日本語学研究

Download Report

Transcript 日本語学研究

日本語学研究
94学年度2学期
陳 志文
参考文献





北原保雄(1995)『概説日本語』朝倉書店
谷光真九他(1995)『日本語学』酒井書店
築島裕(1964)『国語学』東京大学出版会
佐藤喜代治(1973)『新版国語学要説』朝倉書
店
工藤浩他(1993)『日本語要説』ひつじ書房
第一章 音声·音韻
一 音声と音声学
(一)音声

人が自分の思想、意思、感情などを相手に伝え
るために音声器官を用いて発する、言語として
の音(声とも)を音声と言う。あくび、くしゃみなど
の生理的な音は含まない。
(二)音声学·音声研究方法


音声の性格、種類、機能、体系などを明らかにし
ようとする研究分野を音声学と言う。
音声の研究方法
①調音音声学(古くから今日まで広く採用され
ている)
②聴覚音声学
③音響音声学
(三)音声器官

ど音点音こし閉音
と声、のとてじ声
呼器そ行を目た器
ぶ官のわ調的り官
。を調れ音と震の
音
調にるとすわあ
るせる
音か所、
ま音た
を
部
器か た
官わ調、をり分
なる音調作なを
るど
(四)音声の単位

調音の仕方や音の性格の観察を通して得られ
る、音声学上それ以上分割できない最小の単位
を単音という。
(五)音声表記

それぞれの単音は記号によって示される。いろ
いろな方式があるが、日本の場合、国際音声学
協会の定める「国際音声記号」によるのが普通
である。正式には音声記号は[ ]の中に入れて
示すことになっている。
(六)単音の種類と特徴



①母音:咽頭や口腔のある箇所で閉
鎖や特に際立った狭めを受けること
なく発せられる有声の単音
②子音:咽頭や口腔のある箇所など
で閉鎖や狭めを受けて発せられる単
音。調音法では、破裂音、摩擦音、
破擦音、弾き音、鼻音などがある。
③半母音(半子音):[ w ] [ j ]は
ワやヤ行の子音などになる。摩擦音
に入れてあるが、接近音と呼ばれる
もので、摩擦性はない。
単音に関するいくつかの概念


有声と無声:声門を通る呼気によって声帯が振
動したときにできる音声を有声音と、声帯が開い
ていて振動しないものを無声音と呼ぶ。
母音無声化:母音は原則として有声であるが、
場合によって、無声で発音されることがある。こ
れを「母音の無声化」という。例えば、「キカイ」、
「マス」「デス」。[kikai][masu]
。
。
二 音素と音韻論
(一)音声と音韻論

音声は、人間が発するそのとき限りのものである。
だから、例えば、同じ人が二度[oka](丘)と発音した
場合であっても、細かいところまで調べれば音声上
の違いが必ず見出される。一方、[oka]の[o]を[a]に
替えると[aka](赤)となる。このように、音声には意味
の違いをもたらす違いとそうでない違いとがある。つ
まり、音声に関しては、具体的な音声そのものとか
かわって、意味弁別をつかさどっている抽象的な存
在があるのである。その最小単位を音素と呼び、音
声記号と区別するために
/ /で囲んで示す。
(二)音声学と音韻論


音声学が音声器官によって作られる個々の具体的
な音声の性格、構造、体系などの解明を目的とする
のに対して、音韻論(音素論)は意味の弁別に関わ
る抽象的なレベルにおける音素の性格、構造、体系
などをその研究対象としている。ただし、意味の伝
達に関係しない音は言語音声ではないし、言語にお
ける意味の伝達は具体的な音声を通して行われる。
音声→(抽象)音素
←(実現)
(三)音素の認定方法

①対立する最小対(ミニマル・ペア)の発見ー
一つの単音の違いだけで意味の異なる一対の単語=最小対を発
見し、意味の違いをもたらしているものをそれぞれ音素とする。例え
ば、(丘)(赤)、また(赤)(朝)との二組の最小対から、/o/と/a/、ま
た/k/と/s/、合わせて四つの音素が抽出される。
②自由異音の発見ー
同一の音声的環境の中において互いに入れ替わっても意味の違い
を生じない、音声的に類似する複数の単音があった場合、それぞれ
を自由異音と呼び、そして自由異音は同一音素に属するとする。
例えば、(1)強い円唇の[o]で[oka]、とごく普通の発音で[oka]と発言
しても、丘の意を表す。音素/o/の自由異音。
(2)有気音のコ[k‘o]と無気音のコ[ko]。[k‘]と[k]は/k/の
自由異音。

③相補分布の発見ー
音声的に類似する複数の単音が互いに異なる環境の中にしか
現れない現象、すなわち<そのうちのある音が現れる所には他
のある音は決して現れない、逆にある音が現れない所には他の
ある音が現れること>を相補分布と呼ぶ。相補分布の状態にあ
る単音の組み合わせを見つけ、それらの単音は同一音素に属
するとする。
例えば、[sammai](三枚)[sanneN](三年)[saŋŋatsu](三月)
つまり、撥音に関して[m][n][ŋ]の3音は相補分布をなしている。
ここから音素/N/抽出される。なお、相補分布をなす各単音を条
件異音と呼ぶ。
(四)日本語の音素




①母音音素 5 /i,e,a,o,u/
②子音音素 13 /p,b,t,d,c,k,g,s,z,h,r,m,n/
③半母音音素 2 /j,w/
④特殊音素 2 /N,Q/
(五)伝統的な日本語研究と西欧言語学


今日の音声・音韻研究は西欧言語学に基盤を
置いているが、江戸時代以前からの日本の伝
統的な研究を受け継いでいるところもある。例
えば、五十音図に基づいた説明など。
①清音・濁音・半濁音・連濁
音声的に見ると清濁は大体無声音対有声音の
対立。半濁音パ行はハバに寄生しているもの
かのようにとらえられている。しかし、音声学的
にはバ行と対立する音である。連濁では音声
学的に見ると有声化の一例である。
②直音・拗音
直音・拗音は仮名表記から規定されるが、実際
の音声において両者は整然とした対応をなして
いない。例:サ行の直音シ[ʃi] は音声学的に
は拗音シャ、シュ、ショ[ʃa][ʃu][ʃo]の仲間に
入れるべきものである。
(六)音節と拍


私たちは日常経験的に、ハル(春)という語は、
ハとル、それぞれ二つの単位からできていると
見ている。単音の集合したものであるが、その
言語を使用するごく普通の人において、それ以
上短く分けられない一まとまりの音声のことを一
般に音節と呼んでいる。しかし、撥音、促音、長
音などのとらえ方は人により異なる。
時間的長さに着目して、一定の長さを持ち(等時
性)それ以上分けられない単位を拍またはモー
ラと呼ぶ。
(七)拍の構造






子音=C(consonant)、母音=
V(vowel)、半母音音素=S
(semi-vowel)
①/V/母音音素(ア行・長音)
②/CV/子音音素+母音音素
(カガ行音など)
③/SV/半母音音素+母音音
素(ヤ行・ヮ)
④/CSV/子音音素+母音音素
+母音音素(拗音)
⑤/C/特殊音素(促音、撥音)
三 アクセント
(一)アクセント

カキは、カキ(下線は高い部分)と発音されれば
柿を、逆にカキなら貝の牡蠣を表す。このように、
それぞれの語や句などについて社会的に定まっ
ている、高低または強弱の相対的な配置をアク
セントと呼ぶ。前者を高低アクセントとか高さアク
セントと言う。日本語はこれに当たる。後者を強
弱アクセントとか強さアクセントと呼ぶ。(英語)
(二)アクセント型・アクセント表示法
(三)アクセントの機能




①弁別的な機能ーカキ(柿)↔カキ(牡蠣)
②統語的な機能
普通一語には高いところが一つしかないことから、<アクセントは、
語を構成している個々の音を、高いところを中心としてまとめるこ
とにより、その音の連続が一定の意味を持った一まとまりであるこ
とを示す機能=統合的な機能を負っている>と解釈される。例:
ただし、アクセントだけが語句や文の切れ続きを示しているわけで
はない。文脈,息づき,休止など。
(四)アクセントとイントネーション・プロミネン
ス

音声によるコミュニケーションにおいては、語ご
とに固定しているアクセントとは別に、場合場合
による音声の高低、強弱なども関わってくる。
①イントネーション




A アスガッコウニいく→(平板)断定文
B アスガッコウニいく↝ (上昇)疑問文
C アスガッコウニいく↴ (下降)感嘆文
このように、文に付け加えられていろいろな意味
や気持ちを表す音声の上げ下げをイントネー
ションという。
②プロミネンス(卓立)

文の一部分に付け加えられてそこを強調する音
声的な強まり、高まりなどをプロミネンスという。

A アスガッコウニイク(アスが強調される)
B アスガッコウニイク(ガッコウが強調される)

第二章 文字・表記
一 言語と文字


文字はしばしば言語と混同されるが、本来、文
字は言語を記録する手段であって、もちろん言
語そのものではない。
言語に対し、文字が二義的役割しか果たさない
ということにはならない。だからといって、文字も
大切な言語記号である。文字無くして言語によ
る記録は不可能であったし、音声や映像を記録
する技術が発達した現在でも、文字が記録と伝
達の重要な手段であることに代わりがない。
二 文字の種類と言語


文字は、一次的にそれが音を表すか意味を表す
かによって、表音文字と表意文字を区別すること
がある。しかし、表意文字とされる漢字についてみ
ても、字形がそのまま意味を表していると言える
のは「一・二・三」のような数字ぐらいである。一方、
文字である以上どんな文字も一定の音的単位と
結びついているから、表音的でない文字は存在し
ない。
よって、表音文字・表意文字という概念が明確で
はない。ただ、次のようなタイプが認められる。
①音素文字

アルファベットのように、原則として一字が一音
素を表す文字。字形が比較的単純で、字母数も
少ない。表語性には劣るが、表音性には優れて
いる。
②音節文字

仮名のように、原則として一字が一音節を表す
文字。音素文字よりは字母数が多い。表語性は、
一般に音素文字と変わらない。表音性は、音素
文字と表語文字の中間。
③表語文字(形態素文字)

漢字のように、原則として一字が一語(形態素)
を表す文字。膨大な文字数を必要とし、字形も
複雑になる。音を分析的に示さないので、表音
的には劣るが、表語性にはきわめて優れている。
三 日本語の中の漢字


日本語で用いられる漢字には、<音>読みあり
<訓>読みあり、さらにそれぞれにいくつもの読
み方があって、大変煩雑である。
中国語の発音は長い歴史を通じて何度も日本
へ伝えられており、その都度特徴が異なるので、
日本語でも、それに応じた幾通りかの<音>を生
じている。次のように、新旧の<音>を重層的に
保存しているのが日本語の特色である。
①呉音系字音

漢音系字音の元になった中国語音が伝わる以
前から用いられていた<音>。5、6世紀におけ
る(楊子江の下流域)の音と考えられる。古い漢
語や仏教関係の語に用いられることが多い。
「行ギョウ」「大ダイ」「米マイ」など。
②漢音系字音

7世紀以後、隋から唐代中期にかけて伝えられ
た長安を中心とする中国西北方言に基づく<音
>。隋唐の文化を伝える新しい中国語音として
重んじられた。呉音系の<音>とともに、日本語
の<音>の主体を形成している。「行コウ」「大タ
イ」「米ベイ」など。
③唐音(宋音)系字音


10世紀以後、唐末から明・清にわたって伝えられた、
中国の中・近世音に基づく<音>。歴史的にも地域
的にもさまざまな音が含まれているので、呉音系の
<音>と同様たいへん混質的である。「行アン」「子
ス」「団トン」など。
もちろん、すべての漢字に呉音・漢音・唐音がそろっ
ているわけではない。唐音の使われない漢字は多
いし、呉音と漢音が同形の場合もごく普通である。こ
ういう多様な<音>の混在は、日本語と中国語の接
触の歴史の反映である。
四





<仮名遣い>の歴史
仮名は音節を表す文字であり、一つの音節に一
つの仮名が対応して用いられているときには問題
がない。ところが、音韻は時間の経過に伴い、増
減する傾向があり、一方、文字は固定化すると言
う傾向がある。一定の対応が破れると、仮名の用
い方に混乱が生じ、仮名遣いの問題が起こる。
定家仮名遣い
契沖仮名遣い
歴史的仮名遣い
現代仮名遣い
ローマ字


ローマ字は、ラテン文字とも呼ばれ、表音文字
の一種であって、音素文字に属する。
日本にローマ字が伝えられたのは室町末期で
あって、日本に来朝した西洋人がもたらしたので
ある。
ローマ字の綴り方


①標準式(俗に「ヘボン式」)
②田中館愛橘の「日本式」(50音図に基づいた)
第3章 語彙
一 語彙とは何か





国語学や日本語学といった言葉に関する学問にお
いては、「語彙とは語の集合である」と規定されるこ
とが多い。
語彙とは、ある基準、ないし観点によって一定の範
囲を限った際に、その範囲内に存する語の総体を
指す名称である。
「『万葉集』の語彙」「幼児の使用語彙」
ある集合としての語彙を対象とし、それを様々な観
点から分析、研究する分野が語彙論である。
語とは一つ一つの個々の存在を指すのに対して、
語彙とはあくまでも一まとまりとしての存在を指す。
使用語彙と理解語彙



使用語彙というのは、ある個人が日常の生活に
おいて実際に話したり書いたりする時に使う語
の総体を指す(表現語彙ともいう)
理解語彙とは実際に使うことはないが読んだり
聞いたりして意味の分かる語の総体を指す。
もちろん、理解語彙のほうが使用語彙よりも大き
い。
二 語彙の量的側面

語彙の量的なあり方を統計的な手法によって明
らかにする語彙論の分野を計量語彙論という。
(一)語彙調査




ある語彙の量的な構成や、そこにおける言語使用の状
況を明らかにするために、どういった語がどれくらい、ま
たどのように使われているかを調査することを語彙調査
という。
全数調査かサンプリング調査か(サンプルが母集団の
状態をどれだけ忠実に反映しているかが問題となる。)
全数調査は文学作品を対象とする調査の場合。
サンプリング調査は新聞や雑誌などを対象とした大規模
な調査。
語彙調査に関するいくつかの概念




延べ語数:同じ語が何回出てきてもその度ごとに一語と
して数えていく数え方で、このようにして得られた語数。
異なり語数:同じ語は何回出てきても一語としてしか数え
ない数え方。
調査で得られた語の使用回数を各語の使用頻度(また
は使用度数)といい、全体の中でのその大小順位を頻度
順位(または度数順位)という。
使用率=その語の使用頻度 ∗ 100
全体の延べ語数
(二)基本語彙と基礎語彙


基本語彙:語の重要性は必ずしも使用率だけで決まる
わけではなく、その他に、どれくらい多くの種類の資料に
現れるという使用範囲の問題もある。そういうわけで、実
際には、使用率と使用範囲の双方を考慮に入れ、どの
資料においても良く使われる一定数の語を選び、その言
語における基本的な語彙と考える。
基礎語彙:基本語彙と似た概念。その言語を使って言語
生活を営む上において必要不可欠と考えられる語のグ
ループを指す。基礎語彙は特定の個人が主観的、演繹
的に選び出す場合が多く、必ずしもよく使われる語とは
限らない。
三 語彙の分類


語彙が決まれば、それを一定の観点から分類す
ることが可能になる。
日本語の語彙全体というような大きな語彙を分
類しようとする際に、普通は1.意味、2.出自、
3.語構成、4.文法機能、の四つが重要なもの
としてよく利用されている。
(一)意味による分類



意味による語彙の分類ということについては、意味の捉
え方との関わりで二つの観点から考えられる。
ひとつは、概念の体系を演繹的に考え、日本語の語彙
を構成する一つ一つの語をその概念体系のどこかの項
目に所属させることによって、語彙の分類を行おうとする
もの。
もう一つは、個々の語の意味の間にどのような関係が成
立するかということを考え、それに従って、語彙の中に幾
つかの類型化された意味的関係の型を設定し、それに
したがって語彙の分類を行おうとするもの。
概念の体系を演繹的に考える分類


この種のものとしては、1852年にロジェーが作成したThesaurus of
English Words and Phrasesが有名である。以後、体系的な意味分類によ
る類義語集のことを一般にシソーラスという名称で呼ぶ。
日本では、ロジェーのシソーラスにならった語彙分類の試みが戦前から行
われていたが、現在、もっとも有名なのは、1964年に国立国語研究所が
編纂した『分類語彙表』である。この本では、日本語の語彙約32,600語
を、次に示すように大きく4類、11項目(全分類項目は798項目)に分類。
1からだの類
2用の類
3相の類
1.1抽象的関係
1.2人間活動の主体
1.3人間活動ー精神および行為
1.4生産物および用具部品
1.5自然物および自然現象
2.1抽象的関係
2.1抽象的関係
2.3精神および行為
2.3精神および行為
2.5自然現象
2.5自然現象
4その
他
個々の語の意味の間における関係を考える
分類



1類義関係
2対義関係
3包摂関係
1 類義関係


ある語Aの意味と別のある語Bの意味とがよく似
ているとき、これらはお互いに類義の関係にあ
ると言い、語Aと語Bとを類義語と呼ぶ。
たとえば、「辞書」と「辞典」、「美しい」と「きれい」
など。
2 対義関係

ある語Aの意味と別のある語Bの意味とが、いく
つかの点について共通しながらもある点につい
ては対立した関係にある場合に両者は対義関
係にあると言い、語A、Bをお互いに対義語と呼
ぶ。代表的なものは次の3種である。
① 相補関係


ある概念領域を2分する関係にあるもので、一
方を否定すればもう一方が成立する。
例えば、「男」と「女」、「表」と「裏」、「合格」と「落
第」
② 相対関係



程度性を持つ語の組で、両者の間に明確な区
別がなく、中間段階を介して両者が連続してい
る関係である。
例えば、「高い」と「低い」、「広い」と「狭い」、「重
い」と「軽い」
対義関係にある形容詞の大部分はこの関係に
属する。この関係の特徴としては、一方を否定し
ても必ずしも他方を意味しないという点が挙げら
れる。(「高くない」は「低い」とは限らない)
③ 視点に基づく対義関係




次の二つの場合に分けられる。
A 「上がり坂」と「下り坂」、「入り口」と「出口」、
「行
く」と「来る」、「買う」と「売る」etc.
B 「親」と「子」、「先生」と「生徒」、「医者」と「患者」etc.
Aは、同一事象において双方がそれぞれ対立する視点
から名づけられることによって成立する対の場合であり、
Bは、お互いに他の前提として成立している関係におい
て、双方がそれぞれの立場から名づけられることによっ
て成立する対の場合である。
対義関係についての補足

対義関係の3種について見てきたが、対義関係
については、必ずしも一語対一語の関係に限定
ぜず、「脱ぐ」に対する「(服を)着る」「(ズボンを)
はく」、「(帽子を)かぶる」、のような一対多の関
係や「春・夏・秋・冬」のようなワンセットのものも
含めて考えることがある。
3 包摂(ほうせつ)関係


ある語Bの意味範囲が
別の語Aの意味範囲に
完全に包まれてしまう場
合に両者の間に包摂関
係が成立すると言い、語
Aを語Bの上位語、語B
を語Aの下位語と呼ぶ。
例えば、「木」は「松」の
上位語で「松」は「木」の
下位語。
具道
...
...
食器
ちゃわん
楽器
コップ
...
笛
たいこ
(二) 出自による分類


一般に、語彙をその出自(出ところ、身元)によって分類
したものを語種と呼ぶ。
日本語の語彙の語種構成は次のようになっている。

固有語..
単種

借用語



和語 ex. やま、かわ、はな
漢語 ex.山河、人間、運動
語
複種 ......
外来語 ex.パン、ビール、テレビ
混種語 ex.古本、窓ガラス、スピード計
語種構成の説明


和語とは、固有の日本語、およびそれのみにて作られた語を指し、大和言葉とも呼ば
れる。
漢語は、古く中国語から借用した語、および日本で作られた字音後を指す。後者は
和製漢語とも呼ばれる。
①中世以降、和語を漢字で表記しそれを音読することによって成立したもの。(「ひの
こと」→「火事(ひのこと)」→「火事(かじ)」。
②近世後期、オランダ語や英語を翻訳する際に作られたもの(「神経」「哲学」「地球」
「科学」など)
外来語は、西洋語からの借用語がほとんどで、、その点で洋語とも言う。日本に外来
語が最初に入ってきたのは、中世末から近世初期にかけてで、キリスト教の宣教師
や南蛮貿易を介して、ポルトガル語やスペイン語から多くの語が流入した。例:キリシ
タン、タバコ
混種語は語種の異なる語の組み合わせによってできている語である。組み合わせの
基本としては、以下の3通りがある。
①<和語+漢語>例:相手役、新聞種
②<漢語+外来語>例:胃カメラ、ドラフト制度
③<和語+外来語>例:歯ブラシ、ネクタイ止め
語種の量的構成


語種の量的構成(書き言葉)
については、左の図に示す国
立国語研究所による調査結果
(『現代雑誌90種の用語用字
Ⅲ 分析』)が有名。
異なり語数においては漢語の
使われる比率が最も高い。延
べ語数になると、漢語と和語
の比率が逆転する。外来語も
異なり語数の場合に比べて述
べ語数の場合の方が比率が
小さくなっていることが分かる。
(三) 語構成による分類

語の中には、「山」「川」等、それ以上意味を有する部分
に分けられないものと「山裾」「川岸」のように、意味を有
するより小さい部分に分けられるものとがある。語彙を
構成する個々の語について、それ以上意味を有する部
分に分けられるかどうか、分けられる場合にはどのよう
な性格の構成要素に分けることができるのか、そして、
それらの構成要素の間にはどのような関係が見られる
のか、といった点について考えることができるが、こう
いった類の問題を語構成と言い、それについて考える分
野を語構成論と呼ぶ。
語構成論について




語構成論においては、語の構成要素を一般に形態素と呼ぶ。「山ー
裾」「川ー岸」のハイフンで区切られた部分が形態素である。
形態素は、さらに語を構成する際の働きに従って、語基と接辞とに
大きく分けられえる。
語基というのは、語を構成する際に意味的な基幹部分となるもので
あり、接辞というのは、語基の前や後ろに付いて語基の意味を補佐
したり、文法的な機能を担ったりするものである。
接辞は語基の前に付く接頭辞と後ろに付く接尾辞とにわかれる。接
頭辞は語基に補助的な意味を添えるのに対し、接尾辞は意味ととも
に語基の品詞性を決定する役割をも担うことがる。
語構成の観点から語を分類

「海」が語であるか語基であるか観点によって決まる。
四 位相

言語が、その使用者の所属する社会集団や、そ
れを使用する場面の違いに応じて、同じことを表
現するに際して様々な形をとることを言語の位
相と言い、特定の位相において使用される語を
位相語と呼ぶ。位相という現象は、音韻、文法、
語彙の各分野において見られるが、特に語彙の
面において著しいので、語彙の問題として扱わ
れることが多い。
位相の種類







1表現主体による違い
①居住地域による差(方言の問題)
②性による差(男性語と女性語(婦人語))
③年齢による差(幼児語/成人語/老人語)
④職業による差(職業語)ー学生語・軍隊語・宮廷語・盗
賊語など。
2表現様式による違い
改まった場面かくだけた場面か。上下関係・親疎関係を
どう捉えているか、などによって生じる相違を問題とする。
文体論、敬語論などで取り扱われているほうが多い。
第四章 文法
一 文法について



(一)言葉には文法がある。
(二)文法と文法論
(三)文法の単位
(一)言葉には文法がある


文は分けられる要素を組み合わせて作られる。
しかし、要素をただ寄せ集めれば文になるという
わけではない。「飲むはを私水」とすることは許さ
れない。
文を構成するとき、私たちは無意識にではある
が、決まりに従って要素を配列している。その決
まり、そしてその決まりをもたらす文の構造の仕
組みを文法という。
(二) 文法と文法論


「日本語の文法」は日本語による言語活動その
ものの中に潜んでいるものであり、生きて働いて
いるものである。それを知るためには、日本語の
様々な使われ方を観察して整理したり、母語で
ある日本語を自分がどのように使っているかを
反省したりして法則性を探り出す。
以上のように探り出された法則性を理論的にま
とめたものを文法論と呼ぶ。文法論を文法とも
呼んでいる。
日本語文法論の概略




山田孝雄
橋本進吉
時枝誠記
以下、3者の文法論の中でも、きわめて特徴的
な文法用語を挙げて紹介する。
山田文法




山田は文成立の条件として、「述体句」における「述格」用言の存在
(「彼は走る」における「走る」の存在)「喚体句」における「呼格」体言
の存在(「きれいな花!」における「花」の存在)をあげた。
文として「述体句」のみを考えてみる。「述格」とは用言が「陳述」の
機能を果たすところの「位格」とされる。この点、「述格」と「陳述」の
差が曖昧である。
用言は実質用言と形式用言に分けられ、前者は属性と陳述を、後
者は陳述のみを表すとする。つまり、用言の本質は「陳述」を表すこ
とになる。
助動詞を「複語尾」として「位格」に立つものとする。しかし、こうする
と「花が咲く」と「花が咲いたらしい」とでは、ともに「述格」以上細か
な分析はできなくなる。
橋本文法



橋本文法は「文節文法」と言われるとおり、「文
節」重視の文法論である。
「文節」とは文を実際の言語としてできるだけ区
切ったもっとも短い単位であり、これに基づいて、
語を詞(単独で文節を構成するもの)と辞(常に
他の語に伴いこれとともに文節を作るもの)に2
大分する。
文節には「続く文節」と「切れる文節(断止文
節)」。


一文節に詞は必ず一語のみ存在し、辞は任意
である。
文は最高次の連文節であるとか、連文節の階層
的構造を認めるなど構文論的な面もある。断止
文節の解明はされていない。
時枝文法



時枝はソシュールの言語理論に反対し、言語は表現行為あるいは
理解行為それ自体であり、それ以外のものではないという言語過程
説を立てて、単語を「概念過程を含む形式=詞」、「概念過程を含ま
ない形式=辞」と2分する。
文は必ず詞が辞によって包み込まれるような「入れ子型構造」をとる
とし、文成立は必ず辞によるものとした。
しかし、「犬が走るか」は犬が走るかというように分析し、助詞「か」
に陳述を認めることになり、不都合である。「犬が走る」は犬が走る
■と「零記号」の辞を設定するのだから、これは犬が走る■かとした
法が良い。用言に陳述を認めた山田文法のほうがこの点当たって
いよう。
(三) 文法の単位




私たちは、言語を使って思いを表し、情報を相手に伝えている。こう
した言語活動を構成する単位は何かと言えば、文である。文は、人
間の言語活動に関わるさまざまな働きを持っていると考えられる。
そうした面を考慮しつつ、一つ一つのまとまりとしての文の構造を解
明するのが現在の文法論の主な課題である。
文の構造を考えるために、文よりも小さな単位が設定される。一般
的には、文よりも小さく、文を直接構成する単位は、文の成分と呼ば
れる。
文の成分が文の意味的な構造をも重視する単位であるのに対して、
文節という単位は、文を音の切れ目が置けるところで分割して得ら
れることからも分かるように、文を音声的に実現させるための外形
的な単位である。
文の成分よりも一つ下のレベルにあって、文の成分を構成する単位
を語(単語)という。このほかに、形態素と呼ばれる単位がある。
二 文について



(一)文の成立
(二)文の構造
(三)文の種類
(一) 文の成立


一つの文には一つのまとまった意味内容がある。
それは、文の統一性と呼ばれている。しかし、意
味内容に統一性があってもそれだけでは文には
なれない。一つ一つが形の上で独立して使われ
て、初めて文になる。これを文の完結性という。
統一性と完結性を備えていれば、「海!」「雪!」
のように直感的に一つの語だけで表現されてい
ても文である。
(二) 文の構造

文の構造を研究する分野は構文論と呼ばれる。
文の構造の階層性



例として次の文の構造を考えてみよう。
どうやら留学生のマイクがアメリカへ帰るみたい
だよ。
この文の骨格をなしているのは、[留学生のマイ
クがアメリカに帰る]ということである。そして、そ
のことに対して話してが[どうやら~みたいだ]と
いう判断をしている。さらに、[~よ]によって、そ
れらの聞き手への伝え方も表現されている。



このように、文は事態や属性がただ単に描写されている
だけでなく、その事態や属性に対する話しての判断や、
伝達するときの聞き手への伝え方も表現されている。
その連結順序は、客体的な事柄を表すものから主体的
な心の作用を表すものへという順になっている。
重層的な構造を持っていると考えられる。
(三)文の種類




文にもいろいろな種類がある。
1主・述関係からの分類
2表現の面からの分類
3構造の面からの分類
主・述関係からの分類






単文(主・述の関係が一回)
例:バスが来た。風が強い。
複文(文の中に節を含む)
例:太郎が捕まえて来た亀が池で泳いでいる。
重文(主・述の関係が二つ以上ある)
例:一組からは鈴木君が立候補し、二組からは
渡辺君が立候補した。
表現の面から




平述文(言い切りの文)
疑問文(問いかけの文)
命令文
感動文
構造の面から



述語文
独立語文
前者は補充成分を受けてまとめる成分(統括成
分)があるので統括構文とも呼ばれる。後者は
無統括構文である。
三、述語の表す文法的な概念について

述語は文の中心的な要素である。そこにはさま
ざまな文法的な概念が集中している。それらは、
ヴォイス、アスペクト、テンス、モダリティ(ムード)
と呼ばれる四つの領域に分けて論じられること
が多い。
(一) ヴォイス





動詞で表現される事態は、それをどう把握する
かによって述語の形が決まり、補充成分の格も
決まる。このような相関関係の概念をヴォイス
(態)と呼んでいる。
1受動態
2可能態
3自発態
4使役態
(二)アスペクト、テンス


アスペクト(相)とは、その出来事を、発生の段階
なのか、途中の段階なのか、もう終了した段階
なのかというように、時間的な段階としてとらえ、
表現するシステムのことである。
テンス(時制)とは、その出来事や状態の時間的
な位置づけを表現するシステムのことである。
(三) モダリティ(ムード)


話し手は事態をどのようにとらえ、どのような文
として述べるのか。そうした話し手の判断や叙述
のしかた、言い換えれば文における主観的・主
体的な側面は、モダリティ(法性)あるいはムード
(法)と呼ばれている。
階層的に見ると、モダリティには二つの異なるも
のが含まれている。一つは文の伝達のあり方に
関わるものであり、もう一つは、話し手の判断に
関わるものである。
第5章 敬語
一 待遇表現
(一) 待遇行動

対人関係において私たちは普通、相手によって
応対の仕方(待遇・処遇)を変える。少し乱暴な
言い方をすると、相手によって扱いを変えるわけ
だが、そういう対人関係での行動を待遇行動と
言う。
(二) 待遇表現とは






相手の待遇(処遇・扱い)にかかわる言語表現のことを、
待遇表現と言う。例えば、<出発する>という同じ内容
を表現するのに、いくつかの言い方が考えられる。
①ご出発になる。ご出発になります。
②出発なさる。出発なさいます。
③出発する。出発します。
④出発しやがる。
待遇表現とは、このように、同じ内容を表現するのに、話
題の人物・聞き手・場面などを配慮して、それに応じた表
現を使い分けるーそのような言語表現を言うのである。
(三) 待遇表現の種類

待遇表現は次の2種類に分けられる。

A 相手を高く待遇する(敬意を表す)表現

B 相手を低く待遇する(見下す気持ちを表す)
表現
ご出発になる ー 出発する - 出発しやがる
(高く待遇)
(中立の待遇) (低く待遇)


(四) 美化語

待遇表現には、もう一つ、前述のものとは性質
の違った表現がある。表現する物事に「お」や
「ご」をつける表現がそれで、これらは一般的に
「美化語」と呼ばれている。

美化語は本来、自分の言葉づかいの上品さ
を表すという、話し手自身のための表現である。
その点で、敬語が話題の人物や聞き手に対する
配慮に基づくのとは、基本的に異なるのである。
二 敬語とその種類
(一) 敬語とは

敬語とは、同じ内容を表現するのに、表現の仕
方を変えることによって敬意を表す。ーそのため
の専用の表現、ということになる。
(二) 敬語の種類

言語表現は普通、話し手が聞き手に向かって何らかの
話題について話すことで成立する。そしてそれらは、話し
手と聞き手とで構成される「対話の場」と、その対話の
場で話し手から聞き手へ伝えられる「伝達素材としての
話題」という、次元を異にする2種類に分かれる。

敬語も、その性質に従って、「対話の場」での「聞き手
に対する敬語」と「話題の中の人物に対する敬
語」とに大別する。






話題の中の人物に関係する敬語には、従来の3分法で
の尊敬語と謙譲語が含まれる。たとえば、
来賓の方々が京都へご出発になる。
聞き手に対する敬語は、例えば、
僕(あなた、田中さん)はとても健康です。
世界経済は徐々に安定しつつあります。
対話の場で話し手を高く待遇する、丁寧さを表す表現で
ある。したがって、丁寧語の「です」も「ます」も、話題の
人物や事柄とは何ら関係しない。

話題の人物に対する敬語



尊敬語
謙譲語
敬語
聞き手に対する敬語ーーー 丁寧語
三 敬語の各種





(一)尊敬語:話し手が、話題の中の動作や状態
などの主を高く待遇する敬語である。
例えば、来賓の方々が京都へご出発する。
(二)謙譲語:話し手が動作主を低く待遇する敬
語である。
例えば、私が案内いたしましょう。
(三)丁寧語:対話の場で、話してが聞き手を高く
待遇する敬語である。(です、ます)
四、 敬語の使い分け

敬語の使い分けに関与する要因は、大別すると、
この人は目上の人だからとか、ここは改まった
場だからというような、外的・社会的な要因と、
話し手がその時どんな気持ちを持っているかと
言う、内的・心理的な要因とに分けられる。
(一) 外的要因






外的要因はおおよそ次のようなものがある。
1 人間関係(話し手と、聞き手や話題の中の人
物との関係)
A 上下関係
B 内・外の関係
C 親疎関係
2 場面(改まった場面かどうか、そこにどんな人
がいるか、など)
(二)内的要因



敬語をどう使うかは、最終的には話し手自身が
決定する。
普通には外的要因に沿って使い分けるが、相で
ない場合もある。たとえば、社会的地位の高い
人のことを話す時でも、その人を嫌っているよう
な場合。
社長のやつ、こんなことを言いやがった。
第6章 文章・文体
一 「文章」と「文体」の定義と分類
「文章」とは


日常生活の中で、ある目的のもとに文字によっ
て書き記された、完結した内容を表す一続きの
言語表現を「文章」と呼ぶ。
最大言語単位である「文章」は、その内部に「段
(落)・文・節・句・文節・語・音(素)」などの単位を
すべて含んでおり、大小様々な意味のまとまり
が複雑に重なり合い、一つの完全な意味のまと
まりをなしている。


単語から文を組み立てる法則が「構文論」、文か
ら文章を構成する規則が「文章論」である。
時枝誠記『日本文法口語論』(1950)において、
「それ自身完結した統一ある言語表現」である文
章を語や文とは異なる統一原理を持つ単位と認
め、「語論」「文論」と並ぶ「文章論」という研究部
門を提唱した。以来、日本語学の分野では、文
字資料を中心に、文章の性質と構造に関する分
析が進められてきた。


近年は、言語学の分野においても、音声表現の最大の
単位である「談話(discourse)」や「テクスト(test)」を対象
とした談話分析・テクスト言語学・語用論などの研究が盛
んになっている。
「文章」には、談話の忠実な文字化に近いものや、その
一部に他の談話や文章からの引用表現を含む複合文
脈をもつ、談話との境界が曖昧なものがある。一方、「談
話」にも、「文章」と同じく、単一文脈を持つ単独の話し手
による「独話」と、複数の参加者による複合文脈を有する
「対話」や「会話」等の種類がある。
文章論と文体論


文章論は文章一般の本質の解明を目的とするが、
個々の具体的な文章例の分析から一般的な法則を
導き出すことは難しいとも言われている。古今東西
のあらゆる種類の文章の性質・構造を説明すること
が、記述言語学としての文章論の主要な課題であ
る。
一方、文体論は、特定の種類や時代に特徴的な文
章の様式の類型的側面と、文学作品などが主な対
象となる作家の文章の個別的側面における表現の
特殊性を分析するものである。
文章論と文体論との違い


応用言語学の一種とされる文体論の前提には、
文章一般の性質・構造の解明が期待されている
が、実際には、文章論に一歩先行する形で文体
論の研究が進められている。
文章論と文体論の違いは、文章の一般的な性
質・構造の解明と個々の文章の種々の側面に
おける表現特性の記述という点にあるため、両
者は相互に補完しあうべき分野であると言えよう。
(二) 文章の分類方法

現代日本語の文章には多種多様なものがある
が、主として「構造面」と「性質面」から分類され
る。
構造面からの分類





「単文章」と「複文章」
「単文章」とは、一人の書き手の一回の表現行為の
中で生成された単一文脈を持つ文章のことである。
「複文章」とは、一つの文章の中に他の文章を含ん
だ複合文脈をもつ比較的複雑な文章をさしている。
単文章には、詩歌・小説・手紙・レポート・論文があ
る。
複文章には、歌集・追悼文章・論文集・観察記録な
どがある。
構成形式による分類


「序論・本論・結論」
起承転結などの文章の運びの型の種類
性質面からの分類

性質面では、文章の目的や機能の違いによる
分類や、文章の題材と趣意のあり方による分類
などがある。文章の伝達対象(受け手)と目的の
違いから、文章を次の3種類に分ける方法もあ
る。



第1類 特定の相手に向けた文章ー通信(礼
状)・申告(休暇届/陳情書)報告(信用調査の報
告書)
第2類 不特定の相手に向けた文章ー解説(新
刊紹介)・報知(新聞報道記事)・表出(随筆/小
説/詩/俳句)
第3類 後日の特定・不特定の相手に向けた文
章ー記録(日記・研究メモ)の文章(市川1978)
二 文章論の課題と方法
(一) 文章論の課題と文章の成分








文章論の主な研究課題として、次の7項目が挙げられる。(市川19
78)
1 文章とは何か。(文章の本質と成立条件)
2 文章はどのように分類されるか。
3 文と文は、どのような語句で関係付けられるか。(文脈展開形態)
4 文と文とのつながり方には、どんな種類があるか。(文の連接関
係の類型)
5 段落はどのようにして成立するか。
6 段落と段落とのつながり方には、どんな類型があるか。(段の統
括関係の類型)
7 文章はどのように構成されるか。(文章の構成方法・構造類型)
(二) 文章構造の分析方法


長野賢(1986)の「文法的文章論」では、「文の
連接論」「文の連鎖論」「文の統括論」という3種
の文章構造の分析観点が設けられる。
このうち、「主語の連鎖」「陳述の連鎖」「主要語
句の連鎖」「文の連鎖」からなる「分の連鎖関係」
は、段の中心的な内容(主題)を表す「文の統括
関係」の中に含めて扱う。
1 文の連接関係と文のつながり

接続表現を主な手がかりとする市川(1978)の
「文の連接関係」には、前後する2文の間に特定
の接続表現があるか、または、接続表現の想定
が可能かどうかによる7種の「接続型」と、接続
表現の想定が不可能な「連鎖型」とがある。
2 文の統括関係と段のまとまり


文のまとまりを「段」として認定する「文の統括関
係」は、接続表現だけでなく、「指示表現・提題表
現・叙述表現・反復表現・省略表現」などの文脈
展開形態も加えた総合的な観点として分析され
る。
段の中心的な内容(小主題)を簡潔に表す「中
心文」の形態的・機能的な特徴の把握が重要な
課題となる。
3 連段の統括関係と文章型の分類


個々の段の中心文はそれぞれ統括機能を有す
るが、その統括は相対的な強弱の度合いが異
なる。統括力のより強い中心文を持つ段が、統
括力のより弱い中心文を持つ他の段をまとめて、
一つの「連段」としての複数の段の統合体を成
立させる。
連段の数や統括力の強さは、個々の文章により
異なるが、一般に、より複雑な内容を表すほど、
複雑な連段の統括関係を形成すると予想される。
三 文体論の課題と方法
(一) 文体の定義と文体論の課題


「文体」の概念規定については、文体を論じる分
野や目的、各人の文体観の相違によって諸説あ
るが、音声資料の談話にも、当然、「スタイル」の
違いが認められる。
中村明(1993)は「文体とは、表現主体によって
開かれた文章が、受容主体の参加によって展開
する過程で、異質性としての印象・効果をはたす
時に、その動力となった作品形成上の言語的な
性格の統合である。」と定義する。
文体の分析観点




(1)文体論の対象は、文章全体、つまり一つの
言語作品である。
(2)文体論は、文字言語作品と音声言語作品の
文体的特徴を究明する。
(3)文体論は、文学作品から非文学作品までの
連続的な文章の性格を対象とする。
(4)作品の優劣は、文体の質にはかかわるが、
文体の有無にはかかわらない。



(5)文章の言語的性格が文体印象の面に影響して
はじめて文体特徴となる。
(6)文体論は、音声学・音韻論・形態論・構文論・意
味論・連語論・文法論・文章論・文字論などを言語学
的基礎とし、また、文芸学・修辞学・表現論・美学・心
理学なども援用して成立する応用言語学である。
(7)完全な同義性は無理でも、何らかの共通性を基
準とした対比が、文体分析過程における有効な作
業手順となる。




(8)対比的な視点がまったくない形で、文体が
問題になることはない。
(9)同一形式の文章は常に同一の文体を有す
る。
(10)別の文章が同じ文体を持つことはありえな
い。
(11)ことばへの反映が予想される事柄の選択・
配列上の特性も文体論に含まれる。


(12)文体分析は、文章の言語的な在り方を押
さえるところからスタートする。
(13)文体は、作品を離れた作者の内部に存在
するとはいえない。
(二) 文体特性の分析方法
1 文体の計量的分析方法



文体は、特定の時代・ジャンル・個人の文章の示す
表現特性だとすると、言語形式面の分析が必要に
なる。
文体論にはいろいろな方法があるが、計量的分析
で取り上げられる項目として、「文長・文末表現・品
詞構成・漢語率・比喩・改行・接続詞」などが挙げら
れる。
ある文章から読み手が受ける「文体印象」を、種々
の「文体因子」の出現傾向から調査し、顕著に認め
られる言語形式の特徴として説明するのが、基本的
な方法になる。
2 個別的文体と類型的文体の関連



山口仲美は、『文体の世界』(1991)で、「文体
論の活性化に不可欠の今日的課題」を5点あげ、
個別的文体研究の基礎たる類型的文体論の重
要性を指摘している。
A 文章と筆者の性格との間のダイナミックな関
係の解明
B 作家や作品の個別的な文章特性を抽出する
有効な方法の開発




C 文章の類型的側面(性別・ジャンル別・年齢別・
職業別等)の分析
D 古典の作者や成立過程の推定方法の検討
E 「文体」を読者との関係でとらえる視点の導入の
必要性
ABは個別的文体、CDは類型的文体の課題である
が、両者の相互交渉を前提としている。Eの読者の
文体印象を認知する観点を導入するための具体的
な分析方法については言及されていない。
3 類型的文体と文章の様式

類型的文体に関しては、「漢文体・和化漢文体・
漢文訓読体・宣命体・和文体・雅文体・和漢混淆
体・候文体・口語体」などの文章の様式の問題と
して、従来は、文章史や国語史の領域で扱われ
てきたが、文体の類型的側面と個別的側面を
「本来・不可欠なもの」として見なすと、類型的文
体論は前述の文章の分類に重なる課題として位
置づけられる。
第7章 共通語・方言



方言は人間が言語形成期(5~15歳)に獲得した母
語であり、私たちが最も自然に、かつ流暢に話すこ
とのできる言語である。
方言に対立する概念が共通語(common
language)である。共通語は、地域を越えて広く用い
られる言語を指す。
共通語とは現実に存在する多数の地域言語の一つ
であって、共通語という別個の言語が存在するわけ
ではない。日本の場合、東京で話されている言葉、
すなわち、東京方言が共通語の地位を占めている
といってよい。
新方言


方言は衰退するばかりでなく、若者を中心に新
しい方言(俚言)も生まれている。井上忠雄は
「もっぱら若者が用いる非共通語形で、若者自
身が共通語ではないと意識している語形」を新
方言と呼んだ。
首都圏における新方言には、ウザッタイ(不快だ。
面倒だ)、ケバイ(化粧が濃い)、チャメシ(日常
茶飯事)など、実に多様な新方言が存在するこ
とが明らかにされている。
二 方言の分布
(一) 東西対立分布

上の図は「塩辛い」の地図である。東日本は
ショッパイ、西日本はカライという表現が優勢で
ある。ショッパイとカライの境界線は、ほぼ、新潟
と富山、長野と岐阜、静岡と愛知の県境付近に
ある。この線は明治期の国語調査委員会が『口
語法調査報告書』(明治39年・1906)の中であ
きらかにしたものである。
(二) 周圏分布


方言の周圏分布に注目し、これに解釈を与えたの
は柳田国男の「方言周圏論」である。
柳田は、その著『蝸牛考』(昭和5年・1930)の中で、
主として通信調査によって収集した全国の蝸牛
(カタツムリ)の方言をナメクジ系(A)・ツブリ系
(B)・カタツムリ系(C)・マイマイ系(D)デデムシ系
(E)の5類その他に分類し、京都を中心に分布す
るデデムシ(E)を中に置いて、各類の語が、A-B
-C-D-E-D-C-B-Aの分布配列をなして
いると判断した。
三 方言の現状と将来


第2次大戦以後、方言の共通語化が急速に進
みつつあることは、国立国語研究所などの調査
で明らかである。
かつてはアクセントだけは共通語しないと言わ
れてきたが、テレビ世代ではアクセントの共通語
化も進んでいる。
方言の将来

これまでの方言の変化に関する調査は、方言の
共通語化にばかり目が向き、方言と共通語の使い
分けの実態や、新しい方言の誕生にはあまり注意
を払ってこなかった。今後、各地でこの面の調査
が進むにつれて、地域社会の言語生活の実態が
より明らかになり、伝統的方言のどの部分が消え、
どの部分が継承されていくのか、また、新しい方
言がどのように生まれて広がっていくのかという、
方言の将来についての見通しも得られよう。