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日本体育学会第48回大会
バイオメカニクス専門分科会
キーノートレクチャー
バイオメカニクスにおける
コンピュータシミュレーション
筑波大学体育科学系
藤 井 範 久
発表の概要
1.コンピュータシミュレーションとは?
2.コンピュータシミュレーション手法
−
剛体リンクモデルを例にして−
3.コンピュータシミュレーションを
用い
たバイオメカニクス的研究
4.近年のコンピュータシミュレーション を
用いた研究の動向
5.現在のコンピュータシミュレーション の
課題と今後の可能性
Computer Simulation
◎ コンピュータシミュレーション
× コンピュータシュミレーション
? コンピュータ趣味レーション
コンピュータシミュレーションとは
?
シミュレーションとは?
the presentation of the dynamic behavior of
the system by moving it from state to state in
accordance with well-defined operating rules
Pritsker, 1979
well-defined operating rulesとは?
 実体のあるもの:物理モデル
自動車の衝突実験やスキージャンプの
風洞実験に用いる人体のダミーモデル,
ロボット
 実体のないもの:数学モデル
身体部分の運動方程式や筋収縮の特
性方程式など,シミュレーションの対象を
数式によって表現したもの
物理モデルと数学モデル
物理モデル
数学モデル
長谷川,1997
シミュレーションの目的
 生体内力を推定する
 運動の力学的原則を理解する
 身体の動作基準を推定する
 最適動作を究明する
 新しいスポーツ技術を開発し,競技成績
を向上させる
 スポーツ用具を開発する
 その他
阿江,1989
シミュレーションの流れ
Miller, 1974; Vaughan, 1984
コンピュータ
シミュレーションの利点
 危険な実験を被験者に強いる必要がなく安
全
 様々な条件でのシミュレーションを容易に実
行可能
 最適動作の推定が可能
 物理モデルを作成することに比べて安価
シミュレーションでは二関節筋を
単関節筋に置き換えることも可能
コンピュータ
シミュレーションの利点
 危険な実験を被験者に強いる必要がなく安
全
 様々な条件でのシミュレーションを容易に実
行可能
 最適動作の推定が可能
 物理モデルを作成することに比べて安価
コンピュータ
シミュレーションの欠点
 モデルによって結果が異なる可能性があ
る
 妥当性の検証が困難
 シミュレーション結果を実践に活かすのが
困難
 高度な数学的知識が必要
コンピュータシミュレーションの
モデルによる分類
 質点モデルによるシミュレーション
 剛体リンクモデルによるシミュレーション
 筋骨格モデルによるシミュレーション
 有限要素モデルによるシミュレーション
 その他のモデルによるシミュレーション
コンピュータシミュレーションの
計算手法による分類
 逆動力学的手法によるシミュレーション
 順動力学的手法によるシミュレーション
 有限要素法によるシミュレーション
 その他の手法によるシミュレーション
コンピュータシミュレーション手法
−剛体リンクモデルを例にして−
剛体リンクモデルとは?
 身体をいくつかの関節で分割し,それぞれの
身体部分を剛体と仮定したもの
 運動中に剛体要素の質量分布は変化しない
 剛体要素を能動的に動かすのは関節トルク
剛体リンクモデルによる
シミュレーション
 運動の変化が関節トルクなどに与える影響を,
逆動力学問題として明らかにする
 角運動量保存則をもとに特定の部位の運動の
変化が全身の運動に与える影響を明らかにす
る
 身体要素の運動方程式を順動力学問題として
解くことにより身体の運動を推定する
ニュートンかラグランジェか?
ニュートンの運動方程式
利点:運動方程式が簡潔
欠点:関節力も未知数→新たな制約式(連結方
程式)が必要
ラグランジェ運動方程式
利点:連結方程式のような制約式が不要
欠点:運動方程式の導出が煩雑
ニュートンの運動方程式
T i,i+ 1
V i,i + 1
ai
V i,i -1
T i-1 ,i
i
-M i • g • j
T i-1 ,i
F i,i+ 1
i
F i-1 ,i
F i-1 ,i - F i,i+ 1 - M i • g • j = M i • a i
- T i,i+ 1 + V i,i-1  F i-1,i - V i,i+ 1  F i,i+ 1 = M irot
関節の連結方程式
関節の自由度(1自由度の例)
投動作の3次元剛体リンクモデル
剛体リンクモデル定義ファイルの例
9
節点数
3
要素数
2
関節数
1, 4, 5
剛体要素情報コード#1
3, 5, 6
剛体要素情報コード#2
19.7295, 1.77523, 1.05535 剛体要素質量
(略)
1, 2, 3
剛体要素接続情報コード#1
(略)
1, 1, 1, 2, 2, 3, 3 関節トルク情報#1
(略)
2, 3
関節自由度情報#1
(略)
投動作の3次元シミュレーション
*
ov er v iew
*
should er elb ow
w rist
w rist
*
should er
should er
elb ow
front al v iew
Experim et al
*
elb ow
lateral view
*
*
*
*
*
Co ndit io n 1
Co ndit io n 2
コンピュータシミュレーションを用いた
バイオメカニクス的研究
質点モデルによる
シミュレーション
1次元垂直跳モデル
Komor, 1981
垂直跳シミュレーション結果
Komor, 1981
剛体リンクモデルによる
シミュレーション
−角運動量保存則を用いて−
空中における身体運動の
シミュレーション
 身体重心は放物運動をする
 身体重心まわりの全身の角運動量は保
存される
 空中での姿勢(関節角度)の変化が全身
の動きに及ぼす影響を推定する
走高跳びのシミュレ
ーション
Dapena, 1981
筋骨格モデルによる
シミュレーション
キック動作の2次元筋骨格モデル
Hatze, 1976
筋収縮モデル
Hatze, 1976
キック動作の習熟過程
Hatze, 1976
走幅跳シミュレーション
Hatze, 1983
走幅跳の記録の変化
平均記録:6.58±0.17m
最高記録:6.96m
筋骨格モデルによるシミュレーション
3週間のトレーニング
平均記録:7.12m
Hatze, 1983
身体運動の制御に関する
シミュレーション
−歩行を例にして−
2次元神経筋骨格モデル
MLR
Ce n t r a l Pa t t e r n G e n e r a t o r
Ogihara, 1997
神経筋骨格モデルによる
歩行動作の学習過程
Ogihara, 1997
その他のコンピュータ
シミュレーションを用いた研究
 運動時の風や空気密度の影響
 疾走,ペダリング等におけるペース配分
 スポーツ用具(ゴルフクラブ等)
 筋制御のモデリング(サイズ原理)
 脊髄,血管,骨のモデリング
など,バイオメカニクス研究における様々な分野
でシミュレーションが用いられている
近年のコンピュータシミュレーション
を用いた研究の動向
International Symposium on Computer
Simulation in Biomechanics を通して
バイオメカニクス分野における
シミュレーション関連論文数の推移
( %) 6
5
4
3
2
1
0
'75
'80
'85
'90
Pub lish yea r
'95
Sports Discus
体育・スポーツ分野における
シミュレーション関連論文数の推移
( %) 0 .2 5
0 .2 0
0 .1 5
0 .1 0
0 .0 5
0
'75
'80
'85
'90
Pub lish yea r
'95
Sports Discus
VIth International Symposium on
Computer Simulation in Biomechanics
August 21-23, 1997 Tokyo
A Satellite Event to the XVIth ISB Congress
プレゼンテーションの様子
デモンストレーションの様子
近年のシミュレーションの傾向
 医療・リハビリテーション分野が増加
 競技スポーツ分野は減少傾向
 競技成績向上に直結するものはほとんど
ない
 身体運動の制御理論(例えば歩行)に注
目が集まる
 スポーツ(用具)工学分野が増加
身体運動に関するコンピュータ
シミュレーションの傾向
近年のシミュレーションの傾向
 医療・リハビリテーション分野が増加
 競技スポーツ分野は減少傾向
 競技成績向上に直結するものはほとんど
ない
 身体運動の制御理論(例えば歩行)に注
目が集まる
 スポーツ(用具)工学分野が増加
ゴルフヘッドとボールのインパクト
(株)アシックス
海外のスポーツ工学
近年のシミュレーション手法や
モデルに関する傾向
 筋骨格モデルや有限要素モデル
 筋収縮モデル:簡易な式を用いる
 最適化手法:GA法,SA法など局所解に
陥らないような工夫
 汎用ソフトウェアの利用が進む
n = nˆ˙
筋収縮方程式
r
w
m(n,r)r
d
r˙ = - nˆ˙z
(1+
w
)
2
-3
r +d
10 m(n,r) + (j / k2 c)
1 - exp{r 0 (x )(y - j )}
ˆ
y˙ = m(n)[cv - y ] + w zc n˙
- (a + w )m(n, r)j
r 0 (x)(1- exp -c n - d
+
{
}
È

ˆ

1
exp
(
)(
)
r
x
y
j
cv
{
}
0

j˙ = - m(n,r)j - w - Í m(n)j Á
- 1˜ - zc˙nˆ˙
Ëy + d
¯
r 0 (x )(exp c r + d - 1) 
ÍÎ

{
}
È1

Ï 1 Ï
¸ ¸
1
k(
)
x
e
x˙ = Í arcsin h - ln 
- a1  - 1/ 2 
SE
S ÍÎ a3



Ó a2 Ób2 [F / F + b1 k1 (x)]


Hatze, 1983
Hillの筋収縮方程式
(F + AF0 )(v + BVm ) = BF0Vm (1 + A)
Fh = (ActivationLevel)F
近年のシミュレーション手法や
モデルに関する傾向
 筋骨格モデルや有限要素モデル
 筋収縮モデル:簡易な式を用いる
 最適化手法:GA法,SA法など局所解に
陥らないような工夫
 汎用ソフトウェアの利用が進む
汎用ソフトウェアMATLAB5
SIMMのモデル
MusculoGraphics inc.
SIMM/Gaitによる地面反力推定
MusculoGraphics inc.
汎用ソフトウェアの利点
 プログラミング時間の短縮
 システムの信頼性向上
 ユーザーインターフェイスが充実
汎用ソフトウェアの欠点
 内部処理はブラックボックス
 目的に合わせてカスタマイズが必要
 独自の言語仕様
現在のコンピュータシミュレーショ
ンの課題と今後の可能性
今後シミュレーションを
適用すべき対象
 医療・リハビリテーション
 競技スポーツ(選手の類型化)
 スポーツ用具の開発
 生活の中のバイオメカニクス
 その他
医療・リハビリテーション関連
動物が骨格や筋の発達につれて歩き方を変
える様子を再現するシミュレーションシステム
の開発
怪我や病気による歩行障害からの回復を予
測可能
リハビリテーションに応用可能
慶応義塾大学 山崎研究室
GA法による歩行動作の学習過程
Hase, 1997
今後シミュレーションを
適用すべき対象
 医療・リハビリテーション
 競技スポーツ(選手の類型化)
 スポーツ用具の開発
 生活の中のバイオメカニクス
 その他
競技スポーツにおける
シミュレーションの利用環境
数学モデル
シミュレーション最
適化
研
究 最適動作
者
競技者
パフォーマンス
トレーニング
手段
バイオメ
カニクス
的分析
研
究
者
コーチ
Borysiewics, 1981
Angular velocity, rad/s
疾走速度と股関節伸展角速度
Angular velocity, rad/s
疾走速度と股関節伸展角速度
Knee torque,
N・m
Hip torque,
N・m
遊脚期後半の下肢関節トルク
スプリント走のシミュレーション
O r ig in a l
C o n d it io n 1
C o n d it io n 3
シミュレーション結果
−接地瞬間−
To e v el. ,
m /s
Orig inal
7 .7 5 3
Ang le, ra d
Hip
Knee
0 .6 8 4
0 .4 4 3
Ang ular vel., ra d/s
Hip
6 .5 9 7
Knee
5 .3 0 3
Cond it ion 1
7 .8 5 5 ↑ 0 .5 9 5 ↓ 0 .4 3 7 ↓ 7 .2 9 4 ↑ 5 .1 1 6 ↓
Co ndit io n 2
7 .7 3 8 ↓ 0 .6 4 3 ↓ 0 .3 8 6 ↓ 7 .9 5 7 ↑ 3 .4 8 6 ↓
Cond it ion 3
8 .0 2 5 ↑ 0 .7 4 4 ↑ 0 .7 5 5 ↑ 7 .9 6 2 ↑ 4 .5 3 6 ↓
Cond it ion 4
8 .1 3 6 ↑ 0 .7 1 3 ↑ 0 .5 4 2 ↑ 6 .1 8 5 ↓ 7 .3 3 9 ↑
ハードル走のスティックピクチャ
ハードル走のシミュレーション
今後シミュレーションを
適用すべき対象
 医療・リハビリテーション
 競技スポーツ(選手の類型化)
 スポーツ用具の開発
 生活の中のバイオメカニクス
 その他
スポーツ工学関連
使用する選手の
モデル
スポーツ用具の
モデル
統合
パフォーマンスの向上
スポーツ障害の予防
ルール・規格などの改正
シミュレーションの現在の課題
 モデル:どのようなモデルを用いるか?
 筋収縮モデル:モデルによってシミュレーショ
ン結果が異なる可能性がある
 最適化手法:GA法などを用いても大局的最
適解を得られるとは限らない
 運動決定基準や上位の制御機構との統合
 ユーザーインタフェイスの拡充
 教育面では,教科書が不足
モデルの複雑さ(詳細さ)と
計算時間
計算時間
モデルの複雑さ(詳細さ)
計算時間とフィードバック効果
フィード
バック効果
計算時間
モデルの複雑さ(詳細さ)と
妥当性
妥当性
モデルの複雑さ(詳細さ)
では,どのようなモデルを
使えばいいのか?
こたえ:Case by case
如何に妥当なモデリングをするかが
現在の最大の課題
シミュレーションの現在の課題
 モデル:どのようなモデルを用いるか?
 筋収縮モデル:モデルによってシミュレーショ
ン結果が異なる可能性がある
 最適化手法:GA法などを用いても大局的最
適解を得られるとは限らない
 運動決定基準や上位の制御機構との統合
 ユーザーインタフェイスの拡充
 教育面では,教科書が不足
垂直跳動作における二関節筋の機能
二関節筋を単関節筋に置き換えたモデルを
用いてシミュレーションを行った結果
Bobbert,
Pandy,
Fujii,
1988:跳躍高減少
1991:跳躍高増大
1993:跳躍高減少
モデルの微妙な違いによって結果が異なる
シミュレーションの現在の課題
 モデル:どのようなモデルを用いるか?
 筋収縮モデル:モデルによってシミュレーショ
ン結果が異なる可能性がある
 最適化手法:GA法などを用いても大局的最
適解を得られるとは限らない
 運動決定基準や上位の制御機構との統合
 ユーザーインタフェイスの拡充
 教育面では,教科書が不足
シミュレーション関連の教科書
これまで:
コンピュータシミュレーション開発の時代
これから:
コンピュータシミュレーション利用の時代
可能性は無限にある・・・・
Thank you for your attention