ρ - 畠瀬 和志

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割引率の変更が新エネルギーの普及と
CO2削減経路に与える影響について
畠瀬 和志
神戸大学 経済学研究科 研究員
研究の背景と方針
研究の背景

スターン・レビュー(2006)は早期における大きなCO2排出削減を主張する
が、この結論はこの報告書が前提とする非常に小さな割引率によってもたら
されたものである。
⇒ 割引率(純粋時間選好率)を変化させるとCO2削減経路や新エネルギー
普及経路にどのような変化が生じるか?(問題提起)
研究の方針

昨年度の環境経済・政策学会発表で用いたシミュレーションモデルを用い、
上の問題提起に答える

純粋時間選好率の設定は、スターン・レビュー(2006)の設定とNordhaus
(2000)の設定、 Weitzman(1998)にならい両者を加重平均した設定の3種
類を用いる

昨年報告と同様に、ロジスティック式の係数とLearning-by-doingの経験指
数を変化させて結果がどうなるかを検討
2008/6/5
神戸大学 六甲フォーラム
2
ラムゼー・ルール

厚生の合計 W を、完全な資本市場を仮定した制約条件式の下で最大化す
る非線形計画問題を考える(ρ:純粋時間選好率、U:効用、 c:消費)
c t 
 t
max W   e U c t  dt , U c t  
1
0
1

s.t. k  F  k   c
F(k) は生産関数、k は単位労働力あたりの資本。ここで、y=F(k)、∂k/∂t = i (i:投資)
なので、制約条件式はマクロ経済恒等式 y = c + i である。

上の最大化問題を解くと、割引率は以下のようになる(ラムゼー・ルール)
r   
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c
c
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地球温暖化政策と割引率:1990年代における議論

Nordhaus (1992)
 先駆的な研究。DICEモデルを用いた費用便益分析。
 純粋時間選好率 ρ=3%, θ=1 (r=6%)
 Modestな炭素税を推奨。早急なCO2削減やその逆の小さなCO2削減
を批判。

Cline (1992)
 気候変動に関する数多くのシナリオを想定した費用便益分析。
 世代間公正の観点からρ=0%, θ=1.5とする。 (r=1.5%)
 早急かつ大きなCO2削減を推奨。

Broome (1992)
 著書の約半分を割引の問題に割く。結論として、純粋時間選好率ρ=0
を主張。
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地球温暖化政策と割引率:スターン・レビューを巡る議論

スターン・レビュー(2006)
 ρ=0.1%、θ=1、 c c =1.3%を使用 (r=1.4%)。ρ=0.1%は、世代間公正の観点に
基づいて設定。
 ①気候変動の被害は長期かつ甚大である②気候変動を回避するためのコストは
高くはない③早期の対応は経済的に有利である、と結論。

Nordhaus (2007)
 現実の利子率rが4%、経済成長率が1.3%の場合、もし純粋時間選好率ρをゼロ
にするなら、消費の限界効用の弾力性θは3でなければならない(スターン・レ
ビューでは1)。もしθが1ならば、ρは2.7%でなければならない(スターン・レビュー
では0.1%)。つまり、スターン・レビューのパラメーター設定は、現実に観測された
市場利子率や貯蓄率のデータと整合的でない。

Dasgupta (2006)
 スターン・レビューは世代間公正の観点から純粋時間選好率ρを小さくしているが、
一方でθが小さい。θは大きい方が平等性が高く、倫理的にはθ =2~4が望ましい
(スターン・レビューでは1)。
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5
本研究におけるシナリオ設定

スターン・レビュー(2006)、Nordhaus (2007)、Dasgupta (2006) それぞれ
の主張を考慮して純粋時間選好率 ρ と消費の限界効用の弾力性θ を設定
 ρ は0.1%(スターン・レビューの値)と3%(Nordhausの値)を組み合わ
せる
 θ は1.0 (一般的な値)と3.0 (Dasguptaの主張を考慮)を組み合わせる

Weitzman (1998) に従って割引率を不確実と考え、 ρ = 0.1%(スターン・レ
ビューの値)と3%(Nordhausの値)を均等に加重平均したケースも想定

各シナリオにおけるパラメータ設定
ρ : 純粋時間選好率
θ : 消費の限界効用の弾力性
0.1%
1.0
3%
1.0
(c) Prob. ρ + Small θ
0.1% と3% を均等に加重平均
1.0
(d) Small ρ + Large θ
0.1%
3.0
(e) Mid ρ + Large θ
3%
3.0
(f) Prob. ρ + Large θ
0.1% と3% を均等に加重平均
3.0
Run
(a) Small ρ + Small θ
(b) Mid ρ + Small θ
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純粋時間選好率ρの変更とその影響
1
t
1


 

割引要素の計算式
R t  

ρ=Prob. における割引要素
R t   0.5
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1
1

0.5

t
t
1

0.001
1

0.03




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モデルの構造
ラムゼーモデル
T
1
max 
t
t 0 1   
 ct1 
1   


Kt 1  1    Kt  It
Yt  t  Kt L1t 

 1
 
Yt  Ct  It  pt Et
 t  Et  

 1


 1
pt  pF ,t 1  St  +pN ,t St
Learning by doing
ロジスティック曲線
dSt
 aSt 1  St 
dt
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pN ,t
 Wt 
 pN ,0  
 W0 
b
t 1

Wt   S 1E 1  1   N  S E
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 0

8
昨年度版のモデルとの違い

昨年度版モデルでは、効用関数がLog型であった。これは消費の限界効用
の弾力性θが1.0に固定されていることを示す。本年度版のモデルでは、θを
変更可能とした。
T
昨年度版
max 
t 0
T
本年度版

1
1  exp -dt 
t
log  ct 
0
1
max 
t
1


t 0 

 ct1 


1




昨年度版のモデルでは、化石燃料価格を不変としていたが、本年度版のモ
デルではNordhaus (2000) にならい、化石燃料の累積採掘量の増大ととも
に化石燃料価格が上昇するように修正した。
pF t   qF t   Markup
 CumC  t  
qF  t   1  2 
max 
CumC


2008/6/5
Markup:輸送・分配費用、税
4
CumC:化石燃料累積採掘量
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9
割引率以外についての設定

CO2の安定化濃度は500ppm に設定し、この濃度を超えない範囲で効用の
総和を最大化するCO2削減経路を計算(費用-効果分析)

昨年度の研究と同様、ロジスティック曲線の係数aとLearning-by-doingの
経験指数bを変化させる

ロジスティック曲線の係数aと経験指数b の組み合わせ
a:ロジスティック曲線の係数
b:経験指数
STC + LL
0.05
0.1
STC + HL
0.05
0.5
FTC + LL
0.15
0.1
FTC + HL
0.15
0.5
STC: Slow Technological Change
LL: Low Learning
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FTC: Fast Technological Change
HL: High Learning
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10
最適CO2削減経路: STC (Slow Technological Change) + LL (Low Learning)
16
Reduced emission (GtC)
14
ρ=0.1%, θ=1
12
ρ=3%, θ=1
10
ρ=Prob., θ=1
8
ρ=0.1%, θ=3
6
ρ=3%, θ=3
ρ=Prob., θ=3
4
2
0
2150
2140
2130
2120
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2110
2100
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2030
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2010
2000
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最適CO2削減経路: STC + HL (High Learning)
16
Reduced emission (GtC)
14
ρ=0.1%, θ=1
12
ρ=3%, θ=1
10
ρ=Prob., θ=1
8
ρ=0.1%, θ=3
6
ρ=3%, θ=3
ρ=Prob., θ=3
4
2
0
2150
2140
2130
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12
最適CO2削減経路: FTC (Fast Technological Change) + LL
16
Reduced emission (GtC)
14
ρ=0.1%, θ=1
12
ρ=3%, θ=1
10
ρ=Prob., θ=1
8
ρ=0.1%, θ=3
6
ρ=3%, θ=3
ρ=Prob., θ=3
4
2
0
2150
2140
2130
2120
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13
最適CO2削減経路: FTC + HL
16
Reduced emission (GtC)
14
ρ=0.1%, θ=1
12
ρ=3%, θ=1
10
ρ=Prob., θ=1
8
ρ=0.1%, θ=3
6
ρ=3%, θ=3
ρ=Prob., θ=3
4
2
0
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2140
2130
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2020
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2000
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結果の観察:最適CO2削減経路

純粋時間選好率ρが小さいほど大きなCO2削減が最適となる

θが小さいほど大きなCO2 削減が最適となる

純粋時間選好率に不確実性を導入し、ρ=0.1%とρ=3%が同じ確率で起こると
仮定すると、 CO2 削減経路はρ=0.1%のケースと非常に近くなる。つまり、純
粋時間選好率が不確実なケースの結果は、スターンレビューの結果と似る。

ロジスティック曲線の係数aとLearning-by-doingの経験指数bを変化させても、
上記の結果は変わらない。また、それ以外のパラメーター(CO2の安定化濃度
など)を変化させても同様である。
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15
新エネルギーのシェアの時間変化:昨年度発表(環境経済・政策学会)より

Larger learning rate makes the starting point of diffusion earlier

STC (slow technological change) acts as a “friction” to technology
switch, making the starting point of technology diffusion further
earlier so as to achieve the emission reduction target
Share of new energy (%)
80%
70%
60%
STC + LL
STC + HL
FTC + LL
FTC + HL
50%
40%
30%
20%
10%
0%
2150
2140
2130
2120
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2110
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新エネルギーのシェアの時間変化: STC + LL
80%
70%
ρ=0.1%, θ=1
Share of new energy (%)
60%
ρ=3%, θ=1
50%
ρ=Prob., θ=1
ρ=0.1%, θ=3
40%
ρ=3%, θ=3
30%
ρ=Prob., θ=3
20%
10%
0%
2150
2140
2130
2120
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2010
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新エネルギーのシェアの時間変化: STC + HL
80%
70%
ρ=0.1%, θ=1
Share of new energy (%)
60%
ρ=3%, θ=1
50%
ρ=Prob., θ=1
ρ=0.1%, θ=3
40%
ρ=3%, θ=3
30%
ρ=Prob., θ=3
20%
10%
0%
2150
2140
2130
2120
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2110
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2000
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新エネルギーのシェアの時間変化: FTC + LL
80%
70%
ρ=0.1%, θ=1
Share of new energy (%)
60%
ρ=3%, θ=1
50%
ρ=Prob., θ=1
ρ=0.1%, θ=3
40%
ρ=3%, θ=3
30%
ρ=Prob., θ=3
20%
10%
0%
2150
2140
2130
2120
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2010
2000
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新エネルギーのシェアの時間変化: FTC + HL
80%
70%
ρ=0.1%, θ=1
Share of new energy (%)
60%
ρ=3%, θ=1
50%
ρ=Prob., θ=1
ρ=0.1%, θ=3
40%
ρ=3%, θ=3
30%
ρ=Prob., θ=3
20%
10%
0%
2150
2140
2130
2120
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2000
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結果の観察:新エネルギーのシェアの時間変化

純粋時間選好率ρが小さいほど早期における新エネルギーへの転換が最適と
なる

θが小さいほど早期における新エネルギーへの転換が最適となる

ρ=0.1%とρ=3%が同じ確率で起こると仮定した場合、 新エネルギーの普及経
路はρ=0.1%のケースと非常に近くなる。

ロジスティック曲線の係数aとLearning-by-doingの経験指数bを変化させても、
上記の結果は変わらない。また、それ以外のパラメーター(CO2の安定化濃度
など)を変化させても同様である。
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21
CO2 削減によるGWP損失:昨年度発表(環境経済・政策学会)より

GWP loss largely depends on the learning rate

Pathways with the same learning rate are close or the same in the
early and late period
8%
GWP Loss
6%
STC + LL
STC + HL
FTC + LL
FTC + HL
4%
2%
0%
2150
2140
2130
2120
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2100
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2010
2000
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22
CO2 削減によるGWP損失: STC + LL
8%
7%
ρ=0.1%, θ=1
6%
GWP Loss (%)
ρ=3%, θ=1
5%
ρ=Prob., θ=1
ρ=0.1%, θ=3
4%
ρ=3%, θ=3
3%
ρ=Prob., θ=3
2%
1%
0%
2150
2140
2130
2120
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23
CO2 削減によるGWP損失: STC + HL
8%
7%
ρ=0.1%, θ=1
6%
GWP Loss (%)
ρ=3%, θ=1
5%
ρ=Prob., θ=1
ρ=0.1%, θ=3
4%
ρ=3%, θ=3
3%
ρ=Prob., θ=3
2%
1%
0%
2150
2140
2130
2120
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CO2 削減によるGWP損失: FTC + LL
8%
7%
ρ=0.1%, θ=1
6%
GWP Loss (%)
ρ=3%, θ=1
5%
ρ=Prob., θ=1
ρ=0.1%, θ=3
4%
ρ=3%, θ=3
3%
ρ=Prob., θ=3
2%
1%
0%
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CO2 削減によるGWP損失: FTC + HL
8%
7%
ρ=0.1%, θ=1
6%
GWP Loss (%)
ρ=3%, θ=1
5%
ρ=Prob., θ=1
ρ=0.1%, θ=3
4%
ρ=3%, θ=3
3%
ρ=Prob., θ=3
2%
1%
0%
2150
2140
2130
2120
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結果の観察: CO2 削減によるGWP損失

純粋時間選好率ρが小さいほど早期においてGWPの損失が大きくなる

θが大きいほど後期におけるGWPの損失が大きくなる。

ρ=0.1%とρ=3%が同じ確率で起こると仮定した場合、最適CO2削減経路と新
エネルギーの普及経路における結果と若干異なり、 ρ=0.1%におけるGWP損
失経路とρ=3%おけるGWP損失経路の中間付近を通ることもある(但し、パラ
メーター設定に大きく依存)。

ロジスティック曲線の係数aとLearning-by-doingの経験指数bを変化させると、
GWP損失経路のパターンが若干変化する場合がある。
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