Transcript 家族システムとは何か
家族療法 ☆家族を介入の対象にした心理療法 →個人心理療法と異なり,複数人と相手に面接する ☆アメリカで発展した「第4の心理療法」 →1950年代,同時多発的に様々な実践が始まった。 ☆方法論や考え方には様々なものがある →精神分析的な家族療法もあれば 認知行動的な家族療法もあり得るし,実際ある ☆システムズ・アプローチ(SA)による家族療法 →最も一般的な家族療法の方法/考え方 の一つ 一般生物体システム理論 社会システム 家族システム 上位システム:大きなシステム ↕ 下位システム:小さなシステム システムの階層構造 階層間で影響し合う 個人システム 一つのシステムの変化が 他のシステムの変化に繋がる 例えば学校だとどうなる? 自己組織化するシステムの秩序 ・アリは餌に大群でむらがるが,「集まって」はいない ・個体としてのアリが従うルール →1.食べ物を探す 2.食べ物を見つけたらフェロモンを出す 3.フェロモンの濃い方向に移動する フェロモン フェロモン 個々の性質が 全体を形作り 全体の動きが 個々に影響する 自己組織化 単純な相互作用が自然に秩序を生み,全体が組織化される 事例から考え方を学ぼう ☆主訴:娘が引きこもり状態で困っている ☆背景:大卒。就活に失敗し,それから1年引きこもっている。 その間,何度か外出しようと思ったことはあるが,出来ず。 母は娘を過剰に心配するが,父は甘えと言い厳しく接する。 娘は父を恐れる一方で,母を少しうっとうしく感じている。 ☆それぞれが考える,引きこもりの原因 母:子育ての失敗が原因と考えている 父:性格的な弱さが原因と考えている 娘:親子関係の悪さが原因と考えている ⇒一体,どれが本当の原因なのでしょうか SAでは,これをどう考えるのか ☆原因を究明することで問題は解決するだろうか? ☆「原因究明 = 犯人探し」が家族にもたらしているモノ 母:子育ての失敗が原因と考えている →自分を責め,娘を保護しようとして,父と対立 父:性格的な弱さが原因と考えている →娘を責め,自立させようと厳しく接し,母と対立 娘:親子関係の悪さが原因と考えている →家族全体に責任転嫁し,無力感に支配されている ◆原因の思い込みが,問題を余計に悪化・維持している ☆SAでは,原因究明をせず,円環的思考を採用する →「A → B → C → A …」と「因果」でなく「連鎖」を見る では,どのように問題を捉えるのか ☆個人心理療法では… 「娘の自我機能」「娘の回避行動」 →問題を「個人の問題」と捉えるのが一般的な考え方 ☆SAによる家族療法では… 「家族システムの影響」 →家族が行う実際のコミュニケーションを重視する ☆家族システムとは何か →家族メンバーのお決まりなコミュニケーションパターン 個々人の振る舞いを,コンテクストの中で理解していく ⇒誰か一人の行動を原因とは捉えない ☆家族システムは,何をもたらすように機能しているか →そのパターンによって,何が維持され,何が阻害されて いるか(システムの機能)を理解し,介入していく この事例における家族システム ☆この家族システムについて,何が分かるだろうか 緊張が走る 娘が「外出す る」と宣言する 母が娘に「大丈夫?」 と不安を伝える 父母が対立する 父が娘を「外出 しろ」と責める 娘が部屋にこもる 緊張が解ける 父母の口論が収まり 緊張が解ける 母が父を「厳し い」と責める 娘が不安になり 「やめる」と言う 父母が対立する 緊張が走る 父が母を「甘い」と 責め立てる このシステムの特徴 ☆各家族メンバーの振る舞いと,そのコンテクスト ・娘は両親の不安や緊張感を弱めるように行動する ・母は娘が何かしようとすると不安を訴える ・父は娘が何もしないでいると,何かさせようとする →父と母は,一人が娘に関わると,もう一人が反発する ※各メンバーの「原因に関する思い込み」も影響する ☆システム全体の機能と,その結果 ・行動する力と,行動させない力が,対立して発生する ・娘によって,その対立が調整されている →「娘は何も出来ない」がシステムによって維持される ◆娘は家族システムの影響を一番に受けている人 ⇒IP: Identified Patient → 患者とみなされた人 どのように介入していくのか ☆介入の狙い:問題解決的な家族システムへの変化 ☆典型的な介入方法 ・エナクトメント:enactment →面接室の中で,家族のパターンを再演してもらう ・コミュニケーションパターンへの「今ここで」行う介入 1.コミュニケーションの遮断・再編成 →問題解決を邪魔する発言をブロック・変える 例) 母の不安発言をブロックし,娘に話させる 例) 娘が自分でアイデアを考え,父と母は聞く 2.肯定的意味付け →問題を肯定的に言い換える事で「機能」を変える 例) 娘さんはバランスを取る名人ですねぇ 介入で家族システムはどう変化するか 面接室にて 全員が笑う 娘が「バランスと るよ~」と言う 父が口を出す 娘が「外出す る」と宣言する Thが遮る 父母は様子を見守る 娘が計画を話す 全員が笑う Thが「良いバラン スだね」と言う 娘は自分なりの 計画を考える Thが遮る 娘がおどける 母が口を出す 何のために家族システムを変えるのか ☆目的はあくまで「問題解決」 →家族システムへの介入は,そのための方法に過ぎない ☆問題解決のための手順 1.問題の明確な定義 →どの問題に焦点を当てるかハッキリと決める 2.解決の明確な定義 →どうなれば解決なのか,ハッキリと決める 3.治療契約:回数や方法についての約束 4.問題解決に向けた計画 →当事者が自分自身で計画を立てるよう助ける 5.計画の実行と結果の評価 →結果を記録することで,客観的に評価できる 家族に馴染んでから介入する ☆ジョイニング:セラピストが家族に馴染む/溶け込むこと →必要な介入がスムーズに行うために必要不可欠 ☆基本は,受容的で肯定的な接し方 →特に初期は,訴えを批判せず,感情的にも労っていく ☆ジョイニングのテクニック:特に初回面接。その後も必要。 ・マイム(ものまね) →家族の話し方や姿勢などに合わせる ・トラッキング(追いかける) →家族の話す内容を批判せず遮らず,ついていく ・アコモデーション(家族に適応する) →家族が持つ特有のルールを読み取り,それに合わせる 例) 挨拶する順番,主導権を取る人を見抜き話しかける 解決焦点型心理療法 ☆問題の解決に焦点を当てた心理療法の方法 →問題そのものには,あまり焦点を当てない ☆問題焦点型心理療法の特徴 →Clの語る「問題」に興味を示し,問題について 語り合うことで,問題の理解を深めていく ☆解決焦点型心理療法の特徴 →Clの中で既に生じている「解決」に興味を示し, 積極的に,解決に向けた会話を構成していく ☆5つの E と,1つの B →Effective, Efficiency, Esthetic, Ethical, Economical, Brief. 解決焦点型心理療法の発想 ☆役に立つものはなんでも使う(倫理の範囲内で) →特定の学派や立場にこだわらず,その事例に役立つと 思ったものは,臨床心理学的に「非常識」であっても 積極的に治療の中で利用していく。 例) 悪魔祓い ☆Clの病理に注目せず,Clによる解決を広げていく →「人は既に問題を抱えて生きており,その中で解決を 自ら始めている」「解決は常に起こっている」 ☆セントラル・フィロソフィー:常に中心となる思想 1.もしうまく行っているなら,それを直そうとするな 2.もし一度うまく行ったのなら,またそれをせよ 3.もしうまく行かないなら,何か別のことをせよ 解決焦点型心理療法の方法 ☆解決焦点的な会話の構成 →常に解決につながる話題を取り上げていく 「何が上手く行きましたか」「何が役立ちそうですか」 ☆4つの代表的な質問法 1.例外探し →ある問題が,例外的に上手くいった経験を尋ねる 2.ミラクル・クエスチョン →奇跡的に問題が解決したら,今と何が違うか尋ねる 3.スケーリング・クエスチョン →成功の度合いを,100か0かでなく点数化してもらう 4.コーピング・クエスチョン →難しい状況を乗り切った「方法」「秘訣」を尋ねる 例外探しとは何か ☆解決を広げていくための,中心的な方法 →例外的な解決を,徐々に広げていくキッカケ作り 訴え:不安になると,いつも家から出られなくなるんです →「いつも」,「なにも」できないと考えることで, 小さな解決の芽は見過ごされ,解決は遠のいていく 問い:不安になっても,家を出られたことはありますか? →例外的に問題が解決されたエピソードを尋ねる エピソードが語られたら,「何を試みたか」「工夫は」 等の質問を重ねることで,解決のためのコツを発見する ⇒次の機会に利用することで,解決を広げていく ミラクル・クエスチョンとは何か ☆解決を思い描くための,中心的な方法 →解決焦点型心理療法は,終結のイメージから始まる 訴え:どうしても学校に行くことが出来ないんです →問題に巻き込まれてしまい,解決した様子を見失って いる状態では,解決に向けた話し合いになりにくい 問い:もし奇跡が起きて解決したら何が変わっていますか →問題が解決した状態を鮮明に思い浮かべるよう促す 目標設定と共に,解決への希望を引き起こす 具体的な解決は,意外と近くにあることを実感する ⇒解決へのモチベーションを高めていく スケーリング・クエスチョンとは何か ☆解決を評価するための,中心的な方法 →解決は,白か黒かではない。部分的な解決を拾う。 訴え:また今回も不安に上手く対応できませんでした →100%失敗だったと捉えていることで,些細な変化を 見過ごし,自信を失っていってしまう。 問い:最も上手く行った時が100点とすると,今回は? →点数化してもらうことで,部分的な解決に気づき, 次の挑戦に繋げられる。「60点でした」なら,「40で も50でもなく,60なのは,何が良かったのだろう」 ⇒解決に近づく形で結果を評価していく コーピング・クエスチョンとは何か ☆自分の「強さ」を自覚してもらうための中心的な方法 →自分が過去にしてきた対処について話してもらう 訴え:本当に彼と付き合ってからは地獄でした →問題に翻弄され,自分では何もできていないという 無力感は,自ら解決していく意思を遠ざける 問い:その辛い状況を生き抜けた秘訣は何なのでしょう →その問題の大きさや苦しさを肯定した上で,そこで 何を試みてきたか話してもらうことにより,自分なり の「強さ」を再認識してもらう。Thは賞賛する。 ⇒無力感を遠ざけ,Clの持つ力を強調していく 事例で4つの質問法を見てみよう Cl「どうしてもやる気が出なくて,家に居ちゃうんです」 Th「もし奇跡が起きてやる気が出たら,何が変わる?」 Cl「そうですね,平日は朝から仕事に出かけていて,休日 はスポーツとか音楽とか,趣味に費やしてますね」 Th「ではその奇跡を起こしてみましょう。ちなみに, やる気がなくても,家から出られたことはある?」 Cl「あるかなぁ…。あぁ,前々から予定を入れてある時 は,やる気あるかどうか関係なく出れますね」 Th「それを奇跡のために利用するとしたら,どう使う?」 Cl「そうだな…。予定を増やすことで,家から出やすく していけるかもしれません」 事例で4つの質問法を見てみよう Cl「前回話した通り,予定を入れてみたんですけど,ん~ あんまり上手く行かなかったですね」 Th「全て完璧な状態を100点とすると,何点だった?」 Cl「そうだなぁ…。40点くらいかな」 Th「ほう!10点でもなく20点でもなく,40点だったと。 40点分の奇跡を起こすのに,何が役立ったんだろう」 Cl「上手くやれた日は,朝起きてお風呂に入ったんです よ。そしたら眼がスッキリ覚めて良い感じで!」 Th「そのコツをさらに利用するとしたら,どう使えば良 いだろうか」 Cl「そうか。毎日,朝風呂に入れば良いんだ(笑)」 事例で4つの質問法を見てみよう Cl「ほんと,家で何も出来ずに暮らすのは,最低でしたよ。 何も楽しくないし,もういっそ死にたいとすら思った」 Th「それはそうだろう。最低で,死にたいとすら思うよう なピンチを,あなたは生き延びてきた。あなたはそう 思わないかもしれないが,それは凄いことだと思う。 いったい,どのようにその気持や状況に対処してきた のか,とても興味がある。是非教えて欲しい」 Cl「そんな大げさな(笑)。まぁでも,そういう時は,なる べく楽しい本を読んだり,友達に電話したりして,気分 を持ち直して来ましたね」 Th「素晴らしい。あなたは既に強さを備えていたんだ!」 単にポジティヴなだけではできない ☆極めて鋭い「観察眼」を必要とする ・Clの解決焦点的でない話し方を,即座に特定できる →これが出来ないと,Clの解決焦点的でない話し方に 巻き込まれてしまう ・Clが見せる感情のサインを,その場で読み取れる →これが出来ないと,Clの不安や恐れを見逃して, ひとりよがりな「解決焦点」になってしまう ・Clが示す特定の行動パターンを特定できる →これが出来ないと,いつ/どのタイミングで, 一歩踏み込んだ質疑を行うべきか判断ができない ☆天才セラピスト,ミルトン・エリクソン:催眠の名手 →首すじを見るだけで,脈拍の変化まで観察できた。 今日のまとめ ・システムズ・アプローチを基礎とした家族療法では,個人ではなく, システムとしての家族の相互作用を介入対象にする ・一般生体物システム理論では,上位システムと買いシステムが相互 に影響を及ぼすと考える ・円環的因果律を採用し,単一の原因/犯人探しをしない ・個人の問題はシステムの歪みの結果であると考え,問題を表してい る人物をIdentified Patientと呼ぶ ・家族療法は集団面接を基本とし,目の前でエナクトメントされる相 互作用に対して,ジョイニングしたうえで介入する。 ・家族療法は解決焦点型心理療法と同様に,問題解決に焦点を当てて おり,実用主義に則っている ・解決焦点型心理療法では「解決は常に起こっている」と考え,例外 探しやミラクル・クエスチョンといった方法で解決を広げていく ・解決焦点型心理療法には3つのセントラル・フィロソフィーがある