏の事例




13年間広告制作業務→製品開発
(H社の主力商品群の担当)
シェアを6割持っており消費者視点で考えず、
プロダクトアウトの視点:対競合対策は価格や
販促の見直しによる対応
商品と消費者のインターフェイスに関する知見や
マーケティングの知識を用いて市場分析を行い、
消費者ニーズに応える商品を開発
市場調査力やコンセプト開発力を活かして、
短期間で新製品を市場投入
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①継続伸張、②付加、③見直し
役割とスキルの関係に注目する分析
 キャリアの不連続性により発生する余剰と不足
 3つの価値創造のタイプ
(①継続伸張(知的熟練)、②付加、③見直し)

①継続伸張(知的熟練)
②付加
組み合わせ活用
③見直し
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ギャップ(不足と余剰)から生まれる価値創造メカニズム
role X(T2)
role X (T1)
①継続伸張
P
組合せ活用
役割に要求される
スキルセット
スキル A : 50
スキル B : 100
②付加 or ③見直し
役割に要求される
スキルセット
スキル A :100
スキル B : 100
added value
succession
S
skill A: 100(過剰)
skill B: 50 (不足)
P
predecessor
successor
S
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ディスカッション①
知識結合装置としてのキャリアシステム




日本的キャリア→補完性の高い仕事への異動によ
る効率性をもたらす(知的熟練論)
補完性の低い仕事への異動は非効率を生んでしま
う
一見非合理に見える補完性の低い仕事への異動が、
価値創造に繋がる
複数の職能を経験する幅広いキャリア形成の仕組
みが新たな価値を生む:知識結合→価値創造
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ディスカッション②:ライン部長と人事部の役割



ライン人事部と人事部の協働はキャリアシステムを解して、企業
内に内部資源の開発・蓄積・活用を継続的に促し、創発的なプロ
セスを経て企業変革がなされるというメカニズムが組織に組み
込まれている
H社の人事管理の特徴(日本型人事管理)
幅広いキャリア形成-職能資格制度-強い人事部
→知識結合とそれに伴う価値創造を従業員に動機付けている
ライン部長と人事部に求められるもの
従業員の信頼獲得(従業員が非連続を受け入れる信頼)
従業員に関する粘着性の高い人事情報の共有
ギャップがもたらす価値の推量力
解決すべきは人事情報の費用問題である。
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ある電機メーカーの事例
(管轄を超える異動において発生する抱え込みと玉石混交人事)
主力であったX事業を縮小し、成長分野のY事業に資源を傾斜
配分することを戦略決定した。本社人事部はそのため100人
の技術者をX事業部からY事業部に異動をかけることとし、X事
業部に人材転出の要請を行った。もちろん一定水準以上の人
材をリクエストした。
その際、人材の供給元であるX事業部人事部はそれまでの使
用経験からその人材の品質をよく知っている。しかし買手であ
る本社人事部およびY事業部はそれを知らない。すなわち個人
情報の非対称性がある。それゆえ、社内の労働市場では品質
の良い人材は抱え込まれる一方、そうでない人材がY事業部に
異動するという事態が生じている。
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人事情報を集めるための2つの種類の費用
1.情報の開示インセンティブに由来する費用
・・・情報の非対称性問題
人事情報を持っている事業部門の管理職が、それを本社人事部に開示すること
に対して、逆インセンティブを持つ事の結果、開示と引き換えに何かを与えるこ
とによってしか、管理職に情報を開示させることができない。その結果
A)引き換えに与えるものが用意できるなら、それが直接の費用となる。
B)引き換えに与えるものが用意できないなら、開示させることはできず、
情報利用の可能性が失われるという費用が生じる。
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人事情報を集めるための2つの種類の費用
2.情報の探索と移転の費用
・・・情報の粘着性問題
人事情報を持っている事業部門の管理職が、たとえそれを本社人事部に開示す
ることに対して、逆インセンティブを持たなくても、本社人事部がその情報を利用
できる状態にするには、情報を得るということに本質的に付随する費用がかかる。
それは
A)個人情報は組織内に分散しているため、その情報に到達するための
費用がかかる。(情報探索費用)
B)かりにそのような情報に到達できたとしても、それは情報を持っている
本人には理解できても、他人には理解できない。つまりその情報を理
解するうえで、特別な能力が必要となるので、その能力を用意する
ための費用がかかる。(情報移転費用)
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日本型人事管理の進化型モデル
I
進化型人事管理
雇用区分の多元化(HRP)
Make or Buy
システム・ショック
分
権
化
・人材タイプの多元化
・マネジメント人材
・社内エキスパート人材
・外部人材
DP
・情報通信技術のデジタル化
・グローバル化
MP 追随
J型
DI-CP
先
行
派生J型
P
MI
分権化
集中化
CI
A型
CI-DP
I:情報システム特性
P:人事管理特性
集
中
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化
技術決定論的帰結としてのシステム変異
補完的帰結としてのシステム変異
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日本型人事管理の進化型
マネジメント人材
社内エキスパート人材
発展させる技能
タイプ
企業特殊総合技能
エキスパート技能を基礎にし
つつ企業特殊総合技能も必要
に応じて発展
トレーニング
幅広いジョブ・ローテーショ
ンによるOJT
幅狭いジョブ・ローテーショ
ンによるOJT
キャリア開発
クロス・ファンクショナル・キャリア
ファンクショナル・キャリア
インセンティブ・システム
役割等級制度
人材配置
内部労働市場における育成配置
人事権
人事部集中
情報の非対称性問
題への対応
情報の粘着性
問題への対応
社内公募制度、社内FA制度、
キャリアァウンセリング
次世代リーダーの選抜・ローテーショ
ンの人事部個別管理
外部人材・非正規労働者の活用
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