Transcript pptx - ISAS

宇宙科学データ利用と
知識の共有による安全保障
海老沢 研
宇宙科学研究開発機構(JAXA)・宇宙科学研究所(ISAS)
科学衛星運用・データ利用センター(C-SODA)
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻
1
本日の話しの内容
1.
2.
3.
4.
5.
6.
講師自己紹介
X線天文学の歴史
科学衛星データ処理とデータ利用
JAXAの科学衛星データアーカイブ
日本の科学衛星データセンターの将来構想
宇宙科学データと国際社会
2
1.講師自己紹介
• 1980年 京都大学理学部入学
• 1986年 東京大学大学院理学研究科、天文学専攻入
学
– 宇宙科学研究所でX線天文学を専攻
– 1987年2月に打ち上げられた「ぎんが」衛星を使って修士論
文、博士論文を執筆研究
• 1991年 博士号取得
– 博士論文のテーマ:“Spectral Variation of Black Hole
Candidates Observed with Ginga”
• 1991年~1992年 宇宙科学研究所でポスドク(日本学
術振興会特別研究員)
1.講師自己紹介
3
1.講師自己紹介
• 1992年~2001年 アメリカ、メリーランド州、NASA/Goddard
Space Flight Center
– X線天文学の研究
– 日米共同の、あすか衛星、Astro-E衛星のデータ処理・アーカイブシス
テムの開発
• 2001年~2004年 ジュネーブ、INTEGRALサイエンスデータセ
ンター
– ヨーロッパ宇宙機構(ESA)のINTEGRAL衛星のデータ処理・アーカイブシ
ステムの開発
• 2005年7月まで、またNASA/GSFCへ
– Astro-E2(すざく)衛星のデータ処理・アーカイブシステムの開発
• 2005年8月から JAXA宇宙科学研究所教授
1.
2.
3.
宇宙科学情報解析研究系で、主にX線天文学の研究
科学衛星運用・データ利用センター(C-SODA)で科学衛星データアー
カイブの開発
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻で教育・学生指導
1.講師自己紹介
4
世界中にいろいろな天文衛星データセンターがある
1962
X線天文学の誕生
私の歩んできた道
1987
私の誕生
2008-2010
Data Archives and Transmission System
(宇宙研) http://darts.jaxa.jp
Chandraデータセンター(アメリカ)
http://cxc.harvard.edu
2005
1992
INTEGRALデータセンター(スイス)
http://isdc.unige.ch
2004
BeppoSAXデータセンター(イタリア)
http://bepposax.gsfc.nasa.gov/bepposax/
2001
HEASARC(アメリカ)
http://heasarc.gsfc.nasa.gov
1.講師自己紹介
XMM-Newtonデータセンター(スペイン)
http://xmm.vilspa.esa.es
2.X線天文学の歴史
• 高エネルギー天文学
– 宇宙からやってくる高いエネルギーを持った光(X線、ガンマ線)を観
測して行う天文学研究
• X線天文学
– ~0.1 keV ~ 100 keVのX線を使う
• ガンマ線天文学
– ~100 keV ~ MeV ~GeV~TeVのガンマ線を使う
– X線もガンマ線も大気で吸収されてしまう
• スペースで観測する必要がある
• 宇宙開発と共にX線、ガンマ線天文学が発展
– X線天文学は40年以上の歴史があり、成熟している
• X線の測定装置は洗練されている(たとえばCCDカメラ)
• X線分光により、重元素の原子の電離状態がわかる
2.X線天文学の歴史
6
1962年 X線天文学の誕生
• レントゲンが1895年、X線を発見
• 宇宙からのX線は大気圏外に出ないと観測できない
• 1962年以前は、X線を出す天体の存在は知られていな
かった
• 1962年6月18日…
– ジャコーニらが放射線検出装置を搭載したロケットを打ち上げ
– 月による太陽からのX線反射の観測が目的
• 月のX線は暗すぎて観測できなかった
– 全天で一番明るいX線源Sco X-1を偶然発見
– X線天文学の誕生!
2.X線天文学の歴史
7
Rossi Prize(アメリカ天文学会)
Rossi XTE (RXTE)衛星
2.X線天文学の歴史
8
より詳しく知りたい人はこちらへ↓
http://nobelprize.org/nobel_prizes/physics/laureates/2002/phyadv02.pdf
2.X線天文学の歴史
9
初期のX線天文学
• 宇宙開発の進歩
–
–
–
–
1957年、最初の人工衛星スプートニク(ソ連)打ち上げ
1958年、アメリカのエクスプローラ1号
各国から人工衛星が次々と打ち上げられる(おおすみ,1970年)
スペースからの宇宙観測の黎明期
• 人工衛星以前はロケットと気球によるX線観測の時代
– 宇宙からのX線を検出する「実験物理学」
2.X線天文学の歴史
10
1970年Uhuru衛星(アメリカ)打ち上げ
•
•
•
•
•
世界最初のX線天文衛星
ケニア沖から打ち上げ、スワヒリ語で「希望」
すだれコリメーターを搭載して全天観測
339個のX線天体を発見
本格的なX線天文学の幕開け
2.X線天文学の歴史
11
1970年代
• 多くのX線天文衛星が欧米諸国から打ち上げられた
– Copernicus, Ariel-5, ANS, SAS-3,OSO-7,OSO-8,
Cos-b,HEAO1
– Uhuruが発見した天体をさらに詳細に研究
• 日本初の天文衛星CORSA-Aの失敗(1977年)
• 「はくちょう」(CORSA-B;1979年)
– 日本で最初の天文衛星
– おもにX線バースターの観測
– 明るいX線源しか観測できなかった
• エネルギーバンドは二バンドだけ
– そのデータを使ったのは少数のはくちょうチームメンバーだけ
• 現在はそのデータは使えない
2.X線天文学の歴史
12
1970年代~80年代
• Einstein Observatory(アメリカ、1979年)
– X線鏡を積んだ初めての結像衛星 (<4 keVのみ)
– 飛躍的に感度が向上
– X線「天文学」として確立した学問へ
• 「普通の天体」をX線で観測できるようになった
– 主系列星、銀河、超新星残骸など
– きれいなX線像(写真)が撮れるようになった
Einstein衛星による
超新星残骸白鳥座ループ
2.X線天文学の歴史
13
1980年代
• EXOSAT(ESA,1983年)
– 観測時間を広く開放(ヨーロッパに限る)
• 公募制の採用
– 「ゲストオブザーバー 」の誕生
• 衛星や検出器の開発に参加せず、データ解析を行って
論文を書くX線天文学者が増えてきた
• X線天文学の裾野を広げた
– データアーカイブの先駆け
• 今でもEXOSATデータ解析可能!
– 汎用ソフトウェアの整備
• 改良を重ねて今でも使われているソフトウェアがある
(xspecなど)
2.X線天文学の歴史
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1980年代後半
• アメリカ、ヨーロッパのX線天文学は冬の時代
– 1986年、スペースシャトルの事故によりNASAの計画は凍結
– ヨーロッパは、X-ray Multi-mirror Mission (XMM;1999年)の準
備
• Mir-Kvant(ソ連、1987年)
– ソ連以外の研究者が使うことはほとんど不可能
• 「ぎんが」(1987年)
– 大面積の比例計数管、高い感度、早い時間分解能
• イギリス(レスター大学)との共同開発
– 精度の高い機器較正
– 日本の衛星では初めてプロポーザル制を採用
– アメリカ、ヨーロッパに観測時間を開放
• 宇宙研に、アメリカ、ヨーロッパの研究者が滞在
• 日本、アメリカ、ヨーロッパから450本以上の投稿論文が出版
– 「ぎんが」アーカイブを使って、今でも論文が出ている
2.X線天文学の歴史
15
ぎんがアーカイブの利用例
「今月のDARTS」2008年3月号より
二十年前のデータからも発見がある!
2.X線天文学の歴史
16
• あすか(1993年)
–
–
–
–
1990年代
Advanced Satellite for Cosmology and Astrophysics (ASCA)
最初の日米共同X線ミッション
日本の衛星にアメリカ製のミラーとCCDを搭載
初めての>2keVでのX線結像
• 透過力の強い高エネルギーX線による結像はそれまでは不可能だった
–
–
–
–
初めてのX線CCD(過去最高のエネルギー分解能)
データアーカイブ、ユーザーサポートはアメリカが担当
プロポーザル制で、観測時間を世界に公開
データの占有権をはっきりと規定(日本の衛星では初めて)
• 観測者の占有権が切れた後、データをアーカイブにいれて世界中に無償
で公開
– 高度なパイプライン処理をした使いやすいデータをユーザに配
布
– 1460本以上の査読つき論文が出版されている
17
2.X線天文学の歴史
あすか衛星のデータを使った論文
•
•
1993年から2007年までに英文で出版
された査読付き論文1463本について
調査 (日本物理学会誌2008年9月号
より)
寿命は2736日、約二日の観測あたり
一本の論文
日本の論文1/3, アメリカの論文1/3
日米共同の論文1/6
日本、アメリカ以外の論文1/6
世界31ヶ国の研究者があすか衛星をつかった論文を出版している
2.X線天文学の歴史
18
2000年代
• 巨大「X線天文台」の時代
– Chandra(アメリカ、1999年)
• 史上最高(今後10年以上?)の位置分解能(~0.5秒角)と
感度
– XMM-Newton(ESA,1999年)
• Chandraをはるかにしのぐ有効面積
– Astro-E1(日本、アメリカ、2000年、打ち上げ失敗)
• アメリカでは、1980年代前半からX線マイクロカロリメー
ターを開発
• 65 mKまで冷やしたチップにX線光子一つが入力、その温
度上昇を測定、光子のエネルギーを精密に決定
• マイクロカロリメーターを最初に搭載したX線天文衛星
• 史上最高のエネルギー分解能を実現するはずだった
2.X線天文学の歴史
19
Astro-E2(すざく)
• Astro-E1とほぼ同じデザイン
• いくつかの改良
• XRS (X-ray Spectrometer)
– マイクロカロリメーター, エネルギー分解能(半値幅)~6 eV
– ヘリウムの排気に不具合、打ち上げ後まもなく動作停止
• XIS (X-ray Imaging Spectrometer)
– 4つのCCDカメラ, 3 つの前面入射型チップ (FI), 1 つの後面入
射型チップ(BI)
– BIチップは、 Chandra、XMMにまさる感度とエネルギー分解能
• HXD (Hard X-ray Detector)
– ~700 keVまでの高エネルギーX線の観測
• 観測時間は世界中の天文学者に対して開かれている
• すべてのデータは観測者にわたってから一年後に公開
2.X線天文学の歴史
20
「すざく」の打ち上げ成功!
• 2005年7月10日
2.X線天文学の歴史
内之浦宇宙空間観測所21
日本の次期X線衛星、Astro-H衛星
• 2013年度打ち上げ目標
– X線マイクロカロリメーターの再挑戦
• マイクロカロリメーターを搭載した世界最初の衛星
– ~70 keVまでカバーする高エネルギー反射鏡
– ~1 MeVまでの最高感度によるガンマ線観測
• 日本が主導、アメリカ、カナダ、ヨーロッパとの共
同プロジェクト
• 観測時間とデータは世界に公開
– 世界中のX線天文学者が大きな期待
– 同時期に、NASA, ESAでは衛星計画がない
2.X線天文学の歴史
22
X線天文学の歴史:まとめ
•
•
初期は小グループによる「実験物理学」だった
宇宙開発の発展、観測技術の進歩
–
–
–
–
–
•
人工衛星の巨大化
データ量の増加、データ処理の高度化
使いやすく処理したデータをユーザに配布
データの公開、アーカイブ化が前提
衛星ユーザの国を超えた広がり
科学衛星とそのデータは人類共通の知的財産
2.X線天文学の歴史
23
3.科学衛星データ処理とデータ利用
• 科学衛星データは世界中のユーザ(天文学者)
に配布される
– 衛星固有の知識を持っていない科学者でもデータを
使えるように
• 衛星データは半永久的にアーカイブ化される
– 衛星が終了してから何年経っても、科学的成果が出
せるようにする事が必要
• 衛星データの高次処理、解析ソフトウェア、マ
ニュアル整備等のユーザサポートが必要
• それによって、世界中の研究者が世界中の科学
衛星データを使って研究している
3.科学衛星データ処理とデータ利用
24
• 初期の科学衛星データ処理 (たとえば「はくちょう」)
– 生のテレメトリデータに衛星チームがアクセス
– 機器較正、データ処理をすべて自分たちで行う
– 衛星チーム以外はデータ解析できなかった
– ユーザーの裾野はひろがらない
– 衛星の寿命、チームの解散とともにデータとソフトウェ
アが失われる
3.科学衛星データ処理とデータ利用
25
•
近年の科学衛星データ処理 (たとえば「すざく」)
– ゲスト観測者が観測提案する
– データセンターが高度にデータをプロセス (エン
ジニアリング)
– 高次処理済みデータが配布される
– 衛星チーム以外でもデータを使える
– ユーザーの裾野はひろがる
– データとソフトウェアは永久保存される
3.科学衛星データ処理とデータ利用
26
エンジニアリング
(定型処理;
パイプラインプロセス)
3.科学衛星データ処理とデータ利用
サイエンス
(研究者によって
28
違う解析)
すぐれた衛星データアーカイブズが
できるための条件
1. データ公開のポリシー
–
データ公開の政治的な合意が必要
2. データフォーマットの標準化
–
–
汎用フォーマットが必要
ソフトウェアの標準化が可能
3. 専門のデータセンターの存在
–
データ処理、アーカイブ化を専門の仕事とする組織が必要
4. 「システムエンジニアリング」の導入
–
–
–
自動データ処理のためのパイプラインプロセッシング
誰でもある程度までは同じ結果が出せるように
その先に科学者の独創性がある
5. データ公開、共有を善とする意識
–
データを「独り占め」する意識ではアーカブズはできない
3.科学衛星データ処理とデータ利用
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データセンターの役割
1. 低レベルデータ(衛星信号) を半永久的に保管
– ただし低レベルデータはそのままでは科学研究に使えない
2.
データの「パイプライン処理」
– 低レベルデータを、各研究分野ごとの標準フォーマットに変換、ノイズを除き、
検出機器の個性を補正、物理量に変換
– そこから科学的成果を引き出す事が可能な高レベルデータに加工
3.
高レベルデータを公開、半永久的に保存(アーカイブ化)
– インターネットを通じて世界の科学者に公開
– 占有期間の間は限定公開、その後は無条件公開
4.
大量データの検索、早見のためのシステム開発
– そのためのウェブアプリケーション、ツールの開発
– 最先端の情報技術の活用
5. ソフトウェアの開発、ユーザーサポート
– 日本のデータセンターが比較的弱い部分
– X線天文学の例:日本で書かれたソフトウェアをNASAのデータセンターでパッ
ケージ化、NASAから世界にパッケージ配布、主にNASAがユーザーサポート
6. 衛星データを用いた広報、教育
3.科学衛星データ処理とデータ利用
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4. JAXAの科学衛星データアーカイブ
• JAXA宇宙科学研究所の、科学衛星運用・データ
利用センター(Center for Science-satellite
Operation and Data Archive; C-SODA) が、科学衛
星のデータ処理とデータアーカイブ(DARTS)を担当
• 低レベルデータのアーカイブ
– 1970年代以降、ほぼすべての科学衛星データの生
データを管理
• 定常的なパイプライン処理
– 各衛星プロジェクトから提供されたパイプライン処理プ
ログラムを定常的に実行して高次データを作成
• 高次データアーカイブ
– 各衛星の高次データをDARTSに登録、一元管理
– DARTSを使いやすくするためのインタフェース向上、
データ検索、早見機能など
4.JAXAの科学衛星データアーカイブ
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すざくによる超新星残骸SN1006のX
線写真
(http://darts.jaxa.jp/astro/judoによ
る)
はやぶさによる地球スイングバイの際の地球
撮像データ
http://darts.jaxa.jp/planet/project/hayabusa/d
ata/amica/thumbnails/ST_1033703694_w.jpg
4.JAXAの科学衛星データアーカイブ
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• JAXAの科学衛星データベース
• Astro
– X線:はくちょう、てんま、ぎんが、あすか、すざく
– 電波:はるか
– 赤外線:SFU、あかり
• STP (Solar-Terrestrial Physics)
– じきけん、きょっこう、おおぞら、あけぼの、Geotail、
れいめい
• Solar
– ひのとり、ようこう、ひので
• Lunar-Planetary
– すいせい、のぞみ、はやぶさ、かぐや
青字はDARTS(http://darts.jaxa.jp)にデータがアーカイブ化されているもの
青太字は現在稼働中のもの
オレンジは、DARTS以外でデータがアーカイブ化されているもの
4.JAXAの科学衛星データアーカイブ
33
darts.jaxa.jp
4.JAXAの科学衛星データアーカイブ
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月惑星DARTS
2009年5月開始
はやぶさデータを
DARTSに格納
4.JAXAの科学衛星データアーカイブ
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NASA,ESAのデータセンターとの比較
• NASA, ESAでは大型の科学衛星が上がると、一つの
データセンターができる事が標準的
– DARTSのように複数分野にまたがるデータベースは稀
• 衛星の打ち上げ前から、データ処理、解析ソフトウェ
ア、データアーカイブズの準備を行う
• 衛星終了後は、データは複数衛星を扱うデータアーカ
イブセンターに集約
• データセンターのスタッフは、専門を生かし、近接分野
の複数の衛星データ処理、アーカイブに携わる
• 科学者と技術者の緊密な連携が実現している
• 技術者の長期的な雇用が保証されている
• データセンターが、データ解析ソフトウェア開発、解析
マニュアル整備まで実行している
4.JAXAの科学衛星データアーカイブ
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JAXAにおけるデータセンターの課題
• 海外では当たり前であるような前項の事柄が実現していない
– データ利用についての意識の違い
– 衛星の開発に比べ、データ整備にかける人員、予算が少ない
• 高度なシステムエンジニアリングを必要とする高次データ処理が進まな
い
– あかり衛星全天データ処理、かぐやデータの高次機器較正など
– 機械的な処理で済む、低レベルデータ処理(テレメトリアーカイブ)は確立して
いるのだが…
• 月惑星データベースの基盤整備が必要
– 今は日本の月惑星探査の黎明期
– データを高次に処理し、世界に向けて発信していく体制が確立していない
• 国際協力頼みの状況
– すざく、ひので、あかりは、一部海外でプロセシングを実施
– すざく解析ソフトは、日本で開発した者をNASAでパッケージ管理
– 解析ソフトウェアを長期にわたって維持管理する体制はない
• データ処理技術者の継続的な雇用ができない
– 多くの衛星の高次データ処理をポスドクが担当
– ポスドクが離れると、データ処理が終わってしまう危険性
4.JAXAの科学衛星データアーカイブ
41
4.日本の科学衛星データセンターの将来構想
• JAXAの科学衛星プロジェクト
– あかつき (金星,2010年)、EXCEED (小型衛星、惑星2011
年)、Astro-H(高エネルギー; 2013年)、BepiColombo(水星、
2014年)
• プリプロジェクト
– はやぶさ2(小惑星、2014+)、SELENE-2(月、2014+)、
SPICA(赤外線、2017+)、
• ISS(国際宇宙ステーション)搭載ミッションのデータ
– MAXI(X線、2009年)、SMILES(高層大気、2009年)
• その他、衛星ワーキンググループ活動中の数、>10
• データ処理、データアーカイブズ、および衛星運用の
負荷の飛躍的な増大に対処する体制が必要
4.日本の科学衛星データセンターの将来構想
42
• 定常的に、複数衛星の高次データ処理を実
施、高レベルデータをアーカイブ化、世界に
向けて発信できるようにしたい
• JAXAはすぐれた科学衛星を作れるようになっ
たが、そのデータ利用のためのシステムはア
メリカ(NASA)、ヨーロッパ(ESA)に比べて貧弱
• 科学衛星データ利用促進のためのセンターを
作りたい
4.日本の科学衛星データセンターの将来構想
43
新センター構想
1.
2.
3.
将来のあらゆる科学衛星、探査機、宇宙ステーション搭載装置利用のため
に必要な管制、データ処理からコミュニティーへのデータ展開、アーカイブ化
までを一括して引き受ける統合環境を備えたトップセンターを設立する
当センターを中心として宇宙への応用をターゲットとした先端情報技術の研
究開発をおこなう。それによって宇宙利用を支えるための情報基盤を世界
最先端のレベルまで引き上げる
当センターの活動によって、人工衛星を開発する科学者・技術者およびそれ
らの衛星データを利用する研究者や一般の人々、双方を対象とした宇宙利
用総合科学へのオープンアクセスを実現する
新トップセンター
衛星データを
取得・発信する側
科学者・技術者
衛星
観測装置
生データ
運用・
データ処理
支援
先端情報技術
宇宙利用への開発研究
衛星管制
高次データ処理
衛星データ公開
強力なデータサーバ
広報・普及
アクセス
高次データ
衛星データを
利用する側
研究者
一般国民、世界中の人々
宇宙利用総合科学へのオープンアクセスの実現
4.日本の科学衛星データセンターの将来構想
44
新センターの意義
以下を実施することにより、宇宙基本法にうたわれている
人類社会の発展に資する宇宙開発利用を推進する
1.
2.
3.
すでに取得した科学衛星データについて、その高次データ処理と
データ配信・公開を推進し、そこから最大限の科学的成果を引き出す
科学衛星の開発、管制に必要な情報システムの研究開発を進めるこ
とにより、今まで宇宙を利用した事がないコミュニティーが「宇宙利用
総合科学」へ参入し、データを容易に取得・利用できるようにする
衛星データへのアクセスを容易にする情報システムの開発により、国
民による衛星データ利用のためのハードルを極限まで下げる
宇宙利用総合科学へのオープンアクセスの実現
人工衛星の成果が
目に見える広報活動、
社会教育、コンテンツ産業
衛星データ利用
衛星利用
データ取得
衛星やステーションを使った
新たな実験や観測の支援
科学教育への展開
衛星管制運用支援、
高次データ処理、
データアーカイブ運用
世界中の研究者へ
高次処理データを
速やかに配信
45
センターにおける研究開発の特長
– 先端情報技術を応用し、宇宙利用総合科学を支える管制
システムやデータ処理システム等の基盤構築に特化した
研究開発を実施する国内で唯一のセンター
– 科学衛星の管制運用システム、データ処理・配信システ
ムを、世界一低コストで構築することが可能になる。新た
な科学技術分野からの宇宙利用への参入が、圧倒的に
簡単になる
– 日本の宇宙科学研究の重点を「衛星を開発して打ち上げ
る」ことから、「衛星データの徹底的な利用によって科学
成果を上げる」ことへシフトさせていく
– 人類の知的資産である最高品質の科学衛星データを世
界に先駆けて公開する事により、国際社会からの信頼と
尊敬を勝ち取り、それによって「外交のための宇宙」を推
進し、我が国の国際的競争力を強化するものである
4.日本の科学衛星データセンターの将来構想
47
新センター設立の波及効果
• 人材育成
– 科学研究と情報技術の双方に長けた人材の創出
• 宇宙科学研究を通じ、大量データ処理や高度なデータ解析手法等を習得した博士を送出
• それらの若手研究者・技術者が、宇宙以外の様々な科学技術分野に飛びこんでいって活
躍する
• 研究開発の波及効果
– 情報技術を通した地球探査、月探査、惑星探査の連携
• 資源探査、環境計測など、宇宙からの地球探査観測は人類社会に直ちに役に立つ
• 地球探査に用いられてる実用技術を、月・惑星データに適用し、将来の月・惑星利用の準
備を進める。
– 基幹的情報技術の開発
• 現在は、国内で使われているほとんどのOSや検索エンジンの
シェアを、アメリカの私企業であるグーグルやマイクロソフトが
握っている。
• 本提案による情報技術開発研究から、国家の基幹となる情報
コア技術が発生する事が期待される
• 「外交のための宇宙」の推進
– 科学による安全保障の実現
• 本センターで扱う宇宙の科学データは利益やモラルが絡まないので、
基本的に公開できるものであり、その利用は世界に対して開かれている
• 特に、自前でそのような高品質データを持たない
アジアの近隣諸国をターゲットに戦略的にデータ公開を進めていく
• それが国と国との信頼醸成、緊張緩和につながる
地理情報システム(GIS)の小惑星イトカワへの応用
4.日本の科学衛星データセンターの将来構想
PLAINニュース189号より
49
5.宇宙科学データと国際社会
• そもそもたくさんの税金を使って天文学研究や宇宙開発
をする意義は?
– NASAにおけるQ & A (HPから)
• Q:なぜ宇宙開発に膨大なお金を使うのか?もっと切実な社会問題を解
決するために使うべきではないのか?
• A:アメリカ連邦税のうち、1%だけがNASAに使われている。これだけで社
会をいきなり良くする事はできないが、最先端の研究を行うことが、アメ
リカの将来への貴重な投資になる。これによって、アメリカを強くし、他国
から尊敬される国にする。
– ESA(European Space Agency;ヨーロッパ宇宙機構)のHPから
• 非軍事目的に限った宇宙開発をたくさんの国が協力して行うことによっ
て、一国が突出した宇宙の軍事利用に歯止めをかける。
• たくさんの国々が協力して宇宙開発を行うことによって、国どうしの信頼
を高める。手の内を見せあうことによって、戦争を起こすことが難しくな
る仕組みをつくる
5.宇宙科学データと国際社会
50
日本が宇宙科学を推進して行く戦略的意味は?
• 宇宙科学における国際協力は他の科学技術分野に比べて
進めやすい
– 人類にとって普遍的な価値
• 宇宙は誰にとっても同じ
• 宗教、倫理的な問題がない(例えばクローン生物の研究はむずかしい)
– 金儲けにならない
•
•
•
•
医学、生物学、化学、応用物理学などは産業に結びつく
天文データアーカイブスはすべて無償で公開
お金になるデータベースはそうもいかない
地球観測データは有料、場所によっては公開不可
– 軍事と直接は結びつかない
• たとえば原子核物理学は核兵器に応用できる
5.宇宙科学データと国際社会
51
• 科学衛星データアーカイブは、人類共有の知的資産
– 宇宙科学を進める先進国がデータを広く公開し、アーカイブ
化して初めて国際的な責任を果たしたことになる
• 科学衛星データアーカイブを構築する事は、重要な
国際貢献
– 日本には天文、太陽、月惑星、太陽地球系物理の各分野で
優れた科学衛星がある
– 日本の科学衛星データを使いたいという国内外の科学者の
要求は強い
• 科学以外の分野の衛星データは、そのような無償公
開が難しい
– 商業利用の可能性、政治的な問題等がある
5.宇宙科学データと国際社会
52
• 宇宙科学データ利用を進める事で世界の平和と
安定に貢献できるのではないか?
– 政治的に不安定なアジア地域の緊張緩和、信頼醸成
– 最高のデータを真っ先に公開することによって、科学
の世界でリーダーシップを握れる
– 日本の国益、科学による安全保障につながる
5.宇宙科学データと国際社会
53
• 遠い将来、人類の理想社会が実現しているとした
ら…
– 人類はすべての科学的知識と科学データを共有し
ているだろう…。
• 宇宙科学の究極的な目的
– 人類が協力して宇宙の真理を探究し、より多くの
科学的知識を共有することで、宇宙と地球と人間
の尊さをより深く味わう。それによって国や民族
の利害を超えた科学的価値観を育て、争いを妨げ、
より平和な世界を構築する。
5.宇宙科学データと国際社会
54