Transcript 2回目

第2回 地震動と建物応答
2-1 地震動と建物応答の特徴
2-2 地震動の特性と震源・地盤条件
2-3 建物の応答と応答解析
<ポイント>
(1)地震時の建物や地盤の揺れ方
(2)地震時の家具の転倒条件
教科書
理工図書
2005年第2版
税抜き:3400円
2-1 地震動と建物応答の特徴
(1)地盤・建物の振動特性
• 建物上階の地震波形に含まれる振動数特性
: 地震の震源特性 S(f)×
基盤の波動伝播特性 R(f)×
表層地盤の増幅特性 G(f)×
建物の振動特性 B(f)
地震時の11階建物の観測波形
建物の固有周期(約0.6秒)成分が多い
表層地盤の固有周期(約0.7秒)成分が多い
11階建物内の地震波の特徴
• 上階の波形には建物の固有周期(約0.6秒)が
多く含まれ,非常に長く揺れている
← 建物が揺れ易く,減衰が小さい
• 地表面付近の波形には表層地盤の固有周期
(約0.7秒)が多く含まれている
← 地盤が比較的揺れ易い
・ 基盤の波形は継続時間が比較的短い
← 地震規模が小さい
震源から建物までのプロセス
B(f)
G(f)
S(f)
R(f)
• 建物の固有周期:
水平剛性(k)が小さく,重量(m) が大きいほど長い
→1層建物の固有周期:T = 2π×√m / k (秒)
• 表層地盤の固有周期:
軟質でS波速度(Vs)が遅く,堆積層厚(H)が
厚いほど長い
→1層地盤の固有周期(T):T = 4×H/Vs(秒)
(2)地震動の周期特性
・加速度応答スペクトル:対象の地震動波形を,
建物固有周期(T)と減衰定数(通常h=0.05)
の1質点系に入力して,応答解析し,最大応
答加速度と固有周期との関係を示したもの
• 釧路の地震波:0.5秒以下の短い周期で大き
いので,建物の被害は少なかった
• 神戸の地震波:0.3~1秒の比較的長い周期
で大きいため,2階建木造住宅の被害は甚大
→ 地震動と建物が共振したため
1993年釧路沖地震(釧路)と
兵庫県南部地震(神戸)の地震波形
短い周期で揺れるので建物被害は少ない
2階建木造住宅と共振した波形
釧路と神戸の地震波の
加速度応答スペクトル
0.2~0.3秒の短い周期が卓越
0.3~1秒の比較的長い周期
で卓越 → 木造住宅と共振
2.2 地震動の特性と震源・地盤条件
(1)震源特性の地震波への影響:S(f)
・地震規模の効果:
地震規模が大きいと発生する地震波
の周期は長く,継続時間も長くなる
・ 地震動のドップラー効果:
断層破壊が進行する方向は地震波が
大きく,周期は短くなる
(2)波動伝播と距離減衰:R(f)
・実体波:初期微動のP波(疎密波)
主要動のS波(せん断波)
・ 表面波:レーリー波(タイヤと逆回転)と
ラブ波(ヘビのように進む)
・表面波の分散性:
表面波は長周期の波動が速く伝播する
→長周期成分が顕著になる
地震波の種類
• 初期微動継続時間 Tps (秒) :
基盤のP波速度 Vp = 6(km/s),
S波速度 Vs = 3(km/s)
震源距離をx(km)とすると
Tps = x/3 - x/6 = x/6 (秒)
• 震源距離の推定:
初期微動継続時間 Tps (秒) を測定して
x = 6×Tps (km)
2007年新潟県
中越沖地震
の地震波形
Tps
P波
S波
表面波
最大加速度の距離減衰特性
地震波は遠方に
伝播するとエネルギ
が発散され,振幅
は小さくなる
Amax
断層からの最短距離 R(km)
(3)表層地盤の地震動増福:G(f)
・地層境界での屈折波の角度:波動インピーダン
ス(ρ×Vs)比に応じて鉛直入射に近づく
・波動インピーダンス:各地層の密度(ρ)とせん
断波速度(Vs)との積
・地盤の重複反射理論:地盤内の基盤と地表で
繰り返し波動が伝播して,地盤深さ(H)が波長
(λ)の4分の1の時に地表振幅比が最大となり
1/αとなる
1層地盤の固有周期(T):T = 4×H/Vs(秒)
堆積地盤による地震波の増幅
水平境界でのせん断波の反射と屈折
水平成層地盤の重複反射モデル
成層地盤の波動増幅特性
• 振動特性係数(Rt):建物の耐震設計で
地震荷重の大きさを増減させる係数
地盤が軟弱(第3種)なほど,加速度応答
スペクトルが長周期側に増大されている
• 地震基盤:岩盤(中生代以前の硬質な花崗
岩など)で,Vs ≒ 3 km/s以上の層
• 工学的基盤:建物の支持基盤で,Vs ≒0.4~
0.7 km/sの層,固有周期は 0.5 秒程度
地盤種別による加速度応答スペクトル
(4)地盤の不整形性の影響
・盆地構造の地震波への影響:
傾斜基盤から屈折波が中央に集まり地震
波が局所的に増幅される
・表面波が盆地表面で重複反射して,
地震動の継続時間が長くなる
→大きな盆地で長周期地震動が発生
傾斜境界での波動の反射と屈折
不整形地盤で
表面波が生成
レーリー波が面内方向に運動
ラブ波が面外方向に運動
(5)地盤の非線形化・液状化の影響
・地震時に表層地盤が非線形化または
液状化すると:
地盤の剛性が低下し,減衰が増大する
(G~γ関係)
(h~γ関係)
→地震動は長周期化し,振幅は減少する
地盤の応力-歪関係と減衰定数-歪関係
非線形化
前のτ~γ
非線形化
後のτ~γ
地盤が液状化した地震記録
長周期化し,振幅は減少
地盤の液状化のメカニズム
地震による揺れで
土粒子の結合が外れる
土被り圧
砂混じりの
水が噴出し
沈下する
地下水位
が高い
土粒子間の
間隙が大きい
沖積の砂質土
側方に
移動する
地下水
新潟地震でのアパートの傾斜
釧路沖地震でのマンホールの浮上
東日本大震災での液状化発生地点
東日本大震災での液状化被害
東日本大震災での液状化被害
東日本大震災での液状化被害
東日本大震災での液状化被害
東日本大震災での液状化被害
東日本大震災での液状化被害
東日本大震災での液状化被害
東日本大震災での液状化被害
阪神大震災での直接基礎の被害
液状化による
建物の傾斜
阪神大震災での杭基礎の被害
液状化による
杭の破損
(6)地盤の速度構造の調査
・ 地盤調査:標準貫入試験で分かる1mの
深さごとのN値から推定する
・PS検層:地盤調査の孔に振動源とセン
サーを下ろして各波動の伝播速度を計測
する
・屈折法と反射法:地表に振動源とセン
サーを設置して,波動の伝播速度を計測
する
地盤のN値とP波・S波速度との関係
地盤調査の屈折法と反射法の概要
• 常時微動計測:地盤上で常に存在する
微小な揺れから表層地盤の固有周期を
計測する
• 地震観測:中小地震ではあるが実際に
計測された地震波形から表層地盤の
増幅特性を推定する
2.3 建物の応答と応答解析
(1)建物の基本的な挙動とモデル化
・建物の振動モデル:構造体の重量を床位置
に集中させた「せん断質点系モデル」が多い
・建物の1次固有周期:
建物の高さ(H)にほぼ比例
T = 0.03×H(S造), T = 0.02×H(RC造)
・建物の1次固有振動モード:
変位は全層とも同じ方向で,上層ほど大きい
振動解析での建物のモデル化
建物の高さと1次固有周期の関係
10階建の建物の固有振動モード
(2)1自由度系の振動
・外力 P(t) を受ける振動方程式:
・地動変位yg(t) を受ける振動方程式:
・固有円振動数(ω)
:2π×f(固有振動数)= √( k / m )
振動解析での1層建物のモデル化
• 減衰定数(h):h=c/2 m ω,cは減衰係数
通常の建物は h≒ 0.05 程度
• 自由振動の1周期毎の振幅比:e2πh
→振幅比の自然対数を 2πで割ると減衰定数
h= 0.05 の場合, 1周期毎の振幅比は 0.73
• 外力P(t)が固有円振動数p の調和外力の場合:
共振曲線が得られ,共振時(ω = p)に1/2h倍
h= 0.05 の場合,共振時の振幅比は 10 倍
1層建物の共振曲線(振動数-増幅率)
• 応答スペクトル:対象地震動に対する1自由度
系の最大値を横軸が固有周期で表現
• 加速度応答スペクトル(S A ):縦軸が絶対加速
度の最大値,建物周期が短いほど大きい
• 速度応答スペクトル(S V ):縦軸が速度の最大
値,SA の1/ω で近似できる
• 変位応答スペクトル(S D ):縦軸が変位の最大
値,建物周期が長いほど大きい
地震動の
応答スペクトル
(エルセントロ波)
加速度応答スペクトル
速度応答スペクトル
変位応答スペクトル
建物の固有周期(秒)
• 応答スペクトルへの減衰定数の影響:
通常は h=0.05 なので,1.5/(1+10×h)倍
• 免震建物の地震応答:
①固有周期が長くなるので応答加速度が小さく
なる(積層ゴムの効果)
②減衰定数が増大するので応答が小さくなる
(ダンパーの効果)
十勝沖地震での大型タンクの炎上
平野の固有周期と石油のスロッシング周期が一致した
(3)多自由度系の振動
・建物の振動モデル:構造体の重量を床位置に集中させ
た「せん断質点系モデル」が多い高層建物などで曲げ
変形が生じる場合には等価なせん断質点系とする
・質量マトリクス[m]:
対角項のみに質量が入る対角マトリクス
・減衰マトリクス[c]:
対角項の前後に減衰係数が入る3重対角マトリクス
・剛性マトリクス[ k ]:
対角項の前後に剛性が入る3重対角マトリクス
8層建物モデルの各質点の力の釣合い
3層建物の地震時の振動方程式
• モード分解法:調和応答を仮定して固有解析を行い,
任意の変位を各次モードで表す
• モーダルアナリシス:多層建物の応答波形を
1次~3次程度の応答の和で求める方法
• 刺激係数(βi):多層建物の全体応答に対する
i 次モードの寄与割合
• 応答スペクトルによるモーダルアナリシス:
各次モードの最大応答を応答スペクトルにより求めて
全体応答はそれらの二乗和平方根で求める
3層建物の地震時応答のモード表示
(4)地震時の弾塑性応答
・各層の大地震動による力-変位関係:
① 構成する部材の歪みが増大して,弾性限度を超えて
塑性化する
② 地震動が逆方向になると変位が残留して,ある面積
を持った履歴ループを描く
・S造建物の弾塑性モデル:鋼材は降伏点を越えると
完全に塑性化するためバイリニア型が多い
・RC造建物の弾塑性モデル:柱や壁にクラックが入る
ので剛性低下型トリリニア型が多い
地震時の水平変位-応力の関係
S造建物
RC造建物
• 塑性率(μ):塑性化の指標で,降伏変形に対する
最大変形の比(δmax/δy)
• 等価線形化法:弾塑性応答を等価な剛性と減衰定数
でモデル化し弾性応答に変える方法
①等価剛性 ke:初期剛性/塑性率(ko/μ),
②等価減衰定数 he:履歴ループの面積から
• 完全塑性化モデルの線形時最大応力:
塑性化されたエネルギーから√(2μ-1)倍となる
• 構造特性係数(Ds):塑性化による効果を
1/√(2μ-1) として地震力を低減させる係数
完全弾塑性モデルの線形モデル置換
面積を等しくさせる
(5)地盤と建物の動的相互作用
・入力の相互作用:地盤上の短い波長の揺れは建物の
基礎には伝わりにくくなる
・慣性の相互作用:建物基礎と地盤には地盤バネ(回転
バネと水平バネ)が作用する
・建物のSRモデル:基礎の水平移動(Sway)と
回転(Rocking)を付加したモデル
・SRモデルの効果:表層地盤が軟質なほど,建物の固有
周期は長くなり,減衰が増大する
船と水の動的相互作用
1層建物と地盤の動的相互作用
水平バネ( kh)
回転バネ( kθ)
地盤ばねを考慮した建物の振動方程式
建物の固有周期(秒)
(6)地震時の家具の転倒
・長方形(2 B×2 H)の剛体の転倒条件:
①振動数が f cr ≒11/√H 以下の場合
最大加速度が Acr=980×B/H (cm/s2) 以上
②振動数が f cr ≒11/√H 以上の場合
最大速度が Vcr =20 B/√( 2 H ) (cm/s)以上
↓
最大加速度が 2×π×f×Vcr (cm/s2) 以上
・剛体の大きさと転倒条件:
形状比(2 B×2 H)が同じでも H が大きくなると
→ 境界振動数が f cr ≒11/√H が減少
→ 転倒条件の加速度が大きくなる
→ 転倒しにくくなる
・建物の免震化と家具の転倒:
建物を免震化すると応答加速度は減少するが
速度が増加するので,家具は転倒しやすくなる
場合もある
剛体の転倒条件(振動数-加速
度)
転倒
●
免震化
●
問題3.
幅 6 cm , 高さ 18 cmの家具について,転倒条件
となる最大加速度 Acr (cm/s2)と最大速度Vcr (cm/s)
それらの境界振動数 f cr (Hz) を算定して,
振動数が 1, 3, 5 (Hz) に対して,転倒する最大加速度
Acr1, Acr3, Acr5 (cm/s2) を求めよ。
解答:
Acr = 326.7 (cm/s2), Vcr = 14.14 (cm/s), f cr = 3.67 (Hz)
fcr > 3(Hz) → Acr1 = Acr3 = 326.7 (cm/s2),
fcr < 5(Hz) → Acr5 = 2×π×5×14.14 = 444.2 (cm/s2)