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学習ノート
「雇用システム」の日本的特質と
組織化の“そもそも”を考える
p2~ p17 … 「大企業モデル」の「外側」と「周辺」に無権利・低賃
金のぼう大な労働者が存在する
p18~p22 … 「経験主義」「請負主義」では組織化は失敗する
p23~p40 … 労働現場の改革すべき非合理的な実態-活動家
の役割
2010.5.15 都本部一泊学習会
[email protected]
職務概念 (=ジョブ。特定された労働)が希薄な日本の雇用契約。
外国と採用システムが違う。
法学-労働契約の白地性
経済学-契約の不完備性
外国-各職務に対応する形で労働者を採用し、その定められた仕事に従事させる。例え
ば旋盤、会計帳簿、 販売‥。「ジョブを失う」ことが失業である。
日本ー採用時に職務が特定されずに雇用契約がなされる。新卒は一括採用され、労働
者は企業の中のすべての労働に従事する義務があり、使用者は要求する権利がある。
そのつど業務命令によって職務が変わる。
「職務にもとづかない雇用契約」が日本的特
質の「3種の神器」につながる。
最初にこの諸条件を外国と違う雇用契約の
性質から着目する。
①雇用管理……終身雇用制度
②賃金管理……年功序列制度
③労務管理…企業別労働組合
2
●「日本的経営」は戦中戦後に形成され、
高度成長期からバブル崩壊にかけて実践
された経営慣行を指す。前提は右上がり
の経済成長だった。アベグレンは『日本の
経営』(1958年)で日本企業の特徴として
企業別組合、終身雇用、年功制を指摘し
た。3つは「三種の神器」と呼ばれた。
●「日本的経営」は日本の大企業の、際
立った競争力の源泉とされ、驚異的な経
済成長の立役者としてもてはやされた。
●経済成長が横ばいになると、終身雇用
放棄論が主張され、不況の「失われた10
年」のもとでは問題点が露呈し、グローバ
ル化とともの解体が叫ばれるよ
うになった。
「日本的な雇用契約」の背景をどう理解するか。
■アベグレン的解釈の基盤(文化論的な立場)
日本人が儒教的な道徳観を持ち、水田耕作のムラ社会の伝統から家族主義的な絆が強く、古
来より勤勉で向上心に富むという日本人観がある。これにより、雇用契約の範囲をこえて、従業
員は集団に対して全人的な関係を結び、集団的忠誠心、連帯責任感をもつと同時に、企業も従
業員の全人的欲求を満たし、企業への協働的意思を確保するために努力することにつながる。
しかし、これらも度を過ぎると逆機能が現れ、滅私奉公的な組織優先、画一化などの弊害も指
摘されている。(“日本的経営”研究の系譜と今後の課題 東京経済大学 経営学部 柴田高 )
■日本人の労働観「戦後の労働に対する意識」(「大原社研」 №542、2004.1)
・日本における労働観は、必ずしも特殊日本的なものでもなければ、固定的なものでもなく、
個々人のその時の経済状態に応じ、最も好ましい制度が合理的に選択されてきた.
・従来から仕事を通して金銭や名声を求める意識は弱かった。
・仕事一辺倒の生き方は必ずしも望まれておらず、生活の一部としての仕事であった。
・終身雇用制や年功序列的な賃金は、おそくても高度成長期の終盤には、将来的には切り替わ
る制度として受け止められていた。
■日本的経営の根幹は、年功的人事システムである。
高度経済成長期の日本企業において合理的な人
事システムとして機能してきた。
3
〔江戸時代〕ー日の出から日没を基準に昼、夜を6
等分した。単位を一(いっとき) とし12干支を割り
振った。最小単位は「四半刻」で分や秒の観念は
なかった。 (西村直樹)
〔明治中頃〕ー工場生産(産業革命)とともに時間
に縛られる生活に入る。(「時間の社会史」中公新
書)
1. 職務が決まっていないもとでの雇用管理
→
終身雇用
日本ではある職務に必要な人員が減少しても、別の職務で人員が足りなければ、移動
させて雇用契約を維持できる。解雇が正当とされる可能性は低い。出向、転籍も追及さ
れる。「メンバーシップ(濱口)」(団体・組織の構成員であること)である。
〔外国では〕
●現場の管理者が予算の範囲内で必要
な人員のみを採用する。
●技術革新や経済変動で職務に必要な
人員が減少すると雇用契約を解除し、
労働者を解雇する。
●職務が特定され、その職務以外の労
働をさせることができない。職務が
なくなれば解雇の正当な理由となる。
●労働者は、企業外部で教育訓練を受
け、職業能力を身につけることが
基本である。
〔長期雇用制度のもとでは〕
●入口-採用-新規学卒者の定期採
用制。採用は現場ではなく人事部。
●出口-退職-定年制。年齢により高
まる労働コストを一律に排除する。
逆に定年までは解雇されない雇用
保障となる。
●企業は具体的な職務に従事させるが
定期異動(職務ローテーション)がある。
●労働者は企業内のさまざまな職務を
経験し、熟練していくことになる。
企業内教育訓練が大事となる。
雇用契約ー相手方に対し労働に従事することを約し、相手方がこれに対しその報酬を与え
ることにより、その効力を生ずる。(民法623条)
4
2. 職務が決まっていないもとでの賃金管理
→
年功序列
職務と賃金が切り離して決められている。賃金を決める指標は、勤続年数と年齢(年功賃
金)。企業における地位(勤続を加味し)に着目するのが、年功序列である。
「年功賃金」から導き出される賃金の日本的特徴
◧生産労働者も月給制-外国ではホワイトカラーは月給制、
年俸制。ブルーカラーは時給制(=投入労働量に賃金を払
う)が普通。但し、日本の月給制は時間外労働、休日労働で
割増手当がつき、月給・時間が折衷的である。
◧具体的な仕組みは、定期昇給制-通常年1回、職務に関係
なく賃金が上がる。上昇額は一律ではなく、ブルーカラー
も人事査定が行われる。査定には企業メンバーとしての
「忠誠心」が求められる。外国ではブルーカラーは職務と
技術水準よってのみ賃金が決められる。昇進とは別に昇格
でも賃金が上がる。
◧年2回のボーナス-業績評価的性格が強い。
◧退職金制度-長期勤続者を極端に優遇する。
◧福利厚生(住居、食事、娯楽)-「メンバーシップ」にもとづ
く報酬。
5
日本の賃金制度の特徴
●個別の企業ごとに複雑
な形態をとっている。
名称も運営もさまざ
まである。
●45歳段階で30~ 40%
の幅がある。こ の程度
の格差が「能力」に応
じたものとされている。
●個人の能力を社会的に
評価する(ドイ ツ)のか、
企業が評価するのか。
日本は企業が評価する。
3. 職務が決まっていないもとでの労使関係
→
企業別労働組合
「企業内労働組合」は2つの機能を果たしている
1.経営に関し、労使協議を行い、外国の法定の労働者代表機関(全従業員を代表する)の性
格と機能。
2.団体交渉や労働争議を行う。労組法上の労働組合の機能。
2つの機能の実際の姿
「リストラ」に際し、労働者を代表してメンバーシップをできるだけ維持することをめざすが、賃金・
労働条件面での妥協をはかる形となる。
団体交渉で労働条件の引き上げをめざす。
・団体交渉で決めているのは、企業の人件費総額を従業員数で割った平均賃金額(ベース賃金)
の増加分(ベースアップ)である。個々の労働者の賃金額は査定に委ねられる。
・特定企業の労務コストを交渉対象とし、企業の支払い能力に制約される。決して企業を超えた
一律の基準設定ではない。
・同業他社との競争力を排除するため、企業別組合は産業別連合体を組織し、春闘で交渉力の
確保をはかってきた。
“戦時”の労使関係=労働争議。お互い企業メンバーであることから、労使関係が悪化すると 「近
親憎悪」的な泥試合になる傾向にある。外国は労務提供をやめるストライキが中心となる。
6
1.労働組合は組合員だけの代理人なのか
2.非組合員を含めた職場のすべての労働者の代表者なのか
“頭の中”と実際が一
致していない
1.であれば-補完する政策対応が必要になる。労働組合がすべての労働者の代表足
り得ないのであれば、「労働者代表制」の導入が検討されるべき。
2.であれば-労働組合は非正規を含めた組織化や彼らの意見を反映させる新たな
労使交渉のやり方を構築する必要がある。より、本質的には正社員のみを内部の人
間と考える”意識“とのたたかいになる。
連合調査
「日経」2010.4.11
〔2010年春季闘争〕
非正規労働者の待遇改善
大手組合の75%が「要求せず」
改善の回答(回答あった176社のう
ち)
・時間給の引き上げ-12社
・正社員と同様の時間外割増率の
引き上げ-9社
・正規社員への転換制度の導入・
促進-5社
7
「外部から見て、今、労働組合はこう写っている」
*労働組合員は働く人々全体の中では「めぐまれた層」である。
*労使協調の中にどっぷりと浸かっていて、緊張感がたりない。
*組合自体にエゴが根付いている。
*時代のしんがりにかろうじてついている。
*労働組合運動が国民の共感を呼ぶ運動になっているかという
疑問を強く抱かざるをえない。
*労働運動が足元から崩壊してしまいかねない切迫した事態に直
面している。
*家の土台の寸前まで土砂が崩れ、断崖が迫ってきている。
「連合評価委員会の中間報告」(座長・中坊公平弁護士)について
「賃金と社会保障」誌は03.8合併号から「労働運動はどうあるべき
か」との連載特集を組んでいる。
企業別組合-「功罪半ば」論は過去の産物.。克服を!
ー建交労:個人加盟の全国単一組織。優位性に確信を-
企業別組合に対する評価 白井泰四郎
(1979年)
〔欠陥論〕
組合の規模が小さく、動員しうる交渉力や
闘争力が弱い。
労働組合と経営の癒着、会社の御用組合に
なる危険性を体質的にもっている。
組織が分裂しやすい。
組合の労働条件標準化政策が浸透しにくい。
組合役員の視野や見識が狭いものになりや
すい。
〔利点論〕
日本の組合勢力の急速な増大への寄与。
チェックオフなど組合財政への寄与。
工職混合組合のため職員層を一括して組織。
職場に組合組織があり、組合活動が
単一の組織をつうじて行われる。
8
「労働組合運動の可能性」
(竹内真一)
「功罪半ば」論に見られる認識のあいまい
さは、組織論に影響し、活動家の足並み
を乱してきた。
財界の一貫した組合否定、忌避の姿勢。
労使協調や労使一体が声高に叫ばれるのは日
本だけである。
労働市場をめぐるたたかいが組織形態を条
件づけた。熟練、未熟練、その間の半熟練をめ
ぐり、協約・拡張で横断的な組織維持をめざす
組合と縦断的な切断をはかる会社との攻防。
労使関係の二元的代表制を機能させないと
いう財界方針。労使協議制は法制化なし、企業
連による団交権の吸い上げ、形骸化をはかる。
国政レベルの3者協議は「労働不在のコルポ
ラティズム」。連合の無力さ。
正社員と非正規社員を組み合わせて労働力を編成する雇用管理
総評56年大会
臨時工、臨時職員、
組夫を本工にさせる。
差別待遇撤廃。
新しいものでないー「相手」は手を変え、品を変えてきたが…。
1950年代-臨時工が盛んに利用され、「臨時工問題」を引き起こした。
1960~70年代-造船業、化学工業では社外工が増大した。製造業ではパートタイ
ム雇用が増加した。高度成長期から労働力は正社員と非正規社員の複合的編
成であった。
1970年代半ばのオイルショック後の不況-臨時、パートタイムが削減されたが、
70年代後半からパータイム雇用が急速に増加した。サービス業、卸小売業。
パートの低賃金が第3次産業における依存度を高めた。
80年代-労務費コスト削減のためにホワイトカラーを中心に派遣労働が広がり、
1985年の労働者派遣法が追認された。銀行は自ら派遣会社を設立した。
90年代-常用雇用が抑制され、臨時・日雇やパート、アルバイトなど多様な臨時
的雇用が増大した。
雇用のフレキシブル(柔軟)化を進める雇用管理を明確に示したのが旧日経連の
「新
時代の『日本的経営』」(1995年)であった。
9
労働力の「弾力化」「流動化」を進め、総人件費を節約し、
「低コスト」化を意図した。
日経連「新時代の『日本的経営』」1995年5月
10
「長期蓄積能力活用型
グループ」
「高度専門能力
活用型グルー
プ」
「雇用柔軟型グ
ループ」
雇用
形態
期間の定めのない
雇用契約
有期雇用契約
有期雇用契約
対象
管理職・総合職・
技能部門の基幹職
専門部門
(企画、営業、
研究開発等)
一般職
技能部門
販売部門
賃金
月給制か年俸制
職能給
昇給制度
年俸制
業績給
昇給無し
時間給制
職務給
昇給無し
賞与
定率+業績スライド
成果配分
定率
退職
金
年金
ポイント制
なし
なし
昇進
昇格
役職昇進
職能資格昇進
業績評価
上位職務への
転換
福祉
施策
生涯総合施策
生活援護施策
生活援護施策
●労働者を、”3つのグループ“「長期蓄
積能力活用型グループ」「高度専門能
力活用型グループ」「雇用柔軟型グ
ループ」に分ける。
● 管理職や基幹労働者のみを常用雇用
とし、他は不安定な有期雇用とする。
賃金、賞与、昇進・昇格もなく、有期
雇用には退職金、年金もない。
●「日本的経営」に呼応するはリストラ
急に進んだ。“Restructuring”(再構築)
クビ切り・解雇とイコールだった。
●労働法制のあいつぐ改悪・規制緩和が
進んだ。労働者派遣法は1999年に原則
由化、2004年に製造業にが禁された。
●非正規雇用をめぐる2つの論点
①非正規雇用は「悪い雇用形態」とみ
し、禁止する方向の議論。
②現在の正社員を「既得権」とみなし、
雇規制を緩和せよとの議論。
「大企業モデル」の「外側」と「周辺」に
無権利で差別されている労働者がぼう大に存在する
外側ー1,726万人(33.7%)
契約社員・嘱
託
派遣社員
6%
3%
07年度労働力調査
その他
3%
アルバイト
6%
1947年(昭和22年)
の臨時国勢調査では
就業者3,333万人のう
ち50%が農業従事者
だった。
周辺論では
パート
16%
雇用者の構成比(男女計)
11
正規の社員・
従業員
66%
正規の社員・従業員
パート
アルバイト
派遣社員
契約社員・嘱託
その他
①中小企業労働者
②女性労働者
③高齢労働者
「雇用・賃金・労務
管理」の分析が必要
である。
「3種の神器」が適用されるのは正社員のみ
●外側と周辺には膨大な数の非正規労働者が存在している。
●外側は正社員とはまったく逆である。
12
「3種の神器」で守られてきた正社
員-大企業モデル
正社員とは全く逆に扱われている
非正規の労働者
雇用管理
終身雇用 入口-新卒採用
出口-定年退職
人事異動
その都度。必要がなくなれば有期
雇用の雇止めで実質解雇。
契約を更新しても同じ職務。
賃金管理
年功賃金
・月給制・定期昇給制・年2回の
ボーナス・退職金制度・福利厚生
時給。地域最賃に張り付いた低賃
金-労働市場の需給関係による。
通常はボーナスも退職金もない。
福利厚生施設からの排除も多い。
労務管理
企業内労働組合ー2つの機能
リストラ時は雇止めが労使協議で
1.労使協議会(全従業員を代表する) 「規範化」すらされている。
2.団体交渉や労働争議。(労組法)
所得格差が進み、2極化している
300万円未満の所得 男性36.7% 女性72.6%
「平成19年就業構造基本調査」から作成
所得
有業者数
男性
%
女性
%
150万円未満
1731
500
13.1
1229
44.2
150~299
1625
877
23.6
790
28.4
300~399
849
598
15.7
251
9.0
400~499
619
486
12.7
133
4.8
500~699
742
622
16.3
121
4.4
700~999
503
447
11.7
56
2.0
1000~1499
162
152
4.0
10
0.4
1500万円以上
52
48
1.3
4
0.1
家族従事者
186
31
0.8
157
5.6
6600
3817
(万人)
2780
「‥貧困が一定程度広がったら政策で対応しないといけませんが、社会的に解
決しないといけない大問題としての貧困はこの国にはないと思います」
(竹中平蔵総務大臣、05.5.15 「朝日」)
13
貧困率15.7%の意
味! (09.10.21)
4人家族で年収305万
円未満なら貧困層。
月収26万円以上に引
き上げが必要。
㊟等価可処分所得(世帯の
可処分所得を世帯人数の
平方根で割った調整数)の
中央値は274万円。半分が
137万円。年収305万で社保、
税を差し引くと274万円が可
処分所得。4人の平方根で
割ると137万円。
「この10年間」の大企業の「横暴」に加え、世界金融危機(08.9)がおそった
-内部留保は海外に投資され国内需要は低迷している-
成長の止まった国になった
国民が貧しくなった
志位和夫(衆院予算委員会10年2月8日)
14
中小・零細企業労働者には「3種の神器」の影が薄い
-明確なちがいが存在する-
周辺-中小企業労働者
●企業規模が小さくなれば、職務や職場も限られる。限定
された雇用契約に近くなる。
事実上、「ジョブ型」に近づく。
●雇用維持能力が弱く、失業も例外ではなく、地域の外部
市場が存在感を持っている。
●正社員と言っても非正規労働者と変わらない面がある。
●「3種の神器」は大企業で典型的に発達したモデルであ
る。
企業規模
組合員数
構成比
推定
民
間
企
業
の
組
織
率
(千人)
組織率
1000人以上
4,877
59.1
47.5
300~999人
1,239
15.0
13.4
100~299人
693
8.4
30~99人
238
2.9
29人以下
35
0.4
1.1
志位和夫(衆院予算委10.2.8)
中小企業基本法 (労働に関する施策)
第19条 国は、中小企業における労働関係の適正化及び従業員の福祉の向上を図るため必要な施策を講ず
るとともに、中小企業に必要な労働力の確保を図るため、職業能力の開発及び職業紹介の事業の充実その他
の必要な施策を講ずるものとする。
15
「男女雇用機会均等法」(1985年)を前後して
女性労働者の位置づけが変わった
〔古典的位置づけ〕
女性正社員は採用から結婚退職までの短期的メン
バーシップだった。
年功的に昇給は若年期だけ。女性労働モデルは
BG、
OLと呼ばれた。
〔均等法ー1985年後〕
コース別雇用管理が大企業を中心に導入される。いか
なる意味でも「職務(ジョブ)」とは関係なく、それまでの
男女正社員の働き方をコースとして明確化したに過ぎ
ない。
「総合職」は基幹的業務に従事する。典型的な大企
業モデル。
「一般職」は補助的業務に従事する。
男女ともどちらも選べるとして男女平等法に反しな
いとする人事制度である。
〔1997年の法改正後〕
男性並みに働ける女性はさらに積極的に活用する。
他は、派遣など非正規雇用とする。OLモデルは消え
ている。
16
周辺-女性労働者
「均等待遇」が遠くなっている
パート労働者の定義-「1週間の所定労
働時間が通常の労働者に比して短い労
働者」(「パート労働法第2条)
「毎勤」による定義-常用労働者のう
ち、①1日の所定時間が短い者、②1日
の所定時間が同じで1週の所定日数が
短い者。
〔パート労働者の状態〕(08年「毎勤」)
●産業全体で1173万人。事業所5人以
上で全労働者の26%
●卸・小売業-41%
製造業-14%
●年間総実労働時間
1112時間/2032時間(一般)
●1月あたりの現金給与
95,895円/413,998円(一般)
周辺-高齢労働者
「高齢者は働くことしか才能がない」(麻生元首相09.7.25)
働き続けている日本の高齢者
「高年齢者就業実態調査」
(04年、厚労省)
仕事をしているのは-「自分と家族の生活を維持するため」
60歳~64歳の男性の68.8%が働いている。女性は42.3%。
65歳~69歳の男性の49.5%が働き、女性は28.5%が働いている。
●60~64歳 男性71.8% 女性56.9%
●65~69歳 男性60.3% 女性46.6%
高齢労働者に対する勧告 (ILO第162号勧告、1980年ー
「労働権」と「休息権」の両面からとらえている)
①高齢労働者の雇用の機会と待遇の均等をはかり、雇用
及び職業における差別防止の措置をとること。
②高齢労働者に対する雇用上の保護措置をとること。
③高齢労働者が労働生活から自己の意志によって退職し
うる措置をとること。
シルバー人材センターの現状
・08年度-会員数:754,391人
・1人当たり月平均就業日数:9.7日
・1人当たり月平均配分金収入:37,792円
・職員7,400人、人件費総額は300億円
17
●就業者の内、シルバー人材セ
ンターを通じて仕事をした人
男 60~64 2.2%
65~69 3.2
女 60~64 0.9
65~69 1.5
●生きがい・社会参加
男 10.5%
女 11.9
事業運営費
08年度
537(億円)
国庫
補助
127
自治体
補助
201
自己
財源
209
組織建設について
建交労の「綱領」や「規約」は何を謳っているか
「綱領」
7 わたしたちは、建設、交通・運輸、農林、自治体関連、一般労働者の団結と
統一行動を強め、関連産業・企業の民主化をめざしてたたかう。
8 ‥要求での団結、すべての労働者・労働組合との共同行動、未組織労働者の
組織化をすすめ、労働戦線の統一をめざす。
「規約」
第2節 目的と事業 第6条の1 組合員および関連労働者の全国的な統一と未組
織労働者の組織化に関する事項
第3節 県本部 第9条 ‥企業、産業、業種を超えた力で、業界、行政、企業と
交渉し要求実現をはかる。
理屈ではない
「(労働組合は)労働者階級の完全な開放という広大な目的のために、労働者階級の組
織化の中心として意識的に行動することを学ばなければならない」
「労働組合の努力は狭い、利己的なものでは決してなく、ふみにじられた幾百万の大衆
の開放が目標だということを、一般の世人に納得させなければならない」
努力する
18
(「労働組合。その過去、現在、未来」マルクス)
p.4 加入のきっかけは職場のトラブル
「今日からあなたも」の学習から
労働相談が激増
労働契 いやが
約,
らせ,
6377,
5960,
16%
15%
さっそく「勉強」ですが……。
(1)学問や技芸を学ぶこと。学習。
(2)ある目的のための修業や経験をすること。
(3)(商人が)商品の値段を安くして売ること。
(4)物事にはげむこと。努力すること。
(5)気が進まないことをしかたなくすること。
〔「大辞林」-(4)が原義〕
19
賃金不
払い,
7733,
20%
解雇,
10625,
27%
退職,
8460,
22%
08年 東京労働相談情報センター
p.5 人間らしく生き、働きたい
「今日からあなたも」の学習から
内面的に向き合い、不安と同居している日本の高校生
「とてもそう思う」の比率
日本
米国
中国
私には人並みの能力がある
8.4
61.1
41.0
自分はダメな人間だと思うことがある
23.1
7.6
2.6
私は将来に不安を感じている
32.2
27.4
16.5
学校の生徒会活動に参加したいですか
10.9
49.3
49.9
「幸い、幸せ」の語源
手枷(手錠)から辛くも免れ
る象形文字。
山の幸、海の幸、豊作、大
漁が日本人の幸い、幸福と
なった。
「貧困」を考える→p.12
(日本青少年研究所09.2発表から抜粋)
●日本の高校生は人間性が歪められている。「学力テスト」では解決しない。賃金が
安いのは、「ダメな自分のせいだ」「能力がないから仕方ない」となれば、そこから
は要求も生まれないし、団結の必要性も感じません。
●社会全体に競争と選別による「足の引っ張り合い」がある。若者は、個人の生活不
安、生きる意欲、働く意欲、将来不安を拡大している。秋葉原のように「他人の不幸、
自分の幸せ」の精神状態にまで陥る。
●労働組合は要求が基本。それぞれは人生経験も考え方も違う。要求は賃金が安い
など愚痴や不満から始まるが、根拠と正当性が重要である。「みんなで話し合い、
みんなで決め、みんなで行動する」ことが労働組合の活動の原則。労働組合はそ
の意味で「民主主義の学校」である。
20
p.6 大切なことは権利の自覚
「今日からあなたも」の学習から
生きる権利-すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する(憲
法○○条)
働く権利-すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う(憲法○○条)
「あぁ、そうなん
だ」…納得。
(徳住堅治弁護士)
21
 日本の労働運動・社会全体も労働
者の権利意識を育む努力を怠ってき
た。学生は無手勝流に社会に放り出さ
れている。「就職すれば会社が何とか
してくれる」との精神構造にある。「会
社人間」からの決別は難しい。
 若い人ほど、権利意識が低く、休
みをとらず、上司に言われるままに、
長時間・過密労働をこなし、「明日から
来なくてもいい」といわれ、黙って会社
を去っている。
 自らどのような権利を有している
のか。会社に主張できるのか。知らな
い限り権利意識は生じない。
権利:ある利益を主張し、
これを享受することのでき
る資格。社会的・道徳的
正当性に裏づけられ、法
律によって一定の主体、
特に人に賦与される資
格。 (「大辞林」)
経験主義、請負主義では組織化は失敗する!
「キッカケ」「相談内容」「労働者の変化」「実現した要求」などを「本人」に語ってもらい、
交流する場を積み上げていく。「月間」の前後。
組織化の「キッカケ」は「相談」から始まる。これはまちがいない。
●「相談に乗る」「駆け込み寺」の機能がどれだけあるかが問われる。
・多様な大量宣伝。系統的な呼びかけ。知名度アップ作戦を重視する。
・同時に「何の要求」をいっしょに実現しょうとしているのか。鮮明にする。
・解決の実績を全組合員のものにしていく。
●同時に解決ともに「ありがとうございました」と去っていく。
・「お釈迦様」の役割はやはり重要である。
・「支部」に所属する。基礎組織の「支部」の機能、役割が左右する。
「組織化する」「組織した」とはどういう状態なのか。努力する”指標“を定める。
●個人加盟の単一組織にとって組合員教育は「いのち」である。
●組合員の権利、義務を徹底する。
都本部が組織戦略を持つ。どこに、どういう組織をつくりあげていくのか。
●業種が全国方針のもとに「行動」し、先行する。
●機関は「月間」を全組合運動にするために「総合力」を発揮する。組合員が増えること
は最大の喜びである。共有し、団結する。
22
ワーキングプアの「発見」
「働いても、働いても豊かになれない」(NHK06.7)
高度成長期以後、非正規労働者は貧困のイメージとは結びつきにくかった。夫・父親らが
彼らの生計を賃金として得ていると見なされていた。
●パートタイマー(家計補助的)
●アルバイト(学生)
●「フリーター」も貧困と正反対の自由気ままに生きる若者のイメージにあった。
●シングルマザーはワーキングプアの先行型だったが、「特殊例」と見なされ、貧困の
中心的論点とならなかった。
こうした状況が日本の最賃政策に大きな影響を及ぼしてきた。すなわち、
それだけでは生活できない非正規労働者の低賃金は、家族の生活費
も含めて保障する正社員の生活給制度と裏腹の関係にあったが最賃
は正社員の問題にならなかった。
〔自治体に対する確認事項〕
月額5万円余の支給の例
就労している単身者の生活保護基準を次の内容で説明を求める。
1-①生活扶助第1類(12~19歳)+②生活扶助第2類(1人世帯)+③冬期加算
(月額平均-a○円×冬期5か月÷12か月)+④期末一時金(b○円÷12か月)+
⑤住宅扶助単身者限度額+⑥基礎控除(就労の伴う必要経費分-基準額×0.7)
=c○円(生活保護の月額)
2-生活保護の月額の時間あたりの賃金(c○円÷176)
3-就労の場合、公租公課の上乗せ分を月額に加算する必要がある。(c○円
÷0.876)
23
大阪地下鉄の委託
労働者 24,221円
官製ワーキングプアと「適正」賃金
-「適正」賃金が決まっているわけではない-
公共サービス基本法第11条:国および地方公共団体は、安全かつ良質な公共サービス
が適正かつ確実に実施されるようにするため、公共サービスの実施に従事する者の適
正な労働条件の確保その他の労働環境の整備に関し必要な施策を講ずるよう努めるも
のとする。
静岡市の「指定管理料」の積算から
-職員の70%、一時金は3.1カ月
●専門的技術を要しない常勤職員
職員-187,000円
常勤日額-8,600円
●非常勤臨時-6,600円
非常勤パート-835円(最賃
713円)
野田市の公契約条例の考え方
賃金水準は市長が決める
●公共工事は2省協定の8割以上
(関東の平均は17,320円)
●業務委託は高卒初任給+地域手
当を含めた時給828円の見込み。
(千葉県の最賃は728円)
24
衆議院総務委員会の質疑から(2010.3.23)
塩川鉄也議員:税金を使った公契約のもとで働く民間労働者の賃金が
下がり続けるという「官製ワーキングプワ」の再生産が行われている。
原口一博大臣:職員の健康のための対策や処遇のあり方の指針を示
し、委託先、公共サービスに従事する皆さんの権利を下支えする。
塩川委員:公共サービスを担う企業で働く労働者の実態調査を考える
時である。
渡辺周副大臣:各自治体が必要に応じて実態について調査されるだろ
うと考えている。必要に応じて助言を行う。
原口大臣:野田市の取り組みは、働く人たちの権利を保障し、公共サー
ビスの質を高めていく動きと認識している。
塩川委員:役務を含めた公契約法を制定する時期にある。
原口大臣:現状認識は塩川委員と同じ認識を持っている。
「生活給」制度はどう形成されてきたのか
〔戦前〕
・職種別賃金から大企業を中心に勤続奨励給に移行
してきた。
・呉海軍工廠の伍道卓雄(1922)-労働者の共産化を
防ぐために、年齢が上昇し家族を扶養するようにな
るにつれ賃金が上昇する仕組みが望ましいと提唱
・戦時に皇国勤労観から提唱され、政府が年齢と扶養
家族数にもとづく賃金制度を企業に義務づけた。
〔戦後〕
・1946年-電産型賃金体系(年齢+扶養家族数)が戦
後の原型となる。
・1960年代-日経連が「能力主義管理」を発表し、「職
能給」と呼ばれるヒト基準の賃金制度が定着した。
個別労働者の査定をともなう年功賃金制度である
・1990年代以降、「成果主義」提唱されるが、ヒト基準
の本質は変わらない。
生活給のメリット
生活給のデメリット
労働者に
とって
・生活の必要性(教育費、住宅)に応じた賃金が得られる。 ・同一企業で働き続けなければならない。保障は企業の経
・若年者に企業に貯金しているとの認識をもたせた。
営状態に左右される。倒産、解雇の最悪がある。
・採用から定年まで長期雇用されて生活給は初めてメ
・企業に対する忠誠心を傾注する。
リットとなる。
・際限ない長時間労働をもたらしてきた。
資本に
とって
・日経連は高度成長期前は職務給制度を提唱。
・失敗した理由-職務で賃金を決めると配置転換先に
よって不公平感を生んだ。技術革新による合理化を困
難にした。
・年功賃金の方が近代化の役にたった。延長戦上に「能
力主義管理」がある。
・中高年の賃金が過大と判断し、是正手段がとられる。成果
主義はベビーブーム世代の賃下げのためだった。
・04年以降、成果主義に対する批判が急激にわきあがった。
・忠誠心自体、企業にとってどこまで重要かがある。
政府に
とって
育児、教育、住宅の社会政策的な再配分費用は、企業
が正社員に払う生活給で「節約」できた。
家計維持的な非正規労働者が増加し、「近視眼」では将来
コスト増を招く。
(浜口桂一郎 岩波1194)
25
電算型賃金-基本給で生活できる賃金
体系の確立
家族給
藤本武
(事典・日本労働組合運動史)
本人給
基本給
生活保障給
基本賃金
基準労働賃金
能力給
勤続給
地域賃金
基準外労働賃金
超過労働賃金
特殊労働賃金
賞与金
特殊勤務手当
時間外手当
当直手当
特殊労働手当
作業手当
特殊勤務手当
最低本人給は17歳で700円、最高は40歳で
1090円。家族手当は1人目200円、以降無
制限に150円。ピース60円。ビール126円。
カレーライス80円の時代
僻地手当
居住地制限手当
①基準賃金、②基準外賃金、③賞与金
の3つに分かれている。基準賃金は、生
活保証給、能力給、勤続給で生活保証
給は本人給と家族手当とし、本人給は年
齢別に組み立てられ、これを能力給とあ
わせて基本給とした。
本人給は、30歳扶養家族2.5人で生活保
証給はあわせて1300円、能力給800円で
その他を合わせ、税抜きで2400円が要
求であった。2200円前後で妥結した。
他組合の要求は1000~1200円であった
が、2倍を超えていた。500円という政府
の抑制枠を決定的に破砕した。いかに高
かったであり、2.1ゼネストを組織した全
官公が続けとなった。
問題点
①最低生活確保を重視し、家族手当を高額にし、賃金に組み込んだ。同一労働同一賃金との原則か
ら外れた。家族手当は社会保障要求である。
②能力給は「能力給査定基準」もとづいたが、労組の力の弱まりにより生活給の比重が低下した。
26
家族手当とその「社会的文脈」を考える
-「同一労働同一賃金」論に立てば-
新たな動き-月額26,000円の「子ども手当」の創設。1971年からの児童手当は「企業に家
族手当があるのに」と始まったが、新政権により「子ども手当」に統一される。
●政策目的は次代の社会を担う子ども1人ひとりの育ちを社会全体で応援する。
●子育ての経済的負担を軽減し、安心して出産し、子どもが育てられる社会をつくる。
企業における家族手当-生計費を担う重要な手当であった。
家族手当は、男性社員の世帯形成に合わせて金額設定がされてきた。20代後半で結婚し、30歳代前半で一子誕
生、30歳代半ばで二子誕生といったモデル。家族手当の採用は約7-8割程度である。しかし、女性の社会進出、
晩婚化、シングル層の拡大で現実は大きく変化している。企業において家族手当の廃止・金額の見直しをすすめる
動きがある反面、少子高齢化の中で配偶者、子、同居の父母に対し一定額を補填することが企業理念からも必要
との考えもある。現行は金額については配偶者で1万円、配偶者+子2人で2万円に多い。
「賃金制度の原則」と「社会保障制度の設計」との連立方程式となっている。すなわち、
「子ども手当」は社会保障としてとらえるべきである。
〔論点〕
●同じ仕事で扶養家族がいるか、いないで賃金に差がつくのは合理性がないのではないか。
●賃金の最低限はどこに設定されるべきか-「単身者の生計費」か「家族全員が生計を維持できる額」か。
●労働しない扶養家族の生計費は誰が、いかなる形で保障すべきなのか-「使用者」か「社会的な給付か。
27
職能は「人」への値段
職務は「ポスト(椅子)」に値段をつける
都留康一橋大教授
(「あなたの値段」インタビュー)
●「成果主義賃金」-初めに目標を設定し、達成度を上司と部下が話し合うことは「目標
管理」である。要は評価をもとにどう賃金を決めるかである。
●70年代から「職能給」が浸透した。「職務遂行能力」で社員を格付けして基本給を決め
ること。すなわち、「人」に値段をつけた。能力の要件があいまいなので「格付け=年
齢・勤続年数」の運用(年功給)に陥っていた。また「能力は伸びる」ので賃下げでき
ない。
●「職務給」とは、「人」でなく、仕事の内容=「ポスト(椅子)」に値段をつけるもの。
「能力が高くとも、異動で仕事の価値が下がれば、賃金も下がる」という考え方。ただ
し、「椅子」の価値を明確に把握するのが難しい。
●「役割給」とは、職能給と職務給の双方の考え方を取り入れている。「椅子」の価値を
把握する職務分析の大変さを回避。「人」に対し、給与を払うやり方。
●「成果主義賃金」とは、①仕事の内容と②目標達成度で賃金を決める制度である。
「仕事の内容が変わり、成果が出なければ賃下げはしかたない」と考える。年功で決
まる部分が小さくなる一方、成果と役職で決まる部分が大きくなっている。職務給に
移行する流れが強まる。
28
「職務給」はアメリカで発達した賃金の支払い方法
「辞典・戦後労働運動史」
(深見謙介、猿田正機)
戦後の賃金体系の推移は労働側が電産型体系を成立させ、他産業へ拡大したのに対
し、資本の側の巻き返しは最初は生産奨励金として、後には「定昇」が導入された。職務
給は「定昇」を修正する形で高度成長の開始(55年)と設備の近代化に伴って準備され
た。 70年代以降の能力主義管理とそのもとでの職能給の導入・普及は労働運動に深刻
な課題として立ちはだかった。
60年代-鉄鋼業-年功制+格付けされた職務ごとの処
遇が賃金管理の基本として提唱された。
70年代-職能給がより「合理的」な賃金体系として目的意
識的に追求されるようになる。
73年末の石油ショック後-職能給はさらに徹底された。
80年代-あらゆる産業・企業で大手・中小を問わず職能
給の導入・拡大が急ピッチで進んだ。
職能資格等級を基準にトータルシステム化された。
職務給化の背景-①ME技術革新を中心とする「合理化」の進展。
「人減らし」は配転・応援・出向・社外派遣など労働力を流動化さ
せ、中高年の旧熟練者を排出している。トータル管理は「企業活力
に維持」「能力主義に強化」のために職能給が導入されている。
②労動力の高齢化、高学歴化の進展。中高年賃金を3極分解(上
昇、横ばい、下降)する有力な方法として職能給が脚光を浴びた。
③「男女雇用機会均等法」の施行は、「一般職」「総合職」の区分で
男女格差を温存している。
29
〔能力主義管理〕
●「日本的」な制度・慣行の利点とア
メリカの人事管理・方法とを結合し
たわが国独自の人事管理である。
●個別管理と小集団管理=自主管理
運動からなる。
●個別管理の柱が「少数化」と職能
的資格制度・職能給の導入である。
●職能給は労働者個人の「職務遂行
能力」を資本が一方的に査定して
支払う賃金体系である。
職務遂行の技能はどこで習得されるべきか
教育課程
労働過程
●日本の教育システムは「職業
■日本-企業内のOJT(オンザ・
的レリバンス(意義)の欠如」にあ
る。(「若者と仕事」本田由起東大教授)
・学校で学んだ教育内容が職業
生活にほとんど意義を持たない。
・企業は学校の偏差値のみで
「企業が一から厳しく行う訓練す
るに耐えられる素材か」で判断し
ている。
ジョブ・トレーニング)が技能形成
の中心として機能して
きた。入社後にさまざまな仕事
を経験させることにより、技能を
蓄積させ、生産性の向上を図っ
てきた。期間の定めのない雇用
契約を結んだ「正社員」が会社
に対しの長期のコミットをし、柔
軟な配置転換を受け入れ、その
企業に固有な技能を身につける
ことで生産性を高め、企業もそ
れにより高いパフォーマンスを
あげて来た歴史である。
●学校教育に「あいさつ」「手紙の
書き方」「電話の出方」など社会
人としてのマナー、働くことの実
態についての知識、働き生活す
る上でのリスクの認識と対処法
について可能な限り学校教育に
組み入れる必要がある。
(『新時代の日本的雇用政』策2010年3月
東京財団)
30
・若年者トライアル雇用
・日本版デュアルシステム
欧米の技能蓄積
■アメリカ-一般的技能が重
視される。学歴や資格という
フォーマルな教育訓練制度
による技能形成が中心であ
る。特定企業への勤続年数
よりも同一職業への経験年
数の方が賃金水準に大きな
影響を及ぼしている。流動性
の高い労働市場と補完性を
有している。
■ドイツ-産業別の経営者
団体や労働組合が職業訓練
のメニューつくりや運営に関
与し、それにより労働者は産
業のニーズに適した技能を
身につける。産業レベルの経
営者団体と労働組合の交渉
で処遇が決まる仕組みと補
完性を有している。
「就業規則」を再点検し、「労働協約」化をはかる
-「労働協約」でこそ権利と労働条件は守られる-
例え就業規則と同じ文言で
も協約化を求める。
■「就業規則」は労働者に対し、「職場の憲法」のごとく支配的な規範となっている。
就業規則は大正15年(1926年)に義務化された。「常時50人以上の職工を使用する工場主…」当時、職工は1
87万人でその過半数(98 万人)は女工が占めていた。「女工哀史」の背景である。
■他方、「労働協約」の社会的影響力は弱い。
日本の労働協約の締結状況-いまや「15%を割っている」。団体交渉で合意した場合も「協約締結」をしてい
る労働組合は49.2%である。(「団体交渉と労働争議に関する実態調査」1997年小島典明)
■西欧の就業規則は「経営の専制」に対する職場の私的法律である。
●労働基準法は就業規則について、①企業に必須の制度、②作成・変更に労働者の意向を反映さ
せ、③周知義務負わせ、④労働基準監督者への届出によって公的な監視下においている。
●就業規則の制定・改正権は使用者にあり、その本質は経営サイドの従業員管理のための規範で
ある。立法によって制定を義務づけられた就業規則は労働者に対する「法的」規範として強制力
を発揮する。(1968年、最高裁秋北バス事件)
労働組合法第14条 (労働協約の効力の発生)
労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件
その他に関する労働協約は、書面に作成し、両当事
者が署名し、又は記名押印することによってその効
力を生ずる。
31
最高裁判決-「労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会規範
としての性格を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めている
ものである限り、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則に
よるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認
められる」「存在及び内容を現実に知っていると否との意かかわらず、個別
に同意を与えたかどうか問わず、当然にその適用を受ける」
失業者の7割が失業給付な
しに仕事を探している。
「派遣切り」で顕在化-雇用保険のほころび
雇用保険の加入状況 (08.12「雇用保険部会」提出資料)
雇用者
5,561万人
会社の役員
386万人
65歳以上の者(役員、継続被保険者を除く)
128万人
公務員(国、地方公務員の計)
356万人
雇用保険被保険者
3,685万人
その他雇用者
1,006万人
週20時間以上の雇用者
492万人
週20時間以上、期間6ヵ月以上1年未満
148万人
雇用期間6ヵ月未満
344万人
週20時間未満の雇用者
384万人
昼間学生アルバイト
130万人
雇用見込みの長短ではなく、失業
のリスクを第一義的に据えること
が失業給付においては本質的に
重要性である。
08年末「派遣切り」で1000万
人の雇用保険未適用が社
会問題化した。
09.3.31から「6カ月以上」で
救済対象と改正。
10.4.1から「31日以上」で適
用対象となる。
失業給付の「2つの役割」(濱口)
①拠出型の社会保険制度-失業による所得の喪失を保険事故と捉え、再就職するまでの所得を保障すること。
②雇用政策手段-完全雇用を実現するため、失業者にできるだけ速やかに再就職できるよう援助すること。
32
「高齢者雇用安定法」-やはり“空腹”は満たされなかった
馬渡淳一郎(日本労働法学
会誌68号 1986年)
シルバー人材センターを法制化(1985年)し、60歳以上の高齢者の短期的・臨時的な非
雇用就業の機会を開始した。
・外国に例がない。画期的、独創的な新制度である。
・「高齢者事業団」に活動は当初、「労働者供給事業」であると偏狭ないわれなき非難を
うけたが、ようやく国家法の公認となった。
法の構成ー基本理念、・国、自治体の責務、・
60歳定年の努力義務、・国の高年齢者雇用
促進努力義務、・事業主の再就職援助努力
義務、・退職準備援助措置、・シルバー人材セ
ンターなど
「もっとも、これらは多くの精神規定や努
力義務規定であって、美しい花園をみるよ
うである反面、空腹を癒す団子が乏しい感
は否めない。実際の成果は今後の努力いか
んにかかっている」(馬場)
33
シルバー人材センターと委託者および会員の
間は、それぞれ請負又は委任類似の関係であ
る。会員は下請負人のような地位にある。会員
と同センターおよび委託者の間では、いずれも
雇用関係は存在しないものとして制度化されて
いる。こうした法律構成は、労働者派遣と同様
に議論のあるところである。私見では「3者間労
務供給契約」の一種であり、センターと会員の
関係は「不真正第3者にためにする契約」と理
解すべきである。(要旨、「3者間労務供給契
約」山口大経済学雑誌35巻第5・6号)
登録型派遣-「使用者責任を派遣元が負ってくれる」という
サービスつきの職業紹介
「雇用者」と「使用者」が違う-根本矛盾
労働者派遣とは「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮
命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」(労働者派遣法第2条第1号)
常用型-雇用する労働者の配置行為。派遣されていない期間は6割の賃金。
登録型-雇用するのは派遣の開始後。派遣元の配置転換にすぎないとの法的仮構。
派遣元の「計画派遣」により、失業給付を操作できる。
派遣と「労供」事業はその社会的実態は同じである。違いは、異なる法的構成と法規制
に置かれていること。焦点は「運営コスト」のまかない方。
登録型労働者派遣事業-派遣料と賃金との差額=派遣マージン。規制がない。
労働組合の行う労働者供給事業-供給先と供給労働者は「使用関係」。組合と供給
先の供給契約が存在する限りで存在する限りで存続する特異な使用関係。
無料-組合費を徴収。
臨時日雇い型の有料職業紹介事業-求職者は登録し、求人があるつどに就労し、終
わると登録状態に戻って次の紹介を持つ。手数料の上限が定められている。
34
「偽装請負」とは請負と労働者派遣が別物であり、
きれいに区別できるという考え方に立脚している
この根拠は「区分基準告示」(第37号、1986年)にある。遡(さかのぼる)と「職業安定法施行令」
(1947年)は労働組合を除き、すべての労働者供給事業を禁止し、請負と称していても実態が労働
者供給事業であれば禁止するとした。
「区分基準告示」は、労務請負を労働者供給事業、作業請負を請負と規定した。
労務請負-個別作業ごとに労働者1人を供給する請負。事業所の指揮命令下に置けれる。
作業請負-事業全体を丸ごと一つの作業グループに請け負わせる。事業所のグループに対す
る指揮命令は及ばない。
労務請負と作業請負は実際は連続的である。区別できない。(課の単位で作業を請け負うことがあ
り得る。労働者はグループリダーと課長から何らかの指示を受ける)
「労働安全衛生法」-「指示」に当たらないコミュニケーションを義務付けている
●建設業では下請労働者の労災
保険料を雇用関係も指揮命令関
係もない元請が支払っている。
●造船業も統括責任者の選定、
協議組織の設置、作業間の連絡
調整、安全重視が元請に義務付
けられている。
35
2005年労働安全衛生法改正。製
造業の元請も混合作業の労働災
害を防止するため、作業間の連
絡調整、合図の統一など必要な
措置を義務付け。請負であっても
「指示」にあたらないコミュニケー
ションをとる。怠ると50万円以下の
罰金。
●請負労働法が必要。欠陥を派遣
法で埋め合わせている。御手洗の
いう「無理」の意味。
●戦前の工場法(=労働基準法
制)は、事業請負(告示のいう派遣
ではない正しい請負)であっても工
場主(=受け入れ企業)に使用者
責任を負わせていた。
賃金の「均等」と「均衡」を考える
-「月給制」の社員と「時給」のパートー
均等:二つ以上のものの間に、差が全くなく等しいこと。平等。(大辞林)
均衡:(きんこう equili brium)とは、一般には釣り合いがとれた状態を指す。
改正パート労働法(08.4.1施行)-通常の労働者との均等のとれた待遇の確保措置を義
務化した。
労働契約法(08.3.1施行、第3条の2)-「(労働契約は)就業の実態に応じて、均衡を考慮
しつつ締結し…」
正社員が「時給」制なら時給ベースでパートとの均等待遇を容易に論ずることがで
きる。
月給制は「渡し切り」である。本来は比較の対象でないが、労働基準法施行規則第19
条4項は「月給制といえども月単位でまとめて支払われる時給制」とみなし、月額賃
金/月所定時間で時間額を算定する。
●戦前の日本のホワイトカラーは「純粋月給制」であり、残業手当の概念はなかった。ブルーカラーの日給制は
残業すれば割増がつく時給制だった。
●戦時体制下では「陛下の赤子たる産業戦士」として工員は月給制しかも残業割増が支払われ、「職員」にも残
業手当が支払われた。
●戦後、工員・職員の身分差別撤廃闘争が展開され、工員も残業代のつく月給制となった。労働基準法(第37条
時間外労働)もこの土俵に立っている。
36
ホワイトカラーエグゼンプション
ー月60時間を超える残業→「割増5割」は残業奨励であるー
「ホワイトカラーエグゼンプション」とはアメリカでは、「残業代の規制」から一定のホワイト
カラーを外すことを意味した。残業代のみの適用除外である。年収800万円、時給4000
円、1時間の残業が5000円は妥当か、外してもよいか。「どれくらい高給であれば、残業代
を払わなくてもいいのか」が議論されるべきポイントであった。
●ところが日本では、残業代だけでなく、あらゆる労働時間規制からホワイトカラーを
適用除外しようとした。そしてあろうことに「仕事と育児の両立を可能にする多様な
働き方」 と位置付け、政府は「自律的働き方」「自由度の高い働き方」と正当化した。
●労働側は過労死遺族会も長時間労働や過労死の恐れから制度を批判した。
●マスコミは「残業代ゼロ法案」「残業代ピンハネ」と批判した。
労働時間規制は「これ以上長く働かせてはダメ」と言う規制。時間規制をなくせば、
仕事と育児が両立するというのは「詭弁」である。
「自由な働き方だから労働時間規制は撤廃」する。同時に在社時間を管理し、長時間労働
には「医師が面接指導を行え」としたのはまったく矛盾する議論であった。「時間そのもの
を規制すべき」であった。
37
名ばかり管理職
2008.1.28 東京地裁はマグドナルド
の店長に残業代支払いを命じた。
残業月137時間、休日ゼロ。
「経営者と一体的か」が争点となる。
出・退社等について厳格な制限を受けない
◆労基法の「管理監督者」-労働条件の決定その他の労務管理に経営者と一体的な
立場にある者(基発17号1947.9.13、基発150号1988.3.14)管理監督者は労基法上の時間規制
が適用されない。
◆世間で言う「管理職」-「人事管理、営業上の必要からの職制上の役付き者」。仮に
「優遇措置」が講じられ、職制が「課長」であっても「経営者と一体的」かが争点と
なる。仕事の中身が管理どころか、上司から管理される「管理職」の実態がマグドナ
ルドの店長だった。
課長は組合員から卒業する?
「管理職=職能資格制度における課長クラス以上」を労働組合員の範囲から外す問題。
労組法第2条-「使用者の利益を代表する者」の果たす機能に着目した基準である。職
能資格制度上の「管理職」とはイコールではないが、混同がある。ファーストフード店のビ
ジネスモデルは、店長が正社員であとはアルバイトなど。
38
労働時間の規制は実は「いのち・健康の問題」である
実際、日本ではどれだけ働いているか。25~44歳の男性、週60時間以上が2割以上。-
週5日で割ると1日12時間となる。(労働経済白書)
●「death from simple
「工場法」(1911年)の世界。上限時間が12時間だった。
over work」( 完全な働きすぎ
長時間労働を安全・衛生のリスクから捉えると‥。過労死
ラインは週60時間以上(=週40時間+残業20時間)
4週では残業が月80時間となる。
過労死の認定基準(01.12)
発症前1~6カ月にわたり、
1ヶ月45時間を超えると、業
務との関連性が強まる。
発症前1カ月間、100時間(2
~6ヶ月にわたり1ヶ月80時
間)を超えると過労死との
関連性が強い。
意義ー長時間労働は災害補償
義務の対象となる過重労働だと
認めたこと。
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過重労働による健康障害防
止」通達(02.2)
労働安全衛生法改正(05.11)
月100時間を超える時間外
労働に医師による面接指
導の義務付け。
就業場所の変更、作業転
換、時短、深夜作業の減少
を講じなければならない。
による死 1863.6 ロンドン新
聞。26時間半働きつめた女性
縫製工の死) マルクスが「資
本論」に引用した。「
●「労働世界」(労働組合期成
会・1897年創立)が1901年、芝
浦製作所や沖電気で起き
た「過労による結果の死弱
や頓死」を「いまや労働運
動は賃金問題でも権利問
題でもなく、生命問題であ
る」と論じた。
日本型「時短」の問題点
日本は「時短」を賃金支払いの労使間の「損得勘定」のとらえ方にある。生活時間との間
でどう配分すべき量とは見ていない。
80年代~90年代の時短議論-政労使は「カネ勘定」と捉えていた。
●法定労働時間は週48時間から40時間へ-時間外労働に法的上限
がされない。
●年次有給休暇の拡大-取得率が下がれば実質の時短にならない。
●休日労働の割増が35%に引き上げ-残業手当が増えるだけ。
日本の長時間労働を容認する「哲学」-時間外、休日労働の弾力的
運用が我が国の労働慣行の下で雇用維持の機能を果たしている。
(85年、労基法研究会報告)
「ワークシエア」ー誰と「シエア」(分かち合い)するのか。非正規に触れ
ないで語ることは不可能。
●誰とも分かち合わない。
●会社の正社員。
●失業者を含め、すべての労働者とシエアする。
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EUの労働時間指令
●労働者の健康と安全
の保護が目的。
●残業代は労使交渉に
委ねている。
●上限は週48時間。時
間外を含めた上限。
●1日につき最低連続
11時間の休息期間を
求めている。
●「オプトアウト」(週労
働時間の適用除外)で
も78時間を超えられ
ない。