Nrf2は抗酸化防御と表皮バリア機能を結びつける

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Transcript Nrf2は抗酸化防御と表皮バリア機能を結びつける

EMBO Molecular Medicine 2012 Vol.4,364-379
Nrf2 links epidermal barrier
function
with
antioxidant
defense
Matthias Schäfer, Hany Farwanah, Ann‐Helen Willrodt, Aaron J. Huebner, Konrad
Sandhoff, Dennis Roop, Daniel Hohl, Wilhelm Bloch, Sabine Werner
Nrf2は抗酸化防御と表皮バリア機能を結びつける
2014/12/22
U4 柴田真衣
Nrf2について
文部科学省HPより http://www.tanpaku.org/tp_fundamental_biology/fbb1.php
酸化ストレスによって誘導される転写因子、様々な抗酸化物質や解毒酵素
の合成を促進し、細胞を保護する役割を持つ。
定常時はセンサータンパク質のkeap1と複合体を形成し、核移行が抑制さ
れている。
酸化ストレスを受けるとkeap1はNrf2を認識しなくなり、Nrf2は核に移行、標
的遺伝子の転写を促進する。
背景と目的
皮膚は人体を保護するバリアとして重要な臓器であり、皮膚を酸化ストレスから保護
することは、皮膚の完全性や、バリア機能の維持につながると考えられている。
筆者らは、マウスの表皮に特異的な活性型Nrf2変異体を発現させることにより、ケラ
チノサイトがUVB由来の酸化ストレスから保護されることを発見した。
また、内因性Nrf2のアクチベーターを用いても同様の効果が見いだせることを確認し
た。(Schäfer et al,2010)
しかし、Nrf2の活性化は、酸化ストレスから細胞を保護するだけではなく、有害な
側面も持ち合わせることが報告されている。
・様々なガン細胞Nrf2が活性化しており、ガン細胞の増殖促進、アポトーシス抑制、
化学物質耐性の増強に関与する(Denicola et al,2011;Hayes&McMahon,2009)
・keap1のkoマウスは、表皮の過角化が起こるだけでなく、食道の過角化による栄養
失調により3週間以上生きられない。(Wakabayashi et al,2003)
→Nrf2の活性化が皮膚にもたらす影響を詳細に分析し、有害な側面のメカニズムを
解明することと、メカニズムの解明によりNrf2アクチベーターの皮膚に対する有益性
を確かめることを目的とした。
K5cre-CMVcaNrf2マウスの作成
表皮において特異的にNrf2の過剰発現が起こるダブルトランスジェニックマウス
(K5cre-CMVcaNrf2マウス)を作成した
エンハンサー
転写停止配列
常時活性を持つ
変異型Nrf2
Cre-レコンビナーゼに
よって切断される部位
EGFP(蛍光タンパク質)を
共発現させるための部位
Keratin5は表皮基底層で発現する
=基底層でCre-レコンビナーゼが発現する →表皮で特異的にcaNrf2の転写が起こる
K5cre-CMVcaNrf2マウスの作成
RPA(RNaseプロテクションアッセイ )
を用いてマウス表皮における標的
mRNAの検出、定量を行った
tg/wt:K5creのみがトランスジェニッ
クされているマウス
(今後Controlとして用いる。)
→CMVの導入により、caNrf2の発
現量が増加した(約4倍)
K5cre-CMVcaNrf2マウスの作成
マウス背部皮膚におけるNrf2標的
遺伝子のmRNA発現量をqRT-PCR
で定量した。
(n=3,2)
内部標準:Gapdh
→CMVの導入によりNrf2標的遺
伝子の発現増加量が大きくなった
と考えられる。
Nqo1:Nadphデヒドロゲナーゼキノン1
Gclc:グルタミン酸システインリガーゼ触媒サ
ブユニット
Gclm:グルタミン酸システインリガーゼ調節
サブユニット
Srxn:スルフィレドキシン
K5cre-CMVcaNrf2マウスの表現型
トランスジェニックマウスの表現型を
観察した。
(左図)tg/tgマウスにおける
・体重の減少(supplement data)
また、視覚的な
・小型化
・皮膚の乾燥
・毛の消失
・皮膚の鱗状化
が観察された。
(右図)同じ遺伝子型でも表現型の程
度に違いがあるように考えられた。
K5cre-CMVcaNrf2マウスの表現型
トランスジェニックマウスの背
部皮膚の断面をHE染色し、
観察した。
tg/tgマウスにのみ
・表皮肥厚化
・過角化症
・皮脂腺、毛包の異常
が認められた。
E:表皮
SC:角層
HF:毛包
SG:皮脂腺
内因性Nrf2の活性化が表皮に与える影響
K5cre-CMVcaNrf2マウスでは表皮の表現型に異常が認められたが、そ
れがNrf2の過剰発現による現象か確かめるために、内因性Nrf2を活性
化させ、遺伝子発現や表現型を比較していく。
DMSOにNrf2アクチベーターを添加したもの:非イオン親水性クリーム=
2:1で混合し野生型マウスの背部皮膚に塗布した。(2回/日、P0から10日
間)
スルフォラファン・・・ブロッコリーに微量含まれる含流化合物
tBHQ(tert-ブチルヒドロキノン)・・・Nrf2-ARE(抗酸化剤応答配列)経路の
活性化剤
内因性Nrf2の活性化の表皮に対する影響
A:マウス皮膚のHE染色図
B:マウス背部皮膚のmRNA発現量(qRT-PCR,n=3)
→Nrf2アクチベーターの塗布で、表皮の過角化、肥厚化、皮脂腺の拡大が観察され
た。また、Nrf2のターゲット遺伝子の発現上昇が認められた。
内因性Nrf2の活性化の表皮に対する影響
マウス背部皮膚の生存表皮の厚さを計測した。
C:Nrf2アクチベーターの塗布で、表皮が肥厚することが認められた。
D:Nrf2ノックアウトマウスでは、tBHQによる表皮の肥厚化が認められなかった。
→Nrf2アクチベーターの塗布により、 K5cre-CMVcaNrf2マウスと同様にNrf2が活性化
され、表皮の肥厚化が誘導されることが認められた。
マウスの年齢と表現型との相関
SC:角層 HF:毛包
マウス背部皮膚をHE染色
→tg/tgマウスにおいて、P32で認められる表皮の過角化、肥厚化が、6mで若干
改善される。これは、caNrf2の発現量と相関する(supplement data)。
表皮の分化マーカーの観察
標的タンパク質:赤
核:青(Hoechst)
マウス背部皮膚を免疫染色
Lor:ロリクリン、顆粒層で発現する周辺帯タンパク質
Inv:インボルクリン、有棘層で発現する周辺帯タンパク質
表皮の分化マーカーの観察
標的タンパク質:赤
核:青(Hoechst)
K・・keratin
K10:有棘層で発現
K14:基底層で発現
K6:通常表皮では発
現していない
→基底層、有棘層、顆粒層の肥厚化が認められたが、各タンパク質は正規
分布しており、構造上の異常は認められなかった。
表皮における細胞分裂量の測定
BrdU:ブロモデオキシウリジン
チミジンのアナログで細胞分裂のS期で
DNAに取り込まれる。
tg/tgマウスの細胞分裂の程度を調べる
ために、
C:マウス腹腔内にBrdUを注入
D:tgマウス由来ケラチノサイト培地に
BrdUを添加
2時間後、BrdUを取り込んだ細胞の数を
数えた。
→細胞分裂量はtg/tgマウスにおいて有
意に増加した。
しかし、ケラチノサイト単体ではこの現象
は認められなかった。
表皮におけるアポトーシス量の測定
TUNELアッセイでP32マウス表皮のアポトー
シスの度合いを測定
アポトーシス量はtg/tgマウスで減少傾向を
示したものの、増殖数と比較するととても小
さく
細胞の増加量>アポトーシス量
と考えられる。
→表皮の肥厚化は、細胞分裂の促進によっ
て引き起こされる。
表皮バリア機能の測定
Tewameterで経皮水分蒸散量(TEWL)を測定
→caNrf2によって皮膚のバリア機能が低下する。
炎症と皮膚バリア機能低下との関連性の評価
真皮における炎症に関連する細胞を染色し、数を計測した。
(T細胞・・抗CD3抗体、マスト細胞・・トルイジンブルー、好中球・・抗Ly-6g抗体)
→P32tg/tgマウスの真皮において、マスト細胞、好中球の数が有意に増加した。
T細胞においては増加傾向があった。
炎症と皮膚バリア機能低下との関連性の評価
マウス皮膚における炎症性サイトカインを定量した。(n=2,3)
→P2.5においてはIL-1β、P32においてはIfnγ、IL-1β,IL-6,Tnf-α,が増加した。
IL-6はケラチノサイトの分裂を促進する(Werner et al,2007)
→IL-6の増加が過角化と関連する可能性が示唆された。
炎症と皮膚バリア機能低下との関連性の評価
炎症性サイトカインによって発現量が増加する報告のある(Szabowski et
al,2000)
各種ケラチノサイト分裂促進物質を定量した。(P2.5,qRT-PCR)
→P32において発現量の増加が認められた。
この炎症のタイムコースが表皮肥厚化と関連する可能性が示唆された。
しかし、P2.5における炎症を示すデータがほとんどないため、炎症はNrf2
が直接誘導していないと考えられた。
バリア機能に関連する構造の変化
DJ:デスモソーム
TJ:タイトジャンク
ション
ICS:細胞内
スペース
電子顕微鏡でケラチノサイトの顆粒層を観察
→P32のtg/tgマウスにおいて、細胞内スペースの拡大が観察された。
しかし、デスモソームの数は変化なし
バリア機能に関連する構造の変化
スルホ-NHS-LC-ビ
オチン:赤
Hoechst:青
SC:角層
SG:顆粒層
矢印:スルホNHS-LC-ビオチン
の侵入が阻まれ
ている部分(タイト
ジャンクション)
マウス皮膚にスルホ-NHS-LC-ビオチンを真皮内に注入し、拡散が 点線:SCとSGの境
界面
起こる範囲を測定した。
tg/wt,tg/tgマウス両方において、タイトジャンクションがビオチンの侵入を防ぐこ
とが観察された。
→タイトジャンクションの機能性に大きな差かないことが示唆された。
バリア機能に関連する構造の変化
LB:ラメラ構造
矢印:LBが消失して
いる部分、
または
LB周辺の膜構造が
消失している部分
電子顕微鏡でP32マウスのケラチノサイトの顆粒層を観察
→tg/tgマウスにおいてLBの形態に異常が起こっていることが観察された。
バリア機能に関連する構造の変化
D:電子顕微鏡でケラチノサイト CO:角質細胞
の角層を観察
→tg/tgマウスではCO中にラメ
ラ構造が存在していること、つ
まりラメラ構造の分布の異常
が認められた。
E: OIL RED O 染色で角層を染
色
→脂質の分泌は正常に起こっ
ている、周辺帯は形成されて
いる。
SC:角層
SG:顆粒層
表皮の脂質代謝の変化
F:SC中のコレステ
ロール、遊離脂肪
酸、セラミド量
G:HPTLCで脂質を分
離、定量した。
→tg/tgマウスにおいてSC中のセラミド重量に
増加傾向があった。
また、セラミドの代謝に変化が起こっているこ
とが認められた。
表皮の脂質代謝の変化
qRT-PCRで皮膚におけるElovl発現量を測定(n=2,3)
P32において、Elovll1,3,4,6,7の発現量が増加した。 Elovl5については減少し
た。
→P2.5においてElovlsの発現量増加が認められないため、脂質代謝の異常
はNrf2の発現量増加による直接的結果ではないことが示唆された。
角質細胞の観察
電子顕微鏡でP32マウスの
表皮上部を観察
→tg/tgマウスにおいて、CO
の細胞質が半透明であるこ
と、COが肥厚化していること
が観察された。
肥厚化はP2.5でも認められ
たため(no data shown)、
Nrf2の直接的な作用である
可能性がある。
CO:角質細胞
SC:角層
SG:顆粒層
Scale bar(白):上図:1µm 下図:0.2µm
フィラグリンの定性、定量
Filaggrin(フィラグリン):ケラチンの凝集(角
化)に必要なタンパク質
ウエスタンブロットで表皮中のフィラグリン
量を測定した。
→フィラグリン量は増加しているが、分布に
異常は認められなかった。
肥厚化、過角化原因遺伝子の探索
Slpi:KLK7のインヒビター、角層の剥離を
阻害する
qRT-PCRでtg/tgマウスの皮膚における
Slpiの発現量を測定した。
tg/tgマウスにおいて、P2.5~6mの
すべての群において、Slpiの発現量が
増加した。
また、P0.5においても発現量の増加が
認められた。(Supplyment data)
→初期に発現が上昇していることから、
Nrf2の発現上昇が、直接的にSlpiの発
現を誘導する可能性が示唆された。
SLPIの過角化に対する影響
C:角質細胞(基底部から1,2,3…) SG:顆粒層
矢印:コルネオデスモソーム
電子顕微鏡で角層を観察(左図:角層下部 右図:角層上部)
tg/tgマウスではコルネオデスモソームが正常に劣化していない。
→Slpiの発現量増加によって過角化が促進されている。
肥厚化、過角化原因遺伝子の探索
Lor:ロリクリン
Sprr:スモールリッチプロテ
イン
ともに周辺帯を形成する
タンパク質
qRT-PCRでマウス皮膚の周辺帯タンパク質発現量を測定
→tg/tgマウスにおいて、Sprr2dとSprr2hの発現量が増加した。
Sprr2dの増加量は、P32を最大としたのに対して、
Sprr2hの増加量は、P2.5を最大とした。
また、sprr2d、2hの発現量は、P0.5でも増加した。(supplement data)
→sprr2d,2hがNrf2の直接なターゲットである可能性が考えられた。
Sprr2sの発現の確認
対Sprr2s抗体を用いて、
マウス尾部皮膚を免
疫染色
→tg/tgマウスにおい
て、表皮のSprr2sの量
が上昇していることが
確認された。
E:表皮
D:真皮
周辺帯の機械的強度の測定
矢印:正常な角質細胞
三角形:損傷した角質細胞
P32マウスから分離した角質細胞を超音波で処理し、損傷量の変化を継時的に測定した。
tg/tgマウスの角質細胞は超音波によるダメージを受けやすい
→角質細胞の物理的強度に関わる周辺帯に、劣化が起こっている可能性が示唆された。
Nrf2の作用の確認
皮膚における遺伝子発現量
をqRT-PCRで定量
A:野生型マウスにtBHQを塗
布した (Fig2の実験と同様)
tBHQによる内因性Nrf2の活
性化によって、野生型マウス
においてもSlpi,Sprr2hの発現
量が上昇することが確認され
た。
B:tg/tgマウス由来のケラチノ
サイトを用いてqRT-PCR
tg/tgマウスでは、in vitroにお
いても、SlpiとSprr2hの発現量
が上昇することが確認された。
Nrf2の作用の確認
野生型マウス初代ケラチノサイトを用いて、tBHQによる内因性Nrf2活性化が遺伝子
発現にもたらす変化を調べた(qRT-PCR)
tBHQ添加によって、SlpiとSprr2dの発現量が濃度依存的に上昇した。
また、Nrf2のノックアウトによって、その現象は認められなくなった。
Sprr2hにおいては、tBHQにより同様の減少が認められたが、Nrf2のノックアウトに
よってキャンセルされなかった。
→SlpiとSprr2dがNrf2の直接的なターゲットである。
総括
Nrf2の過剰な活性化は、sprr2d(2h)とSlpiを過剰に発現させる。
Nrf2は間接的に、表皮の過角化、肥厚化、バリア機能低下、ケラチノサイト
過増殖、炎症を誘導する。
サプリメントデータ
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