pptx - Institute of Space and Astronautical Science

Download Report

Transcript pptx - Institute of Space and Astronautical Science

宇宙科学データアーカイブDARTSの
紹介とそれを使ったX線天文学研究
宇宙科学情報解析研究系
科学衛星運用•データ利用センター(C-SODA)
海老沢 研
今日の講義の内容
1.
2.
3.
4.
X線天文学の歴史
宇宙科学データベースDARTSの紹介
ブラックホールについて
ブラックホールのX線観測研究の紹介
今日の講義の内容
1.
2.
3.
4.
X線天文学の歴史
宇宙科学データベースDARTSの紹介
ブラックホールについて
ブラックホールのX線観測研究の紹介
1.X線天文学の歴史
光とは?X線とは?
波長が短くてエネルギーの高い目に見えない光
波(電磁波)でもあり、粒子(光子)でもある
波長短い
光子エネルギー大
波長長い
光子エネルギー小
目で見える光
「色」の違いは光の波長の違い
4
http://www.shokabo.co.jp/sample/spectrum/emwave/emwave.htm
X線の性質
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/
commons/e/e4/Roentgen-x-ray-von-kollikers-hand.jpg
• 硬いものを通過する
– 「レントゲン撮影」に使われる
• 地球大気によって吸収されてしまう
– 宇宙からやってくるX線は地表まで届かない
地表から見えない
見える
宇宙空間
地表から見えない
地表から見える
1896年に撮られた、レントゲン夫人の手の写真
地面
波長短い
光子エネルギー大
波長長い
5
光子エネルギー小
X線天文学について
• 「高エネルギー」天文学
– 宇宙からやってくる高いエネルギーを持った光(X線、
ガンマ線)を観測して行う天文学研究
– X線天文学
• ~0.1 keV ~ 100 keVのX線を使う
– ガンマ線天文学
• ~100 keV 以上のガンマ線を使う
– X線とガンマ線の境界がはっきりしている訳ではない
• X線もガンマ線も大気で吸収されてしまう
– スペースで観測する必要がある
– 宇宙開発と共にX線、ガンマ線天文学が発展
• X線天文学は40年以上にかけて成熟してきた
6
X線天文学の歴史
1962年 X線天文学の誕生
• レントゲンが1895年、X線を発見
• 宇宙からのX線は大気圏外に出ないと観測できない
• 1962年以前は、X線を出す天体の存在は知られてい
なかった
• 1962年6月18日…
– ジャコーニらが放射線検出装置を搭載したロケットを打ち上
げ
– 月による太陽からのX線反射の観測が目的
• 月のX線は暗すぎて観測できなかった Highlights of the ROSAT mission
• 1990年になって高感度のROSAT衛星で初めて観測できた
– 全天で一番明るいX線源「さそり座X-1」を偶然発見
– X線天文学の誕生!
7
「さそり座X-1」
より詳しく知りたい人はこちらへ↓
http://nobelprize.org/nobel_prizes/physics/laureates/2002/phyadv02.pdf
8
初期のX線天文学
• 宇宙開発の進歩
–
–
–
–
1957年、最初の人工衛星スプートニク(ソ連)打ち上げ
1958年、アメリカのエクスプローラ1号
各国から人工衛星が次々と打ち上げられる(おおすみ,1970年)
スペースからの宇宙観測の黎明期
• 人工衛星以前はロケットと気球によるX線観測の時代
– 宇宙からのX線を検出する「実験物理学」
• すだれコリメーター(modulation collimator)の発明
(宇宙研の小田稔による)
– X線鏡による結像は(当時は)不可能
– 二つの「すだれ」を平行して配置して動かす
• X線天体が見え隠れする様子から正確な位置がわかる
• 可視光による追観測(同定)が可能になった
• X線星の正体が徐々に明らかになっていった
– 白色矮星、中性子星、ブラックホールに物が落ちるときの重力エネル
ギーがX線に変換される
– さそり座X-1は中性子星
– 白鳥座X-1はブラックホール
9
1970年Uhuru衛星(アメリカ)打ち上げ
•
•
•
•
•
世界最初のX線天文衛星
ケニア沖から打ち上げ、スワヒリ語で「希望」
すだれコリメーターを搭載して全天観測
339個のX線天体を発見
本格的なX線天文学の幕開け
10
1970年Uhuru衛星(アメリカ)打ち上げ
Uhuruカタログ、第4版(最終版) ソース名は4U****+/-****
•ほとんどが銀河系(天の川)内の中性子星かブラックホール
•そのほかに銀河、活動的銀河中心核、銀河団からX線を発
11
1970年代
• 多くのX線天文衛星が欧米諸国から打ち上げられた
– Copernicus, Ariel-5, ANS, SAS-3,OSO-7,OSO-8,
Cos-b,HEAO1
– Uhuruが発見した天体をさらに詳細に研究
• 日本初の天文衛星CORSA-Aの失敗(1977年)
• 「はくちょう」(CORSA-B;1979年)
– 日本で最初の天文衛星
– すだれコリメーターによるX線バースターの観測
– 明るいX線源しか観測できなかった
12
宇宙研ウェブページによる
各科学衛星の紹介
13
1970年代~80年代
• Einstein Observatory(アメリカ、1979年)
– X線鏡を積んだ初めての結像衛星 (<4 keVのみ)
– 飛躍的に感度が向上
– X線「天文学」として確立した学問へ
• 「普通の天体」をX線で観測できるようになった
– 主系列星、銀河、超新星残骸など
– きれいなX線像が撮れるようになった
Einstein衛星による
超新星残骸白鳥座ループ
14
1980年代
二機目の日本のX線天文衛星
15
1980年代後半
• アメリカ、ヨーロッパのX線天文学は冬の時代
– 1986年、スペースシャトルの事故によりNASAの計画は凍結
– ヨーロッパは、X-ray Multi-mirror Mission (XMM)の準備
• Mir-Kvant(ソ連、1987年)
– ソ連以外の研究者が使うことはほとんど不可能
• 「ぎんが」(1987年)
– 大面積の比例計数管、高い感度、早い時間分解能
• イギリス(レスター大学)との共同開発
– 精度の高い機器較正
– 日本の衛星では初めてプロポーザル制を採用
– アメリカ、ヨーロッパに観測時間を開放
• 宇宙研に、アメリカ、ヨーロッパの研究者が滞在
• 日本、アメリカ、ヨーロッパから450本以上の投稿論文が出版
16
17
1990年代
• ROSAT(“レントゲン衛星”;
ドイツ、アメリカ、1990年)
– Einstein衛星よりも高感度の結像衛星(<2 keV)
– 標準的な全天X線源カタログを作成 (RXJ**+/-**)
18
• あすか(1993年)
–
–
–
–
1990年代
Advanced Satellite for Cosmology and Astrophysics (ASCA)
最初の日米共同X線ミッション
日本の衛星にアメリカ製のミラーとCCDを搭載
初めての>2keVでのX線結像
• 透過力の強い高エネルギーX線による結像は技術的に困難
– 初めてのX線CCD(過去最高のエネルギー分解能)
– データアーカイブ、ユーザーサポートはアメリカが担当
– データの占有権をはっきりと規定(日本の衛星では初めて)
• 観測者の占有権が切れた後、データをアーカイブにいれて世界中に無償
で公開
– 1460本以上の査読つき論文が出版されている
19
20
ISASで人工衛星を組み立て
宇宙研にて振動試験
宇宙研のクリーンルーム
•
あすか衛星(Astro-D)
•
– 宇宙科学研究所、NASAの共同ミッション
– 1993年宇宙研が打ち上げ、2000年大気圏再
突入
– データは今でも世界中の天文学者に使われ
ている
すざく衛星
– 宇宙科学研究所、NASAの共同ミッション
– NASAで1980年代前半から開発してきた
X線検出器を搭載
– 2005年7月10日に打ち上げ
21
2000年代
• 巨大「X線天文台」の時代
– Chandra(アメリカ、1999年)
• 史上最高(今後10年以上?)の位置分解能(~0.5秒角)と
感度
– XMM-Newton(ESA,1999年)
• Chandraをはるかにしのぐ有効面積
– Astro-E1(日本、アメリカ、2000年、打ち上げ失敗)
• アメリカでは、1980年代前半からX線マイクロカロリメー
ターを開発
• 65 mKまで冷やしたチップにX線光子一つが入力、その温
度上昇を測定、光子のエネルギーを精密に決定
• マイクロカロリメーターを最初に搭載したX線天文衛星
• 史上最高のエネルギー分解能を実現するはずだった
22
Astro-E2(すざく)
• Astro-E1とほぼ同じデザイン
• いくつかの改良
• XRS (X-ray Spectrometer)
– マイクロカロリメーター, エネルギー分解能(半値幅)~6 eV
– しかし、打ち上げ後、観測開始前に動作停止(非常に難しい
装置)
• XIS (X-ray Imaging Spectrometer)
– 4つのCCDカメラ, 3 つの前面入射型チップ (FI), 1 つの後面入
射型チップ(BI)
– BIチップは、 Chandra、XMMにまさる感度とエネルギー分解
能
• HXD (Hard X-ray Detector)
– ~700 keVまでの高エネルギーX線の観測
23
光学ベンチ
冷却用ネオンタンク
この内部に
X線マイクロカロリメーター
がある
硬X線検出装置
24
「すざく」の打ち上げ成功!
• 2005年7月10日
内之浦宇宙空間観測所
25
日本の次期X線衛星、Astro-H衛星
http://astro-h.isas.jaxa.jp
• 2013年度打ち上げ目標
– X線マイクロカロリメーターの実現
• 世界で最初のマイクロカロリメーター
– ~70 keVまでカバーする高エネルギー反射鏡
• これも世界でほぼ初めて?
– ~1 MeVまでの最高感度によるガンマ線観測
• 2014年打ち上げ予定
• 現在の大学生には理想的なタイミング
– Astro-Hの最新のデータで博士論文がかける!
27
今日の講義の内容
1.
2.
3.
4.
X線天文学の歴史
宇宙科学データベースDARTSの紹介
ブラックホールについて
ブラックホールのX線観測研究の紹介
JAXA, ISAS とDARTS
• JAXA (Japan Aerospace eXploration Agency )
– 人工衛星の打ち上げ、データの取得
• ISAS (Institute of Space and Astronautical
Science)
– 科学衛星を担当
• DARTS (Data Archives and Transmission System;
http://darts.jaxa.jp)
– ISASの科学衛星運用•データ利用センター(C-SODA)
が担当
– 分野横断的なJAXAの科学衛星データベース
JAXAの宇宙科学データ
• 天文学
– X線:Hakucho、Tenma、Ginga、ASCA、Suzaku、MAXI
– 電波:HALCA
– 赤外線:SFU、Akari
• STP (Solar-Terrestrial Physics;太陽地球系物理)
– Jikiken、Kyokkou、Oozora、Akebono、Geotail、
Reimei
• 太陽
– Hinotori、Yohko、Hinode
• 月惑星
– Suisei、Nozomi、Hayabusa、Kaguya
青字はDARTSにデータがあるもの
オレンジはDARTS外にデータがあるもの
下線は現在稼働中のもの
30
DARTSの目的
• 基本的に科学者向けのデータベース
– 高次データ処理済みデータをアーカイブ
– 使いやすい検索システム、データ早見システム
– 外部のデータベースとの連携
• 世界中に無償で公開
– だれでも自由にダウンロードできる
• 一般向け広報--「今月のDARTS」
– DARTSに関連した宇宙科学データの話題の解説
• ようこう (2007年9月)
• れいめい (2007年11月)
• あけぼの (2008年2月)
• ひので(2009年7月)
• DARTS紹介ムービー(2007年8月)
• はやぶさ (2009年6月)
• X線ムービー(2010年5月)
… など
31
JUDO と UDON
http://www2.hawaii.edu/~nhiraoka/judo_clipart.jpg
http://www.netlaputa.ne.jp/~ryufuu/udon/image/udon2.jpg
• JUDO とUDON は DARTS の一部
• ブラウザを使ってDARTSデータに簡単にアクセス
するためのオンラインツール
• ソフトウェアのダウンロードが必要ない
• 通常のブラウザでも動く
• DARTSを使う研究者がターゲット
JUDO
JAXA Universe Data Oriented
http://darts.jaxa.jp/astro/judo
• マウスを使って天球上を自由に移動、拡大
– Google sky, Worldwide Telescopeよりも先に開始!
• ブラウザだけで動く
– ソフトウェアダウンロードしなくてよい。環境によらない
• DARTS中の画像データに直接アクセス
– 複数ミッションに対応
– すざく、あすか、ROSAT、Swift (X線)、IRAS (赤外線)
– それらの画像の重ね合わせが可能
• 外部データベース(SIMBAD, NED, SSDSなど)との連携
• C、 Java スクリプト、 Ajaxを用いて開発
UDON
Universe via DARTS ON-line
http://darts.jaxa.jp/astro/suzaku/udon.html
• オンラインX線データ解析ツール
– X線の疑似カラー画像、任意の天体、領域の光度
曲線、エネルギースペクトルを生成、表示
• いまのところSuzakuデータが対象
• IDL ON-the net (ION), Flash, ftoolsを組み合わ
せて開発
宇宙科学データアーカイブと社会
• 世界中だれでも、無料でいろいろな天文衛星データと
ソフトウェアをダウンロードできる
– インターネットにアクセスさえできれば、全く差別のない世界
• それを使って世界中の科学者が研究、学術成果を発
表
• 人類共通の知的資産として永久に運用される
• JAXAの科学衛星データベースDARTS
– ひので、あかり、すざくなど、JAXAの打ち上げた科学衛星の
データを世界中に無償で公開
– 世界中の天文学者が使っている
– 基礎科学における日本の重大な貢献
35
日米共同あすか衛星のデータを使った論文
•
•
1993年から2007年までに英文で出版
された査読付き論文1463本について
調査 (日本物理学会誌2008年9月号
より)
寿命は2736日、約二日の観測あたり
一本の論文
日本の論文1/3, アメリカの論文1/3
日米共同の論文1/6
日本、アメリカ以外の論文1/6
世界31ヶ国の研究者があすか衛星をつかった論文を出版している
36
宇宙科学データアーカイブと社会
• 国際協力において宇宙科学は大きなメリットがある
– 人類にとって普遍的な価値
• 宇宙は誰にとっても同じ
• 宗教、倫理的な問題がない(例えばクローン生物の研究はむずかしい)
– 金儲けにならない
• 医学、生物学、化学、応用物理学、資源探査などは産業に結びつく
• 天文データアーカイブスはすべて無料で公開
– 軍事、政治と直接は結びつかない
• たとえば原子核物理学は核兵器に応用できる
• 地球観測データは軍事的な価値がある
• 宇宙科学データを共有することで世界の平和と安定に貢献
できるのではないか?
– 宇宙科学と言うソフトパワー
– アメリカ、ヨーロッパ、アジアの国々と、宇宙の平和利用に限った
国際協力を行う
– 東アジア地域の緊張緩和、信頼醸成につながり、日本の国益、
安全保障にも役に立つことを期待
37
今日の講義の内容
1.
2.
3.
4.
X線天文学の歴史
宇宙科学データベースDARTSの紹介
ブラックホールについて
ブラックホールのX線観測研究の紹介
ブラックホールとは?
• ブラックホールとは
• 「とっても」重くて、「とっても」小さな星
• 「これよりは小さくなれない」星
• どのくらい重くてどのくらい小さければブラック
ホールと言うのか?
39
重力の話
• すべての星は重力を持っている
– ぼくたちは重力で地球にくっついている!
• 星の重力 → 星の重さ ÷ (星の半径)2
• 質量M,半径rの星の重力=GM/r2
重力ポテンシャル=-GM/r
G=万有引力定数
• 星の半径がどんどん小さくなると…
– 星の重力はどんどん強くなる!
40
重力の話
• 星の重力がどんどん強くなると…
– モノが落ちるときの速さはどんどん速くなる
– モノが星から離れるのがどんどんむずかしくなる
41
地球の重力
• ボールを上に投げて見ましょう
– 速ければ速いほど高く上がる
• ボールを高いところから落としてみましょう
– 高ければ高いほど速くなる
• 地球の「脱出速度」
– 運動エネルギーとポテンシャルエネルギーが等しい
(無限遠方で速度=0になる)
½ mv2 = GMm/r
v=(2GM/r)1/2
G=6.67x10-11Mm2kg-2, M=5.97x1024kg, R =6378km
– v=秒速11キロメートル(時速4万キロメートル)
– 1時間ちょっとで地球を1周するくらいの速さ
• それより速いボールは地球からにげ出してしまう!
42
地球をブラックホールにするには?
• 脱出速度=光の速さとなる地球の半径は?
–
–
–
–
–
–
cを光速として、c=(2GM/r)1/2
r=2GM/c2 この半径をシュバルツシルド半径と言う
r=2x6.67x10-11x5.97x1024/(3x108)2=0.009m=9mm
地球の脱出速度が光の速さになる!
地球にモノが落ちたときの速さが光の速さ
光の速さじゃないと地球から逃げられない
• 自然界には光より速いものはないから…
– 地球は半径9mmよりは小さくなれない!
• 半径9mmの地球はブラックホールになる
43
しかし…
• 地球を半径9mmまで押しつぶす力はない
• 地球はブラックホールにはなれない
44
ブラックホールはどこにある?
• ブラックホールは星の爆発の後にできる
• 大きな星の最後
– 超新星爆発
• 爆発の後に星のしんが残る
– 星の芯が太陽の1~2倍程度中性子星ができる
– 中性子星は、中性子同士の「核力(強い相互作用)」で支えら
れている
• 星のしんがとても重いとき…
– 太陽の重さの2倍から3倍以上
– それほど重いものを支える力はない
– 自分の重力でどんどんつぶれていく
• ブラックホールの誕生!
45
超新星爆発の例
超新星爆発の約320年後の姿(カシオペアAのX線写真)
46
ブラックホールをどうやってみつける?
• ブラックホールは光をださない
• ブラックホールのまわりを、別の星が回ってい
ることがよくある
– 地球が太陽のまわりを回っているように
• その星から、ブラックホールに物がうずを巻き
ながら落ちていく
この円盤がエックス線を出
• ブラックホールの回りに円盤ができる
している
47
ブラックホールのエックス線写真
はくちょう座X-3
(ブラックホールか
中性子星)
天の川の
赤外線写真
(はくちょう座周辺)
たくさんの星とガスが
見えている。
ブラックホールはどこ?
• ヨーロッパのINTEGRAL衛星による、
ブラックホール天体「はくちょうざX-1」の写真
• ブラックホールはX線で明るく光っている!
48
円盤はどうやってエックス線を出す?
• ブラックホールの回りで、円盤はほとんど光
の速さで回っている
• 両手をこすり合わせてみましょう
– 「まさつ熱」で温かくなってくる
• ブラックホールの回りの円盤で、まさつ熱が
生じる
• 円盤の温度は一千万度から一億度になる!
49
円盤はどうやってエックス線を出す?
• 星は温度に応じた色の光を出す(黒体輻射)
ベデルギウス
• 太陽の温度は6000度
– 黄色く見える
• 赤っぽい星の温度は3000度くらい
• 白っぽい星の温度は10000度くらい
• もっと温度が高い星(10万度から100万度)は紫外
線を出す
• 一千万度から一億度の円盤はエックス線を出す
– 人間の目では見えない
– 大気に吸収されて地面まで届かない
By Yuuji Kitahara
50
ブラックホールの重さをどうやって
はかる?
• ブラックホールの回りを回っている星の運動を
調べる
• 星の運動から計算してブラックホールの重力
の強さがわかる
– 速くまわっていれば重力が強い
– 重力の強さからブラックホールの重さがわかる
ブラックホールの回りを回っている星の運動を
どうやってしらべる?
• 普通のブラックホールは小さすぎて、その回
りの星の動きを直接見ることはできない
• 見えないものの動きをどうやって調べたら良
いだろうか…
52
ブラックホールの回りを回っている星の運動を
どうやってしらべる?
• 音を出しているものは、音のドップラー効果を使
えば運動がわかる!
• 運動によって音の高さ(波長)が変化する
• 星からは決まった色(波長)の光が出ている
• 光のドップラー効果によって、その色(波長)が星
の運動によって変化する
• その色(波長)の運動による変化をはかる
• ブラックホールのまわりを回転する星の運動か
らブラックホールの重さがわかる
53
「ぎんが」衛星が発見したブラックホール
GS1124-68のまわりの星の運動
星が遠ざかる速さ
ブラックホールの重さは
太陽の約6倍
回転周期
回転周期
54
巨大ブラックホール
• 宇宙には星サイズのブラックホール(太陽質
量の3倍から20倍)と巨大質量ブラックホール
(太陽質量の100万倍以上)のブラックホール
が存在する
– その間の中間質量ブラックホールが存在するかど
うかは最先端の話題
• 巨大質量ブラックホールは銀河の中心にある
– おそらく宇宙の初期、銀河の誕生とほぼ同じ頃に
できたのだろう
– 巨大質量ブラックホールがどうやってできたかも
ホットな話題
55
私たちの銀河の中心のブラックホール
• ブラックホールの回りの星の運動を直接観測できる
• それらの星の軌道から、正確に質量が計算できる
• ドイツの研究グループによる観測
– http://www.mpe.mpg.de/ir/GC/res_dance.php
• その周りの星の運動から決めたブラックホールの質量
=太陽質量の370万倍
今日の講義の内容
1.
2.
3.
4.
X線天文学の歴史
宇宙科学データベースDARTSの紹介
ブラックホールについて
ブラックホールのX線観測研究の紹介
X-ray Spectral Study of the Seyfert 1
Galaxy MCG-6-30-15
セイファート1型銀河MCG-6-30-15の
X線スペクトル変動
海老沢 研
宮川 雄大、井上
一
JAXA 宇宙科学研究本部
58
本研究の目的
宮川博士論文 (東京大学大学院天文学専攻)
• BHからの鉄輝線構造を詳細に解析することで、B
H周辺の物理状態を明らかにする
– BHから広がったように見える鉄輝線放射が報告されて
いる
• BH近傍の強重力場の影響?
• BH周辺の電離吸収体による影響?
• スペクトル変化を鍵として上記のモデルを検討する
• 観測されたスペクトル変動を最も少ないパラメータ
で再現するモデルを構築する
•Miyakawa, Ebisawa and Inoue PASJ, next Suzaku Special Issue
•海老沢、宮川、井上、天文月報解説記事 (7月号)
59
内容(博士論文抜粋)
1. 紹介
-広がったように見える鉄輝線
-電離吸収体の観測
-先行研究の問題点
2. 目標・観測
3.データ解析と議論
-モデルに依存しないX線スペクトル変動解析
-Chandra/HETGSによる高エネルギー分解能観測
-すざく衛星による広帯域スペクトル解析
4. まとめ
60
1-1 広がった鉄輝線構造
応答関数込みの放射強度
本研究で用いた天体
“広がった鉄輝線のように見える構造”を持つ
セイファート1型銀河 MCG-6-30-15
あすか衛星
Tanaka et al. 1995
一般相対論による重力赤方偏移効果で
鉄輝線が広がっている?
ブラックホールごく近傍の降着円盤に
X線が当たって出た輝線?
「ディスクライン」モデル
光子のエネルギー (keV)
61
応答関数込みの放射強度
1-1 ディスクラインモデルは必要か
(Fabian et al. 2002)
幅の太い鉄輝線
降着円盤の内縁半径(Rin)
Rin ~1シュワルツシルド半径
幅の狭い輝線か?
XMM-Newton衛星
広がった吸収端か?
幅の広い重力赤方偏移した輝線か?
光子のエネルギー (keV)
鉄輝線構造の形状は連続成分の
モデルの形で変わる
62
1-2. 電離吸収体による解釈
応答関数込みの放射強度
スペクトル変化を追う→強度毎にスライスしたスペクトル
XMM-Newton衛星
Miller et al. (2008)
光子のエネルギー (keV)
5成分の電離吸収体を考慮する事により、ディスクライン
モデルを入れなくてもスペクトルフィットできる
63
1-3. 先行研究の問題点
ディスクラインが本当に必要なのか不明
どの物理量の変化でスペクトル変化が起き
ているか分からない
64
2-1. 目標
• スペクトルの形にはできるだけ頼らず、スペク
トル変化を鍵として、物理状態を明らかにす
る
• できるだけ少ないパラメーターでスペクトル
変化を説明するモデルを構築する
65
2-2.観測
【1】0.6—40 keVまでを一度にカバーするすざく衛星
2006年1月に計339 ksec (on-orbit time 781 ksec)
【2】高いエネルギー分解能を擁するChandra衛星(HETGS;透過
型回折格子)
2004年5月に計522 ksec
【3】10年以上に渡って観測が存在するRXTE衛星
1996~2009年の1341 data set (計2 Msec)
66
3. データ解析
3-1. モデルに依存しない
X線スペクトル変動解析
67
3-1-1. モデルに依存しないX線スペクトル変動解析
強度によってスライスしたスペクトルの作成
• 「すざく」で観測したライトカーブを強度毎にデータをスライス
し、8つのスペクトルを作成
• 強度によるスペクトル変化を調べた
Count rates
flux
E[keV]
Time (sec)
68
3-1-2. モデルに依存しないX線スペクトル変動解析
すざく衛星の結果
強度とスペクトル
ソフトネスの相関
10 keV以下で明るくなる
ほど傾きがsteep
【考えられる原因】
power-lawの冪 の変化か、視線上の物質の吸収量の変化
→Chandraで電離吸収体の吸収量の変化であることが明らかに
69
3-1-3. モデルに依存しないX線スペクトル変動解析
~2×107sec
(~8か月)
すざく(短時間)と同様の結果が
長い時間スケールでも得られた
70
3. データ解析
3-2. Chandra/HETGSによる
高エネルギー分解能観測
71
応答関数込みの放射強度
3-2-2. 吸収線の等価幅の変化
Mg XII (EW~-1.7 eV)
Mg XI (EW~-1.9 eV)
明るい状態
eV)
暗い状態 Mg XII (EW~-1.0
Χ2/d.o.f= 1.21
Mg XI (EW~-2.2 eV)
(1.15—1.55 keV)
光子のエネルギー (keV)
Mg XI (He-like)の等価幅 : 暗い状態 > 明るい状態
Mg XII (H-like )の等価幅 : 暗い状態 < 明るい状態
→光度によって電離度が上昇している (log ξ =1.5~2)
72
応答関数込みの放射強度
細い鉄輝線と高電離吸収体の存在
Fe I
Χ2/d.o.f= 0.6
(5.9—7.1 keV)
Fe XXV
Fe XXVI
Chandra HETGSによる
鉄輝線付近の観測
Fe I ( E ~ 6.4 keV )
EW ~23 eV
Fe XXV (E ~ 6.7 keV )
EW ~ -21 eV
Fe XXVI ( ~ 7.0 keV )
EW ~ -23 eV
光子のエネルギー (keV)
BH遠方からの鉄輝線の成分がある
高電離吸収体(logξ~3)が存在している
73
3. データ解析
3-3. すざく衛星による
広帯域スペクトル解析
74
3-3. スペクトルモデル
IA × {WH × WL × (A × power-law + B × W2 × power-law ) + Inarrow +
R}
①異なる電離度( logξ ~1.5, log ξ ~ 3)を持つ
二成分の電離吸収体 →WH , WL (吸収線を担う)
②直接成分(強い吸収を受けない成分)→ A × power-law
③幅の狭い鉄輝線 → Inarrow
④鉄輝線に伴う弱い反射成分(立体角~2π×0.3) → R
同じ
index
⑤星間吸収(光電吸収)→IA
⑥強い吸収を受ける成分→ B × W2 × power-law
⑥が今回我々が新しく導入したもの
W2は電離吸収体による吸収
75
3. データ解析
すざく衛星による
広帯域スペクトル解析
3-4-1.平均スペクトル
76
3-4-1 平均スペクトルの解析結果
Χ2/d.o.f= 1.12
幅の狭い
鉄輝線
反射成分
強い吸収を
受けた成分
低電離+高電離
入射光子スペクトル
応答関数込みの放射強度
広がったように見える鉄輝線造を、
強い電離吸収を受けた成分で説明
高電離
幅の狭い
鉄輝線
反射成分
直接
成分
強い吸収を
受けた成分
光子のエネルギー (keV)
光子のエネルギー (keV)
視線上の高電離吸収体:NH~2.4×1023cm-2 log ξ~3.4
視線上の低電離吸収体:NH~3.7×1021cm-2 log ξ~1.6
厚い部分吸収成分:NH~1.6×1024 cm-2 log ξ~1.6
の三つ電離吸収体が必要
77
応答関数込みの放射強度
3-5. 極端に広がったディスクラインの存在?
さらにディスクラインモデルを追加
Χ2/d.o.f= 1.07
Laor’s line E
= 6.40±0.06 keV
外縁半径は400 rg
に固定
許される
範囲
Best-fit
ベストフィット内縁半径~200 rg
(EW: 40±20 eV)
内縁半径を変えていった際の
chi-square の値の変化
遠方(~200rg)からの弱いディスクラインはあってもよい
極端に広がったディスクライン(内縁半径≪9rg)は
78
本モデルとは矛盾する
3. データ解析
すざく衛星による
広帯域スペクトル解析
3-6-1. 強度によるスペクトル変化
79
3-6-1 強度ごとにスライスしたスペクトルの同時フィット
応答関数込みの放射強度
直接成分(強度と
低電離吸収体の
電離度が変動)
Χ2/d.o.f = 1.01
強い吸収を
受けた成分
(強度変動)
反射成分
(強度一定)
光子のエネルギー (keV)
直接成分の強度、強い吸収を受けた成分の強度、および低
電離吸収体の電離度の3つのパラメーター変化で1-40 keV
80
のスペクトル変動を再現できる
3-6-2 スペクトル変化を記述するパラメータの相関
直接成分の強度と
低電離吸収体の
電離度が相関
※値は
90%エラー
(
低
電
離
吸
収
体
の
電
離
パ
ラ
メ
ー
タ
ー
常
用
対
数
)
直接成分の強度
81
3-6-3 スペクトル変化を記述するパラメータの相関
直接成分の強度と強い吸収成分
の強度に逆相関
強
い
吸
収
を
受
け
る
成
分
の
強
度
中心からのX線の一部が
部分吸収されていることを
強く示唆
直接成分の強度
82
3-6-4直接成分 と 強い吸収を受ける成分の逆相関関係について
ブラックホールからのX線が見え隠れしているのではないか?
部分吸収モデル
広がったX線源
強い吸収を
受けた成分
BH
観測者
直接成分
高速で運動する
厚い吸収体
視線を遮る吸収体が多い⇨強い吸収を受ける割合が「増」
⇨直接成分の割合が「減」
視線を遮る吸収体が少ない⇨吸収を受ける割合が「減」
83
⇨直接成分の割合が「増」
3-6-5. covering factorの導入
• 直接成分の強度と、強い吸収を受けた成分の強度、および低電離
吸収体の電離度の3つの変数の変化だけで観測されたスペクトル
変化を説明
• その間に二つの相関関係がある
• スペクトル変化を記述する主パラメータは一つのはず
• A (直接成分)+ B(吸収成分) = N (全power-law の強度)
covering factor = B / (A + B)
としてcovering factor(広がったX線源が吸収体によって隠される割
合)を導入する
84
Covering factorの変化によるスペクトル変化の説明
•
•
低電離吸収体の柱密度はcovering factorに比例すると仮定
X線源の光度は一定と仮定
Covering factorの変化
8つのスライススペクトルのうち、もっとも明るい物(フレア)を除く、
7つをcovering factorの変化だけで説明できた
85
X線放射/吸収の機構(“absorbing cloud envelope model”)
X線
1000 rs ~1015.6 cm
低電離吸収体
1014 cm
BH
遮蔽成分
部分吸収体
100 rs
4. まとめ
(1)MCG-6-30-15の様々な時間スケールにおけるスペクトル変化を、す
ざく衛星、Chandra衛星、RXTE衛星を用いて詳細に調べた。
(2)平均スペクトルは、異なる電離度をもつ2成分の電離吸収体、
直接成分、強い吸収を受けた成分、BH遠方からの反射成分、
幅の狭い鉄輝線で再現できる
(3)強い吸収を受けた成分の鉄吸収端構造は、みかけ上、広がった鉄
輝線のように見える。極端に広がったディスクライン(内縁半径
≪9rg)は必要ない
(4)観測されたスペクトル変化はX線源が吸収体によって隠される割合、
covering factor の変化だけでほぼ説明できる
(5)covering factor の変化は、内部構造を持ったたくさんの吸収体が、
広がったX線源と観測者との視線上を横切ることによる
87
終わり
88