研修医のためのレクチャーシリーズ

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Transcript 研修医のためのレクチャーシリーズ

誤診のすすめ
誤診は少ない方が良いのか?
自分の診断能力にどのくらい
自身がありますか?
竹内重五郎氏は退官される際に
自分が生涯診た患者さんの65%は誤診だっ
たとおっしゃいました。
皆さんの誤診率はどのくらいですか?
せいぜい5%あれば良い方でしょうね。おそらく・・
最近の症例から・・・
実際に関わった方もいると思われるの
で「フィクション」という設定でお話
ししましょうか。
症例:40 歳台 女性
• 腹痛にて時間外外来を受診。
初診時のカルテ
つづき
• 担当者らは、この後血液検査を行い、
さらに画像検査として 単純レントゲ
ン・腹部CT・腹部超音波検査をおこ
なっていました。
腹部単純X線
腸管ガスがめだつかなあ??
腹部CT
ちょっと腹水有るけど・・アッペははっきりしない?
腹部エコー
どうですか?
技師の診断では・・
1イレウス
2腸間膜リンパ節腫脹
3アッペは R/O か〜
その後の経過
• 担当医らは以上の結果から「サブイレウ
ス?」と判断し、患者さんは入院するこ
とになりました。
• 行われた治療は
1)絶飲食+補液
2)経鼻胃管留置
3)抗菌薬(ロセフィン)
でした。
入院後の経過
• 入院後2日経っても症状は軽快しませ
んでした。
• フォローアップであったのかなかった
のか?2回目の超音波検査がおこなわ
れました。
2回目の超音波
あ!
診断アッペになってる!
しかも穿孔??
この結果を受けて
• 急性虫垂炎にて外科紹介となり、即日
手術が行われました。
• すでに穿孔して時間を経ており、治療
は遷延して合併症の可能性も高くなり
ました。
今回のケースは誤診ですか?
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誤診だとすると誤診した人は誰ですか?
初療担当者ですか?
コンサルトを受けた上級医ですか?
病棟の主治医グループですか?
実は・・・
誰一人誤診はしてません!!!
何故だか分かりますか?
• 「誤診」とは「診断」がはずれたこと
を意味します。
• 即ち、「診断」がなければ当たりもは
ずれもありません。
• 残念ならが、先の患者さんに診断をし
た医師は一人もいなかったのです。
• 誤診は時に重大な医療過誤につながる
こともありますが、通常は診療行為の
一過程にすぎません。
• 患者さんに害を及ぼすのは誤診ではな
く、「不適切な医療」です。
適切な診療とは?
1.患者さんを診察する
早期診断と鑑別疾患
を挙げる
確定診断に必要な検
査を行う
2.診察結果にもとづいて診断する
3.診断結果に応じた治療をする
4.治療効果の判定を行い診断の是非を再考する
疑問が生じた場合は常に患者さんの診察にもどる!!
一般的に行われている診療?とは?
診察結果とは無関係に、主訴と第1印象から
思いついた検査をできるだけ行う
とりあえず診察(のような
もの)をやってみる
(腹痛→CT!、 CT!、 CT!)
追加できるものは何でも追加する
(CT撮るからエアー条件もお願いします)
終了
疾患が見つからない
疾患
が見つかった!!
今回の病態と
関係ない可能
性がある!!
症状に応じた治療
疾患に応じた治療
嘔吐→プリンペラン
腹痛→ブスコパン
熱→ロセフィン
良くならないときは薬を換える
思いついた検査をやってみる
今回の診療を振り返って見ま
しょう
初診時のカルテ
このカルテをみてどのような
疾患を思い浮かべます
か?
青丸の所見はアッペそのも
の??
アッペにそぐわないのは圧
痛が限局してない点だ
が・・
高熱があることと腹部全般
に痛みがあることは穿孔を
疑う病歴といえる?!
腹部CT
ちなみに
堀川先生ならこのCTを見て瞬時に「アッペの穿孔だ!すぐ手
術しなさい」と言うでしょう。
腹部単純X線
ちなみに
私ならこのレントゲンだけで「穿孔性虫垂炎」と言います。
腹部エコー
1回目
2回目
エコーの結果が1回目と2回目で
ちょっと違うのは何故ですか?
• 時間経過のせいではありません。
• 施行者が異なるからです。
• エコーとはそう言うものであり、2回目の施行
者がとくに技量が高かったと言えます。
• しかし、1回目の所見も十分アッペを疑うもの
であり、逆に言うとアッペ以外の疾患(名)は
ひとつもありません。
まとめると・・・
• この患者さんは、
• 超音波技師さんたった一人の力で救わ
れた・・・ということになります。
• 少なくとも医師は診断に全く関与して
いません。
• 関与してないのだから、誤診はありえ
ません。
似たような経験ないですか?
• 血清アミラーゼみたらビックリ!!!
「急性膵炎だ〜」
• エコーしてみたら・・・
「アッペって書いてあるぞ!!」
• CT撮ってみたら
「あれ?フリーエアーがある!!」
すべて先の一般的診療の産物です
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その診断をしたのは
あなたですか? 血液検査ですか?
あなたですか? 技師さんですか?
あなたですか? CTですか?
あなたは何か役にたったのですか?
竹内重五郎氏は65%誤診しました。
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それは・・・
診た患者さん全員を必ず詳細に診断し
しかも
治療効果を厳しく判定した結果
自分の判断に納得がいかなかった
ということでしょう。
竹内重五郎氏は65%誤診しました。
• 彼のこの一言は
• 彼の診療の質がいかに高かったかを示す
ものといえるでしょう。
診断の方法を教えましょう
1)H&Pを終えた段階で必ず「初期診断」を挙げる。
2)必要に応じて「鑑別疾患」を挙げる
条件が2つあります。
• 必ず単一の疾患(Clinical entity)であること!
• H&Pの所見と整合性があること!
3)確定診断のための検査を行う
条件が3つあります
• 自分で検査結果を評価できること
• 検査を行う前に検査結果が想定できること
• 結果に応じた方針が立てられること(方針が変わらない検査はしない)
4)迷ったときは必ずH&Pにもどる
病気になったのは患者さんの体であって、CTのフィルムではありません。
あなたの誤診率は?