マルチエージェントシミュレーションの実例

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マルチエージェントシミュレーション
京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻
石田・松原研究室
石田 亨 服部 宏充
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Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved.
コンピュータシミュレーション
 現象の理解・予測・検証のためのコンピュータを
用いた模擬実験

実世界では困難な実験を実施する手段
 物理現象を説明する法則は既知でも計算は大変!
台風シミュレーション(地球シミュレータセンター)
http://www.jamstec.go.jp/esc/index.html
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モデリング
 実世界の対象を仮想世界で扱える形式に書き
現実世界
換えて表現する作業
モデル化
仮想世界
未知の
世界
対象
モデル
理解
施策
求解
シミュレーション
解
 シミュレーションの結果から現実世界の理解と
予測をする
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モデルの粒度:マクロとミクロ
 マクロシミュレーション
システム全体を一つのモデルで表現し,巨視的な視
点から現象の再現を試みる手法
 e.g. システムダイナミクス
 システム全体の挙動観察はできるが,構成要素間
の相互作用を再現できない

 ミクロシミュレーション
行動主体(人間や組織)毎にモデル化し,ボトムアッ
プに現象の再現を試みる手法
 e.g. マルチエージェントシミュレーション
 個々の主体の振る舞いの多様性を陽に表現可能

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なぜマルチエージェントシミュレーションか
 シミュレーションによる社会・生活の変化の予測

社会の挙動は普遍的な法則に基づいて決まるものとは
考えにくい
 物理・化学シミュレーションとは違うアプローチが必要
 マルチエージェントシミュレーション
行動主体をエージェントとして個々にモデル化し,人や組織
のインタラクションの連鎖を計算するシミュレーション


多数の人間から成る社会を自然に表現できる
行動主体の多様性・異質性の表現に対する適性がある
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マルチエージェントシミュレーションの例:
BOID(BIRD+ANDROID)
分離(Separation):
近傍のエージェントと
混雑が生じないよう
離れる方向に動く
整列(Alignment):
近傍のエージェントの
平均的な進行方向に
動く
結合(Cohesion):
近傍のエージェントの
平均の位置に動く
 シンプルな行動メカニズムしか持たないエー
ジェントから上位の複雑な行動が生起される
(創発的現象)
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マルチエージェントによる社会シミュレーション
 マルチエージェントシミュレーションは多数の人
間が形成する社会の表現に適する

シミュレーションと社会科学の接近
 社会問題・経済問題の理解・分析のためのマルチ
エージェントシミュレーション
意思決定
振る舞い
現実空間
状況に応じた振る舞い・
相互作用を規定するモデル
仮想空間
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社会シミュレーション:2つのアプローチ
社会システムの分析


社会現象の理解,社会システム
の分析にマルチエージェントシ
ミュレーションを利用
ミクロ・マクロ関係を理解する手
段
社会科学における実験・証明・発見
社会システムの創造


社会制度,新規システムの事前
検証にマルチエージェントシミュ
レーションを利用
制度・システムの下での人間行
動を理解する手段
複雑なシステム創造・開発の実験
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社会システムの分析のためのMAS
 複雑系としての社会の表現

要素の相互作用により多様な社会が創発される
 個人の振る舞いがどのような社会を創発するか?
 粗粒度のエージェントモデル


Axelrodが主張するKISS (Keep It Simple Stupid)原理
に従う簡潔なモデルの利用が一般的
 モデルを複雑にすると,モデルとシミュレーション結
果との因果関係の分析が難しくなる
原理の確認・理解

e.g.人工市場・生態系シミュレーション
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社会システムの創造のためのMAS
 制度設計・社会システムデザインへの活用


新たな制度やシステムがもたらす結果を検証
疑似体験による人間の意思決定・振る舞いの観察
 細粒度のエージェントモデル



モデルは複雑なもので良く,むしろ単純なものでは
実社会への適用を目指す制度・システムの事前検
証にならない
行動主体の多様性を詳細に表現
システムプロトタイプ・訓練

e.g.ロボカップサッカー・フライトシミュレータ
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MASに基づく参加型シミュレーション
 社会と生活にイノベーションを起こすために創
造型のMASを活用

シミュレーションの過程に人間が参加する「参加型シミュレー
ション」による,人間の視点の取り込み,モデルの洗練化
 参加型シミュレーションの2つの形態

仮想空間での訓練・新規システムの実証実験
疑似体験を与え,臨場感のある意思決定を訓練
 被験者の振る舞いを基にしたモデルの洗練化


制度設計への利用

ステイクホルダーの視点の反映による,現実的な結果と知
見の獲得

e.g.市民参加によるまちづくりやゴミ処理上の立地問題.
行政によるトップダウンな解決策よりも現実的な解が得られる
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参加型シミュレータのシステム構成
 マルチエージェントシミュレータを拡張して実現

シナリオ制御のエージェントを人間が制御するアバ
ターに置換
参加者
実空間
シナリオ
シナリオ
モニター
仮想空間
エージェント
マルチエージェントシミュレーション
仮想空間
アバター
アバター
参加型シミュレーション
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マルチエージェントシミュレーションの実例
- 避難シミュレーション(1)  FreeWalk/Qを用いた避難の統制実験の再現
ユーザ
アバター
操作
(State1
シナリオ
((?posture :name Follower :state Standing)
(!speak :to Follower :sentence "Follow me")
(go State2)))
(State2
((?position :name Follower :distance Far)
(!turn :to Follower) (go State2))
((?position :name Follower :distance Near)
シナリオ記述言語Q
(!walk :to Exit)
(go State2))
多数のエージェントのシナリオを
((?position
:name Follower :at Exit) (go
並行して解釈実行
State3)))
エージェント
制御
解釈
仮想都市空間FreeWalk
アバター(人が制御)とエージェント
(シナリオ制御)が混在
Q言語処理系
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マルチエージェントシミュレーションの実例
- 避難シミュレーション(2)  杉万俊夫教授による避難訓練の統制実験を元
に参加型シミュレーションを実施
論文の知見・実験の分析から,実際の実験結果を
再現可能なエージェントの行動シナリオを作成

指差誘導員シナリオ・吸着誘導員シナリオ・避難者シナリオ
# of evacuees left from the room

Time(sec)
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マルチエージェントシミュレーションの実例
- 避難シミュレーション(3)  誘導員シナリオの例

シナリオ記述言語Qにより状態遷移シナリオを記述
(State1
((?posture :name Follower :state Standing)
(!speak :to Follower :sentence "Follow me")
(go State2)))
(State2
((?position :name Follower :at Exit)
(go State3))
((?position :name Follower :distance Far)
(!turn :to Follower
(go State2))
((?position :name Follower :distance Near)
(!walk :to Exit)
(go State2)))
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マルチエージェントシミュレーションの実例
- 避難シミュレーション(4)  人間の参加によって予想外の状況が発生

参加型シミュレーションのデータを基に避難者の再モ
デリングとシナリオのチューニングを実施
[内在型]
[超越型]
 実世界での実験結果をほぼ再現する事に成功
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マルチエージェントシミュレーションの実例
- 避難シミュレーション(5) -
 十分な誘導員がいる場合は指差誘導法より吸
着誘導法が効果的である事が判明

シミュレーションにより新しい誘導法の可能性や限
界が分かる
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マルチエージェントシミュレーションの実例
- 拡張型の参加型シミュレーション(1)  京都駅構内設置のカメラ映像を元に仮想空間に乗
客を投影
被験者はアバターを操作するのではなく,実空間で実際
に行動する
 超越的視点からモニタリング・コミュニケーションが可能

カメラ
3次元仮想空間
実空間
避難シナリオ
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マルチエージェントシミュレーションの実例
- 拡張型の参加型シミュレーション(2) 2.集約された災害情報
3.広域誘導

4.個別誘導
15人の被験者と3000の避難エージェントによる避難誘導



1.位置情報
管制官は避難する方向を指示
避難者は被災箇所・避難場所・避難方向の情報を得る
避難者は携帯電話の画面から他の避難者の行動を確認
しながら,実際に避難行動をとる
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マルチエージェントシミュレーションの実例
- 拡張型の参加型シミュレーション(3) -
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マルチエージェントシミュレーションの実例
- 交通シミュレーション(1)  MATSimによる大規模交通シミュレーション



MATSim:
スイス連邦工科大学チューリッヒ校とベルリン工科大学
が開発したマルチエージェントシミュレータ.各地の都市
交通シミュレーションに適用されている
個々のドライバーをエージェントとして表現し,経路選択
を個別に決定するプロセスを反復実行
 実際の交通流の計測データとの比較では,従来法(動
的交通量配分)より正確に交通量を予測
MATSimのエージェントモデルは非常にシンプル

新しい交通システムのデザインに向けた,人間の運転行
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動を採り入れた交通シミュレーションへの要請
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マルチエージェントシミュレーションの実例
- 交通シミュレーション(2) 運転シミュレーション
大規模交通シミュレーション
適用
適用
観測データ
運転モデル
参加
インタビュー
車両
エージェント
施策評価・分析
適用
領域知識
実世界
(フィールド)
適用
改善
交通制度
シミュレーション
実施者
参加型シミュレーションの結果から得る運転モデルの挙動と
交通流を大規模交通シミュレーションで可視化
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 実世界に適用する制度の効果を検証・分析

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マルチエージェントシミュレーションの実例
-タイの農業経済シミュレーション(1) 農業経済問題の理解・問題点の把握のために参加
型シミュレーションを実施

タイ島北部における土地利用の変化の理解
市場では,米の価格の下落とサトウキビ価格の安定
が見られる.農民は高台の一部でサトウキビを栽培
し,一方で低地での米作も継続している
農民の栽培作物の決定に関する意思決定プロセスの
理解と将来の土地利用の検討が目的
専門家と農民(ステイクホルダー)が共同で参加型シミュ
レーションを実施
 農民の意思決定モデルの獲得が課題
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

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マルチエージェントシミュレーションの実例
- タイの農業経済シミュレーション(2) -
RPG
インタビュー
インタビュー・
RPGログ
の分析
初期モデル
の改良
初期モデル
の作成
マルチエージェント
シミュレーション
シミュレーション
結果の分析
文献・調査結果に基づく初期エージェントモデルを構築
 RPGの実施・ステークホルダーへのインタビュー・結果
の分析に基づくモデル改良の反復
 改良されたエージェントモデルに基づくシミュレーション
実施・結果の分析に基づくモデルの改良の反復

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マルチエージェントシミュレーションの実例
- タイの農業経済シミュレーション(3)-

農業システムの専門家・社会学者により作成されたモ
デルを農民が参加したRPGを通して改良



どの品種を,どこに,どのように作付けするかを決定
売却量と売却益(仮想貨幣を利用)を記録
RPGの過程での意思決定に関してインタビューを実施
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マルチエージェントシミュレーションの実例
- タイの農業経済シミュレーション(4) 意思決定プロセスを決定木で定義

機械学習による洗練化と農民との対話による改良
[初期モデル]
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マルチエージェントシミュレーションの実例
- タイの農業経済シミュレーション(4) 意思決定プロセスを決定木で定義

機械学習による洗練化と農民との対話による改良
[RPGの結果から導いたモデル]
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マルチエージェントシミュレーションの実例
- タイの農業経済シミュレーション(4) 意思決定プロセスを決定木で定義

機械学習による洗練化と農民との対話による改良
[最終モデル]
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むすび
- マルチエージェントシミュレーションの利用に関する考察  シミュレーション結果をどのように解釈するか?


仮想空間でのシミュレーション結果と,実空間の観測結
果を同一視するのは危険な態度である
エージェントモデルと環境設定の検証,結果の論理的説
明がされるべき
 シミュレーションの目的は現象の再現に限らない


シミュレーションは未来の社会をデザインするための対
話を促進するツールとなり得る
参加型シミュレーションは社会を変革するための,ニー
ズ・メカニズムの共創の手段を提供できる
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むすび
- シミュレーションプラットフォーム 



gumonji/Q (2008 -)
 モデル定義にシナリオ記述言語Qを利用
 http://www.gumonji.net/cgi-bin/doc_gumonjiq.cgi
Repast (2000 -)
 Java・Python・MS.Net
 http://repast.sourceforge.net/
NetLogo (1999 -)
 独自のスクリプト言語を利用
 http://ccl.northwestern.edu/netlogo/
MASON (2003 -)
 Javaから利用できる
 http://cs.gmu.edu/~eclab/projects/mason/
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