Transcript 自然を知るために①
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2007/070827UNUb.ppt 持続可能性と生態系管理 ー生態系サービスと自然保護の根拠- 松田裕之 横浜国立大学 14:00-17:00 at UNU 知床世界遺産候補地にて:松田撮影 今日の内容 自然保護の論拠=持続可能性 無知の知=生態系管理 諸行無常=遷移と撹乱 05/8/4 BBC web site 2 なぜ生物多様性を 守るのか? 05/8/4 私たちが子供の頃にあった自然が、今の子供の まわりにない(急激な自然の喪失=メダカ、キ キョウ) 人間は自然の恵みなくして生きていけない 自然の恵みを次の世代に残す 人間の自然への持続可能な寄生 3 3つの自然の恵み 生態系service 生物資源 農林水産物約140兆円/年 調整サービス 物質循環約1700兆円/年 資源価値<<調整サービス 漁場の自然価値>漁業補償 05/8/4 4 多様性≠安定性の逆理 1950年代:多様な群集ほど安定 無作為に作った群集模型では、 種数が多いほど共存しにくい 種間関係が複雑なほど不安定 希少種を守ると何がよいか? 友だちを大切に 05/8/4 5 1990年代の答え 定常群集は幻想である! 群集内の個体群は変動 全体として生物体量は安定 変動しながら多種が存続 05/8/4 6 千年紀生態系評価報告書2005 05/12/16 7 生物多様性保全の意義 生 態 系 サ ー ビ ス の 向 上 人 間 の 福 利 の 享 受 ? ? 05/8/4 生 物 多 様 性 の 保 全 普遍性があるか? どこまで証明されているか? 8 http://millenniumassessment.org (MA2004) ミレニアム生態系評価 4年にわたる国際的科学的評価 生物多様性条約(CBD)、砂漠化防止条約 (CCD)、ラムサール条約、その他のパートナー の評価ニーズの一部を満たすために計画される 生態系の財・サービス、および、生態系の変化が 人間の健康あるいは他の地球上の生物に与え る影響に焦点を当てている 様々な規模で行われる(地方レベルから全地球 レベルまで) 05/12/16 9 http://millenniumassessment.org (MA2004) MAは以下のことに焦点を当てる 生態系サービス(生物多様性により支持されてい る状態や過程のことであり、物資の供給を含め、こ れを通して生態系は持続し、人間生活を充足する) 供給:例として食料、水、繊維、燃料、他の生物的生産物 支持:例として生物多様性、受粉、廃棄物処理 文化:例として文化、美意識、社会関係 生態系の変化が人間の健康、福祉に与える影響 生態系の変化が地球上の他の生物に与える影響 05/12/16 10 過去数十年の土地利用変化 (森林) 05/12/16 11 (MA2004) (MA2004) 生態系サービスと人間の福利 05/12/16 12 (MA2004) 環境価値の分類 05/12/16 13 地球平均気温の上昇 05/12/16 IPCC 2002 14 地球温暖化の生態系への影響 世界平均気温の変化(摂氏) Hare, W. L. (2003). Assessment of Knowledge on Impacts of Climate Change – Contribution to the Specification of Art. 2 of the UNFCCC. 05/12/16 http://www.wbgu.de/wbgu_sn2003_ex01.pdf. 15 温暖化のGDPへの影響 温暖化対策費用は 割に合わぬ!? 世 界 G D P 成 長 率 へ の 影 響 05/12/16 世界平均気温の変化(摂氏) IPCC TAR WGII Chapter 19,Figure 19-4 16 現在おこっている種の絶滅 (地球研湯本貴和氏提供) 減少のスピードが速い 恐竜時代:1000年に1種 1600-1900年代:4年に1種 1975年ころ:1年に1000種 本当に過去の大量絶滅より早い? 要因は何か=人間活動 生息環境の減少・劣化 侵入生物 乱獲 環境変化(温暖化・汚染) 05/8/4 17 生物多様性の維持=歴史遺産 (平川・樋口1997; 矢原・鷲谷1996) 豊かな生物多様性=先祖代々持続可 能な人と自然の関係を築いてきた証拠 持続可能な人と自然の関係を維持する =国際合意 生物多様性の喪失=非持続的関係の 証拠 日本の豊かな生物多様性を先祖から 後世へと残していく責務 > 欧米 法隆寺を守ること≒生物多様性を守る 平川浩文・樋口広芳(1997)生物多様性の保全をどう理解するか 科学67:725-731 鷲谷いづみ・矢原徹一(1996)『保全生態学入門』文一総合出版、270頁 05/8/4 18 http://www.imj.co.jp/simasha/000/migi07/p19.pdf 予防原則 precautionary principle 環境に対して深刻あるいは不可 逆的な打撃を与えるとき,科学的 に不確実だからという理由で環境 悪化を防ぐ費用対効果の高い措 置を先延ばしにしてはいけない 1992年リオデジャネイロ宣言第15原理 05/8/4 http://www.unep.org/ 19 科学者のとるべき態度 後 1992年地球サミット前 科学的証拠なしに社会にもの を言わない; を言うことが歓迎される 世論に係らず、自らの見解 科学論争を多数決で決める。世論 を変えない を味方につける 科学者の社会的提言につ いての学界基準が未確立. 05/8/4 20 Galileo’s Inquisition 不確実性uncertainty 生態系の仕組みが不明 今の状態が不明 環境監視(monitoring) 将来が予測できない 説明責任(accountability) 為すことによって学ぶ Learning by doing 05/8/4 21 鹿熊管理は管理捕鯨理論の 応用! ヒグマ春季管理捕獲 エゾシカ保護管理計画 05/8/4 22 順応学習とフィードバック制御 Adaptive Learning & Feedback Control 継続調査データ 管理の実施、 資源変動 動態模型 状態 管理の意思決定 勝川俊雄T.Katsukawa:博士論文(2002)より 05/8/4 23 生態系管理の指針 ecosystem management 05/8/4 目的を明記(科学的任意性) 反証可能な目標 無知の知と諸行無常 説明責任と順応性 管理自身を実験とみなす 情報開示と合意形成 リスク周知 24 エゾシカ問題 1,000,000 樹 皮 を 剥 が さ れ た 樹 木 100,000 Catch 北 海 道 の 捕 獲 統 計 10,000 1,000 100 10 1875 05/8/4 1895 1915 1935 1955 1975 1994 25 全 道 に 分 布 を 回 復 (梶,北海道資料) 05/8/4 26 シカが「無限」に増えるわけ シカは何でも食べる 好きな餌に順序がある 05/8/4 ササ,樹皮,落葉 好物がなくなっても餌はある 小型化しても繁殖し続ける やがて森林を裸にし,大量死する 27 http://www.hokkaido-ies.go.jp/HIESintro/Natural/ShizenHP2/SIKA/DTdeerHP.htm エゾシカのフィードバック管理 大発生水準以上 (>50%) 目標水準以上 (>25%) 目標水準以下 (>5%) 許容下限水準(5%)以下 または豪雪の翌年 05/8/4 緊急減少措置(2年を限度) 漸減措置(雌中心の捕獲) 漸増措置(雄中心の捕獲) 禁猟措置 28 エゾシカ管理における リスクの周知と説明責任 05/8/4 1998年、道東エゾシカ12万頭説 論文で16-20万頭と仮定:環境庁告示 (1人1日1頭)を改変 30万頭以上なら失敗(不良債権) 2000年、道は20万頭説に修正 >30万頭なら鳥獣保護法改正が必要 29 オオワシの鉛害問題 鉛環 弾境 使省 用に を働 禁き 止か け 05/8/4 知床博物館 http://www.ohotuku26.or.jp/shari/museum/home.html 30 個体数指数の変遷 200 175 個 150 体 125 数 100 指 75 数 50 25 0 1989 05/8/4 道路目視調査 ヘリコプター調査 1日当り捕獲頭数 1日当り目撃頭数 農林業被害額 1991 1993 雌鹿狩猟 262 95% CI 1995 1997 保護管理計画 1999 2001 31 愛知万博環境 影響評価 会場地近辺 の変遷写真 (1907年) http://www.pref.aichi.jp /expo/towa1220.html 準備書824 頁の「景観」 (1945) 05/8/4 人と自然の共生・環境万博 32 中池見:放棄水田で遷移進む コナギ-オモダカ群落 1~3年 3~5年 ~5年~ 5~10年 10年~ ミゾソバ群落 アゼナ群落 ケイヌビエ群落 撹乱? ヒメクグ-サンカクイ群落 チゴザサ群落 アシカキ群落 ミゾトラノオ 群落 チゴザサ- アゼスゲ群落 ヒメガマ群落 マコモ群落 ヨシ群落 ヤナギ林 ハンノキ林 ↑大阪ガスの環境影響評価書より →3大学学術調査報告書より 05/8/4 33 非定常性と不均一性 放置しても自然は変わる 遷移と自然撹乱の釣り合いがもた らすモザイク =双六 05/8/4 状態変化に応じて方針を変える 順応性(adaptability) 34 北海道のヒグマ保護管理 (Mano, Matsuda et al. unpubl.) ヒグマは東南アジアで絶滅 危惧種であり、CITESで国 際商取引が禁止されている 北海道ではヒグマはまだ広 くたくさんいる。 個体数が増えている証拠は ないが、人を襲う事故件数 は増えている。 函館 札幌 http://www.hokkaido-ies.go.jp/HIESintro/Natural/ShizenHP2/Wildlife/mano.htm 05/8/4 35 日本の国会での論争 ある哺乳類学者の言葉 鈴木宗男議員 石原伸晃大臣 どこにそんなばか 高速道路は無駄な クマよりクルマの方が危険です。熊 な話がある。車の 公共事業だ。道路 に襲われて死ぬ人より、車に轢か ほうが熊より多い を作っても、走って にきまっているだろ いる車より熊のほ れる人の方がずっと多い。 う うが多いく らいだ 05/8/4 36 熊保護管理の基本理念 良い熊は本来、向こうから人を避ける。彼 らの行動圏が高速道路や住宅地のそばを 含んでいても、それだけでは危険ではない 放置された生ごみを食べたりすると、人を 避けなくなる。「餌付けされた熊は駆除せ ざるを得ない」”A fed bear is a dead bear” (Yellowstone国立公園の標語). http://www.yellowstone-bearman.com/B_housesafe.html 05/8/4 37 どうやって熊を管理するか 05/8/4 二つのタイプの熊を考える 良い熊と悪い熊 アイヌ語でキムンカムイとウェンカムイ 良い熊を守り、悪い熊を駆除する 熊の不良化を阻む ゴミは外に出さないこと! 低いリスクは受け入れてほしい 38 入れ歯と箱庭 昔 虫歯をすぐ抜く 今 歯根を残して治療する 病んだ自然でも箱庭に優る 医療 生理学と病理学 自然保護 生態学と保全学 05/8/4 39 生態保全の指針(理想) 周囲を調べよ(生態系の連続性) 長期調査(非定常性) =阪神タイガース問題 • 遷移と撹乱のつりあい で維持される多様性 • 無常の生物を守る =サザエさん症候群 05/8/4 40 自然保護は人間の問題 建設的な生態学の必見の教科書! 社会の繋がり=生態系の繋がり 鬼頭秀一『自然保護を問い直す』(筑摩書房) 環境問題に絶対安全はない 05/8/4 鷲谷いづみ・矢原徹一『保全生態学入門』(文 一総合出版) 中西準子『環境リスク論』(岩波書店) 41 横浜国大COE「生態リスクマネジメント手続きの基本形」 (Rossberg et al. 2006 Lands Ecol Engin) 社会的 合意形成 社会 0. 問題提起 科学者 科学的 手続き 1. 問題点の吟味 2.管理範囲の絞込みと利害関係者の招待 3.協議会・科学委員会などの設置 合意できないと きは再設定 4.「避けるべき事象」の定義 5. 定量的評価指標の列挙 6. 影響因子の分析とモデル構築 7. 放置した場合のリスク評価 非 現 実 的 な ら 目 標 の 修 正 8. 管理の必要性と目的の合意 9.数値目標の仮設定 10.モニタリング項目の決定 11.制御可能項目・手法の選定 13.リスク管理計画と目標の合意 12.目標達成の実現性の評価 14.管理の実施とモニタリング 15. 管理とモニタリングの継続 必要に応じ改訂 16.目的・目標の達成度の評価 2006/9/12 管理計画終了 42 7つの鉄則 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 用いた仮説を明記する 方策の変え方を予め決めておくこと 評価基準を定めること 不確実性を考慮したリスク管理を行うこと 想定内を増やすこと 信頼関係を築くこと 現在の判断が間違いかも知れないと自覚 2006/9/12 43 ①用いた仮説を明記する 管理計画は未実証の仮説に基づいて 立案されている したがって、用いた仮説を明記し、 それを検証する調査計画を立案 道東エゾシカの個体数 1998年当時=12万頭説 2000年 =20万頭説に改めた 2006/9/12 44 ②方策の変え方を予め決めてお く(算法algorithm) 状態変化に応じて方策を変える その変え方を予め決めておく RMPでは鯨の資源量に応じた捕獲枠決定ア ルゴリズムCLAを合意(責任ある試行錯誤) 似非順応的管理=単に「状況に応じて臨 機応変に方策を(後から)変える」 ←最もしてはならないこと 2006/9/12 45 ③評価基準を定める 管理の成否を判定する具体的な評価の諸基準( Benchmarks)を定める 管理の目的(抽象的理念)と計画の具体的目標 を区別する ミナミマグロ保存委員会(CCSBT) 目的=持続可能な利用とマグロの保全 所期の目標=2020年迄に1980年の資源量に回復 現在の目標=2022年まで資源量を現状維持する 後者は、2022年までに成否を評価可能 2006/9/12 46 ④不確実性を考慮 (リスク管理) さまざまな不確実性を考慮する 計画が絶対に成功するとはいえない 何が起きたら失敗するかを予め想定する 失敗するリスクを評価する 3つの不確実性 観測誤差 過程誤差:環境変動 実行誤差:笛吹けど踊らず フィードバック制御によりリスクを減らす 2006/9/12 47 ⑤想定内を増やす リスク管理=仮想現実モデル 数理モデルを立てなくてもできること (一通りではなく)さまざまな事態を予想し それぞれに対する対策を立てる(想定内) 1年後、3年後、10年後に自分とその後任 者が何を言うかを様々に想定し、準備する 2006/9/12 48 http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/1/niijima/kotu/kotu.htm 「だろう運転」と「かもしれない運転」 危険を予測した運転を ○ 「危険がある」と認識 → ~ かもしれない運転(自分に 厳しい予測をたてて運転) × 「危険はない」と認識 → ~ だろう運転(自分に都合の 良い予測をして運転) 2006/9/12 http://www.hongwanji.or.jp/minna/2003/min030510.htm 49 ⑥信頼関係を築くこと 管理計画の前提、検証計画 想定されたリスクと方策アルゴリズム これらを様々な利害関係者と合意を図り、 信頼関係を築き上げる Build trust! – Simon Levin 2006/9/12 50 生態系保全の十戒 松田(理科教室、2004年) 十 も、 あ 施な せた が 望 む 事 を 人 に 九 、 信 頼 関 係 を 築 け 八 七 六五四三 二一 、 て、 立、 、 、 、 な、 、 為 る無 地 不 不 不 野 自 す な駄 を域 均 測 確 生 然 守 事 な と一の実 生を れ に も そ性事性 物畏 よ の のを態を にれ っ を 生保に減 餌敬 て す 態て備ら をえ 学 ぐ 系 えせ 与 べ に の よ え 捨 自 る 05/8/4 51 Simon Levin「持続不可能性」(文一総合出版)を追加・意訳 ⑦現在の我々の判断が間違 いかも知れないという自覚 順応的管理は、水産資源や野生動物などの個 体群管理においては明解 問題点=生態系的取組みにおける順応的管理 は、理論的にも未熟 順応的生態系管理が未熟であり、管理の実施に おいて、疑いをもって望む責任と謙虚さが必要 単純さを求めよ、しかし、それを信じるな! Seek simplicity, but distrust it! 2006/9/12 Alfred N Whitehead 52