第Ⅰ部:通貨・金融システムの基礎第1章:金融とその機能

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Transcript 第Ⅰ部:通貨・金融システムの基礎第1章:金融とその機能

証券経済論講義計画
第1章.金融仲介
第2章.情報生産
第3章.リスクの配分・管理
1.株式会社制度と事業リスクの分担
2.資産運用・投資のリスク
3.信用リスクと貸出先の分散
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○株主の有限責任性
• 企業収入の分配で、債権者が株主に優先するのは
なぜか?
– 企業には債務弁済の法的義務があり、その義務を履行し
ないで企業の所有者(株主)に収入を分配することは許さ
れない
• 債権者・貸手は有限責任ではないのか?
– 貸手が貸した金額以上の負担を負うことは、原理的にあ
りえない(有限責任は当り前)。
• 借手は有限責任か?
• 個人(自然人)として事業資金を借りるケース
– 事業が失敗して、残った事業資産を処分しても債務を弁
済できなければ、個人の資産・所得で債務を弁済する必
要がある(無限責任) 。
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• 株式会社(法人)が事業資金を借りるケース
– 事業が失敗して、残った会社資産を処分しても債務を弁
済できなければ、会社は債務不履行・破産。
– 株式会社の出資者・持主である株主は、会社の
残存不履行債務を弁済する義務があるか?
• もしあるなら、
• もしないなら、
• なぜ、株主の有限責任性が採用されているのか?
– 歴史的:すべての会社が無限責任→特許状を与えられ
た会社のみが有限責任(英国の東インド会社)→有限責
任の会社設立が広く認められる(英国:1855年有限責任
法)
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(2)資産運用・投資のリスク分散
• リスク分散
– 投資先を分散することによってリスクを削減する
• 株式投資の収益率
=[配当+キャピタルゲイン]/投資額
• 株式投資のリスク
:
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• リスクの尺度
=収益率のブレの大きさ(変動性volatility)
=
• 標準偏差:分布の(平均値からの)ばらつきを
測る統計的尺度
• 投資先を分散⇒リスクが小さくなる
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ポートフォリオ:
資産運用の議論では、資産の組合せをまた1つの投資対象と考える。
ボディ&マートン『現代ファイナンス論』ピアソン.p.356
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リスク削減効果:投資対象間の相関係数ρ(-1≦ρ ≦1)に依存
相関係数:2つの株式の収益率がどの程度同じような動きをするかを示す係数
7
野村證券投資情報部編『証券投資の基礎』丸善 p.137
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○投資のリスクとリターン
・これから株式投資を行うという立場から考える。
投資のリスク:投資収益率のブレ(標準偏差)
投資のリターン:
①1つの銘柄(A社株)のみに投資した場合の
株式投資収益率の確率分布
ケース
A社業績良好
A社業績不調
確率p
0.5
0.5
株式投資収益率r
15%
-5%
A社株への投資のリターン=収益率の期待値E(r)
=(ある収益率が生じる確率p×収益率r)の合計
=Σpiri=0.5×15%+ 0.5×(-5%)=5%
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・B社株への株式投資の収益率も同じ確率分布とする
(従ってリターンも同じ5%)。
・両者の収益率分布は相関がゼロ(i.e.独立)であると仮定
②A、B 2社に投資資金を1/2ずつ分散投資する場合
ケース
2社とも業績良好
確率p
0.25
(=0.5×0.5)
1社だけ業績良好 0.5
(=0.5×0.5×2)
2社とも業績不調 0.25
(=0.5×0.5)
株式投資収益率r
15%
(=1/2×15%+1/2×15%)
5%
(=1/2×15%+1/2×(-5%))
-5%
(=1/2×(-5%)+1/2×(-5%))
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○投資②のリターン(収益率の期待値)
=0.25×15%+ 0.5× 5%+ 0.25×(-5%)
= 3.75% + 2.5%-1.25%
= 5%(投資①のリターンと同じ)
• 投資の分散は、
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・投資のリスク:収益率のブレ・変動
投資を分散することにより、投資収益率の
ブレ・変動が小さくなっている。
確率
株式投資収益率の
確率分布:②
株式投資収益率の
確率分布:①
60%
確率
60%
40%
40%
20%
20%
0%
-5%
15%
収益率
0%
-5%
5%
15%
収益率
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リスクの尺度=収益率の標準偏差σ
=あるケースの起きる確率p×(そのケースでの収益率r-期待収益率E(r))2
のすべてのケースについての合計の平方根
 r  
n

p i ( ri  E ( r ))
2
i 1
・投資①のリスク(標準偏差)
=
0 . 5  (15 %  5 %)
2
 0 . 5  (  5 %  5 %)
2
 10 %
・投資②のリスク(標準偏差)


0 . 25  (15 %  5 %)
10 %
2
 0 . 5  ( 5 %  5 %)
2
 0 . 25  (  5 %  5 %)
 7 .1 %
2
分散投資(①→②)により、リスクが10%から7.1%に低下
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2
○投資対象がn個の場合のリスクとリターン:
同じ収益率分布、互いに相関がなく(独立)、
すべての投資対象の収益率の分布が、A社、B社と同じ場合
(収益率の期待値=5% 、収益率の標準偏差=10% )
n個の投資対象に分散して、同じ金額だけ投資するケース
・リターン(収益率の期待値)=5%
・リスク(標準偏差)=10%/√n
そこで、n→∞の時、リスク→0
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なぜ、投資対象株式銘柄数を増やしても、リスクはゼロに
近づかないのか?
なぜ、20%程度以下に下がらないのか?
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投資対象間に正の相関があるから。
・投資分散によって削減できないリスク:
・投資分散によって削減できるリスク:
・投資分散によってリターンを低めることなく、個別リスク
を削減することができる(リスク分散効果)。
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○投資信託とリスク分散
・投資信託委託会社による投資対象についての情
報収集・分析・選定:情報生産
• 分散投資によるリスク削減
• 第3章2節の参考文献
– 野村證券投資情報部編『証券投資の基礎』丸善.第3、
7章
– 井出正介・高橋文郎『ビジネス・ゼミナール:証券投資
入門』日経新聞社.第4、6章
– ボディ、マートン『現代ファイナンス論』ピアソン.第10、12章
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(3)信用リスクと貸出先の分散
• 信用リスク(デフォルト・リスク) :
– 貸出相手の経営悪化により貸出金の元利が
回収できなくなるリスク(債権者から見て損失
を被るリスク)
–
で測る:
格付会社による格付の対象
• 株式投資のリスク:
– 株式投資
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○貸出先の分散とリスク
• 多くの企業に貸出を行っている銀行の立
場(or 多くの企業の社債に投資している投
資家の立場)から考える。
• 多くの企業への貸出(or 多くの企業の社債
への投資)を1つのまとまりと考えれば、そ
れはポートフォリオである。
• この貸出ポートフォリオのリスクについて、
どういうリスク概念を使うことが適切か?
– デフォルト確率が適切か?
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• 借手企業の状況(すべての企業について同じ) :
• 前の講義「株式の価値評価と債券の評価」の数値例
のケース①の状況だと考える:
– ある企業が1年間だけ事業を展開し、1年後に企業を清算
する。事業資金は100億円必要
– 1年後の収入(経費支払い後)予想
• 90%の確率で事業が成功し、収入は150億円
• 10%の確率で事業が失敗し、収入は30億円
– 50億円を株式発行で、50億円を負債(金利20%)で賄う
– 1年後の収入の分配
• 事業成功のケース(確率90%):貸手60億、株主90億
• 事業失敗のケース(確率10% ):貸手30億、株主 0
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・1つの企業に貸出する場合の貸手から見た収益率
期待収益率=0.9×20%+0.1×(-40%) =14%
収益率の標準偏差σ=
0 . 9  ( 20 %  14 %)  0 . 1  (  40 %  14 %)
2
2
 17 . 72 %
・100の企業に貸出する場合(デフォルト発生は企業間で
独立と仮定)の貸手から見た収益率
期待収益率=14%
収益率の標準偏差σ=17.72%/√100 =1.772%
・貸出先企業の数が大きくなると、貸出全体の収益率の
分布は正規分布に近づく。
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野村證券投資情報部編『証券投資の基礎』p.55
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• 貸出全体の収益率rは、
–
–
–
–
68.3%の確率で (14-1.772)%< r <(14+1.772)%
95.4%の確率で
(14-1.772×2)%< r <(14+1.772×2)%
100の企業の中で10企業ほどはデフォルトするが、他の企
業からの金利収入で打ち消すことができ、かなりの確実
性で、貸出全体から14%の収益を上げることができる。
• 標準偏差σは、14%の収益確保がどの程度確実かを
示す(貸出ポートフォリオのリスクを示す)
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