改正された建築物衛生法とねずみ・害虫対策の新たな展開

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Transcript 改正された建築物衛生法とねずみ・害虫対策の新たな展開

改正された建築物衛生法と
ねずみ・害虫対策の新たな
展開
(財)日本環境衛生センター
田 中 生 男
今日の話題
1. 最近話題の感染症
2. 建築物衛生法とIPM
3. IPMによるねずみ・害虫対策
1.最近話題の感染症
<ねずみ・害虫と関連して>
ウェストナイル熱
ウィルス(WNV)によって引き起こされる
 1999年、ニューヨークで発生、現在、全州に
拡大、2003年末までにカナダを含め、102
27人の患者が発生し、両国で221人が死亡
 観戦者の3割程度は風邪のような軽傷、1%
未満に髄膜炎や脳炎を引き起こす
 野鳥と蚊との間で感染環ができている

WNウィルスと関係する蚊の仲間
アカイエカの仲間:アカイエカ、チカイエカなど
 ヤブカの仲間:ヒトスジジマカ、ヤマトヤブカなど


その他の仲間:多くの種類の蚊が関与している。
日本にはいないが、同じ仲間に属する種類が
多くいる。
WNウィルスと関係する鳥の仲間
アメリカでは、200種以上の野鳥から分離さ
れている
 とくに、アオカケス、カラス、スズメでは血中
のウィルスの濃度が高い
 アカイエカなどからは、人と野鳥の血液が見
つかっているので、鳥と蚊の組み合わせに
よっては、人が感染する危険性が高くなる

日本でのウェストナイル熱と調査
まだ、侵入していない
 2003年から全国的に蚊の調査が始まっ
た
 年では、媒介する可能性がある蚊が多い
 蚊・鳥など、さらに全国的な調査が必要

高病原性鳥インフルエンザ
家禽ペストとして古くから養鶏農家には知
られていた
 鳥の間で流行を繰り返すが、人への感染
が確認されたのは1997年で、香港で18
名が感染、6名死亡
 現在のところ、人への感染は、人と鳥との
比較的濃厚な接触に限られる

昆虫類が媒介する可能性は?
高病原性鳥インフルエンザの日本での流行
→2004年に山口県、大分県、京都府の鶏舎
 発生した鶏舎から採集したハエ(クロバエ、オオイエ
バエ)を調査すると、オオクロバエとケブカクロバエか
ら、ウィルスが検出された(小林、2005)
 現在、まだ役割は不明であるが、クロバエは飛翔能
力が高いことから、調査を続けて見守る必要がある

重症急性呼吸器症候群
(新型肺炎 SARS)
2002年中国で発生して、世界各地へ広
がった
 発熱と重症肺炎を引き起こす
 ハクビシン類が由来として疑われているが、
はっきりしていない
 ねずみやゴキブリも疑われたが、関係はな
さそうである

デング熱
東南アジアなど、熱帯地域で流行がある
 風邪に似た症状を引き起こす
 流行地に出かけて感染する日本人もいる
ので注意が必要
 ネッタイシマカが媒介の主役をしているが、
日本の都市部にも多いヒトスジシマカも、
感染能力を持っている

ネズミや害虫の分布の拡大と感
染症の侵入問題
1.地球温暖化や都市の温度上昇で、蚊などの
分布が広まっている
 2.国際的な交流が盛んになって、流行地から
の侵入の機会が増えている

飛行機に紛れ込んだり、貨物に付着して侵入する
海外に出かけて、感染して帰国する 等々
2.建築物衛生法とIPM
IPMとは何か
IPMとは、今後、ネズミ・害虫防除を進める上で
考えていかなければならないネズミ・害虫の管理
方法で、人、動物、環境への影響を軽減すること
を考えながら、状況に見合った最も良い方法で、
あるいは、いくつかの方法の組み合わせで、ネズ
ミ・害虫防除を行うことである。
 英語では、Integrated Pest Managementといい、日
本語にすると総合的害虫獣管理と訳せるが、当
面、総合防除という言葉があてられている。

建築物衛生法とIPM理念の導入
改正された法律の条文には、IPMという言
葉は書かれていないが、趣旨に含まれて
いる
 調査に基づいて措置をする
 適切な手段で対策を立てる
 薬剤は、医薬品・医薬部外品を使用

IPM理念が進められる背景
1.環境問題が国際的な潮流になった
→薬剤の過度・不必要な使用を避ける
 2.理論にかなった防除法に戻さなくて良いか
→調査に基づく対策・薬剤抵抗性の発達など
 3.対策の評価は行われているか
→維持管理基準の設定と効果判定
 4.発生時対策中心の進め方でよいか
→発生予防を重要視

IPMで狙っているもの
1.環境に優しく
・人、ペット、自然界
 2.状況に見合った適切な方法で
・環境整備をもっと進めよう
・十分な防除効果を上げる

日本におけるIPMの始まり

農業IPM
相いれないものの組み合
わせで適切な対策
農業IPMと環境問題

薬剤散布の周辺環境への影響懸念
環境にもっと
配慮を!
建築物衛生とネズミ・昆虫等の有害性
1.健康被害を“PEST”からどう防ぐか
 感染症予防
 刺咬・皮膚炎
 アレルギー予防
 不快、ほか
2.建築物・什器への被害予防
防除におけるメリット・デメリット
対策による悪影響
快適環境の確保
人・ペット・家畜・環境・
設備・備品へのダメー
ジ
人の健康を守る
設備・備品・商品など
への加害防止
殺虫剤対策による価値基準
に容 相
出に 対
てよ 的
くっ に
るて は
、、
リメ
スリ
クッ
がト
前の
面内
絶
対
的
な
問
題
点
は
変
化
し
な
い
感染症の
予防
激しい吸
血・刺咬
不快
その他
相対的なデメリットの重さに応じて
メリットが浮き上がらない
手段を採用する
<防除の方式>
薬剤中心
技術・労力・経費:小
薬剤と器具の併用
技術・労力・経費:中
環境整備と適正手段
現在の状況
技術・労力・経費:大
衛生分野におけるIPMの定義
「考えられるあらゆる有効・適切な技術を」
 「お互いが矛盾しない形で組み合わせて使用し」
 「人や環境に対する影響を極力減らしながら」
 「害虫獣を許容水準以下に減少させ」
 「そのレベルを維持する」
 「害虫獣の個体群管理システム」

措置の内容は、そこから生まれる利点(メ
リット)とのバランスで考える必要がある
 措置の利点が小さいと判断されれば、その
欠点ばかり強調される
→ IPMで措置が変わるのは、そうした背景
がある

3.IPMによるネズミ・害虫対策
IPMの進め方(例)
第1段階:害虫管理方針(目的・意義等)の策定
 第2段階:顧客への方針や手順の伝達
 第3段階:それぞれの役割分担の作成
 第4段階:モニターなど調査・同定の実施
 第5段階:管理水準(防除の目標)の設定
 第6段階:防除戦略の策定
 第7段階:作戦の実施
 第8段階:効果判定と報告

第1段階:害虫管理方針の策定
対象場所によって異なる状況をふまえて、
対策の意義や目的などを策定する
・施設のタイプ(事務所、食品製造など)
・利用状況(人の活動状況など)
・法律との絡み(食品衛生法・消防法ほか)

第2段階:利用者への方針や
手順の伝達
方針・意義を理解させるとともに、どのよう
な手順で進めるか、その概要を説明する
・それぞれの方法が持つ意義や役割を説明
する
・必要に応じて協議する
・薬剤使用について了解を得る

第3段階:それぞれの役割分担の作成
利用者や担当者にお願いする協力内容と
対策の実施者が受け持つ内容分担を明ら
かにする
→ 発生予防のための環境整備に依頼者の
協力は必須
→ 施工範囲についても、明確にしておく

第4段階:モニターなど調査・同定の実施
1.長期にわたる監視体制を整える
 2.モニターや事前調査の結果から、問題
種を拾い出し、作業に向けた具体且つ詳
細な調査を行う
採集した標本は同定する

調査法-1-
1)モニタリング
常時設置した定点トラップから得られる長期的な
個体数の変動などから、発生が基準以下かどう
か、増加の兆しがあるかなどを監視しながら読み
とる
 2)事前調査
対象種の調査に最も適した方法を選択して実施
する。得られた結果が指数化できるよう、調査計
画を作る

措置の必要性の判断は一点では見誤る

ある害虫の2年間の発生消長 季節消長や年変動
が大きいことに注意
一点の調査では、判
一旦下がり始める 断を誤るおそれあり
上昇し続ける
ここで、基準以下と
判断できるか?
調査法-2-
1)トラップ配置場所などの計画
配置場所、個数、期間は対象種によって
異なり、場所や個数は現場での判断が必
要
 2)証跡の発見能力
存在場所、証跡の種類、新旧、箇所数や
状況を明らかにし、トラップによる捕獲数と
同時に指数としても記録できるようにする

調査で指数を求めるとは






指数:1トラップ、1日あたりの捕獲数で表す値
(例) 10個のトラップに、3日間で、それぞれ、15,7,
4,1,1,1,1,0,0,0匹のゴキブリが捕獲された
①すべてから計算 30÷(10×3)=1.0
②捕獲されたものだけ 30÷(7×3)=1.4
③上位3つのみ 30÷(3×3)=2.9
すべてを集計に入れることは、いたずらに、0のトラップ
を増やすので、指数化の意味が無くなる。上位からの
数値を用いる
同定技術
かならずしも、すべてを細かく見る必要は
ないが、少なくとも、重要種を見逃さないよ
うにする。
 科のレベルでよいものもあるが、種によっ
ては、属あるいは種まで必要な場合がある

分類上どこまで見分ければよいか
門:脊椎動物門、節足動物門
 綱:ほ乳綱、昆虫綱、クモ綱
 目:ハエ目、げっ歯目、ダニ目
 科:ネズミ科、蚊科、チリダニ科
 属:イエカ属、ヤブカ属、クマネズミ属
 種:ドブネズミ、クマネズミ、チカイエカ、アカイ
エカ、ヒトスジシマカ、ヒョウヒダニ、イエダニ、
ツメダニ

第5段階:管理水準(防除の目標)の設定
第1段階の方針をふまえて、対象種をどこ
までのレベルに落とすのか、また、長期展
望では、どのレベルに密度を抑えておくの
か、防除目標や維持管理基準を作成する
 場合によっては、これらのレベルについて
も依頼者との協議が必要

基準値設定の背景には、様々な
状況が関係する
1.発生種の重要度
健康と関わる場合:感染症、刺咬被害、不快だけ
物理的な損傷:機器、建材、調度品、商品
 2.技術的な問題(すべて0にすることは可能か?)
 3.経済的に引き合う限度はどこか?
労力や直接・間接経費

維持管理基準の決め方
法律に盛り込んでもらう
 施工側と顧客の相談による
・協会の基準に沿って施工側が指導を行う
・顧客側が注文を出す
→達成可能ならゼロでも良いが・・・

維持管理基準はどのように決め
ればよいか
法律に盛り込んでもらう
 施工側と顧客の相談による
・PCOなどの基準に沿って施工側が指導
を行う
・顧客側が注文を出す
→達成可能ならゼロでも良いが・・・

第6段階:防除戦略の策定
有効性、作業性、緊急性、経費、安全性、
環境や建材への影響などを考慮して、対
象場所で最も良い手段を選ぶ
 特に、人やペット等への影響の有無につい
ては、特に慎重に検討する

第7段階:作戦の実施

計画に沿って着実に進めるが、途中で問
題点が出れば、それに見合った対応も必
要。この過程(問題点や変更)についても
記録する。
第8段階:効果判定と報告
事前調査の結果が生かせるよう、同一の
方法によって調査を行い、対策の成果に
ついて評価を行う。
 結果、問題点などを整理して、顧客に報告
する。アドバイスがあれば、それも併せて
報告する。

効果判定
措置前後に得られた調査結果から、図や
式を使って、防除率などを計算できるよう
にしておく。
 データが少ない場合、複雑な場合など、読
みとりや解析が難しい場合がある。

報告書の作成
わかりやすく、要領よくまとめる
 まとめと原簿は対比できるようにしておく
 報告書は、独善的な表現ではなく、専門的
であり、且つ、専門家でない人が理解でき
るように記述する

IPMの成果の評価法とその難易
すべての薬剤の使用量の減少
 リスクのある薬剤の減少
 人や環境に対する影響の減少
 防除対象種の減少程度

日本でIPMが定着する鍵
1)調査は無料という考え方が変えられるか
 2)ゼロではない維持管理基準が普及するか
 3)実施者はIPM施工計画を構築できるか


駄目でも、施工法を元に戻すわけにはいかな
い状況にある
IPM施工の課題

“調査に基づいて措置する”
1)調査法の妥当性、簡便性、普遍性とは
 2)適正な措置としてのIPMとは

重要な鍵を握るものは?
調査法
1)措置の必要性に正しい情報を与える
 維持管理基準
1)措置の必要性を決める
2)結果の妥当性を判断させる
