L型菌によってアジュバント病が起こる可能性について

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L型菌によってアジュバント病
が起こる可能性について
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【目的】我々はL型菌の病原性を検討しており、第80回本学会西日本地方会にて、L
型菌のナノサイズ微小細胞が、粒子状アジュバントとしての作用を持つ可能性を報
告した。今回は、L型菌の特殊性(極端な大小の細胞を形成する、持続感染する、ア
ジュバント作用を持つ可能性がある)によって、川崎病や他の膠原病を発症する可能
性を検討する。
【方法】これまでに我々が報告した実験結果と、L型菌、マイコプラズマ、アジュバント病、遷延感
作に関する文献検索によって、膠原病、特に川崎病について考察する。
【結果と考察】 川崎病は未だに原因不明であるが、微生物感染が関連すると考察する論文は
多い。我々は原因がL型菌である可能性を検討している。まず、大腸菌や、そのL型菌のHSP60
は、ペリプラズムに局在する可能性があることを示し(第82回日本細菌学会総会)、川崎病で
BCG部位が発赤する事との関連性を検討した。 次に化膿レンサ球菌L型菌124L株ではストレ
プトリジンOとストレプトキナーゼが発現されない事を示し、この様なL型菌感染ならば川崎病患
者のASLO値やASK値が上昇しない可能性がある事を示した(第79回本学会西日本地方会)。
また、この124L株は親株よりヒアルロニデースを多く産生し、L型菌化しても、一部の病原因子
は強く発現される可能性がある事を示した(第84回本学会総会)。更に、L型菌で形成されるナ
ノサイズの微小細胞の細胞表面に蛋白等の抗原が吸着する可能性も検討され、L型菌が粒子
状アジュバントとして働く可能性を示した(第80回本学会西日本地方会)。これらの実験結果に、
マイコプラズマ肺炎が自己免疫疾患症状を呈する事、4年周期で流行したとの疫学的情報、ア
ジュバント病の知見、遷延感作実験の研究報告等を合わせて考察した結果、L型菌による粒子
状アジュバント作用と持続感染による遷延感作、という機序によってアジュバント病が起こり、川
崎病(膠原病)の複雑な病態が形成されるのではないかと考えられた。
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L型菌について
● 浸透圧を高めた培地中でペニシリンやリゾチームなどを菌体に作用させる
と、細胞壁のない細菌が誘導でき、その状態で継代培養も可能である(ペニシ
リン加高張液培地使用)。この様な、細胞壁の無い状態で増殖可能な菌をL型
菌と呼ぶ。
● マイコプラズマと類似する形態だが、DNA量やGC含量比などの点で基本
的に異なる。マイコプラズマはヒトや家畜等に感染して肺炎や関節炎を起こす
。
● 通常、培養条件を変える(培地からペニシリンを除いたり、浸透圧を下げるな
ど)と、細胞壁のある親株に復帰し、復帰した親株は初回よりも容易にL型菌
になる。長期継代により親株に復帰しにくい安定型L型菌もできる。
●
多くの病原菌で、L型菌が誘導されている。
●
ヒトや家畜、魚類等の体内からL型菌が分離されている。
●
L型菌が原因と特定された疾患はいまだ報告されていない。
● 動物実験では L型菌接種で病変が生じるという報告も、生じないという報
告もある。
●
L型菌は実験動物体内で持続感染することが報告されている。
3
筆者らのこれまでの検討結果
①
L型菌では、HSP60は細胞表面または外界に分泌されると考えられる。
(2008, 細菌学会 支部総会)
川崎病のBCG接種部位発赤と関連する可能性がある。
②
化膿レンサ球菌のL型菌には、ストレプトリジンO、ストレプトキナーゼを産生しない株
が出現する。
(2009 感染症学会支部総会)
川崎病患者にASLO、ASKが検出されない事と関連する可能性がある。
③
化膿レンサ球菌のL型菌には、親株より多くのヒアルロニダーゼを産生する株
がある。
(2010 感染症学会総会)
川崎病患者の病態と関連する可能性がある。
④
L型菌の微小細胞は粒子状アジュバントとしての作用を持つ可能性がある。
( 2010 感染症学会支部総会)
川崎病(膠原病)の複雑な免疫反応と関連する可能性がある。
4
①
L型菌では、HSP60は細胞表面または外界に分泌される
と考えられる(2008, 細菌学会)
大腸菌スフェロプラストを1.75% NaCl液に懸濁し、菌体が破砕しないように攪拌し
た。その前後の蛋白の比較
1
kDa
2
3
1. 撹拌前のスフェロプラスト菌体
2. 撹拌後のスフェロプラスト菌体
3. 上清成分。
9467-
43-
30-
Spirosome(ペリプラズム局在を確認)
60kDa(HSP60と確認)
HSP60は攪拌後のスフェロプラスト菌体内には無く、上清に検出され
たため、ペリプラズム局在が示唆された。同じ挙動をとったSpirosom
eは電顕でペリプラズム局在が証明されたので、L型菌でもHSP60は
ペリプラズムに局在すると考えられた。L型菌になると、親型に復帰で
きる非安定型ではHSP60が検出されるが、長期に継代された安定型
L型菌では、HSP60がかなり減少していた。細菌のHSP60は細胞壁
合成に関連していると考えられ、L型菌が細胞壁を再合成する場合は
HSP60は細胞表面に発現し、細胞壁が完成するまでは、菌体外にも
放出される可能性があると考えられた。
5
②
化膿レンサ球菌のL型菌には、ストレプトリジンOを産生
しない株が出現する(2010 細菌学会)
化膿レンサ球菌L型菌124L株の好気培養による羊血液寒天培地(3.5%NaCl)での溶血反応
a: K6169株(野生株),
b: 124P株(親株) ,
菌の増殖が分かる角度で撮影
a
溶血帯を示す透過光で撮影
b
c
c:124L株(L型菌)
a
b
c
L型菌124L株はストレプトリジンOを産生していない(ウエスタンブロッティングでも確認)
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②
化膿レンサ球菌のL型菌には、ストレプトキナーゼを産生
しない株が出現する(2010 細菌学会)
化膿レンサ球菌 L 型菌124 L 株のストレプトキナーゼ産生に関するドットブロティン
グ解析
Anti-streptokinase rabbit polyclonal antibody (1:12000希釈)
野 生 型
K5866 株
K6169 株
L 型 菌
124 L 株
L型菌124L株はストレプトキナーゼを産生していない
7
③
化膿レンサ球菌のL型菌には親株より多くの
ヒアルロニダーゼを産生する株がある
野生型と L 型菌のヒアルロニダーゼ産生量の比較
Anti-sheep hyalunonidase polyclonal rabbit IgG(NOR)によるウエスタンブロティング解析
94k
67k
67k
43k
43k
30k
L型菌の抗ヒアルロニダーゼ抗体に反応するバンドは野生型より濃厚であった
8
④ L型菌の微小細胞は粒子状アジュバントとしての作用
を持つ可能性がある。
L 型菌の電子顕微鏡像
L型菌の特性:
増殖
過程で大小の細胞ができ、
微小な粒子も生じる(左図
の球形粒子は全てL型菌
粒子)
1μm
Staphylococcus aureus L 型菌
Eda T. ら、1977より
Eda T. et al.1977.Extracellular membranous structures in a stable L-form of Staphylococcus
aureus.J.Gen.Microbiol.103:189-191
9
L 型菌の電子顕微鏡像
L型菌の特性: 100nm以下の粒子も生じている
100 nm
Proteus mirabilis L型菌
Eda, T. ら、1978 より
Tohru Eda et al.1978.Ultrastructure of an unstable L-form strain P42L of Proteus mirabilis.J.
Electron Microsc.27(2): 119-126
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文献に示されたL型菌のサイズ調査
菌種
大型細胞( mm ) 微小細胞( nm )
Proteus mirabilis
Brucella suis
Proteus mirabilis
Escherichia coli
Pseudomonas aeruginosa
4
0.7
2.5
1.7
0.9
16
47
83
111
125
Streptomyces hygroscopicus 5
Bacillus licheniformis
2
group B Streptococcus
3.6
Streptococcus pyogenes
6.2
Streptococcus faecalis
9
Staphylococcus aureus
5
Staphylococcus aureus
80
Streptococcus faecium
100
20
55
66
71
80
83
500
(TOHRE EDA et al. 1978)
(J.SCHMITT SLOMSKA et al.1982)
(HEIN-PETER KROLL et al. 1980)
(TOHRE EDA et al. 1976)
(EARL G.HUBERT et al. 1971)
(J. GUMPERT 1983)
(PRISCILLA B.WYRICK et al. 1973)
( N.C. CHURLOVA et al. 1986)
(TOHRE EDA et al. 1979)
(MARY T.GREEN et al. 1974)
(TOHRE EDA et al. 1977)
(TOYOZOH TAKAHASHI et al. 1981)
( DAVID J BIBEL et al. 1975)
L型菌の菌体サイズは 16 ナノメートル ~ 100 ミクロンメートル
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粒子状アジュバント:
免疫学におけるアジュバントとは抗
原と共に生体に接種すると、その抗原性を増強して強い免疫反応
を引き起こす物質で、その中でも、微粒子状の形態を持ち抗原と
結合することで、その作用を発揮するものを粒子状アジュバントと
分類する(水酸化アルミニュウム、シリコン、パラフィン、プリスタンなど)
フロイントのアジュバント
の形態
Emulsion of water-in-oil
Freund, J., and Bonanto,M.V.:
J.Immunol., 48:325-334, 1944より
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L型菌のサイズ
ウイルス
20~300nm
細 菌(野生型)
0.5~10μm
粒子状アジュバント
原 虫
20~500nm
1~60μm
L 型 菌
16 nm~100μm
L型菌のサイズは粒子状アジュバントになりうる
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L型菌菌体表面に外来抗原が吸着する可能性はあるか?
血清加培地で培養したL型菌と野生型菌のアルブミンの吸着
Sheep anti-bovine albumin antibody によるウエスタンブロッティング
1
2
3
4
1
3
4
kDa
1. アルブミンマーカー
94-
2.K6169 株 (野生型)
67-
3.124 P 株 (野生型親株)
4.124 L 株 ( L 型)
43-
観察 1回目
観察 2回目
L 型菌は 野生型より多くの培地由来アルブミンが吸着すると考えられた
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マイコプラズマでも、
菌体に培地血清蛋白
が吸着することが報
告されている
L型菌細胞のサイズと蛋白の吸着性から、
L型菌が粒子状アジュバントとして作用する可能性
が考えられた。
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川崎病の病原体としてL型菌を検討する理由
①
L型菌は未だ十分には検討されていない
②
病巣部からL型菌様の微生物が検出されている
③
ペニシリン系の抗生物質が無効である
④
川崎病は抗生物質の使用開始の頃より発生し始
め、日本に多い(体内L型菌の増加と一致?)
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川崎病は何らかの感染症が関与していると考えられている
原因候補に上がった微生物やその成分
化膿レンサ球菌 (1974)
アクネ菌 (1983)
EBウイルス (1984)
アデノウイルス( 1985 )
ダニ ( 1985 )
ストレプトコッカス サンギウス ( 1985 )
レトロウイルス( 1986 )
ヒトヘルペスウイルス ( 1990 )
スーパー抗原 ( 1992 )
ブドウ球菌( 1993 )
腸内細菌( 1993 )
ヒトパルボウイルス( 1995 )
エルシニア( 1997 )
コリネバクテリウム( 1999 )
クラミジア( 1999 )
麻疹ウイルス(2000 )
マイコプラズマ( 2001 )
コロナウイルス ( 2005 )
リケッチア
カンジダ
クラミジア
リステリア
ナイセリア
ストレプトコッカス ビリダンス
水痘ウイルス
RNAウイルス( 2006 )
複数細菌 ( 2009 )
L型菌はまだ十分には検討されていない
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川崎病・膠原病機序解明に関する論文報告
●遷延感作実験 (岡林ら、1959 塩沢ら、2009)
異種蛋白の遷延感作(長期にわたる抗原の繰り返し刺激)の末期にジスガンマ‐グロブリン血症、他の膠
原病病態が出現する(実験的膠原病)。 塩沢らの自己臨界点説
●シリコンによるヒトアジュバント病 (三好ら、1964)
体内で漏出したシリコン微粒子のアジュバント作用により、種々の膠原病病態が出現
●川崎病モデルマウス (秋山ら、1983)
出生早期に細胞外増殖型溶連菌(ペニシリン処理)を感染させ、4週後に細胞内増殖型溶連菌を感染さ
せると川崎病類似の病態が出現
● 川崎病の合成洗剤、 カーペット洗剤説
アメリカではカーペット洗浄と川崎病との関連が疑われ、カーペット洗剤説が呈示された。(成分の
ABSは粒子状アジュバントになる)
●プリスタンによる RA、SLE モデル (Potterら、1981 Satohら、1994)
プリスタンオイル(粒子状アジュバント)のみの一回の腹腔接種で、膠原病類似の病態が出現
●川崎病モデルマウス (藤本ら、2010)
レンチナン(β‐グルカン)の腹腔接種で川崎病類似の病態が出現
これらの報告から、川崎病(膠原病)には遷延感作作用や粒子状アジュバント作用の機序
が関与していると思われ、L型菌は、その両方の作用をもつ可能性があると思われる。
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L型菌が粒子状アジュバントとして作用する可能性
微生物による粒子状アジュバント作用
で は
ナノサイズ、蛋白吸着という条件を満たす
ウイルスやマイコプラズマも
粒子状アジュバントになる可能性があるか?
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不活化日本脳炎ウイルス粒子をアジュバントとして使用する方法
が報告されている
2009
課題を解決するための手段[0010][3]
不活化日本脳炎ウイルスが粒子状構造であることを特徴とする
(World Intellectual Property Organization/2009/147980 より)
ウイルス粒子も (粒子状)アジュバントになる
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推測される L 型菌の作用
粒子状アジュバント作用
L型菌
毛細血管の塞栓
結合組織への侵襲
樹状細胞
マクロピノサイトーシス
擬似ウイルス
マクロファージ
擬似寄生虫
免疫複合体形成
親株へ復帰
毒素の再産生
持続・潜伏感染
毛細血管
遷延感作作用
血管内皮細胞への吸着
細胞外増殖
貪食細胞内増殖
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L型菌は様々な変化が可能である
ウイルスサイズ
細菌サイズ
細胞内寄生
細胞外寄生
不顕性感染(持続感染)
増殖性細胞
顕性感染
非増殖性細胞(サイズ100nm以下粒子)
一部細胞壁成分あり
L型菌相
寄生虫サイズ
細胞壁成分なし
野生型相(親株への復帰)
×
多くの病原菌種が L 型菌になる
多くの疾患・病態の発現が 可能と考えられる
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現在、原因としてL型菌が疑われている膠原病
●サルコイドーシス
Etiology of sarcoidosis : the role of Propionibacterium
acnes.
(Eishi Y, ら 2003)
Histologic obserbations of variably acid-fast pleomorphic
bacteria in systemic sarcoidosis
(Cantwell AR Jr. 1982)
●全身性エリテマトーデス
Histologic Observation of Coccoid Forms Suggestive of
Cell Wall Deficient Bacteria in Cutaneous and Systemic
Lupus Erythematosus
(Cantwell AR Jr. ら 1982)
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ま と め
L型菌による粒子状アジュバント作用と持続
感染による遷延感作作用(未確認)という機
序によってアジュバント病が起こり、川崎病
(膠原病)の複雑な病態が形成されるのでは
ないかと考えられた。
又吉盛健:演題発表に関連し、開示すべき
COI関係にある企業などはありません。