第九回 実務としての通訳

Download Report

Transcript 第九回 実務としての通訳

通訳翻訳論第九回
実務としての通訳
通訳を必要とする仕事の場








観光案内、随行、添乗(通訳ガイド)
企業(社内通訳者または一般社員)
警察、裁判所(司法通訳人)
政治、ビジネス、学術等国際会議(会議通訳者)
テレビ局/二カ国語放送(放送通訳者)
スポーツ大会、コンサート会場などイベント(ス
ポーツ、芸能通訳者)
外国人住民への言語支援(ボランティア通訳者)
国際交流団体、政府機関、地方自治体
通訳案内業

職業資格認定制度がある唯一の通訳資格





国家の認定する唯一の語学関連資格試験
国土交通省認定通訳案内業試験
報酬を受けて外国人に付き添い、外国語を用いて旅
行に関する案内をする
語学力が優秀であるだけでなく、日本の文化、歴史、
地理さらに産業、経済、政治といった分野に至るまで、
幅広い知識、教養をもって日本を紹介する
“民間外交官”ともいえる国際親善の一翼を担う 仕事
通訳案内業の合格率(2003年)
平成15年度受験者及び合格者数
受験者(人)
第1次合
格者(人)
第2次合
格者(人)
最終合格
者(人)
合格率(%)
英 語
4,573
499
305
204
4.5
フランス語
215
25
18
14
6.5
スペイン語
152
21
11
5
3.3
ドイツ語
117
17
16
11
9.4
中国語
705
176
140
59
8.4
イタリア語
58
13
4
3
5.2
ポルトガル
語
59
8
8
3
5.1
ロシア語
78
10
10
5
6.4
朝鮮語
343
120
116
27
7.9
計
6,300
889
628
331
5.3
通訳案内業に従事するには

資格試験合格後、免許取得

ガイド研修参加

派遣会社や旅行社に登録

スポットで受注
社内通訳者

企業内で通訳業務を専門に行う者
社内通訳者( In House Interpreter)と呼ぶ






通訳専業で雇用される(あまり多くない)
エージェント(派遣会社)からクライアント(顧客)企業に派
遣される
企業と直接契約を結ぶ場合もある
原則として通訳、翻訳以外の業務はおこなわない
バイリンガル・セクレタリー(二カ国語秘書)としての採用も
あるが、社内通訳者とは別の役割
新卒採用はまれ(経験者優遇)
バイリンガル・セクレタリー





バイリンガル(二カ国語を使用)
セクレタリー(秘書):要職にある人に直属し、そ
の人の仕事を助ける
バイリンガル・セクレタリー:外国人上司の秘書と
してサポート業務をこなす
スケジュール管理、資料作成、慶弔関係、挨拶
状や社内・社外文書の作成、名刺整理、出張手
配、来客応対などが主な業務
人材派遣会社からの派遣または正社員
社員として国際業務をおこなう

必要に応じて通訳もする一般社員


おそらく通訳者人口で最も大きな割合を占める
外国語学部卒業者は期待されている







海外事業部などへの配属
語学研修プログラムへの参加
将来の海外事務所駐在者候補として
……
海外との連絡業務(電話、メールなど)
ビジネス文書の翻訳、商談、接待などの通訳
上司や顧客の海外出張随行
現場での技術研修通訳 など
司法通訳人--警察通訳

雇用形態



仕事の内容




正式に雇用された警察職員「通訳吏員」
県警に登録したフリーの通訳者「民間通訳人」
捜査現場に同行しての通訳
取り調べの通訳
弁護士の通訳
応募資格

正式職員と民間通訳人で条件が異なる
司法通訳人--法廷通訳人

資格試験はない


仕事の内容





検察庁、裁判所、弁護士会が言語別に通訳者名簿を
作成し、必要に応じて依頼
検察での取り調べの通訳
弁護人との接見に同行して通訳
起訴状、冒頭陳述書の翻訳
裁判の通訳
報酬は一時間あたり6,000~8,000円程度
資料
警察庁統計
司法通訳の仕事の特徴

英語以外、とくにアジア言語の需要が大きい


被疑者、被告の言ったことは全て訳す



他の分野の通訳とは全く需要が異なる
要約したり言い方を変えたりしてはならない
警察通訳の場合、いつ事件が起こるか(いつ依頼が
来るか)全く見当がつかない
法廷通訳では軽い事件なら1回の裁判で判決が出る
こともあるが、重大な事件なら長期にわたる 。長期の
場合は、1、2カ月先の裁判のスケジュールがわかる
会議通訳

会議通訳者(Conference Interpreter)






一般に「同時通訳者」とも呼ばれる
同時通訳の技術を習得している
主に国際会議で通訳を務める
通訳技術そのものを提供することが仕事
大部分はフリーで活躍している
エージェントによるランク分けがある



Aランク:どんな専門分野でもこなせる同時通訳者
Bランク:全分野で逐次、一般的内容の同時通訳
C(一般通訳):経験年数が浅く、同時は得意分野で
会議通訳者の仕事

企業


学術関連の国際会議




記者会見、商談、記念式典、新製品発表会、
研修、VIP付き、社内会議
学会、講演会、シンポジウム
来日著名人の講演会
ビジネス関係のシンポジウム、セミナー
パーティー、祝賀会、懇親会
国際会議場


大規模な国際会議場
ホテルなどの大会議室を使うこともある
同時通訳ブース

同時通訳装置の置かれた常設ブース
ブースから会場を見る
会議通訳者になるには

資格制度はない



通訳スクールで学ぶことが会議通訳者への近道
OJTの紹介を受け、簡単な仕事から開始



見本市ブース付き、商談通訳、通訳コンパニオン、随行通訳
など一般通訳の仕事から開始する
主に半年以上在籍している成績優秀者を講師が推薦
最上級クラス進級


誰でもなれる。問題は仕事がとれるかどうか。
講師や先輩と一緒に会議デビュー
順調にいけば会議デビュー後5年ほどで中堅通訳者
国際会議通訳業務の流れ
資料の受け取り
エージェントから依頼
資料読み、調べ物
<事前準備>
打ち合わせ
会議本番
終了報告
一般通訳






同時通訳は原則として行わない(まれにウィスパリング
が求められる程度)
求められるのは通訳技術の提供だけではない
会議通訳者と異なり一人で働くことが多い
業務の内容は多岐にわたるが、主に研修通訳や随行、
簡単なビジネス・ミーティングを行う
通訳内容は専門性の低いものが多い
特に研修通訳は政府の外郭団体である国際交流協力
センターが長期間にわたって主催することが多く、非英
語一般通訳者の業務を多く提供している
一般通訳の仕事


日常レベルでのコミュニケーションを主とする
一般通訳のレベル分け




あいさつ、日程説明、会食、買い物の世話、会場案内、
エスコート、国際見本市など → 駆け出し
専門性・技術性の低い商談、交渉、随行、宴会、工場
見学など → 経験2年程度~
技術研修通訳、視察団随行、一般的な講演、複雑な
企業ミーティング → 経験5年程度~
一般通訳の仕事が順調なら会議通訳者は目指
さない人がほとんど。
放送通訳

時差通訳


半生(セミ)同通


外国語ニュースを事前に翻訳し、放送時にはオリジナ
ルの音声と同時に翻訳原稿を読み上げる(ボイス・
オーバー)
翻訳する時間がなく、一回か二回、ビデオに録画した
ニュースを見てすぐにオンエアー
生同通

突発的な事故など速報性を要求されるニュースでは
ぶっつけ本番で同時通訳をおこなう
放送通訳の言語的特徴

テレビの視聴者という不特定多数に向けて発信
するマスメディアの仕事である

耳で聞いてわかりやすい日本語






誤解を招く語彙は使わない(同音異義語など)
難しい漢語はさけて和語を使う
なじみのない略語には補足説明
複雑な構文はさけて短い文で
映像にあわせて日本語訳を編集
アナウンサー並みの明瞭な発音、発声
放送通訳者の資質

ジャーナリスト


アナウンサー


聞きやすい発音、発声、速度、正しいアクセント、抑揚
通訳者


世界の出来事に関心があり、時事問題に敏感
同時通訳にも対応できる通訳技術
翻訳者

時差通訳における読み原稿作成
芸能・スポーツの通訳

芸能通訳


来日したアーティストの記者会見、インタビュー、テレビ出演お
よびその打ち合わせ、日常生活の世話、スケジュール管理、
芝居の稽古やリハーサルの通訳など多岐にわたる
スポーツの通訳


国内外で開催されるスポーツ大会などイベントでの通訳(選手
団付き、事務局付き、VIP付き、プレス、インフォメーション、連
絡など)
プロスポーツ(野球、サッカー、格闘技など)の選手付き、イン
タビュー、練習、スタッフ、他の選手とのコミュニケーション、生
活全般の世話
芸能・スポーツ通訳者の資質

自分が通訳を行うジャンルに関する幅広く深い
知識が必要



舞台度胸が必要


映画、演劇、音楽などに関する知識
スポーツのルール、周辺的情報(選手、記録、チームの勝敗な
どなど)
テレビ出演や記者会見など人前に出て通訳する
ホスピタリティーが必要

アーティストやスポーツ選手と長時間ともに行動するため、世
話好きな性格が望ましい
政府機関、地方自治体



職員として団体や財団法人あるいは都道府県庁
の国際課などに勤務し、国際交流業務を行う。
通訳業務は本来業務の付帯的なものとして扱わ
れる場合が多い。
仕事の内容



海外との連絡(翻訳業務を含む)
外国訪問の手配、随行、通訳
来日訪問団の受け入れ、接待、見学や訪問のアレン
ジ、随行通訳など
官庁での国際業務

外務省


防衛庁


在日米軍との折衝における通訳、領海侵犯事件など
の交渉通訳、自衛隊海外派遣など
警視庁


在外公館勤務、外交の通訳
通訳センター勤務
水産庁

乗船通訳
http://www.jfa.maff.go.jp/saiyo/16saiyoutuuyaku.htm
ボランティア通訳


各地の国際交流協会
仕事の内容




地域で開催される国際交流イベント
病院での医療通訳
外国人向け市民相談窓口業務 など
問題点



無償奉仕であるため責任感が薄い
語学の勉強のために参加する人がいる
レベルの低い「使えない通訳者」が少なくない
読書案内--通訳の仕事
『通訳席から世界が見える A message after 22 years』 筑摩書房
『入門 通訳を仕事にしたい人の本』 中経出版
『放送通訳の世界―衛星放送のニュース番組を支える立役者 』
『通訳の現場から』 朝日出版社
読書案内--通訳の理論




『グローバル時代の通訳―基礎知識からトレーニング法まで』
『初めて学ぶ翻訳と通訳―言語コミュニケーション入門 』
『通訳の英語 日本語 』
『通訳のジレンマ―通訳になりたい人と通訳を雇いたい人のためのコミュ
ニケーション論 』
通訳関係の書籍リスト
読書案内--通訳者によるエッセイ


『パーネ・アモーレ―イタリア語通訳奮闘記 』
『不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か』
読書案内--通訳学習

『はじめてのシャドーイング―プロ通訳者の基礎訓練法で、
英語の“音”感覚が飛躍的に身につく 』

『英語リスニング・クリニック 』

『実践ゼミウィスパリング同時通訳 』

『CDブック「プロ英語」入門―通訳者が実践している英語練
習法 』

その他、参考図書リスト
http://nikka.3.pro.tok2.com/biblio.htm
http://ilc2.doshisha.ac.jp/users/kkitao/library/resource/intercultural/