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GPS/GNSSシンポジウム2005
東京海洋大学
Nov. 16-18, 2005
準天頂衛星
サブメータ級補強機能の性能評価
坂井 丈泰 (電子航法研究所)
Nov. 2005 Sakai, ENRI
Introduction
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• 我が国は、2008年頃の衛星打上げを目指して準天頂衛星シ
ステム(QZSS)を計画中。
• 8の字軌道で高仰角から測位・放送サービスを提供。測位ミッ
ションについては、基本的にGPSの補完あるいは補強を行う。
– 補完=GPS同様の信号を追加
– 補強=ディファレンシャル補正情報+インテグリティ情報
• 各省庁・研究機関が研究開発を分担。電子航法研究所は、サ
ブメータ級補強情報サービスの開発を担当。
• 現在、サブメータ級補強信号の内容について、SBAS(静止衛
星によるGPS補強システム)をベースとして検討中。プロトタイ
プを作成し、性能評価を試みた。
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(1)サブメータ級補強信号の
概要
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サブメータ級補強信号(L1-SAIF)
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• 我が国全域を対象としたディファレンシャル補正情報+インテ
グリティ情報。 L1-SAIF信号(Submeter-class Augmentation
with Integrity Function)。
• GPS L1周波数で放送。
– GPSと同一のアンテナ・受信回路を共用できる。
– 距離の測定も可能(L1 C/Aコードと同じ)。
• 補強対象:GPS、準天頂衛星、(ガリレオ)、(その他)。
– 補強 = 補正 + インテグリティ
– 目標精度=1m。
– 準天頂衛星のL1C信号やL1 C/A-like信号も補強可能。
– 広域補強情報:広域ディファレンシャル補正方式で日本全域をカバー。
• インテグリティ情報あり:信頼性の高い位置情報。
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サブメータ級補強信号(続き)
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• L1 C/A信号との違いは、乗せられている情報だけ。
– L1-SAIF信号により、距離の測定もできる。
– 航法メッセージに加えて各種補強情報を放送し、測位精度・インテグリ
ティを改善。
– さらに追加的な情報の放送も可能(航法以外もOK)。
• 補完ではなく「補強」:衛星が増えるだけではない。
– いままでできなかった機能の実現:例えば…
– 災害情報等の放送。
– TTFF(time to first fix)の改善:「いつでも・どこでも」に加え、「すぐに」
• すでに実用化されているSBAS(静止衛星による補強システ
ム)をベースとして開発。
– 実現性については実績がある。
– 受信機ソフトウェアの負担は最小限。
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インテグリティとは
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• 完全性(integrity):航法システムが出力する位置情報の正し
さ。「GPSが出力している経緯度は果たして正しいか?」
– 実際に異常な位置を出力する例がある。
• 万が一、位置情報に誤りがあると危険な応用(safety-of-life
application)がある:
– 交通機関(特に航空機)の航法・測位、衝突防止。
– 精密農業等、工作機械の自動運転。
– 犯罪捜査や事故記録関係。
• GPSはインテグリティを保証していない。
– 精度や信頼性の規定はあるが、インテグリティについては規定なし。
– GPSだけでは安全性を確保できない。
– 航空分野では、国の責任でインテグリティ確保の仕組みを整備
(MSAS)。
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異常測位の実例
3時間半
100km
• 2004年1月2日(JST)明け方にPRN23衛星が故障。位置情報に数10kmの誤差。
• 3時間後にようやくPRN23衛星が使用不可とされ、復旧した。
• 受信機によって反応が異なる:ディファレンシャル処理では補正できない。
→ 正しい対処にはインテグリティ情報が必要。
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補強メッセージ検討
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• 目的:日本全域に対して有効な広域補強情報をリアルタイム
にユーザに伝送し得るメッセージ構成であること。
• 制約:データレートは 250bps 以内。
• すでに実用化されているSBAS(静止衛星による補強システ
ム)メッセージをベースとする。
– 静止衛星依存部分は準天頂衛星向けに変更する。
– 電離層・対流圏伝搬遅延については、高精度化が可能な拡張メッセー
ジを検討する。
– 実現可能な測位精度について予備検討が必要(量子化単位は12.5
cmのままでよいか?)。
• 実際にSBASベースの補強メッセージで所要の性能が達成で
きるか? → 今回、プロトタイプにより評価した。
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広域ディファレンシャル補正方式
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衛星クロック誤差
電離層遅延(~100m)
• ユーザ位置の関数
• 垂直構造は薄膜で近似
など
電離層
• ユーザ位置の関数ではない
• すべてのユーザに対して
同じ寄与
• SA ONなら速い変動
衛星軌道情報の誤差
• ユーザ位置の関数ではない
• 寄与の程度はユーザ位置による
(視線方向成分が問題)
• 変動の周期は数10分以上
対流圏遅延(~20m)
対流圏
• ユーザ位置(特に高度)の関数
• モデルによる補正が有効
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補正情報の具体的内容(SBAS)
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• 衛星クロック補正:エフェメリスから得た衛星クロックに対する
補正量。
• 衛星軌道補正:エフェメリスから得た衛星のECEF直交座標値
に対する補正量。Δx、Δy、Δzの3成分。
• 電離層遅延補正:経緯度で5度毎に設定された格子点(IGP)
における垂直遅延量として放送。
– ユーザ側ではあらかじめ決められた内挿法(双一次線形補間)
により必要な位置(IPP)における遅延量を得る。
– 垂直構造は薄膜で近似。衛星の仰角により垂直→傾斜変換。
• 対流圏遅延補正:モデルにより遅延量を計算する。
– 衛星の仰角により垂直→傾斜変換する。
– 拡張メッセージについては今回は考慮しない。
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クロック/軌道誤差分離
• 対流圏遅延・電離層遅延を除いた測距誤差は、衛星クロック
誤差と軌道情報の誤差の線形結合。
• クロックと軌道誤差の性質の違いを利用して、これらを分離:
– 衛星クロック誤差:すべてのユーザに一様な誤差となる。
– 軌道誤差:ユーザ位置によって影響が異なる。それぞれのユー
ザにとっての視線方向成分が誤差として現れる。
衛星位置の誤差
ユーザ2にとっ
ての軌道誤差
エフェメリスによる位置
ユーザ1にとっ
ての軌道誤差
ユーザ1
真の位置
ユーザ2
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クロック/軌道誤差分離
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• マルチパス誤差などを避けるため、比較的長い時定数を持た
せてカルマンフィルタで処理する。
• 多数のモニタ局が幾何学的にまんべんなく分布しているほう
が分離しやすい:
– ただし、ディファレンシャル補正を行うことが目的なので、必ずし
も完全に分離する必要はない。
– モニタ局はサービスエリア内でなるべく広い面積をカバーするよ
うに配置するとよい。
• 精密軌道情報がリアルタイムに取得できる場合は、それを利
用してもよい。
– サービスエリア端においても有効な補正情報を期待できる。
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電離層伝搬遅延補正
• 今回のプロトタイプでは、MSAS/WAASが採用している
プレーナフィット(planar fit)方式を利用:
– 平面モデル:IGP周辺の電離層垂直
遅延量が経緯度の一次関数になる
ものとして、IGP位置における遅延量
を求める。
– 周波数間バイアス:電離層
遅延量の測定で問題となる
周波数間バイアス(IFB)は、 電離層遅延量
リアルタイムに推定・除去。
IGP
Rmax
• 推定処理は1分毎に実行
(IFB推定は10分毎)
IGPにおける垂直遅延量の推定値
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インテグリティ情報
• プロテクションレベル方式:ユーザ測位誤差の上限をプロテク
ションレベルと呼び、これを計算するためのパラメータをユー
ザに放送する。
• ユーザ受信機側では、与えられたパラメータから自己の位置
におけるプロテクションレベルを求めることで、測位誤差の上
限がわかる。
95%測位精度
• パラメータ:測距誤差・電離層遅延
危険率
補正残差の不確実性など
• 上限を超える確率
=インテグリティリスク
測位誤差
プロテクションレベル×2
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プロテクションレベルの使い方
航法モード
垂直誘導付進入
APV-I
垂直誘導付進入
APV-II
精密進入
CAT-I
垂直AL(VAL)
50 m
20 m
→ プロテクションレベル
• ユーザ測位誤差の上限値(危険率10–7 )。
• 水平方向:HPL、垂直方向:VPL
• PLと警報限界(Alert Limit)を比較し、
AL<PLなら利用不可とする:
ユーザ測位誤差はALを超えない。
• プロテクションレベルの計算に
必要なパラメータがインテグリティ
AL
情報として放送される。
インテグ
リティ
インテグリティOK
使用不可(警報)
正常動作
通常の
分布
インテ
グリティ
リスク
利用不可
利用可
HMI
(危険情報)
0
0
10~15 m
トライアングルチャート
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AL
→ ユーザ測位誤差
アベイラ
ビリティ
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(2)プロトタイプシステムによる
性能評価
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L1-SAIFプロトタイプシステム
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• PC上で動作するプロトタイプシステムを作成した。
– モニタ局データを入力として、実際に補強メッセージを生成する。
• 準天頂システムの5モニタ局、あるいはMSASと同じ6モニタ局
で、電離層活動の違いにより3つの時期について計算を実行。
– 時期I
– 時期II
– 時期III
静穏
磁気嵐
強い磁気嵐
2004年6月22~24日
2004年7月22~24日
2004年11月8~10日
• 利用するのは二周波の擬似距離のみ。
– 国土地理院GEONETのデータを使用(30秒サンプル)。
– 搬送波位相は使わない。
– 今回の補強対象はGPSのみ:準天頂衛星の観測データは無いので。
• 完全なSBASメッセージを毎秒生成、ファイルに記録。
– 毎秒250ビットのデータレート。
– NovAtelフォーマット($FRMAレコード)を流用。
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補強メッセージのサンプル
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$FRMA,272,86403.130,134,80811EA4,250,53081FFDFFDFFDFFDFFDFFDFFDFFDFFDFFD
FFDFFDFFFBBBBBBBBBBBBAC1CD280*7C
$FRMA,272,86404.130,134,80811EA4,250,9A0C1FFDFFDFFDFFDFFDFFDFFDFFDFFDFFD
FFDFFDFFFBBBBBBBBBBBBB7E76F80*0F
$FRMA,272,86405.130,134,80811EA4,250,C661FFDFFDFFDFFDFFDFFFBBBBB880000000
0000000000000000000036CD8A40*70
$FRMA,272,86406.130,134,80811EA4,250,5306FFBFFFF8000000000000000000000000000
000000000000000002B963FC0*0D
$FRMA,272,86407.130,134,80811EA4,250,9A091FFDFFDFFDFFDFFDFFDFFDFFDFFDFFD
FFDFFDFFFBBBBBBBBBBBB806D3340*77
$FRMA,272,86408.130,134,80811EA4,250,C60D1FFDFFDFFDFFDFFDFFDFFDFFDFFDFFD
FFDFFDFFFBBBBBBBBBBBB924AAE40*08
$FRMA,272,86409.130,134,80811EA4,250,5361FFDFFDFFDFFDFFDFFFBBBBB890000000
00000000000000000000021FE640*73
時刻
$FRMA,272,86410.130,134,80811EA4,250,9A61FFDFFDFFDFFDFFDFFFBBBBB8A0000000
メッセージタイプID
0000000000000000000039994D00*05
CRC
衛星PRN番号
(左6ビット)
$FRMA,272,86411.130,134,80811EA4,250,C60A1FFDFFDFFDFFDFFDFFDFFDFFDFFDFFD
(WAAS-PORと同
FFDFFDFFFBBBBBBBBBBBBA6BE8CC0*03
じ)
プリアンブル
メッセージ長
$FRMA,272,86412.130,134,80811EA4,250,530E1FFDFFDFFDFFDFFDFFDFFDFFDFFDFFD
FFDFFDFFFBBBBBBBBBBBBA99E5040*0A
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ユーザ受信機シミュレータ
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• ユーザ受信機シミュレータも、PC上で動作する計算機プログ
ラム。
• ユーザ局における観測データを入力として、測位計算を実行:
–
–
–
–
SBAS補強メッセージも入力された場合、これを適用する。
測位結果のほか、プロテクションレベルも計算。
補強メッセージは、NovAtelフォーマット($FRMAレコード)。
SBASとの区別は特にない。
• 一周波の擬似距離のみを利用。
– 国土地理院GEONETのデータを使用(30秒サンプル)。
– 搬送波位相は使わないが、キャリアスムージングを適用。
• 航法ユーザを想定し、出力フィルタは無し。
– スムージング等はかけていない。
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モニタ局およびユーザ局の配置
● モニタ局
● ユーザ局
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● モニタ局
● ユーザ局
(南鳥島→父島に変更)
MSAS 6局
QZSS 5局
• MSASモニタ局の設置場所
• さらにハワイとオーストラリアに標定
局がある
• JAXAが設置するモニタ局の候補地
• 実際には、補強情報生成用にはさ
らにGEONETを利用できる
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補正量のサンプル
PRN 01
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ユーザ測位誤差(御前崎:水平)
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RMS誤差
1.842m (S/A)
0.423m (QZSS)
0.423m (MSAS)
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ユーザ測位誤差(御前崎:垂直)
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RMS誤差
2.958m (S/A)
0.833m (QZSS)
0.692m (MSAS)
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ユーザ測位誤差(水平方向)
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御前崎(時期II)
男鹿(時期II)
S/A 1.842m / QZSS 0.423m / MSAS 0.423m
S/A 1.863m / QZSS 0.657m / MSAS 0.691m
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測位精度の比較
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RMS値、単位 [m]
条件
男鹿
御前崎
高山
高知
水平 垂直 水平 垂直 水平 垂直 水平 垂直
時期I
(静穏)
単独
1.566 3.003 1.909 3.083 1.813 3.300 1.627 3.020
QZSS 5局 0.688 0.854 0.471 0.822 0.510 0.775 0.627 0.920
MSAS 6局 0.674 0.744 0.437 0.746 0.462 0.693 0.450 0.727
時期II
(磁気嵐)
単独
1.863 3.349 1.842 2.958 1.929 3.305 1.837 3.058
QZSS 5局 0.657 0.744 0.423 0.833 0.470 0.719 0.709 0.885
MSAS 6局 0.691 0.748 0.423 0.692 0.453 0.640 0.479 0.653
単独
3.151 4.867 3.585 5.624 3.125 5.342 3.171 5.143
時期III
QZSS 5局 2.958 2.561 1.641 2.046 1.756 2.119 1.552 2.455
(強い磁気嵐)
MSAS 6局 2.008 2.561 1.375 1.659 1.257 1.624 1.265 1.815
(一周波、30秒サンプル、キャリアスムージングあり)
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補正性能の傾向
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• 強い磁気嵐が発生していない限り、QZSS 5局のモニタ局配置で、
水平・垂直とも測位誤差を1m以内に抑えられる。
–
–
–
–
–
補強情報のデータレートは、250bps。
ユーザ側は一周波のコード擬似距離のみを使用。
量子化単位は 12.5cm で、SBASと同じまま。
水平0.4~0.7m、垂直0.6~0.9m程度の測位誤差(RMS値)。
強い磁気嵐のもとでは、補正情報に改善の余地がある。
• モニタ局の配置については、MSAS配置のほうが若干有利。
– QZSSに比べてコンパクトにモニタ局が配置されているため。
– ただし、サービスエリア端部での測位精度は要検証。
– QZSSは、GEONETを利用してモニタ局を追加できる。
• 実際には1秒サンプルの観測データが利用でき、キャリアスムー
ジングが有効に作用して測位精度は若干改善する。
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プロテクションレベル(水平)
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プロテクションレベル
現実の測位誤差
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プロテクションレベル(垂直)
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プロテクションレベル
現実の測位誤差
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Conclusion
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• 準天頂衛星サブメータ級補強信号(L1-SAIF)の検討を進めている。
– すでに実用化されているSBAS方式をベースとする方針。
– プロトタイプシステムにより、実際の補強メッセージを生成したうえで、ユーザ
測位精度の実証的評価を行った。
• SBAS方式の広域補強情報(250bps)により、所要の測位精度は
達成可能:
– ユーザ側は一周波のコード擬似距離のみを使用。
– 強い磁気嵐が発生していない限り、水平0.4~0.7m、垂直0.6~0.9m程度の
測位誤差(RMS値)。
– 強い磁気嵐のもとでは、補正情報に改善の余地がある。
• 今後の検討課題:
– 1秒サンプルによる準リアルタイム評価
– モニタ局を追加:GEONETの利用を想定
– 磁気嵐の際の補強性能改善:電離層モデルの改良