Transcript 英語 - 立教大学
2008年度後期 異文化コミュニケーションのための 英語学概論(第9回) 立教大学 異文化コミュニケーション学部 平賀 正子 はじめに • 今日の講義 国際語としての英語音韻論 英語と日本語を対比しながら、英語の音韻の 問題を考える。 • 「異文化コミュニケーションのための 英語学概論」まとめ 英語学概論第9回 2 Jenkins, J. (2000). The phonology of English as an international language. Oxford: Oxford University Press. 英語学概論第9回 3 音韻論 音韻論(phonology)は、言語音が、言 語の構成要素としてどのような働きを するかと言う機能の側面を研究する 分野 – Segmentals (音素、音節など) – Suprasegmentals(アクセント、音調、強勢な ど) 英語学概論第9回 4 音声の分析単位 • 音(phone) <−音声学 • 音素(phoneme) • 拍・モーラ(mora) • 音節(syllable) <−音韻論 <−音韻論 <−音韻論 英語学概論第9回 5 閑話 • 「上から読んでも山本山,下から読んでも 山本山」 • 「え?『やまもとやま』を下から読んだら『ま やともまや』じゃないの?」 • 「いやいや,Yamamotoyamaを逆に読むの だから,『あまよとままい』(amayotomamaY) だよ」…?? 英語学概論第9回 6 回文の音声単位 • 「上から読んでも山本山,下から読んでも山本山 」 – (漢字) • 「え?『やまもとやま』を下から読んだら『まやとも まや』じゃないの?」 – (仮名) • 「いやいや,Yamamotoyamaを逆に読むのだから ,『あまよとままい』(amayotomamaY)だよ」 – (音素) 英語学概論第9回 7 回文(palindrome) • 漢字を基準にした回文:「山本山」 • 仮名を基準とした(モーラ・レベルでの)回文: – 「長き夜の とをのねぶりの みな目覚め 波のり船の をとのよきかな」(江戸時代の和歌) • 音素を基準にした回文: – 「憂き日,日記をとくに書きぬ。琴一気に弾く」 – 「重たそう,重い? そう,お塩もお砂糖も」 英語学概論第9回 8 音素 • 音声言語において、意味を区別する働きを持っ た最も小さな音の単位を音素と言う。例えば、 /pen/, /ben/, /men/, /ten/, /den/ は、それぞれ異 なった意味を持っているので、この区別をしてい る /p/, /t/, /m/, /t/, /d/ はそれぞれ、英語において 独立した音素である。 • 一般に、英和辞書に載っている英単語の発音記 号は音素に対応しているものが多い。 英語学概論第9回 9 Minimal Pair • ある言語において、語の意味を弁別する最小の 単位である音素の範囲を認定するために用いら れる1点のみ音声形式の違う二つの単語のこと をいう。 • 例えば/rait/ (right)と/lait/ (light) は/r/と/l/の一点 のみの音声形式が異なっており、英語話者はこ の音の違いによって意味を区別する。このとき/r/ と/l/は弁別的対立をなしているといい、英語には /r/と/l/という音素があることが分かる。 英語学概論第9回 10 Minimal Pairを作ってみよう • ある1点のみ音声形式の違う二つの単語を探し てみよう。 • 英語の例 • 日本語の例 英語学概論第9回 11 Minimal Pairを作ってみよう • 英語の例 – think vs sink – feet vs heat – but vs bat -アメリカ人と食事をしていて,デザートをすすめられたとき,"I'm full."と言ったら,"You are not fool." だって…? • 日本語の例 – aka vs oka – 「世の中は 澄むと濁るの違いにて ハケに毛があり ハゲに毛 はなし」(川柳) 英語学概論第9回 12 母音と子音 • 母音(ぼいん):口腔に閉鎖、狭窄、摩擦などの 障害を加えずに発する有声音。 • 子音(しいん):舌、歯、唇または声門で口からの 息の通り道を完全に、部分的にあるいは瞬間的 に閉鎖したり、また息の通り道を狭くすることによ って息を摩擦音として発する音声。有声音と無声 音がある。 英語学概論第9回 13 母音を記述する尺度 • 舌の上下方向の位置 – (高い(high)・真ん中(mid)・低い(low)) • 舌の水平方向(前後)の位置 – (前の方(前舌:front)・真ん中(中舌: central)・後ろの 方(後舌: back)) • 唇を丸めるかどうか – (丸める(円唇:rounded)・丸めない(非円唇: rounded)) 英語学概論第9回 un- 14 母音(日本語・英語) 英語学概論第9回 15 日本語の母音の種類 IPA ï\ãL ÅuÉCÅv ÅuÉGÅv ÅuÉAÅv ÅuÉIÅv ÅuÉEÅv ê„ÇÃè„â• ïÞå¸ÇÃà íu ê„ÇÃëOå„ÇÃà íu êOǾ ä€Ç½ÇÈǩǫǧǩ [i] çÇÇ¢ ëO ä€Ç½Ç»Ç¢ [e] ê^ÇÒíÜ ëO ä€Ç½Ç»Ç¢ [a] í·Ç¢ ëO ä€Ç½Ç»Ç¢ [o] ê^ÇÒíÜ å„ ÇÎ ä€Ç½ÇÈ çÇÇ¢ å„ ÇÎ ä€Ç½Ç»Ç¢ [uu] 英語学概論第9回 16 子音を記述する尺度 調音点:place of articulation • • • • • • • • • 両唇音(bilabial)→上下の唇 唇歯音(labio-dental)→(上の)歯と(下の)唇 歯音(dental)→歯と舌 歯茎音(alveolar)→歯茎と舌 硬口蓋歯茎音(palato-alveolar)→硬口蓋歯茎と舌 硬口蓋音(palatal)→硬口蓋と舌 軟口蓋音(velar)→軟口蓋と舌 口蓋垂音(uvular)→口蓋垂と舌 声門音(glottal)→声門 英語学概論第9回 17 子音を記述する尺度 調音法:manner of articulation • 閉鎖音(stop)→上下の器官が接触して息の流れを完全に 止める。 • はじき音(flap)→上下の器官が接触し,舌が1回歯茎をは じく。 • 摩擦音(fricative)→上下の器官が接近して狭い隙間から 息を押し出す。 • 鼻音(nasal)→鼻腔へ息を通す=息を鼻へ抜けさせる。 • 破擦音(affricate)→閉鎖してからゆっくり解放することによ り,摩擦音を出す。 • 流 音 (glide)→後に来る母音へ速やかに移っていく途中で 発声される。 英語学概論第9回 18 「こえ」(声帯の振動) • 有声音(voiced sound) – 声帯が振動する(「こえ」が聞こえる) • 無声音(voiceless sound) – 声帯が振動しない(「こえ」が聞こえない) 英語学概論第9回 19 子音(英語) 英語学概論第9回 20 子音(日本語) r N 英語学概論第9回 21 Jenkins, J. (2000). The phonology of English as an international language. • This book advocates a new approach to English pronunciation teaching, in which the goal is mutual intelligibility among non-native speakers, rather than the imitation of native speakers. 22 英語学概論第9回 国際語としての英語の発音 • 非母語話者同士が英語を使う場合を想定 • 理解度(intelligibility)が目標 • 国際共通語としての核となる発音を重視 (LFC=Lingua Franca Core) • LFC以外の発音は、話者の母語の影響下 (転移・欠落など)にあることを容認 英語学概論第9回 23 Lingua Franca Coreには何が含 まれるか? • 大部分の子音 • 子音連続 (consonant clusters) の単純 化 • 短母音と長母音の区別 • 強勢 英語学概論第9回 24 LFC(大部分の子音) • 子音は意味弁別に重要性である。 – 母音は英語方言によってもバラエティがある。 – 母音は英語の歴史上も変化を遂げている(英語のス ペリングが実際の発音と異なっているのは、母音の歴 史的変化「大母音推移」による)。 • • • • • • Blind Sweet Clean Stone Name Moon ブリーンド → ブラインド スウェート → スウィート クレーン → クリーン ストーン → ストウン ナーメ → ネーム → ネイム モーン → ムーン 英語学概論第9回 25 LFC(子音連続の単純化) • 子音連続(consonant clusters) – initial cluster: max 3 cons. split; – final cluster: max 4 cons. twelfths, bursts, glimpsed • 英語にみられる単純化 – [wh] -> [w] what, when, etc. – [j] -> none new, chew, etc. 英語学概論第9回 26 LFC (短母音と長母音の区別) • 短母音 – [i] it • 長母音 – [i:] eat 英語学概論第9回 27 LFC(強勢) • 意味にかかわる要因 – 強勢をどこに置くかによって意味が変わることがある。 – 文中のある要素を強調するために強勢が置かれることもある。 • 単語のストレス – 2音節以上の単語には、アクセントをおいて発音する音節がある。 Desert 砂漠 食後に食べるお菓子 • 文のストレス – I know that. I KNOW that. I know THAT. 英語学概論第9回 28 日本語母語話者からみた 国際語としての英語発音の困難点 • 子音の発音 • 母音の発音 • 音節(syllable)と拍・モーラ(mora) 英語学概論第9回 29 日本語母語話者からみた 国際語としての英語発音の困難点 子音の発音 • [th] – – – – Thank you. サンキュー[sank] Think tank シンクタンク[sink] That’s entertainment! ザッツ・エンターテイメント[za?tsu] With ウィズ[wizu] • [s]や[z]で代用している [t]や[d]で代用 英語学概論第9回 30 日本語母語話者からみた 国際語としての英語発音の困難点 子音の発音 • [l] [r]との区別 – コンテクストを考えると余り問題にならないことが多 い。 – [r]と[l]の音の性質を知ることによって、両者を弁別 して発音しやすくなる。 – 語彙を豊かにすることが、聞き取り上の区別に役 立つ。 英語学概論第9回 31 日本語母語話者からみた 国際語としての英語発音の困難点 母音の発音(長母音と二重母音) • 英語の短母音と長母音は「音素」的差異 – [ful] [fu:l] – 例をさがしてみよう。 • 外来語のカタカナ表記からわかる問題点 – 「メール」 – 「ファースト・レディー」 – 例をさがしてみよう。 英語学概論第9回 32 日本語母語話者からみた 国際語としての英語発音の困難点 音節(syllable)と拍(mora) • • 拍・モーラ – 主に日本語の分析の際に用いられる単位。基本的に,五十音図のかな 1文字(促音「っ」,撥音「ん」,引く音「ー」なども含め)が1モーラに対応す る。ただし,拗音(小さいゃ,ゅ,ょを伴う音)のみ例外で,2文字で1モーラ である(例・「いしや」(石屋)→3モーラ,「いしゃ」(医者)→2モーラ)。俳 句や短歌の字数は,モーラ単位で計算される。 – モーラは,特殊音素(促音,撥音,引き音など)を含め,すべて同じ長さ で発音される(等時性)という特徴を持っている。 音節 – 母音を中心とした音声の単位であり,モーラよりも一つ大きな単位であ る。撥音(「ん」)や促音(「っ」)は,1モーラにはカウントされるが,これら の音は母音ではないので,これだけで1音節にはカウントされない。 英語学概論第9回 33 「異文化コミュニケーションのための英語学概論」 まとめ • 異文化理解 – – – – 母語の世界からの脱却 多言語・多文化を知る 差異への気づき 差異への許容性 • 関係性の構築 – 己を知る – 他者へのまなざし 英語学概論第9回 34 皆さんと出会えて嬉しかったです。 楽しい授業をありがとう! 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