摂食障害の発症要因としての 軽度発達障害

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Transcript 摂食障害の発症要因としての 軽度発達障害

摂食障害における発達障害の合併頻度
と合併例の臨床的特徴
国立病院機構新潟病院
藤田基
新潟県立精神医療センター 高橋元恵,藤田観喜
はじめに
新潟県立精神医療センターの児童部門は
1968年病棟設置以来広汎性発達障害(PDD)
の受け入れに力を入れてきた
 2000年度から地域のニーズに応えて摂食障
害の入院を積極的に受け入れ
⇒ PDDを合併した摂食障害を経験
 1996年ころから合併例に関する報告
(Gillberg IC, 1996/ Rastam M, 2003など)
 摂食障害の症例でPDDを含む発達障害の頻
度と,合併例の特徴を検討

方法(1)





1999年10月から2005年11月までの間, 摂食障害の
症状を主訴として児童病棟に入院した19歳以下の
78例が対象
外来/入院カルテから年齢層ごとに摂食障害の病型
別症例数を集計
年齢層ごとに発達障害の合併数と合併障害別内わ
けを集計
集計はDSM-IV-TRに準拠
特定不能の広汎性発達障害(PDDNOS)の軽症側
の閾値としてはDSM-IV-TRの自閉性障害の基準
A(1)項目から1項目,A(1)~(3)で合計3項目以上
方法(2)

摂食障害群での発達障害有病率の高低を検討(一
般人口での発達障害有病率の従来の知見と比較)

神経性無食欲症のうち,2005年11月時点で1年以上
経過を観察し得た49人について,発達障害合併/
非合併群で臨床特徴(初診年齢,肥満度,入院期
間)比較

代表的な合併症例の概要を提示

合併症例の治療上の問題点を考察
年齢層別病型分布
AN- AN- BN- BN- NOS
R
B
N
P
20
18
16
14
12
人数 1 08
6
4
2
0
小学生
中学生
高校生
高卒以上
計
小学生
9
0
1
0
1
11
中学生
17
2
1
0
3
23
高校生
19
2
3
4
4
32
高卒以上
3
2
2
4
1
12
計
48
6
7
8
9
78
N OS
B N -P
B N -N
A N -B
A N -R
高
高校卒以
中学 生 上
小学 生
生
年齢層
病型
AN-R 神経性無食欲症(制限型)/AN-B 同(むちゃ食い排出型)/BN-N 神経性大食症(非排出型)/BN-P 同
(排出型)/NOS 分類不能型
小学生ではAN-Rがほとんど
高年齢ほどBN/purging増加
年齢層別発達障害合併頻度
発達障害あり発達障害なし
小学生
3(27%)
8(78%)
中学生
6(26%)
17(74%)
高校生
6(19%)
26(81%)
高卒以上
1(8%)
11(92%)
計
16(21%)
62(79%)
26
17
6
6
中
高
11
1
以
生
生
生
卒
校
学
学
上
年齢層
計
11
23
32
12
78
高
8
3
小
35
30
25
20
15
10
5
0
発達障害なし
発達障害あり
小学生では27%発達障害合併
年齢上昇するほど合併率低下
(しかし,予想よりもかなり多かっ
た)
合併発達障害の内訳
35
30
25
発達障害なし
20
26
17
15
1
2
3
11
3
2
4
生
高校
以上
高卒
0
8
生
中学
5
ADHD
生
小学
10
MR
PDD
1
合併例の2/3はPDD/中学生以上で他にADHDや精神遅滞(MR)
PDDは全年齢で14.1%/ADHDは2.6%/MRは3.8%に合併
発達障害合併例の特徴
神経性無食欲症
発達障害あり
例数
12
年齢
12.9±2.43
入院時肥満度 -27.2±8.36
入院期間(月)
18.4±14.6
初診までの期間(月) 8.17±6.06
発達障害なし t-value
P
37
15.4±2.48 4.43 <0.001
-26.6±9.23
ns
8.07±7.11 11.11 <0.001
12.1±10.99 3.65 <0.001
発達障害合併例では初診時年齢が有意に低い
合併例では初診までの期間が短く,入院期間が非常に長い
神経性無食欲症の年齢層による
特徴の違い
小学生
例数
9
年齢
11.0±0.9
肥満度
-30.1±8.3
入院期間
20.3±14.7
初診までの期間 5.9±6.6
発達障害合併率 27.2%
中学生
19
13.7±1.0
-24.8±8.7
7.8±6.2
7.0±3.8
26.1%
高校生
16
16.3±1.2
-30.6±7.3
8.3±10.6
14.1±8.4
18.8%
高卒以上
5
19.4±0.6
-21.4±11.7
6.2±4.2
24.8±10.4
8.3%
計
49
小学生発症では入院期間が他と比べて著しく長い(p<0.05)
発達障害合併率は低年齢ほど高い
症例Sちゃん
#1.神経性無食欲症/#2.PDDNOS
 幼児期:視線が合わず,友達関係がほとんどとれず,
1~2cmのキャラクターの絵で紙を埋め尽くして遊ん
でいることが目立つ.
 就学後も自分から他の子どもに話しかけることはほ
とんどなし.予定の変更に抵抗.
 小4の2学期から体重を気にして激しい運動.
 小4の1月インフルエンザで休んでから拒食.
 2月には脱水と低栄養で登校できなくなり,小児科
入院を経て精神医療センター入院.
入院時146cm,30kg,血圧70/30,脈拍40台.
入院当初IVH併用,小5の1学期末経口摂取で
35kgの体重を維持.
病棟内で他のこどもとほとんど交流なし.
退院に向けて調整開始 ⇒ 拒食再燃.
前籍校の先生と関係改善 ⇒ 小6の10月よう や
く退院.
中1の2学期,学校での不適応感増強に伴い拒
食再燃.
学校での不適応に関連して拒食が繰り返し再 燃し
て難渋している1例.
考察(1) 先行研究との比較





摂食障害の亜型:小学生ではほとんどが制限型の
神経性無食欲症(AN-R)/年齢が上がるほど神経性
大食症(BN),purgingする症例(AN-B,BN-P)増加
(先行研究と一致)
低年齢ほど発達障害の合併が多く,小学生では27%
に合併.PDDは全年齢14%/小学生27%
Wentz E, Eur Child Adolesc Psychiat, 2005
摂食障害30人:ASD23%/ADHD17%
Rastam M, Eur Child Adolesc Psychiat, 2003
51人の10代発症AN:1/3にOCD,OCPD,ASD
Gillberg IC, Compr Psychiat, 1996
51人の10代発症AN:ASD合併の亜群の存在
考察(2) 合併率の統計学的検討
合併する発達障害の半数以上がPDD.
PDD合併率は一般のPDD有病率よりもかな り
高く,統計的に有意
一般のPDD有病率0.3-0.6%(Rutter のレビュー,
Acta Paediatrica, 2004)
今回のサンプルでの95%信頼区間14.1±7.7%
その他MR(軽度),ADHDの合併もみられたが,
一般の有病率と差はなかった
今回サンプルのADHD合併率
2.6±3.5%
(一般の有病率:約3-5%)
今回サンプルのMR合併率
3.8±4.2%
(一般の有病率:約1-2%)
考察(3)
発達障害合併例の治療について



本人への言語的アプローチに限界があるために,
環境調整や家族,学校への働きかけを重点的に行
う必要があった
治療面接では,非発達障害例に対するよりも具体
的で紛れのないことばを用いることが必要
入院環境で,対人関係やコミュニケーションに障害
に起因する孤独感を軽減する必要があったが,この
点に関して必ずしも十分な援助はできなかった(今
後の課題)
考察(4)
PDDが摂食障害の経過に及ぼす影響
摂食障害のPDD合併率:一般人口より著明に
多い ⇒ PDDが摂食障害発症に関連
 合併例の観察:対人関係での不適応から拒食
の悪化を繰返す症例
 ダイエットがPDDのこだわりに取り込まれ,極
端な体重減少を来たすものあり
 以上から,PDDの不適応感やこだわりが摂食
障害の発症や悪化を促進し,慢性化にも関与
することが示唆された

まとめ
10代の摂食障害入院例78例について発達障
害の合併を検討
 小学生の摂食障害のほとんどが制限型の神
経性無食欲症/年齢が上がるとともに神経
性大食症やbinge-purge type増加
 21%に発達障害合併/14%はPDD
 低年齢ほど発達障害合併が多い
 摂食障害に対してPDDは発症/慢性化因子
として作用する可能性
 合併例ではアプローチに際して発達障害の特
徴への配慮が必要
