臨床検査医学と臨床化学の懸け橋

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ーー動脈硬化性疾患を中心
にーー
生体の特徴
鈴木庄亮
(群馬産業保健推進センター所長)
●Program された情報系
代謝系 免疫系など 絶えず進化している
欠点:飢餓に対して発達しているが
飽食に対するプログラムがない
●情報による情報系の形成
例:発達早期に情報を与えないと情報形成が遅延
●柔軟性
適応性
危険からの回避、 環境への適応
●動脈硬化を知る検査
●診断のための臨床検査
★心電図、 ★心臓エコー
★血清成分
CK, CK-MB, ミオグロビン、
Troponin T, -I GOT, LDH ミオシン軽鎖
心臓由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP)
●予知マーカー
★CRP
●血清脂質 ?
コレステロール、 LDL-コレステロール
HDL-コレステロール、 TG
Lp(a)
●酸化LDL 小粒子化LDL
●画像診断検査
心臓エコー 頸動脈エコー CT 心臓カテーテル
脈波伝播速度(Pulse wave volocity) MRI MRA
頸動脈内プラークにより発生する異常血流とその分布
石光敏行:頸動脈超音波ドプラ法.臨床検査,41:1451? 1455.1997より引用
プラークによる血行動態変化
但し、解像度の優れた、低速血流を描出できる機器が必要
Pulse Wave Velocity 脈波伝播速度(PWV)
測定原理: 2点間の脈波形を同時に記録して
時間差を求め、2点間の距離を時間差で
徐する
結果の解釈: PWV上昇は動脈の伸展性(compliance)
の低下
---動脈壁硬化(arterial stiffness)
糖尿病群とコントロール群のPWV比較
12
PWV ( m/s )
コントロール群
糖尿病群
8
4
0
~39
40 ~49
50 ~ 59
60 ~ years
(Taniwaki, H et al: Diabetes Care 22, 1999)
動脈硬化と関連因子
●介入すべき因子 ●介入不能因子
高脂血症
年齢、 性別
(Tch, TG, HDL-C) 家族歴
高血圧
Lp(a)高値
糖尿病
高ホモシスチン
肥満
喫煙
運動
●環境因子
感染
クラミジア
など
●動脈硬化を予測する状態
高コレステロール血症、高LDL血症
高TG血症
高Lp(a)血症
低HDL-C血症
★約20年で動脈硬化を起こす
★糖尿病を合併した場合、倍のスピードで
動脈硬化が進行する
愛媛前向き疫学調査:血清脂質と虚血性心疾患発症率
(Ehime Prospective Heart Study)
総コレステロール
7
虚
血 6
性
心 5
疾
患 4
発
症 3
率*
(
%
)
6.25
4.84
3.38
2
1.04
1
0
9
1.35
虚
血
性
心
疾
患
発
症
率*
(
%
)
0
~159 160~ 180~ 200~ 220~ 240~ (mg/dL)
動脈硬化性疾患のない30~45歳の健常男性1,110人の調査.
*15年間の平均脂質値で層別した虚血性心疾患発症率.
トリグリセリド
8.33
8
7
6
5
4.03
4
3
2.26 2.22
2
1
0
0
~69
70~
100~
150~
200~ (mg/dL)
Kukita H and Hiwada K: Therapeutic Res 14: 59-65, 1993
1-3
●定義: LDLの酸化物
蛋白部分 リン脂質
コレステロール
●産生場所: 不明
血清中? 動脈壁内?
●意義
★増加した状態が動脈硬化を起こしている
か、 動脈硬化を起こす可能性がある
★したがって、より直接的に動脈硬化の診
断、治療ができる?
(Small Dense LDL)
●小粒子化LDLの成因
トリグリセリド豊富VLDLの分解により
通常より小型のLDLができる
したがって、根底にはトリグリセリド代謝異常
がある
●検出方法
★ポリアクリルアミドゲル電気泳動
★LDLーコレステロール/アポB比
Small, dense LDLをもつ症例の特徴
● 総人口の約30%(米国)
● パターンA(正常LDLサイズを持つ場合)に比べて
冠動脈疾患の危険率が3倍
● 高トリグリセリド血症が大部分を占める
● 高アポB血症が多い
● インスリン抵抗性が深く関与している
● 低HDL血症を合併することが多い(この場合は、 治療によってLDLが大きくならないのが特徴)
● 遺伝素因がかかわっているのは約30%で、むしろ
環境因子がより強い 芳野原(東邦大学医学部)
正脂血症の糖尿病症例におけるLDL-Chと LDL-(Chol/apoB)
LDL-Ch
(mM)
LDL-(Chol/apoB)
LDL-(Chol/apoB)
(mmol/g)
(mmol/g)
LDL-(Chol/apoB)
LDL-Ch
T
4
T
T
T
*
T
*
T
*
T
4
T
2
2
0
0
健常
SU剤
食事
SU剤
食事 インスリン
インスリン
対照群 治療群
治療群 療法群
療法群 療法群
療法群
(Iwai
(Iwai M
M et
et al:
al: Diabetes
Diabetes Care
Care 13:
13: 792,
792, 1990)
1990)
健常
健常
SU剤
SU剤 食事
インスリン
食事 インスリン
対照群
対照群 治療群
治療群 療法群
療法群
療法群 療法群
*:p<0.05
*:p<0.05 vs.
vs. 対照群
対照群
AMI診断のための生化学マーカー
細胞質
核
遊出パターン
H-FABP (14.9kDa)
myoglobin (17.5kDa)
CK / CK-MB (86.0kDa)
GOT (93.0kDa)
LDH (135.0kDa)
troponin T (37.0kDa)
12~18hr
time
筋原繊維
troponin T (37.0kDa)
troponin I (22.5kDa)
ミオシン軽鎖 (27.0kDa)
4 days
time
(
心筋細胞
):分子量
(Seino Y., et al.: Jpn. Circ. J., 60: 265-276, 1996 一部改変)
AMI発症後における循環血中への逸脱動態
H-FABP (ng/mL)
400
▲
■
CK-MB (U/L)
600
▲
▲
300
●
▲
●
200
■
●
▲
●
■
1200
400
1000
300
800
200
600
100
400
▲
●
■
●
■
▲
500
▲
■
●
■
100
myoglobin (ng/mL)
1400
0 0
5
10
15
time after onset (hours)
■
●
■
20 0
200
(Tanaka T., et al.: Clin. Biochem. 24:195-201, 1991)
新しい炎症の概念は?
• 1999年 FDA(アメリカ食品・医薬品局)が冠
動脈疾患の予知因子として、hsCRPを使用する
ことを認証。(10月25日:501K)
• CRP:細菌感染による急性炎症の診断
• hsCRP:冠動脈疾患の予知に慢性炎症の診断
• デイド ベーリング社 N-ラテックス CRPⅡだけがhsCRPと
して認証されている。
破れやすいプラークとは?
安定プラーク
(白色)
不安定プラーク
(黄色)
血栓
心筋梗塞の相対危険度の比較
Ridker PM, Ann Intern Med 1999; 130 : 933-937
■
Lp(a)
総ホモシステイン
TC
■
■
■
■
フィブリノゲン
tPA抗原
■
■
TC/HDL-C
hs-CRP
■
hs-CRP+TC/HDL-C
0.0
1.0
2.0
4.0
将来心筋梗塞を起こす相対リスク
6.0
CRPと脂質によるCHDの相対危険度
4.4
3.4
2.8
2.8
2.5
High
1.2
1.0
1.3
1.1
Medium
3.78 - 5.01
Low
Low
Medium
High
< 0.72
0.72-1.69
> 1.69
< 3.78
C- Reactive Protein
健常者における最初の心筋梗塞発症の相対危険度
P. M. Ridker, Circulation 1998
不安定狭心症患者の予後予測
(6ヶ月以内のイベント)
(+) = > 0.4µ/l (-) = _
< 0.4µ/l
トロポニン I / Stratus II
hsCRP(高感度CRP)
(+) = > 0.5mg/dl
(-) = <_ 0.5mg/dl
0 / 68
0%
4 / 36
11%
1 / 22
4.5%
10 / 24
42%
RJ de Winter, Cardiovasc Res 1999
不安定狭心症の再発因子
*
8.57
OR
5.00
4.90
3.00
2.10
1.03
1.42
ORs 1年以内のイベント / * p <0.01 for CRP, CRP以外は NS
L. M. Biasucci, Circulation 1999
最近の治療トピックス
●スタチン系抗高脂血症剤は、
LDLコレステロールの産生を抑制す
るだけではなく、CRP濃度を下
げ抗炎症作用を有する。
●心筋梗塞の予防のために、
スタチン系薬剤を服用した群
は約20%、CRP値が減少す
るが、服用していない対象群
は、約20%CRP値上昇。
薬剤投与と炎症の状態における心筋梗塞の相対危険度
P - trend =0.005
相対危険度(RR)
3
2.5
2.9
2
1.5
1.3
1
1.3
1.0
0.5
0
プラセボ
メバロチン
CRP & SAA が正常
メバロチン
CRP <0.1 mg/dl, SAA <0.93 mg/dl
プラセボ
CRP & SAA が異常
Ridker et al Circulation 1998
CRP値と心筋梗塞の将来予測・アスピリンの投与効果
5
4
心筋梗塞の
相対危険率 3
2
プラセボ
1
0
1st Qtl
<0.55
2nd Qtl
3rd Qtl
4th Qtl
0.56-1.14
1.14-2.10
CRP( mg/L)
アスピリン
>2.11
Ridker et al N Eng J Med 1997
Pravastatin and Low-Dose Cyclosporine Treatment
Prevent Islet Allograft Rejection in Mice
S. Arita, et al: Transplantation Proceedings 30,522, 1998
BALB/c newborn 3000 islet ---- C57BL/6 DM mouse
●CyA 30mg/kg + Pravastatin 40mg/kg
●CyA 30mg/kg
●CyA 50mg/kg
●Control
Results: Control: Rejection after 3-4 days
CyA treatment: survival 10 to 20 days
Pravastatin treat: 28 days survival without
severe side effect
Survival After Cardiac Transplantation
Survival (% of patients)
100
(N=47)
+ Pravastatin
20-40mg/day
(N=50)
Control
Cyclosporine predonisone azathioprine
60
2
4
6
8
10
Months after transplantation
12
(Kobashigawa, J.A. : N Engl J Med 333, 1995)
Effect of Pravastatin
●Lowering cholesterol level
★Lipid bound cyclosporine ----- immunosupressive?
●Decrease of T cell proliferation
monocyte chemotaxis
NKC cytotoxicity
Decrease of acute rejection episodes
●Inhibit of falnecylation of Ras p21 (product of ras gene)
Suppression of tumor growth of HCC
スタチン系薬剤のPleiotropic effects
スタチンの
コレステロール低下作用以外の多面的作用
1. 血栓形成改善作用
2. 抗酸化作用
3. 血管内皮細胞機能障害の改善
4. 抗炎症作用
5. プラークの安定化
日本動脈硬化学会の
高脂血症診療ガイドライン治療目標値
カテゴリー
治療目標値
冠動脈疾患(-) LDL-コレステロール 140 mg/dL未満
A
他の危険因子(-) 総コレステロール 220 mg/dL未満
冠動脈疾患(-) LDL-コレステロール120 mg/dL未満
B
他の危険因子(+) 総コレステロール 200 mg/dL未満
冠動脈疾患(+)
LDL-コレステロール
100 mg/dL未満
C
他の危険因子(+)総コレステロール 180 mg/dL未満
日本動脈硬化学会 高脂血症診療ガイドライン検討委員会: 動脈硬化 26(1), 1998
2-1
動脈硬化性疾患診療ガイドライン
2002年版 JAS
患者カテゴリー別管理目標値
A
B1
B2
B3
B4
C
冠疾患 危険因子数
なし
0
1
2
3
4
あり
TC LDLC HDLC TG
240 160 40
150
220 140
200
120
180
100
★B1-4:冠疾患がなくて、LDLC以外の危険因子の数でわけたもの
★★高血圧、糖尿病はそれぞれの学会のガイドラインにより管理
治療の基本
●ライフスタイルの改善
禁煙
食生活の是正: カロリー、体重を目標
運動:有酸素運動 30分以上、週3回以上
適正体重の維持: BMI 25以上の肥満を改善
●薬物治療の基本
★3-6ケ月のライフスタイル改善の効果ない場合
★2次予防では積極的に薬物療法を導入
★高齢者では、ライフスタイルの改善に配慮する必要あり
★85歳以上では、低コレステロール血症に注意
★閉経後の女性の高脂血症も治療する
K-LAS:高脂血症治療薬の処方率
(Kanazawa Lipid Assessment Survey)
80
77.4
単独
併用
処
方 60
率 40
827例
症例数
単独使用 743例
(
%
) 20
2剤併用
3剤併用
8.3
66例
5例
0
単独
併用
ス
タ
チ
ン
系
フ
ィラ
ブー
ト
系
プ
ロ
ブコ
ー
ル
陰
イ交
オ換
ン樹
脂
ニ
コ
チ
ン
酸
そ
の
他
640例
69例
72例
23例
22例
18例
0例
22例
0例
1例
9例
10例
馬渕 宏 他: Prog Med 20(8):1629-1639, 2000
3-2
CURVES:LDL-Cの変化率
アトルバスタチン
-
L
D
L
C
の
平
均
変
化
率
(
%
)
シンバスタチン
プラバスタチン
ロバスタチン
フルバスタチン
0
-10
-20
n=24
-30
*
-40
n=80
*
n=180
-50
*
(bid)
n=43
n=195
-60
10 mg
20 mg
40 mg
80 mg
投与量
*
p≦0.01 vs 等用量の他のスタチン
高コレステロール血症患者534例を対象とした8週間オープン比較試験.
Jones P et al: Am J Cardiol 81: 582-587, 1998
4-3
ASAP:ベースライン時の頸動脈IMT測定値
(Atorvastatin vs Simvastatin on Atherosclerosis Progression)
部 位
アトルバスタチン
(mm)
総頸動脈
頸動脈分岐部
内頸動脈
平均値
(n=160)
0.86
1.15
0.93
0.93
シンバスタチン
(n=165)
0.86
1.13
0.86
0.92
(正常値: 0.50 ~0.70)
IMT:intima-media thickness, 頸動脈内膜・中膜厚
Smilde T et al: 22nd Congress of European Society of Cardiology, 2000
5-2③
レプチン
レプチン
●1994年に遺伝性肥満マウスから発見されたホルモン(蛋白質)
●動物の脂肪組織から分泌
●強力な 「食欲抑制作用」と「エネルギー消費増大作用」がある
★体脂肪が増えると、脂肪組織からのレプチン分泌が増え、
それを脳が感知すると、脳は食欲抑制とエネルギー消費増大によっ
て脂肪量を減らそうとする。
★肥満患者ではレプチンをコードする遺伝子が正常に異常なために、こ
の分泌が少なく、食欲抑制、エネルギー消費増大が働かず、肥満しや
すいと推定。
★しかし、肥満患者は「高レプチン血症」で、レプチン量を感知する脳の
視床下部のレセプターか、それ以後の伝達経路に問題があると推測
される。
★またレプチンには、生殖機能維持作用、糖代謝亢進作用、血圧上昇
作用、免疫調節作用などがある。
グレリンの発見
●成長ホルモン(GH)の分泌は、視床下部ホルモンである
GHRH(促進)とソマトスタチン(抑制)により制御されていると
考えられていた。
●一方、GHS受容体(GHS-R)に特異的な内在性リガンドが発見。
新規リガンドはアミノ酸28個からなり、3番目のセリン残基が
脂肪酸(n-オクタン酸)でアシル化修飾された特徴的な構造の
ペプチドである。
●このペプチドは強力なGH分泌促進活性を有し、
“グレリン(ghrelin)”と名づけた。
●胃から発見されたグレリンは、血中ホルモンとして
GH分泌調節に関わっていることが解明された。
(K. Samukawa:Nature 1999, 402: 656-660)
グレリンの循環器系への作用
●グレリンを心不全モデルラットに2週間投与すると、
体重の増加や心機能の改善が認められる。
●グレリンの健常者への経静脈的投与は、
血中GH濃度の上昇と共に血圧の低下(約10 mmHg)
を生じ、さらに心拍数を変化させずに
心係数、拍出量の増大が認められる。
I.Sakurabayashi, M.D. : Omiya Medical Center-Jichi Medical School
動脈硬化性疾患
●人類の宿命か?
●高齢化社会がもたらしたものか?
●Program された情報系を有する生体の宿命?
飽食に対するProgramがないため