重力波の研究 - 東京大学宇宙線研究所

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Transcript 重力波の研究 - 東京大学宇宙線研究所

大学院進学ガイダンス
2011/6/11@柏キャンパス
重力波の研究
黒田和明
重力波研究の目的
• アインシュタインの一般相対性理論の検証
– 連星中性子星合体の際の重力波を検出
– 重力理論と高密度物質の状態方程式
– 偏波の性質、伝搬速度など
• 重力波天文学の創成
– コンパクト星の存在率と寿命評価
– 宇宙初期の物質分布の情報
– 宇宙膨張のパラメータの決定など
宇宙を支配する法則のまとめ
コペルニクスからアインシュタインまで
F=ma
G=8πG/c4 T
コペルニクスの転回
(1473-1543)
ガリレイによる地動説
(1564-1642)
ニュートンによる絶対静止系
(太陽系)
アインシュタインによる
宇宙スケールへの拡張
宇宙を表す法則:一般相対性理論の意味するもの
• 重力の効果を時空のひず
みとして記述
• 質量・エネルギーが時空を
歪ませる
• 物体も光もその時空の歪に
応じて運動
• 強い重力による星の崩壊を
記述できる
• 宇宙のスケールの運動を
記述できる
• 重力波を予言する
• 太陽系のような弱い重力の
もとではニュートンの重力
法則と一致する
光の進路
と光の進路
重力波の性質
アインシュタインの理論で
予言された重力波伝播の
様子の想像図
• アインシュタインの一般相対性理論
で予言。
• 光速で進む時空のひずみ波。
• 質量の加速度運動に伴って発生。
• パルサーの観測によりその存在が間
接的に証明された(1993年ノーベル
物理学賞)。
• いまだ直接に観測された例はない。
1993年物理学賞
ラッセル・ハルス ジョセフ・テーラー
重力波の発生源
• 2重中性子星の合体
• 超新星爆発
• ブラックホールの合体
• ブラックホールへ落ち込む
天体
• 自転するパルサー
• 公転運動する2重中性子
• 宇宙背景輻射
• 未知の重力波
• などなど …..
互いの周りを軌道運動する
連星中性子星は、次第に
エネルギーを失ってついに
は合体する。
星の重力崩壊に伴う
爆発で突発的な重力波
が発生する。
自転に伴って正弦波状
の重力波が発生する。
これらの天体について重力波で調べることができる
重力波の検出で分かることのまとめ
•
•
•
•
•
•
一般相対性理論の正しさ
超新星爆発の際の様子
中性子星合体の瞬間の様子
ブラックホール誕生の瞬間の様子
超高密度状態の物質のふるまい
宇宙膨張の歴史
(ダークエネルギー)
• 宇宙誕生の頃の様子
(ビッグバン、インフレーション)
• ガンマ線バーストの正体
重力波検出の方法
• 高感度レーザー干渉計の開発と建設
– 技術開発
– 先進技術の導入
– 予算化の努力
• 観測とデータ解析方法の開発
– 重力波源の熟知
– 計算機利用
• 国際協力体制の構築
– 外国人との競争と協力
検出が難しい重力波
• 発生がきわめて稀。
– 発生の過程がよく予想されている連星中性子星合体
の発生率は、大きい銀河あたり10万年に1回の割合。
– 宇宙にはそのように大きい銀河は330万光年立方あ
たり0.01個存在する。
– 1年間に数個以上観測するには7億光年まで見渡せ
る必要がある。
• 地上に到達するときの効果
がきわめて小さい。
– その信号の大きさは太陽と地
球の距離にして水素原子1個
分の変動にしかならない。
遠くの銀河の連星中性子
星合体で重力波が発生
重力波を捉える道具
レーザー干渉計
反射鏡1
重力波によりビームスプリッター
から鏡1までの距離と鏡2まで
の距離に差が生じる。
レーザー光源
ビーム
スプリッター
反射鏡2
(光を等分に分ける)
干渉により距離の差が光の
強さの強弱を引き起こす。
光検出器
信号表示装置
電気信号として記録
研究の現場
• 重力波プロジェクト
– TAMA
– CLIO
– LCGT
• 重力波研究者の所属組織
– 宇宙線研究所
– 国立天文台
– KEK
– 各大学
• 共同研究の進め方
– 共同利用研究としての共同研究
TAMA
1995年の春から建設開始し、2000
年春から2年間の延長を経て、2002年
終了。3千時間を越える観測データを
蓄積。
国立天文台三鷹キャンパス
300m基線長の高感度レー
ザー干渉計世界に先駆け
2000年に最高感度を達成
翌年連続観測を達成
中央真空槽室
CLIO
岐阜県神岡鉱山地下に設置された
100m基線長のレーザー干渉計
雑音を下げるために鏡を冷やす計画(日本の独自技術)
世界初の低温感度達成!
Location of LCGT
LCGT is under construction underground at
Kamioka, where the prototype CLIO detector
is placed.
日本の計画 LCGT
• TAMAとCLIOの技術開発と経験をもとに設計・
立案。
• 日本国内の重力波研究者の総意で建設中。
• 世界の大型干渉計とほぼ同じ基線長の3km基
線長。
• 世界で初めて採用される地下設置。
• 世界で初めて開発された低温鏡を使用。
• 世界に先駆け重力波検出を目指す。
• 国際観測網の一極を担い、国際貢献を果たす。
より遠くの宇宙を観測するためにレーザー干渉
計の感度を上げる工夫
地下設置の想像図
• 基線長を長くすればするほど重力波
に対する感度が向上する
– 3kmにします。(建設費が増大するのでい
くらでも長くできるわけではない)
• 雑音となる鏡の振動を小さくすればそ
れだけ感度が向上する
– 地盤が固く震動が少ない地下(神岡)に設
置します
– 防振装置をよくしたり低温鏡を用いる
– 鏡の重さを大きくして雑音の力に対して動
きにくくする
防振装置を
加えて鏡を
冷やす工夫
(模式図)
• 干渉した光の強弱を読み取る精度を
上げれば感度が向上します
– できるだけ強力なレーザーを使う
これらの工夫で、地球と太陽間の空間が水素原子1個分伸び縮みしても計れます
世界で建設される重力波の干渉計
• GEO
• Virgo
イギリス・ドイツ連合の干渉計
フランス・イタリア連合の干渉計
– Advanced Virgo 将来の計画(建設中)
• LIGO
米国の干渉計
– Advanced LIGO 次期計画(建設中)
• Einstein Telescope EUの計画
重力波研究室志望の皆さんへ
• 物理をしっかり勉強すること
– 簡単な原理を使って疑問に答える訓練
– 手を動かして計算
• 手先を器用に動かすようにすること
– 壊れた機械や電気製品はただちに分解して中身
を調べること
– いろいろなものの動作原理を把握するように努め
ること