Transcript 講義資料
日本経済入門 日本と東アジアの成長と貿易 アジア研究所 小山直則 1 今日学ぶこと 第3章 新成長の設計 2 3.2. グリーン成長への道 ●経済成長と環境保全の両立 ⇒経済成長と環境保全は両立できるのでしょうか? ⇒われわれの経済活動には、多くの天然資源の利用 が必要である。 ⇒そして、生産過程や消費過程で多くの廃棄物や汚 染物質が発生する。 ⇒1972年にローマクラブが『成長の限界』という報告書 を発表した。 ⇒ここでは、経済成長と環境の問題が議論された。 3 3.2. グリーン成長への道 ●経済成長と環境保全の両立 ⇒ローマクラブの『成長の限界』という報告書が発表さ れたのは1972年であり、 ⇒これは、第一次オイルショックの前年である。 ⇒オイルショックのとき、天然資源制約は日本の成長 に大きな影響を与えた。 ⇒同時にこの時代には日本の環境問題は深刻であっ た。 ⇒自動車の排気ガス、工場からの汚染物質によって 公害問題が発生した。 4 3.2. グリーン成長への道 ●経済成長と環境保全の両立 ⇒ローマクラブの問題提起は、現実味を帯びたもので あった。 ⇒天然資源の有限性と地球の環境汚染浄化能力には 限界がある。 ⇒これは、経済成長の制約となる。 ⇒市場メカニズムだけでは、消費と環境の豊かさを維 持することはできない。 ⇒われわれは、どのようにすればよいのでしょうか? 5 3.2. グリーン成長への道 ●経済成長と環境保全の両立 ⇒一般的に一人当たりの国民所得が高くなるほど、 人々の環境への配慮が高まり、環境は改善される という実証分析がある(環境クズネッツ曲線)。 ⇒一人当たりの所得が小さい経済の発展段階では、 経済が成長するにつれて環境が悪化する。 ⇒しかし、ある程度の段階になると環境問題は解決さ れると言われている。 ⇒確かに、先進国では排ガス規制が強くなり、電気自 動車や小型車が開発されるようになった。経済成長 とともに人々の環境意識も成長するのだろうか? 6 3.2. グリーン成長への道 ●持続的成長を求めて(教科書96頁) ⇒環境以外にも持続的成長に必要な条件があ る。 ⇒それは、社会資本や制度資本である。 ⇒社会資本とは、経済の構成員すべてにとって 必要な高速道路、上下水道、教育など Infrastructureを指す。 ⇒一方、制度資本は…。 7 3.2. グリーン成長への道 ●持続的成長を求めて(教科書96頁) ⇒一方、制度資本とは法的制度、教育制度、著作権 制度、環境制度などを指す。 ⇒これも経済成長に大きな影響を与えると考えられて いる。 ⇒法的制度が不安定な社会は、治安が乱れていて、 経済取引を安心して行うことができない。 ⇒こんな国では、経済が成長する訳がない。 ⇒法的制度はただ法律が存在するだけではなく、それ が守られる社会でなければならない。 ⇒食品偽装、耐震偽装、著作権侵害、契約不履行な どの違法行為が存在する社会では、経済成長は制 約されることになるであろう。 8 コーディネーションとインセンティブ ●コーディネーション(Coordination)の問題 ⇒企業や消費者などの経済主体が効率的に経済活動 を行うために政府が制度資本や社会資本を設計す ること。 ⇒例. 著作権に関する法令の制定。法律家の育成。 ⇒例. 高速道路の建設。 ●インセンティブ(Incentive)の問題 ⇒政府が設計した制度資本や社会資本を経済主体に いかにして利用してもらうかという問題。 ⇒例. 著作権遵守の誘因を高めること。 ⇒例. 高速道路の利用を高めること。 9 3.2. グリーン成長への道 ●持続的成長を求めて(教科書96頁) ⇒法的制度はただ法律が存在するだけではなく、それ が守られる社会でなければならない。 ⇒企業や消費者の経済効率を高めるような法制度を 制定することがコーディネーションの問題である。 ⇒経済効率を高めるために企業や消費者に法令をい かに遵守してもらうかという問題がインセンティブの 問題である。 ⇒市場経済では、売り手と買い手の間の異なる利益を 調整するためにコーディネーションの問題とインセン ティブの問題の解決が重要となる。 10 持続的成長を求めて(教科書96頁) ●香西泰(2001)『高度成長の時代』 ⇒香西泰(2001)では、日本の高度成長の要因 として以下の要因をあげている。 (1) 技術革新(イノベーション) (2) 市場メカニズム (3) 日本的経営 (4) 内需の充足と輸出の両立 (5) 世界の小国としてのメリット 11 持続的成長を求めて(教科書96頁) (1) 技術革新(イノベーション) ⇒イノベーションには新製品の開発を伴う Product Innovationと生産コストを削減する ようなProcess Innovationがある。 ⇒例. Product Innovation ①製鉄業における炭素や不純物を取り除くLD 転炉の技術の開発、導入。連続式の圧延 機の導入。 ②石油化学、合成繊維、トランジスタ、コン ピューターなどの新産業と新製品の登場。 12 持続的成長を求めて(教科書96頁) (1) 技術革新(イノベーション) ⇒イノベーションには新製品の開発を伴う Product Innovationと生産コストを削減する ようなProcess Innovationがある。 ⇒例. Process Innovation ①トヨタ方式などの生産コスト削減技術。 13 持続的成長を求めて(教科書96頁) (2) 市場メカニズム ⇒高度成長の第二の要因は、市場メカニズム である。 ⇒消費や投資などの内需の拡大が戦後三大景 気の共通要因であることを以前学んだ。 ⇒高度成長期の55-70年の消費支出の拡大が 経済成長に貢献した割合は、4割以上を占 めていた。 ⇒消費拡大の背景は、都市化や核家族化によ る消費世帯の増加にあると分析されている。 14 持続的成長を求めて(教科書96頁) (2) 市場メカニズム ⇒消費が拡大し、景気が良くなると、企業は生 産規模を拡大させようと活発な投資活動を 行う。 ⇒消費と投資の拡大のサイクルが続き、景気 が良くなるとさらに投資を拡大するという連 鎖的な効果が続いた。 ⇒このような現象を「投資が投資を呼ぶ」効果と 呼ばれている。 15 持続的成長を求めて(教科書96頁) (3) 日本的経営 ⇒高度成長の第三の要因は、日本的経営にあ ると主張されている。 ⇒日本的経営システム ①労働者管理企業の性格 ②終身雇用制 ③年功序列賃金 ④系列、企業集団 ⑤メインバンク制度 16 持続的成長を求めて(教科書96頁) (3) 日本的経営 ①労働者管理企業の性格 ⇒長期的に労働者を企業に雇用し、利益を分 配する。 ⇒そのかわり、協調的な労使関係によって賃金 を抑制し、配置転換などの人事に協力する。 ⇒②終身雇用制度や③年功序列賃金制度もこ のような労使関係から生まれてきたものと 考えられる。 17 持続的成長を求めて(教科書96頁) (3) 日本的経営 ④系列、企業集団 ⇒アメリカでは、企業統治(Governance)、経営 権は株主にあると考えられていた。 ⇒したがって、アメリカでは短期的な利益、配当 が重視されていた。 ⇒日本では、大銀行を中心とした企業系列に よって株式の相互に持ち合いが行われてい た(系列、企業集団)。 18 持続的成長を求めて(教科書96頁) (3) 日本的経営 ④系列、企業集団のメリット ⇒アメリカ企業は短期的な利益、配当を重視。 ⇒日本では大銀行を中心に株式が相互保有されてい たため、個人株主の議決権は小さかった(企業経 営者は「サラリーマン社長」)。 ⇒これにより、企業は、短期的な営業利益を気にする ことなく、長期的な利益を目標とすることができた。 ⇒これは大規模な研究開発投資や市場シェア拡大の ための投資が可能にした(技術革新の促進)。 19 持続的成長を求めて(教科書96頁) (3) 日本的経営 ④系列、企業集団のデメリット ⇒日本の製造業の研究開発費が大きく、営業利益が 小さい理由はここにあるのかもしれない。 ⇒営業利益が小さいと株式市場からの資金調達は困 難となる。 ⇒資金調達は、銀行を中心とした間接金融が中心で あった(⑤メインバンク制度)。 ⇒だから、日本企業の自己資本比率は米国よりも低く かった。 *メインバンク制度:企業と銀行の長期的取引関係。 20 情報の非対称性と日本的経営 ●企業と労働者の情報の非対称性 ⇒日本的な雇用制度には企業と労働者の情報の非対 称性問題を解決する働きがあるといわれている。 ⇒企業は労働者が真面目に怠けずに働いているかと いう情報を集めるのに多大な時間的・金銭的費用 が必要となる。 ⇒労働者は自分の質について十分な情報を保有して いるが(情報優位)、 ⇒企業は労働者の質に関する情報を十分に保有する ことはできないので情報劣位となる。 ⇒したがって、企業と労働者の間には情報の非対称 性が存在する。 21 情報の非対称性と日本的経営 ●企業と労働者の情報の非対称性 ⇒年功序列賃金制度は、情報の非対称性問題 を解決するように機能するといわれている。 ⇒企業は労働者に勤務年数が長くなるにつれ て賃金を上昇させると約束する(コミットメント)。 ⇒すると、労働者は途中で解雇されないように 真面目に働くので労働者を監視する費用が 節約できる。 22 情報の非対称性と日本的経営 ●企業と銀行の間の情報の非対称性 ⇒メインバンク制度は企業と銀行の間の情報の非対 称性問題を解決する働きがあるといわれている。 ⇒企業と銀行との間にも情報の非対称性が存在する。 ⇒各企業は自社の営業能力や財務能力について十分 な情報を保有している(情報優位)。 ⇒しかし、銀行は顧客である企業が優良な企業である かどうかがわからない(情報劣位) ⇒銀行が顧客である企業の情報を蓄積するためには、 膨大な時間と費用が掛かる。 23 情報の非対称性と日本的経営 ●企業と銀行の間の情報の非対称性 ⇒メインバンク制度とは、企業が継続的に取引 する銀行を一社に絞るという仕組みのことで ある。 ⇒銀行は企業と長期的な取引関係を持続する と顧客である企業の情報を蓄積することがで きるため、情報の非対称性問題を解決できる。 24 持続的成長を求めて(教科書96頁) (4)内需の充足と輸出の両立 ⇒国際収支の天井問題 ⇒戦後の産業政策によって日本企業の資本が蓄積さ れ生産力が拡大した。 ⇒しかし、1960年代前半までは輸出競争力がなかった。 ⇒岩戸景気やオリンピック景気で国内消費が拡大した が、同時に輸入も拡大した。 ⇒国内景気の拡大は、必ずしも輸出の拡大につなが らない。 ⇒輸出競争力がなく、すぐに貿易赤字となるような状 況を国際収支の天井問題という。 25 持続的成長を求めて(教科書96頁) (4)内需の充足と輸出の両立 ⇒日本企業の輸出競争力が高まったのは、 1965年以降のいざなぎ景気からといわれて いる。 ⇒このころから、内需の拡大と輸出の拡大が両 立できるようになった(国際収支の天井問題 の克服)。 ⇒生産力の拡大によって内需を充足し、国際競 争力の拡大によって輸出が拡大した。 26 戦後日本の経済成長 ●1955-70年 高度成長期 (1) 1956年 『経済白書』「もはや戦後ではない」。 (2) 1958年 岩戸景気。 (3) 1960年 池田内閣所得倍増計画。 (4) 1962年 オリンピック景気。 (5) 1965年 いざなぎ景気(国際収支の天井問 題の克服)。 (6) 1968年 GNPが世界第2位 27 持続的成長を求めて(教科書96頁) (4)内需の充足と輸出の両立 ⇒国際収支の天井問題を克服し、輸出を拡大さ せたが、輸出相手国はアメリカ中心であっ た。 ⇒このことから、1970年代に入ると日米貿易摩 擦問題が始まった。 ⇒輸出主導型の成長は自国通貨の増価や貿 易摩擦問題を引き起こすのでこのような形 での成長は持続可能ではない。 28 持続的成長を求めて(教科書96頁) (5) 小国としてのメリット ⇒高度成長の第五の要因は、世界の小国とし てのメリットである。 ⇒日米安全保障条約によってソ連、中国、北朝 鮮などの共産圏に備えて大規模の軍事支 出をせずに済んだ。 ⇒軽武装によって、税金を生産的な社会資本に 配分することが可能となった。 29