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一般急性期病院外科病棟における緩和ケア
- STAS日本語版を用いた患者,家族ケアの実際 -
カレス アライアンス 天使病院 外科
中島信久
日本ホスピス緩和ケア協会年次大会 ( 2005.7.10 )
病院の概要 (札幌社会保険総合病院)
地域
札幌市東部 ( 新札幌 ; 札幌副都心 )
ベット数 274床・・・5階西病棟 51床 (外科;39床,泌尿器科;12床)
平均在院日数 14日
医師数
外科 ; スタッフ6名+研修医2名, 泌尿器科 ; 2名
看護師数
22名
手術件数
外科 ; 約500件/年, 泌尿器科 ; 400件/年
終末期患者数
外科 ; 40-50名/年, 泌尿器科 ; 4-6名/年
カンファランス
・病棟カンファランス ; 毎週火曜日,総回診後
多職種・・・医師,看護師,薬剤師,栄養士,医事課など
・チームカンファランス(看護師); 毎日
当病棟で緩和ケアを行う上での問題点
・ 周術期患者,重症患者などへの対応に追われ,終末期の患者に十分関わる
ことが難しい 。・・・ 多くの急性期病棟で抱えている問題
・ 終末期の患者と,実際どのように関わったらよいのかがわからない。
・身体症状に対するケアが主体となりやすい。
・スタッフの努力が患者のQOLの向上に役立ってていることを実感したり,その内容
に自信を持ったりすることができない。
→ 患者,家族へのケアの成果を定期的に評価するための適当な指標が必要。
(但し,業務量の増加は,できれば避けたいところ・・・)
→ STAS日本語版を用いて終末期の患者のケアの評価を開始 (ステップ 0)。
STAS ( support team assessment schedule )日本語版
・STASは,1990年代初頭に英国でHigginsonらによって開発された,緩和ケアにおける
clinical auditのためのツールであり,2003年3月に日本語版が発行された。
・以下の9項目からなり,評価は,医師,看護師などの医療スタッフによる「他者評価」に
より行われる 。提示された説明文をもとに,0~4の5段階で評価する。
・ STASは医療専門職が自らのケアを評価し,改善していくためのツールである。
① 痛みのコントロール : 痛みが患者に及ぼす影響
② 症状が患者に及ぼす影響 : 痛み以外の症状が患者に及ぼす影響
③ 患者の不安 : 不安が患者に及ぼす影響
④ 家族の不安 : 不安が家族に及ぼす影響
⑤ 患者の病状認識 : 患者自身の予後に対する理解
⑥ 家族の病状認識 : 家族の予後に対する理解
⑦ 患者と家族とのコミュニケーション : 患者と家族とのコミュニケーションの深さと率直さ
⑧ 職種間のコミュニケーション :
患者と家族の困難な問題についての,スタッフ間での情報交換の早さ,正確さ,充実度
⑨ 患者・家族に対する医療スタッフのコミュニケーション :
患者や家族が求めたときに医療スタッフが提供する情報の充実度
STAS導入にあたり,心掛けたこと, 目指したこと
1. 上からの押し付けで始めない。
×: 「さあ,今日からこのツールを使ってケアの評価をしましょう」
→ 評価すること自体が目的化し,スタッフの負担が増えるだけ
2. 急がず,焦らず,じっくりと普及させる。
導入に際して,十分な準備をし,小規模から始める。
(興味を抱く少数のメンバーで,問題のある少数の患者に対してSTASを活用)
3. STASを用いることにより,患者ケアの向上のために解決すべきポイントが明確になる。
4. 自らの行うケアの成果を実感でき,その内容に自信が持てる。
5. 楽しい!
STAS導入に向けての5つのステップ
: 医師,
: コア・ナース,
: プライマリ・ナース
ステップ 0・・・・準備期
ステップⅠ・・・・導入期(医師+コア・ナース)
ステップⅡ・・・・事例検討期(医師+コア・ナース+プライマリ・ナース)
ステップⅢ・・・・コア・ナース+プライマリ・ナースによる事例蓄積期
ステップⅣ・・・・急性期病棟のチームとしての取り組みへ
ステップ 0
ステップ Ⅰ
ステップ Ⅱ
ステップ Ⅲ
ステップ Ⅳ
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(月)
STAS導入に向けての5つのステップ
ステップ 0
ステップ 0
私自身の準備期
ステップ Ⅰ
終末期の患者に対する独自のオーディット調査
(2002.10~2004.3の18ヶ月間,約60例)
ステップ Ⅱ
・ 最終回入院時にSTAS評価を行い,治療,ケアを
行う上での問題点を把握
ステップ Ⅲ
→→ 「これはいけそうだ!」
→→ ステップ Ⅰへ
ステップ Ⅳ
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STAS導入に向けての5つのステップ
ステップ Ⅰ(導入期)
ステップ 0
ステップ Ⅰ
2人のコア・ナースとの勉強会
ステップ Ⅱ
緩和ケアに関心の高い2人の看護師(主任,リーダー格=
コア・ナース)と,STAS日本語版を用いた手弁当の勉強会
(2004.3~4)
・各自で全体の通読
ステップ Ⅲ
・仮想症例を用いたdiscussion
→→ STAS日本語版の十分な理解
→→ 現場での活用に対する期待感!!
ステップ Ⅳ
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STAS導入に向けての5つのステップ
ステップ Ⅱ(事例検討期)
ステップ 0
ステップ Ⅰ
医師+コア・ナースにプライマリ・ナースを加えた事例検討
ステップ Ⅱ
この時期に,終末期の入院患者さんが4~5名入院中。
ステップ Ⅲ
それぞれを担当するプライマリ・ナースに,STAS日本語版の
活用について個別に持ちかけ(決して強制ではなく!),関心
をもったナースとともに,実際の患者さんについて事例検討を
開始した( 1例ずつ,じっくりと!)。
ステップ Ⅳ
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STAS導入に向けての5つのステップ
ステップ Ⅲ(事例蓄積期)
ステップ 0
ステップ Ⅰ
コア・ナース+プライマリ・ナースによる事例の蓄積
コア・ナースの指導,助言のもと,STASを用いた介入対象を
徐々に増やしていく。
ステップ Ⅱ
ただし,まだ準備期なので,同時期にSTASの対象とするのは
1~2名とし,じっくり検討した。
ステップ Ⅲ
*この段階になると,医師は困ったときに相談を受ける程度の
役割となる。
ステップ Ⅳ
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STAS導入に向けての5つのステップ
ステップ Ⅳ
ステップ 0
ステップ Ⅰ
病棟勉強会の開催 ~ 病棟全体としての取り組みへ
(標準的なツールとして使用開始)
ステップ Ⅱ
半数以上の看護師がSTASを経験したところで,まとまった
勉強会を開催
ステップ Ⅲ
ただし,医師からは概略の説明のみ
勉強会のメインは看護師による事例報告とそれに続くQ&A
~ STASが日常の仕事の中で普及
ステップ Ⅳ
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事例検討
[ 34歳男性,独身,スキルス胃癌術後,癌性腹膜炎,予後1ヶ月 ]
* プライマリ・ナース: 10年目 ( 内科7年,外科3年目 )
* 初回評価時の問題点:
・STASで評価を行うにあたり,看護情報の不足が判明(特に家族情報)
・患者,家族の病状認識 ( 治る可能性への期待 ) (#5-③,#6-③)
・患者-家族間の問題;
父親(同時期に舌癌に罹患)が,息子の病状を受容できずにいる
父,子の間にいる母親の不安,狼狽 (#7-③,#8-②)
* STASによる継続アプローチとその成果:
・医師からの継続的なICや看護支援により,病状を理解,受容
→ 在宅生活への希望 (#5-①,#6-①,#7-①)
・辛い立場にある母親を援助
→母親が思いを表出できる,患者-母親間の関わりが深まる
(#7-①,#8-①)
( #5-③,#6-③,・・・はSTAS日本語版の項目の番号とスコアリング結果 )
STAS導入のポイント
A. 導入への準備
・上からの押しつけで始めない! ( 評価すること自体が目的化する危険性 )
・まず最初は小規模から!
( 数名のメンバーで,いま問題となっている1例1例に対してSTASを用いる )
・関心を持った仲間を徐々に増やしていく。
・病棟全体で運用開始となった後も,限られた業務量の中で,対象を限定して行う。
B. 評価方法
・評価は週に1(~2)回の頻度で,基本的にプライマリー・ナースが継続して行い,
それを基にチームカンファランスで話し合う。
・評価の度にデータシートを用い,必要な情報はコメントとして空欄に記載する。
( 温度板などに数値を一覧にして示すことはしていない )
C. 成功の秘訣は,その「良さ」をスタッフが実感できるか否かにかかっている!!
今後の課題,方向性
1. 病棟(多職種)カンファランスなどにおいて,STAS評価による問題点の具体化や
明瞭化をはかり,より一層の“双方向性”のディスカッションへと発展させていく。
・・・オーディットの対象は,「医療」,「ケア」そして「医師」(?)
2. 対象症例の適応拡大
・「再発→化学療法」の時期にある患者
・根治切除不能(姑息切除,非切除)の患者 などを対象とし,
・・・より早い段階から継続して評価できるように,STASをもとにアセスメント
内容の見直しをはかり,ギアチェンジを適切に行えるようにする。
3. 他病棟(消化器科,呼吸器科など)や外来部門,在宅ケア部門との連携
・現在,2,3名の患者さんに関して,ステップⅡを施行中。
・・・外来スタッフの異動が比較的頻繁なため,外来部門全体としての普及を
目指すのではなく,入院中から病棟と外来の看護師が情報を共有しなが
ら,患者,家族と 関わっていくことを目指す。
STAS導入から3ヶ月・・・
看護師さんたちの声 (n=17)
・STASを紹介されたときの印象:
・「有用」;14,「無用」;0,「どちらでもない」;3
・使用した後の印象:
・「使いやすい」;2,「難しい」;14,「どちらでもない」;1
・患者の問題点を把握する助けになる(11)
・症状などの変化を明確にする助けになる(5)
・ケアの成果が数値化されることで,今まで曖昧であった自分たちのケアの
内容を客観的に捉えることができるようになった(3)
・STASで評価するのに結構な時間がかかる(2)/業務量の増加(0)
・自分がする評価の妥当性への疑問,不安 ( 本当に正しい評価か )(6)
・評価に対する恐れ ( 自分の評価を他のスタッフはどう見ているのか )(2)
・STAS評価で得られた結果が,その後のケアの向上に上手くつながらない(2)
最近の各施設におけるSTASの活用状況
*日本緩和医療学会におけるSTASに関連する演題発表(抜粋)
・ STAS日本語版の一般外科病棟における有用性の検討
(静岡県立総合病院 緩和医療科)
・ 緩和ケア病棟の質の評価~STASの導入を試みて
(公立みつぎ総合病院 緩和ケア病棟)
・ 一般病院急性期病棟における終末期患者の標準ケアプランの導入
~STAS日本語版を用いた評価方法の確立~
(札幌社会保険総合病院 看護局)
*その他
・ 一般病棟での導入により,緩和ケア(病棟)への移行をスムーズにする
・ ホスピス病棟におけるスタッフの教育用ツール
・ 緩和ケアチームの活動における共通の評価ツールとしての導入