Transcript 講義資料
日本と東アジアの環境と貿易 アジア研究所 小山 直則 1 今日学ぶこと 第11章 地球環境問題を考える 環境税とその効果 2 日本の環境税 ●環境税導入 ⇒政府税制調査会は12月15日、平成23年度税制改 正大綱の16日閣議決定に向けた最終調整を行い、 地球温暖化対策税(環境税)を来年度から27年度 までに3段階で導入することを決めた。 ⇒現在の石油石炭税を約5割引き上げて創設する環 境税は来年10月に導入する。 ⇒増税規模は最初の23、24年度が800億円、25、 26年度が1600億円、27年度からが2400億円と する。 3 日本の環境税 ●環境税とは(環境省「環境Q&A」) ⇒環境税は、地球温暖化防止のための有力な 手法のひとつとして議論されている税金で、 ⇒電気・ガスやガソリンなどのエネルギーに課 税することで二酸化炭素の排出量に応じた負 担をする仕組みである。 4 日本の環境税 ●課税の仕組み(環境省「環境Q&A」) (1) 家庭、オフィス ⇒灯油、ガソリン、LPG(上流で課税) *ガソリンについては当分の間適用を停止する。 *最上流課税:化石燃料の輸入時点の課税。 *上流課税:化石燃料の加工、製造現場からの出荷 時点での課税。 *下流課税:化石燃料の消費者への供給時点での課 税。 5 6 日本の環境税 ●課税の仕組み(環境省「環境Q&A」) (2) 工場等 ⇒石油、重油、軽油、天然ガス、ジェット燃料(大 口排出者による申告課税、下流課税) *軽油、ジェット燃料については当分の間適用 を停止する。 7 日本の環境税 ●課税の仕組み(環境省「環境Q&A」) (3) 家庭、オフィス、工場等 ⇒電気、都市ガスに関しては発電、ガス事業者 が利用する化石燃料に対して課税する(下 流課税)。 8 日本の環境税 ● 税率と税収(環境省「環境Q&A」) ⇒2,400円/炭素トン、税収額3,600億円。 ⇒家計の負担は、一世帯当たり年間約2,000円(月額 約170円)。 ●軽減措置 ⇒国際競争力の確保や排出削減努力促進のため。 ①大口排出者は排出削減努力をした場合は8割軽減。 ②鉄鋼業などで用いる石炭、コークスは免税。 ③灯油については5割軽減。 9 日本の環境税 ● 使途(環境省「環境Q&A」) (1) 一般財源 ⇒税収を森林吸収源対策、さらに、省エネ家電、 住宅・建物の省エネ設備、低燃費自動車な どのエネルギー節約的な財への買い換えを 促進するための減税等に充てる。 ⇒税収の一部を地方の温暖化対策に充てるた め、地方公共団体へ譲渡する。 10 日本の環境税 ●環境税の効果(環境省「環境Q&A」) (1) 価格インセンティブ効果 (2) 二重の配当 11 日本の環境税 ●環境税の効果(環境省「環境Q&A」) (1) 価格インセンティブ効果 ⇒ガソリン、化石燃料の直接的な利用や間接的な利 用(電力)による生産活動の費用が上昇する(価格転 嫁)。 ⇒費用の上昇はエネルギー集約的な財の価格を上昇 させる。 ⇒したがって、相対的に割安なエネルギー節約的な財 に消費が代替される(価格インセンティブ効果)。 ⇒①環境税によって、エネルギー集約的な産業からエ ネルギー節約的な産業へ産業構造の転換が促され る。 ②さらに、長期的には企業にエネルギー節約的技術 の研究開発動機を与える。 12 日本の環境税 ●環境税の効果(環境省「環境Q&A」) (2) 二重の配当 ①第一の配当 ⇒環境税によって環境汚染の費用が市場メカ ニズムに内部化され、 ⇒環境汚染の死荷重損失(deadweight loss)を なくすことができる。 ⇒これを第一の配当という。 *死荷重損失:環境汚染によって失われる総 余剰の損失。 13 日本の環境税 ●環境税の効果(環境省「環境Q&A」) (2) 二重の配当 ②第ニの配当 ⇒環境税の収入を労働所得税などの減税の財 源に充当し、 ⇒労働所得税がもたらしていた死荷重損失をそ の減税相当分だけ削減できる効果を第二の 配当という。 *一般的に課税は総余剰を減少させる死荷重 損失をもたらす。 14 基礎知識:消費者余剰 価格 ●消費者余剰 ⇒消費者の財消費から得 られる効用(満足度)の 購入費用を上回る分を 消費者余剰という。 P0 ⇒消費者余剰 =効用ー購入費用 購入費用 需要曲線 D0 需要量 15 基礎知識:消費者余剰 価格 ●消費者余剰 ⇒消費者余剰 =効用ー購入費用 ⇒効用は需要曲線の下 側の面積で表される。 需要曲線 効用 P0 D0 需要量 16 基礎知識:消費者余剰 価格 ●消費者余剰 ⇒消費者余剰 =効用ー購入費用 需要曲線 ⇒効用(桃色)から購入費 消費者余剰 用(水色)を差し引いた P0 領域(紫色)が消費者余 剰を表す。 D0 需要量 17 基礎知識:生産者余剰 価格 ●生産者余剰 ⇒企業の収入から生産に 掛かる可変費用を差し 引いた分を生産者余剰 という。 P0 ⇒生産者余剰 =収入ー可変費用 供給曲線 収入 D0 需要量 18 基礎知識:生産者余剰 価格 ●生産者余剰 ⇒生産者余剰 =収入ー可変費用 ⇒以前学んだように企業 の限界費用曲線と供給 P0 曲線は一致する。 ⇒限界費用曲線の下側 の面積は可変費用の 大きさを表す。 供給曲線 可変費用 D0 需要量 19 基礎知識:生産者余剰 価格 ●生産者余剰 ⇒生産者余剰 =収入ー可変費用 ⇒収入(緑色)から可変費 用(黄色)を差し引いた P0 領域(茶色)が生産者余 生産者余剰 剰を表す。 D0 供給曲線 需要量 20 基礎知識:総余剰 価格 ●総余剰 ⇒総余剰 =生産者余剰+消費者 余剰 供給曲線 消費者余剰 P0 生産者余剰 D0 需要曲線 需要量 21 環境税の効果 価格 企業への環境税の効果 ⇒企業の供給量一単位に 対してt円の環境税が 課せられたとする(従量 環境税)。 ⇒すると、t円の分だけ供 P1 給曲線が上方にシフト P0 する。 ⇒経済の均衡価格はP1 t円 に上昇し、均衡取引量 はD1に減少する。 供給曲線 需要曲線 D1 D0 需要量 22 環境税の効果 価格 企業への環境税の効果 ⇒企業の供給量一単位に 対してt円の環境税が 課せられたとする(従量 環境税)。 ⇒問題. 課税後の生産者 P1 余剰、消費者余剰、総 P0 余剰は課税前に比べて どのように変化します t円 か? 供給曲線 需要曲線 D1 D0 需要量 23 環境税に否定的な意見 ●効果に対する疑問 (1) インセンティブ効果 ⇒ガソリン価格は2004年度以降の約2年半で 約4割上昇したが、 ⇒日本全体のガソリン消費量は特に抑制され なかった。 ⇒地球温暖化対策にはすでに1兆円近い予算 が使われているが、効果は検証されていな い。 24 25