豚流行性下痢

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Transcript 豚流行性下痢

豚の下痢便中にみられたコロナウイルス
ブタのコロナウイルス病
エンベロープ表面に存在する突起によっ
て太陽のコロナのような外観を持つこと
からこの名が付いた。
伝染性胃腸炎( TGEV; Transmissible gastroenteritis virus)
呼吸器コロナウイルス感染( PRCoV; Porcine respiratory coronavirus)
流行性下痢( PEDV; Porcine epidemic diarrhea virus)
血球凝集性脳脊髄炎( HEV; Porcine hemagglutinating encephalomyelitis virus )
豚飼養1千万頭対
30000
25000
20000
15000
10000
豚伝染性疾病の発生率
子豚の下痢
豚ロタウイルス病(新生子豚胃腸炎; Porcine rota virus
Infection): 新生期から離乳期前後の子豚に多発し、発
病率は10~30%,死亡率は通常15%以下。
養豚業の規模拡大の時期に多発した子豚の下痢症は、飼
養管理と衛生対策の向上によって減少した。
伝染性胃腸炎
流行性下痢症
新生子豚胃腸炎
5000
0
1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993
伝染性胃腸炎
(TGE: transmissible gastroenteritis)
対象家畜: 豚、いのしし
原因: コロナウイルス属、豚伝染性胃腸炎ウイルス。血清学的に交
差し豚の呼吸器から分離される豚呼吸器コロナウイルスはS蛋白遺伝
子に大きな欠失をもつ変異株(免疫学的に交差)。
疫学: 主に10月から4月の冬季に流行。ウイルスはキャリアー状態の
導入豚のほか、出荷トラックやヒトによって農場に侵入する。抗体陰性
農場では爆発的に流行する(流行型)。発症豚の下痢便中には大量
のウイルスが排泄され、接触、飲水および汚染飼料を介し経口・経鼻
的に伝播される。頻繁な種豚導入を行う農場等では感受性豚が連続
的に供給されるためウイルスが常在化することがある(常在型)。
臨床症状: 流行型では激しい水様性下痢、嘔吐、脱水症状、削痩。
全日齢の豚に感染し特に1週齢以下の哺乳豚では罹患率、致死率と
もにほぼ100%と高いが、日齢がすすむと致死率は低下。妊娠・分娩豚
では食欲不振、嘔吐や下痢を呈し、泌乳低下または停止のため哺乳
豚が栄養失調となり死亡率が高まる。常在型の場合、下痢は軽度で
死亡率も低く、ロタウイルスや大腸菌感染による下痢に類似している。
(1) 疫学調査
家
畜
保
健
衛
生
所
動
物
衛
生
研
究
所
判
定
(2) 臨床検査
(3) 剖検
(下痢便)
(小腸内容)
(5) 蛍光抗体法
(4) 病理組織学的検査
(免疫組織化学)
+
ー
ー
(6) 血清学的検査
(中和試験)
+
+
+
(7) ウイルス
学的検査
+
(8) PCR検査
+
1.豚呼吸器型コロナウイルスは血清学的に交差する。 2.判定は病理組織学的検
査、血清学的検査及びウイルス学的検査またはRT-PCR 検査の総合による。
(2)臨床検査
(1)疫学調査
① 水様性の激しい下痢と脱
① 伝播が速く,高い発病率を示す。
水症状
② 年齢に関係なく、発病する。
③ 子豚(2週齢以下)の致死率が高い。 ② 下痢に先行した嘔吐
③ 母豚の著しい泌乳低下
④ 冬期~春先に好発する。
⑤ 導入豚又は導入豚に接触したワクチ
(3)剖 検
ン未接種豚から発生した。
① 小腸壁の菲薄化と弛緩、黄
⑥ 周辺地域に本病の発生があった。 色水様性腸内容物の充満
発
症
例
正
常
例
(4)病理組織学的検査
① 小腸絨毛の萎縮、融合
(絨毛の長さと陰窩の深さの比が1:1ある
いはそれ以下になる。)
② 哺乳豚では胃の未消化凝固
乳滞留による膨満、胃憩室横
隔膜側粘膜の小出血巣
哺乳豚では重篤な症状を示
し、乳白色、灰白色あるいは黄
緑色の水様性下痢を起こし、脱
水状態となって1週間以内に死
亡する。日齢が進むと死亡率は
低くなるが、発育は大幅に遅れ
る(ヒネ豚)。
水様性下痢便の排泄
(哺乳豚)
脱水症状(哺乳豚)
妊娠・分娩豚では食欲
不振、嘔吐や下痢を呈
し、泌乳低下または停
止のため哺乳豚が栄養
失調となり死亡率が高
まる。
感染豚やキャリアー豚
から同居母豚及び哺乳
豚へ小流行を繰り返し、
農場から抜け切らない。
水様性下痢を起した母豚
発症豚については、速やかに健康豚から隔離し、大腸菌
症等の細菌感染症の併発による症状の悪化を防ぐため、
抗菌性物質の投与等を家畜飼養者に対して指導するとと
もに、発生豚舎及び飼養管理器具については、反復消毒
に努めるよう指導する必要がある。
プレーリー州養豚センターの経験
1995 カナダ
約7000平米
母豚175頭
TGE: Prairie Swine Centre’s Experience
9
31 30
8
10
28
7
3月28~31日
29
:新規発症
:TGE典型症状
:サービスルーム
4
育成豚の豚房が初発で、下痢のみだった
ため飼料中毒を疑い、対応が遅れた。
4
4
4
1
4
4月1~5日
4月6~10日
5
426頭の子豚
が死亡
1
4月11日
11
11
TGE発生による影響
目標値
一腹子数
離乳日齢
離乳後死亡率
母豚淘汰割合
最初の発情までの日数
交配までの日数
子豚の死亡 39,192
475
発育遅延
5,750
飼料代
繁殖低下 10,047
役務の増加 6,000
雌豚の補充 7,955
小計
69,419
9.6
21
発生前
発生中
発生後
10.7
20.3
1.7
0
5.5
6.7
6.3
12.1
36.2
16
15.5
19.3
9.9
20.3
0.7
0
5.4
5.8
既存雌豚の売却収入(32,240)と
の差額 37,179ドル(3,717,900円)
が損失となった。公的研究機関であ
り、この計算には、獣医師の診療報
酬が含まれていない。
伝染病予防の費用と発生時の被
害額を比較して示すことが必要。
OIE 陸生動物衛生規約の主な規定
TGEの伝播可能期間(Infective period)は40日。
繁殖豚または育成豚の輸出入には国際獣医療証明書を添付する。
出荷時にTGEの臨床症状を示していない。
過去12ヶ月間TGEの発生がなかった施設に由来するか、または、
出荷前30日の間に実施した診断でTGE陰性であり、その間隔離さ
れていたか、または、 TGEが届出伝染病に指定されている国で過
去3年間に発生がなかった国に由来する。
食用豚の輸出入には国際獣医療証明書を添付する。
出荷時にTGEの臨床症状を示していない。
出荷前40日の間にTGEの発生がなかった施設に由来する。
精液の輸入についての勧告
輸入国の獣医当局は、以下のことを立証する国際獣医療証明の提
出を求めなければならない。
精液供与動物が採取日にTGEの臨床症状を呈していない。
精液供与動物は過去12ヶ月間TGEの臨床徴候がなかった人工授
精センターで40日以上飼育されたものでなければならない。
・・・・・
Disease timelines: Transmissible gastroenteritis
2005
2006
2007
2008
2009
2010
日本
中国
韓国
台湾
米国
カナダ
英国
ドイツ
フランス
ロシア
上段: 家畜
下段: 野生動物
: 臨床例確認
: 限局的感染確認
: この期間に発生報告なし
: 情報なし
1998年(群馬) 2戸1,200頭、 1999年(岩手、群馬、鳥取、福岡、佐賀、長崎、熊
本、宮崎、鹿児島) 24戸11,202頭、 2000年(岩手、群馬、長崎、熊本)4戸387頭、
2002年(北海道、大分)3戸108頭、 2003年(長崎、大分)2戸298頭、 2005年(宮
崎)1戸214頭、 2006年(山形、千葉)2戸342頭、 2008年(秋田)1戸5頭
豚流行性下痢 (PED: porcine epidemic diarrhea)
対象家畜: 豚、いのしし
原因: コロナウイルス属、豚流行性下痢ウイルス。
疫学: 1971年英国で初めて発生し、 1978年に病原体が同定され
た。70年代に欧州へ、80年代にアジアに広がった。日齢や季節を問わ
ず感染するが、若齢豚で症状が重く死亡率も高い。ウイルスは糞便中
に排泄され、経口または経鼻感染で伝播する。農場や豚舎内での伝
播は伝染性胃腸炎に比較して遅い。大規模な農場では常在化するこ
ともある。
臨床症状: 食欲不振、元気消失に続く水様性下痢が特徴で、伝染性
胃腸炎に酷似するが嘔吐の割合は低い。10日齢以下の哺乳豚では
脱水によりほぼ100%が死亡する。日齢が進んだ豚では軟便にとどま
り、致死率も低下する。母豚では泌乳減少や停止が起こり、哺乳豚の
死亡の要因となる。
予防・治療: 衛生管理によるウイルスの侵入防止に努める。単価生
ワクチンと。伝染性胃腸炎との混合生ワクチンがある。発症豚では輸
液による脱水防止を図る。
類似疾病検査
① 豚コレラ ② オーエスキー病 ③ 豚ロタウイルス病 ④ 伝染性胃
腸炎 ⑤ 豚大腸菌症 ⑥ 豚赤痢 ⑦ 豚サルモネラ症 ⑧ 豚壊死性
腸炎
重大疾病から順に疑って精査する(順序を無視すると、重
大事態を招く恐れがある)
(1)疫学調査
これらの特徴はTGE
① 伝播が速く,高い発生率を示す。
と区別できない。病性鑑
② 年齢に関係なく発生する。
定指針の流れもTGEと
③ 主に冬期に好発する。
同様である。ワクチン対
④ 周辺地域に本病の発生があった。
策のためには、早期に
⑤ 本病の予防接種を受けている。
鑑別診断することが重要
(2)臨床検査
① 未消化凝固物を含む黄色水様性の下痢
② 脱水症状
③ 母豚の食欲減退,発熱,泌乳量の減少又は停止
(3)剖 検
① 小腸壁の菲薄化,黄色水様性腸内容物の充満
② 哺乳豚では胃の未消化凝固乳滞留による膨満
1982 ~1984 年 下痢便 や腸内容物中にコロナウイルス 粒子が確
認されたが TGE が否定された「 PED を疑 う 症例」を初報告。
北海道: 少なくとも 2町14戸の2 ,103 頭に下痢
岩手: 5 戸4 ,593頭中2 ,756頭に下痢(内179頭の哺乳豚が死
亡)、2, 500頭飼養農家で子豚400頭中80頭が死亡
干葉: 繁殖豚 43頭飼養農家で子豚 202頭下痢(内10頭死亡)
1993年 北海道5,152頭飼養農場で全ての日齢の 2,075 頭が下痢
(内哺乳豚146頭、育成豚 12頭が死亡)
i994年 鹿児島と三重で少なくとも数千頭以上の哺乳豚が死亡
1995年 鹿児島:5戸の一貫経営農家で子豚の死亡率30~65%
1996年 鹿児島:3 万頭以上の子豚が死亡
日本の PED の発生状況とその 疫学的特徴. 1996
早期発見、隔離分娩、 消毒の徹底、オールインオールアウト方式を取
り入れた飼養管理、母豚のワクチン接種
1998年
1999年
2001年
2006年
三重:4月1戸534頭、北海道:6月1戸858頭
三重:1月と2月に各1戸で617頭と195頭
鹿児島:1月と2月に各1戸で1620頭と598頭
香川: 2月1件3頭が最後
感染のない農場・・・(侵入防止対策)
① ウイルスの侵入防止: 導入種豚の隔離観察、と畜場出荷時の
器材や車両の消毒
岩手県
② 豚舎の洗い、消毒の徹底
③ 温度、風、湿度及び換気などの豚舎環境改善
④ 密飼の防止
抗体陽性農場・・・(発症防止対策)
上記① ~ ④ に加えて
⑤ 導入種豚の馴致(2 週間以上の隔離飼養を実施)
⑥ 寒冷期における温度管理(分娩舎における哺乳豚の保温対策)
⑦ 豚群の移動方式( ピックフロー) の見直し: 理想的には連続飼
養よりオールイン・オールアウト飼養
症状(被害)のある農場・・・(被害低減・再発防止対策)
上記① ~ ⑦ に加えて
⑧ TGEと診断された場合: 繁殖豚・・・分娩前にTGEワクチンを2
回接種し、産子豚に移行抗体を付与
⑨ PED又はTGE ・PEDの混合感染と診断された場合: 繁殖
豚・・・分娩前にTGE ・ PED 2 価ワクチンを2 回接種し、産子豚に
移行抗体を付与
重度の脱水症状と
死亡が急性ウイル
ス性下痢の特徴
育成豚の下痢がみられる
場合はPED/TGEウイル
ス感染を疑うべきである。
Porcine Epidemic Diarrhoea and Transmissable Gastroenteritis. UK
麦ワラの使用はPED/TGEウイルスの温床となり、長期化
の原因となる。それは清掃と消毒が困難だからである。
部分的な
入替も、
導入豚が
前の家畜
の糞に曝
されるこ
とにな
る。畜舎
全体の総
入替が重
要であ
る。
持続的なPEDV感染がある農場におけるリスク要因に応じた対策
リスク要因
対策
不適切なワクチン接種により母
豚の免疫が低い
接種計画の強化( 3回:生・不・不)
およびワクチン接種補助員の雇用
母乳の出が悪い母豚による初
乳の摂取不足
母乳の出が悪い母豚の排除および
乳房炎の適切な治療
不適切な生物学的安全策によ
るPEDV感染の蔓延
不適切な検疫による持続的な
PEDV伝播
別要員による分娩舎管理の分離と
衛生の徹底
感染豚の迅速な排除および発生分
娩舎の消毒
数年間も発生が続く農場では、母豚の乳房炎が多く、母豚によって
子豚の死亡率が違う ➜ 初乳の摂取不足、抗体価が低い母豚
子豚の死亡が起きた畜舎や分娩舎を清掃した人員が、次の母豚の
世話をしている事例がある
感染母豚の排除ができていない ➜ オールイン・オールアウト
PED Past, Present and Future. Kore 2011
A) 重度の下痢と脱水症状のある哺乳豚、 B) 鬱血を伴う重度のカタル性腸炎
C) 健康な子豚の腸絨毛の正常な吸収能力を示す小腸乳糜管、 D) 感染子豚の腸
絨毛の吸収不全を示す小腸乳糜管
下A)腸絨毛の著しい短縮と鈍端化、 下B) PEDウイルス抗原がある腸上皮細胞
ワ
中ク
国チ
ン
に株
06 に
年由
に来
出す
現る
?変
?異
株
Chinese-like Strain of Porcine Epidemic Diarrhea Virus, Thailand. 2009
Recurrent of Porcine Epidemic Diarrhea Outbreak in a Pig Farm: A Case Report. Thailand 2011
母豚6000頭の農場におけるPED発生前4ヵ月間と発生中の5ヵ月間の子豚の損耗
週
1
2
3
4
5
6
7
8
9
離乳頭数 2352 2511 2637 3690 246 12 37 380 1004
離乳前死亡率 12.2 11.9 26.9 27.4 90 99 87.5 65 39.2
PIG PROGRESS NET
Thailand: PED outbreak raises pork prices. 2008/2/8
タイの豚価がこの2ヶ月間高騰している。昨年11月の豚流行性下痢( PED )流
行以来、5~6億頭の子豚が死亡し、子豚の供給不足が予測されたためである。
養豚協会は、「供給が危機的状況に達しないことは確認できるが、消費者は小
さ目の豚を食べることになるかも知れない」と述べた。
現在、国内消費を満たすために毎日約4万頭が供給されており、日本と香港向
けの凍結および調理済み輸出製品が全供給量の1%である。
豚肉の出荷価格がキロ当り1.39 -1.42 US$から1.87-1.93US$へと急騰したこと
は、小売価格がキロ当り2.95-3.17 US$から3.65- 3.81 US$へ上昇する結果になっ
たことを貿易局は認めた。
他方、飼料価格が50%以上高騰しており、生産者の増産を困難にしている。政
府はこれがPEDの影響をなくすために良質の飼料供給を支援すべきである。
EMERGING AND RE-EMERGING DISEASES IN ASIA AND THE PACIFIC
with special emphasis on porcine epidemic diarrhoea
Conf. OIE 2007, 185-189
Summary
アジア・太平洋地域における新興・再興感染症:
A questionnaire survey
carried out among Members of the OIE4
とくに豚流行性下痢症と関連して
Regional Commission for Asia, the Far East and Oceania revealed the
要旨
presence of eight emerging and re-emerging pig diseases, of which
アジア、東アジア、オセアニアの
porcine
epidemic diarrhoea (PED) andOIE地域委員会の加盟国間で実
porcine reproductive and
施したアンケート調査によって、8種の新興・再興感染症が明らかにな
respiratory syndrome (PRRS) appear to cause the most severe
economic losses.
り、その中で豚流行性下痢
(PED) と豚繁殖・呼吸障害症候群
Vietnam and the People’s Republic of China recorded huge outbreaks
(PRRS)が最も深刻な経済損失を引き起していると思われる。
of PED and a new strain of PRRS.
ベトナムと中国はPEDおよび新型のPRRS株の大きな流行を記録
Members of the region in general experience difficulties in
している。
establishing diagnosis due to lack of facilities and training. Absence of
この地域の加盟国は、施設と訓練を欠いているため、診断を確定
timely
reporting of diseases and lack of relevant epidemiological data
also render disease control measures ineffective.
する上で概して困難を経験している。疾病についての適時の報告が
The OIE should continue to provide guidance on the control of
なく、関連する疫学的データの欠如は、疾病制御措置を無効にしがち
emerging and re-emerging swine diseases in the region.
である。
OIEは、この地域における豚の新興・再興感染症の制御に関して
助言を提供し続けなければならない。