化膿レンサ球菌L型菌の病原性

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Transcript 化膿レンサ球菌L型菌の病原性

化膿レンサ球菌L型菌の病原性
-Streptolysin Oと
Streptokinase産生について Pathogenicity of Streptococcus pyogenes L-form
-Productivity of Streptolysin O and Streptokinase-
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【目的】原因不明の感染症様疾患とL型菌との関連性
を検討する。細菌がL型菌化すると一般的に病原性は
減弱する傾向があり、明確にL型菌が原因とされる疾
患はまだ報告されていない。しかし、L型菌は細胞壁
の消失により、その細胞は大型化も極小化もし、ペリ
プラズム蛋白の産生量にも大きな変化が起こる。この
様なL型菌の性質が生体内ではどの様な影響を及ぼす
のか十分には解明されていない。そこで、まず川崎病
とL型菌との関連性を考察するため、化膿レンサ球菌
のL型菌124L株のストレプトリジンO とストレプト
キナーゼ の産生能を野生型と比較し、第79回日本感
染症学会西日本地方学術集会にて報告した。今回は更
に124L株の親株124株も加え、また直接血液寒天培地
上で比較できる方法を考案し、野生型や親株との比較
を行った。
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化膿レンサ球菌の野生型と そのL 型菌
野生型
L 型菌 (124 L
株)
2μm
2μm
L型菌になると細胞は小型化し、培養条件によっては野生型より大型化もする
L 型菌124 L 株の由来: 82の臨床分離株より13株のL型菌株が作
成され、継代に成功した安定型L型菌株(横浜市大・江田ら、1972年)
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化膿レンサ球菌の L 型菌124 L 株
1μm
0.05 μm~数μmの菌体が見られる
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【方法】化膿レンサ球菌のL型菌は124 L株、野生
型は124L株の親株124株(帝京大・西山彌生博士よ
り分与)とK6169株、K5866株(鹿児島大・西順一
郎博士より分与)を用いた。培地は、羊血液寒天
培地(日水製薬)に塩濃度を高めるため滅菌飽和
食塩水1.5mlを加えて37℃で乾燥させた培地と、L
型菌用液体培地(0.5% yeast extract, 4% NaCl,
10% FBSを加えたbrain heart infusion broth )を用
いた。培養は好気と嫌気培養を行い、血液寒天面
の溶血帯を調べた。酵素蛋白産生の確認には、全
菌体成分に対する、抗SLO抗体(ABS社 HA
B003)を用いたウエスタンブロッティングと抗
SK 抗体(ACR社 BP988)を用いたドットブ
ロッティングを行った。
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結果 1 化膿レンサ球菌L型菌124L株の好気培養
による羊血液寒天培地(3.5%NaCl)での溶血反応
a: K6169株,
b: 124P株 ,
c:124L株
菌の増殖が分かる角度で撮影
溶血帯を示す透過光で撮影
a
a
b
c
b
c
好気培養で124L株には溶血帯が見られなかった
6
結果 2 化膿レンサ球菌L型菌124L株の嫌気培養
による羊血液寒天培地(3.5%NaCl)での溶血反応
a: K6169株,
b: 124P株 ,
菌の増殖が分かる角度で撮影
a
b
c
c:124L株
溶血帯を示す透過光で撮影
a
b
c
嫌気培養でも124L株には溶血帯が見られなかった
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結果 3
化膿レンサ球菌L型菌124L株のストレプ
トリジンO産生に関するウエスタンブロッティング解析
Anti-streptolysin O mouse monoclonal antibody (1:250希釈)
K6169 124 L
94K・
K6169 124 L
K6169株
124 L
94K・
67K・
67K・
ドット・ブロッティング
ウエスタン・ブロッティング
124L株には抗SLO抗体に反応するバンド、ドットが見られなかった
SDS-PAGE
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結果 4
化膿レンサ球菌 L 型菌124 L 株のストレ
プトキナーゼ産生に関するドットブロティング解析
Anti-streptokinase rabbit polyclonal antibody (1:12000希釈)
野 生 型
K5866 株
K6169 株
L 型 菌
124 L 株
124L株には抗SK抗体に反応するドットが見られなかった
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結 果 と 考 察
1.化膿レンサ球菌の野生型(124L株の親株を含む)では スト
レプトリジン O とストレプトキナーゼの産生が見られたが、L型
菌化した124 L 株では両酵素の産生がみられなかった。
Wild types of S. pyogenes produced streptolysin and streptokinase, but
L-form of 124L strain did not produce both enzymes.
2.化膿レンサ球菌が L 型菌化すると、これらの酵素を産生しな
い株が生体内でも出現する可能性が示唆された。
There is a possibility that L-forms of S. pyogenes lacking in production
of both enzymes emerge in vivo.
3.川崎病の病因が、この様な化膿レンサ球菌のL型菌ならば、
患者から、抗SLO抗体、抗SK抗体が検出されないこと、ペニ
シリン系抗生物質が無効であること等が理解される。
Changes wild types of S. pyogenes into L-forms might explain ineffectiveness
of Penicillins and negative findings for anti-SLO and anti-SK antibodies in
patients with Kawasaki disease.
参考:第79回日本感染症学会西日本地方学術集会にて報告したSLOの確認実験
実験①
化膿レンサ球菌 L 型菌124 L 株の
ストレプトリジンO 産生の確認
ヒト赤血球に対する溶血反応(嫌気培養と好気培養)
L型菌は通常の血液寒天培
地では増殖しない
液体培地でL型菌を増殖させ、
溶血の有無を観察する
血液寒天培地
L型菌用液体培地
(0.5% yeast extract, 4% NaCl, 10% FBSを
加えたbrain heart infusion broth )
結果 (嫌気培養)
野 生 型
Control
K5866
124 L 株には溶血帯(
K6169
L 型 菌
124 L
)が見られなかった
結果
回収された菌体と培養液
野 生 型
K5866
K6169
L 型菌
124 L
培養液
菌体
124 L株の増殖を確認、溶血による培地の赤変がなかった
考察
なぜ L 型菌化すると SLO を産生しなくなるか
- L 型菌化した場合のペリプラズム蛋白量の変化-
野生型
ペリプラズム蛋白
完全な細胞壁
ペリプラズム蛋白量
正常値
L 型 菌
不安定型 L 型菌
安定型 L 型菌
不完全な細胞壁
細胞壁なし
やや減少又は
大量に産生される可能性
減少又は消失
L 型菌には細胞壁成分の存在が報告されているものもあり、図の様な状態で漏出によりペリ
プラズム蛋白が過度に産生されたり、細胞壁を完全に失なった場合にはペリプラズム蛋白の
減少や消失が起こるものと考えられる。
参考
川崎病
川崎病で化膿レンサ球菌が否定される点
1.患者検体から、溶連菌も、そのL型菌も分離されない
2.川崎病患者回復期血中のASLO値、ASK値が上昇しない
3.ペニシリン系の抗生剤が無効
川崎病でL型菌が疑われる点
1.グラム陰性菌様、リケッチア様、 L型菌様、と形容さ
れ
る微小粒子が、患者の急性期血液、発疹部の皮下組織
冠状動脈瘤部、心筋炎部などに観察(電子顕微鏡)さ
れており、L型菌の細胞表面の形態や、大小の細胞が
ある点などが類似している。
2.ペニシリンが無効である。
3. L 型菌は通常の菌に比べ分離培養が困難である。
川崎病患者患部から検出された細菌様微小粒子
川崎病川崎病患者 Cater
Caterら、1975
ら、 1976
川崎病患者 Ueno ら、 1983
川崎病
Uenoら、1983
川崎病患者 Ueno ら、 1983
川崎病
Uenoら、1983
川崎病患者 濱島ら、 1985
川崎病
濱島ら、1985
川崎病
L型菌124L株
(Uenoら 1983)
(江田ら、1979)
細菌様微
小粒子
L型菌
1μm
1μm
川崎病患者の細菌様微小粒子とL型菌は形態的に近似している