Transcript 第三回

ガバナンス論
第三回 「ガバメント」とは?
2007年4月24日 吉田
トップダウンから水平的合意形成へ
統治
(ガバメント)
Governnance
Government of
of
the people, by
the people, for
the people.
トップ(王権、議会、
政府など)が決定・
命令
他律的なシステム
協治
(ガバナンス)
多様かつ包括的な
な参加と協議によ
る自律的な合意形
成。自治
ガバナンスとガバメント
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グッドガバナンスの8基本性格
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決定と実行の当事者(政府もその一つでしかない)の参加
その決定と実行の必要性に関する広く深い合意
アカウンタビリティ(特に影響を受ける者への説明責任)
参加者や決定・実施のプロセスなどが透明であること
すべてのメンバーの包含(誰もが排除されずに考慮される)
一定の期間内に制定・実行されること
効果と効率(結果が社会のニーズ、自然条件などにかなう)
公平なルールを取り決め、そのフレームワークに従って合法的に決
定・実施
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「ガバメント」の性格とどう異なるのか? あるいは、どう関
連し、どう引き継ぐのか?
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「ガバメント」と言われる従来の社会のしくみを見てみよう。
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ただし、ガバメントもガバナンスの一つの有力なしくみでありうるの
で注意
日本のガバメント(政府)
「政府」 government
政治を行う所。現行憲法
では、行政権の属する内
閣または内閣とその下
にある行政機関の総体
をいう。広義では、立法・
司法を含む国家の統治
機関を意味する。
大辞林 第二版 (三省
堂)
立法、行政、司法の三権
の長はだれ?
立法=衆議院議長、参
議院議長
行政=内閣総理大臣
司法=最高裁判所長官
首相官邸 キッズルーム 「日本のしくみ」
http://www.kantei.go.jp/jp/kids/senior/3_2.html
民主主義(デモクラシー)
現在の日本の政治体制は民主主義
世界のほとんどの国は「民主主義」を主張
共和制(大統領)、立憲君主制(君主、首相:内閣総理大
臣)
民主主義
〔democracy〕人民が権力を所有し行使するという政治原
理。権力が社会全体の構成員に合法的に与えられてい
る政治形態。ギリシャ都市国家に発し、近代市民革命に
より一般化した。現代では、人間の自由や平等を尊重す
る立場をも示す。大辞林 第二版 (三省堂)
Government of the people, by the people, for the people
(Abraham Lincoln )
古代アテネの民主主義概要
市民 参政権を持つ者
20歳以上のアテネの男性(除 奴隷身分)
奴隷、外国人、植民地住民、女性、子供などを含まない
民会 最高の権限を持つ議決機関
市民総会 合議と投票(直接民主制)
500人評議会 民会の行政・執行委員会
各地区からくじ引きと本人の意思で選出(比例代表)
執政官、将軍 行政官
一般官職は抽選&報酬
裁判所
民衆陪審員201人以上、市民501人以上
討議のための政治的空間が大切
ポリスの政治的活動(ガバナンス)
ポリスは自然的なもの(フュシス)でなく、人為的なもの(ノ
モス)
ポリスの中では「暴力」ではなく、討議と説得、審議に基づ
く決定
民会や広場(アゴラ)での討論が社会を作る
共同と自治 市民間の友愛(フィリア)を育てる
「政治的空間」 ポリス 公 理性・言論 市民
「経済的空間」 家庭
私 欲望・生産 女性・奴隷
• 公的領域と私的領域の区別については『人間の条件』アーレント、
筑摩書房参照
民主政のメリット
プラトン「この国家には自由が支配していて、何でも話せる言論
の自由が行きわたっている・・・人それぞれがそれぞれの気
に入るような、自分なりの生活の仕方を設計することにな
る・・・したがって、思うにこの国制のもとでは、他のどの国よ
りも最も多種多様な人間たちが生まれてくることだろう。・・こ
れはさまざまの国制のなかでも、いちばん美しい国制かもし
れないね。」『国家』下p.204(557B-C)
アリストテレス「多数者は、その一人ひとりは卓越した人間とは
いえないにしても、集まれば少数の最優秀者にまさるかもし
れない。・・・。というのも、ある人々はある部分を理解し、他
の人々は他の部分をという仕方で、多数者は全体をよく理解
することになるからである。」『政治学』1281a-1281b
古代民主主義のエートス
政治的空間が公共的で自由な言論の場とな
るための条件
自由 freeではなく、人格権でもなく、自治の権利
• 移動・所有の自由 自分の身体・モノを自分でコント
ロール(貴族からの獲得)
• 政治参加の自由 自分の意思・立場を自分でコント
ロール(貴族からの獲得)
平等
• 政治的・法的平等 一人一票、くじ引き、参加権
• 言論の平等 民会、裁判所での発言権
– 近代個人主義の自由権、平等権とは異なるので注意
民主主義の精神
アテネ指導者ペリクレスの演説 BC430
「私的生活においてわれらは互いに自由であり寛容であるが、
法をおかす振る舞いを深く恥じ恐れる。・・。われらは質朴の
うちに美を愛し、柔弱に堕することなく知を愛する。・・。おの
れの家計同様に国の計にもよく心を用い、おのれの生業に
熟達を励むかたわら、国政の進むべき道に十分な判断を持
つように心得る。・・。そしてわれら市民自身、決議を求めら
れれば判断を下し得ることはもちろん、提議された問題を正
しく理解できるように備えをなす。」(『戦史』ツキュディディス、
2巻37,40)
政治空間のエートス(理性、言論、自由、平等)の尊重
民主主義批判 by プラトン
プラトン「ここに一隻の船があるとする。・・次のよう
な状況を思い浮かべてくれたまえ。・・。水夫たちだ
が、これは、ひとりひとりがみな、われこそはこの船
の舵を取るべきだと思い込んでいて、舵取りの座を
めぐってお互いに相争っている。・・。眠り薬を飲ま
せたり、酒に酔わせたり、その他の手段を使ったりし
て、人のよい船主を動けなくした上で、船の支配権
をにぎり、船のなかの物資を勝手に使う、あとは飲
めや歌えの大騒ぎ、いかにもそういう連中のやりそ
うな船の動かし方で、航海をしていく。」(『国家』下
p.28)
近代民主主義
市民革命後西洋各国で成立
現在進行形で世界各国に広がっている
自由民主主義、社会民主主義
古代民主主義をモデルとする
人民による政治 国民主権
自由、平等 言論の自由、法のもとでの平等
討議、選挙 議会、議員、国民投票
三権分立 司法、立法、行政
近代民主主義の3つの特徴
「国家」規模での民主主義(ナショナル・デモクラ
シー)
絶対王政、市民革命後の国家での「国民」による政治
「自由主義」を前提(キャピタル・デモクラシー)
経済的自由 ブルジョワの諸権利、所有と取引き
政治的自由 プライバシー、人権、(政治からの自由?)
「間接民主主義」
投票、代議制、立憲主義、官僚機構(ウェーバーの「形式
合理性」)
ナショナル・デモクラシー
絶対王政時に「国家state、nation」と「国民
nation、people 」の成立
「国民」による「国家」の舵取り(権利と義務)
規模 数万人→数千万人・数億人
多様性 同じ都市の住民→多民族、多宗教
歴史的経緯
市民革命、独立運動はナショナリズムに導かれ
た
Ex.フランス革命、アメリカ独立戦争、明治維新
キャピタル・デモクラシー
経済的自由主義(キャピタル・デモクラシー )
民主主義をもtらした市民革命は、ブルジョワ(有
産市民、自営業、企業家など)による革命
財産の保障や取引きの自由の保護が課題に
政治的自由主義(リベラル・デモクラシー)
市民革命による基本的人権の確立
公権力からの私的領域の自由(思想や心情の自
由、プライバシー)
ビューロクラシー(官僚主義)
巨大な民主主義的統治システムの必要性
選挙による代議制
• 直接民主政は不可能
• 選挙によって、代表representativeを介した参加
立憲主義(法治主義)
• 独裁から人民の権利を守る約束
• 決定や実行に対する人民のチェック可能性
官僚制の発達
• 実務熟達者による確実な提案、実行、文書化
近代民主主義のメリット
自由と平等
人権が保障され安心して暮らせる社会
公正な配分
納得のいく資源の配分
功利の最大化
社会幸福を最大化する適切な政策
効果
確実な審議、決定、施政、チェック
道徳的発展
教育や参加による教養、自律心、友愛(強調)などの涵養
参考文献
『デモクラシー』千葉眞、岩波「思考のフロン
ティア」シリーズ。薄いがポイントを押さえてい
る。文献表も充実。
『民主政の諸類型』D.ヘルド、御茶の水書房。
古今東西の民主主義を分類した大作。
『国家』上下、プラトン(藤沢訳)、岩波文庫。
ガバナンスの超古典。
『人間の条件』H.アーレント、筑摩書房。公的
領域と私的領域の区別。古典。
次回
現代民主主義の問題点とガバナンスへの流
れ
「ガバメントからガバナンスへ」 の内実を検討
キーワード:支配、参加、市民運動、フェミニズム、
マイノリティ、エスニシティ、多元性、透明性、コン
プライアンス