20141114 不妊クリニックとの診療連携

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Transcript 20141114 不妊クリニックとの診療連携

平成26年11月14日
日本甲状腺学会ランチョンセミナー
大阪
不妊クリニックとの
医療連携
甲状腺専門医に求められる役割
すみれ甲状腺グループ代表
浜田昇
はじめに
甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症が妊娠の経過や、
胎児に影響を与えることはよく知られています。

でも、今日は、そういう次元の話ではありません。
そんなことが問題なの?という話です

私も最初は不妊クリニックからの紹介状に首をかし
げました。
実際、不妊クリニックから、患者さんを紹介しても、

「この程度では治療の必要はない」と言って返され
てくることが多いようです。

しかし、よく調べてみると、その僅かな甲状腺機能
の変化が妊娠の経過に影響するというエビデンスが
あります。
はじめに
一方、この問題の特殊性として「不妊治療をされて
いる女性の切実な想い」があります。

不妊で悩む女性には「極僅かなリスクでも除ける
ものは除いておきたい」という気持ちがあり、そ
のことがこの問題には関係しています。
でも、ただ患者さんの気持ちを理解してあげるとい
うだけではサイエンスでも何でもありませんが、
エビデンスがある以上

きちんとした対応が求められていると思います。
ということで
不妊クリニックからの紹介患者は、

通常の甲状腺患者と治療目的が異なる事を、
まず理解していただきたいと思います。
本セミナーでは、

可能な限りサイエンティフィックに、この問
題に迫ってみます。
不妊クリニックから
の紹介状
不妊クリニックからの紹介状
すみれクリニック
ご担当医 先生御机下
○○ ○○様(当院患者ID・・・・)病用
いつもお世話になりまして有難うございます。
不妊治療目的で通院中の患者ですが、甲状腺機能スク
リーニング検査で別紙の通り異常所見を認めました。
ご多忙中のところ恐れ入りますが、精査をお願いします。
不妊クリニックからの紹介状
すみれクリニック
ご担当医 先生御机下
○○ ○○様(当院患者ID・・・・)病用
いつもお世話になりまして有難うございます。
不妊治療目的で通院中の患者ですが、甲状腺機能スク
リーニング検査で別紙の通り異常所見を認めました。
ご多忙中のところ恐れ入りますが、精査をお願いします。
検査結果報告書
患者ID ・・・・
氏名 ・・・・
検査項目
TSH
FT4
性別 女
年齢 33才
採血日
・・・・・
依頼医師 ・・・・
結果
2.58 ↑
1.27
単位
μU/ml
ng/dl
どこに異常があるの?
よく見ると、TSHが高値であると書かれています
おかしいなと思って、基準値をみると、・・
妊娠中のTSHの基準値は、低くなるのは知っていたが
まだ妊娠もしていないのに、・・・
基準値
0.5-2.5
0.9-1.7
そう言えば、・・・・
ATAの甲状腺機能低下症のガイドラインで
TSH 2.5・・、というのが、
出ていたのを思い出しまして
見てみました
米国甲状腺学会の甲状腺機能低下症治療ガイドライン
Clinical Practice Guidelines for Hypothyroidism
in Adults:
Cosponsored by the American Association of Clinical
Endocrinologists and the American Thyroid Association
Jeffrey R. et al. The American Association of Clinical Endocrinologists and
正常範囲のTSH値を
American Thyroid Association Taskforce on Hypothyroidism
in Adults
持つ患者で治療すべ
THYROID Volume 22, Number 12, 2012
きなのは?
このガイドラインの中に
Which patients with normal serum TSH levels should
be considered for treatment with L-thyroxine?
そこのRECOMMENDATIONにこう書かれていました
RECOMMENDATION 19.1
• Treatment with L-thyroxine should be considered in women of
childbearing age with serum TSH levels between 2.5 mIU/L and
the upper limit of normal for a given laboratory’s reference
range if they are in the first trimester of pregnancy or planning
a pregnancy including assisted reproduction in the immediate
future.
妊娠第1期かあるいは、
妊娠を直前に考えている女性で
TSHが2.5μU/mlから基準値上限の間のものは、
L-T4による治療を考えるべきである
RECOMMENDATION 19.1
• Treatment with L-thyroxine should be considered in women of
childbearing age with serum TSH levels between 2.5 mIU/L and
the upper limit of normal for a given laboratory’s reference
range if they are in the first trimester of pregnancy or
planning a pregnancy including assisted reproduction in the
immediate future.
妊娠第1期かあるいは、
近い将来に妊娠を考えている女性で
TSHが2.5μU/mlから基準値上限の間のものは、
L-T4による治療を考えるべきである
RECOMMENDATION 19.1
• Treatment with L-thyroxine should be considered in women of
childbearing age with serum TSH levels between 2.5 mIU/L
and the upper limit of normal for a given laboratory’s
reference range if they are in the first trimester of pregnancy
or planning a pregnancy including assisted reproduction in the
immediate future.
妊娠第1期かあるいは、
近い将来に妊娠を考えている女性で
TSHが2.5μU/mlから基準値上限の間のものは、
L-T4による治療を考えるべきである
RECOMMENDATION 19.1
• Treatment with L-thyroxine should be considered in women of
childbearing age with serum TSH levels between 2.5 mIU/L
and the upper limit of normal for a given laboratory’s
reference range if they are in the first trimester of pregnancy
or planning a pregnancy including assisted reproduction in the
immediate future.
妊娠第1期かあるいは、
近い将来に妊娠を考えている女性で
TSHが2.5μU/mlから基準値上限の間のものは、
L-T4による治療を考えるべきである
こんなこと根拠があるの?
Recommendationの下に、ここを見なさい
See: When to treat hypothyroidism; Concurrent conditions of
special significance in hypothyroid patients—Hypothyroidism
during pregnancy; Table 7
と書いてありましたので、丁寧に読んでみました
確かに妊娠中のTSHの基準値は、
first trimester, 0.1–2.5 μU/ml
ですが、
TSHを2.5μU/ml以下にしなければいけない根拠が
あるのか?
しかも、妊娠前から、そうする理由があるのか?
そこに根拠として書かれていた文章は
根拠として書かれていた文章

The rate of pregnancy loss, including spontaneous
miscarriage before 20 weeks gestation and
stillbirth after 20 weeks, have been reported to
be increased in anti-thyroid antibody–negative
women with TSH values between 2.5 and 5.0.

TSH値が2.5-5.0μU/mlの抗甲状腺抗体陰性
女性では、妊娠20週までの流産、20週以降
の死産を含む妊娠損失率が増加することが
報告されている
その論文を紹介しますと
Negro R, et al. 2010
Increased pregnancy loss rate in thyroid antibody negative women with TSH
levels between 2.5 and 5.0 in the first trimester of pregnancy.
J Clin Endocrinol Metab 95: E44–E48
TSH 2.5-5.0μU/mlのもの
では、有意に妊娠損失
率が高かった
妊娠8-9週で、TSHが 5.0μU/ml以下
のTPOAb陰性妊婦、4123人を
P <0.006
%
妊娠損失
(流産,死産)
7
6
5
• TSH 2.5μU/ml未満の3481名と
(TSH感度以下、FT4高値は除外)
• TSH 2.5-5.0μU/mlの642名に
分けて
pregnancy loss:妊娠損失
(流産+死産)を比較しています。
4
3
2
1
3.4
%
6.4
%
0
TSH 2.5未満 TSH 2.5-5.0
確かに見事です
しかし、このデータは、

TSH 2.5-5.0μU/mlの患者に、L-T4を投与して流産
率が改善したというデータではありませんし

妊娠前のTSH値で比較しているわけでもありません
これで妊娠前から治療したほうが良いとは言えない
でも何か関係がありそう

この問題について、どこまでエビデンスがあるの
か?
徹底的に調べてみることにしました
不妊治療を希望している
女性でTSHが2.5μU/mlよ
り高値であれば
L-T4で治療を考えるべきである?
これについて
どこまでエビ
デンスがある
のか?
徹底して論文を
チェックしてみよう
PubMedで最近10年間の論文を検索
Hypothyroidism pregnancy
1120
大変です
まずガイドラインの解説にどのように書か
れているのか?
Guidelines
妊娠中の甲状腺機能低下症の治療に関するもの
Guidelines of the American Thyroid Association for the diagnosis and
management of thyroid disease during pregnancy and postpartum.
Stagnaro-Green A et al. Thyroid 2011 Oct;21(10):1081-125

米国甲状腺学会、妊娠中の甲状腺疾患の治療
Management of thyroid dysfunction during pregnancy and postpartum: an
Endocrine Society clinical practice guideline. De Groot L et al. J Clin Endocrinol
Metab.2012 Aug;97(8):2543-65

米国内分泌学会、妊娠中の甲状腺機能異常の治療
Clinical practice guidelines for hypothyroidism in adults: cosponsored by the
American Association of Clinical Endocrinologists and the American Thyroid
Association.
Garber JR et al. Thyroid. 2012 Dec;22(12):1200-35

米国臨床内分泌学会,米国甲状腺学会、甲状腺機能低下症の治療
2014 European Thyroid Association Guidelines for the Management of
Subclinical Hypothyroidism in Pregnancy and in Children.Lazarus J et al. Eur
Thyroid J 2014;3:76–94

欧州甲状腺学会、妊娠中の潜在性甲状腺機能低下症治療
4つのガイドラインに書かれて
いることをまとめてみますと
潜在性甲状腺機能低下症は
妊娠、出産,児に悪い影響があ
るのか
4つのガイドラインには
顕性甲状腺機能低下症では
明らかに、流産、早産、死産、妊娠高血圧腎症、妊娠高
血圧、児の知能や精神運動発達障害などの悪影響がある
潜在性甲状腺機能低下症でも
Unexplained subfertility(不妊), Pregnancy loss(妊娠損失)
Gestational diabetes(妊娠糖尿病), Gestational hypertension
(妊娠高血圧), Pre-eclampsia(妊娠高血圧腎症),
Premature delivery(早産)と関係しているという報告がある
しかし、否定的な報告もあるという状態
潜在性甲状腺機能低下症があれば、流産率、早産率が上
がりそうだ、という感じ、
はっきりとした結論は書かれていない
メタアナリシス
が必要?
systematic review
では、どのように結論づけてい
るのか
Significance of (sub)clinical thyroid dysfunction and thyroid
autoimmunity before conception and in early pregnancy:
a systematic review.
van den Boogaard E et al, Hum Reprod Updat 2011 17(5):605-19
14,208論文から、43論文を系統的レビューのために選
び、38論文を用いてメタアナリシスを行っている
systematic review 2011
潜在性甲状腺機能低下症の影響
受精率

受精率の低下(1報告のみ)
妊娠初期

流産; 相反する報告(OR 5.78, OR 0.69)
Casey et al.
598 with subclinical
hypothyroidism
Normal TSH
fT4 < 0.86 ng/dl
Cleary-Goldman et al
240 subclinical hypothyroidism
TSH > 97.5th
fT4 between 2.5 and 97.5th ‰
妊娠合併症

妊娠糖尿病: 2研究でNS (OR 1.4, 95% CI 0.64–2.8)

妊娠高血圧: 3研究でNS (OR 1.0, 95% CI 0.79–1.29)

妊娠高血圧腎症; 2研究でリスクが高い (OR 1.7, 95% CI 1.1–2.6)

早産; 2研究でNS (OR 1.0,95% CI 0.59–1.8)
Casey et al.
Cleary-Goldman et al
Allan et al
新生児

TSH > 6 mU/l
周産期死亡率; 3研究でリスクが高い (OR 2.7, 95% CI 1.6–4.7)
ところが面白いのは
甲状腺機能が正常であっても
抗甲状腺抗体が陽性の場合
さまざまな異常が起こることです
systematic review
甲状腺機能正常の抗甲状腺抗体陽性者は
抗体陰性者と比較して

説明のできない低受精率 (OR 1.5, 95% CI 1.1–2.0)

流産
(OR 3.73, 95% CI 1.8–7.6)

習慣性流産
(OR 2.3, 95% CI 1.5–3.5)

早産
(OR 1.9, 95% CI 1.1–3.5)
のリスクが高くなる
こんなことがあるのか?
メタアナリシスに使われた各論文のオッヅ比を
見てみますと
甲状腺機能正常の抗甲状腺抗体陽性者と陰性者の比較
流産
オッヅ比のForest Plot 13論文
*ns
*
*
*
*
すべてを合わせてメタアナリシスを行うと
抗体陽性者では流産のリスクが有意に高い
OR 3.73 95% CI 1.8–7.6
甲状腺機能正常の抗甲状腺抗体陽性者と陰性者の比較
早産
オッヅ比のForest Plot 3論文
*
*
*ns
抗体陽性者では早産のリスクが有意に高い
OR 1.9
95% CI 1.1–3.5
甲状腺機能が正常であっても
甲状腺抗体陽性者では、
流産、早産のリスクがこれほど高い
というのには驚きました
本当に甲状腺機能は
正常?
TSH not definedが3つありま
したが、そのほかは基準値が
書かれていて

0.2-5.0
TSHは?

0.35-7.0
チェックしてみまし
た

0-5.0

0.5-5.0

0.4-3.8

0.27-4.2

0.27-4.2

0.34-5.6

0.3-4.5
流産のリスクのメタ
アナリシスにつかわ
れた13論文のTSH
は、
ほとんど5.0以下
で、
少なくとも、この
値は、それぞれの
ラボの基準値であ
るということです
Significance of (sub)clinical thyroid dysfunction and thyroid autoimmunity
before conception and in early pregnancy: a systematic review.
結論

潜在性甲状腺機能低下症、甲状腺抗体陽性を
持った患者は、合併症のリスクが高い
特に、

妊娠高血圧腎症

周産期死亡

流産でリスクがある
この論文のあと、
潜在性甲状腺機能低下症で流産率
が上がるかどうかについて
ごく最近、妊娠4-8週の妊婦3315名を対象とした前
向きのコホート研究が発表された
Maternal Subclinical Hypothyroidism,Thyroid Autoimmunity, and the Risk of
Miscarriage:A Prospective Cohort Study.H Liu et al. THYROID Volume 24, Number 11,
2014
甲状腺機能亢進症、顕性甲状腺機能低下症、などを
除外した3147名を
妊娠4-8週のTSH値、TgAb、 TPOAbで6群に分けて、
流産率を調べている
妊娠4-8週の
TSH値、TgAb, TPOAbと流産の関係
抗体が陰性の場合
は、微妙ですが、
抗体が陽性であれ
ば流産のリスクは
明らかに高い
TSH(µU/ml)
<2.5
抗体
2.5≤ - <5.2
抗体
5.2≤ - <10.0
抗体
-
+
-
+
-
+
流産率(%)
2.2
5.7
3.5
10.0
7.1
15.2
症例数
1961
227
628
170
127
34
流産した
妊娠週数
11.1
±3.2
9.9*
±1.7
10.8*
±1.7
9.6*
±1.9
9.7*
±1.7
8.8*
±1.2
赤字、*は、TSH<2.5、抗体陰性例に比較して有意
治療するかどうか方針を決めてい
くには、やはり
RCTが必要
この問題に関するRCTは2論文
RCT 1
Levothyroxine Treatment
in Euthyroid Pregnant Women
with Autoimmune Thyroid Disease:
Effects on Obstetrical Complications
Roberto Negro, et al.
J Clin Endocrinol Metab 91: 2587–2591,2006
甲状腺機能正常のTPOAb陽性者に対して
L-T4を投与して、妊娠合併症に対する影響を
みた論文
甲状腺機能が正常なのにTPOAb陽性者に
は、なぜ流産が多いのかについて、
3つの考え方が示されています
1.
自己免疫異常のために流産を起こしていると
したら、その一つのマーカーとしてTPOAbが
陽性になっている可能性
2.
TPOAb陽性者は、妊娠前に甲状腺機能が正常
であっても、妊娠すると甲状腺機能が低下す
る
3.
抗体陽性者は年齢が高いことが多いので、流
産率が高くなるのは年齢と関係している
機能正常のTPOAb陽性者に対してL-T4を投与して妊娠合併症が減る
かどうかをみたRCT
方法
甲状腺機能正常のTPOAb陽性の妊婦115名を、無作為に

L-T4で治療する群
(57名)

治療しない群
(58名)
に分けて妊娠合併症の頻度を比較した

コントロールにTPOAb陰性妊婦を使っています(869名)
気になるTSHですが
TSH (µU/ml)
+ L-T4
TPOAb +
TPOAb
TPOAb
-
1.6±0.5*
1.7±0.5
1.1±0.4
*Mean±SD
TPOAb陽性者のほう
が有意にTSHは高値で
すが、それでも
1.6-1.7です
流産率、早産率の比較
流産率(%)
★
早産率(%)
★★
★
14
★★
25
12
20
10
15
8
6
10
4
5
2
0
0
TPOAb+ L-T4
TPOAb★
P<0.05
TPOAb+
TPOAb+ L-T4
TPOAb-
★★ P<0.01
TPOAb+
気になる妊娠中のTSHの
変動ですが
TSH
μU/ml
L-T4を投与しなかったものでは、
妊娠10週以降TSHは上昇している
それでも平均値は2.3-3.5である
4
★
3.5
3
★
★
2.5
★
2
1.5
2.1-4.9
Mean±2SD
1.3-3.3
1
0.5
0
10週
20週
30週
40週
妊娠週数
TPOAb+ L-T4
TPOAb+
TSH
TPOAb + L-T4
1.6±0.5
TPOAb +
1.7±0.5
TPOAb -
1.1±0.4
★
P<0.05
TPOAbL-T4を投与した群の
TSHは、TPOAb陰性
者と同じように推移し
ている
結論
妊娠前に甲状腺機能正常であっても、TPOAbが陽性
のものは、
 流産、早産のリスクが上がる
 それは、L-T4で治療することによって防ぐことが
できる
L-T4投与によってリスクの上昇を防ぐことができて
いるわけですから、甲状腺機能の低下が関係してい
るのであろう
この程度の軽
い甲状腺機能
低下がそれほ
しかし、L-T4を投与しなかった群のTSHが高くなった
ど大きな影響
といっても、
をもたらすと
は、・・・
 20週の平均値+2SD が3.3 μU/ml

40週で4.9 μU/mlであった
RCT 2
Universal screening versus case finding
for detection and treatment of thyroid
hormonal dysfunction during
pregnancy
Negro R, et al. J Clin Endocrinol Metab 95:1699–1707.A 2010
タイトルから分かるように、この論文は、
すべての妊婦に甲状腺疾患のスクリーニングを行う
べきかどうかについて検討した論文です。
潜在性甲状腺機能低下症を治療すべきかどうかに焦
点を当てて研究された論文ではありませんが、結果
を見ると、そのことが実にきれいに、RCTで検討さ
れています。
研究デザインが複雑ですので、分かり
やすく書きますと
対象は、妊娠初期妊婦4562人

まず、病歴などから甲状腺疾患のリスクが高いものは除い
ておく(これらの症例は検査して、必要があれば治療する)

甲状腺疾患のリスクの低いものを3362人をランダムに2群
に分ける
両群ともに妊娠初期に採血する
スクリーニングをする群1684名は


すぐにTSH, FT4, TPOAbを測定する
TSH>2.5, TPOAb陽性者(43名)に、L-T4投与を行い
TSHを2.5以下にコントロールする(治療あり)
スクリーニングしない群1642名

出産後にTSH、FT4, TPOAbを測定する

妊娠中は治療されていないが、妊娠初期に
TSH> 2.5, TPOAb陽性であったものが34名いた(治療なし)
この両者
の妊娠合
併症の率
を比較し
ている
潜在性甲状腺機能低下症患者に対して、L-T4
で治療した場合としなかった場合の妊娠合併
症の頻度の比較
4562人の妊婦を対象として(甲状腺疾
患のハイリスク群を除いたのちに)
妊娠第一期にランダムに2群にわけ、
FT4, TSH, TPOAbを測定し、
TPOAb陽性の甲状腺機能低
下症(TSH>2.5μU/ml)に対
して、

L-T4で治療した群(44名)と

治療しなかった群(34名)で
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
TPOAb(-), TSH≦2.5
で合併症を起こした
人の%は、38.9
P<0.005
91.2
%
34.9
%
合併症を
起こした
人の%
合併症があった人の%を比較した
潜在性甲状腺機能低下症では合併症を起こす人の頻度が有意に高いが、
L-T4で治療すると、甲状腺機能正常者と同じレベルまで下がった
結論

すべてをスクリーニングしても、甲状腺疾患が疑
わしいもののみを調べたものに比較して、全体で
みると合併症の減少にはつながらなかった
(甲状腺機能正常の人にも合併症を持つものが多くその人たちも入れて全体で
比較するので差が出ていない)
ということで、全例をスクリーニングしたほうが良
いという結論には至らなかった。
が、
 甲状腺疾患のリスクが低い群をスクリーニングす
ることによって発見された潜在性甲状腺機能低下
症(TSH>2.5, TPOAb+)については、L-T4で治療す
ることによって妊娠合併症を減らすことができ
た。
二つのRCTの結果のまとめ
TPOAb陽性でTSHが2.5より高値のものは、
L-T4で治療したほうが良い
 TSHが基準値内にあっても、TPOAb陽性のも
のは、l-T4で治療しておいたほうが良さそう

しかし、このデータでは、

TSHが2.5より高値であっても、TPOAb陰性の場合
は治療すべきであるとは言えない
これをサポートするエビデンスとしては、最初に紹介し
たNegraらの、pregnacy lossが多いというもの以外ない
そこで我々のデータで検討してみました
検討したのは ①
TSH 2.5-4.3 μU/ml, TgAb(-), TPOAb(-)の人を

L-T4でTSH2.5以下にコントロールしておいて
妊娠した場合

妊娠後のTSHの動きがどうなるか観察する
もし、妊娠後TSHが2.5以上になるのであれば、
治療しておいたほうが良かったということにな
るのではないか
TgAb(-), TPOAb(-), TSH 2.5-4.3μU/ml症例の
初診時、妊娠前、妊娠後のTSHの変動
μU/ml
6
7例中3例は、
妊娠前にl-T4
投与により、
TSHを2.5以下
にコントロー
ルしていても
妊娠後TSHが
2.5より高値
になった
L-T4投与
5
4
2.5
3
2
1
0
初診時TSH
妊娠前TSH
妊娠後TSH
抗体が陰性であっても、TSHが2.5より高値であれば
L-T4で治療をしておいたほうが良い、ということを示唆している
もう一つ検討しましたのは
②
医療連携をとっているIVF大阪、IVFなんば
クリニックでの流産率のデータです
IVFクリニックでは、2012年11月以降

TSHの基準値を0.5-2.5μU/mlに変更されています
ということは、2012年10月以前は、

TSHが2.5< - 4.5μU/mlの症例は、放置されていたわけ
で、その流産率をTSH 0.5-2.5の症例の流産率と比較して
みました

抗体陽性者も入っていますが、約7割は抗体陰性者と考えら
れます
流産率
有意に流産率が高
かった
P<0.05
20
18
16
17.6
%
14
12
13.3
L-T4で治療すると
%
10
8
6
4
2
9.1
%
流産率が下がるのか?
(30)
(154)
(193)
TSH 0.5-2.5
TSH 2.5<-4.5
( ):n
0
L-T4補充により0.5-2.5
治療群は2012年11
月以降の症例で
RCTにはなってい
ないが、
治療により流産率
は下がる傾向が見
られている
流産率
P<0.05
20
18
16
17.6
%
14
12
13.3
%
10
8
6
4
2
9.1
%
(154)
(193)
(30)
TSH 0.5-2.5
治療なし
L-T4治療
0
( ):n
TSH 2.5< - 4.5
抗体陰性者が7割を
しめているので、症
例数を増やして検討
すれば、
抗体陰性者でも治療
したほうが良いとい
うエビデンスになる
可能性がある?
各ガイドラインの
RECOMMENDATION
まとめてみますと
妊娠第1期かあるいは、直前に妊娠を考えている女性で
TSH 2.5μU/ml - 基準値上限
TPOAb (+)
米国内分泌学会
妊娠中のガイド
2012 8月
米国臨床内分泌学会
米国甲状腺学会
機能低下症のガイド
2012 12月
欧州甲状腺学会
妊娠中のガイド
2014 6月
妊娠前
妊娠初期
記載なし
v
治療を推奨する
治療を考えるべき
である
v
治療すべきである
治療すべきである
v
治療すべきである
妊娠第1期かあるいは、直前に妊娠を考えている女性で
TSH 2.5μU/ml - 基準値上限
TPOAb(-)
米国内分泌学会
妊娠前
妊娠初期
記載なし
治療を推奨する
妊娠中のガイド
2012 8月
米国臨床内分泌学会
米国甲状腺学会
治療を考えるべき 治療を考えるべき
である
である
機能低下症のガイド
2012 12月
欧州甲状腺学会
妊娠中のガイド
2014 6月
治療すべきである 治療すべきである
妊娠第1期かあるいは、直前に妊娠を考えている女性で
TSH ≦2.5μU/ml
TPOAb(+)以前に陽性も含む
米国内分泌学会
妊娠前
妊娠初期
記載なし
4-6週毎にTSHの上
昇を監視すべきで
ある
治療を考えるべき
である
治療を考えるべき
である
記載なし
記載なし
妊娠中のガイド
2012 8月
米国臨床内分泌学会
米国甲状腺学会
機能低下症のガイド
2012 12月
欧州甲状腺学会
妊娠中のガイド
2014 6月
3つのガイドラインのまとめ
妊娠第1期か、あるいは
妊娠を直前に考えている女性
TSH
(μU/ml)
TgAb or TPOAb
-
+
< 2.5
経過観察
治療を考える
2.5 – 4.5
治療を考える
治療すべき
これを踏まえて実際に
不妊クリニックとの医療連携を
どのように進めていけばいいか
IVFクリニック
不妊クリニックと
の医療連携の実際
生殖補助医療
よくご存じだと思うのですが
生殖補助医療
卵巣を刺激して採卵
Controlled
Ovarian
Hyperstimulation
(COS)
潜在性甲状
腺機能低下
症があると?
胚移植
子宮へ戻す
Oocyte Retrieval:OR
(Oocyte Pick-up:OPU)
Day0
Embryo
Transfer
(ET)
Day3 or 5
体外で受精
Aspiration
胚培養
Insemination
Oocyte
search
2PN
cleavage stage embryos
Day1(翌日) Day2
Day3
ICSI
Day0
Blastocyst
Day5
Embryo culture
潜在性甲状腺機能低下症患者に
L-T4を投与すると
不妊治療の成功率が上がるのか
2つのRCTを紹介します
RCT 3
Improved in vitro fertilization
outcomes after treatment of
subclinical hypothyroidism in
infertile women
Abdel Rahman AH et al. Endocr Pract. 2010 16(5):792-7
潜在性甲状腺機能低下症を治療す
ることによってIVFの結果が改善
するかどうか見た論文です
in vitro fertilization: IVF 体外受精
方法

対象は、潜在性甲状腺機能低下症(TSH>4.0)
をもった不妊症患者70人

無作為に治療群とプラセボ群の2群にわけて

不妊治療開始1ヶ月前に、
治療群は、L-T4 50-100μg/日を開始した
TSH (μU/ml)
IVF治療開始 1ヶ月前 IVF治療開始時
L-T4治療群
プラセボ群
4.7 ± 0.5*
(3.7-5.7)**
4.8 ± 0.7
(3.4-6.2)
*Mean ± SD
1.1 ± 0.3
(0.8-2.0)
4.9 ± 0.7
(4.2-7.0)
**Range
その条件でIVFを行った結果
回収された
卵母細胞の数
受精率
治療群
プラセボ群
6.19 ± 0.74
6.08 ± 0.79 ns
51.9 % ↑
18.8 %
P=0.015
Fertilization rate
流産率
9%
↓
13 %
P=0.031
妊娠率
35 % ↑
10 %
P=0.021
26 % ↑
3%
P=0.017
Pregnancy rate
出産率
潜在性甲状腺機能低下症の治療により
 受精率
 妊娠率
が改善する
RCT 4
Effect of levothyroxine treatment on in
vitro fertilization and pregnancy outcome
in infertile women with subclinical
hypothyroidism undergoing in vitro
fertilization/intracytoplasmic sperm
injection
Kim CH, et al. Ferti Steril2011 95(5):1650-4
潜在性甲状腺機能低下症をもった
不妊症患者のIVF/ICSI治療に対する
L-T4治療の効果を見た論文
IVF/ICSI:体外受精・顕微授精
方法

潜在性甲状腺機能低下症(TSH>4.5)をもった不妊
症患者、 64人を無作為に治療群とコントロール群
の2群にわけ

L-T4治療群は、卵巣刺激開始と同時に、50μg/日
を開始した

妊娠後は、妊娠時のTSHの基準値にあわせてL-T4の投与量を調節した

コントロール群についても、顕性甲状腺機能低下症になった場合はL-T4
で治療した
TSH (μU/ml)
COS開始前
hCG注射当日
L-T4治療群
コントロール群
6.6 ± 1.7*
(4.6-9.8)**
6.7 ± 1.8
(4.6-9.6)
*Mean ± SD
**Range
2.3 ± 0.4
(1.5-3.1)
6.9 ± 1.9
(3.1-10.7)
その条件でIVF/ICSIを行った結果
L-T4治療群 コントロール
胚着床率 %
p
26.9 % ↑
(25/93)
14.9
(14/94)
0.044
妊娠率
53.1
(17/32)
37.5
(12/32)
NS
流産率 %
0↓
(0/17)
33.3
(4/12)
0.021
生誕率 %
53.1 ↑
(17/32)
25.0
(8/32)
0.039
Embryo implantation rate
IVF/ICSIを受ける潜在性甲状腺機能低下症患者で
は、

L-T4治療により胚の質、妊娠結果が改善する
二つのRCTでは、
潜在性甲状腺機能低下症をもつ不妊症患者に対
しては、L-T4を投与しておくと、IVF治療の結果
が改善した、としている
ただし、対象患者のTSHは、
 4.0 μU/ml以上、4.5 μU/ml以上のものである

TSH 2.5-4.5でも同様のことが言えるのか
これについてのRCTはなく、まだ結論は出ていない
Retrospective cohort study でTSH 2.5-4.5のものと、
TSH<2.5のもののIVF治療結果に差がなかったという報
告があるが、(Fertility and Sterility 94:2920, 2010)
 この研究にはいくつかのlimitationがあります

Retrospective studyであることに加えて
 3つの異なったラボでTSHが測定されている
 妊娠合併症についての記載がない
 TSHのカットオフを4.5にしても妊娠結果に差が出ていない
これまでのエビデンスから
不妊治療を受ける患者で
潜在性甲状腺機能低下症がある場合は、L-T4
で治療したほうが良いであろう

TSHが4.0μU/ml以上の場合は間違いない

TSH2.5-4.5μU/mlについても、妊娠を直前に考えて
いる女性という意味では、治療すべきと考えられ
る
ただ、治療を考えるうえで、少し複雑なのは

IVF治療が甲状腺機能に影響することです
IVF治療が甲状腺機能に
与える影響としては
精査の段階で行われる
子宮卵管造影の影響
採卵のために用いられる
hMG, hCG, GnRHの影響
を考えておかないといけない
子宮卵管造影検査
の影響
子宮卵管造影検査
造影剤
造影剤
卵管の太さ
や走行を
調べる
子宮卵管造影検査では、

油性造影剤の使用後に妊娠率が上昇すると
いう報告があり、油性造影剤が使われるこ
とが多い
ところが、

油性造影剤を使うと子宮卵管造影検査後、
血中ヨウ素濃度は上昇し、それに伴いTSH
が上昇する
子宮卵管造影検査後24週までの
血中ヨウ素濃度・尿中ヨウ素値の推移
血清中遊離ヨウ素(μg/l)
尿中ヨウ素Cre換算値(μg/gCre)
対象は、
甲状腺疾患の
既往のない
女性26名
荒田尚子、原田正平
成長科学協会研究年報
2010;33:27-34
子宮卵管造影後の週数
血中、尿中のヨウ素のピークは、4週にあり
その後徐々に低下するが、24週でも高値である
しかし、12か月後には、前値と差がなくなる
子宮卵管造影検査後のTSH値
6くらいまで
の推移
上昇するもの
がある
TSHμU/ml(基準値0.5-5.5)
12週
4週
24週
前値(1.50±0.70;平均±SD)
に比較して、

4週で有意に高値

ピークは12週(3.12±2.79)

24週でも有意に高値

48週後には、前値と差が
なくなる
坑甲状腺抗体陽性者7例と陰性者13
例の間で差がなかった
子宮卵管造影後の週数
荒田尚子、原田正平
成長科学協会研究年報
2010;33:27-34
子宮卵管造影検査後
甲状腺機能低下症になる頻度
検査前、機能正常のものと潜在性低下のものを比較
甲状腺機能正常のもので
も子宮卵管造影後、
%
90

80
70

60
50
37.5%
40
30
潜在性低下になるもの
が15.6%、
顕性低下症になるもの
が、2.2%
潜在性低下の
ものに子宮卵
にみられるが
15.6%
20
2.2%
10
0
機能正常
潜在性低下
甲状腺機能正常者
顕性低下
180名
潜在性低下症患者 28名
潜在性低下症の人では、

管造影を行う
と影響が強く
出る
35.7%が顕性低下症に
なった
Mekaru K et al.
Gynecol Endocrinol
2008;24:498-501
まとめ
油性造影剤による子宮卵管造影検査後

少なくとも半年間は、高濃度のヨードに曝
されるため、甲状腺機能に異常が出ること
が多い

子宮卵管造影検査後1か月で甲状腺機能の
チェックを行う、6か月後までは注意が必
要

検査前に潜在性低下症のあるものは、顕性
低下症になるリスクが高い
採卵のために行われる
卵巣刺激の間の
甲状腺機能の変化
採卵はどのように行われるか
排卵のホルモン調節
卵巣
排卵

FSHにより卵胞が成熟
すると、

下垂体からのLHの分
泌が急激に上昇し
「LHサージ」排卵が
起こる
採卵のための調節卵巣刺激
良い卵子を得るためには、
排卵のホルモン調節
卵巣

卵胞が成熟するタイミン
グを見計らって採卵する
ことが重要なので、

FSH,HMGで卵胞を発育さ
せながら、同時に排卵を
抑える必要がある

そのためにGnRHアゴニス
ト製剤やGnRHアンタゴニ
スト製剤が使われる

そして、卵胞が成熟した
ところでhCGを注射し排卵
させる
GnRH
antagonist
この間にTSH値が変化するので注意が必要です
LHの分泌
を抑える
卵巣刺激の間の
EstradiolとTBGの変動
hCG注射時
Estradiol
hCG注射後
1週間
Gracia CR et al.
Fertil Steril.
2012 97:585-91.
6点で採血しています
1 開始前
2
卵巣刺激開始後4-7日
3
hCG注射時
Estradiol
がピーク
になって
いる
卵胞の大きさで判断
このあと体外受精
4
TBG
hCG注射後1週間
胚移植時
5
hCG注射後3週間
妊娠テスト時(胚移植後2週間)
6
hCG注射後5週間
妊娠テスト後2週間
TBGの上昇
が最大に
なってきて
いる
卵巣刺激の間のTSH値の変動
ここで胚移植をさ
れることが多い
TSHのピークは、
hCG注射後一週間
1 開始前
TSH
2 卵巣刺激開始後4-7日
3 hCG注射時
*
*
*
卵胞の大きさで判断
*
このあと体外受精
4 hCG注射後1週間
胚移植時
5 hCG注射後3週間
甲状腺機能正常
48名
(45名TPOAb陰性、3名TPOAb陽性)
甲状腺機能低下症
9名
橋本病でL-T4治療を受けている
* P<0.01(前値と比較して)
妊娠テスト時(胚移植後2週間)
6 hCG注射後5週間
妊娠テスト後2週間
4割以上の人で
TSHが
2.5以上になる
Gracia CR et al.
Fertil Steril.
2012 97:585-91.
まとめ
卵巣刺激後、TSHは上昇する

4日目からhCG注射後3週間までの間

TSHのピークは、hCG投与後一週間にある
胚移植時
にあたる
TSH値の上昇は、

甲状腺機能が正常のものでは、軽度である
が、もともと機能低下症のある人では、その
影響は強い
TSHが2.5以下であっても、44%の人で、TSHが
2.5より高値になる
L-T4でコント
ロールしてい
てもTSHが4.0
以上に上がる
ことがある
GnRHアゴニスト、
アンタゴニストの影響
GnRHアゴニストでは、


投与開始後数か月以内に無痛性甲状腺炎が発症
するものがあることは知られている
GnRHアンタゴニスト(1社)の市販後調査で
は、現段階で甲状腺機能異常が発症したという
報告はない
ちょっとややこしいのは、
 GnRHアゴニストが無痛性甲状腺炎を引き起こ
す機序としては、エストゲンの低下が考えられ
ているが、
 採卵のために使われるときは、同時にFSH,
hMGが投与されるので、投与中はエストゲンは
低下しない
それでは、実際は、どうなのか?
不妊治療中に使用されたGnRHアゴニ
スト製剤の甲状腺機能に対する影響
対象
GnRHアゴニストを使用していて
甲状腺機能を観察できた患者
対象
64
名
甲状腺
自己
抗体
陰性 42名
陽性 22名
64名
IVFなんば、
IVF大阪からの
紹介患者を対象
無痛性甲状腺炎
症例数
%
0%
0
3名
13.6%
GnRHアゴニスト使用後、1-4か月で発症
自己抗体陽性者では、注意して経過観察する
不妊クリニックとの医療連携
実際の治療の進め方
FT4, TSH, TgAb, TPOAbを測定し
甲状腺超音波をとる
海外のガイドラインではTPOAbしか出てこないが、
我が国では組織所見からみても臨床的にみても、
甲状腺機能の面から見ても橋本病の診断には、
TgAbの測定が重要
Hamada N et al Endocr J 57:647, 2010
FT4, TSH, TgAb, TPOAbの結果から

TSH > 4.5で、あきらかなヨード過剰摂取がなけ
れば、L-T4治療を開始する
それ以外は、ヨード制限後4-6週間でTSHを再検し

再検後のTSH値、TgAb, TPOAbで方針を決める
TSH
(μU/ml)

TgAb or TPOAb
-
+
< 2.5
経過観察
治療考える
2.5 – 4.5
治療する
治療する
4.5 <
治療する
治療する
治療しなかった場合
妊娠中の監視が大事
妊娠前: TSH ≦ 2.5 となるようにLT4投与量を調整
採卵の前後1-2
週間はTSHが
上昇するので
注意
できれば、
胚移植前に
チェック
妊娠判明後の診療(潜在性甲状腺機能低下症の場合)
妊娠前: TSH ≦ 2.5 となるようにLT4投与量を調整
0日
14週0日
First Trimester (<=13w 6d)
TSH基準値 0.1 – 2.5μU/ml
4w
妊娠判明
(5w ~)
LT4 30%増量
4w
20週0日
Second (<=28w 0d)
TSH 0.2 – 3.0
出産
28週0日
Third
TSH 0.3 - 3.0
4w
26w ~ 32w
LT4終了
産後の初回検査
6w
L-T4の補充の仕方で重要なのは
妊娠前のL-T4補充量

できるだけ早くTSHを2.5以下に持っていくた
めにL-T4の投与は、漸増ではなく最初から必
要量を投与する

採卵の前後1-2週間は、TSHが上昇する可能性
があるので、その点を考慮する
何μgから投
与すべきか
妊娠後L-T4補充量

1.3倍に増量するが、すべての症例で増量が必
要とは限らない
実際にはど
のような状
況か?
出産後のL-T4補充量

潜在性低下症の場合は、産後L-T4は中止する
甲状腺機能
に異常は出
ないか?
不妊治療中に発見された甲状腺機能低下症患者の
TSHを2.5μU/ml以下にコントロールす
るのに要したL-T4投与量
診断時TSH値
L-T4 dose
(μU/ml)
(μg/kg/day)
潜在性
低下
2.5-<5.0*
3.70 ± 0.71
0.87 ± 0.38
5.0-<10.0
6.17 ± 1.12
1.02 ± 0.35
顕性低下
≧10.0
16.27 ± 4.4
1.36 ± 0.24
*TSH(μU/ml)値
抗甲状腺抗体陽性者と陰性者の間に差はなかった
L-T4投与により妊娠前にTSHを2.5μU/ml以下にコント
ロールした状態で
妊娠後TSHを2.5以下にコントロールする
ためにL-T4投与量を増減したものの%
増量が必要な症例があ
るのは間違いないが、
そうでない症例も多い
60
50
40
30
20
10
0
TSH 2.5-5.0
(11例)
増量
TSH 5.0-10.0 (8例)
同量
減量
抗体陰性者と陽性者では差がなかった
増量が必要なもの
が多い
出産と同時にL-T4を中止した時の
産後のTSH値
抗甲状腺抗体陽性者
TSH 5.0< - 10.0
TSH 2.5< - 5.0
7
5
4.5
6
4
3.5
5
3
4
2.5
3
2
1.5
2
1
1
0.5
0
0
初診時
出産後
初診時
出産後
L-T4を中止しても全例出産後は基準値内に入った
おわりに
「そんなことが問題なの?」と

私も最初は思いましたが、よく調べてみると、
その僅かな甲状腺機能の変化が妊娠の経過に影
響するエビデンスがあります。
最高の知識と注意深い診療が要求されるこの分野
こそ

甲状腺専門医の腕の見せどころではないでしょ
うか
ご清聴有難うござ
いました
Sumire Thyroid Group
Noboru Hamada