障害受容 ーリハビリテーションにおける使用法ー

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Transcript 障害受容 ーリハビリテーションにおける使用法ー

「障害受容」から考える
リハビリテーションでの
セラピスト-クライエントの関係
第1回日韓障害学研究セミナー
-障害アイデンティティの差異の政治学-
20101126
於:場所はどこ?
田島明子
1
自己紹介
• 作業療法士として働いて17年(臨床15年、教育2
年目)
・ セラピストとしての振る舞いの違和感の答えが障
害学に
• 本日の報告内容:『障害受容再考』(三輪書店)と
いう自著の一部の紹介
2
『障害受容再考』の章立て
第一章 なぜ「障害受容」を再考するのか …1
第二章 日本における「障害受容」の研究の流れ …13
第三章 「障害受容」は一度したら不変なのか …37
第四章 南雲直二氏の「社会受容」を考える …61
第五章 臨床現場では「障害受容」はどのように用いられているのか
…95
第六章 「障害受容」の使用を避けるセラピストたち …113
第七章 教育の現場では「障害受容」をどのように教えればよいのか
…131
第八章 「障害受容」から「障害との自由」へ――再生のためのエネル
ギーはどこに? …147
補遺 …187
おわりに …205
3
臨床現場では「障害受容」は
どのように用いられているのか
4
・「障害受容」の使用に対する批判的言説
南雲直二,1998,『障害受容-意味論からの問い-』,荘道社.
上農正剛,2003,『たったひとりのクレオール』,ポット出版.
↓
専制的・押しつけ的
反省的態度のみで終結しない
「仕掛け」があるのでは?
5
対象者
• 作業療法士として臨床で働く7名
• 選定方法:無作為に選出せず、第39回OT学会
において筆者の発表に関心を持ってくださった
方、養成校時代の友人、友人からの紹介により
選出
• 専門領域、経験年数が重ならないよう配慮
→人数、選出方法等鑑み、本結果が必ずしも実際の臨床を
一般化できてはいない
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対象者内訳
仕事内容(資料①)
対象者内訳
事例No 氏名 経験年数1) 性別 インタビュー日時
インタビュー時間
1
Sさん
8年
女性 平成17年6月25日
45分
2
Oさん
5年
女性 平成17年10月16日
1時間20分
3
Iさん
10年
女性 平成17年10月29日
55分
4
Mさん
24年
男性 平成17年10月29日
54分
5
MIさん
3年
女性 平成17年11月5日
1時間32分
6
OKさん
2年
女性 平成17年11月6日
1時間6分
7
Yさん
12年
女性 平成17年11月12日
57分
1)経験年数が●年■か月のとき、■か月は省略している。つまり、丸何年か、の表記で
ある。
7
インタビューの方法
1)あらかじめ作成した調査票を元に半構造的に実施
2)質問項目
一般情報:①現在、過去の仕事内容
②勤務年数、
障害受容に関して:①職場での使用頻度
②誰がどのように使用するのか
③その言葉による変化
④障害告知について
⑤「障害受容」についてどのように習ったか
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分析方法
1)逐語録より、「障害受容」に関して述べら
れているものをすべて抜き取り、カード化
2)各事例ごとに内容が類似するカードを集
め、それぞれにカード番号と見出しをつけ
た。
3)重複する内容のカードは省略したが、各
事例のカードから得られたすべての結果
を反映できるよう、文章を組み立てた。
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結果1
職場での使用の頻度
事例No
氏名
使用の有無
1
Sさん
ときどき用いられる
2
Oさん
同上
5
MIさん
用いられない
6
OKさん
同上
7
Yさん
同上
10
結果2
職場での使用状況
Sさん
使われる場・人
どのような事象に用いるか
セラピストの苦労と共感
Oさん
・会議などで,同職種,あるいは,他職種と担当患者の情報交換を行う際に用いられ
る.
・対象者本人には用いない.
「機能回復への固執」の強さを「障害受容」
と表現するが,一方,「訓練がスムーズに進
行しない」とき,あるいは(訓練がスムーズ
に進行しないがための)セラピスト側の主観
的な苦労度を障害受容という言葉で表現して
いる.
「機能回復への固執」に対して適用.
「代償アプローチ」の受け入れはよくて
も「機能回復への固執」があればそれに
対して用いる.
「機能回復への固執」は,セラピストのプランや意図を阻害するものという位置にお
かれる.そして,プランや意図するものへの到達へ向けての阻害感が苦労度と表現さ
れるものである.また,会議などにおける「障害受容」の使用は,会議に居合わせた
各人にその苦労が想起されやすく,了解や共感を得られやすい言葉である.
「機能回復への固執」があったとしても,生 対象者がたとえ生活に目を向けられたと
活に目を向けることができ,セラピストと目 しても「機能回復への固執」があれば
標を共有でき,フットワークが軽い.「障害 「障害受容」という言葉を用いる.
受容」は長期的な経過を必要とするものであ
障害受容できている人・状態
る.たとえ生活ができていたとしても,その
人の有する能力とかけ離れた目標を持ってい
る場合には「障害受容」できているとは言え
ない.
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・回復期リハビリテーションとは?
急性期
回復期
維持期
・回復アプローチと代償アプローチ
12
考察
回復アプローチ
能力認識の
ズレ感
代償アプローチ
目的遂行の
阻害感
・「専門性」の肯定化
・多様ははずの障
害観(感)が「能力」
へ収束
・「専門性」の予定調
和的遂行への期待感
障害観(感)
専門性
障害受容
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「障害受容」の使用を避ける
セラピストたち
14
結果4
使わない理由
職場で使用していない3名
Yさん
OKさん
MIさん
・この言葉の使用にためらいを持った 「障害受容」という言葉には馴染みず ・対象者はケースバイケースであり,
のは,最初の患者を担当したときか らい印象を持っており,それがあえて 「受容の過程」には当てはめづらいと感
ら.
この言葉を使わない理由.「障 害受 じる.「受容」というときちっと枠が決
・「発想の転換」はそう簡単にできる 容」という言葉は,「ありふれ てな められてしまう感じがするが,「枠の外
はずのものではない.「障害受容」は い」「堅い」印象があり,かりにこの で話したい」という思いがある.受容自
時間をかけ,納得したり,憤ったりし 言葉を対象者に用いたとして,はたし 体が難しいものであるし,それが必要な
て行われていくものである.
て伝わるだろうかという疑念がある. のか.たとえ受容していなくても,自分
・進行性の疾患を持つ人たちと関わる また,現実にある事象のなかに,受容 なりの生活が営めればよいのでがない
なかで,その人が思いをぶつけてくれ している/していない,とはっきりと か.
ばそれを受け止めるし,その人が望む 分けられる状況はそうはないが,それ ・昨今の,障害受容に対して批判的な言
ことのためにやれることをする/した に対して「障害受容」という言 葉は 説は,「受容の過程にあてはめなくても
いという思いを持ってきた.
「完璧すぎる」イメージがあり,自分 いいんだ」「それで間違っていないん
・人の気持ちの中のことまでは分から が表現したい言葉ではない.
だ」という安心感を生起させるものであ
ない.その人は「しょうがない」と言
る.
うかも知れない.しかしそれが本心か
どうかもわからない.だからなおさら
「障害受容」という言葉は適用しずら
い.
・進行が進み,呼吸すら苦しい状態の
人に対しては,その人が苦しい状態を
受容したからといって楽になるわけで
もなく,「障害受容」という言葉は不
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適切である.
結果5
Yさん
OKさん
MIさん
受容するしないは個人の選択だが,寝ても 障害受容に代わる言葉として「折り合いをつける」 障害にとらわれ,頑張れる人もいる
さめても,「おれの手が,おれの手が」,飯 という言葉がしっくりくる.「折り合い」という言 ので,障害にとらわれること自体が
食ってても「おれの手が」,テレビ見てて 葉は「自分の障害に対しても気持ちの「折り合い」 否定されるものではないが,それで
本当なら笑える話なのに「でも,おれの手 がつけられ,周囲からもある程度自分の思いが受け も「投げやりにならずに自分なりの
が」って言ってたら,本人だってしんど 入れられ「折り合いがつき」,「楽に生きている 生活を送ることができること」「障
い.そのこと(障害)を毎日毎日1分1秒 姿」を想定できる.「障害受容」というと,こっち 害を意識せずにいられる時間を持ち
考えて,いらいらしていて,ほかのことす かこっち,どちらかに比重がかかるイメージがある 気持ち的に楽になれること」は重要
目的としての「障害受容」 べてを否定してしまうっていう状況には が,「折り合い」というと,どちらにも比重がかから である.
ならないでくれればと思う.少しでもつ ず,微妙な均衡が保てているというイメージがあ
らくない状態になるために役に立てたな る.
らうれしい.それは結果としてこうなれ
ばというものではなく,対象者のつらい気
持ち・こうしたいという思いに応えたい
という思いが先にあって,こちらは問題解
決のための働きかけをする.
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• 障害との楽な関係(障害へのとらわれから自由
になる)
=『障害受容』???×
=『障害との自由』○
• 『障害受容』と『障害との自由』の2つの異なり
:「志向性」
『障害受容』→社会適応へと志向する概念、能力主義的障害感と共鳴、障害の
否定性を障害を持つ人に内在化させるほうに働く
『障害との自由』→障害へのとらわれから自由に。多様な障害観(感)が展開さ
れる自由、能力主義的な障害観(感)(障害の否定性)は否定される
:「他性に対する(肯定的)感覚」
『障害との自由』:他性・障害に対する肯定的感覚がある
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まとめ
①「障害受容」そのものについて
・語感
・志向性のなかに「障害の否定性」が含まれてしまうことの
違和や不快
②「障害受容」の使用法
・専門性の遂行を優位に置いていること、その位置から、
専門的障害観・能力主義的障害観(障害の否定性)を対
象者に内在させようとする圧力の存在
③「障害受容」の方法論・支援論
・リハのアプローチ法と「障害受容」の支援法との関係が
不明確
・「障害受容」の支援法そのものの方法論が不明確
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