第1章 ミクロ経済学とは何か

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第1章 ミクロ経済学とは何か
1.1 経済活動を説明する基本用語
■ 財と経済活動
財goods: 欲望の充足に役立つ物的手段である。
広義の財
狭義の財(物理的な財): パン,米,衣類など
サービス(非物理的な財):
タイピストや通訳の働き,レンタカーの働きなど
自由財(取引の対象にならず): 空気,太陽光
経済財(取引の対象になる): 通常の商品など
↑
人間の欲望を満たすほど十分に存在せず稀少であ
り,経済学の研究対象になる。
ミクロ経済学(Ⅰ)
1
第1章 ミクロ経済学とは何か
1.1 経済活動を説明する基本用語
■ 財と経済活動
稀 少 性
稀少scarcity: 財・サービスへの欲望に比べて存在量が少
ないという相対的な概念である。
稀少な財・サービス
→ 経済財
人間の欲望を満たすに十分 → 自由財
以上存在する財・サービス
資源resources:人間の欲望を満たす財・サービスを生産す
るための投入物として用いられ,生産要素とも呼ばれる。
自然の資源,労働,土地,資本財を含む。
資源が稀少であるとは,生産を通して人間の欲望を満たす
ほど十分に資源が存在しないということである。
ミクロ経済学(Ⅰ)
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第1章 ミクロ経済学とは何か
1.1 経済活動を説明する基本用語
■ 財と経済活動
欲望の
非飽和性
多くの財goodsを含む
物的欲望一般は,どこ
まで満たされても限り
がない。
↑
財goods:欲望の充足
に役立つ物的手段
ミクロ経済学(Ⅰ)
資源の稀少性
scarcity
資源量が有限かつそれを用いてつくり
出せる生産物の量も限度がある。資源
はわれわれの欲望に比して相対的に稀
少している。
↑
資源resources:財の生産に利用でき
るすべてのものをいい,労働力や企業
者能力のような人的資源をも,土地や
機械,建物のような物的資源をも,全
部そのなかに含んでいる。
選択 choices:資源を如何に効率的に活用する。
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第1章 ミクロ経済学とは何か
1.1 経済活動を説明する基本用語
■財と経済活動
選択
choices:
資源が限られている以上,何をどれだけ生産
するかという判断,即ち限られた対象から最適
なものを選択することが必要になる。選択は競
合する複数の対象があってこそ,問題になる。
家計の選択
企業の選択
政府の選択
それらの選択は相互に影響しあ
い,また相互に依存しあう。その相
互依存の仕方によって,稀少資源
の活用方法は異なったものになる。
ミクロ経済学(Ⅰ)
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第1章 ミクロ経済学とは何か
1.1 経済活動を説明する基本用語
■3つの経済主体
経済主体: 家計household・ 企業firm ・ 政府Government
経済主体間の相互依存関係は,実際に非常に複雑である。
それらの関係を分析する際,単純化した経済モデルを構築して分
析を行う手法がよく利用される。
重要な仮定:
家計・企業などの経済主体が合理的である。
ここで合理的とは,目的が与えられたとき,それらの経済主
体はその目的に適した行動を取るという意味である。
家計の目的: 効用(満足度)を最大化する。
企業の目的: 利潤を最大化する。
政府の目的: 国民全体にとって豊かな住みよい社会を
ミクロ経済学(Ⅰ)
実現する。
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第1章 ミクロ経済学とは何か
1.1 経済活動を説明する基本用語
■3つの経済主体
経済主体: 家計household・ 企業firm ・ 政府Government
市場経済では家計,企業,政府が互いに依存し合い,影響
し合い,生産・分配・消費の経済循環が行われる。
経済主体
目的
経済活動
家 計
効用最大化
消費者としての行動: 消費など
生産要素の供給者としての行動: 労働提供など
企 業
利潤最大化
生産者としての行動: 製品供給
生産要素の需要者としての行動: 労働雇用など
政 府
よい社会の実現
ミクロ経済学(Ⅰ)
租税を徴収するなど
公共サービスを提供するなど
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循環構造
民間部門・政府の経済循環の流れ
貨幣供給
を制御する
circular flow
需要(輸入)
貯蓄
支出
需要
支出
海外市場
貨幣市場
家 計
租税
供給
収入
供給
収入
政
租税
府
公共
サービス
企 業
支 需
出 要
所得
供給
所得
供給
ミクロ経済学(Ⅰ)
政府国債
需 支
要 出
公共
サービス
財・サービスの流れ
費用
収入
消費財市場
需要
支出
直接的消費
用役市場
供給(輸出
貸出 )
中央銀行
需要(輸入)
生産用役市場
資本・中間財
市場
費用
需要
費用
需要
貨幣の流れ
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第1章 ミクロ経済学とは何か
1.1 経済活動を説明する基本用語
■市場
市場market: 財・サービスの取引の場である。
市場の分類
①取引される内容による分類: 財市場,労働市場,金融市場など
②取引される場所による分類: 国内市場,国際市場など
③取引の契約と成約の時間差による分類: 現物市場,先物市場
④経済学的な概念としての分類(市場形態):
完全競争市場,不完全競争市場(独占市場,寡占市場)など
■市場機構と価格の働き
完全競争市場における経済主体は,市場価格に応じて需要あ
るいは供給を調整する。同時に市場価格は需要と供給のバラン
スによって変化する。
ミクロ経済学(Ⅰ)
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第1章 ミクロ経済学とは何か
1.1 経済活動を説明する基本用語
■市場機構と価格の働き
完全競争市場における経済主体は,市場価格に応じて需要あ
価格の変化を通じて需要と供給を一致させる働きは価格の自動調整機能である。
るいは供給を調整する。同時に市場価格は需要と供給のバラン
このような機能を持つ市場あるいは価格のメカニズム(機構)を市場機構あるいは
価格機構という。
スによって変化する。
家計:生産物の買い手
資源の供給者
企業:生産物の売り手
資源の買い手
市場:需要量 > 供給 の場合
↓
価格↑・ 需要↓・ 供給↑
需要量 < 供給 の場合
↓
価格↓・ 需要↑・ 供給↓
ミクロ経済学(Ⅰ)
代金支払
家 計
商品需要
労働供給
要素市場
生産物市場
価
格
S
0
D
財の量
売上収入
所得収入
価
格
S
0
D
労働
労働需要
商品供給
企 業
賃金支払
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第1章 ミクロ経済学とは何か
1.2 経済学手法
■合理的行動
経済主体:経済活動に携わって意思決定をする主体である。
経済学は,経済主体が合理的な行動をしているという前提で理
論構築してきた。
合理的行動: 経済主体が経済的な目的を達成するために,所与
の制約の中で,最適な意思決定を行う。
この理由で,経済学が「制約付きの最適化問題を用いて分析
する学問である」とも言われる。
合理的な経済主体の前提は,現実と一致しないことがあるかも
しれないが,経済理論の構築に有益なアプローチである。
ミクロ経済学(Ⅰ)
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第1章 ミクロ経済学とは何か
1.2 経済学手法
■他の条件一定
経済学の理論分析では,議論対象に影響を与える重要と思われる要
因のみを抽出して考察するアプローチはしばしば用いられる。その時に
他の要因は変化しないことを前提としている。
「他の条件を一定とする」の下で,重要と思われる要因が議論対象に
どのような影響を与え,またはどのように影響するかを分析する。これに
よって,複雑な経済現象を明快に説明することができある。
■経済分析の方法
すべての財および生産要素の市場とその関連を,同時に分析する方
法は一般均衡分析と呼ばれる。
一般均衡分析が難しいため,単純に他の財や生産要素の価格を一定
として,ただ1つの財(あるいは生産要素)の市場だけを分析する方法は
部分均衡分析と呼ばれる。
ミクロ経済学(Ⅰ)
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第1章 ミクロ経済学とは何か
1.2 経済学手法
■経済分析の方法
すべての財および生産要素の市場とその関連を,同時に分析する方
法は一般均衡分析と呼ばれる。
一般均衡分析が難しいため,単純に他の財や生産要素の価格を一定
として,ただ1つの財(あるいは生産要素)の市場だけを分析する方法は
部分均衡分析と呼ばれる。
注意すること:
経済全体の間の相互依存,多数の市場の相互依存を無視すると,
誤った結論に導かれることがある。
一部分について正しいということが,全体としても正しいとは限らない。
もし,一部分についてのみ正しいことを,全体についても正しいという錯
覚をした場合,それを合成の誤謬と呼ぶ。
ミクロ経済学(Ⅰ)
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第1章 ミクロ経済学とは何か
1.2 経済学手法
■経済分析の方法
ミクロ的な分析: 各々の経済主体の行動を考察し,それらの行動が会
全体の資源配分の効率性や国民厚生などに与える影響を分析する。
マクロ的な分析: 経済主体の行動結果として,様々な集計経済指標(マ
クロ的なデータ)間の関係を考察し,社会全体に与える影響を分析する。
経済を
見る視点
ミクロ経済学(Ⅰ)
ミクロ経済学microeconomics: 経済を構成する主体で
ある企業や家計の行動と個々の市場の動きを詳
細に分析する。
マクロ経済学macroeconomics: 経済全体の行動に注
目し,失業,インフレーション,経済成長,貿易収
支などの集計的な経済変数の動きを分析する。
ミクロ経済学とマクロ経済学は,同じ経済現象を異なった方法に
よって見ているのである。マクロ経済学での経済全体の行動は,ミクロ
経済学では個々の経済主体や市場の動きと密接に関連してくる。
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第1章 ミクロ経済学とは何か
1.2 経済学手法
■動学と静学
経済分析において,経済変数が時間の経過につれて変化することを
明示的に考慮して分析する手法は動学分析である。逆に,複雑な分析
をより簡単化するために,時間を捨象して,経済変数の変化が外生的な
所与として扱うような分析は静学分析である。
■機会費用
費用: ある財・サービス,あるいは生産要素を得るために,支払う金額,
またはその他の交換物あるいは生産要素のことである。
機会費用: ある財・サービスを得るために,あるいはあることを実現す
るために,支払わなければならない何らかの犠牲である。
① 企業は有限な資金を持って,ある事業に投資したら,別の事業へ
の投資から得る収益を犠牲にしなければならない。この犠牲収益は最
初の投資の機会費用である。
② 講義に出ることによって,この時間はその他の利用を犠牲にして
いる。このような犠牲は講義の機会費用である。
第1章 ミクロ経済学とは何か
1.3 経済学の特徴
■経済学の基本問題
経済学の定義
経済学とは,「稀少な財・資源を,競合する目的のために選択・分配する
仕方を研究する学問」ということができる。
社会における稀少な資源をどのように使用するかは,多数の個人や企
業,さらに政府や官僚による諸々の選択によって決定される。このような個人や
企業の選択および経済全体での稀少資源の使用方法は経済の主要な問題と
なる。
経済学の主要な問題
① 何を,どれだけ生産されるか
② これらの財はどのように生産されるか
③ これらの財は誰にどれだけ分配するか
第1章 ミクロ経済学とは何か
1.3 経済学の特徴
■経済学の科学的性格
経済学は社会科学(social science)の一つであり,選択にかかわる
経済問題を系統的に分析し,社会全体の経済問題の解明と改善を研究
するものである。
経済学は科学であるから,現実の経済現象をあるがままの姿で観察
し,経済現象にとって本質的であると思われるものを抽出して,反証可
能な形で経済理論を構築していく。出来上がった理論が現実の経済現
象をうまく説明できなかったときには,理論を修正する必要がある。
観察の理論依存性(図形の例)
現実と抽象(地図の例)
実験性
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1.3 経済学の特徴
■経済学の科学的性格
理論theory: ある仮定(または仮説)を前提とし,それから論理的に結
論を導き出すことである。理論を構築する場合にはモデルmodel(分析
対象である経済問題にとって重要と考えられる要素だけに注目する模
型)が用いられ,モデル分析から,さまざま経済変数variableがどのよう
に関係し,どのように変化するかを理論的に推測することができる。
こうした経済変数の間の系統的な関係は相関関係correlationと呼ぶ。
経済問題を系統的に説明するために,そのための理論を構築し,か
つそれに関するデータを検証しなければならない。
検証verification: 理論的な推測が正しいかどうかは,データdata(多
くの財やサービスの価格や販売量,賃金,利子率などのさまざまな変
数)を用いて検証することができる。
こうした変数間の関係を検証するには統計学的手法を利用するが,
経済学の分野では計量経済学econometricsと呼ぶ。
第1章 ミクロ経済学とは何か
1.3 経済学の特徴
■経済学の科学的性格
経済問題を系統的に説明するために,そのための理論を構築し,か
つそれに関するデータを検証しなければならない。
検証verification: 理論的な推測が正しいかどうかは,データdata(多
くの財やサービスの価格や販売量,賃金,利子率などのさまざまな変
数)を用いて検証することができる。
こうした変数間の関係を検証するには統計学的手法を利用するが,
経済学の分野では計量経済学econometricsと呼ぶ。
また場合によって,実験を行うことによって理論的推論を検証すること
も可能である。近年,実験経済学experimental economicsとして経済
学の一分野となっている。
ヴァーノン・L・スミスVernon L. Smith , 1927- (アメリカ人)
「特に代替的な市場メカニズムの研究において、経験的経済分析
におけるツールとして研究室実験を確立した功績を讃えて」 ,2002
年度のノーベル経済学賞受賞した。
第1章 ミクロ経済学とは何か
1.3 経済学の特徴
■経済学の諸分野
理論分野:
ミクロ経済学,マクロ経済学,・・・・・・
応用分野:
財政学,公共経済学
金融論,金融工学
国際経済学 (国際金融,国際貿易)
地域経済論,開発経済学,都市経済学
経済地理学,空間経済学
産業組織論,労働経済論,経済成長論,環境経済学
人口論
・・・・・・
実証分野:
計量経済学,実験経済学,・・・・・・
そ の 他 : 経済史,経済学史,経済思想,・・・・・・・
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1.3 経済学の特徴
■経済学の諸分野
現実の経済問題に関して議論の多くは,論理的な部分と論理では証
明できない価値観に基づく部分を含んでいる。
実証的positive経済学: 論理あるいは事実をもって証明(実証)できるも
のだけを扱う経済学で,価値観をいっさい含まない純粋に論理的な分野
の経済学である。
現実はどうなっているのか,理論的にはどうなるのかを分析する。
規範的normative経済学: 論理や事実によって証明することのできない
問題を扱い,ある価値基準を導入することによって,その価値基準のも
と(範囲)で,どう問題を解決されるべきかを扱う経済学である。
どうあるべきかを分析する。
厚生経済学,政治経済学(社会的選択問題)
第1章 ミクロ経済学とは何か
1.4 経済学の流れ
十七世紀 国家の形成 官僚と商人 商人の富と国の力との関係
重商主義(Mercantilism)
イギリスとオランダで: 経済著作の大部分は商人 merchants)たちが
書いた。
フランスとドイツで: 経済議論はもっぱら国の役人が書いた
ドイツ: 重商主義は「官房学派 (Cameralism)」(王立chamber を指す
ドイツ語にちなむ)として知られる。
イギリス重商主義はしばしば三つの時期に区分される。
1580年代-1620年代:「金塊主義/地金(じがね)主義」段階
1620年代-1700年代:「伝統」段階 1680年代-1750年代:「リベラル」
段階
重商主義の核心には,成長と富の蓄積との間の正のフィードバックに
対するこだわりがある。活動が増えれば,富が(商人にとっても国にとっ
ても)増え,富が増えれば経済活動が増す。
第1章 ミクロ経済学とは何か
1.4 経済学の流れ
十七世紀
重農主義者 (The Physiocrats)
フランスの宮廷医師,フランソワ・ケネーを中心とする 1760 年代
のフランス啓蒙思想家の一団だった。
重農主義ドクトリンの要石は,フランソワ・ケネー
(1759, 1766) の命題である剰余―彼が呼ぶところの
純生産 (produit net)を生み出すのは農業だけだとい
う考え方だった。
重農主義の議論によれば,製造業は産出を製造
するときに,同じだけの価値を生産の投入として使う
ので,結果として純生産はまったく生み出さない。重
商主義者とは反対に,重農主義者たちは国の富はそ
の金銀のストックにあるのではなく,その純生産の規
模によるのだ,と考えた。
Françis Quesnay
1694-1774
『経済表』1759
経済学の系譜
近代経済学
マルクス経済学
K.マルクス
1818-1883
『資本論』1867
新古典派
F.ゲンゲルス
1820-1895
A.マーシャル
1842-1924
『経済学原理』
1890
古典派
重
商
主
義
重
農
主
義
ミクロ経済学(Ⅰ)
ケインジアン
財政・金融政策
フィスカリスト
財政政策派
J.M.ケインズ
1883-1946
『一般理論』
1936
サミュエルソン
1915『経済学』
1948
限界革命1874
リカード 1772-1823
比較優位の理論
アダム・スミス
1723-1790
『国富論』1776
需要サイト
J.S.ミル
1806-1873
マルサス
1766-1834
『人口論』1798
ケインズ革命1936
ワルラス
1834-1910
ミクロ経済学
マネタリスト
金融政策派
M.フリードマン
1912『貨幣安定』
1959
マクロ経済学
供給サイト
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第1章 ミクロ経済学とは何か
1.4 経済学の流れ
■アダム・スミスの「見えざる手」の含意
経済学の主要な問題
① 何を,どれだけ生産されるか
② これらの財はどのように生産されるか
③ これらの財は誰にどれだけ分配するか
資源量が有限かつそれを用いてつくり出せる生産物の量も限度がある。資
源は我々の欲望に比して相対的に稀少している。
単純な例
資源:一定量
生産可能な財:米,機械
何を,どれだけ
機械だけ最大生産可能な量: OB
米だけ最大生産可能な量: OA
機械
B
G
C
C2
F
生産可能集合
米と機械両方を生産するなら,最大
生産可能な量の様々な組合せ: AB
ミクロ経済学(Ⅰ)
生産可能曲線
(生産可能性フロンティア)
production possibility frontier
0
C1
A
米
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第1章 ミクロ経済学とは何か
1.4 経済学の流れ
■アダム・スミスの「見えざる手」の含意
点FあるいはGの組合せは,米・機械のいずれの量を減らさずに,米か機械
のどちらか,あるいはその両方を増加させることが可能である。点FやGで生
産を行うことは,資源と生産能力を十分に活用していないので,非効率的な生
産と呼ばれる。
単純な例
資源:一定量
生産可能な財:米,機械
何を,どれだけ
機械だけ最大生産可能な量: OB
米だけ最大生産可能な量: OA
機械
B
G
C
C2
F
生産可能集合
米と機械両方を生産するなら,最大
生産可能な量の様々な組合せ: AB
ミクロ経済学(Ⅰ)
生産可能曲線
(生産可能性フロンティア)
production possibility frontier
0
C1
A
米
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第1章 ミクロ経済学とは何か
1.4 経済学の流れ
■アダム・スミスの「見えざる手」の含意
生産可能曲線上では,米あるいは機械のどちらか一方の生産量を減らさず
に,他方の生産を増やすことは不可能であるので,資源と生産能力は最大限
に活用されているといえ,効率的な生産と呼ばれる。
単純な例
資源:一定量
「何をどれだけ」生産するかとは,生産
生産可能な財:米,機械
可能曲線上のどの点で生産するかの選
何を,どれだけ
択である。
機械だけ最大生産可能な量: OB
機械
B
G
C
C2
F
生産可能集合
米だけ最大生産可能な量: OA
その点が選ばれると,逆にその生産を
可能にする(効率的な)生産方法も,すな
米と機械両方を生産するなら,最大
生産可能な量の様々な組合せ: AB
わち,「どのように」生産するかも決まる。
ミクロ経済学(Ⅰ)
生産可能曲線
(生産可能性フロンティア)
production possibility frontier
0
C1
A
米
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第1章 ミクロ経済学とは何か
1.4 経済学の流れ
■アダム・スミスの「見えざる手」の含意
① 何をどれだけ,② どのよう,③ 誰にどれだけ
この3つの問題を解決するためには,利用可能な技術,資源の存在
量,(家計)消費者の選好などの情報が必要である。
市場経済では,価格がそれらの情報を伝える役割を果たしている。
価格は需給一致するように調節される。消費者や企業が,他の経済
主体についての情報を持たなくても,価格というシグナルを見て行動す
ることで,市場全体ではアダム・スミスの呼ぶ「見えざる手」によって導か
れるように,需給が一致する。
生産物市場には,パン・テレビ・住宅など多数の市場,また生産要素
市場には,小麦・労働力・石油などの市場がある。それらの市場は相互
に関連していている。すべての生産物市場と生産要素市場が互いに関
連して,経済全体の「資源配分」と「所得分配」が解決される。
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第1章 ミクロ経済学とは何か
1.4 経済学の流れ
■アダム・スミスの「見えざる手」の含意
生産物市場には,パン・テレビ・住宅など多数の市場,また生産要素
市場には,小麦・労働力・石油などの市場がある。それらの市場は相互
に関連していている。すべての生産物市場と生産要素市場が互いに関
連して,経済全体の「資源配分」と「所得分配」が解決される。
Adam Smith
1723-1790
競争的な市場経済では,価格メカニズムの働きで,経済
学の三つの基本問題に答えを出している。アダム・スミス
(Adam Smith 1723-1790)は『国富論』のなかで,市場機構
(価格のメカニズム)という「見えざる手」に任せれば(自由
放任),理想的な調和の世界が実現できるという考えを示
した。すなわち,各個人が自分勝手な個別の経済活動を
するということと,経済全体の秩序が維持されるということ
が,価格メカニズムによって両立すると考えた。
28
第1章 ミクロ経済学とは何か
1.5 市場経済の限界
■経済体制の分類と経済基本問題の解決
経済体制の分類:
決資
定源
を配
基分
準に
に関
しす
てる
分意
類思
分権制 decentralism:
資源配分に関する意思決定は社会の各成員に分
散して個別的=自主的に行われている。
( 市場経済 market economy )
集権制 centralism:
資源配分に関する意思決定は中央機関に集中して
一元的に行われている。
( 計画経済 planned economy )
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第1章 ミクロ経済学とは何か
1.5 市場経済の限界
■経済体制の分類と経済基本問題の解決
経済体制の分類:
基物
準的
に資
し産
ての
分所
類有
形
態
を
私有制 private ownership:
物的資産が個々の成員によって私的に所有され
ている。
( 資本主義 capitalism )
公有制 public ownership:
物的資産が国によって公的に所有されている。
( 社会主義 socialism )
30
第1章 ミクロ経済学とは何か
1.5 市場経済の限界
■経済体制の分類と経済基本問題の解決
経済体制の分類:
分権制
社会主義 市場経済
混合資本主義経済
資本主義 市場経済
公有制
私有制
社会主義 計画経済
資本主義 統制経済
集権制
現実の資本主義国家の経済は必ずしも純粋の資本主義市場経
済ではなく,かなりの程度の公的所有や政府の立場からする統制の
要素を含んでいる。それらの国々の経済がしばしば「混合資本主義
経 済 mixed capitalism economy 」 ま た は 「 混 合 経 済 mixed
economy」として特徴づけられている。
31
第1章 ミクロ経済学とは何か
1.5 市場経済の限界
■経済体制の分類と経済基本問題の解決
経済基本問題の解決:
社会主義計画経済体制では,市場や競争が存在せず,市場の基本的なメカニ
ズムが機能しない。すべて官僚や政府によって,経済の運営がなされ,コント
ロールされている。
資本主義市場経済体制では,私有財産制度の下で各成員が消費生活の面で
も事業の面でも選択の自由を認められ,各個人の目的を利己的に追求するか
たちで,価格メカニズムを通じて,経済の運営がなされていく。
競争的な市場経済では,価格メカニズムの働きで,経済学の
三つの基本問題に答えを出している。アダム・スミスは『国富論』
のなかで,市場機構(価格のメカニズム)という「見えざる手」に任
せれば,理想的な調和の世界が実現できるという考えを示した。
32
第1章 ミクロ経済学とは何か
1.5 市場経済の限界
■経済体制の分類と経済基本問題の解決
市場機構の調整機能は,「完全競争perfect competition」の状態に
おいてのみ,はじめて十分な役割を果たしうるに過ぎない。
完全競争の特徴:誰もが自分だけの行動によって財の価格を左右しうる
ほどの力を持っていない。
完全競争の成立条件:
①各財の買い手と売り手が多数存在
②各財の製品差別化product differentiationなし
③すべての成員が市場の価格や財の特性について完全な情報をもつ
④企業の市場への参入・退出が自由(自由参入free entry)
33
第1章 ミクロ経済学とは何か
1.5 市場経済の限界
■経済体制の分類と経済基本問題の解決
市場メカニズムが解決できない問題
所得格差の問題:
国と国の間の経済格差問題(いわゆる南北問題)
一国内の地域間の経済格差の問題
分配の問題:
人々の所得格差の問題
環境問題:
市場メカニズムは常に理想的に働くわけではない。自由な経済活
動によって生じる歪みを「市場の失敗」と呼ばれる。それはいわゆる市場
の限界である。
34
第1章 ミクロ経済学とは何か
1.5 市場経済の限界
■経済体制の分類と経済基本問題の解決
混合経済の市場は,経済の基本問題を総じて効率的に解決するが,い
くつかの分野においてはうまく機能しないかもしれないし,またうまく機能し
ていないと考えられていることもある。(いわゆる市場の失敗)
こうした場合に市場機能を補完するためには,政府の活動に頼ることが
ある。
①法的・制度的枠組みの設定
具体的には,
②公共財の供給
③外部効果への介入
④所得の再配分
⑤独占の規制
⑥総需要の管理
など
しかしこれは政府の機能のほんの一部に過ぎないのである。
35
授業の進め方
完全競争市場の下で市場機構 (第2章~第8章)
不完全競争市場の下で市場機構(第9章~第13章)
p
p
需要
支出
0
賃
金
w
0
ミクロ経済学(Ⅰ)
消費財市場
供給
収入
0
x
(
価
格市
がメ場
働カ
くニ機
ズ構
ム
)
家 計
所得
供給
生産用役市場
企 業
賃
金
w
費用
需要
労働供給量
財・サービスの流れ
y
0
貨幣の流れ
労働需要量
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