QOLと健康較差 - NPO法人日 F会議

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Transcript QOLと健康較差 - NPO法人日 F会議

歯科領域にみられる健康格差と
ヘルスプロモーション
NPO法人日本むし歯予防フッ素推進会議
研修セミナー
2007年9月2日 東京仕事センター
東北大学大学院歯学研究科
国際歯科保健学分野
相田潤
健康の地域格差
がんの標準化死亡比(男、2000年)
(引用、国立がんセンターがん対策情報センター:http://ganjoho.ncc.go.jp/public/statistics/pub/todoufuken.html)
がんの標準化死亡比(女、2000年)
(引用、国立がんセンターがん対策情報センター:http://ganjoho.ncc.go.jp/public/statistics/pub/todoufuken.html)
3歳児う蝕有病者率(2000年)
(%)
(%)
60
50
40
30
20
60-100
50-59.9
40-49.9
30-39.9
20-29.9
0-19.9
(経験的ベイズ推定値)
健康格差は、
今に始まったことではない
健康格差から、社会的決定要因へ
英国政府による健康格差の報告
The Black report (1980) The Acheson report (1998)
社会階層による標準化死亡比の較差とその広がり
社会階層により
死亡比に格差が存在する
(英国。1930-32年のSMRを指標とした)
(Department of Health 1999, UK)
なぜ、社会経済階層間に
健康格差が存在するのか?
偶然?
医療の恩恵が平等でないから?
社会経済背景が健康に影響するから?
英国のSMRの経年推移
(1950-52年を基準の100としている)
Public health act (1875)
(水道供給, 下水処理, 動物処理の管理 )
NHSのスタート
(1948)
死亡率の減少は、
19世紀から始まっていた
死亡率
(百万人当たり)
死亡率
(15歳未満百万人当たり)
死亡率
(15歳未満百万人当たり)
医学の進歩と死亡の減少
結核菌の発見
結核
化学療法
BCG
病原体の発見
予防接種の普及
百日咳
病原体の発見
サルファ剤
はしか
抗ウイルス剤
社会の変化が死亡率の減少に
最も大きな貢献
•
•
•
•
•
居住環境
衛生状態
きれいな水が利用できること
栄養の改善
一世帯人口の減少
(McKeown 1979)
• 医療技術は寿命の延長に17%の貢献
(Tarlov 1996)
ヨーロッパのう蝕の減少には
• フッ化物歯磨剤を含めた社会背景が65%の
貢献
• 歯科医療は3%の貢献
(Nadanovsky and Sheiham 1995)
健康の社会的決定要因
(Social determinants of health)
(Dahlgren G, and Whitehead M in the Acheson Report ,1998)
WHO:Commission on Social
Determinants of Health
日本語版アドレス
http://www.prof-tt-publichealth.com/pdf/solidfacts.pdf
3歳児う蝕の地域差と
社会経済背景の関連
3歳児う蝕有病者率の地域格差
(%、2000年度)
(経験的ベイズ推定値)
(%)
60-100
60
50-59.9
50
40-49.9
40
30-39.9
30
20-29.9
20
0-19.9
相田潤,安藤雄一,青山旬,丹後俊郎,森田学. 経験的ベイズ推定値を用いた市町村
別3歳児う蝕有病者率の地域比較および歯科保健水準との関連. 口腔衛生学会雑
誌.2004.54.566-576
う蝕有病者率と所得
(%)
う
蝕
有
病
者
率
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
200
300
400
500
平均課税対象所得
600
700
(万円)
う蝕の分散に対する説明変数の寄与
寄与 (%)
p値
一人当たりのフッ化物塗布受診回数
0.8 <0.001
一人当たりの歯科保健指導受診回数
0.1
0.262
行政の常勤歯科医師の有無
0.0
0.608
行政の常勤歯科衛生士の有無
0.3
0.288
人口当たりの歯科医師数
0.0
0.846
失業率
1.3 <0.001
学歴
26.0 <0.001
産業構造
2.7 <0.001
合計特殊出生率
7.7 <0.001
一世帯人数
0.7 <0.001
保育園通園者の割合
-0.9
0.002
保健衛生費の割合
0.5
0.152
3歳児歯科健診の受診率
0.2
0.012
合計 39.4 %
Aida J, Ando Y, Aoyama H, Tango T, Morita M.An ecological study on the association of public dental health activities and
sociodemographic characteristics with caries prevalence in Japanese 3-year-old children.Caries Res.2006.40.466-472
3歳児う蝕有病者率と関連のあった変数と
寄与率(%)
保育園通園者の割合
一世帯人数
合計特殊出生率
産業構造
学歴
失業率
フッ化物塗布受診回数
0
5
10
15
20
25
30
(%)
有意でなかった変数: 歯科保健指導受診回数・ 行政の常勤歯科医師の有無
行政の常勤歯科衛生士の有無・ 人口当たりの歯科医師数
健康は社会により決定されるため、
格差が生じる
(近藤克則 検証「健康格差社会」 2007)
社会経済背景
の変化でみた
大人の時点で
の健康指標
Poulton R, Caspi A, Milne BJ, Thomson WM, Taylor A, Sears MR, Moffitt TE. Association between children‘s experience
of socioeconomic disadvantage and adult health: a life-course study. Lancet. 2002 Nov 23;360(9346):1640-5.
なぜ、社会的決定要因が個人
の健康を左右するのか?
(近藤,2006)
歯科疾患の不平等を説明するモデル
ーMaterialist モデルー
– Materialモデル:社会経済的状態により、食物や
医療などの入手しやすさが異なる。所得が大きな
要因。
– Materialistモデル:所得や学歴だけでなく、社会
における個人の立場が重要。
• 定期的歯科受診は、高い階層に多い。
• 砂糖の多い食品は安いことが多い。フルーツ
や野菜の入った食べ物は高い。
Sisson KL.Theoretical explanations for social inequalities in oral health.
Community Dent Oral Epidemiol 2007; 35: 81–88.
―文化・行動モデル―
• 喫煙・飲酒・食生活・口腔清掃といった、保健行
動や文化の中での行動が、社会階層により異な
り、健康格差を引き起こすモデル。
• このモデルは、健康教育による行動変容を起こ
す介入に結びつく。しかし、こうした介入は、SES
の高い層での改善は起こすが、低い層では改善
されず、健康格差を拡大してしまう。行動を決定
する、社会・政治・経済的な文脈を理解し、そこに
働きかけることが必要。
• 保健行動が悪いことを、個人の責任にするので
はなく、個人にそうさせた社会的要因を明らかに
して対策する方向に、変わるべきである。
―心理社会的ストレスモデル―
• 社会階層の低い人々では様々なストレスが
多い。ストレスによる生理的メカニズムにより
発病が増える(直接作用)。
• また、ストレスにより喫煙や飲酒、甘い食べ物
が増加することで病気が増える(間接作用)。
– 歯周病とストレスの直接作用(異論もある)。う蝕
(行動を介した間接作用)は研究も少なくよくわか
らない。ストレスと歯科疾患の関係は、遠い?
• social capital と健康
― Life course モデル―
• 他の3つのモデルを、人生を通しての経験とし
て同時に取り入れることが出来る。
• 蓄積モデルと、臨界期モデル
– 歯科疾患の格差では、両方とも支持されている
健康は個人だけの問題ではない。
社会の影響とは?
• まったく同じ意識や知識をもった子どもが、別々の
中学校(片方はとても荒れている。片方はとても優
秀)に行った場合、喫煙をする可能性は異なるで
しょう。(cf.Rose)
• あなたが子どもで、1人っ子だった場合と、10人兄
弟の末っ子だった場合とでは、親が歯を磨いてくれ
る時間や、定期健診に連れて行ってくれるかどうか
は異なるでしょう。
→これらは、個人を超えた社会環境の影響
健康は個人だけの問題ではない。
社会の影響とは?
• 学校で歯科健診をすると、極端にう蝕が多い
子どもがいる。校長先生もその生徒の名前
は覚えている。う蝕が多いだけでなく、様々な
問題をかかている家庭であったり、健康への
意識が低い家庭の子どもが、歯の健康にも
手が回らなくてう蝕が多いのだ。
• こうした要素は程度の差こそあれ多くの生徒
が持っている。そうした要素が多いほど、う蝕
が多い傾向にある。
健康への社会の影響のより顕著な例
• 過去の産業革命や、現在のグローバリ
ゼーションといった社会の変化
• 1990年代後半の日本の自殺者の増加
歯科疾患も、
個人の保健行動や社会経済状態
だけでなく、社会の影響を受けている
地域社会が3歳児のう蝕経験に 及ぼ
す影響の検討
-マルチレベルモデルを用いた分析Aida J, Ando Y, Oosaka M, Niimi K, Morita M. Contributions of social context to inequality in dental
caries: a multilevel analysis of Japanese 3-year-old children, Community Dentistry and Oral
Epidemiology, (In press, 23-Oct-2006 accepted)
個人の健康は,属する地域の影響を受けている.
不健康な人が同じ地域に集まるのではなく,地域の影響
で健康が左右される(Ni-Hon-San Study).
地域A
地域B
個人の健康は,「個人の保健行動」や
「個人の生物医学的要因」だけで決まるのか?
個人の健康は,個人の生物医学的要因や行動だけでなく,
さまざまな社会環境の影響を受けている.
Social determinants of health
という概念が究明されてきた.
病気の発生を
高める地域
毎年新しい3歳児が
健診を受診する
にも関わらず,
有病者率の高い地域,
低い地域は
毎年概ね同じである.
何らかの地域の
影響があるのでは?
60
50
40
30
20
病気の発生を
減らす地域
3歳児う蝕有病者率の市町村疾病地図(相田ら,2005年)
しかし
どれくらいが個人の影響・地域の影響なのか
乳歯う蝕では研究されていない
X%が
個人の要因で
う蝕が発症
(100-X)%が
地域社会の要因で
う蝕が発症
目的
3歳児の,う蝕経験と
地域社会との関連を
検討すること.
方法②-層別無作為抽出
全国を9つの地域ブロックに分けた.
↓
各地域ブロック内の市町村を,
2000年のう蝕有病者率をもとに,
3段階に分類した.
↓
各段階から人口に応じ,
1または2市町村ずつ44市町村を
無作為に抽出した.
↓
抽出市町村の3歳児歯科健康診査
の受診者を調査対象とした.
Model 1
β (SE)
Model 2
β (SE)
Model 3
β (SE)
個人レベルの変数
1.38 (0.29) *** 1.07 (0.29) ***
年齢
0.73 (0.14) *** 0.69 (0.14) ***
出生順位:
第3子以降
-0.42 (0.11) *** -0.37 (0.11) ***
祖父母と同居なし
0.36 (0.10) *** 0.34 (0.10) ***
父母どちらかの喫煙
0.78 (0.15) *** 0.76 (0.15) ***
父母両方の喫煙
歯磨剤の利用が1歳6ヶ月以降
0.20 (0.12) *
0.20 (0.12) *
卒乳が1歳6ヶ月以降
0.90 (0.12) *** 0.89 (0.12) ***
甘い飲み物を週4-6日摂取
0.30 (0.12) **
0.29 (0.12) **
甘い飲み物を毎日摂取
0.59 (0.12) *** 0.58 (0.12) ***
1日2回以上お菓子や甘い飲み物を摂取
0.23 (0.10) **
0.21 (0.10) *
市町村レベルの変数
-0.36 (0.15) **
平均所得
-10.1 (10.05)
失業率
1万人当たりの歯科医師数
-0.05 (0.03)
-0.03 (0.03)
1人当たりの居住面積
10万人当たりの公民館の数
-0.01 (0.00) **
10万人当たりの民生委員の数
0.00 (0.00)
乳幼児1人当たりの保健衛生費 (\100)
0.44 (0.18) **
1人当たりの飲食料品小売店数
136 (69.22) *
切片
1.49 (0.10) *** 0.56 (0.20) **
0.48 (0.19) **
Multilevel分析による分析結果(n=3086)
Model 1
ランダム効果
個人レベルの分散
地域レベルの分散
デビアンス
(-2 loglikelihood)
6.42 (0.17) ***
0.65 (0.14) ***
14615.8
Model 3
Model 2
6.00 (0.16) ***
0.36 (0.09) ***
14373.8
6.00
0.19
(0.16) ***
(0.06) ***
14346.3
dmftの全分散を100%とした時の説明量
個人間の分散
質問紙の
保健行動
未知の保健行動や
個人の社会経済状態
地域間の分散
質問紙の 未知の
地域要因 地域要因
3歳児う蝕も、個人の行動・社会経済的状態だけでない、
地域社会の影響を受けている
• う蝕のばらつきが,個人レベルだけでなく,地域
レベルでも生じており,3歳児う蝕に対する地域
社会の関連が有意に示された.
• 一人当たりの飲食料品小売店数がう蝕を増加
する方向に有意に関連していた.
• 平均所得・公民館の数がう蝕を減らす方向に有
意に関連していた.
平均でみた健康の改善は
格差の縮小を伴うのか?
社会階層による標準化死亡比の較差の広がり
全体的な改善にも関わらず
格差は拡大をしている
(英国。1930-32年のSMRを指標とした)
(Department of Health 1999, UK)
3歳児う蝕の地域格差も減少はしていない
(%)
80
北海道
70
東北
60
関東
50
中部
40
東海
30
近畿
20
10
中国
う蝕は減少しても、格差は減少していない
四国
九州
19
81
19
83
19
85
19
87
19
89
19
91
19
93
19
95
19
97
19
99
20
01
0
(年)
集団全体の健康は改善していても、
その恩恵は
社会背景により平等ではない。
ほとんど改善していない人々も存在する。
そのため、全体的な健康の改善以上に、
健康格差の減少が、世界各国で
公衆衛生・保健政策の目的になっている。
格差の存在を認めることが、
格差解消への第一歩となる。
歯科疾患
悪性新生物
歯科疾患は
2兆5882億円
高血圧性疾患
精神疾患
脳血管疾患
格差は,医療費として
健康な人の重荷にもなる
糖尿病
虚血性心疾患
0
5000 10000 15000 20000 25000 30000
生活習慣病の国民医療費
(平成14年)
(億円)
*全国民医療費は31兆1240億円.
* 「2005年 国民衛生の動向 」
214ページより引用,改変
*歯科医療費には病院歯科も含む
社会的決定要因による
健康格差への対策とは?
社会的決定要因が
人々を川に突き落とす
上流と下流の図
“Upstream-downstream!” 「上流と下流!」
ふと、流れの速い川の岸に立っていると、おぼれている人の叫び声が聞こえてきました。
そこで、私は川に飛び込み、手を差し伸べ、岸にあげて、人工呼吸をしました。
おぼれた人が、息を吹き返すと、また助けを求める叫び声が聞こえてきました。
仕方なしに、私は川に飛び込み、彼に手を差し伸べ、岸まであげて、人工呼吸を施しました。
彼が息を吹き返すと、また助けを求める叫び声が聞こえてきました。もう選択肢はありません。
私は川に飛び込み、この繰り返しは、果てしなく続きました。
私は、川に飛び込み、岸にあげて、人工呼吸を施すだけで、精一杯でした。
分かってください。
私には、上流に分け入って、どんな地獄が彼らを川に突き落としているのかを
確認する時間なんてなかったんです。
McKinlay, J. (1979). A case for refocusing upstream: the political economy of health
, In Patients, physicians and illness (ed. E. Jaco), pp.96-120. Basingstoke, Macmillan.
• 経済格差が大きく、貧困層では売春が数少な
い職となる社会・地域で、エイズが蔓延・・・
– いい治療薬を開発する
– 遺伝子治療を開発する
– コンドームを使うべきと健康教育をする
– 売春は止めるべきと教育する
分かってください。
私には、上流に分け入って、
どんな地獄が彼らを川に突き落としているのかを
確認する時間なんてなかったんです。
健康の社会的決定要因
(Social determinants of health)
(Dahlgren G, and Whitehead M in the Acheson Report ,1998)
上流の環境を変えよう
(橋をつくったり柵を作ったり、原因をなくしたり)
↓
New public health movement
(新たなる公衆衛生)
1978年
アルマ・アタ宣言①
• 旧ソ連アルマアタでの国際会議で採択
• 「新たなる公衆衛生」が取り組むべき事を定
めており重要
アルマ・アタ宣言②
• 予防への焦点:処置から, 予防と健康増進へ,
焦点と資源の転換が必要.
• 多部門の協働:教育, 農学, 運搬, 経済, 住宅,
福祉政策は, 全て健康に影響を及ぼすので、
医療部門を越えたさまざまな分野の活動が
必要
アルマ・アタ宣言③
• 適切な技術: 疾病を扱うために, 適切な技術
と人員を配置する
• 公平な分布: 政府と医療計画者は, 健康に
影響を及ぼすこれらの因子が公平に分布す
るようにする
• 地域の参加: 個人と地域は,健康へ影響を及
ぼす全ての採択に参加するべき
New public health movementの戦略
オワタ憲章・ヘルスプロモーション
An international conference
on health promotion
The moves towards a new
public health
オタワ憲章の5つの活動領域の解釈
• 1. 支援環境の整備:
– 健康へ及ぼす環境の影響を認識し, 健康
につながる変化の機会を特定する.
• 2. 健康政策の制定:
– 保健部門のみではなく, すべての部門の
政策が健康に影響を及ぼすということに,
注意を促す.
(Daly B, Watt R, Paul B, Treasure E: Essential Dental Public
Health. Oxford University Press, New York,1st ed., 2002.)
オタワ憲章の5つの活動領域の解釈
• 3.地域活動の強化:
– より良い健康の獲得のための, 優先順位の設定,
決断, 戦略の計画と実行という過程に, 個人と地
域社会に権限を持たせる.
• 4. 個人的技能の開発:
– 理解を促し, 個人が健康増進のための行動をと
るのを可能にする個人・社会・政治の能力の発展
を支援するために,情報の伝達にとどまらない。
オタワ憲章の5つの活動領域の解釈
• 5. 医療事業の再設定:
– 注目を、治療や臨床事業を提供する責務
ではなく、健康の獲得に向けなおす。
• 歯の喪失を減らすために歯が生える薬を開発した・・・
→蛇口を閉めないで、床にこぼれる水をふき取り続ける
べきなのか
→川の上流で対処するには、「医療の再設定」(医療の
ゴールを上流に向ける)が必要。
WHO ヘルスプロモーション
国際会議の歴史
•
•
•
•
第1回
1986年11月17-21日にカナダのオタワにて開催
テーマは新たなる公衆衛生の潮流
健康づくりのためのオタワ憲章が採択
• 第2回
• 1988年4月5-9日にオーストラリアのアデレードにて
開催
• テーマは保健政策
• 保健政策についてのアデレード勧告が採択
• 第3回
• 1991年6月9-15日にスウェーデン王国のスンツバルに
て開催
• テーマは健康の支援環境
• 健康の支援環境についてのスンツバル声明が調印
• 第4回
• 1997年7月21-25日にインドネシア共和国の首都ジャカ
ルタにて開催。
• テーマは新たなる時代の新たなる担い手たち - 健康づ
くりの21世紀への誘い。
• 健康づくりを21世紀へと誘うジャカルタ宣言が採択
• 第5回
• 2000年6月5-9日にメキシコ合衆国の首都メキシコシ
ティにて開催
• テーマは健康づくりあるいは格差の架け橋
• 健康づくりのためのメキシコ声明が調印
• 第6回
• 2005年8月7-11日にタイ王国の首都バンコクにて開催
• 国際化した世界における健康の決定要因(健康の社会
的決定要因)を管理するために必要な、活動と責務、誓
約を確認
詳細は、「健康づくり国際会議 wiki」で検索を。(日F会員、南出保先生作成)
ヘルスプロモーションには、
健康に大きく関わる、医療・保健以外
の分野の協力が欠かせない
個人レベルの対策だけでは不十分
ちなみに・・・
健康づくりに関する京都宣言(2002.9.21)
Kyoto Declaration on Health Promotion
• 1. 我々の健康は、個人レベル及びその積み重ねによっ
て社会の健康水準が向上するというこの意味において健
康づくりが重要であることを認識する。
• 2. 我々は、健康づくりを支援する好ましい環境の整備を
進めるために努力する。
• 3. 我々は、健康づくりを支援する環境整備を進めるため
に、多様な関係者との連携及び協力が重要であることを
認識する。
• 4. 我々は、健康づくりこそ、21世紀における健康問題を
解決するための根本的な方策と認識する。我々は健康づ
くりを推進するためより大きな関与をすることを強く訴える。
http://www.kenkounippon21.gr.jp/kenkounippon21/katsudo/jirei/jichitai/kuni/kyotosengen_20020921.html
新潟県の12歳児う蝕は7年連続日本一
小学校でのフッ化物洗口の実施が理由
• 住民・保護者は、科学的に適切な情報提供をさ
れた。そして、小学校でのフッ化物洗口を学校
や保護者・住民が受け入れる決断をした。
• 学校は、歯科医師会と協力してフッ化物洗口を
実施した。(多部門の連携、能力の付与)
• 生徒は、どんな家庭環境であっても、学校に行く
だけでう蝕予防の恩恵を受けるようになった。
(支援環境の整備)
う蝕予防で
アルマアタ宣言・オタワ憲章を考える
• フッ化物洗口の年間コスト:237円
• 予防効果は20~30%程度(報告によっては
それ以上)
• 喪失した歯を補うインプラント治療は一本あ
たり10万~50万円くらい
• 健康のための「適切な技術」とは?「公平な
分布」とは?「予防への焦点」は?
• 「医療の再設定」とは?
支援環境や保健政策は、大きすぎる。
医療職がやるべきなのか???
たばこ政策に見る、喫煙者やたばこ会
社の反対のように、反対する人がいる
のにやってもいいのか???
支援環境や保健政策は、大きすぎる。
医療職がやるべきなのか???
• 多職種との連携、地域活動の強化(住
民参加)etc の方法が考えられた
• →それらのために、医療職による「唱
道・推奨」「利害対立の仲介」「能力の付
与」が必要
(この3つはヘルスプロモーションの基本戦略)
アメリカ医師会のEBMでも・・・
• JAMA=Journal of American
Medical Association
「臨床のためのEBM入門 決定版
JAMAユーザーズガイド」13ページ より
• 理想的には,EBMの技術と人間的な視野を持てば,医師は自分が働いている
医療システムの中でも,より広い健康政策の問題においても,患者にとって雄
弁な代弁者となることができるはずである。ほとんどの医師は,自分の患者に
対してどのような健康介入を行うのかのみが自分の仕事であると考えている。
予防治療を考えるときですら,1人ひとりの患者の行動に焦点を当てる。しかし
ながら,われわれはこのように限定することはあまりに視野が狭いと考える。
• 多くの観察研究が,社会経済状態と健康との間に強力かつ一貫した関連を見
いだしている。社会の健康は,社会が全体として持っている富よりも,収入格差
の傾きとの関連の方が強い。換言すれば,国民の全体的健康は,富が比較的
公平に分配されている貧しい国における方が,富むものと貧しいものとに大き
な差異がある豊かな国々よりも高い傾向がある。このように考えると,自分の
患者全員の健康に付いて,あるいは共同体の健康に付いて関心を持つ医師
は,いかにして貧困をなくすことに貢献できるのかについて考えなければなら
ない。
• 汚染レベルと呼吸器系,および循環器系の健康との間には,強くかつ一貫した
関連があることを示す観察研究がある。慢性閉塞性肺疾患の患者を診る医
師は,喫煙をやめるようにアドバイスするであろう。そのような医師は,患者か
呼吸している汚染された空気に付いて関心を持つべきであろうか。われわれ
は持つべきであると考える。
疫学倫理でも・・・
• 推奨 アドボケートは、疫学倫理綱領でも
正当化されており、予防に関わる時には、
必要ですらあるとされている
• Roles and responsibilities of epidemiologists.
Weed DL, Mink PJ. Ann Epidemiol. 2002 Feb;12(2):67-72.
• Science and social responsibility in public health.
Weed DL, McKeown RE. Environ Health Perspect. 2003
Nov;111(14):1804-8. Review.
臨床の意思決定
医師の専門性・
能力と経験
研究成果
(エビデンス)
患者の嗜好・価値観
保健医療専門家は、エビデンスに沿った選択枝、提供できる
治療法に沿った選択肢を、提供した上で、患者により決定さ
れる。
公衆衛生の意思決定
資源(経済的資源など)
研究成果
(エビデンス)
価値(住民や政治の
意思など)
財政・予算上の制限があり、住民や政治の意思があり、
決定される。保健医療専門家は、エビデンスに沿った選
択枝を提供する責務がある。
(Gray 津谷ら訳.2005)
たばこ政策に見る、喫煙者やたばこ
会社の反対のように、反対する人が
いるのにやってもいいのか???
• ヘルスプロモーションは、利益だけでなく、
個人や社会に様々な摩擦をもたらすこと
を考慮している。
• そのため、個人と地域のさまざまな利益、
あるいは、さまざまな部門の和解を模索
することを目的に、オタワ憲章の基本戦
略のひとつ、調停する(mediate)が存在
する
医療問題の程度と、それを予防する
ための法律制定への反発の強さ
シートベルト着用義務の法制化時の
議論にみる、反発
• 「たった一人でも、不必要に危害を被るのであれ
ば、多くの人々に利益があっても法律を導入す
るべきでない」、と議論された。
• シートベルト法制化は、「自分で進んで予防措置
を講じる意思の無い非大勢の利益のために、1
人を犠牲にするのに等しい」、とされた。
→これが、法律の温情主義的役割への
「反発」
(エビデンスに基づくヘルスケア―ヘルスポリシーとマネージメントの意思決定をどう行うか J.A.Muir Gray、
津谷 喜一郎、 高原 亮治.2005)
歯科保健政策への反発
Oxford textbook of public healthより
• 先進国の多くに, 活発な反フッ化物添加圧力団体がある.
そのようなグループは小さい傾向にあるが, しばしばとても
熱狂的でやかましく, 集めてきた支持や規模には不釣り合
いなほどの影響力を持つ.
• フロリデーションについての論議は, 興味深い. 反フッ化物
添加主義者は, 比較的健康な中流階層の出身の傾向が
ある. なぜなら, これらの群の子供は齲蝕の経験が最も少
ないので, 彼らには介入の利益が最も少ないのだ.
• 嘆かわしいことに, 反フッ化物添加主義者の与える影響は,
健康の社会的な不平等を維持する方向に働くのだ.
• 反フッ化物添加主義者の主張は, しばしば人騒がせで, と
きおり, 科学者の視点からは異端である.
Roger Detels, James Mcewen, Robert Beaglehole, and Heizo Tanaka eds.2002
小学校でのフッ化物洗口は、保護者には
好意的に受け入れられている
(%)
100
95
90
85
80
1990
1995
2000
2005
北海道伊達市の小学生のフッ化物洗口への参加率の推移
(畠山雄一,堅田進,篠原常夫,本多丘人,丹下貴司. 伊達市小学校におけるフッ化物洗口法の継続
実施とその効果について.北海道歯科医師会誌 62:157-9,2007. )
歯科疾患にみる
社会的決定要因への対策
歯科疾患に特に影響をおよぼす
健康の社会的決定要因
(Dahlgren G, and Whitehead M in the Acheson Report ,1998)
歯科疾患にみる
社会的決定要因への対策
• 教育:学校でのフッ化物洗口・フッ化物
配合歯磨剤を使った歯みがき
• 水:フロリデーション
• 食物:シュガーレス菓子の普及、(歯磨
剤へのフッ化物添加)
• 労働環境:職場でブラッシングタイムを
設ける
新潟県
岐阜県
山形県
東京都
香川県
岡山県
滋賀県
兵庫県
愛媛県
富山県
三重県
岩手県
群馬県
徳島県
京都府
山口県
青森県
栃木県
佐賀県
鳥取県
山梨県
福井県
高知県
茨城県
宮崎県
熊本県
大分県
鹿児島県
秋田県
北海道
沖縄県
愛媛県
兵庫県
東京都
福井県
岐阜県
山口県
京都府
山梨県
栃木県
高知県
鳥取県
新潟県
茨城県
岡山県
滋賀県
香川県
熊本県
群馬県
富山県
三重県
沖縄県
北海道
徳島県
大分県
岩手県
宮崎県
青森県
鹿児島県
秋田県
山形県
佐賀県
5
4.5
4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
新潟県にみる地域較差の減少
上:3歳児う蝕本数(dmft)(1993年)
(フッ化物洗口実施前の年齢)
下:12歳児のむし歯本数 (DMFT)
(2002年)
4.5
4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
アメリカではフロリデーションの普及
は健康政策にも盛り込まれている。
結果、う蝕の格差は減少をしている
図.教育水準と平均未処置う歯数
経済格差・健康格差の大きいアメリカだが、う蝕の格差は小さい!!
Chen M, Andersen RM, Barmes DE, Leclerq M-H, Lyttle SC. Comparing Oral Health Systems. A Second
International Collaborative Study. Geneva: World Health Organization; 1997.
Petersen PE.Sociobehavioural risk factors in dental caries - international perspectives.Community Dent Oral
Epidemiol. 2005 Aug;33(4):274-9.
社会疫学者の視点
• 格差の緩和における医療の介入の展望
– 医療の介入は健康の格差の拡大をもたらすことは事実
ですが, これは決して避けられないことではありません。
影響の分布は, 介入の性質に依存します。
– 構造的環境的介入は, 個人の行動変容を狙う教育計
画よりも, むらなく人々に影響を与えます。 (そして健康
格差を緩和する大きな潜在的可能性があります)
– 例えば,フロリデーションは, う蝕の多い子供に最も恩恵
があります。 そしてその結果, フッ化物添加された水道
水は歯の健康格差を緩和します.
– 同様に, 煙草の値段を上げるための課税は, 最も煙草
を消費する人の喫煙を減らします.
Woodward A, Kawachi I: Why should physicians be concerned about health inequalities?
Because inequalities are unfair and hurt everyone. West J Med,175: 6-7, 2001.
社会的決定要因への対策をしないと、
犠牲者非難になる
犠牲者非難をやめて、上流での対策を!
Watt RG. From victim blaming to upstream action: tackling the social
determinants of oral health inequalities. Community Dent Oral Epidemiol. 2007
Feb;35(1):1-11.
• 個人の努力と、坂道の角度を下げることが・・・
残念ながら、坂道の角度は、
社会経済的要因により異なる
60
50
40
30
20
保健指導で、行動変容をして、
個人的に坂道を上る人もいる。
しかし、坂道が急で上れない人々もいる。
健康教育は、病気になった人(犠牲者)の
非難につながりうる
適切な保健行動がとれず、病気になった人
・生活習慣が悪いせい。
・努力が足りない。
・保健指導を言ってもやらない人。
60
→それでいいのか?坂道の角度(上流・社会
50
40
30
的決定要因)に注目して、そちらを改善するべ
20
きでは?
→臨床では個人への対策中心になってしまう
が、公衆衛生は上流を目指すべきでは?
スウェーデン公衆衛生法(2003年)の
11分野
•
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社会における参加と影響
経済と所得保障
安全で望ましい少年期・青年期
健康的な労働生活
健康で安全な環境と生産物
より積極的に健康を増進する保健・医療政策
伝染病に対する効果的な予防対策
安全な性生活と良好な出産育児
身体活動量の増加
良い食生活習慣と安全な食物
タバコとアルコールの消費量抑制、不法薬物やドーピング
のない社会、過剰なギャンブルによる弊害の抑制
ヘルスプロモーションのための
社会政策の実現のために
社会の行動変容を!!
社会的決定要因に立ち向かう保健政策
策定のために、住民参加・多部門の連携
をうながす社会の行動変容を!
• う蝕と歯磨きや甘い食べ物との関係を知っている人は多
数存在。しかし、フッ化物洗口やフロリデーションの情報
を知る住民は少ない。従来の健康教育にこれらを加える
ことでゆっくりとだが住民の意識を変化させることは可能。
• 臨床家が、個人の行動変容を引き出す指導を行うように、
公衆衛生の専門職は、科学的な情報の提供とアドボカ
シーによる、社会の行動変容を引き起こすことが必要。
• 社会への働きかけは、将来的には、住民や議会自らの
フッ化物洗口やフロリデーションの選択へとつながり、歯
科疾患における健康格差の縮小も期待できる