Transcript メスの選好性の進化
配偶者選択による
グッピー(Poecilia reticulata)の
カラーパターンの進化
:野外集団を用いた研究
河田研究室
吉田 卓司
本研究の目的
交配相手に対するメスの選好性が
適応的メカニズムによって進化したかどうか
を明らかにする
アプローチ
メスの選好性が
実際の野外で実現しているか
を調べた
適応的メカニズムによる選好性の進化
オレンジ色は健康の指標
健康な遺伝子を
持ったオス
×
オレンジが好き
健康な遺伝子を
持たないオス
適応的メカニズムによる選好性の進化
オレンジ色は健康の指標
健康な遺伝子を
持ったオス
オレンジが好き
×
健康な遺伝子を
持たないオス
健康な遺伝子が子供に伝わる
オレンジに対する
選好性が進化
適応的メカニズムによる選好性の進化
メスに利益を
もたらすオス
メスの選好性は
メスに利益をもたらすオスと交配できる
ため進化する
では、
メスは本当に
好みのオスと交配しているのか
野外での交配
オス同士の
メスをめぐる争い
オレンジ好き
野外での交配
アプローチ!
オレンジ好き
勝ったオス
負けたオス
野外での交配
仕方ないな~
オレンジ好き
勝ったオス
負けたオス
野外での交配
オレンジ好き
勝ったオス
負けたオス
好みのオスとは交配できない
• 適応的メカニズムでは、
実際の交配相手が進化の要因となる
• 野外では、
選好性が実現されるとは限らない
実際の野外では選好性が実現されず、
適応的メカニズムによる選好性の進化は
生じていない可能性がある
そこで本研究では、
メスの選好性が
実際の野外で実現しているか
を調べた
研究材料
沖縄県名護市我部祖河に生息する
野外集団のグッピー
研究材料
野外集団
野外で交配済み
61個体
採集
♀
♂
産仔
♂
58腹
153個体
研究材料
野外で採集したメス
実際の交配相手
との間の子供
野
外
で
交
配
野外で採集したオス
交配相手を
得ることのできた
オスの子供
野外で交配したメスの子供
オスの形質の測定
オレンジスポット
黒スポット
体サイズ
これらのサイズ・色を測定
メスの選好性の測定
オスの入る
小部屋
チョイス
ゾーン
透明な窓
不透明な壁
メスの選好性の測定
チョイス
ゾーン
に入った時間
メスの選好性
解析①:
メスの選好性とオスの交配競争
(集団レベルで見た場合)
解析①:
メスの選好性とオスの交配競争
野外で採集したメス
メスの選好性
野外で採集したオス
オスの交配競争
野外で交配したメスの子供
結果①:
メスの選好性とオスの交配競争
形質
全体面積
オレンジ面積比率
黒面積比率
オレンジの明度
全体輝度
選好性 交配競争
大
小
大
大
小
小
大
結果①:
メスの選好性とオスの交配競争
形質
全体面積
オレンジ面積比率
黒面積比率
オレンジの明度
全体輝度
選好性 交配競争
大
小
大
大
小
小
大
結論①:
メスの選好性とオスの交配競争
メスの選好性と
交配競争に勝ったオスの形質は
よく一致している
メスの選好性が
実際の交配相手を決定している
解析②:
メスの選好性と実際の交配相手
(個体レベルで見た場合)
野外で採集したメス
メスの選好性
野外で採集したオス
オスの交配競争
野外で交配したメスの子供
解析②:メスの選好性と実際の交配相手
交
配
産
仔
実際のメスの交配相手の特定は困難
メスが産んだ子供を交配相手の指標とする
メスが
好みのオスと交配している程度
野外集団と交配相手のどちらが魅力的か
野外集団のオスの
交配相手のオスの
<
平均的な魅力
魅力
好みのオスと交配している
野外集団のオスの
交配相手のオスの
>
平均的な魅力
魅力
好みのオスと交配していない
野
平
外
均
集
魅
団
力
の
交
の配
魅
相
力
手
嫌いなオス
好みのオス
頻度
選好性の
実現度
野外集団のオスの魅力
結果②:メスの選好性と実際の交配相手
14
12
10
頻
度
8
6
4
2
0
-5
0
5
選好性の実現度
1標本t検定の結果:
有意にゼロより大きい(P=0.0012)
メスは有意に好みのオスと交配している
解析③:
形質別に見た
メスの選好性と実際の交配相手
解析③:
形質別に見たメスの選好性と実際の交配相手
解析②で見たのは
複数の形質を総合した
メスの好み
グッピーの選好性は
形質ごとに独立な
進化ユニット
(Brooks and Couldridge 1999)
形質ごとに
メスの選好性の実現性
を調べる必要がある
解析③:
形質別に見たメスの選好性と実際の交配相手
交配相手:子供の形質で代用
メスが産んだ子供の形質に
その形質に対するメスの選好性を回帰
子形
供
の質
値
or
メスの選好性
形質レベルで
実現している
選好性は
子形
供
の質
値
メスの選好性
実現していない
結果③:
形質別に見たメスの選好性と実際の交配相手
子
供
の
形
質
値
オレンジ面積比率
オレンジスポット
の明度
黒面積比率
0.08
0.16
20
0.04
0.12
10
0
0.08
0
-0.04
0.04
-10
-0.08
-0.3
-0.1
0.1
0.3
0
-0.2 -0.1
0
0.1
-20
0.2 -0.2
-0.1
0
メスの選好性
いずれの形質でも
回帰は有意でない
いずれの形質でも
回帰係数は低い
形質レベルで
選好性の
実現性は低い
0.1
結果のまとめ
集団レベルで見て
メスの選好性は
野外で実現している
(結果①)
個体レベルで見て
メスの選好性は
野外で実現している
(結果②)
メスは好みのオスと
交配できている
形質レベルでは
選好性の
実現性は低い
(結果③)
考察①:
なぜ形質ごとで選好性の実現性が低いのか
オスの複数の形質から
交配相手を決めている
オスの複数の形質間の
相関はほとんどない
1つの形質が
交配相手の決定に
与える影響が下がる
考察②:
適応的メカニズムでメスの選好性は進化するか
グッピーの選好性は
適応的メカニズムでは
メスの選好性が実現される 形質ごとに独立な
進化ユニット
必要がある
(Brooks and Couldridge 1999)
形質レベルで選好性は実現されていない
適応的メカニズムによって
メスの選好性が進化する可能性は低い