アマチュアのための 日本産きのこ目録の作成

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Transcript アマチュアのための 日本産きのこ目録の作成

アマチュアのための
日本産きのこ目録の作成
兵庫きのこ研究会 幸徳伸也
日本にきのこはいくつ存在するのか?
どの文献を調べれば良いのか?
学名にあてられている和名は?
日本産きのこ目録の必要性
日本産きのこ目録(幸徳編)
和名
別名
学名
属名
科名
目名
綱名
ナメコ
ナメスギタケ、ナメラコ、ナメススキ
Pholiota microspora (Berk.) Sacc.
スギタケ属 Pholiota
モエギタケ科 Strophariaceae
ハラタケ目 Agaricales
真正担子菌綱 Eubasdiomycetes
参照文献
根田仁. 2008. Mycoscience 49(1):88-91,
池田良幸. 2005. 北陸のきのこ図鑑 No.483. 橋本確文堂.,
編者/幼菌の会. 2001. カラー版 きのこ図鑑 p.121. 家の光協会.,
青木実. 1995. 日本きのこ図版 No.616(2)=No.1290. 日本きのこ同好会,
監修/本郷次雄. 1994. 山渓フィールドブックス10 きのこ, p.113. 山と渓谷社.,
青木実. 1972. 日本きのこ図版 No.616(1). 日本きのこ同好会,
伊藤誠哉. 1959. 日本菌類誌 2(5):355. 養賢堂.,
今関六也&本郷次雄. 1957. 原色日本菌類図鑑 No.159. 保育社.,
川村清一. 1954. 原色日本菌類図鑑 第五巻, p.538-540. 風間書房. (ナメスギタケ).,
Imai, S. 1938. Jour. Fac. Agr. Hokkaido Imp. Univ. 43:197. (ナメコ/Pholiota nameko).,
今井三子. 1933. 植物学雑誌 47:388,
川村清一. 1929. 原色版 日本菌類図説 No.230. 大地書院. (ナメスギタケ).,
Ito, T. 1929. Proc. Imper. Acad. Japan, 5:145. (ナメコ, ナメラコ, ナメススキ/Collybia nameko).,
エクセルファイルにて作成
2009年8月現在5090種掲載
兵庫きのこ研究会HPにて公開中
作成にあたっての問題点
① 分類体系
② 文献の入手
③ 和名の表記
④ 学名の表記
① 分類体系
最新の分類体系がわかる菌学大辞典
Dictionary of the Fungi 10th edition
これに従って作成すると・・・・
和名
学名
ヒナノヒガサ
Rickenella fibula (Bull.) Raithelh.
綱名
目名
ハラタケ綱 Agaricomycetes
タバコウロコタケ目 Hymenochaetales
or
ハラタケ目 Agaricales
所属不明 Incertae sedis
所属不明 Incertae sedis
科名
属名
所属のはっきりしないキノコが存在する
Dictionary of the Fungi 10th edition
所属がはっきりしない分類群
担子菌類
キヒラタケ属 Phyllotopsis
サマツモドキ属 Tricholomopsis
ヒナノヒガサ属 Rickenella
ヒメシバフタケ属 Panaeolina
ヒカゲタケ属 Panaeolus
シロサルノコシカケ属 Oxyporus
ムカシオオミダレタケ属 Protodaedalea
ニカワジョウゴタケ属 Guepinia
子嚢菌類
オオホテイタケ属 Pachycudonia
カンムリタケ属 Mitrula
テングノメシガイ科 Geoglossaceae
ヒフォディスクス属 Hyphodiscus
ムラサキゴムタケ属 Ascocoryne
ビョウタケ属 Bisporella
ロクショウグサレキン属 Chlorociboria
ベニチャワンタケモドキ属 Pulvinula
Dictionary of the Fungi 10th edition
従来の分類体系とは大きく変わるのが腹菌類
イグチ科 Boletaceae
イグチ属 Boletus
ヒメノガステル科 Hymenogastraceae
イグチ科 Boletaceae
イグチ属 Boletus
アオゾメクロツブタケ属 Chamonixia
アオゾメクロツブタケ属 Chamonixia
従来の分類体系に慣れているためまだまだなじまない
日本産きのこ目録(幸徳編)従来の分類体系を用いた
和名
別名
学名
属名
科名
目名
綱名
スミレホコリタケ
ムラサキチドメ、スミレノウタケ
Calvatia cyathiformis (Bosc) Morgan
ノウタケ属
Calvatia
[ハラタケ科]
ホコリタケ科
Lycoperdaceae [Agaricaceae]
[ハラタケ目]
ホコリタケ目
[Agaricales]
Lycoperdales
真正担子菌綱 [ハラタケ綱]
Eubasdiomycetes [Agaricomycetes]
従来の分類体系[最新の分類体系]
②文献の入手
目録作成にあたってまずは日本で出版されている図鑑を調べた
川村清一. 1929. 原色版 日本菌類図説. 大地書院.,
川村清一. 1954~1955. 原色日本菌類図鑑 第一~八巻. 風間書房.
今関六也・本郷次雄. 1957. 原色日本菌類図鑑. 保育社.,
今関六也・本郷次雄. 1965. 続原色日本菌類図鑑. 保育社.,
今関六也・本郷次雄. 1987,1989 原色日本新菌類図鑑ⅠⅡ. 保育社.
今関六也・大谷吉雄・本郷次雄. 1988. 日本のきのこ. 山と渓谷社.,
監修/本郷次雄. 1994. 山渓フィールドブックス10 きのこ. 山と渓谷社.,
池田良幸. 2005. 北陸のきのこ図鑑. 橋本確文堂.,
和名と学名のみで掲載されているキノコ
いったい誰がどの文献で報告したのか?
また、どのようなキノコなのか?
ハハノツエタケ Collybia matris S. Ito & Imai
INDEX FUNGRUMに検索をかける
http://www.indexfungorum.org
Collybia matris S. Ito & S. Imai, Trans. Sapporo nat. Hist.
Soc. 16: 15 (1939)
S. Ito & S. Imai(伊藤誠哉&今井三子)という人が1939年に
「 Trans. Sapporo nat. Hist. Soc. 16: 15 」にて報告した
どのようなキノコかはその文献を調べればわかる
日本人が新種として発表したキノコがどの文
献に載っているかを調べるのは難しくはない
コゲチャクサカレハタケ Collybia impudica (Fr.) Singer
INDEX FUNGRUMに検索をかける
Collybia impudica (Fr.) Singer, Annls mycol. 43(1/2): 11 (1943)
Singer氏が1943年に「Annls mycol. 43(1/2): 11」に報告した
日本で誰がはじめに報告したかはわからない
どのように調べればよいのか?
日本新産種をどのように調べるか
担子菌類の場合
伊藤誠哉. 1955. 日本菌類誌 2(4). 養賢堂.
伊藤誠哉. 1959. 日本菌類誌 2(5). 養賢堂.
これを調べると
ヒダナシタケ目、キクラゲ類は1955
年まで、ハラタケ目、腹菌類は1959
年までに報告したキノコならどの文
献に載っているのかがわかる
それ以降に報告されたキノコはどうし
て調べるのか?
地道に文献を調べる
図鑑以外にどのような文献を調べれば良いのか?
新種、新産種が掲載されている国内の主な文献
Trans. mycol. soc. Japan.
Mycoscience
Mem. Shiga Univ. Nat. Sci.
Bull. Gov. For. Exp. Sta.
J. Jap. Bot.
Bot. & Zool.
Bot. Mag. Tokyo
Proc. Imper. Acad. Japan
Jour. Fac. Agr. Hokkaido Imp. Univ.
Acta Phytotax. Geobot.
Bull. Nat. Sci. Mus. Tokyo
Rep. Tottori Mycol Inst.
Trans. Sapporo Nat. Hist. Soc.
日本菌学会会報
マイコサイエンス
滋賀大学教育学部紀要
林業試験場研究報告
植物研究雑誌
植物及び動物
植物学雑誌
帝国学士院記事
北海道帝国大学農学部紀要
植物分類・地理
国立科学博物館研究報告
菌蕈研究所研究報告
札幌博物学会報
これらの文献をどのように入手するのか?
インターネットで入手できる文献
林業試験場研究報告
植物学雑誌
植物分類地理
帝国学士院記事
北海道帝国大学農学部紀要
国立科学博物館研究報告
菌蕈研究所研究報告
インターネットで公開していない雑誌はまだまだ多い
植物研究雑誌
本郷次雄氏や小林義雄氏が発表している雑誌
図書館を利用する
図書館でも見つからない文献は多い
植物研究雑誌
神戸大学の場合 22-40,54-64,66(1-3,5-6),67
兵庫県立図書館の場合 58-76
図書館でも入手は難しい文献
滋賀大学教育学部紀要
植物及び動物
札幌博物学会報
長尾研究所菌類研究報告
服部植物研究所研究報告
専門家の方にコピーしてもらうしかないのか!!
コゲチャクサカレハタケどの文献に載っているのか?
図鑑にも先に記したどの文献にも載っていない
日本きのこ図版を調べる
日本きのこ図版とは
日本きのこ同好会の会員が作成したキノコの調査記録。
大部分が青木実氏の執筆で、そのため青木図版とも呼ばれる。
ハラタケ目のきのこが多く、掲載種は2000種を超える。
最近、名部みち代氏等が編集し自費出版として発行された。
コゲチャクサカレハタケ(青木新称)と載っている。
青木実氏の命名であることと、日本きのこ図版にて、日本では
じめて報告されたキノコであることがわかる
日本きのこ図版には日本新産種のキノコが
かなり載っている
※子嚢菌類に関してはまとまった文献がない
和名 アミメツチダンゴ
学名 Elaphomyces variegatus Vittad.
参照文献
吉見昭一. 2008. 地下性菌図版集 ミクロの世界へ 第一歩, p.412-416. 吉見一子.,
Trappe, J. 1976. 日本菌学会会報 17:209-217. (/Elaphomyces muricatus f. variegatus).,
今井三子. 1943. 植物分類・地理 13:78-79. (アミメツチダンゴ/Elaphomyces variegatus).,
Imai, S. 1940. Proc. Imper. Acad. Japan 15:146. (アミメツチダンゴ/Elaphomyces variegatus).,
参照文献としてそのキノコの履歴を入れた
Imai, S. 1940. Proc. Imper. Acad. Japan
略称で掲載している
Imai, S とは誰?
Proc. Imper. Acad. Japan とは?
どこで閲覧できるのか?
今井三子
帝国学士院記事
http://www.journalarchive.jst.go.jp
こういう情報も必要(未着手)
③ 和名の表記
学名に関しては植物命名規約が存在する。
それに従っていないものは無効となる。
和名に関しては取り決めはない
最近、日本菌学会のデータベース委員会が
「日本菌学会推奨和名の決定についての手順」
を発表(細矢剛&ほか. 2008. 日菌報 49:99-101)
ガイドラインの一部
●~spには和名をつけない
●学会誌、成書、広く流布される出版物にて発表する
■認められないもの
・同人誌(各地のきのこ会の会報)
・個人出版物
・会の要旨集は×
仮称(~sp.)が使われている文献の中にはアマチュアが多
用する日本きのこ図版や北陸のきのこ図鑑などの有用な
文献がある。
アマチュアにとっては和名のないキノコよりも、仮称であって
も名前が知りたい。キノコを知るうえでは正式な名前でなくて
も問題はない。
和名を知りキノコを覚える
日本産きのこ目録(幸徳編)ではこのガイド
ラインに従っていないものも掲載している
仮称としてキノコに名前をつけることよりも、別の
キノコに同じ名前をつけることの方が混乱する
名前が同一のキノコの一部
ウツロイモタケ
青木実 Hydnocystis japonica (Kobayasi) Trappe
吉見昭一 Gyrocratera japonica Yoshimi(ad. inter.)
ヒメハリタケ
小林義雄&清水大典 Cordyceps osuzumontana Kobayasi & Shimizu
安田篤 Hydnum albidum Peck
シトネタケ属
安田篤 Diatrype (シトネタケDiatrype stigma (Hoffm.) Fr.)
?
Discina (フクロシトネタケDiscina ancilis (Pers.) Sacc.
目録では同じ名前があるときはヒメハリタケ(安田)と
和名の後ろに命名者の名前を入れている
イグチ科 Boletaceae
ヌメリイグチ属 Suillus
ヌメリイグチ Suillus luteus (L.) Roussel
Suillus属はなぜヌメリイグチ属という名前なのか?
属や科の和名はどのように決めているのか?
属や科などの分類群に対する和名に関しても種の和
名と同様に取り決めはない
慣例
属、科の基準種が和名となる
基準種とは属、科の中で一番はじめに報告されたキノコ
Suillus属の場合
基準種 Suillus luteus (L.) Roussel →ヌメリイグチ →ヌメリイグチ属
基準種にまだ和名がついていない場合
Aureoboletusの場合
基準種 Aureoboletus gentilis (Quél.) Pouzar
Aureoboletusで日本で報告されているのは
ヌメリコウジタケAureoboletus thibetanus (Pat.) Hongo & Nagas
慣例では基準種に和名がないときはその属で一番
はじめに報告されたキノコの名前を用いる。
Aureoboletus→ヌメリコウジタケ属
Rubinoboletus属の場合
はじめて日本で報告されたキノコは
ダルマイグチ Rubinoboletus monstrosus Har. Takah.
基準種 Rubinoboletus rubinus (W.G. Sm.) Pilát & Dermek
Rubinoboletusはダルマイグチ属とすべきか
日本で報告されているRubinoboletus属菌がある
キニガイグチ Tylopilus ballouii (Peck) Singer
Rubinoboletus ballouii (Peck) Heinem & Rammeloo
しかし、日本ではTylopilusの学名での報告はあるがRubinoboletus
の学名での報告はない。
Rubinoboletus属のキノコとしての報告はキニガイグチが先
Rubinoboletusという学名での報告はダルマイグチが先
この場合ではどちらの和名でも良い
最終的にはRubinoboletusをはじめて報告した研究者が決める
Rubinoboletus → キニガイグチ属
属、科の和名が決まっていないものが多く、学名
読みしているものが多いが慣例に従い和名をつけ
たほうが良いのではないか?
Torrubiella属 トルビエラ属→モモイロクモタケ属
Hydnangium属 ヒドナンギウム属→コイシタケ属
④ 学名の表記
DNA解析等の結果により大きく分割される
分類群が出てきている
大きく分割された分類群
●モリノカレバタケ属 Collybia
●ヒトヨタケ属 Coprinus
●トウチュウカソウ属 Cordyceps
学名が変更される
ただし、その分類群にいるキノコの学名が
すべて変更されるわけではない
モリノカレバタケ属 Collybiaの場合
ヤグラタケモドキ属 Collybia
モリノカレバタケ属 Collybia
モリノカレバタケ属 Gymnopus
アカアザタケ属 Rhodocollybia
コガネカレバタケ
Collybia subsulphurea Peck
本種は明らかにGymnopus菌
しかし、Gymnopusとして報告したものはいない
そのため、学名はCollybiaのまま。
この状態ではヤグラタケモドキ属Collybiaと誤解されてしまう
報告されている学名を鵜呑みにしてはいけない
旧解釈ではCollybia、新解釈ではGymnopus
でも学名はCollybiaしかない
どうすればいいのか?
どうすればいいのだろう
とりあえず
日本産きのこ目録(幸徳編)では
コガネカレバタケ Gymnopus [Collybia subsulphurea Peck ]
規約に従えば
コガネカレバタケ Gymnopus subsulphurea (Peck) ad inter.
分割された分類群の学名の表記は要注意
ヒトヨタケ属 Coprinusの場合
ヒトヨタケ属 Coprinus
ササクレヒトヨタケ属 Coprinus
ヒトヨタケ属 Coprinopsis
キララタケ属 Coprinellus
ヒメヒガサヒトヨタケ属 Parasola
トウチュウカソウ属 Cordycepsの場合
トウチュウカソウ属 Cordyceps
トウチュウカソウ属 Cordyceps
? 属 Ophiocordyceps
? 属 Metacordyceps
? 属 Elaphocordyceps
最後に
分類体系
文献の入手
和名の表記
学名の表記
などいろいろと問題を抱えながら現在も作成中
間違いは必ずあります。
気づいた点がありましたらご指導ください
ご協力よろしくお願いいたします