高エネルギー ハドロン物理学 研究室

Download Report

Transcript 高エネルギー ハドロン物理学 研究室

Slide 1

高エネルギー
ハドロン物理学
研究室
(平野研究室)
現在のメンバー
• 平野哲文(講師、2006年10月着任)
• 門内晶彦(M1)
• 大学院生募集中
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 2

ある梅雨の日の昼下がり

平野研究室に一人の学生が
研究室訪問にやってきた。
いつもの通り、いつもの質問
からスタートする…。

http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 3

はじめに
平野:我々の周りの物質は何から
できているか知ってる?

学生:実験的に見つかっているのは
「クォーク, レプトン + ゲージ粒子」
ですよね。
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 4

平野:問題が簡単過ぎた?
学生:先生が授業で話していました
よね?それに、そんなの物理学専攻
を目指す人なら常識ですよ。
平野:それなら、似たような質問を
ちょっと言い方を変えてみようか。
「クォークのような最小構成要素が
あらわな自由度として振舞う多体系
の意味での物質は?」
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 5

学生:「あらわな」と「多体系」がキー
ワードですね。確かに「物質」というと
たくさんの粒子が集まっているイメージ
ですよね。

確かクォークはカ
ラーを持っていて、
核子に閉じ込めら
れているって授業
で言っていたよ
なぁ。。。

http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 6

平野:良い着眼点だね。例えば、君の周
りの空気だって酸素や窒素でできていて、
それらは結局のところクォークからでき
ているよね。
学生:はい。
平野:でも、空気の状態方程式を知るの
に、わざわざクォークの物理を持ち出す
人はいないよな。
学生:たしかに。

http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 7

平野:実はクォークはこれまで単体で見
つかったことがないんだ。

学生:(やはり正しかったな。。。)
平野:しかし、超高温になると核子に閉
じ込められていたクォークがこのように

あらわに動き出すと考えられているんだ。
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 8

学生:超高温ってどのくらいの温度です
か?

平野:最近の理論計算では2兆度くらい
と言われているんだ。
学生:ゼッ、ゼットン*2匹分ですね!
ゼットンの
絵は著作権
上問題があり
そうなので
載せていま
せん。

(注*)ウルトラマンに出てくる
ゼットンは1兆度の火の玉を吐く
といわれている。

http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 9

平野:君、よくそんな古い話を知ってい
るね。いったい歳いくつなの?

学生:いやぁー。
平野:でも、温度は示強変数だから、足
し算をするのは、いただけないなぁ。
学生:はぁ。

学生: (気を取り直して)ともかく、
クォークの気体のような状態ですね。
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 10

平野:「気体」と決め付けるのは、まだ
早いね。そもそも、「気体」なのか「液
体」なのかも、クォーク物質の物性を知
る上で重要なトピックだよ。
学生:そんな基本的なことすら分かって
いないんですか?
平野:逆に言えば、研究することがいっ
ぱいあるってことじゃない?
(と、より詳しい話をし始める平野であっ
た。)
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 11

平野:まずは登場人物たちを簡単にまと
めてみようか。
主人公たち
物質粒子:クォーク
ゲージ粒子:グルーオン
脇固め
ハドロン(クォークの閉じ込め)
主人公たちのルール
量子色力学(QuantumChromo Dynamics,QCD)
主人公の振る舞い
クォーク・グルーオン・プラズマ
(Quark Gluon Plasma,QGP)
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 12

平野:主人公であるクォークやグルーオ
ンたちを支配するQCDは面白い特徴を
持っているんだ。その一つは「クォーク
の閉じ込め」。

学生:クォークと反クォークを結ぶポテ
ンシャルに無限に大きな壁があるという
ことですよね?
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 13

QCDの結合定数

平野:もう一つは漸近的自由性。

エネルギースケール

学生:最近のノーベル賞でしたね*。結
合定数が高エネルギーで小さくなるとい
うやつ。
*2004年にGross,Wilczek,
Politzerが受賞している。
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 14

平野:この二つの特徴から大きなエネル
ギーでクォーク間の距離を縮めるとクォー
クグルーオンプラズマができると考えら
れている。

平野:例えば、この図のようにハドロンに
1.圧力を加える、2.熱を加える
という方法が考えられる。
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 15

学生:でも熱を加えるといっても1兆度
のオーダーですよね。
平野:ビッグバン直
後はすごく熱かった
のでQGPの研究は
初期宇宙の理解も目
指している。

学生:でも熱を加え
たわけではなくて、
大昔に存在していた
だけだよな。
(ぼそっ。)
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 16

平野:そこで登場するのが加速器実験。
学生:加速器って新粒子を発見するだ
けではないんですね。
平野:このように重い原子核を光速の
99%以上に加速する。

注)写真はアメリカ
ブルックヘブン研究
所のRHICという
加速器。
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 17

平野:衝突してたくさんのハドロンが
作られた様子がこんな感じ。
正面から見た図

横から見た図

平野:このように何千個もの高エネルギー
のハドロンが測定されている。時間を逆
にして、これらの高エネルギー粒子が原
子核のサイズに押し込められているとすると…。
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 18

学生:なるほど、高温物質が作られたと
考えられますね。

平野:つまり、衝突の運動エネルギーを
熱のエネルギーに転化させて、高温物質
を作るという仕組みだよ。
学生:でも、2兆度なんて高い温度、ど
うやって計ったんですか?
平野:太陽の温度だって、測定された光
のスペクトルから分かるよね?同じよう
に、測定されたハドロンのスペクトルか
ら、分かるんだ。
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 19

平野:私が感じているQGPの物理の魅
力をまとめてみよう。この魅力を共有で
きる学生が多く志望してくれるといいなぁ。
• 電磁気力ではなく「強い力(QCD)」が基礎理論
となる物質の物理
• 高温・高エネルギー密度物質のフロンティア
• 人類が手にできる究極の物質作り
• ビッグバン直後の原始宇宙を実験室で再現
• アカデミックなネタと違って、実験データと
付き合わせながら物理を理解できる
• 宇宙と共に進化してきた我々の物質の起源を
理解
• LHC加速器も動き出す良き時代
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 20

平野:簡潔に研究課題をまとめると

クォークとグルーオンの
(相対論的)熱力学、
(非平衡)統計力学、流体力学
というわけだ。
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 21

学生:先生、もう少し具体的に教えても
らえますか?

平野:具体的に書くときりがないが…。
1. 流体数値シミュレーションに基づくQGP輸送と状態方
程式の研究
2. 相対論的粘性流体の数値シミュレーション
3. ハドロンガスの運動学的記述と輸送現象の研究
4. 高エネルギー重イオン衝突の統合的模型の構築
5. 高エネルギージェットや重いクォーク、重い中間子をプ
ローブとしたQGPの研究
6. ジェット相関のエキゾチックな構造
7. 高温QGP物質からの熱輻射
8. ストレンジネスを含む粒子の輸送
9. 2粒子相関を用いた粒子源サイズ
10. カラーグラス凝縮の重イオン衝突への応用

平野:ホームページに載せておくから、
あとでじっくり眺めてみてね。
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 22

平野:これらのトピックは大きく次の二
つに分けられる。
1.衝突によって作られたQGP
の振る舞いを調べる。
2.衝突によって作られたQGP
にプローブを入れる。

この二つを簡単に紹介しておこう。

http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 23

平野:相対論的流体力学を用いたQGP
の時空発展シミュレーションはこんな感
じ。

平野:左は衝突軸に垂直な面、右は散乱
平面でのQGPの時間発展を表している。
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 24

学生:流体力学を考えると何が分かるの
ですか?
平野:流速は圧力勾配、すなわち

によって作られる。したがって、流速に
関わる物理量から、QGPの状態方程式
の情報が得られると期待されている。

http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 25

平野:これは数年前のasahi.comの記事。

この実験結果に我々は理論側から大きな
寄与をしているんだ。
学生:ふーん、クォークは「液体」だっ
たんですね。
平野:もちろん単体ではなくて、たくさ
ん集まったらだけどね。
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 26

平野:でも、現在の実験で得られた状
況での話だよ。
平野:今後LHC実験のように更に高
温の物質が作れれば、気体のように振
舞うかもしれないしね。
学生:温度によって、振る舞いが違う
のは当然ですね。

http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 27

平野:もう一つは「トモグラフィー」と
呼ばれている手法。
学生:初めて聞く言葉です。
平野:でもCTスキャンという言葉なら
聞いたことあるでしょ。

平野:この「T」はトモグラフィーの略
なんだよ。
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 28

平野:未知のものに分かっているものを
通過させて調べる「非破壊検査」のよう
なものだよね。

http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 29

平野:つまり、未知の物質であるQGP
にプローブをこんな感じで入れるという
わけ。
ジェット・トモグラフィ

y

Color: parton density
Plot: mini-jets

J/psi
c
c bar

J/psi抑制

Au+Au 200AGeV, b=8 fm
transverse plane@midrapidity
Fragmentation switched off

x

http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 30

学生:でも、さすがに外からプローブを
打ち込むわけにもいかないですよね。

平野:その通り。そこで、衝突によって
同時にできる、高エネルギー粒子や、レ
アな粒子に注目する。
学生:なるほど。
平野:それらを捕らえることができれば
QGPの情報を引き出せるというわけ。
LHCの重イオン衝突でも、主要な手法
と考えられている。
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 31

平野:研究している大きなトピックはこ
んな感じかな。
学生:先生、興味がでてきたのですが、
理論とかコンピュータに自信がありませ
ん。
平野:最初から自信のある人なんていな
いよ。大事なのは、、、

興味とやる気とプロ意識。
学生:少し安心しました。
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 32

学生:物理学専攻の中にはいくつか
QGPの研究をしている理論や実験
の研究室があるみたいなのですが…。
平野:基本的には皆同じ目標に向かっ
て進んでいるよ。実際、密接に活動
しているし。ただ、それぞれの研究
室はそれぞれ特徴的な手法を持って
いるんだ。
学生:なるほど。

平野:平野研では実験結果を基にし
たQGPの理論的・現象論的理解を
目指している。いわば、、、、、、

http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 33

観測的QGP論
とでも言おうか。
学生:つまり、理論と実験がお互い結果
をつき合わせて、QGPの物理を作りあ
げて行こうということですね。
平野:そういうことだね。興味があれば、
是非、うちの研究室を志望してみてね。

http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/


Slide 34

より詳しく知りたい方は
高エネルギーハドロン物理学研究室
場所
理学部1号館9階906号室
問い合わせ先
hirano_at_phys.s.u-tokyo.ac.jp
研究室ホームページ
http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp
/qgphydro/
高エネルギーハドロン物理学

検索

検索してね!

http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/qgphydro/