次回資料(学内のみ) - Info Shako

Download Report

Transcript 次回資料(学内のみ) - Info Shako

野村證券株式会社提供講座
ファイナンス:理論と実践
ファイナンスをめぐる
法規制上の諸問題
2014年 8月
野村総合研究所未来創発センター主席研究員
東京大学大学院法学政治学研究科客員教授
大崎 貞和
日本のインサイダー取引規制
1987年のタテホ化学工業事件をきっかけに1988年の証券取引法(現金
融商品取引法)改正でインサイダー取引規制明文化。
タテホ化学工業が債券先物取引で売上高の4倍以上の損失を出したが、その事実
の公表前にメインバンクが保有株式を売却。
当時も一般的な不公正取引禁止規定(現157条)があったが、摘発されず。
上場会社と特別な関係にある会社関係者が未公表の重要事実を知っ
た場合、当該会社の株式等の取引禁止(金商法166条)。
内部者から重要事実の伝達を受けた者(情報受領者)も規制の対象。
但し、情報受領者から伝達を受けた者(第二次情報受領者)の行為は不可罰。
公開買付関係者についても同様の規制(金商法167条)。
規制の目的は、市場の公正性に対する信頼を確保すること。
インサイダー取引は市場における価格形成を歪めるものとは言えない。
Copyright(C) 2014 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
1
公募増資インサイダー取引の摘発
2012年、証券会社から公募増資に関する未公表情報を伝達された機関投資家が、違
法な取引を行ったとされる増資インサイダー取引事件が相次いで摘発された。
同じような構図の違反が複数の証券会社、機関投資家によって犯されたことを踏まえ
れば、構造的問題との見方が成り立たざるを得ない(証券アナリストジャーナル2013
年1月号掲載の加藤・鈴木論文参照)。
課徴金納付命令
勧告日
上場会社
公募増資公表日
2012年3月21日 国際石油開発帝石
2010年7月8日
2012年5月29日 日本板硝子
みずほフィナンシャルグ
2012年5月29日
ループ
2010年8月24日
2010年6月25日
2012年6月8日 東京電力
2010年9月29日
2012年6月29日 日本板硝子
2010年8月24日
2012年11月2日 エルピーダメモリ
2011年7月11日
Copyright(C) 2014 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
違反行為者
中央三井アセット信託
銀行
あすかアセットマネジメント
中央三井アセット信託
銀行
ファーストニューヨーク証券及
び個人
ジャパンアドバイザリー合同
会社
ジャパンアドバイザリー合同
会社
情報を伝達したとされる ファンドの得た
証券会社
利益
課徴金額
野村證券
1,455万円
5万円
JPモルガン証券
6,051万円
13万円
野村證券
2,023万円
8万円
野村證券
-
1,468万円
6万円
大和證券
1,624万円
37万円
野村證券
564万円
12万円
2
(参考)金融商品取引法上の課徴金制度の仕組み
Copyright(C) 2014 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
3
批判された従来の規制
公募増資インサイダー取引事件をめぐっては、市場のプロである証券
会社や機関投資家が不正な取引に関与したことが強く批判された。
機関投資家に対して科された課徴金の金額が、著しく小さかったことも
批判の対象となった。
課徴金は罰金とは異なり、行政上の制裁であるため、金額の算定方法が法律で詳
細に定められている。
従来の算定方法は、問題の取引で機関投資家が得た運用報酬を基準とするもの
となっていた。
重要事実を伝達した証券会社職員の責任が問われないことも疑問視さ
れた。
刑事罰が科される場合には、証券会社職員が幇助犯とされる可能性もある。
従来の規制では、情報の伝達行為そのものは罰しないこととされていた。
証券会社における情報管理態勢の不備は行政処分の対象。
Copyright(C) 2014 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
4
(参考)欧米における情報伝達の規制
アメリカでは情報伝達者はインサイダー取引の共犯として処罰される
ほか、レギュレーションFD(SEC規則)が存在。
アナリストや機関投資家への選択的情報開示(未公表の重要事実の伝達)が禁
止される。
但し、レギュレーションFDは、発行会社及びその役職員による情報伝達を禁じる
のみで、証券会社等から投資家への情報伝達を禁じる趣旨ではない。
報道関係者への選択的情報開示は禁じられていない。
ヨーロッパでは権限なく第三者に内部者情報を伝達することや内部者
情報に基づいて売買の推奨・勧誘を行うことが禁止されている。
イギリスでは、機関投資家と上場企業のエンゲージメント(経営戦略をめぐる対話)
が活発だが、その過程で内部者情報が伝達されることもある。
但し、ドイツでも情報伝達だけでの処罰例はまれ。
Copyright(C) 2014 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
5
2013年金商法改正の主要な内容
2013年6月、国会で金商法改正が成立(2014年4月施行)。
他人に利益を得させ、または損失を回避する目的をもって行うインサイ
ダー情報の伝達や売買推奨を禁止(金商法167条の2)。
伝達や推奨を受けた者がインサイダー取引を行った場合に限り処罰さ
れる(金商法197条の2第14・15号)。
他人の計算による違反行為に対する課徴金額引き上げ(金商法175条
1項3号ほか)。
インサイダー取引規制を上場不動産投信(J-REIT)にも適用へ(金商法
166条1項2号の2ほか)。
こうした規制強化が投資家を萎縮させないよう適正な法執行を進めるこ
とが重要。
Copyright(C) 2014 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
6
なぜ公募が売り材料となったのか?
大型の公募増資が株主の持ち分希薄化を招き、株価の低下につながると考えられた。
 例えば、発行済み株式数1万株のT社株100株を保有する株主Aの保有比率は、T社が1万株の新規発行
を行えば1%から0.5%に低下する。
 但し、増資が時価で行われる限り、株主Aは経済的損害を被らないはず。
▪ 増資時の株価が100円、新規発行価額が100円だとすれば、T社の時価総額は100万円から200万円
に増加し、Aの持ち分の経済的価値は増資前100万円×1%、増資後200万円×0.5%で変化なし。
▪ 増資に応じて新たに100株を取得すれば、持ち分の希薄化も回避できるはず。
 実際の市場では、増資の公表前後から株価が急落し、下落した株価に基づいて増資が行われた。
▪ 例えば、T社の株価が100円から80円に下落し、80円の時価で増資が行われれば、上の例のAの持
ち分の経済価値は9千円で、Aは経済的損害を被る。
株価=一株当たり利益(EPS)×株価収益率(PER)
 前期実績ベースで見ればEPSは増資によって当然低下する。但し、新たに払い込まれた資金が有効に
活用され株数の増加に見合った利益の上昇が見込めれば、来期予想ベースでのEPSが低下するとは限
らない。成長期待によるPERの上昇もあり得る。
つまり、EPSの維持やPERの上昇につながらない増資が相次ぎ、それを見越した(あるいは未公
表の重要事実に基づく)売り(空売りを含む)が増加して株価が下落した。
Copyright(C) 2014 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
7
(参考)東証上場企業による増資の動向
株主割当
年
1998
99
2000
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
公募
調達額
(百万円)
件数
-
-
2
3
-
2
1
2
-
1
1
-
1
-
1
1
-
-
8,240
32,047
-
1,451
2,729
3,721
-
8,086
139
-
689
-
414
981
Copyright(C) 2014 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
件数
8
28
24
18
19
35
78
74
69
60
27
52
50
45
53
114
第三者割当
調達額
(百万円)
278,181
349,715
494,149
1,201,483
153,312
567,236
750,232
650,847
1,447,724
456,974
341,697
4,966,829
3,308,906
967,813
451,766
1,113,702
件数
32
75
46
57
62
84
129
150
145
117
93
115
88
66
71
151
調達額
(百万円)
688,016
2,347,286
922,756
477,176
484,350
223,161
572,627
778,055
416,476
662,102
395,840
714,609
535,606
395,151
159,327
371,855
8
増資に対する規制は必要か?
会社法は、定款で発行株式総数(授権株式数)を定め、その4分の1以上を発行するよう義務付
ける。発行株式総数を引き上げるには定款改正が必要だが、4倍までの引き上げしか認められ
ない。
 この規制の範囲内での新株発行(増資)は、取締役会の権限で可能。この範囲内の希薄化による不利
益は甘受すべきという考え方。
特に有利な払込金額での株式発行(有利発行)には株主総会の承認を求め、総会特別決議な
しに行われた有利発行や著しく不公正な方法による株式発行に対する差し止めを認めている。
かつては、証券業協会の自主ルールによって、増益基調であることや増資後の配当性向公約
などが増資の条件とされた(1996年まで)。
現在は、財政状態や経営成績、業績見通し等を厳正に引受証券会社が審査することとされる。
 一律の規制では、急成長しているが配当を行わない企業や大きな先行投資の求められる企業は増資
できないことになる。
第三者割当増資をめぐっては、大規模な希釈化や支配権の異動等が問題視され、2009年8月、
東証が、25%以上の希釈化や支配権異動を伴う場合には、経営陣から独立した者の意見入手
や株主総会決議など株主の納得性を高めるための措置を講じることを義務づけた。
上場会社の機動的な資金調達ニーズと株主の利益保護とのバランスをどう取るかが課題。
 本質的には、上場会社におけるコーポレート・ガバナンスの問題である。
Copyright(C) 2014 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
9
ライツ・オファリングの意義と課題
大崎貞和「ライツ・オファリングをめぐる現状と課題」『ジュリスト』1470号28頁参照。
第三者割当増資や公募増資に対する批判が高まる中で、既存株主に市場に上場され
る新株予約権を無償で割当てるライツ・オファリングが注目されている。
株主はライツを行使して新株を引き受ければ希釈化を避けることができ、ライツを売却すれ
ばオプション価値分の回収が可能。
既に20件以上の実例があるが、そのほとんどは証券会社によるコミットメントが付され
ないノン・コミットメント型。
英国等では、証券会社が未行使のライツを買い取って行使するコミットメント型が主流。
ノン・コミットメント型では、行使比率が低迷して予定通りの資金を調達できないリスク。
既存株主に対してライツの行使を迫る強圧性があるとの見方も。
外国人株主による権利行使が制限されるという問題点も。
例えば、ライツを多数の米国人株主に行使させれば、米国で株式を公募したものとみなされ
てSECへの有価証券届出書の登録が必要となる。これを回避するために行使制限が行わ
れることが多い。
Copyright(C) 2014 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
10
東証による規制強化の動き
東証の上場制度整備懇談会が、2014年7月、「我が国におけるライツ・オファリングの
定着に向けて」と題する報告書を発表。
ノン・コミットメント型ライツ・オファリングの構造的問題点を指摘し、それらの弊害を緩
和するための施策を提案。
ライツの上場基準見直しを求める。上場されなければ、失権率が高くなり、既存株主の持ち
分希薄化もそれほど深刻とはならない。
ノン・コミットメント型ライツ・オファリングの合理性を評価する仕組みが存在しないため
、①証券会社による引受審査に準じる審査の通過、または②株主総会決議などによ
る株主の承認を求める。
但し、2期連続経常赤字または債務超過の場合はライツの上場を認めない。
ライツの合理的な市場価格形成を促す観点から、行使期間開始後に上場を認める。
行使期間開始後は、ライツ行使によって取得される親株の発行総数が増加して裁定取引の
ための借り株が容易になり、価格形成が合理的になりやすい。
Copyright(C) 2014 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.
11