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電磁気学Ⅱ
Electromagnetics Ⅱ
6/12講義分
電磁波の偏り
山田 博仁
電磁波
電磁波は、電界(電場)と磁界(磁場)が振動しながら横波として伝搬していくもの
電界
磁界
伝搬方向
電磁波の偏波
x-y 平面内に電場ベクトルを有し、+z 方向に進む平面電磁波は、電場ベクトルを
x 成分 y 成分に分けて考えられ、その和として以下の式で表される
E  e x E x  e y E y  e x E 0 x cos(  t  kz )  e y E 0 y cos(  t  kz   )
E x  E 0 x cos(  t  kz )
電場ベクトルの x 成分
と y 成分の間の位相差
E y  E 0 y cos(  t  kz   )
上の2つの式から、以下の方程式が導かれる
E 0 y E x  E 0 x E y  2 E 0 x E 0 y E x E y cos   E 0 x E 0 y sin  
2
2
2
2
2
x
k
E
z
y
H
電磁波の偏波
まず、電場ベクトルの x 成分と y 成分の位相差 φ がゼロの場合を考えると、
E0 y E x  E0xE y  2E0xE0 y E xE y  0
2

E
2
2
2
E x  E0 x E y   0
2
0y
よって、 E y 
E0 y
E0x
Ex
従って、電場ベクトルは x-y 平面内に直線状の軌跡を持つベクトルとして
伸び縮みしながら +z 方向に伝搬して行く。このような電磁波の偏り方を直
線偏波 (linear polarization) と言う。
電場ベクトルを含むこの
ような面を偏波面と言う
x
k
Ex E
z
Ey
y
光では、電界の振動面を「振動面」、磁界の振動面を「偏光面」と呼んでいる
電磁波の偏波
次に、電場ベクトルの x 成分と y 成分の位相差 φ が±π/2 の場合を考えると、
E 0 y E x  E 0 x E y  E 0 x E 0 y 
2

2
 Ex

E
 0x
2
2
2
2
 Ey

 

E

 0y
2

 1


従って、電場ベクトルは x-y 平面内に楕円状の軌跡を持つベクトルとして
回転しながら +z 方向に伝搬して行く。このような電磁波の偏り方を楕円偏
波 (elliptic polarization) と言う。
φ が-π/2のとき、進行方向に
向かって左回りに回転しな
x この図は左旋性円偏波を表す
がら伝搬していく (左旋性)
k
E
z
y
逆に φ が+π/2のときは、進行方
向に向かって右回りに回転しな
がら伝搬していく (右旋性)
電磁波の偏波
一般には、電場ベクトルの x 成分と y 成分との位相差 φ は、-π/2 ≦ φ ≦ +π/2 の任
意の値となるので、電場ベクトルは x-y 平面内に軸を有する楕円状の軌跡を持つ
ベクトルとして回転しながら +z 方向に伝搬して行く。
E x  a cos(  t  kz )
左旋円偏波
E y  b cos(  t  kz   )
 

4
任意の偏波状態は、Poincare球の表面
上の位置で表される
赤道上は α = 0
Ex
水平偏波
β=0
a
b
垂直偏波

 
2
Ey
  tan
1

 
b
右旋円偏波
a
ポアンカレ(Poincare)球

4
各種偏波用アンテナ
電波においては、直線偏波の偏波面が、地面に対して垂直になっているとき垂
直偏波、平行なときには水平偏波と言う。我が国の中波ラジオ放送は垂直偏波、
一般に都市部のTV放送やFM放送は水平偏波で送信されている。垂直偏波と
水平偏波とは互いに干渉しないので、周波数が接近しており混信の恐れのある
ような場合には、相互に偏波を違えることによって混信を防ぐことができる。山間
部などでTVアンテナの素子が縦に設置されているのは、このような理由によるも
の。ただし偏波は、電波伝搬中に反射や回折により変化してしまうので、必ずし
も送信された偏波状態のままで受信アンテナに届くとは限らない。
水平偏波用
垂直偏波用
タクシー無線のルーフアンテナ 八木アンテナと八木先生
円偏波用
アマチュア無線用
ヘリカルアンテナ
各種電磁波の波長と周波数
光も電磁波の一種 !!
電磁波の伝搬速度:
真空中では約30万km/秒
屈折率nの媒質中では、
真空中の1/nの速度
偏光
振動面
電界の波
磁界の波
直線偏光
光の進行方向
偏光面
光の進行方向と磁界ベクトルを含む面を光の偏りの面又は偏光面、
また、光の進行方向と電界ベクトルを含む面を振動面と呼ぶ
偏光面が回転しながら伝搬する光もあり、楕円偏光や円偏光と呼ばれている
電界の波
左旋性円偏光
偏光
電界の振動方向
太陽や電球などからの光
電界の振動方向がバラバラ
振動方向に「偏り」がない
「偏光していない」という
レーザー光
光の電界
水面や雪面などでの反射光
ある特定方向に振動する成分が多い
振動の向きに「偏り」がある
「偏光している」という
※人間の眼では偏光の違いを(ほとんど)識別できない
偏光子
偏光子または偏光フィルター
偏光フィルターの向き
(マークで示されている)
この方向の偏光成分を吸収
偏光子は、光のある特定方向の偏光成分のみを吸収または反射させることにより、
それと直交する方向の偏光成分を透過させるもの 偏光状態を調べることができる
偏光子の働き
偏光子の偏光方向を直交させて重ねた場合、光は殆ど通らない
偏光方向を直交させて重ねた2枚の偏光子の間に、もう一枚の偏光子を挟んだら?
?
答) 光は透過する。でも、何故?
Q. 入射光の何%の光が透過するのだろうか?
偏光子の働き
入射光が円偏光していると 1枚目の偏光子を通 2枚目の偏光子を通 3枚目の偏光子を通
過するパワーは
して、そのパワーを1とする 過するパワーは 0.5 過するパワーは
0.125
0.25
間の偏光子が無い場合は、
p偏光、s偏光と反射率
前回のスライドより
電界
磁界
磁界
入射面
入射波
反射波
入射面
電界
入射波
p偏光
反射波
s偏光
p偏光、s偏光の光に対する反射率 Rp, Rs は、
Rp 
Rs 
2
tan(  t   i )
反
射
率
tan(  i   t )
sin(  t   i )
sin(  t   i )
2
Rs
Brewster 角
Rp
入射角(θi)
偏光フィルターによる反射光の除去
p偏光の光に対してはブリュースター角が存在
するため、ある角度付近で入射した光の反射
光は弱くなる。一方、s偏光の光に対してはブ
リュースター角は存在しないので、どの角度に
おいても強い反射が生じる。従って、 s偏光の
光のみを除去するように偏光子を配置すると、
反射光の大部分をカットできる。
p偏光
電界
s偏光
電界
偏光フィルターなし、
つまりs偏光、p偏光
両方の光を見た場合
偏光フィルターによって
s偏光を除去、つまりp
偏光のみで見た場合
p偏光は透過
偏光子
s偏光は遮断
偏光子
偏光を利用した液晶ディスプレイのしくみ
2枚の偏光フィルター(偏光子)を、
向きが同じになるよう配置すると
光が通るが、直交するように配
置すると光が通らない
液晶に光を通すと、
液晶分子の配列に
沿って、光の偏光
方向は90º回転しな
がら通過する
出典: http://www.sharp.co.jp/products/lcd/tech/s2_1.html
液晶を通過した光は偏光方向
が90º回転し、2枚目の偏光
フィルターを通過する。配向膜
間に電圧を印加すると、液晶
分子の向きが揃い、光の偏光
方向は回転しないので、光は
偏光フィルターを通過できない
青空の偏光方向
偏光方向
太陽からの離角90度
空気の分子に太陽光が当たるとレイリー散乱が起きる。散乱光強度は光の波長の
4乗に反比例する。即ち、波長の短い青い光ほど強く散乱され、そのために空は青
く見える。レイリー散乱光は偏光しており、空が澄んでいれば太陽からの離角90度
の空から最も強く偏光した散乱光がやってくる。ミツバチは、青空の偏光を見て太
陽の方角を知ると言われている。大気汚染や水蒸気があると、偏光度は減少し、
曇天では殆ど偏光していない。
生物と偏光
コガネムシは左円偏光 ?
トルコのアナトリア産のコガネムシ
通常の写真(偏光フィルター無し)
で撮影したもの
左側の写真は右円偏光板を、
右側の写真は左円偏光板を
通して撮影
右円偏光板使用 左円偏光板使用
右円偏光板使用 左円偏光板使用
右円偏光板使用 左円偏光板使用
エクアドル産のコガネムシ
鹿児島産のコガネムシ
ダイコクコガネ
http://www.op.titech.ac.jp/lab/Take-Ishi/html/ki/hg/et/sb/goldbug/goldbug.html
ヒトも光の偏光方向を感知できる?
君は、ハイディンガーのブラシが見えるかな?
電界の振動方向
ハイディンガーのブラシ
偏光した光(液晶画面の白い画面など)を見ると、このような模様が見えることがある。
これは、人の網膜の細胞の複屈折によるもので、この現象の発見者にちなんで
Haidinger’s brushと呼ばれている。ただし、個人差があるので、見えない人もいる。
波長板
波長板(位相板)とは?
直交する偏光成分の間に位相差を与える複屈折素子のこと
位相差 π を与えるものを1/2波長板または半波長板と呼び、直線偏光の偏光方向や
円偏光の回転方向を変えるために用いる
入射光の
偏光方向
2θ
入射光の
旋光方向
θ
出射光の
偏光方向
光学軸
出射光の
旋光方向
位相差 π/2 を与えるものを1/4波長板と呼び、直線偏光を円偏光(楕円偏光)に変換、
また逆に円偏光(楕円偏光)を直線偏光に変換するために用いる
入射光の
偏光方向
光学軸
円偏光の
入射光
π/4
円偏光の
出射光
光学軸
π/4
直線偏光
の出射光
光子の偏光
光子(フォトン)には-1, +1のスピンがあり、それに対応する偏光状態が有る
光子の横偏光状態および縦偏光状態をそれぞれ x および y というベクトル表示で
表すと、+45度偏光、-45度偏光、右旋性円偏光、左旋性円偏光の光子はそれぞれ
 45 
R 
x
x
 y
i y


2,
2,
 45 
L 
x
x
 y
i y


2
2
と表される。
偏光子を通ってきた光子は偏光子の偏光方向に偏光しており、このような状態を純
粋状態と呼ぶ。それに対して、縦横どの方向に偏光しているのかが特定できない
状態を混合状態と呼ぶ。
縦偏光状態の光子は、45度傾いた偏光子を50%の確率で透過する。その場合、45
度傾いた方向の純粋状態となる。
S = -1
S=1
光子
左旋性円偏光
光子
右旋性円偏光
参) ヤングの干渉縞
スリット
スクリーン
2つのスリットを通った光がスクリーン上で干渉すると干渉縞が現れる
スリット
スクリーン
スリットの後ろに偏光方向が直交する偏光子を置くと干渉縞が消える
参) 光子による干渉縞
スリット
光子
スクリーン
1個の光子が到来した場所
フォトンは必ず、どちらか一方のスリットを通過したはず
1個の光子(フォトン)をスクリーンに向かって照射した場合、干渉縞は現れない
スリット
スクリーン
光子
どちらのスリットをフォトンが通過したのかは分からない
しかし、上の実験を複数回繰り返すと干渉縞が現れてくる
参) 量子消去の実験
スリット
スクリーン
光子
どちらのスリットをフォトンが通過したのか知ることができる
しかし、スリットの後ろに偏光方向が直交する偏光子を置くと干渉縞が消える
スリット
スクリーン
光子
どちらのスリットをフォトンが通過したのか知ることができなくなった
更に、偏光方向が斜め45度の偏光子を置くと再び干渉縞が現れる
参) 量子消去の実験が示唆するもの
ここで紹介した干渉縞の挙動は、古典的な波動光学によっても説明できる。
しかしこの実験は、1個の光子による照射実験を複数回繰り返した場合でも同様
の結果をもたらす。
スリットの後ろに偏光方向が直交する偏光子を置くと干渉縞が消えるのは、この
場合、スリット通過後に光子の偏光状態を調べることにより、光子がどちらのス
リットを通過したのかを知ることができるようになったからである。
しかし、偏光子の後ろに、偏光方向が斜め45度の別の偏光子を置くと再び干渉縞
が現れるのは、この場合、光子がどちらのスリットを通過したのかを知ることがもは
やできなくなったためである。つまり、両方のスリットに対して光子が通過する可能
性が復活したからである。つまり、 45度の偏光子を置くことにより光子の経路情報
を消去したことになる。これを量子消去と呼ぶ。
ところで、量子消去の奇妙なところは、スリットを通過した後でもその経路情報を消
去すれば干渉縞が現れるところで、光子はどちらか一方のスリットを通過している
はずであるが、どちらのスリットを通過したのかという過去の事象を、未来の行為
(この場合量子消去)によって操作できる点である。
物質中でのMaxwell方程式の解
rot E ( x , t )  
B ( x , t )
rot H ( x , t )  i e 
構造関係式
(1)
t
D ( x , t )
(2)
t
div D ( x , t )   e
(3)
div B ( x , t )  0
(4)
教科書p.189~190
D ( x,t)   E ( x,t)
(5 )
B( x,t)   H ( x,t)
(6)
オームの法則
ie ( x , t )   E ( x , t )
式(1)の両辺の rotation をとる
(7 )
式(2)を代入 式(7)を代入 式(5)を代入
2
 
D 

 H 
E
 E
rot(rot E )   rot
  rot  
rot H   
 ie 
   
  
 
2

t

t
t

t

t
t
t




B
ベクトル恒等式より
rot ( rot E )  grad ( div E )   E
従って、
 E  
媒質中に真電荷が存在しなければ、式(3), 式(5)より、divE = 0
E
t
 E
2
 
t
2
0
(8 )
の関係式が導かれる
同様にして、式(2)の両辺の rotation をとってやると、磁場に関する関係式
 H  
H
t
 H
2
 
t
2
0
(9 )
も導ける
物質中でのMaxwell方程式の解
式(8), (9)を電信方程式と呼ぶ。
 v
2
参考) 伝送線路の電信方程式 →
x
2
 RGv  ( RC  GL )
v
t
 v
2
 LC
t
2
絶縁体媒質(誘電体なども)や真空中の時、σ = 0であるから、式(8), (9)は各々、
 E
2
 E  
t
2
 H
2
0
 H  
(8 ' )
t
2
0
(9 ' )
となり、電磁波の波動方程式が得られる。
一方、導体中(金属など)では、式(8), (9)において左辺第3項が無視できるようになる。
 E  
E
t
j  E ( x , t )
 E
2
 
t
2
0
   E ( x , t )
2
Eは、E(x, t) = E(x)e jωt のように表されるので、
左辺第2項と第3項の大きさを比較すると、
7
通常の金属において、導電率 σ の値は、  10 (S/m)
 10
誘電率 ε の値は、  10 ( F/m)
マイクロ波帯においても ω の値は、
  2  10
従って、σ >> εω の関係が成り立っており、
式(8), (9)において左辺第3項は第2項に対して無視できるくらい小さな値となる。
10
導体中の電磁場の式
従って、導体中において式(8), (9)は、以下の式に簡略化できる。
 E  
 H  
E
t
H
t
0
0
準定常電流、即ち交流回路では、
変位電流の寄与を無視しているこ
とと、オームの法則が成り立つこと
を仮定している
( 8" )
( 9" )
式(8”)に式(7)の関係を代入してやると、
 i e  
ie
t
0
(10 )
の関係も導ける。
式(8”), (9”), (10)は、拡散方程式と呼ばれている。
式(8”), (9”)は、Maxwell方程式において、変位電流の項を無視することによっても得ら
れる。つまり、式(2)の右辺において、第1項の伝導電流に比べて第2項の変位電流の寄
与が無視できる場合、式(2)は式(2’)となり、これを用いて解いてやっても求められる。
rot H ( x , t )  i e
(2' )
変位電流が伝導電流に対して無視できるのは、先の σ >> εω の条件が成り立つ場合
であり、このときの伝導電流を準定常電流と呼んでいる。電気回路における交流回路
は、この準定常電流の場合を扱っている。
導体中の電磁場と表皮効果
 E  
E
t
z
0
真空
( 8" )
導体中での電場は、式(8”)で与えられ、その解として、
E ( x, t )  E 0 ( x )e
E0 ( x)  E0e

j t
δ
x
の形の平面電磁波を仮定すると、
j  x
 E0e

x

jx

2
 

e

で与えられる。(∵ x →∞で電界は有限)
また、複素数の公式
金属導体
i 
1 i
真空中から導体中への電磁波の入射
を用いた
2
ここで、δ は表皮の深さ(Skin depth)と言い、電磁波が金属導体中に侵入できる深さである。
このように、電磁場が金属導体の内部深くには侵入できない現象を、表皮効果(Skin
effect)と呼ぶ
例えば銅の場合、導電率 σ = 5.8×107 S/m なので、表皮の深さ δ は、
 
2


2
2  f  4   10
7


1
2 . 29  10
11
f [ GHz ]
1GHzで約 2.1 μm