Transcript 第四回
第4回 この回の講義の要点 • 大気の鉛直温度構造の理解. • その構造を決定する過程の理解. 地球大気の鉛直構造 温度で区分 • 熱圏 :90 km ~ • 中間圏:50~90 km • 成層圏:10~50 km • 対流圏:0~10 km – 雲ができる層 (高度[km]) 90km 熱圏 中間圏 50km 成層圏 10km 0km 対流圏 200k 280K(温度[k]) Andrews et al., 1987: Middle atmosphere dynamics, Academic Press, Fig. 1-1. 火星大気の鉛直構造 (高度[km]) 一応、温度で区分 • 熱圏 :120 km ~ • “中層大気”:~120 km 120km • “対流圏” :0~5-10 km 熱圏 成層圏 – 変動が激しい 10km 0km 対流圏 200 (温度[K]) Seiff and Kerk, 1977: JGR, 30, 4364, Fig.15. 地球と火星の鉛直構造 (高度[km]) 90km 熱圏 (高度[km]) 熱圏 中間圏 120km 50km 成層圏 10km 0km 対流圏 200k 280K(温度[k]) Andrews et al., 1987: Middle atmosphere dynamics, Academic Press, Fig. 1-1. 成層圏 10km 0km 対流圏 200 (温度[K]) Seiff and Kerk, 1977: JGR, 30, 4364, Fig.15. 今日のキーワード • 放射平衡 (radiative equilibrium) • 対流 –雲 • オゾン – オゾン層 – オゾンホール 対流圏 対流圏の鉛直温度構造の特徴 • 高度とともに温度が低 下. (高度[km]) 90km 熱圏 – ざっと ~6-7 K/km. • 備考 中間圏 50km – 身近な気象現象 • 温帯低気圧 • 台風 … のほとんどが対流圏で 起こっている. 成層圏 10km 0km 対流圏 200k 280K(温度[k]) Andrews et al., 1987: Middle atmosphere dynamics, Academic Press, Fig. 1-1. 考える順序 • まずは放射平衡に基づいて温度を考える • 運動 (対流) を考える 放射平衡温度分布 • さらに仮定を緩めて, 温度の高さ分布を考える. • 前の仮定:ガラスモデル – 一層の大気 – 太陽放射は大気を素通り – 惑星放射は大気に吸収・射出される • 今度の仮定 – 一層の大気 – 太陽放射は大気を素通り – 惑星放射は大気に一部吸収・射出される • 今度の仮定 – N 層(多層) の大気 – 太陽放射は大気を素通り – 惑星放射は大気に吸収・射出される 温室効果 • 温室効果が働く場合(一番簡単な例) FS Ta 4 A FS 大気 Ta 4 Ts 4 放射平衡温度分布 • さらに仮定を緩めて, 温度の高さ分布を考える. • 前の仮定:ガラスモデル – 一層の大気 – 太陽放射は大気を素通り – 惑星放射は大気に吸収・射出される • 今度の仮定 – 一層の大気 – 太陽放射は大気を素通り – 惑星放射は大気に一部吸収・射出される • 今度の仮定 – N 層(多層) の大気 – 太陽放射は大気を素通り – 惑星放射は大気に吸収・射出される A FS FS 大気 2 Ta1 大気 1 Ta1 Ts 放射平衡温度分布 • さらに仮定を緩めて, 温度の高さ分布を考える. • 前の仮定:ガラスモデル – 一層の大気 – 太陽放射は大気を素通り – 惑星放射は大気に吸収・射出される • 今度の仮定 – 一層の大気 – 太陽放射は大気を素通り – 惑星放射は大気に一部吸収・射出される • 今度の仮定 – N 層(多層) の大気 – 太陽放射は大気を素通り – 惑星放射は大気に吸収・射出される A FS FS 大気 3 Ta1 大気 2 Ta1 大気 1 Ta1 大気の鉛直構造を考えられる. Ts A FS Ta 3 4 FS 大気 3 Ta1 Ta 2 4 大気 2 Ta1 Ta1 4 大気 1 Ta1 Ts 4 Ts 放射平衡 • 太陽からエネルギーを受ける面積と惑星がエ ネルギーを出す面積を考えると, エネルギー のつりあいは, 4 a T a 2 2 4 a T a 3 2 大気3 2 4 a T 大気1 4 a T s 4 a T a 2 2 4 a T a1 地面 2 4 a1 4 2 2 a (1 A ) F S 4 a T 2 2 4 a3 2 4 a T 4 大気2 2 4 a T 4 2 4 4 a1 2 4 a T s 2 4 a2 4 4 放射平衡温度 • 先程の式を解くと以下の温度が得られる Ta 3 4 Ta 2 4 Ta1 4 Ts 4 1 9 2 9 1 3 4 3 Te Te 4 Te Te Te (1 A ) F S 4 T e 有効放射温度 放射平衡温度 • 先程の式を解くと以下の温度が得られる Ta 3 4 Ta 2 4 Ta1 4 Ts 4 1 9 2 9 1 3 4 3 Te Te 4 Te Te Te (1 A ) F S 4 T e 有効放射温度 Ta 3 Ta 2 Ta1 Ts 上空ほど大気の温度は低い. なぜ上空ほど低温か? A FS Ta 3 4 FS 大気 3 Ta1 Ta 2 4 大気 2 Ta1 Ta1 4 大気 1 Ta1 Ts 4 Ts 実際には? • 大気は 3 層 / 有限の数の層ではない. – 切れ目があるわけではない. • 大気は太陽からの放射を吸収. 詳細な数値計算の例 • 対流圏における実際の 温度減率は, 放射平衡 から予想されるものより も小さい. 放射平衡 実際の温度分布 10 km 0 km 150 200 250 300 温度 (K) (小倉 (1999): 「一般気象学」 より引用) 対流の発生・雲の生成 • 重たい流体が軽い流体の上に乗ると不安定. • 言い換えると, 冷たい流体が暖かい流体の上 に乗ると不安定 • 対流の発生. – 暖かい流体と冷たい流体が混ざることで安定な 温度(簡単な場合には等しい温度)になる. • さらに, 雲ができることによる加熱が重要. 対流の発生 • 日常生活で経験があるはず. – 例えば, • 味噌汁の対流 • 鍋を火にかけたとき. – 下から熱せされた水, 味噌汁, などなどなどの対流. http://quasar.cc.osaka-kyoiku.ac.jp/handmade2002/ryutai/miso/miso.htm • 対流圏では, これと同じ種類のことが起こって いる. – ただし, 注意が必要. • … の対流は, 温度が一様になると止まる. – 現実的には, 暖かい流体が冷たい流体の上になると安定し ている. • しかし, 大気の場合には, 高さが高いほど密度が薄い 効果が働き, 上空の方が寒くても安定になる. 大気の中の「見える」対流. 雲の生成 • 積乱雲 (新訂 地学図表, 浜島書店, より引用) 雲のでき方 (新訂 地学図表, 浜島書店, より引用) 小まとめ • 対流圏の温度構造 1. 地表面からの放射に“あぶられ”, 放射平衡分 布に基づき高度とともに温度が減少 2. 放射平衡による, 高度に対する急激な温度減 少によって不安定となり, 対流が発生. 3. 雲の生成による加熱の寄与も重要. • 高度に対する温度減少は, これらの要因に よって決まっている. 成層圏 成層圏の鉛直温度構造の特徴 • 高度とともに温度が上 昇. (高度[km]) 90km 熱圏 中間圏 50km 成層圏 10km 0km 対流圏 200k 280K(温度[k]) Andrews et al., 1987: Middle atmosphere dynamics, Academic Press, Fig. 1-1. 成層圏の温度構造 • 対流圏よりも上空は温 50 km 度が下がり続けると思 われていた. • 実際には, 温度は高度 とともに上昇する. 放射平衡 実際の温度分布 10 km 0 km 150 200 250 300 温度 (K) (小倉 (1999): 「一般気象学」 より引用) 成層圏の温度構造 • 対流圏よりも上空は温 50 km 度が下がり続けると思 われていた. • 実際には, 温度は高度 とともに上昇する. 放射平衡 オゾンを考慮した 放射平衡 実際の温度分布 • オゾンの紫外線吸収に10 km よって温度が上昇 0 km 150 200 250 300 温度 (K) (小倉 (1999): 「一般気象学」 より引用) 地球と火星の鉛直構造 (高度[km]) 90km 熱圏 (高度[km]) 熱圏 中間圏 120km 50km 成層圏 10km 0km 対流圏 200k 280K(温度[k]) Andrews et al., 1987: Middle atmosphere dynamics, Academic Press, Fig. 1-1. 成層圏 10km 0km 対流圏 200 (温度[K]) Seiff and Kerk, 1977: JGR, 30, 4364, Fig.15. オゾン・オゾン層 • オゾン : O3 O O O • 高度 25 km を中 心として形成され ている層. オゾンの混合比のプロファイル (環境科学解説, 環境研, http://www.nies.go.jp/escience/ozone/ozone_01.html, より引用) オゾン・オゾン層 • 混合比(空気分子数に対するオゾンの割合) – ~10-6 – つまり, 空気分子 100 万個に対してオゾン分子 が 1 つ. – よく言うお話 • 「オゾン層を 1 気圧(地面付近)に持ってきたら, 厚さ はたった 3 mm」 – (ある意味)とても量が少ない. オゾン・オゾン層 • しかし, 非常に良く知られたお話 – 「オゾンは太陽からの紫外線を吸収することで, 地表に届く有害な紫外線を和らげている」 (新訂 地学図表, 浜島書店, より引用) (新訂 地学図表, 浜島書店, より引用) • 太陽の光は電磁波の1種 • μm は 10-6 m (新訂 地学図表, 浜島書店, より引用) http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/ozonehp/3-10ozone_depletion.html オゾン層の維持機構 紫外線により酸素分子からオゾンが生成. 一方オゾンは酸素原子と反応することにより消滅. 上空のオゾンはこれらの生成・消滅のバランスを保ちながら存在. (http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/ozonehp/3-10ozone_depletion.html) オゾンの生成 • 今から約35億年前, 海の中で生命が誕生. • やがて, 光合成により二酸化炭素(CO2)を酸素 (O2)に変える働きを持つラン藻類が登場し, 地上に 酸素を供給. • 大気中の酸素濃度が高まり, 成層圏にまで達するよ うになると, 成層圏の強い紫外線によってオゾンが 形成. (環境科学解説, 環境研, http://www.nies.go.jp/escience/ozone/ozone_01.html, より抜粋) • 生命が誕生し, 光合成を行ったことで, 生物を守るオ ゾン層が形成された. オゾンホール 1979年、2007年それぞれの10月の月平均オゾン全量の南半球分布 (http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/ozonehp/diag_o3hole.html) オゾンホールの規模を示す要素の一つであるオゾンホールの面積(オゾン全量が 220m atm-cm以下の領域の面積)の推移。左図は2007年の日別の値(赤丸)と過去10 年(1997~2006年)の日別の最大値・最小値(破線)の推 移、右図は1979年以降の年 最大値の経年変化。なお、横線は南極大陸の面積を示す。米国航空宇宙局(NASA) 提供のTOMSおよびOMIデータをもと に作成。 http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/ozonehp/diag_o3hole.html フロンによるオゾン破壊 • 上部 40 km 以上での反応. クロロフルオロカーボン(CFCs;フロンとも呼ばれる)等に起因する塩素による オゾン破壊反応. (http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/ozonehp/310ozone_depletion.html) 極成層圏雲によるオゾン破壊 • 下部成層圏での反応. 高度 30kmより下の成層圏では, 塩素原子は通常, オゾンを破壊しない化合物に 姿を変えて存在する. ところが, 南北両極, 特に南極上空の高度 15~20km付近 では冬に著しく低温の状態となり, 極域成層圏雲(PSCs)と呼ばれる雲が発生す る. この雲粒子の表面で塩素が活発化してオゾンを破壊する. (http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/ozonehp/3-10ozone_depletion.html) オゾンホールの今後 • オゾン層の保護に向け, 国際的な協調の下でオ ゾン破壊物質(フロンな ど)の生産や使用の規 制が進められてきた. (http://www.nies.go.jp/whatsnew/2006/20060519.pdf) オゾンホールの今後 (http://www.nies.go.jp/whatsnew/2006/20060519.pdf) オゾンホールの今後 • 化学気候モデルを用い た予測によると, オゾン ホールの面積は 2050 年頃には 1980 年頃の 大きさに回復すると考 えられている. • ただし, これは今後もフ ロンなどのオゾン破壊 物質が使用されなかっ た場合. (http://www.nies.go.jp/whatsnew/2006/20060519.pdf) 小まとめ • 成層圏(高度約 10 km から 50 km)では, 上空ほど 温度が高い. • 温度上昇はオゾンが紫外線を吸収することに起因し ている. • 一方, オゾンは紫外線を吸収することで地面に届く 有害な紫外線を和らげている. • フロンガス, 極成層圏雲などに関わる化学反応に よってオゾンホールが広がってきた. • 現在の予測では, 今後オゾンの量は回復していくと 考えられている. 中間圏・熱圏 中間圏・熱圏の鉛直温度構造の特徴 • 中間圏では高度ととも に温度が低下. (高度[km]) 90km – 地球の大気中で最も低 温となる高度. • ~180 K (-90 ℃ 以下) 熱圏 中間圏 50km • 熱圏では, 高度とともに 温度が上昇. – 高度 500 km 付近では, 1000 K 以上の温度に 達する. 成層圏 10km 0km 対流圏 200k 280K(温度[k]) Andrews et al., 1987: Middle atmosphere dynamics, Academic Press, Fig. 1-1. (高度[km]) 90km 熱圏 400km 中間圏 300km 50km 成層圏200km 10km 0km 対流圏100km 200k 280K(温度[k]) 50km Andrews et al., 1987: Middle atmosphere dynamics, Academic Press, Fig. 1-1. 0km 273K 773K (新訂 地学図表, 浜島書店, より引用) 熱圏の温度構造の原因 • 太陽からの紫外線・極端紫外線を酸素 (O) や窒素 (N) が吸収する (電離される) ことで 高温となる. – 熱圏が吸収される紫外線は, 太陽エネルギーの 10 万分の一程度. – 熱圏の密度は非常に少ないので, 少ないエネル ギーでも高温になる. (新訂 地学図表, 浜島書店, より引用) • 太陽の光は電磁波の1種 • μm は 10-6 m (新訂 地学図表, 浜島書店, より引用) 中間圏の温度構造の原因 • 以下の 2 つの効果によって低温となっている. – 波長の短い紫外線は, 熱圏でほとんど吸収され てしまって, 中間圏まで残っていない. – 一方, 大気は自分の温度に対応して放射するこ とで冷えている. • 大気が薄いことも重要. まとめ 地球の大気の鉛直温度構造 • 対流圏 – 放射によって温かい地面か ら“あぶられる” – 対流によって混ぜられる – 雲ができることによって加熱 • 成層圏 (高度[km]) 90km 熱圏 中間圏 50km 成層圏 – オゾンによる紫外線の吸収 • 中間圏 – 赤外線の放射による冷却 • 熱圏 – 太陽紫外線による加熱. 10km 0km 対流圏 200k 280K(温度[k]) Andrews et al., 1987: Middle atmosphere dynamics, Academic Press, Fig. 1-1. おまけ:他の惑星の温度構造 • これまでは地球のことを考えてきた. • 他の惑星の大気はそれぞれの特徴を持って いる. 火星大気の鉛直構造 (高度[km]) 一応、温度で区分 • 熱圏 :120 km ~ • “中層大気”:~120 km 120km • “対流圏” :0~5-10 km 熱圏 成層圏 – 変動が激しい 10km 0km 対流圏 200 (温度[K]) Seiff and Kerk, 1977: JGR, 30, 4364, Fig.15. 特徴的な現象:ダストストーム 火星の温度構造: ダストの大気構造への影響 • 大気中のダスト による太陽光吸 収によって温度 は 5-20 K 上昇 • 安定度が増加 – 大気循環にも影 響 木星大気の鉛直構造 • 3種類の雲の存在が予 想 圧力 – NH3, NH4SH, H2O – 土星にも存在 • 温度がわかっているの は成層圏と対流圏上部 のみ – NH3 の雲の下はほとん ど未知の領域 1 気圧 温度 http://www.seed.pro.or.jp/~kin/jupiter/yuseijin/ おまけ:まとめ • 火星 – 成層圏をのぞくと, 温度構造は地球のそれと同様のプロ セスで説明. – しかし, 火星においてはダストの存在が, 温度構造にも大 きな影響を及ぼしている. • 木星 – 温度構造は地球と同様のプロセスで説明. – しかし, 水以外の成分が雲を作る原因になっている. – 成層圏の温度上昇にはダストの効果が無視できないよう だ. • 火星の温度 (Schofield et al., 1997) この講義の要点 • 大気の鉛直温度構造の概説 • 対流圏 – 対流によって温度現象が決定 • 成層圏 – オゾンがあることで高温