Transcript 位置/姿勢決定システム
東京工業大学 GTO技術試験衛星 旋風(つむじ) ○鶴見辰吾,澤田弘崇,中谷幸司,森 淳, 宇井恭一,黒川健也,前田直秀 発表の流れ (1) Introduction :はじめに/背景/提案するミッション/期待される効果 (2) ミッションの概要:GPS姿勢決定ミッション (3) 衛星の概要 : アニメーション/各サブシステム (4) まとめと課題 : ミッションのまとめ/今後の課題 はじめに ■1次審査時のミッション 1.GPSを用いた姿勢決定技術の検証 2.内部帯電時の電荷分布の連続的測定 ・内部帯電の観測を小型衛星で実現するのは難しい. (要求電力など) ・GPS姿勢決定技術検証ミッションは実現性が高く, 非常に興味深い. ■最終審査時のミッション GPSミッションに絞り,その分衛星の高機能化を図った. GPS(Global Positioning System) 複数の衛星からの測距情報を同時に受信することにより, 陸海空および宇宙のあらゆる移動体や乗り物に対して 全天候,全世界,実時間の3次元測位(位置,速度の測定)を 可能にするシステムである. 軌道面数 :6面 軌道傾斜角:55 deg 軌道高度 :20,200 km 測位波電波:L1帯 1575.42MHz L2帯 1227.60MHz 背景 ■従来の衛星の位置/軌道決定法 ・地上局によるレンジ及びレンジレートの観測を利用. ・INS(慣性航法システム)の利用. ■従来の衛星の姿勢決定法 ・各種センサの併用 ・インターフェースの複雑化 ・コスト,体積,重量が大きい 地球センサ 太陽センサ ジャイロスコープ スタートラッカ ■GPSを利用した位置/姿勢決定法 ・インターフェースの単純化 ・コスト,体積,重量の軽減 ・速度,姿勢角,姿勢角速度,時刻の取得 背景(過去の実験結果) ■低軌道上でのGPS位置/軌道決定 日本でもすでに実証済みで,航法誘導等にも応用されている. ■低軌道上でのGPS姿勢決定 衛星 備考 th e Air Fo rc e RAD CAL th e CRI STA- SPAS STS- 6 6 ( 1 9 9 4 ) th e REX- I I ( 1 9 9 6 ) 精度 0 .5 °~1 .0 ° 精度 0 .2 °~0 .3 ° c lo se d lo o p c o n tro l にも成功 GPSによる位置,姿勢決定技術は確立されつつある. しかし,これらの実験はいずれも低軌道でしか行われていない. ・GPS衛星の軌道高度:2万キロ ・GPS衛星は地球方向へ電波を送信している. 低軌道ではGPSを利用できるが高軌道ではどうだろうか. 背景(過去の実験結果) ■EQUATOR-S(独)によるGPS信号受信実験の結果 GPS衛星の軌道高度である2万km以上でもGPS電波を 捕らえることができた.(アンテナ2個) N um ber of V isible S atellite 3 2 1 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 1516 17 18 19 20 21 22 23 24 H ours 高度約4万km 背景 ■高度2万km以上でもGPS電波が受信できる理由 GPS電波のサイドローブや電離層により反射した電波は, GPS軌道の外側まで伝播する. I onospher e GPS Sat el l i t e Ear t h GPS Sat el l i t e (a) サイドローブ (b) 電離層による反射 Fr om GPS ミッション提案 中・高軌道におけるGPS位置/姿勢決定法の有効性の検証 ミッション目的 ■GTO軌道を用い,様々な高度においてGPS位置/姿勢決定実験を 行うことによって,GPS位置/姿勢決定法の有効高度を明確にする. ■宇宙環境のGPS位置/姿勢決定システムに及ぼす影響を調べる. (軌道上速度,軌道高度,ドップラーシフト等) ■小型衛星におけるGPS位置/姿勢決定技術のノウハウを蓄積する. ミッション提案 以下の実験を低・中・高軌道で行う. 1. GPS信号の受信 ・受信可能なGPS衛星数の連続計測 2. GPSを用いた衛星の位置/姿勢決定 ・リアルタイム計測と精度評価 3. GPSを用いた衛星の姿勢制御 ・リアクションホイールによるスピン軸の制御 ・スラスタによる角運動量ベクトルの制御 2,3の実験は高軌道では行われた例のない実験である. 上記の実験は,いずれもGPSデータを用いて行い, 地上局による測距, INS,太陽センサ,地球センサから得られる位置及び姿勢データと比較 し検証する. 期待される成果 ■位置/姿勢決定システムのコスト,重量,複雑化を抑え,かつ信頼 性を向上させることが可能である. 多くの衛星に対して大きなメリットとなる. ■GPS位置/姿勢決定法が利用できる高度を明確にする. より多くの衛星に,GPS位置/姿勢決定システムを搭載する ことができる. ■宇宙環境がGPS位置/姿勢決定に対してどのような影響を与える かを調べることができる. GPS位置/姿勢決定システムの開発に役立つデータが 得られる. GPSによる姿勢決定の理論 宇宙機に搭載された複数のGPSアンテナ間のGPS搬送波(L1帯)の 位相差を求めることでアンテナの相対位置を知ることができる. これにより宇宙機の姿勢がリアルタイムに決定できる. 位置決定と姿勢決定の相違点 位置決定の場合は,位置の3成分と受信機の時刻の定常偏差を 求めるために少なくとも4機のGPS衛星が必要である. 理由 姿勢決定の場合,必要なGPS衛星は2機である. ・アンテナ間に拘束条件がある. ・アンテナ間がTime Referenceを共有するので,GPS衛星間の 時間のずれを計算する必要がない. GPSによる姿勢決定の理論 Fractional Component Δφ r k Integer Component k Baseline b (3 × 1) Master Antenna Slave Antenna s(3 ×1) Unit Vector to GPS Satellite GPSによる姿勢決定の理論 定義 m n J rij b As j i : baseline i j : GPS satellite j i 1 j 1 A : i b姿勢変換行列 T を最小にするAを求める 各時間においてAの変化は小さいと仮定できるので ~ A A0 I A0 ただし 0 ~ θ z y これを上の式に代入して変形すると m n J δrij A 0s j b i δθ i 1 j 1 ただし δrij rij bi A0s j T z y 0 x x 0 GPSによる姿勢決定の理論 J を最小にする δθ は以下の式で表される δθ H H ただし T T~ H s j A 0 bi 1 T H δr δr δrij この結果新しいAが求まり,これを繰り返すことで,姿勢が決定できる. 本衛星の場合は,姿勢決定精度がノミナルで0.3度である. ただし,GPS電波の受信状態,及び衛星数によって変動する. 位置/姿勢決定システム GPS位置/姿勢決定システムは,アンテナと受信機から構成される. 代表的な製品としては,Trimble社製のTANS VectorやSS/Loral社 製のTensorが挙げられる. 各機関がこれら製品を改良・改造して 宇宙で実際に使用した実績がある 本衛星のGPS位置/姿勢決定システムも これらの製品を基本に考える. Accuracy 1m baseline: 0.30deg.(RMS) Attitude Trimble TANS Vector 2m baseline: 0.15deg.(RMS) 3m baseline: 0.10deg.(RMS) 位置/姿勢決定システム TANS VectorやTensorは4つのGPSアンテナを用いて位置/姿勢決定 を行う設計になっている.しかし,本衛星の場合4つのアンテナでは 少ないと考えられる. 理由 ・本衛星はスピン安定方式を採用しているため,どの方向からも GPS衛星からの信号を受信する必要がある. ・GPS衛星軌道よりも高軌道(約20,000km以上)では,受信可能な GPS衛星の個数が少ないと予想され,そのような場合でもbaseline の本数を多く取る必要がある. 位置/姿勢決定システム そこで本衛星では,合計8個のGPSアンテナを用いることにする. 120 [deg] ・パネルを120度展開 ・上下面にそれぞれ4つ. GPS Antenna 受信機について 本衛星は8個のアンテナを接続できるように受信機の改良が 必要であるが,その他の改良点も存在する. Master Antenna Slave Antenna GPS Satellite 改良前: 4つのアンテナが共通のGPS衛星の信号を受信している. Master Antennaは1個のみ. 改良後: Master Antennaが複数設定できる.これにより最低2つの アンテナが共通のGPS衛星の信号を受信すればよい. GPS衛星選択アルゴリズムついて 受信機が処理できるGPS衛星数には限界があり,TANS Vectorでは 6個,Tensorでは9個までとなっている.この限界以上にGPS衛星が見 えるとき何らかのアルゴリズムによりGPS衛星を選択する必要がある. アルゴリズムの一例 N i : i 個のアンテナから見えているGPS衛星の数 ①4つのアンテナから見えているGPS衛星 SVi i 1, N 4 を選択しそれぞれの衛星に 対し一番高いエレベーション角をもつアンテナをマスターアンテナとする. ②3つのアンテナから見えているGPS衛星 SV j j N 4 1, N 4 N 3 を選択しそれぞ れの衛星に対し一番高いエレベーション角をもつアンテナをマスターアンテナとする. ③1つのアンテナから見えているGPS衛星 SVk k N3 N 4 1, N3 N 4 N1 を選択する. ④2つのアンテナから見えているGPS衛星 SVl l N1 N3 N 4 1, N1 N3 N 4 N 2 を選択しそれぞれの衛星に対し一番高いエレベーション角をもつアンテナをマスター アンテナとする. 電波遅延 プラズマ環境(ヴァン・アレン帯等)でのGPS電波の波長変化見積もり ne 10 ( 0.3145 L 3.9043) 3 L:軌道高度(地球半径の何倍かを表す) ne:プラズマ密度 fp::プラズマラズマ周波数 [cm ] f p 9000 ne [ Hz ] プラズマ中を伝播する電波(周波数ω)の分散関係式 p c k 2 2 波長 [m] 群速度 [m/ s] 位相速度 [m/ s] 2 2 c:高速 k:波数 真空中 0 .1 9 0 2 9 3 7 1 2 299792458 299792458 プラズマ 中 0 .1 9 0 2 9 3 7 1 299792456 299792460 GPS電波(L1波)のヴァン・アレン帯での波長の変化は,位置/姿勢決定 精度には影響を及ぼさない程度であるといえる. 概観図 展開前 展開後 軌道 ミッション要求 ・軌道高度の大きく変化する軌道 ・MDS-1に近い軌道を検討 遠地点高度 近地点高度 離心率 軌道傾斜角 近地点引数 昇降点軽度 軌道周期 GTO軌道 3,6000 [km] 250 [km] 0.729 28.5 [deg] 179.0 [deg] 99.17 [deg] 10.6 [hour] 地上局との通信範囲 各サブシステム S-Band アンテナ×8 バッテリ ダイプ レクサ 位相器×8 アンプ×8 S-Band カプラ 太陽電池 データ レコーダ S-Band 送信機 電力制御器 OBC UHF-Band アンテナ×16 各サブシステム UHF-Band カプラ ダイプ レクサ S-Band 送信機 GPS姿勢決定系 受信機 電源系 慣性航法 システム スラスタ 通信系 GPSアンテナ×8 C&DH系 太陽センサ 姿勢制御 回路 リアクション ホイール ×2 姿勢制御系 地球センサ ×2 構体系 熱制御系 通信系 ダウンリンク通信 ・Sバンド帯:位置/姿勢測定データを地上局へ送信 ・カップ付き広帯域MSA(最大利得7[dBi], 半値幅60[deg])を本体側面に8個配置 本体のスピンに同期させアンテナをスイッチングする アップリンク通信 ・UHF帯:地上局から衛星へのコマンド送信 ・ターンスタイルホイップアンテナ 通信系 回線設計の結果 衛星→地上局 地上局→衛星 周 波 数 [G H z ] 2 .5 2 0 .4 送 信 機 の 出 力 パ ワ ー [W ] 2 .5 30 送 信 ア ン テ ナ の 半 値 幅 [ d e g] 60 2 .9 2 送 信 ア ン テ ナ の ゲ イ ン [dB ] 9 .9 9 3 4 .9 実 効 放 射 電 力 [dB W ] 1 2 .9 4 8 .7 受 信 ア ン テ ナ の 半 値 幅 [ d e g] 0 .4 6 0 受 信 ア ン テ ナ の ゲ イ ン [dB ] 5 0 .8 0 0 .2 5 6 0 .0 0 9 6 1 7 .5 2 8 .9 0 .0 0 0 0 01 0 .0 0 0 0 1 6 4 .5 1 0 .5 2 3 .5 デ ー タ レ ー ト [ M b p s] E b / N 0 [d B ] ビットエラー 率 要 求 Eb/N 0 [dB ] マ ー ジ ン [dB ] マージンはどちらも3[dB]を大幅に上回っており 通信が可能であることがわかる 姿勢制御系 スピン安定方式 スピンレート = 10~15 [rpm] (GTO軌道におけるスピン衛星の安定条件 : >6 [rpm]) スピン軸制御(姿勢決定センサ:地球センサ×2,太陽センサ×1) 軌道投入 姿勢決定実験 姿勢制御実験 : 超小型スラスターによる能動制御 (角運動量ベクトルとスピンレートを制御) : ニューテーションダンパーによる受動制御 (スピン軸のニューテーションを吸収) : リアクションホイール(ロール,ヨー軸) およびスラスターによる能動制御 指向精度 ±2[deg] (定常運用時) 姿勢制御用ハードウェア 制御用アクチュエータ ・リアクションホイール×2 : The OSSS BANTAM Series REACTION WHEEL (One Stop Satellite Solutions) ・ニューテーションダンパー×1 : FAST-type fluid damper (Goddard Space Flight Center) ・姿勢変更用超小型スラスター : Pellet-type Thruster (Nissan Corp.) 姿勢決定用センサ ・地球センサ×2 : Horizon Crossing Indicator (ITHACO) ・太陽センサ×1 : Fine Sun Sensor (Adcole) 決定精度 0.1[deg] 慣性航法システム(INS) ■機能 3軸レートジャイロおよび3軸加速度計のデータから,衛星の 位置・姿勢・速度・角速度・加速度・角加速度 を得る. ■目的 ・位置・速度・加速度データによるGPS位置/軌道決定のリファレンス ・姿勢・角速度・角加速度データによるGPS姿勢決定のリファレンス ■ハードウェア Digital Quartz IMU (Boeing Guidance, Navigation and Sensors) 姿勢決定&制御ループ Disturbance Torque Nutation Damper Attitude Control Electronics CPU Attitude Control Actuator Space Craft Dynamics Reaction Wheel Attitude Determination Sensor Roll ROM Telemetry Data RAM A/D Converter Reaction Wheel + Motion Equation Thruster Yaw Pitch EIA/TIA 232/422 EIA/TIA 232/422 Earth Sensor Global Positioning System Inertial Navigation System GPS Reciever & Proccesor Inertial Measurement Unit Sensor Data Earth Sensor Sun Sensor 初期捕捉シーケンス Step1 衛星分離 → Perigee近傍,初期スピン(50~150rpm)を想定 Step2 デスピン → 初期スピンから30 rpm ぐらいまで減速 Step3 地球捕捉 → 地球センサから姿勢およびスピン速度の情報を得る Step4 姿勢決定テレメトリデータ送信 → 衛星-地上局間通信の開通,地上系を制御に組込む Step5 スピン軸のリオリエンテーション → 超小型スラスターによりスピン軸を所定の方向へ Step6 太陽捕捉 → 太陽センサの情報を加え,姿勢決定システムの完成 Step7 太陽電池パドル展開 Step8 定常状態へ移行 熱制御系 1 ネットワーク法を用いた熱解析 2 2 3 太陽が衛星上面,側面からあたる場合 に分けて計算した. 搭載機器の温度許容範囲内に収まって いる, 4 10 10 6 6 7 7 8 9 Case1(衛星上面から太陽が当たる場合) node ID Temp.(℃) 1 7.5308 2 5.891 3 -33.9047 4 -33.9181 5 -33.9374 6 -33.9561 7 -33.9908 8 -52.6604 9 -52.7 10 -33.9871 4 断熱材 5 5 1 3 Case2(衛星側面から太陽が当たる場合) node ID Temp.(℃) 1 25.9077 2 23.0214 3 50.0869 4 50.1236 5 50.1247 6 50.1258 7 50.1166 8 28.5958 9 31.4717 10 50.1817 8 9 電源系 ■電源供給 : ボディマウントの太陽電池セル(GaAs)で行う ■最大要求電力 : 56.4[W] ■最小総発電力 : 64.0[W] ■バッテリー容量 : 120[Wh] (15V,8Ahのユニットが4個) ミッション末期(1ヶ月後)の総発電力:数%の減少 構体系(内部配置) ニューテーションダンパ 太陽センサ 太陽センサ 電子部 GPS-RPU 電源制御回路 スラスタ 太陽電池パネル 展開機構 TNC&MUX UHF-受信機 バッテリ INS UHFアンテナ GPSアンテナ 地球センサ 電子部 データレコーダ On-Board Computer 地球センサ MSA MSA用位相機 MSA用アンプ リアクションホイール 構体系 ・衛星総重量:47.3[kg] 内訳 構造部 :17.4[kg] 搭載機器 :22.6[kg] 計装類総計+マージン: 7.3[kg] ・打上時最大荷重等:安全係数1.5以上を確保 ・構造固有振動数概算;81.3[Hz] H-ⅡAロケット搭載のためのインターフェイスを含め ピギーバック衛星の条件をクリア ミッションのまとめ GPS位置/姿勢決定技術を検証する衛星の設計を行った. 本衛星のミッション目的を以下にまとめる. 1. 様々な軌道高度でGPSを用いて位置/姿勢決定を行い, GPS位置/姿勢決定システムの有効範囲を明確にする. 2. 宇宙環境のGPS位置/姿勢決定システムに対する影響を調べる. 以上のミッションは今後の宇宙開発にとって非常に有意義で あると考える. 今後の課題 今後の課題 ■GPS位置/姿勢決定システムの精度の改善 ・データ処理技術の開発 ・ハードウェアの高精度化 ■軌道高度ごとに最適化した姿勢決定アルゴリズムの開発 ■計算負荷の軽減と計算速度の高速化 ■GPS位置/姿勢決定システムと他のセンサとの融合