豚繁殖・呼吸器症候群

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Transcript 豚繁殖・呼吸器症候群

豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)
porcine reproductive and respiratory syndrome
届出伝染病 対象家畜; 豚、いのしし
病原体: アルテリウイルス属、豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(単
鎖の+RNA)、北米型と欧州型の二つの遺伝子型に分類される。
伝播: 全ての日齢の豚に感染し、多様な病態を示す。鼻汁、唾液、
尿、糞便、精液にウイルスが排泄され、主に、接触や交配による水平
感染と胎盤を介した垂直感染により伝播する。
臨床症状: 妊娠後期の流死産が特徴であり、産子は、正常、虚弱、
白子、黒子と様々である。哺乳豚では、虚弱、呼吸困難、開脚姿勢、
高い死亡率を示し、離乳・肥育豚では、食欲不振、咳を伴わない呼吸
困難(ヘコヘコ病)、被毛粗剛、増体率の減少、死亡率の上昇がみら
れる。不顕性感染も多くみられるが、他の様々な呼吸器病原体と混合
感染し、病態を悪化させる。
予防・治療: オールイン・オールアウトによる感染環の遮断、農場外
からの侵入防止といった総合的な飼養衛生管理。病態の軽減を目的
として、北米型生ワクチンが用いられている。また、他の呼吸器病原
体の対策を講じ、混合感染による病態の悪化を防ぐ。
マクロファージは生体防御
の重要な役割を果たしており、
細菌やウイルスを飲込んで消
化し、排除してくれる。
PRRSウイルスはマクロ
ファージに抵抗性であり、逆に、
マクロファージ内で増殖してマ
クロファージを破壊してしまう。
40%のマクロファージが破壊さ
れたとの報告もある。
肺胞マクロファージに対す
る親和性がとくに高く、破壊に
よる免疫力低下により、他の
病原体(Streptococcus suis
など)の感染も起きやすくなり、
重度の肺炎に陥る。
ThePigSite
Healthy macrophage
Dead macrophage
SKIN LESIONS. Note the tiny black lesions
and the larger ones beneath the hair.
ミイラ化した胎児
Ear oedema in older pigs
"Blue-Eared Pig Disease"
死産胎児
PRRSワクチンを接種してい
ない農場の調査成績
米国では1980年代に重大な被害
を蒙ったが、現在もワクチン接種、
新規導入時の検査、all-in/allout等による制御が続いている。
2006年9月から半年間の全国調
査(NAHMS)で、185農場(6,234
サンプル)の内、ワクチン接種を
受けていない173農場(5,793サン
プル)のELISA抗体陽性率をまと
めた。
農場別では71.1%、個体別では
49.8%が陽性であった。個体別陽
性率が30%未満の農場が約半数
だったが、90%以上の農場が
36.4%もあった。このように、米国
においては依然としてPRRSの浸
潤は止まっていない。
PRRS Seroprevalence on U.S.
Swine Operations, 1/2009
飼育規模別抗体陽性率
個体別陽性率からみた農場の割合
米国の農場規模別にみたワクチン接種率
小規模
<2,000
Mycoplasma
PRRS
Swine influenza H1N1
Swine influenza H3N2
Both H1N1 and H3N2
Either H1N1 or H3N2
46.3
7.9
6.7
6.0
6.0
6.7
中規模
<5,000
大規模
>5,000
62.2
9.8
22.1
19.7
17.5
24.4
81.2
13.6
20.0
20.0
20.0
20.0
全体
52.6
8.8
10.4
9.6
9.2
10.8
繁殖豚のPRRSワクチン接種率
小規模: 24.4、中規模: 28.6、大規模: 34.0、全体: 27.3
肥育・仕上げ豚の接種率は 0%であり、負担費用が接種率を左
右している。その他に、疾病発生率、被害の大きさ、ワクチンの有
効性、社会的影響などが絡んでいる。ちなみに、インフルエンザ
の接種率は、肥育・仕上げ豚でも 4%程度である。
Monitoring and Surveillance for Animal Diseases, 2009
年間頭数
年間戸数
わが国では1990年代以
降に発生するようになった
新興感染症である。現在、
全国的に発生がみられ、生
産の重大な障害となってい
る。
届出状況は、年間30件
程度で、氷山の一角と考え
られる。滋賀県で1件1250
頭の発生報告があった
2002年の頭数が突出して
いるが、平均して1件当たり
11頭である。
日本国内発生の実態が
十分に把握されておらず、
衛生行政と畜産団体との協
力をさらに推進する必要が
ある。
届出状況から判断すると、
顕著な季節性は認められな
いが、夏場にやや低い。
4℃、pH7.5前後では、ウ
イルスは数日から数週間、
水中では11日間以上生存
するが、至適環境状態が変
化する(乾燥など)と数時間
で死滅する。水洗、消毒、乾
燥の洗浄工程が有効。
月別総戸数
感染後ウイルスを少なく
とも5ヵ月間保有し、糞便中
に40日間排出する。経鼻的
暴露が他の感染ルート(経
口、経膣、経眼)よりも感染
し易いとされており、豚同士
の濃密な接触を避けること
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 が大切である。
月別平均頭数
35
30
25
20
15
10
5
0
初発生農場では、異常産
が爆発的に発生し、黒子・白子
胎子などの死産がみられるほ
か、虚弱な生存子豚も混在し、
ときに神経症状を示すものが
みられる。常在化してくると、異
常産は散発的な発生となり、
離乳子豚の呼吸器障害が目
立つようになる。感染子豚は発
熱と重度の呼吸促迫または腹
式呼吸などを示すほか、眼瞼
浮腫、結膜炎、下痢、嘔吐など
の症状もみられる。呼吸器障
害は細菌やマイコプラズマとの
二次感染や複合感染によりさ
らに悪化することが多く、発育
は遅延してひね豚の発生が目
立ち、死廃率も高くなる。
黒子・白子の娩出
(北海道農政部酪農畜産課)
虚弱子の股開き
病勢鑑定指針
家
保
(1) 疫 学 調 査
(2) 臨 床 検 査
(3) 剖 検
動
衛
研
(5) 病理組織学的検査
(免疫組織化学)
(6) ウイルス学的検査
(4) 血清学的検査
(蛍光抗体法、ELISA)
(7) PCR検査
判 判定は病理組織学的検査、血清学的検査及びウイルス学的
定 検査またはPCR 検査の総合による。
高病原性PRRS(Highly Pathogenic PRRS)
2006年、中国において高致死率の豚疾病が発生し、200万頭以
上が感染、40万頭以上が死亡した。当該発病豚より共通して豚繁
殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスが分離され、従来の育成・肥
育豚の呼吸器病や母豚に死流産などの繁殖障害を主徴とする
PRRSとは異なり、離乳豚、育成・肥育豚、母豚、雄豚のどのステー
ジにあっても高致死率を示すことから、高病原性PRRSと呼ばれるよ
うになった。
動物衛生研究所
中国には世界の約
半数の豚が飼育されて
おり、社会経済的影響
が大きかった。さらに、
ベトナム、カンボジア等
の東南アジア諸国へ拡
大し、越境性疾病として
FAO/OIEによる監視と
制御が続けられている。
発症豚
(ベトナムDAH, NCVDより提供)
ウイルスの進化
の速度は、我々
の想像を上回る
Type 1: European genotype(1990年)
Type 2 : North American genotype(1987年)
PRRSウイルス67株の全ゲノム配列に基づく系統発生学的関係
EMPRES: PRRS virulence jumps and persistent circulation in Southeast Asia
中国やベトナムの養豚経営
の大半は零細であり、ほとん
どの農場で全滅した。
耐過して免疫を獲得した個
体がいない
2回目の発生においても、
初回と同様の流行が見られた。
:症例なし
:1~10頭
:11~30頭
:31~50頭
:50頭以上
:発生あり
:疑われる
:データなし
検疫をすり抜
けて日本に生体と
して搬入される可
能性は低い。
資材や人に付
着して運ばれる。
発症豚は、耳介、口、鼻、背部および大腿部内側に、発赤、点状出
血、紅斑性発疹が認められ、その他、高熱(40-42℃)、沈うつ、食欲
不振、咳、呼吸困難、跛行、震えおよび下痢が認められる。罹患豚の
症状の進行は5~20日の幅があり、3~5日で農場内のほとんどの豚
が罹患する。罹患率は50~100%、死亡率は20~100%に達する。肥
育豚にも死亡が認められる。死亡豚の解剖では、出血と水腫を含む
肺炎、脾臓の梗塞、胆嚢の拡張、腎臓の点状出血、その他、心筋、肝
臓、大脳、リンパ節、関節に病変が認められる。
肺炎
腎臓の点状出血
診断法: NSP2にアミノ酸
30個の欠損があることから、発
生国では、この部位を含むプラ
イマーを設計し、高病原性
PRRSウイルスを検出する方法
が用いられる。
我が国の対応: 類似疾病
が発生した場合は、最寄りの家
畜保健衛生所に連絡する。豚コ
レラとの類症鑑別を行う。
○ 高病原性PRRSの発生している中国や東南アジアの国々は、
口蹄疫、豚コレラなどの発生国でもあり、これらの国からの偶蹄類の
動物、肉等の輸入は禁止されている。
○ 農家や畜産関係者の方々は、これらの国々を訪問した際には、
● 家畜を飼育している農場などへの立ち入りは極力避ける。
●やむを得ず農場などの家畜関連施設へ入ったり、家畜に触れた
場合には、病原体が人や物に付着しているおそれがあるので、帰国
時に動物検疫所のカウンターに立ち寄る。