講義資料6-2

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音響信号処理特論
これからの音響信号処理
- 高次統計量に基づく非線形信号処理の最適化 -
猿渡 洋
(奈良先端大)
Speech and Acoustics Processing
Laboratory
Graduate School of Information Science, Nara Institute of Science and Technology
音響信号処理の昔とこれから
昔
規範 二乗誤差最小
信号
ガウス分布
処理 線形フィルタ
例 エコーキャンセラ
最近
これから
高次統計量
高次統計量
任意の分布
任意の分布
線形フィルタ
非線形フィルタ
ICA
???
NAIST, Speech and Acoustics Processing Laboratory
2
研究背景
スペクトル減算法
代表的な単一チャネル非線形雑音抑圧技術
<メリット> ・強力な雑音抑圧性能
・アルゴリズムが簡潔で汎用性が高く演算量が少ない
<デメリット>・ミュージカルノイズの発生
処理前
Frequency [Hz]
Frequency [Hz]
► スペクトル減算法によるスペクトログラムの変化と音色の変化
処理後
Time [sec]
NAIST, Speech and Acoustics Processing Laboratory
Time [sec]
3
研究背景
 スペクトル減算法は音質面で問題を抱えている
ミュージカルノイズ
非線形処理特有の歪み
トーンを感じる残留雑音成分であり,独特の音色が非常に耳障り
<現状>
» 発生原因が不確か
雑音環境で発生程度が異なるなど挙動がよくわかっていない
» 評価尺度が存在しない
有効性が保証されている対策手法がない
対策手法の効果を評価できず,統一的な議論が困難
<研究目的>
ミュージカルノイズの定量的な評価手法の構築
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アプローチ
 スペクトル減算法の考察を通して,非線形処理一般で利用
できる評価尺度の構築を目指す
 スペクトル減算法の処理強度を強くするほどミュージカル
ノイズが多く発生することが経験的に知られている
 処理強度との関係を明らかにし評価尺度の要素として取り込む
 統計量を利用した評価尺度の構築を目指す
 ミュージカルノイズと統計量が深い関係を持つことを発見
 計算量の削減
 あらゆる信号に対して適用できる汎用性
 統計量を安定的に計算するために信号のモデリングを行う
 生データでは外れ値に敏感すぎて値が荒れる
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スペクトル減算法
(Spectral Subtraction: SS)
 パワードメインSS
パワードメインのSSでは,
FFT
Noise
Estimation
Subtraction
Flooring
IFFT
という式で出力を得る.
ここで,パワーが負のグリッドが生じた場合
Flooring
のように,フロアリングと呼ばれる処理で
パワーを置き換えてやる.
パラメータは以下の通り.
:減算係数 (処理強度パラメータ)
[処理フロー]
:フロアリング係数
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SSの運用とパラメータ
 パラメータはヒューリスティックに決定される
 減算係数は通常,1から2程度の値がよく用いられる
 フロアリング係数は通常,0.1未満の値がよく用いられる
 SSの利用者は「SNR改善量」や「聞いた感じ」によって
最適と思われる減算係数を決める
 SSの利用者は最適な減算係数を探した経験から,
「音源ごとに最適と思われる減算係数が異なる」事を知っている
 フロアリングは強力過ぎた処理を和らげる働きをする
 過減算したグリッドを観測信号の定数倍(r)のパワーで補正する
 SNR改善量に対してマイナスに働く
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ミュージカルノイズの原因に関する仮説
 ミュージカルノイズの原因成分の仮説
 スペクトログラム上で「ごま塩雑音」として観測される成分
Frequency [Hz]
→周囲の成分と比較して卓越したパワーを持つ成分:トーン成分※
SS前
処理以前からトーン成分
Frequency [Hz]
Time [sec]
周囲のグリッドが抑圧され
トーン成分化
SS後
<仮説>
Time [sec]
※パワーの卓越度合いをトーン度とし,
トーン度の大きい時間-周波数グリッド
をトーン成分と呼ぶこととする.
トーン成分の評価によりミュージカルノイズを評価可能
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ミュージカルノイズと確率密度関数(PDF)の関係
 ガウス分布と比べて,より急峻な分布に従う乱
数からなる雑音の音色は?
Probability
ガウス分布
↓
スーパーガウス分布(やや尖った形状)
↓
スーパーガウス分布(尖った形状)
と信号の従うPDF形状を変化させて
作成した音源.
3秒ごとに,より急峻な分布に変わる.
※非線形処理は一切行っていない
ミュージカルノイズはPDF形状と強い関係をもつ
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SSとPDFの変形
 トーン成分を統計的に評価するためにSSによる統計量の
変化を明らかにする
フロアリング
減算
Step 1
[SS処理]
雑音パワースペクトルの期待値を
推定雑音パワースペクトルとする
Step 2
[SS処理] 推定雑音を減算する
[PDF変形] ゼロ方向へ平行移動する
Step 3
[SS処理] フロアリング(パワーをゼロにおく)
[PDF変形] パワーゼロ未満の確率をパワーゼロ
に積み重ねる
処理後の信号のPDF
処理前の信号のPDF
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PDFにおけるトーン成分
 トーン成分は卓越したパワーを持つ成分
PDFの裾に寄与する成分
small
Frequency [Hz]
power
large
パワーの小さなグリッドは
青く囲まれた部分に寄与し,
パワーの大きなグリッドは
赤く囲まれた部分に寄与する
SS前
SS後
Time [sec]
中庸なパワーの成分が減りパワーの小さな
成分とパワーの大きな成分に二極化される
<トーン成分の評価>
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ゼロ付近と裾に注目することで評価可能
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高次統計量の導入
 PDFのゼロ付近と裾を評価できる統計量を導入する
カートシス(尖度)
PDFの裾の広さとPDF全体に占める裾の割合の尺度
※
はn次のモーメント,
をPDFとすると
» 裾が広く割合が大きいほど大きな値となる
 トーン成分が多くトーン度が大きいほどカートシスは大きい
※パワードメインの信号を考えるため,PDFは片側分布である
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ミュージカルノイズ原因成分の選別
 ミュージカルノイズ=非線形処理で生じたトーン成分
Frequency [Hz]
 音声や音楽など処理に関係なく存在しているトーン成分はミュー
ジカルノイズとは知覚されない
SS前
各グリッドのトーン度の変化を利用し
ミュージカルノイズ原因成分を選別する
Frequency [Hz]
Time [sec]
SS後
処理以前からトーン成分
評価対象外
評価対象
周囲のグリッドが抑圧され
トーン成分化
Time [sec]
<方針>
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非線形処理によるカートシスの変化量を評価尺度とする
ガンマ分布による信号のモデリング
 ガンマ分布
パワードメインの音声・雑音信号のモデリングによく使われる分布
:形状母数(shape parameter)
:尺度母数(scale parameter) とすると,
ガンマ分布は,
と表現される.
ただし、
また,ガンマ分布の期待値は
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ガンマ分布の性質と信号のモデリング例
 ガンマ分布の特徴
 片側分布のモデリングに適している
 c2分布などをモデリングできる
→ガウス性雑音のパワースペクトルはc2分布,音声のパワー
スペクトルはより鋭い分布に従うことが知られている
 ガンマ関数に基づいており数学的な利便性が高い
▪再帰的な性質など
 モデリング例
・ガウシアンノイズのパワースペクトルの場合
ガンマ分布の形状母数が1の場合に相当する
※尺度母数は分布形状に関係しない
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ガンマ分布による実環境音のモデリング
 実環境音の形状母数とカートシス
(出展) 電子協騒音DB
カートシス:およそ10~50,形状母数:およそ0.1~0.6
形状母数が小さいほどカートシスは大きくなる
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ガンマ分布の母数推定
 母数推定
 生データから母数推定を行うことでモデル分布を得る
 形状母数と尺度母数を最尤推定法により推定
形状母数と分布形状
は に関する期待値演算子
尺度母数と分布形状
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SS前後の信号のモデリング
 SSによる分布形状の変化を定式化
以下,
とし,
原信号の分布
を適用している
SS後の信号の分布
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SS処理によるカートシス変化
(原信号のカートシス)
 原信号のカートシス
n次モーメントは,
よって,カートシスの分子(4次モーメント)は
と変数変換すると,
形状母数+モーメントの次数
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SS処理によるカートシス変化
(原信号のカートシス)
同様にして,カートシスの分母(2次モーメント)
ゆえに,原信号のカートシス(
)は,
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SS処理によるカートシス変化
(SS後の信号のカートシス)
 SS処理後のカートシス
n次モーメントは,
テイラー展開により
カートシスの分子(4次モーメント)は,
と変数変換し,2次までで近似すると,
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SS処理によるカートシス変化
(SS後の信号のカートシス)
カートシスの分母(2次モーメント)は,
0次で打ち切ったテイラー展開を利用して
カートシスは分布形状に依存する統計量で,期待値
のスケールに
依存しないため,
と正規化し簡単化する.
以上より,SS後の信号のカートシス(
)に関して以下が成立する.
※分母を大きく見積もり,全体で真の値より小さく見積もっている
また,数値計算により
を確認した.
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SS処理によるカートシス変化
 SS処理によるカートシス変化
SS後の信号のカートシスは指数部分が支配的であり,
式の形から,変化量には比の対数が妥当と思われる.
対数カートシス比(Log Kurtosis Ratio)を考えると,
となる.これは
対数カートシス比を評価尺度として提案する
• 原信号の形状母数(a)
• 処理強度(b)
のみの多項式からなる尺度である.
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対数カートシス比
 対数カートシス比はミュージカルノイズ発生度合が
▪ 原信号の形状母数(a)
▪ 減算係数(b)
に依存することを意味している
» (例)形状母数(a)を固定した場合
対数カートシス比は減算係数にのみ依存し,減算係数が大きい
ほどミュージカルノイズ発生度合も大きい
経験則として一般的に知られている
» (例)減算係数(b)を固定した場合
対数カートシス比は原信号の形状母数にのみ依存し,原信号の
PDF形状がなだらかなほど(形状母数(a)が大きいほど)
ミュージカルノイズ発生度合も大きい
新たな発見
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主観評価実験
 目的:主観値(ミュージカルノイズスコア※)と客観値(対数カートシス比)
の対応の調査
※ ミュージカルノイズスコア: ミュージカルノイズ発生度合の主観スコア
(0:Natural,…,4:Harmful の5段階)
信号長
音源
雑音
音声
雑音推定
SS条件 減算係数
フロアリング
参照音
評価
評価規範
被験者
10 [sec.]
電子協騒音DB から4種
JNAS 4文(男女各2名)
無音声区間の時間平均パワー
{0,0.4,0.8,1.2,1.6,2.0}
0
電子協騒音DBから5種とSSを
適用したものの計10音源
ミュージカルノイズスコア※
男性8名、女性1名
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実験に使用した音源
減算量と対数カートシス比の関係
音源 /環境 /カートシス /形状母数
Noise1 /駅 /17 /0.27
Noise3 /展示会場 /38 /0.12
Noise2 /人ごみ /28 /0.19
Noise4 /病院 /56 /0.1
<音源固定>
減算係数:大→対数カートシス比:大
<減算係数固定> NAIST,
原信号のカートシス:大→対数カートシス比:小
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Speech and Acoustics Processing Laboratory
結果 (1/2)
 減算量,音源とミュージカルノイズスコアの関係
Musical Noise Score
Harmful
Natural
<音源固定>
減算係数:大→ミュージカルノイズスコア:大
<減算係数固定>原信号のカートシス:大→ミュージカルノイズスコア:小
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NAIST, Speech and Acoustics Processing Laboratory
結果 (2/2)
 対数カートシス比,減算係数とミュージカルノイズスコア
Correlation:0.84
Correlation:0.65
Musical Noise Score
Harmful
Natural
対数カートシス比は原信号の形状母数を勘案できる分相関が強い
原信号のPDF形状でミュージカルノイズ発生度合が異なる
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NAIST, Speech and Acoustics Processing Laboratory
形状母数とミュージカルノイズ発生度合
ミュージカルノイズ発生度合
は原信号のカートシスと関係
している
減算係数:1.6 のとき
カートシス
17 → 28 → 38 → 56
原信号のカートシスが大きい場合ほど
明らかにミュージカルノイズ発生度合が小さい
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まとめ
 ミュージカルノイズ評価尺度として対数カートシス比を
提案し,主観値と相関が強いことを確認した
 ミュージカルノイズの発生度合いが原信号の分布形状に
依存することを発見した
 原信号のカートシスが大きいほどミュージカルノイズは発生しに
くく、小さいほど発生しやすい
→白色雑音などはミュージカルノイズが非常に発生しやすく,
音声などは発生しにくい(経験則と一致している)
 スペクトル減算法において処理強度とカートシスの関係
を明らかにした
 スペクトル減算法においてカートシスは必ず増加する
NAIST, Speech and Acoustics Processing Laboratory
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