LHC加速器 - 神戸大学 大学院理学研究科 物理学専攻 粒子物理学研究室

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佐賀大学 物理科学科セミナー
2010/07/07 山崎祐司(神戸大)
*CERN: 欧州原子核研究所


標準模型の予言する質量起源のヒッグス粒子,
標準模型を超える粒子・相互作用の発見が目的
世界最大,
最高エネルギー
の加速器
周長27km
(電子・陽電子衝突実験
LEP トンネルの再利用)
モンブラン
ジュネーブ市街
レマン湖
スイス
CERN
7TeV = 7 兆電子ボルト
(TeV = 10¹² eV)
陽子同士の衝突
重心系エネルギー14 TeV
米Tevatron の7倍
40MHz 衝突
建設期間 14 年
2010/05/13
フランス
2
2010/2011 run:
半分の重心系
エネルギー
2010/05/13
3
答えが,テラスケールに隠されているかもしれない
2010/05/13
4
原子
原子核
(陽子,中性子)
陽子
電子
2010/05/13
クォーク
これ以上分解できない「素粒子」
3世代のコピー
5

3種類の相互作用 + 重力
電磁気,強い力(クォークの閉じ込め)
弱い力(アイソスピン入れ替え)
2010/05/13
6

なぜ,物質は質量を持つのか

暗黒物質,暗黒エネルギーの存在

力は統一されるのか

この世は本当に3+1次元?
… などなど,素粒子の世界はまだまだ謎だらけ
2010/05/13
7

エネルギーと質量は等価 E  mc 2
運動している物体では
E  ( pc) 2  (mc 2 ) 2 p : 運動量
速度との関係 : pc  (v / c) E
 静止しても
m  0 なら E  pc  v  c
エネルギーを持ち続ける m  0 なら E  pc  v  c

質量のある物質は光速に届かない
質量のない物質は光速でしか走れない
質量は,止まる「能力」
2010/05/13
8
Higgs 場からの
「抵抗」が慣性を生む
Higgs 場に付随して
Higgs 粒子が存在
質量:114 GeV 以上
(LEP実験からの下限値)

Higgs 粒子が見つかって,初めて標準模型の完成
2010/05/13
9

電磁相互作用と「弱い力」はすでに統一
 その先は?
2010/05/13
10
銀河の回転速度から
 銀河団の温度や衝突から

2010/05/13
銀河団が衝突し,暗黒物質(青)が先に
進み,普通の物質(赤)が取り残される様子
11


われわれの知っている物質(クォークとレプトン)4 %
(そのうち星として光っているものは,わずか 0.4%)
引力を及ぼすダークマター:23%
▪ 普通の暗い星ではない(重力レンズで見えるはず)
▪ ニュートリノでもない(温度高すぎ)
▪ 未知の素粒子?

斥力のもとダークエネルギー:
のこり全部
▪ まともな仮説すらない
2010/05/13
12
背景輻射
ニュートリノ
LHC
背景輻射の向こうは,
人工的に作るか
ニュートリノで見るか
暗黒物質「で」見るか
2010/05/13
13

降ってくる暗黒物質をとらえる
 もうすぐ

宇宙背景ニュートリノをとらえる
 宇宙始まりの1秒後まで見えるが…検出器開発中

地上で作ってみよう
 暗黒物質,暗黒反物質の
対生成なら,
高エネルギー衝突で作れる
新粒子
陽子
クォーク
陽子
新(反)粒子
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14

超対称粒子:同じ性質を持つ,違うスピンの粒子
 スピン0の「もの」(ボーズ粒子)
 スピン1の「ちから」(フェルミ粒子)
スピン½
フェルミ粒子
スピン0
ボーズ粒子
e電子
2010/05/13
スピン1
ボーズ粒子
スピン½
フェルミ粒子
~e-
γ
~0

スカラー電子
光子
ゲージーノ
15
重い電荷のない粒子
重い
~2

~1

~0

一番軽い粒子はこれ以上崩壊できず,安定
もし超対称性が見つかれば,
素粒子・宇宙のみかたが全く変わる
2010/05/13
軽い
暗黒物質
16

我々の生活では見えない次元が丸まっている
プランクスケールが TeV の可能性もあり
▪ 例:ADD model, 余剰次元 d
4+d 次元でのプランクスケールを
MF として M 2pl  M F2d 2R d
▪ 2次元, 0.1mm ならMF = 1 TeV

余剰次元での「励起順位」から
たくさんの重い粒子が出る
2010/05/13
松本重貴,瀬波大土
日本物理学会誌2008年4月号
解説記事「高次元理論と暗黒物質」より 17

なぜ,物質は質量を持つのか

暗黒物質,暗黒エネルギーの存在

力は統一されるのか

この世は本当に3+1次元?

…
これらの問いの答えが,TeV のエネルギーレンジ
(テラスケール)で見つかる可能性がある
2010/05/13
18
実験の原理 / LHC とCERN,日本 /これまでの歩み
2010/05/13
19

陽子・陽子衝突
(Tevatronまでは
陽子・反陽子衝突)
陽子
陽子の「あまり」
(proton remnant)
 点状粒子=素粒子,
の衝突ではない
 陽子の「なかみ」
=クォーク,
グルーオンの衝突
高い横運動量 pT を持つ
散乱された粒子
• {クォーク,グルーオン} = パートン parton
(ハドロンの構成部分をなす粒子という意味の造語。
強い相互作用に関連する素粒子の総称)
• パートン同士がぶつかって散乱
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20

クォーク,グルーオンとも低い運動量でずっと多い
 同じ質量のものを生成するなら,高エネルギー衝突が圧倒的に有利
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21
ATLAS: 14TeV pp
LHCb: 14TeV pp
日本は高エネ研 (KEK),
東大,神戸大など15の
研究機関が参加
b-クォークの物理
(CP 非保存)に
特化している
このあと,14TeV pp,
ATLAS/CMS の話のみ
CERN研究所
ALICE:
重イオン衝突
加速器:
KEK が協力
Quark-gluon
plasma 生成で
初期宇宙再現
CMS: 14TeV pp
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広大,東大,
筑波大,理研
22

欧州20カ国の国際研究機関
 素粒子現象を加速器を用いて探求する研究所
 スイス・ジュネーブ郊外,フランスとの国境にまたがる

運営
 年間予算 1076 MCHF
(約 1000億) [2008]
 職員数 2544 人
 オブザーバー国:
日本、米国、ロシア、
イスラエル、インド、
トルコ、EU、UNESCO
 利用者数 (2007年末)
8369 人
(うち非加盟国 2991 人,
日本は 182 人)
2010/05/13
23

非加盟国の中で,最初
に建設協力を表明
 LHC建設費 5000億円の
うち,最終的に138.5 億円
を負担
 これをもって,最初の
オブザーバ国に
 また,後日アメリカなど
が加わり,LHCが真の国際
共同実験となるきっかけ
となる
© CERN
1995年6月23日,与謝野文部大臣(当時)が
理事会に出席。右は Llewellyn Smith 所長(当時)。
2010/05/13
24

超伝導双曲磁石
 決まった半径でできるだけ
高いエネルギーに達するには
磁場を強くするしかない
 8.33T, 1232 台の双極磁石
曲率半径 2.8km
 超流動ヘリウム冷却
1.9K
 線材:NbTi
2010/05/13
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衝突点でビームを16μm
まで絞るレンズの役割
磁場勾配= 215 T/m
(ピーク磁場8.4 T)
長さ= 6.37 m
口径 = 70 mm
磁場勾配の精度(制御) : 10⁻⁴ (10⁻⁵)
台数:16 台(KEK) + 16台(Fermilab)
2010/05/13
日(KEK: 高エネルギー加速器研究機構)
米 (Fermilab) 国際協力
26
超伝導ケーブル巻き付け
(東芝京浜工場)
超伝導線材:古河電気工業
クライオスタット(冷却容器)
に入れての試験(KEK)
その他の技術協力:電磁石用特殊鋼(新日鐵,川崎製鉄)
極低温ヘリウム冷却装置(IHI)など
建設への貢献,技術が高い評価を受けている。
2010/05/13
27

ATLAS 実験に参加
シリコン検出器
 約100名 (5% )

ミューオン
トリガー
検出器
検出器建設担当
 ミューオントリガー検出器


(KEK,東京大,神戸大,
信州大,首都大,名古屋大など)
 シリコン飛跡検出器(KEK,
筑波大,岡山大,阪大など)
 超伝導中央ソレノイド(KEKなど)
Grid 計算機センター @ 東大
第2段ミューオントリガー (KEK, 神戸など)
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超伝導中央
ソレノイド
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←日本で設計・製造された超伝導
ソレノイドの組み込み(2004年2月)
6.4cm
シリコンマイクロストリップ
検出器の1モジュール
日本・英・米などで製造された
2112台のシリコン検出器は,
オックスフォード大で円筒状に
組み上げられた。自動マウント
ロボットはKEKで設計されたも
の(2005年1月)。
2010/05/13
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端部ミューオントリガーシステムを
日本・イスラエルが建設
KEKで1200台を製造
(2000-2004年)
32万チャンネルの
電子回路の設計・
製造・検査(KEK,
神戸など)
神戸大での宇宙線
を使った全数検査
2010/05/13
CERNでのセクター組立
と回路据付(2005-2007
地下実験場のアトラス測定器
へ組み込み (2006-2008年)
30


2008 年 9 月に初周回に成功
1週後にヘリウム気化事故
 超電導磁石を結ぶ導体接合部の
溶接不良
 超伝導が破れたときの電流を
逃がす役目を果たさず,
超伝導体に大電流,発熱
ヘリウム沸騰による破壊へ

2009 年12 月に運転再開
 900 GeV 再衝突

3/30: 7 TeV 衝突
 衝突エネルギーは超電導磁石の電流で制限
(一部で接合部の抵抗が基準値以上)
2010/05/13
31
検出器の動作確認,ちょっとだけ物理の結果
(ここから,ややプロ向けの内容)
2010/05/13
32

現在:~80nb–1
 安全を見ながら強度を徐々に
上げている
 Linst ~ 1030 s–1 cm–2

2010/11 : 7 TeV 運転
 2010: 200pb–1 目標
 2011: 1 fb–1 (Linst > 1032)

> 2013 : 14 TeV 運転
 2012 年に接合部の修復
2010/05/13
33

順調に動作
 97-100% channels active
2010/05/13
34

2010/05/13
トリガーも予想通りの動作
35

Reconstructed mass の
ずれから検出器内の
物質量を検証
 |η| < 1.5:
シミュレーションが
数%のオーダーで正しい
 正しくないところも
見つかる(超前方)
2010/05/13
36
2010/05/13
37

B meson が長寿命
(cτ ~ 500μm)
ビーム軸との最近接距離が
2番目に長いもの
2010/05/13

実験の初期から
検出器の位置が理解できている
38
Barrel RPC
Endcap TGC

2010/05/13
ほぼ予定通り動
作を確認
39

Peak: 3.095 ± 0.004 GeV
 PDG value: 3.0969 GeV
 シリコン検出器の位置が
よくわかっている
•
2010/05/13
横運動量などの
分布も再現
40
W → eν
after preselection

Drell-Yan
大基本のプロセス
 電弱相互作用の検証
W → μν
after preselection
 パートン密度
2010/05/13
41
#obs
# expected
eν
17
23.1±1.2(stat.)±1.7(syst.)±4.6(lumi)
μν
40
28.7±0.5(stat.)±3.9(syst.)±5.7(lumi)
W: 理論とよく一致
 Z:

 Z → ee 1 event, 1.6 expected
 Z → μμ 2 events, 3.2 expected
2010/05/13
42

pT ~ 500 GeV のジェットを観測
 エネルギーの不定性:7%

角度分布もよく合っている
2010/05/13
43

2010/05/13
Tevatron の
おかげか,
かなりよく
合っている
44


Charged multiplicity in
“minimum bias” events
Minimum bias:
 検出器に最低限の
アクティビティ,の意
 ほとんどが「ソフト」:
パートンが見えない散乱

モデル:現象論的
 SPS, Tevatron のデータに
チューン
 Min. bias だけでなく
ハードな散乱の粒子生成にも
合わせた
2010/05/13
45

2010/05/13
モデルに改良の余地あり
→ 改良を行った
46

おもに多重散乱の
パラメータを変更
2010/05/13
47
2010/2011 年
2010/05/13
48

「本来の目的」への道筋
 検出器の理解,
バックグランドの理解
▪ W, Z, top の「再発見」
正しくできるか?
 ルミノシティが
少なくてもできる
 予想外の新発見にも
対処できる
2010/05/13
49

LHC: top factory
 高統計の精密測定で
新物理に感度

非常に重い
→ Higgs との
coupling 大きい
 Standard model を
超える物理の影響が
見えやすい

10TeV
信号も Tevatron より
クリアに見える
2010/05/13
50

7 TeV ではちょっときつい
 Standard model Higgs

7 TeV でも結構できる
 SUSY search
 Extra dimension
 Z’
2010/05/13
51
7TeV ではどの領域でも
「発見」を確信もって言えないが…
2010/05/13
145-190 GeV に
なさそうだとは言える
52

100pb−1 (2010) で squark/gluino 500 GeV 程度まで
1fb−1 (2011) で 750 GeV 程度まで
2010/05/13
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qq  gG, qg  qG, gg  gG

2-3 TeV 領域の余剰次元
が見つかる可能性あり
2010/05/13

dilepton resonance から
RS 余剰次元,Z’ など
54

LHC は安全に運転中
 2011 年に 7 TeV, 1fb−1 , 2013 から ~ 14 TeV へ

実験は順調
 実際,あまり大きな不具合はなし
使えるデータが取れている
 本当に使えるか,懸命に検証中

Higgs 以外の新物理があれば,
意外に早く見つかる可能性もある
 超対称性,余剰次元,謎の新現象 …
2010/05/13
55

4+n 次元のプランクスケールよりはるかに高いエネル
ギーでの衝突では,ブラックホールができる可能性が
ある
 インパクトパラメータが Schwarzschild 半径以下の時

ブラックホールが地球を
吸い込む?
 ホーキング輻射によりすぐ
崩壊するので安全です
安定なミニブラックホールが
存在しない証拠もあります
http://www.kek.jp/ja/news/topics/2008/LHCsafety.html (日本語)
2010/05/13
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