決算書の読み方 - まなぶ情報総研

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決算書の読み方 まなぶ情報総研 薄田 学

■はじめに 1.決算書のあらまし 2.解説決算書 ■貸借対照表 3.貸借対照表の仕組み 4.勘定科目や固定・分配のルール 5.もうひとつの貸借対照表 ■損益計算書の読む 6.損益計算書は利益獲得内訳書 7.段階利益の説明 8.損益計算書の所見 ■貸借対照表を読む 9.会社経営の健康診断 10.頭の痛い運転資金と固定資産 11.資金バランスを見抜く 12.資金バランスはイメージで覚える 13.勘定科目の意味を正確に掴む 14.運転資金を見直す 15.貸借対照表の落とし穴 16.探索を楽しむ ■損益計算書を読む 17.読みこなすコツ その1 18.読みこなすコツ その2 19.増収増益の原因を探す 20.売上総利益の読み方 21.営業利益の読み方 22.税引前当期利益の読み方

■決算書の読み方

1.決算書のあらまし

①決算書の必要性 決算書はなぜ必要か。会社の会議の場などで、例えば、「今期の利益」「今月の売上」とか業績に関する報告が議題に上がります。 これはいったいなぜなのでしょうか。 それは従業員の働きをチェックするためでしょうか。 それとも賞与の支給額を決定するためでしょうか。 そのもっとも根本的な理由は、株式会社組織、つまり事業の元手を出資する資本家と会社の経営を任されている経営者の関係にある のです。資本家は経営者に元手 ( お金等 ) を預け、商売をさせ、それによる利益を分配してもらう仕組となっているからです。 もし事業の解散時期があらかじめはっきりしている場合とか、企業が1回の取引毎にいちいち清算するようなものであれば、特に1年 などの期間で区切って儲けを計算する必要がありませんし、すべての取引による収入と支出を最後に計算すればよいはずです。 ところが近代企業は半永久的に商売を続けることを前提としているので、資本家としては途中のどこかで利益を清算して、利益を分配 してもらう必要があるのです。 そこで一定の期間で区切って儲けの計算をする仕組ができ、この計算のことを「決算」と呼びます。 わが国では、会社法や税法などの法律によってすくなくとも1年に1回は決算を行って、適正な利益を計算することが定められています。 そして、それに基づいて税務申告や決算公告を行なうことが義務づけられています。 ②決算と決算書 もし、皆さんが資本家の立場だったら決算にあたって何を望むのでしょうか。 もちろん、利益を配分してもらうことは当然ですが、儲かったのか損したのか、儲かったとすればいくら儲かったか、預けたお金はどの ように使われ、いまどんな状態にあるのか、そんな様々な情報について報告して欲しいと考えるのではないでしょうか。 そこで、このような決算におけるいろいろな要求にこたえるためにわかりやすい報告書類が作成されます。そして決算に関する報告書 こそが、「決算書」なのです。

2.解説決算書( 1/2 )

①決算書の中身 一口に決算書と呼びますが、実際には決算書にはいくつかの書類から成り立っています。 すなわち、決算書とはそれらの報告書類の総称ということになります。 「貸借対照表」「損益計算書」「株主資本等変動計算書」「注記表」「事業報告」この5種類から成り立っている。 場合によっては「製造原価報告書」を含めて6種類とするケースもあります。 また最近は米国にならって大会社については「キャッシュフロー計算書」が加えられるようになってきました。

決 算 書 損益計算書 貸借対照表 事業報告書 株主資本変動計算書 注記表 ・・・

1

事業期間の営業状態を表す ・・・決算日時点での財産状況を表す ・・・事業年度の詳しい活動状況 ・・・余剰金の分配状況 ・・・計算書類の注記

2.解説決算書 (2/2)

②損益計算書と貸借対照表 決算の最大の目的は、その事業年度における利益の計算にあります。 この利益の計算に関する役割を担っているのが損益計算書です。 ただ利益の金額だけさえわかればよいというなら「今期の利益はOOO万円でした。」で済んでしまいますが、これでは、資本家の納得を 得られそうにありません。 やはり売上・経費がどのくらいかかって、そのうち人件費がどのくらいといった具合に、詳しい説明が必要です。そこで、損益計算書でそ の辺を報告するわけです。 ところで、商売が順調に拡大していくと資金が足りなくなって借金をするケースが出てきます。 また、当初の元手が現金だったとしても、1年間の商売を通じて手形をもらったり、預金をしたりと、財産の内容は日々変化していきます。 資本家としては自分が拠出した元手がどんな状態にされているかを知りたくなってきます。 そこで、財産の状態を報告するために貸借対照表が作成されます。 ( 損益計算書・貸借対照表は所定の様式に基づいて作成されます。 ) ③事業報告と株主資本等変動計算書 ただ単に決算書といったときは、損益計算書と貸借対照表、時にはキャッシュフロー計算書を含めた3種類だけを指します。しかし、より わかりやすく説明する役目を担っているのが事業報告です。 事業報告には、今期の営業の状況や今後の見通し、経営課題などが文章で書き表されています。 最後に、資本家の究極の楽しみである利益の分配について報告するためのものが株主資本等変動計算書です。 株主資本等変動計算書には、会社の利益をどれだけ資本家に分配し、どれだけ社内に留保するかといったようなことが書かれています。 ④キャッシュフロー計算書 最近キャッシュフロー計算書という言葉を聞くようになりました。 儲かったかどうかは損益計算書でわかります。現金があるかどうかは貸借対照表でわかります。 この2つの決算書で会社の状態はほぼわかるのですが、キャッシュフロー計算書はお金(キャッシュ)が増えたか、どんな活動からお金 が増えたかを見る計算書です。 儲かっていればお金が増えると思いがちですが一時的ですが、増えない場合があるのです。 そのお金の動きを知るのがキャッシュフロー計算書なのです。

■貸借対照表

3.貸借対照表の仕組み (1/4)

①経営者の通信簿 経営とは限られた事業資金を効率的に使い資金を増やすこと、そして獲得した利益を分配していくことです。 そうだとすると損益計算書や貸借対照表は1年間のお金の使い方を記述しているわけですからこれを読めば経営のうまい、へたを読み 取ることができるはずで決算書はいわば「経営者の通信簿」といってよいものなのです。 ②純資産(自己資本)と利益 事業がうまくいって儲かってくると、だんだんお金が増えてきます。 その反対に事業がうまくいかなければ、お金は減ってしまいます。 このお金の増減をわかりやすく示すと下図のようになります。 返さなくてもいいお金のことを純資産(自己資本)と呼ぶことにすると「利益とは純資産(自己資本)の増殖である」となります。 この純資産(自己資本)と利益という概念は、決算書を読みこなす上で、非常に重要かつ基本的なものですからしっかり覚えてください。

元 手 自己資本

1

年間 利益

3.貸借対照表の仕組み (2/4)

③2つの見方 純資産(自己資本)の増減(元手±利益) を現金や預金のようなプラスの財産と借入金(返さなければならないという意味で)のようなマ イナスの財産として示すのが「貸借対照表」で、その増減の経過 (理由)を要因別にまとめたものが「損益計算書」です。両者は非常に密 接な関係にあります。 「損益計算書」は、1年間でどれほど純資産(自己資本)が増減(利益or損失)したか、その理由は何か、ということを説明するために1年 分の取引を要因別に集計したものです。 「貸借対照表」は、決算期末日現在という瞬間をとらえ、その時の財産内訳を示したものです。 損益計算書と貸借対照表は、企業活動という1つの対象をフローの面とストックの面という2つの視点から眺めたものなのです。 また、「損益計算書」で計算された利益を検算する機能も持っています。会社の損益計算書も財産の増加を持って利益とみなすという考 え方が成り立ちます。 貸借対照表は損益計算書で計算された利益について財産の増減という視点から再計算しているということもできるのです。 小切手 株券 商品 製品 ソフト 開発費

資産

工場

負債 (他人資本) 純資産 (自己資本) 合計額が一致 運用形態(

\

) (

\

)調達方法

3.貸借対照表の仕組み (3/4)

②貸借対照表 上の図が簡単な貸借対照表です。これは「勘定式」と呼ばれる表示形式のもので、見た通り左右に分けられた1枚の表にすぎません。 貸借対照表は、一般的に「資本の調達源泉とその運用形態を示します」と説明されています。 ③資本の運用形態 貸借対照表の左側には会社の「資産」が一覧出来るように書かれています。 ところで事業で使われる財産は現金や預金以外に工場や機械・設備等も必要です。 もちろん、これら(工場・機械・設備等)はお金で買ったことに間違いありませんが、これらはもはやお金と呼ぶわけにはいきません。 また、取引をしていく中で「後払いで売ったり」「手形をもらったり」することがあります。 これらの「後でお金をいただける権利」を「債権」といいます。 形態はさまざまですが現金の代わりをなすこれら財産を総称して「資産」と呼びます。 一口に資産といっても会社を運営していくためには様々なものがあるのです。 このように会社経営には、資金(現金・預金)を他の資産に運用していかなければなりません。このため貸借対照表の左側は「資本の運 用形態」と説明されます。 ④資本の調達源泉 貸借対照表の右側は「純資産(自己資本)」と「負債(他人資本)」に大きく分けられます。 「純資産(自己資本)」とは、返さなくてもいい自分の元手のことです。 「負債(他人資本)」とは、自分の元手だけではまかないきれなかった部分を他人から調達した、いずれ返さなくてはならないもので借入 金などの借金のほかに 買掛金などが含まれます。 このため、純資産を「自己資本」また負債を「他人資本」と呼ぶことがあります。 ⑤合計金額が一致 様々な方法で調達した資本(自己資本と他人資本)を様々な資産として運用していきながら会社は日々活動しているのです。 このため、資本の調達と運用は同じ会社財産の表と裏の関係にあり、表現方法の違いにすぎません。 従って、両者の合計金額は必ず一致します。 貸借対照表は、別名「バランス・シート」といい「B/S」と略され意味は、左右の合計額が、 必ず一致するという性質を示しているのです。 ※ 資産は原則として買った値段で評価する決まりがあります。(取得原価主義)

4 .勘定科目や流動・固定の分類ルール (1/3)

会社の資産には実に様々なものがあり、その数も膨大なものになります。 そこで、資産、負債(他人資本)、純資産(自己資本)について分類のルールを定めて、まとめることになっています。 例えば、事務机や椅子、LANサーバなどは「器具備品」として一つにまとめて合計金額で表示します。このような分類するときの名称 を 「勘定科目」といいます。(勘定科目については会社法などの法律によって定められています。) ①流動・固定とは 図を見ていただくと貸借対照表はもう1つ重要なルールに従って作成されています。 すなわち、資産を「流動資産」と「固定資産」、負債を「流動負債」と「固定負債」とに大きく分けています。 実は、この流動と 固定という分類には非常に重要な意味があります。 というのも、貸借対照表を利用して財務内容の分析を行なう場合、最も基本的な役割を果たすからです。 ②現金との距離とは 会社の財産の中で最も基本的な財産は何かといえば、やはり現金でしょう。 現金以外のすべての資産は、現金で買ったか、預金や貸付金のように現金が姿を変えたものとみることが出来ます。 そしてすべての資産は経営活動を通じて、再び現金として帰ってきます。 流動負債 流動資産 負債 資産 固定負債 固定資産 純資産

4 .勘定科目や流動・固定の分類ルール (2/3)

【製造業の例】 製造業は、現金で購入した材料を機械などで加工して製品を作り、これを販売します。 販売した製品は売掛金という債権に変わり、いずれ現金や預金として回収されます。 現金は、このような循環運動を繰り返しており、すべての資産はこの環の中のどこかに位置していることになります。 つまりそれぞれの資産によって現金化までの距離が異なるのです。

材料 現金 現金の循環運動 製品 売掛金

この現金化までの距離によって流動か固定かを区分するのです。 ※ 流動資産とは、決算から1年以内に現金化されるものをいいます。 ※ 固定資産とは、流動資産より長いものをいいます。 ( 1 年超) ※ 流動負債とは,決算から1年以内に支払わなければならない負債をいいます。 ※ 固定負債とは、流動負債より支払の長いものをいいます。(1年超) これを「ワン・イヤー・ルール」と呼びます。

4 .勘定科目や流動・固定の分類ルール (3/3)

①固定資産の分類 ここで固定資産の部分に着眼してみましょう。 固定資産の中分類として、「有形固定資産」「無形固定資産」「投資等」の3つに区分されています。 この区分は、会社法などの法律によって求められる記載ルールの1つです。 ※ 有形固定資産とは、建物や備品など「実体のある設備類」をいいます。 ※ 無形固定資産とは、借地権や特許権など「長期にわたって有効な権利」をいいます。 ※ 投資等とは、上記以外の固定資産をいいます。 負債と純資産も細かく分かれています。 ここで注意して欲しいことは、「純資産(自己資本)は元手と利益から成り立っている」ということです。

5 .もうひとつの貸借対照表

貸借対照表には勘定式と報告式の 2 種類が存在します。 貸借対照表の構造を理解してみると、重要なのは資産、負債(他人資本)、純資産(自己資本)がそれぞれいくらで、その内訳として各勘 定科目残高がいくらかということで、これらのことさえ読み取れれば用は足りるということです。 従って、報告式の貸借対照表でも勘定式と基本的に読み方は同じです。 ①損益計算から来た下宿人 勘定科目を順に見ていくと、不思議な勘定科目が見つかります。 「未収収益」「前払費用」「未払費用」「前受収益」などです。 これらは、資産や負債として積極的に貸借対照表に計上されるものではありません。 期間損益という会社の利益計算における特殊な事情から暫定的に貸借対照表に計上されたものです。 たとえば「未収収益」は本来今期に収益として計上しその対価を受け取りたいのですが、契約で請求する時期に至っていないため、権利 として資産に一時的に計上しているのです。 預金の利息などがそれにあたります。 ②正常営業循環基準 流動と固定の区分は、ワン・イヤー・ルールといって、1年を基準としています。 ところで、流動資産として記載されている、売掛金や棚卸資産の中には、1年以内の現金化がおぼつかないものが含まれていることが あります。 これは不良債権や滞留在庫です。 これは、上のルール違反といえるのではないでしょうか。 実は、売掛金、棚卸資産、買掛金はワン・イヤー・ルールの例外として、よほどのことがない限り、流動資産、流動負債として取り扱われ ることとなっています。 正常な営業活動から生じる中心的な資産、負債については単純に流動資産、流動負債とみなすという別のルールに基づいているので す。これを、「正常営業循環基準」といいます。

■損益計算書を読む

6 .損益計算書は利益獲得内訳書

①ムダ遣いしたらだめよ 損益計算書は、英語で「 Profit & Loss Statement 」といい、その略 称は「P/L」と呼ばれています。 ( ピーエル ) P/Lは、会社が1年間でどれだけの利益を稼ぎ出したか計算を する書類で資本増殖の理由を明らかにするものです。 資本家は自分のお金を経営の専門家に託して、利益を上げても らい、その分配を受取る仕組となっています。 これがいわゆる「所有と経営の分離」と呼ばれるもので、資本家 からすれば、自分が投資したお金がどのように使われているかを知 る権利があります。 その知る権利に答えるために経営を任されている経営者は経営 成績を決算書として報告するのです。 したがって業績が悪ければ、資本家はもっと優秀な経営者に経 営を託すことを考えるかもしれません。 損益計算書は、資本家のニーズに十分に応えられるように利益 獲得に至る過程を内訳書として示すよう作成されているのです。 ②報告式が便利とは 損益計算書にも報告式と勘定式の2つの様式があります。 (勘定式だと読みづらいからです) 報告式は上から下に損益を計算する形になっており、 計算の過 程が段階的に示されていて、見るからにわかりやすそうです。 実は、この「段階利益」の計算というのが損益計算書を読む場合、 非常に重要な意味を持ってます。 損益計算書の一般的な形 1.売上高(+) 2.売上原価(-) 売上総利益 3.販売および一般管理費(ー) 営業利益 4.営業外収益(+) 5.営業外費用(-) 経常利益 6.特別損益(+) 7.特別損失(-) 税引前当期利益 法人税など 当期利益

7.段階利益の説明

①5つの利益 損益計算書で計算される利益は、 イ、売上総利益 ロ、営業利益 ハ、経常利益 ニ、税引前当期利益 ホ、当期利益 イ、売上総利益とは、 売上高-売上原価で計算される利益であり、1年間の粗利益を集計したものです。 会社がいくらのものをいくらで売っているかを統括的に知ることができるもっとも基本的な利益です。 (売上原価とは、売り上げた分だけの仕入を集計したもの) ロ、営業利益とは、 売上総利益-販管費で計算される利益であり、商売でどのくらい儲かったかを示しています。 (販管費とは、会社運営の為にかかる経費を「販売費及び一般管理費」といい、略して「販管費」といいます。) ハ、経常利益とは、 営業利益± ( 営業外収益-営業外費用 ) で計算される利益であり、毎期発生するであろう会社の経常的な利益獲得能力を示していま す。(営業外収益とは、毎期発生するであろう収益 ( 受取利息、受取配当金、雑収入等 ) をいいます。営業外費用とは、毎期発生するであ ろう費用 ( 支払利息、雑損失等 ) をいいます。 ニ、税引前当期利益とは、 経常利益± ( 特別利益-特別損失 ) で計算される利益であり、営業と直接関係ない臨時的に発生した損益も計算して最終的な利益を 出します。 特別利益とは、今期だけ臨時的に発生 ( 固定資産売却益等 ) したものをいいます。 特別損失とは、今期だけ臨時的に発生 ( 固定資産売却損等 ) したものをいいます。 ホ、当期利益とは、 税引前当期利益-税金で計算される利益であり、当期利益は、出資者に対する利益分配の源泉となります。

8.損益計算書の所見

損益計算書は、5つの利益を計算するものです。 一般的には経常利益が重視されています。 経常利益は、会社の経常的な利益獲得能力を示すものですから、会社の業績判断をするのに一番適しているといわれています。 (例えば、、、 営業利益で判断しようとした場合、借金が多く膨大な利息を払っている会社はどうなるのでしょうか。 また、当期利益で判断しようとした場合、当期だけ土地の売却で巨利を得ていたような会社はどうなるのでしょうか。) しかし、会社の社会的な存在価値は如何に活動を通じ付加価値を獲得できたか、ということであるとおもいます。 そう考えると粗利益(率)は存在価値のバロメーターということもできます。

■貸借対照表を読む

9.会社経営の健康診断

①会社の健康 「健康な会社」とは、「無理なく存続できる会社」で、したがって存続が危ぶまれる会社や、存続に無理のある会社が「病気」、倒産する 会社は「ご臨終」ということになります。 会社にかかわる全ての人が会社の健全な発展や安定的な存続を願っているはずです。 ですから、会社が病気にかかっているとわかったら、様々な方法で治療を試みることでしょう。 また、日頃から病気の予防に努めるこ とでしょう。 このため、会社が健康であるための条件を知っておく必要があります。 ②健康の条件 ※ 会社の資金に不足のないこと。 ※ 会社の利益が十分あること。 会社の存続そのものは、まさに資金の有無にかかっています。 したがって、利益水準は倒産に直接関係ないといっても、利益が不十分な場合には資金不足を招き、倒産に一役買ってしまうことは疑 う余地がありません。 ③2つの見どころ 貸借対照表、損益計算書には会社の状態に関するさまざまなシグナルが現れてきます。 ここでやっかいなのは、「会社が病気」といった具合に、はっきりと表現されず、あくまでも数字の羅列としてしか表現されないということ です。 したがって、この数字からシグナルを読み取る力がなければ、風邪をひいているのに気がつかずに外に出かけて肺炎をこじらせるよう な悲劇が起こりかねません。 こうした事態を避けるためにも 貸借対照表からは資金バランス を、 損益計算書からは利益獲得能力 を読み取ることが必要になります。

10.頭の痛い運転資金と固定資産

①出金と入金のタイム・ラグ 資金バランスとは、出金から入金までのタイム・ラグがあるということです。 ところで、出金から入金までのタイム・ラグはいったいどのようにして発生するのでしょうか。 会社はいろいろなことにお金を使い、いろいろな方法でお金を手に入れますので、その基本的な構造を知っておかなければ話を進める ことができません。 ②運転資金 商売は、商品を仕入れて店先に並べることからスタートします。 そしてこの仕入代金を現金で支払うためにはそれなりのお金が必要となります。 さて、そこでお金に再び出会うのは商品が売れた時です。 すると、商品の仕入代金を支払ってから、商品の販売代金を回収するまでの間は、お金が回収されない状態が続くことになります。 これが、「タイム・ラグ」です。もし、商売を続けていくのであれば、売れた数だけ商品を補充しておかなければなりません。 そうすると いったん帰ってきたお金が、またすぐに出ていってしまいます。 このように年中出たり入ったりと出戻り娘のように忙しい資金を「運転資金」と呼びます。 運転資金は、仕入代金のほかに、家賃や人件費のような経費の支払いにもあてなければなりません。 販売価格は仕入価格に利益を 乗せていますので次第に利益の分のお金が残るようになってくるはずです。ところが、実際はそううまくいきません。 商売が軌道に乗ってくると、より多くの売上を上げるために、より多くの仕入をしますので、やっぱり何らかの方法で資金を補充してい かなければなりません。 ③固定資金 商売を始めるには、商品の仕入をする前に、まず、店舗がなければ商売を始めることができません。 店舗を構えるには、保証金を払ったり、内装工事をしたり、お金が出て行くものです。 こうした店舗をもつために使った資金は、いつになったらお金と再開できるのでしょうか。 残念ながらいつになるかわかりません。 帰ってこないと諦めておいた方が賢明です。 運転資金は、商品が売れる都度、手元に戻ってきますが、これらの資金は商売を続ける限り、ほとんど手元に戻ってきません。 これは、まさに放蕩息子です。 いつまでも戻ってきませんが、丈夫で長持ちという特徴があります。 内装工事代金のようなお金は、多額にかかる反面、一度支払うと長期間にわたって使い続けることが可能です。 しかし、とにかくいつ帰ってくるかわからない状態で、お金が出て行くのですから、これも何らかの方法でお金を補充しておかなければ なりません。 このような資金を「設備資金」とか「固定資金」と呼びます。

11.資金バランスを見抜く

①運転資金=流動資産 運転資金は出入りが激しいので、貸借対照表では運転資金は流 動資産として記載されます。 ②固定資金=固定資産 貸借対照表の固定資産こそが、固定資金の運用についての記載 です。 固定資産の中には、保証金のように、引越しなどの際に返金が見 込めるものや、土地のように売ればお金になるものも含まれていま すが、いつ帰ってくるかあてにならないという点では、放蕩息子の一 派に違いありません。 以上をまとめて、貸借対照表と重ねて見ますと右図となり、貸借 対照表の資産の部を上下に切ることにより、運転資金の運用と設 備資金の運用を分割してみることができるのです。 ・ ・ ・ 現金 売掛金 有価証券 商品

運転資金

・ ・ ・ 建物 車両 土地 ソフトウェア

固定資金 流 動 資 産 固 定 資 産

12.資金バランスはイメージで覚える( 1/2 )

①負債・純資産の斬り方 貸借対照表の右側は「資本の調達源泉」を示しています。 資金バランスを読み取るには、左側の資金だけでなく、右側も二分割するとわかりやすいです。 ところで、貸借対照表の右側もあらかじめ大きく2つに区切られています。 すなわち、負債(他人資本)と純資産(自己資本)という区分です。 これは他人資本と自己資本との区切りであり、要するに「返さなければならないか、返さなくてもよいか」という尺度に基づく区分でした。 ここで改めて流動資産と固定資産の性格をまとめてみますと、流動資産は「出入りの激しい運転資金の運用」、固定資産は「いつ帰って くるかあてにならない固定資金の運用」ということでした。 ここで問題となるのは、固定資金をどのように調達するかということです。 なにしろ、固定資産はいつ現金として帰ってくるかあてにならないわけですから、来月返済しなければならないような短期の資金調達で まかなうことは、あまりにも危険です。 ここに非常に便利な資金があります。 自己資本です。 返さなくてもいいと初めからわかっていますので、安心です。 したがって「固定資金は自己資本でまかなえ」ということができます。 しかしながら自己資本のみで巨額の設備を購入するということは、ちょっと無理があります。 やはり、借金に頼らざるをえないということが現実でしょう。 「固定資金は自己資本でまかなえ」とはいうものの「自己資本でまかないきれない」というのが実状なのです。 たとえば、住宅ローンでマンションを購入するとき、きっと「毎月の返済が給料の範囲で無理のない程度に長期だが、なるべく早くローン を終わらせたい」と考えるでしょう。 そうした考えは、そっくりそのまま会社の固定資金の調達にもあてはまります。 つまり「毎月の返済が、運転資金を圧迫しない程度に長期だが、金利負担もバカにならないので可能な限り早めの返済をしたい」となる わけです。 貸借対照表の右側を分割する場合には、負債(他人資本)と純資産(自己資本)という単純な分け方より流動負債と固定負債+純資産 という分け方が現実的だといえます。

12.資金バランスはイメージで覚える( 2/2 )

②資金バランスの直観的理解 これまでの説明を貸借対照表に重ね合せると以下のようになります。 流動資産 > 流動負債 固定負債 固定資産 純資産 流動資産が流動負債の倍はあるのでかなり安 全。とはいえ油断は禁物、健康管理は常に怠ら ず精進すべし。 流動資産 固定資産 < 流動負債 固定負債 純資産 固定資産を純資産で完全にまかなっている状態。 ちょっとやそっとでは崩れない健康優良児タイプ。 流動資産 < 流動負債 固定資産 固定負債 純資産 流動負債が流動資産を上回っている。末期状 態とは言わないが、入院一歩手前な状況である ことは否めない。 流動資産 > 流動負債 固定負債 固定資産 純資産 流動資産が流動負債をかろうじて上回っている ので、何とか生活はできている。無理は厳禁、と たんに病院送りになる可能性大。

13.勘定科目の意味を正確に掴む( 1/2 )

①説明のためのトリック 貸借対照表を上下で二分割することによって、運転資金と固定資金のそれぞれの資金バランスを知ることができました。 しかしながら、これには、ちょっとしたタネが仕掛けられていました。 いまからそのタネあかしをしましょう。 それは、「金額の大きさを面積で表している」ということです。 つまり、流動資産が多ければ、流動資産の部分の面積を広く描くことによって、資金バランスというものを表現しようとしているのです。 なぜ、このようなタネあかしが必要かというと、実際の貸借対照表は「資金の大きさを面積で表したりしない」からです。 したがって、資金バランスを読む場合には、数字を比較しながら読み取っていくことになります。 ②勘定科目の意味 貸借対照表をもっと深く読もうとすれば、それぞれの勘定科目の性質を十分に理解して、数字の裏側に隠されたドラマを読み取ってい かなければなりません。 ③流動性配列法 勘定科目にはずいぶんといろいろな種類があります。 これら無数の勘定科目が貸借対照表の上に所狭しと並んでいるわけですが、むやみやたらと並んでいるのではありません。 勘定科目にも配列のルールがあります。 もっともポピュラーなルールが「 流動性配列法 」と呼ばれるもので、 資産では現金を筆頭に、流動性の高いもの、つまり換金し易いもの から順番に並べていく方法 です。 負債も支払わなければならない度合いが高いものから順に、上から下に向けて配列 していくことになります。 この並び方が「資金バランスを読み取る」のに、便利な方法です。

13.勘定科目の意味を正確に掴む( 2/2 )

④資産の換金性

流動資産 有形固定資産 無形固定資産 高 投資など

・小切手 ・契約手形 ・売掛金 ・土地 ・特許権 ・ソフトウェア ・投資有価証券 ・差入保証金

⑤負債・資本の支払義務

流動負債 高

・支払小切手 ・買掛金

引当金

・賞与 ・引当金

固定負債

・社債 ・退職年金

純資産

・資本金

14.運転資金を見直す( 1/2 )

①流動資産の中身 固定資産はなるべく長期の資金調達でまかなうというのは、ごく当たり前のことですが、運転資金のやりくりというのは、実際のところは 厄介です。 貸借対照表は便宜上、ワン・イヤー・ルールと正常循環基準という2つのルールで、簡便的に流動固定の分類を行っています。 しかしながら、 運転資金の出入りは、仕入代金の支払や人件費、家賃の支払など、毎月毎月繰り返されます。 これを、1年という基準で考えることには無理があるというものです。 ②当座資産 まず重要なのは、流動資産の中には、どのような基準で流動・固定区分を行ったとしても、当然のごとく流動資産とされるものがある。 それは現金です。 そもそも「流動性」という考え方は、現金をベースとしたものですから、現金が流動資産であることに間違いはありません。 重要なことは、「どこまでの範囲を決済手段として見込めるか」ということです。 企業活動は、つまるところお金の出し入れですから、お金の出し入れを円滑に行うためには、決済手段として使えるレベルの流動性が 充分に確保されていることがポイントとなるのです。 流動性・換金性について、順番にチェックしてみましょう。 1.現金。 2.預金。 当座預金や普通預金には問題がありませんが、 定期預金となると若干問題があります。 しかし、最近では、定期預金の部分解約や総合口座の利用によって昔ほど不自由なものとなっていませんので、これも決済手段とみな してよいでしょう。 また、たいして手間もコストもかけずに換金できる株券や国債などの有価証券や受取手形・売掛金も、通常のサイクルであれば毎月の 回収が見込めます。 受取手形については、銀行などで割引によって預金に変えたり裏書きという方法で負債の支払いに充てることも可能ですので、決済手 段としても構わないでしょう。 続く>>

1 4 .運転資金を見直す( 1/2 )

>>続き 本当の意味で流動資産として支払決済に利用できそうな資産は、せいぜいここまでです。 これら 、現金、預金、有価証券、受取手形、売掛金を総称して「当座資産」と呼びます。 当座資産以外の資産を決済資金と考えるには無理があります。 例えば、商品などの棚卸資産は、販売されて売掛金となり、その後の回収をまって現金ですから、現金化はワンテンポ遅れますし、いつ 売れるかわからない商品を決済資金と考えることはできません。 棚卸資産は、品揃えの意味からも最低必要量は確保しておかなければならず、長期的に持ち続ける必要がおりますので、むしろ固定 的な資産と考えてもよいくらいです。 ③当座のバランスを読む 運転資金の資金バランスをより厳密に考えるならば、流動資産と流動負債のバランスを見るよりも当座資産と流動負債のバランスを見 た方がよいでしょう。 もし、 当座資産が流動負債と同額レベルであったとすれば、その会社は、当面の支払能力がある ということになります。 (8割程度足りていれば何とかなりますが、5割となると資金繰りに絶えず頭を悩ませることになるでしょう。)

15.貸借対照表の落とし穴

①マジですか? ここで重大な話があります。それは、「うっかりすると貸借対照表に騙される」ということです。 勘定科目の性質から想像される資産内容と、実際の資産価値がかなりかけ離れているケースがあるという事です。 ②落とし穴の仕掛け場所 ここでは「判断の困難なケース」について勘定科目の分類ごとに次のようにまとめてみましょう。 ※ ※ 不良債権(受取手形や売掛金) これらは、通常は正常営業循環のサイクルの中で、次々に回収されていきます。 しかしながら、相手先の事情により、長期的に回収が滞っている債権がしばしば含まれています。 これらの不良債権を含んだまま流動資産や当座資産として考えていると思ったような資金繰りにならず、とんだ災難を招く事があります。 滞留在庫(商品や製品) このようなものの中には、ときとして売れ残った流行遅れ品が含まれています。 流行遅れ、陳腐化などのほか、ただ単に売れないものまでさまざまです。 下手をすると何十年も倉庫に眠っている事になります。 これらの滞留在庫を含んだまま資金バランスをみると、判断が狂います。 ※ 含み損(有価証券) 換金しようとした場合に、貸借対照表計上額がそっくりそのまま現金化されると思ったら大間違いです。 貸借対照表の計上額は「取得原価主義」といって買ったときの値段となっています。 ところが、皆さんもご承知のとおり、いざ換金してみると、半分にしかならないというケースも出てきます。 ※ 担保提供(有価証券や定期預金) 借入金の担保として提供されていることがあります。 特に長期的な借入金の担保とされているような場合ですと、これらの資産本来の流動性は、完全に失われます。 ③落とし穴を避けるために 貸借対照表には、このようなさまざまな落とし穴が仕掛けられています。 このため貸借対照表の利用者が、これらの落とし穴に落っこちないように、救済のためのルールが設けられています。

16.探索を楽しむこと( 1/2 )

①4つの救済ルール 貸借対照表には、判断を誤らせる落とし穴がいっぱいあり、このため貸借対照表の利用者がなるべく正しい判断が出きるように落とし 穴救済ルールが工夫されています。 「救済ルール1」:不良債権対策 債権は回収可能性に応じて評価され、できるだけ回収可能額に近い金額で計上されることとされています。 また、回収が長期化するものは、固定資産として表示することとされています。 「救済ルール2」:滞留在庫対策 陳腐化品や不良品については、債権と同様の評価ルールがありますが、ただの売れ残り品については、十分と呼べるだけ の対策は設けられていません。 「救済ルール3」:含み損対策 低価法といって、時価が下落した場合には、その下落分を損失として処理する方法が認められています。 ただし、この方法を会社が採用するかどうかは任意となっていますので、万全のルールとはいえません。 低価法を採用しているかどうかは、よく分かるように注記しておくものとされています。 「救済ルール4」:担保提供対策 担保提供している資産は、注記によって明らかにすることとされています。 ②ルールは破るもの これらのルールを類型化すると、 イ、できるだけ実態を明らかにする会計処理を行うこと。 ロ、どのような会計処理を行ったかを明記すること。 ハ、注記によって、より多くの判断材料を提供すること しかしながらこれらのルールは、ほとんどの中小企業で守られていません。 そもそも、中小企業では税務申告の必要から、必要最小限の貸借対照表や損益計算書を作成するだけというケースが多く、以上の ルールを守って、親切な決算書を作ろうとは考えていません。 しかも、これらのルールを守っているかどうかチェックする監査のような仕組が、中小企業にはありません。 ところが、そんな決算書から、会社の実態を読み取らなければならない場合が断然多いのが事実です。

16.探索を楽しむこと( 2/2 )

③名探偵となる 中小企業が作る決算書とは、不親切ではありますが、でたらめというわけではありません。 なにしろ、税務申告で使っているわけですから、それなりに正確に作ってあるはずです。 ただし、情報量がかなり不足しています。 したがって、足りない情報を補いながら読んでいく、推理力が大事になってくるのです。 売掛金の中に不良債権はないか、在庫が多すぎるけれど売れ残りがあるのではないか、最近の株式市況からみて有価証券の時価は かなり下がっているのではないかなど、創造力を駆使して眺めてみることが大事なことです。 これは、決算書を読む場合の楽しみでもあります。 推理のポイントをいくつか紹介しておきましょう。 イ、売掛金が買掛金と比較して異常に多くないか? 多い場合には、不良債権があるか、仕入条件が不利で支払先行型の経営となっていますので、いずれにしても資金繰りは苦しいは ずです。 ロ、棚卸資産が買掛金と比較して異常に多くないか? 多い場合には、それだけ商品の回転が悪くなっていますので、資金繰りは苦しいはずです。 ハ、仮払金の残高が異常に多くないか? 多い場合には、経費の精算が遅れています。全て経費となるものですから、資金バランスをみるにあたっては、流動資産から除いて おいた方がよいでしょう。

■損益計算書を読む

17.読みこなすコツ その1

①比較がベスト 損益計算書は期間損益の計算経過を示したものですから、当然貸借対照表とは見方が異なります。 損益計算書を読む最も有効な方 法は「比較」です。 ②年次比較 誰でも商売をしている以上は「去年よりは今年、今年よりは来年」といったように毎年業績がよくなることを望んでいますが、一方ではバ ブル経済崩壊のように予期せぬ事態によって突然業績が悪化してしまうことがあります。 継続企業を前提とすれば会社ができてから今日までの営業成果は、全て一連のもので、本来は途切れることなく続いているものなので す。 そこで資本家としては、途中のどこかで利益を清算してもらわないと話になりませんので、そこで人為的に区切って期間損益を計算する ことになります。 その結果を示すのが損益計算書なわけですから、決算ごとに区切って比較することは非常に効果的な方法といえます。 このような比較方法を「年次比較」とか「時系列比較」と呼びます。 ③同業他社比較をしてみよう もう一つの比較方法が「同業他社比較」です。 他社の決算書を入手して比較することにより、競争力を知るのに有効です。 同業他社比較を行うことにより、自社の強みと弱みを容易に見つけ出すことができ、経営改善に直接的に有効なデータを手に入れるこ とができます。 ④比較の際のテクニック 実は比較を行う上で一つの大きな難問があるのです。それは、規模の問題です。 同業種といっても、規模にかなりの差がある場合には、金額だけの比較では勝負になりませんので割合を使うことにより十分比較が可 能となります。

18.読みこなすコツ その2

①年次比較をしてみよう 年次比較もしくは時系列比較と呼ばれる方法は、1つの会社の損益計算書を何年分か並べて眺めてみようというものです。 これが、最も簡単で基本的な損益計算書の読み方です。 ②増収か減益か まず最初に見ておかなければならないのが売上高 です。つまり、去年と今年で売上高は増えたのか、減ったのかということを把握する ことからスタートしましょう。 もし売上高が減っていたならば、その減収の理由を検討しなければなりません。 この売上高の増減理由を正しく把握しているかどうかで、それ以降の損益計算書の読み方がずいぶん変わってきます。「なんとなく減っ た」では済まないのです。 第1期 第 2 期 20xx/4/1 - 20xx/3/31 20xx/4/1 - 20xx/3/31 Ⅰ 売上高 1,000,000 1,300,000 Ⅱ 売上原価 500,000 700,000 当期利益 200,000 180,000 ③アレ? 次にみるのは、当期利益です。 この 当期利益が増えたか、減ったかということを2番目に把握しておくこと 当期利益が減っていたならば、「アレ?」と思ってください。 が「コツ」です。 もともと、損益計算書は利益獲得内訳書として作成されているわけですから、当期利益を確認しないことには始まりません。 仮に売上が増えていたのであれば、当然、利益も増えているだろうと考えるのが普通です。 にもかかわらず、利益が減っているということになればその不合理に対して疑問を持たなければなりません。

19.増収増益の原因を探す

次は段階利益の計算過程を比較し、増収増益の原因を探して見ます。 ①段階利益を比べる 基本的に比較分析の対象とするのは、「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期利益」の4つの段階利益です。 ※ 売上総利益:売上の増加にともなって売上総利益も増加しているが、売上の増加と比べると、それほどでもない。 ※ 営業利益:大幅な減益となっている。 ※ 経常利益:さらに減益となっている。 ※ 税引前当期利益:減益となっているが、経常利益の減益と比べると、やや回復している。 ②これかな、、、 増収減益の原因は営業利益と経常利益にあるようです。 売上総利益 営業利益 経常利益 税引前当期利益 当期利益 第

1

334,000 54,000 50,000 50,000 30,000

2

378,000 38,000 35,000 37,500 18,000

20.売上総利益の読み方

売上総利益は、ひとつひとつの取引で稼ぎ出した粗利益の総合計です。 そのため、売上総利益に異常が検出された場合には、個々の取引にそって、 販売価格と仕入原価とのバランスがどのように変化したか ということを考えてみる必要があります。 売上総利益は、売上高-売上原価として計算されるわけですから販売数量についての問題はそれほど影響しません。 よって、単価レベルの問題として絞り込んで構わないのです。 販売価格の変化は、ほとんどの場合が、マーケットのメカニズムによってもたらされます。 同業者の新規参入により生じる供給過剰や競争の激化、技術革新による新製品の登場、為替の変動などが主な原因です。 一方、売上原価は、ちょっと複雑です。 売上と同じようにマーケットの動向から仕入価格が影響を受けますが、そのほかに仕入物流コストや在庫ロス(在庫不良や万引きなど) といったコストが売上原価に集計されますので、総合的な分析が必要となります。

21.営業利益の読み方

営業利益は、売上総利益-販管費として計算されますので営業 利益に異常が検出された場合には 、販管費をじっくり検討 すること となります。 ところで、販管費の内訳としてはさまざまなものが含まれますが、 もっとわかりやすくするためには、販管費をある程度グループ化し た方がよいでしょう。 企業活動は、売上総利益として稼ぎ出した粗利益を、会社運営の さまざまな費用へと分配していくわけですからどのような経費にど の程度のお金をかけているかという構造上の特徴を明らかにして おきたいのです。 たとえば、人件費の増大が営業利益圧迫の最大の原因であった ならば、営業マンを増員して売上を増やしたが増員した営業マンの 給料を十分稼ぐまでには至らなかった、そんなストーリーが読めて きます。 それと、もう一つ重要なのは販管費は売上原価と違って、売上が 減れば自動的に減るという比例関係が必ずしも成立しないことです。 例えば、オフィスの家賃を、売上の減少に比例して値切るわけに はいかないからです。 このため、個別には経費の使い方に大きな変動がなくても、必要 水準の売上総利益を稼ぎきれないという場合には、営業利益を悪 化させてしまうことになります。 販管費をみる場合には、会社維持にかかる最低のコストはどれく らいかを読み取ることも必要となってきます。 ・役員報酬 ・給与手当 ・賞与 ・福利厚生 ・荷物発送費 ・広告宣伝費 ・交際費 ・会議費 ・旅費 ・通信費 ・事務用品費 ・水道高熱費 ・家賃 ・リース費 ・減価償却費 ・修繕費 ・寄付 ・雑費 人件費 営業経費 事業経費 設備費 その他

1

100 50 60 55 12

2

190 80 62 52 11

22.経常利益の読み方

経常利益は、営業利益±営業外損益として計算されますので、経常利益に異常が検出された場合には、 営業外収益と営業外費用の 中身を検討する ことになります。 営業外損益の主なものは、利息などの金融損益です。 特に、営業外費用である支払利息は重要で、売上高の数十%という巨額な利息を支払い続けている会社もあります。 ところで、金融コストは会社の財務体質と密接に関連し、資金バランスの良し悪しが非常に重大な影響をもたらします。 ということは、営業外損益を吟味する場合には、貸借対照表をあわせみることがより効果的ということになります。 そして、その両者を使って、会社の財務活動のうまいへたを見破ることさえできるのです。 さらに重要なことは、経常利益までの段階は、翌年もその翌年も似たような損益構造が続くという事を示唆している点です。 したがって、 経常利益の段階で不本意な成績となっている会社は、根本的に経営スタイルを改善することを迫られている といっても過言 ではないのです。

22.税引前当期利益の読み方

税引前当期利益とは、経常利益±特別損益として計算されます。 このため、税引前当期利益に異常が検出された場合には、 特別損益の内容をよく調べる 必要があります。 特別損益は、営業活動と直接関係しない経常性のない(毎期発生する見込みのない)損益です。 一般的には、臨時的な損益と前期以前の損益の修正が含まれています。 例としては、資金繰りの悪化をリカバリーするために設備の売却を行ったなどです。 特別損益を読む場合に、最も心しておかなければならないことは、「今期限り」ということです。 したがって、来期以降の損益予測を行う場合には、経常性のない損益をはずして考えるようにしなければなりません。